第19話 大家さんの憂鬱-1


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およそ20年ぶりに我が手に戻ってきた神剣エターナルブルー。
戻ってきたというかずっと放置していたわけなのだが・・・・。
その剣を抜いて私は自分のデスクで改めてしげしげと刀身を眺めていた。
・・・・・ぶっちゃけ、何の力も感じないのだが。この剣でこんな大したこと無い剣でしたっけ・・・・・。
先日ルクと戦っている時から違和感は感じていたのだ。
改めてこう見ても「良い剣」という以上に何か特別な力のようなものはまったく感じない。
「機能の大半が休眠状態のようですね」
そんな私を見てルクがそう言った。
なぬ?
「調べていた帝国の魔導技官達がそう言っていました。その剣は現在スリープモードに入っているのだと。恐らく長い間契約者と離れていたせいではないかと言っていました」
何てこったい!!!ちょっと放っておいた時間が長すぎたか!!
「私もグングニールの力を全て引き出せているわけではありませんが、それでも6~7割の力を引き出せています。ウィリアムは休眠状態の剣でその私を倒しました。あの勝負の結果以上に実際の実力には開きがあるのです」
そう言って彼女はやや自嘲気味に微笑む。
「そんな私をパートナーの1人に選んでくれた事を誇りに思います。あなたの剣として恥かしくないように更なる精進を重ねたいと思います」
そして静かに燃えていた。
水を差すようで悪いが、そんなに気負う必要はない。まずは普通の女の子としての生活を満喫して欲しいと思う。
とはいえ私も普通の女の子の生活なんて未知の世界だ。
そのあたりはエリス達に任せることにしたい。
そこへトントンとオフィスのドアがノックされた。
そして返事を待たずにドアが開いた。
薄笑いを浮かべて入って来たのは・・・・。
「やァどーも先生ご無沙汰してまして」
・・・鳴江漂水・・・・。

「!!!!」
ビクッとルクが反応した。
一瞬にしてその手にはグングニールがあった。
その穂先をビッとヒョウスイの喉元に突きつける。
「・・・あ、あなたは誰ですか・・・・いえ、『何』ですか・・・」
「おっとっとっとっとっと・・・・・こりゃ乱暴なお出迎えだなぁ。怪しいモンじゃねえよお嬢さん。オレは鳴江漂水・・・先生のオトモダチさ」
両手を上げて抵抗の意思がない事を示すヒョウスイ。
「・・・・え・・・あ、し、失礼しました・・・・」
慌ててグングニールを引っ込めるルク。しかしその瞳は動揺をまるで隠せてはいなかった。
ヒョウスイ・・・・。
「おーおーホントにカッコよくなっちってまあ。怪我の功名てとこかねぇ?・・・・やーオレも自分の言った事でなんか先生に大怪我させちったってんで責任感じちゃってもう申し訳無くて申し訳無くて」
へらへらと笑いながら手にした菓子折りを差し出してくる。
「あ、これ事務所開きのお祝いだ。すっかり遅くなっちゃって申し訳ないね。なんかここんとこオレもあれこれ忙しくてね」
ヒョウスイ。お前は何故『あの場所で私の蘇生が可能である事を知っていた』?
「へ?」
間の抜けた声を出すヒョウスイ。
「いやいや何だ?ソセイとかなんとか・・・・」
あの後でDDの前からお前が私を担いで逃げたのだろう?
「あー、そりゃオレもね。ああは言ったものの先生が心配になってね。後付いてったんだよ。したら案の定先生大怪我してるじゃねえか。だから慌てて医者連れてこうと思ったらなんか団長がスゲー顔して追ってくるしさ。メチャクチャに逃げて先生も途中で落っことしちゃって道に迷ったりで大変だったんだぜ?」
やれやれ、と言った感じで肩をすくめて見せる。
ウソだ。それはわかる。・・・・しかしこれ以上ここで問い詰めてこの男が真実を語るとも思えない。
賢者ギゾルフィは数百年他の人間に会ってないと言った。彼がウソを付いていたとは思えない。
それなら何故ヒョウスイは私を彼の所に放り出していったのだ。
「ふーん・・・じゃあとりあえずその話はもうそれでいいよ。どうせお前本当の事言う気ないだろうし」
急に聞こえた声に全員がドアの方を見た。
いつの間にか外出から戻っていたDDがドアに寄りかかって腕を組んでこちらを見ていた。

