第15話 目覚めと帰還-1


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薄暗い天井を眺めて俺は横になっていた。
退屈だがここには何があるわけでもない、やる事もなきゃ寝るに限る。
実際は横になるのは禁じられていたが、その辺は黙認されてる。見張りも何も言わない。
バタン、と重たい鉄扉の閉まる音がして靴音が近づいてきた。
どうやら誰か来たらしい、見張りが敬礼する気配が伝わってきた。
扉ののぞき窓にある鉄格子越しに若い女がこちらを覗き込んだ。
結構可愛い顔だぞ、えーっとコイツは確か・・・・。
「呆れた。今年に入ってこれで3度目でしょ?あなた。余程営倉が好きなのね。もう家財道具持ち込んでここで暮らしたら?」
ああ思い出した。ノルンだ。ノルン・クライフ少尉。俺と同期の奴らん中じゃ1番頭が切れるとか言われてる女だ。
「上官を殴り飛ばしたんですって?」
アホな作戦で無駄死にするのが御免なだけだ。
ついでに言うなら部下を無駄死にさせるのはもっと御免だ。
「同期で1番の剣の使い手は同時に1番の問題児だって聞いてきたけど本当ね。バーンハルト少尉、これからは少し頭を使う事も覚えなさい。でないといつか潰されるわよあなた」
言われなくても拳だけじゃなく頭も使ったよ。鼻っ柱に一撃入れてやった。
「・・・そうじゃないわよ」
ノルンが苦笑する。
また顔を見に来るわ、と言い残して彼女は引き上げていった。
こんな薄暗いとこに何度も顔出してくるとは物好きな事だ。
さてちょうどいい具合に眠気も来た事だし、一眠りする事にしよう。

・・・・・・・・・・・・・。
まどろむ。意識が薄ぼんやりと覚醒してくる。
また随分と昔の夢を見たものだ・・・。
ここは、どこだ・・・私はどうなったのだろう。
視界は霞んでいる。身体を動かそうとしたが無理だった。
声を出してみようとした所、私はごぼっと大きな泡を吐き出した。
!? 水中!? 私は水の中にいるのか!
横目で周囲を伺う。どうやら私は透明の棺のような容器に満たした透明の液体の中に横たわっているらしい。不思議な事に息苦しさはまったく感じなかった。
「なんじゃもう目を覚ましたのか。早いのォ。じゃがまだ動けるようにはなっとらんよ。もう少しそのまま寝ておれ」
水中からなのでボヤけて見えるが、白衣を着た老人が私を覗き込んでいる。
いずれにせよ、身体の自由がきかず、喋ろうにも泡しか吐けない私は老人の言葉に従うしかなかった。

そしてそれからさらに数日の時が過ぎ、ようやく私は容器から液体を抜かれて起き上がることができた。
「ふぅーむ・・・異常はないかの。心臓が停止してからの時間を考えて蘇生処置が間に合うかどうかは五分と言ったところじゃったがのお。お前さん運がよかったようじゃの」
老人はギゾルフィ、と名乗った。私も名乗る。
そこは見たこともない部屋だった。
床も壁も天井も銀色の金属張りで、壁には画面のようなものがいくつも並んでいた。用途のわからない装置が随所に並んでおり、ケーブルが床や壁を複雑に絡み合いながら這いまわっていた。
私は渡されたタオルで身体を拭い、用意されていた服に着替えた。
? ・・・違和感を感じる。この身体つきはまるで・・・。
壁の画面に映りこんだ自分の姿を見てみる。
な!!!????
なななな!!!!!!?????
なんじゃこらあああああああああああああああああ!!!!111111
「おーそうじゃ。蘇生処置する時にあの老いた身体じゃ多分耐え切れ無そうだったんでの。肉体年齢をいじらせてもらったぞい」
若返ってるよ!!!!
30歳前後といったところか・・・・道理で身体が妙に軽い。
全身に力が漲っている。
「戻せと言われれば元の年齢程度の肉体に戻す事もできるが、面倒だしもうやらんよ。老人に戻りたければ今から頑張ってまた数十年生きるんじゃな」
いや、不都合が無いのならここからわざわざ老人に戻してくれとは言わんけど・・・。
しかしこのような医術(技術?)があるなんて・・・。
「これはおぬしらの暮らす世界には無い技術じゃ。それ故にこの場所でしか実践できぬ」
表へ出てみようか、とギゾルフィは私を促した。
と、そこで私は気付いた。
広い部屋の隅に長椅子が置いてあり、その上で横になってすーすー寝息を立てている女性がいた。一目で誰なのかわかる。
ダイヤモンドダスト! DDだ!
「知り合いじゃろ? おぬしをここに担ぎ込んでしばらくしたら飛び込んで来たんじゃ。興奮しとって蘇生処置をするのだと理解させるのに難儀したぞい。何でもおぬしを追ってメチャクチャにゲートで飛んだらしい。無茶しよるわい、下手したら戻れん空間に出てしまう事もあるのにのぉ」
私をここへ運んだのは、ギゾルフィあなたなのか?
「いや、知らんよ。物音がしたんで外へ出てみたらこのラボのすぐ外におぬしが倒れておったんじゃ。見ればまだ死んでからそう時間が経ってなかったようじゃし、まあこれも何かの縁かと思って蘇生を試すだけ試してみたがの」
何せ自分以外の人間に合うのは数百年ぶりだでの、とギゾルフィは笑った。
「何日も寝ずにお前に付き添っておったんじゃ。今は限界が来たらしくて眠り続けておるがの。まあ寝かせておいてあげなさい」
そうか。自分を助けたのが私だと知っているのか知らないのかわからないが、心配させたようだ。ここはギゾルフィの言葉に従う事にしよう。
我々は建物から外へ出た。
頭上には灰色の空が広がっている。薄暗い世界だった。
地面は半ば水没しており、今自分達が出てきた建物のある地面を含めたわずかな陸地だけが点々と水面に続いていた。
ほとんどの建物は崩壊して水没している。巨大な塔のような建物がいくつもある。
それらも全て崩れ倒れて水に浸かっていた。
「ビルディングと言うんじゃ。この世界のタワーのようなものじゃのぉ」
ギゾルフィが解説してくれる。
ここは、どこなのだ?シードラゴン島ではないのか?
「ここはとうに滅んで砕け散った世界の破片よ。この見えとる一角以外は何も無い、ただ無が広がっておる。あの島はこういう『砕け散った世界の欠片』を吸い寄せる。その内のいくつかはゲートを通じて行き来できるんじゃ」
ただそのゲートというのは、誰でも利用できるわけではないらしい。ごく一部の限られた者だけがくぐる事ができるのだそうだ。
「ワシは今から何百年も前にゲートを使ってこの欠片へ来た。以後はここでこの世界の事を研究しながら過ごしておる。ここには時の流れというものがないんじゃ。だからワシもここへ来た時のまま歳をとっておらぬのよ」
む、という事は・・・私も・・・。
「うむ、ここを出ればゲートに入った時の時間に戻れるじゃろう」
ほお、それはありがたいな。数日も空けていたので皆を心配させているだろうと思っていた所だ。まあこの姿で戻ったら別の意味で仰天させるだろうけどな・・・。
それにしても、DDではないのなら私をここへ連れてきたのは誰なんだろう?
我々は元の建物へと引き返した。

「お帰りー」
頭の上から声がかかった。我々が見上げると背の高いフェンスにDDが腰掛けて私たちを見ていた。
私は見上げたまま、ただいま、と返事をした。
それが、彼女と私が最初に交わした言葉だった。