第18話 うつりゆくもの-1


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マナトンネルの光から出ると、そこは初めて私達が浮遊大陸へ飛ばされた時の北東の丘陵地帯であった。
ありがたいな、ここからならアンカーの町はすぐそこだ。
・・・しかし・・・。
皆と一緒に丘陵地帯の草原を歩きながら私は考え込んでしまう。
ベルの部屋をどうするべきかな・・・。
彼女は流石に1人暮らしをさせるわけにはいかない。
私は護衛を兼ねて彼女と身内になったのだし、見た目は14,5歳だからな・・・世間体的にもまずいだろう。
とはいえ私のオフィスにはもう空き部屋がないのだ。
今でも部屋がないという理由でシンラには下宿から通いで来てもらっているというのに。
等と考えている内にもうアンカーの町へと着いてしまった。
いざ帰れるとなったら本当にあっという間だな。
時刻はまだ朝の内である。向こうを早朝に出てきたからな。
数ヶ月ぶりのホームタウンだ。
安堵とちょっとした感慨が胸にジワリと広がるのを感じる。
・・・・・しかしそれもオフィスの前にたどり着いて全部フッ飛んでいってしまった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・何ですか?あれは」
しばらく全員でその場に足を止めて沈黙した後、最初に口を開いたのはルクだった。
誰も答えられない。答えを持っていないからだ。
オフィスの前の道路を不気味な生き物がホウキで掃いている。
2mを超える巨躯の人型の生き物。手が長く大きく、対して足は短く小さ目だ。
頭部は動物の頭蓋骨のような形状をしている。
ご近所さんか!?とも思ったが、どう見てもその生き物の掃除している範囲はうちの建物の周囲だった。
1階のツェンレン軍団の関係者か3階の女王の関係者か・・・・?
「おじさま、あれ・・・・」
エリスがそう言って2階のうちのオフィスの窓を指さす。
・・・・・ぶっ!! 同じ生き物がオフィスの窓拭いとる!!!
くそう考えたくなかったがやっぱりうちの関係者か!!!
しかしあんな得体の知れない生き物がいたら近所で騒ぎに・・・。
ちょうどそこに、買い物籠をぶら下げた主婦が通りかかった。
私とも顔馴染のご近所のご婦人だ。
「あらー。朝からご精が出ますわねぇ。おはようございますー」
主婦は平気で笑顔で挨拶してる。
「オハヨウゴザイマスー。オカイモノデスカ?」
生き物も普通に返事しとる・・・。
「そうなのよ。今日ほら5番街の『あんどれ屋』さんで卵と牛乳がお安いでしょー?」
「ソウデスネェ。アト4バンガイの『すーぱーまるてん』サンデ、オサカナガトクバイデスヨネー」
・・・・・めっちゃ馴染んでる。
ご近所に溶け込んでるよ。
やり取りに違和感もぎこちなさも0だよ完璧だよ。
「イッテラッシャーイ、たみこサンニキヲツケテー」
「オホホホ、大丈夫よぉ。今日はウージー持ってきたからウージー」
手を振って生き物は買い物に行く主婦を見送った。
そこへ誰かがオフィスのある建物から出てきた。
・・・!! シンラだ!
「ご苦労様。テーブルが空いたから中でご飯にして」
生き物に声をかけているシンラ。
なんか今を逃したら帰るタイミング失ってしまいそうだ。
・・・・シンラ!
私はシンラに声をかけて彼女に歩み寄った。
「・・・・!!・・・・先生・・・・」
シンラが私を見て目を見開いた。
「・・・それに、皆も」
エリスたちが皆ただいま、とシンラに声をかけた。
「・・・おかえりなさい」
そう言って微笑んだシンラの頬を涙が1粒零れ落ちていった。

「・・・ああっ、違いますそうじゃありませんよまっきゅん!生地はそんなに力任せにかき混ぜてはいけません。わざと力を抜いて気持ちムラのある混ぜ方をするんです。そうする事で生地は空気を含んでふんわりと焼きあがるんですよ」
「誰がまっきゅんか。・・・って難しいですホットケーキ・・・!」
数ヶ月ぶりにオフィスに足を踏み入れた私が見た光景は、何だかよくわからないものだった。
食卓では2体のさっきの怪生物がトーストを齧りつつハムエッグをつついていた。
そしてその奥、キッチンではエプロン姿のエルフの二人組・・・1人は線の細い背の高い男性でもう1人は巻き毛の若い女性だった・・・が当人たちの言葉通りにホットケーキを焼いているのだろう。必死に材料と格闘していた。
その2人が我々に気付いて振り返った。
「・・・!! ・・・おぉ・・・」
エルフの男性の手からカチャンと泡立て器が床に落ちる。
「・・・親友(とも)よ!!!」
そしてやおらガバッとジュウベイに抱きついた。
「お帰りをお待ちしていましたよ先生。初めまして私がジュピターです」
や、その頭デカいおっさんはウィリアム先生じゃないからね。

