第9話 陣八捕物帖-1


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世の中にゃあ、「こういう時はこうしなければいけない」って決まりのようなモンがいくつもある。
どこの法に定められてなくても皆知ってる事だ。
親は子を愛さなきゃならんし、子は親を尊敬しなきゃならん。
男は困ってる婦女子を見過ごしてはならん。
そして、こういう晴れた日は、午睡に興じないってのはお陽さんへの冒涜だ。
そう、これはもう決まりみたいなもんだ。
そんなわけでこの俺様、うぐいす隊第三小隊長葛城陣八は現在屯所の屋根の上で横になっていた。
屋根瓦の布団てのもゴツゴツして決して寝心地がいいとは言えんが、それもたまにはオツなもんだ。
・・・しかし、好事魔多しって奴で、こういう安らぎの一時程邪魔が入る。
それはこん時も例外じゃなかった。

「陣八はどこだ」
「いえ、存じません」
瓦越しに下からの声が聞こえてくる。
・・・この声は副長だ。
俺は陽射し避けに顔の上に広げてあった週刊誌をちょっとだけ上げて目を細める。
触らぬ神になんとやらだ。ここは死んだフリ決め込ませてもらいますよ副長。
そう思って再び雑誌を顔の上に伏せたその瞬間の事だ。
!!!!!!!!!!!
真下からの強烈な殺気に俺はその場から真横へと転がるように身を投げた。
ズガッ!!!!!!!
瓦を突き破って鋭い槍の穂先が屋根の上へと顔を出す。
穂先は一瞬前まで俺の頭があった場所を正確に射抜いて週刊誌を串刺しにした。
おっ・・・おっ、おっかねええ!!!!!
「陣八・・・仕事だ。降りて来い」
誰が見てるわけでもねえ屋根の上で、俺は必死にその声にガクガクとうなずいていた。

そして隊長と副長の執務室で俺は二人を前に直立して話を聞いた。
・・・殺しですか。
「そうだ。被害者は複数らしい。現場は11番通りだ。第三小隊の数名をもう向かわせてある。現地で合流しろ」
いつもの鉄面皮を崩さずに副長が言う。
11番か・・・・ガラの悪ぃとこだ。
このアンカーの「暗部」とでも言うべきエリアだな。
あそこはいくつかの「ファミリー」が幅きかせてたハズだな・・・縄張り争いかなんかかね。
なんて事を考えながら俺はふと副長の机の上の包みに目が行った。
んお、松風屋の草団子ですか。いいっスね。
「食べるなよ。それは帰ってノルコと食べる」
あーあの副長んとこに居候してる坊ちゃんか。・・・嬢ちゃんだっけ?
「陣八・・・・お前」
ふいにそれまで黙ってた隊長が新聞から顔を上げてこっちを見た。
なんスか?
「お土産忘れんなよ」
なんつーか、いつもの副長に、いつもの隊長だった。

11番通りは、アンカーの外れにある通りだ。
その界隈は安酒場やいかがわしい宿だの、おおよそまっとうな親ならまず物心ついた子供に近づくなと注意するのに十分な物件が軒を連ねてる。
昼間でも座り込んだ酔っ払いだの、客引きのケバい化粧の女だの、そんなのがそこかしこにいる。
ま、そいつらも俺様を見りゃ顔を逸らすか舌打ちするかのどっちかだ。
お巡りなんてなそんなもんだ。
現場はそんな11番通りからさらに1本入った細い路地裏だった。
現場への曲がり角に部下が立ってる。
部下は俺を見ると、お疲れ様ですと畏まった。
おう、と返事をして裏路地へ入る。
・・・・・・・・・・・・。
なるほど、こりゃ非道ぇな。
曲がり角を曲がる前からもう血の匂いがしていた。
この血の匂いの濃さはちょいとばかし尋常じゃねェ。
現場には2人の部下がいた。
俺を見て無言で頭を下げる。悲惨な現場にも慣れているはずの、戦を経験してる部下達が青ざめてる。
現場は紅に染まってた。
流れた血はもう赤黒く固まってる。
その血だまりの中に「被害者」が、いや「被害者たち」か・・・転がってた。
人数はよくわからんな・・・・こんだけバラバラじゃな。
こりゃ、「殺人」ってより、「解体」だな。
そう一人ごちると、部下の一人が眉をしかめてそうですね、と相槌を打った。
それでもざっと人数の目星をつける。
3・・・・4人だな。
遺留品の感じからすっと全員男か。
遺体の一部に刺青が見えた。思った通りまっとうな身の上のガイシャじゃないかもな。
「とりあえず、昨夜犯行があったと思しき時刻にこのあたりをウロついていたという男を拘束してあります」
ほォ、そんなのいんのか。
「はい。ちょうどこの現場の脇に佇んでるところを近くの飲み屋の女が見つけまして。でその女が騒いで通報になったそうです」
ふーん・・・じゃあ一つその御仁に話を伺うとすっか。

その男は現場近くの安酒場に拘留されてた。
まだ昼間で酒場はやってねえ。
酒場の主人に協力を感謝する旨を告げて中へ入る。
・・・・・・・・・・・・。
シルバーブロンドの髪に獣の耳・・・半獣人だ。
まだ若い男だな。
黒スーツのその男は憮然とした表情で椅子に座っていた。
俺に気がつくとジロッと睨み付けてくる。
「おい、いつまで僕はこうしてればいい。何度も言ってるがあの殺人と僕は無関係だぞ」
まあそうだろな。見りゃある程度はわかる。
あんだけの現場の実行犯にしちゃ服が綺麗すぎる。まったく返り血を浴びてない。
だがまあその時分に現場にいたってんじゃあ、はいサヨウナラってわけにもいかんわな。
ちょいと話聞かせてもらうぜ。悪ぃなこっちも仕事でよ。
うぐいす隊第三小隊の葛城陣八だ。
「・・・共和国銃士隊のシグナルだ」

・・・それが、俺とこの妙な相棒の最初の出会いのシーンだった。