「どーも団長。やっと落ち着いて話ができますな」
その言葉には返事をせず、DDはじっと鋭い目でヒョウスイを見ている。
「・・・ちょっと何か言ってくださいって」
「何しに来たのお前」
表情を崩さずにDDが言う。
「事務所開きのお祝いですってば。ホラちゃんとお土産だってあるんスよ。ぱんだ庵のプリンの詰め合わせ」
「む、それは食べる」
サッとDDがヒョウスイの手から菓子折りをひったくるとバリバリと包み紙を破き始めた。
「はーもう団長は相変わらずおっかねぇし。先生今日んとこはこれで失礼するぜ」
ひらひらと後ろ手に手を振ってヒョウスイが事務所から出て行く。
「漂水さ」
「え?」
DDの声にヒョウスイが振り返った。
「今回はウィルが何でもなかったから何ももう言う気ないけど。次に何かウィルにやったら・・・・」
ビキッ!!とヒョウスイの前髪が一房凍り付いた。
「・・・その時は私がお前を殺す」
うぇぇ、とヒョウスイが冷や汗を垂らして顔をしかめた。
「ちょっとナンもしやしませんよ! 元とは言え部下でしょー、団長もうちっと優しくしてくださいって」
ガックリうなだれたヒョウスイがスゴスゴと帰っていった。
「・・・・ウィル・・・・」
DDの表情は堅いままだ。
DD、君の言う通りこうして私は今無事でいる。だから君がその事をもうそんなに気にする必要はないんだよ。
「・・・・そうじゃなくて・・・・」
ん?
「・・・・ゴメン、皆の分まで食べちゃった・・・・」
もう全部食ったのかよ!!!!!!!111111

その後、私は気分転換に外に出ることにした。
1階へ降りると、薬局のカウンターでシンクレアが珍しく物憂げな顔をしている。
時折ため息もついているようだ。
ふむ・・・・?
どうかしたのかね?と声をかけてみる。
「やあ先生か。面倒が舞い込んでしまってね、難儀しているのさ」
そう言ってシンクレアが何か冊子を差し出してきた。
冊子?いや写真か・・・これは見合い写真だな。
「その通りさ」
ふむ、中々の美男子じゃないか。エリック・シュタイナー・・・・ファーレンクーンツ共和国一級大統領補佐官・・・これはまた随分なエリートだな。
「うむ。加えて人柄もいい」
ほう、いい話じゃないか。
「問題は私にその気が無いだけさ」
むう、では断るのかね?
「ところがこれがそうもいかない話でね。だから困っているのさ。・・・・数日後に彼と私の両親が来るのだ。それまでに断る口実を見つけておかなくてはいけなくなった」
カウンターに肘をついて手に顎を乗せてシンクレアはふーっとため息をついた。
「さて、どうしたものかな・・・」
恋人がいると言って誰かを会わせればいいんじゃないか。口裏を合わせてもらって。
「ほう、それは悪くない話だね。じゃあ一つ先生その役を・・・・」
「ダメですッッッッ!!!!!!!!!!!!」
突然響き渡った大声に私はつんのめった。
いつの間にやら後ろにエリスがいた。
「ダメです絶対そんなの!!!!それでなくたって最近もう色々もうもう大変で私が私はもうもう・・・」
牛になってしまった。ぽろぽろ泣いている。
よしよしとその頭を撫でた。
「まあ先生は確かにダメだな。先生の名前は私の両親にまで伝わっているんだ。逆に大喜びでもされたら困る」
う、なんで私の名前が・・・・。
「だがプラン自体はいいぞ。先生、正式にお仕事として依頼する事にさせてもらうよ。この話に丁度いい男を1人都合つけてきてくれたまえ」
なぬ?
また面倒の気配が・・・・?