第21話 ジェーン・ザ・テンペスト-3


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夕食は天ぷらと茸のお吸い物だった。
「うーん、美味い!和食サイコーじゃのお」
自国の料理に舌鼓を打つジュウベイ。
ジュウベイやジュピター等、4階の住人達はこうして週に2回、オフィスで私の家族と一緒に食事を取る。
私は毎日でもいいと思ったのだが、彼らはそれを遠慮した。
しかし・・・確かに美味いな。これは誰が?
「あ、おじさま・・・私です」
エリスが言う。
ほお、エリスが和食を作るのは珍しいな。
「ラゴールさんに教えてもらって・・・」
何故か苦笑して言うエリス。
「衣の揚がり具合・・・油加減・・・具材との調和、完璧。そして盛り付け方、塩加減・・・全て申し分無し」
ガタ、と食卓の椅子を鳴らして和服の男性が立ち上がった。
「・・・この武蔵山藤十郎が五ツ星を差し上げましょう!」
彼の取り巻きの記者と思わしき連中がどよめく。
「・・・おおっ凄い!」
「やったぁ!」
そしてフラッシュが何度も焚かれ、記者たちは必死にメモにペンを走らせる。
・・・・・・・・っつか誰だよ!!!!!!!!!!!!
道理で今日はいつも以上に人数多いなと思ったら!!!!!!
「後ここの職場、女の子多くてうらやましい!!!」
見た目にそぐわぬブッ飛んだ発言をかます武蔵山氏。
・・・その発言もメモるのか記者。
そんな騒ぎの中、1人シイタケマンは茸のお吸い物を前にハラハラと涙をこぼしていた。


町中にある銃士隊の事務所にて。
「ジェーン・マクドゥガルか。俺は三銃士のリーダー、カミュ・緒仁原だ。ヨロシクな」
そう言ってカミュがジェーンと握手を交わす。
その後でエリックとシグナルとも自己紹介し合う。ちなみにエリックは退院したもののまだ杖を突いている状態だ。
そんな男性陣を見てジェーンはにへらーと笑っている。
「何だよバカヤロ、人のツラ見てニヤニヤしやがってよ」
カミュが顔をしかめて言う。
「いやぁ・・・皆いい男だなーって嬉しくなっちゃってもうウヘヘヘ」
舌なめずりせんばかりのジェーンの表情に慄いたカミュがやや後ろへ下がった。
「やーホントいい男! どうでしょう結婚を前提に私とお付き合いとかしてみません?」
そうエリックに擦り寄るジェーンに、
「お断りします」
とにっこり笑顔でエリックが返事をした。
「フラれたよー。数分で終わった私の恋!!」
泣き真似をして天井を仰ぐジェーンを、ルノーは白い目で見ていた。
(・・・コイツ、一々言動が白々しくてウソくさいよな・・・)
大袈裟で芝居がかったジェーンの立ち振る舞いからは、本当の彼女の姿をまったく窺い知る事ができない。
「さて、ジェーンのパートナーですが、当面・・・」
エリックの発言を遮って、ジェーンがバッと手を大きく上げた。
「ハイハイハイハイハーイ! 私はルーシーセンパイと一緒がいいでーっす」
「・・・!!!」
ガバッとルノーが顔を上げる。
「・・・ちょっ・・・ふざけんな! 何で私がお前なんかと・・・」
言葉が止まる。
ジェーンが自分をじっと見ていた。
ニヤリと口元に笑みを浮かべて。
「・・・だって、センパイさっきチョービビってたじゃないですか。自分一緒なら守ってあげられますし」
一瞬、ルノーの頭の中が真っ白になった。
そして気が付くと、ルノーはヒリヒリと痺れる右の掌を振り切った体勢でハァハァと荒い息をついていた。
目の前には頬を真っ赤に腫らして鼻血を吹いているカミュが仏頂面で立っている。
「言っていいか・・・・痛えよバカヤロ」
カッとなった自分はジェーンを殴ろうとしたのだ。
そのジェーンはサッとカミュを手前に差し出して自分はその後ろに隠れていた。
「・・・・・・・・・・ッ!!!!」
バン!!とドアを蹴り破るように開いてルノーが事務所を飛び出していった。
「ありゃ・・・・ちょい言いすぎたかにゃ~」
ポリポリと頭を掻くジェーン。
「・・・まったくだ。少々の事なら隊員同士のジャレ合いで済ませるがな。度を越せば処分だってあるんだぞ。相手は先輩つったってお前の方がずっと年上だろう。アイツまだ20代なんだぞ」
ドゴッ!!!!!!!!!!!!
と凄まじい炸裂音がして周囲の家具を巻き込みつつカミュが吹き飛んで壁を突き破った。
「失礼しちゃうなぁ!!!! 私も20代だってぇの!!!」
最後に消え入りそうな声で追加があった
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ギリギリだけど」
ズンズンと足音も荒くジェーンが事務所を出て行く。
ルーシーの走っていった方へと。
「・・・年齢の話は禁句ですね」
その後姿を見送ってエリックが言った。
「・・・・・・そうだな」
その言葉に、倒壊した家具の隙間から妙な角度に曲がった首を出してカミュが同意した。