「まったくもう! いい歳して迷子になるなんて!! しかも社会的立場の大きい人が!!!」
「やーん、怒らないで魂樹ちゃん~」
お互いに自己紹介を済ませた私達とエストニアの2人、ジュピター王と天馬騎士の魂樹・・・と、魂樹率いるムーミン軍団。
一息ついたところでマチルダは魂樹に説教されていた。
「なんか、見たことある光景」
DDがその2人を見て言う。
「そうですね」
ルクも同意する。
そして2人は一緒にエリスの方を見た。
「・・・え? ・・・何??」
急に顔を覗き込まれてエリスはキョトンとしている。
「巻き毛にすると怒りやすくなるとかそういうのがあるのかのう」
ジュウベイも、ふーむと顎に手を当ててそんな事を言っていた。

アンカーと浮遊大陸、お互いに自分達がいない間の話を交換し合う。
話は長くなり、途中に取り寄せた夕食を挟んだ。
終わる頃にはすっかり遅い時間になっていた。
「なんとも、お互いに色々とありましたね」
ジュピターが言う。
・・・まったくだ。
銃士たちとやりあった辺りまでは上でDDたちから話は聞いていたが。
「とにかく・・・我々は引き続き先生と皆さんに協力します。身内と思って何でも言って頂いて結構ですよ」
「そういう事みたいなので、宜しくお願いします」
魂樹が頭を下げる。
こちらこそよろしく。名高い妖精王と四葉の助力が得られるとは心強い。
・・・しかし・・・。
そこで私は今朝の悩みに立ち戻った。
すなわち皆の住居をどうするかという事だ。
「とりあえず私と王様と団長とジュデッカは別にどこか借りればいいのでは?」
魂樹がそう言うとマチルダがびくっと肩を震わせた。
「・・・だ、ダメです。私行けません。ここを離れられません」
そう言って魂樹の手を両手でガシッと握るマチルダ。
「ちょちょ・・・え?え? 何どういう事なんですか・・・」
思わぬ反応が返ってきて困る魂樹。
ついでに私も困っていた。
「・・・離れたら一気に遅れを取るんです・・・」
呟くように言ってうつむくマチルダ。
動揺してオロオロする魂樹。
ついでに私もオロオロしていた。
「・・・まぁまぁ、落ち着きましょうか、皆さん」
ジュピターが言う。
「そこで皆が大好きなじゅぴたんがとっておきのプランを準備しておきましたよ」
「ドサクサに紛れて何か都合のいい事言ってますね」
魂樹の突っ込みは冷静だった。
しかし・・・とっておきのプラン?

結局、部屋数が無いので応接室のソファー2つにそれぞれ私とジュピターが寝て、後は女性陣に1つのベッドに2人で寝てもらったりしてどうにか我々は一夜を明かした。
そして翌朝、朝もまだ明けきらない内から私はチャイムの音に叩き起こされた。
・・・何だ何だこんな早朝から・・・。
眠たい目を擦りつつ、オフィスの戸を明けた私は、そこに並んだ鋼の様な筋肉の男達の集団を見て一気に眠気がフッ飛んでいった。
何だー!!!! レスラーか!!!! こんな所まで攻めて来たのかレスラー!!!!!
先頭の男が爽やかに笑顔で挨拶する。
「お早う御座います!!! マッスル引越しセンターです!!! それでは早速作業に取り掛かります!!!」
ボーゼンとする私の脇を通り過ぎてオフィスに入ってきた筋肉男達は手際よく家具を緩衝材で包み、細かいものをダンボール詰めし始めた。
・・・ひ、引越し???
そこでムニャムニャとジュピターも起きて来る。
「あー・・・早いですね。早朝からとお願いしておいたとは聞いていましたが」
どういう事だ?と問う。
「家財道具は一時的に倉庫へ預けます。ここを建て直すまでの間」
それが昨日王が言っていたプランか。
しかしここは我々以外の住民もいるのに・・・。
「勿論全て話は通っていますよ。1階のオーナーも、3階のテトラプテラ女王様方も了承済みです。お隣の建物の土地をそっくり買い取りまして、そこを合わせた土地にビルを新築します。フロアは現在のおよそ倍の広さで5階建てです。住居問題は一挙に解決というわけですよ」
そう言ってジュピターは微笑むと自慢げに胸を反らしたのだった。