出鱈目に走っている内に、アンカー中央広場まで来てしまったらしい。
夜になり、周囲は昼間の喧騒と打って変わって静かなデートスポットになっている。
そんな中を、ダンテを従えてルノーはトボトボと歩いた。
空いているベンチを見つけて身を投げ出す様に腰を下ろす。
思い出せば思い出すほど、さっきの自分の姿に自己嫌悪を覚える。
(・・・・ダッセえ・・・・図星突かれてブチ切れて飛び出してきて・・・・)
ふーっとため息が出る。
「・・・大体、銃士なんてよ・・・」
誰に言うとも無く、呟くルノー。
「銃士なんて」の次をどう続けようとしたのか、自分でもよくわからない。
そしてルノーは、先日と同じ「自分は何故銃士になったのか、という問いに辿り着いていた。
(・・・そうだ、あの時に確か・・・)
記憶の底から一つの情景が蘇ってくる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
それはまだ、ルノーが幼かった日の出来事。
ルノーはその日、ペットのダンテを連れて(当時はルノーはダンテを「ちょっと変わった犬」としか思っておらず幻獣だとは知らなかった)買い物に出かけていた。
そしてその先でテロに巻き込まれたのだ。
爆音が轟き、瓦礫が降り注ぎ、絶叫と泣き声が響いてショッピングモールは地獄絵図と化した。
「我々はぁーッ!! 『黙示録兵団』である!! 我々は現共和国政府の西欧追従主義に断固として抗議するものでありーッ!!」
拡声器で叫ぶテロリストの声が聞こえているが、その意味はわからない。
絶望と恐怖の中で、ルノーはぎゅっとダンテを抱きしめて死を覚悟した。
その時だ、『その男』が彼女の目の前に現れたのは。
「・・・・おおっとォ! そこまでにしておきなベイビー。ここはショッピングを楽しむ場所だぜ。花火をぶち上げて大騒ぎする場所じゃねぇ」
金髪のリーゼントを、櫛で撫で付けながら黒いスーツの男がそこにいた。
「キサマ何者だーッ!」
テロリストの1人が叫ぶ。
「俺かい? 俺はなぁ」
パチン!と高く片手を上げて指を鳴らす。
「三銃士リーダー、カルロス・タカミネだ。・・・人呼んで『ハート・オブ・ファイアー』」
キラリと歯を光らせて、当時の三銃士を率いていた男、カルロスがポーズを決めた。
「ふざけおって!! 殺ってしまえ!!!」
ズガガガガガガガガガ!!!!!!!とテロリスト達の機関銃が火を噴いた。
一瞬にしてカルロスが蜂の巣になる。
「・・・・うーん、即☆死」
ビシッとポーズを決めて、絶命したカルロスが血溜まりの中に倒れた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

(死んでんじゃん!! ・・・そいえば死んだよあのオッサンあそこで!! 全然カッコよくねーよ憧れねーよ!! 銃士なる理由にならねーよ!!!)
うわああああ、とベンチで頭を抱えるルノーに、ダンテがたった今買ってきたばかりのモスタードーナッツの入った紙ケースをくわえてホラホラと主人に差し出しているのだった。