第9話 エトワールの憂鬱 -3


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突然その場に現れたELHとエトワールの2人を見てミューラーが驚愕する。
「な、何故だキサマら…!! 結界が張ってあったはずだぞ!!!」
2人を片手で指さし、もう片方の手で傾けた頭のこめかみの辺りを支えるようにして怒鳴るミューラー。
エトワールはそんな彼を見て呆れた様に、は、と鼻で笑った。
「結界だぁ? あんなチャチなモンで目眩ましのつもりだったんですかテメーは。露骨過ぎて逆に誘ってんのかと思っちまいましたよ、うちは」
港湾部に突如として出現した結界区域を思い出してエトワールが言う。
その出来はお世辞にも良質とは言い難く、心得の無い者こそ気付かないであろうが、少しでもその手の知識のある者から見れば丸わかりのものだった。
「で、一体こんなトコで何してらっしゃるんですかね。黒騎士団のミューラー卿サマともあろう御方がね」
その顔を見知っていたのか、名乗らずともミューラーの正体を看破するエトワール。
その問いにやや余裕を取り戻したミューラーは自慢げに胸を反らした。
「…ク、ククク…知りたいかね? このミューラーはねぇ…」
「ラウンドテーブルよ!!」
魂樹が叫ぶ。
弁舌を遮られてミューラーは一瞬口を開けたまま固まり、そして魂樹の方をギラリと睨み付けた。
「…てめえらぁッッ!!!! ブッ殺してやる!!!!!!」
悲鳴じみた叫び声を上げるミューラーの周囲で、一斉に武器を構えた黒騎士達が動き出した。

秘密結社『ユニオン』本部、時の部屋。
無限に続く星海の中に浮かぶ巨大な円柱。
その頂上にある円卓に着くラウンドテーブルの面々。
ここは「どこにでもあり、どこからも辿り着けない」場所。
ここに居る者は全て「ここに居り、また彼方にも同時に在る者」
古代の秘儀により作られた空間、それがこの「時の部屋」であった。
「さぁて…ミューラー卿の状況は如何なものでしょうかねぇ」
席を立ち、円柱の淵から漆黒の星空を臨んでピョートルが言う。
その白いスーツ姿の足元には無言でテラーが片膝を突いて控えている。
「…とりあえず、ピンチになってると思う」
円卓の自らの席に座るブリュンヒルデがボソッと呟いた。
相変わらず彼女はいつもの面白くもなさそうな気だるげな表情を浮かべている。
「ぐははは、奴は毎度必ず1回は追い詰められるからな」
腕を組んだ川島しげおがそう言って歯を見せて笑った。
「状況を見ないで大物ぶったり…大して頭も良くないのに穴だらけの策を練ったりするからよ」
不機嫌そうに言うとエリーゼは湯気の立つティーカップを口に運んだ。
「…しかし、奴が真に恐ろしいのはそのメッキが剥がれてからだ」
おでんがそう静かに言うと、一瞬円卓は静まり返った。
ピョートルが扇子の陰でニヤリと笑みを浮かべる。
「左様。もし卿が初めから何も考えずに力押しで事を進めたのなら…恐らく円卓でも互角の勝負ができるのは…」
その言葉に、数名の視線がある男の上に集まった。
その男は初めから円卓の会話にまったく加わろうとはせずに、今もただ椅子に座って静かに目を閉じているだけだ。
がっしりとした体付きの灰色の髪の男。
その名を、ジオンと言った。

怒りのELHが胸の前で九字の印を切る。
「参るぞ外道!! 臨!兵!闘!者!皆!陣!列!在!前!」
するとそのELHを青白いオーラが覆い、オーラは更に無数の褌に変じて空へと舞い上がった。
「なっ…何だァ!!!??」
ミューラーが血走った目を見開いて驚愕に叫ぶ。
「出でよ…褌龍!!!!」
ELHの叫びに応じて、空に舞い上がった無数の褌は集合し纏まって巨大な龍の姿になった。
「よ、妖術使いめ…」
そして何故か嫌そうな顔をしているのはエトワールだった。
褌でできた白い龍は黒騎士達に向けてゴァァァと咆哮を上げる。
そしてELHは屋根を蹴り空高く跳び上がった。
「行くぞ!!!」
巨大な褌龍の頭にヒラリとELHが舞い降りる。
すると、褌龍はバサアッ!!!と物凄い音を立てて無数の褌に分解した。
周囲一帯に褌が舞い、全員の視界が白一色に染まる。
「チッ…オイ何事ですかこの有様は!」
舞い踊る褌を必死に手で払い除けながらエトワールが叫んだ。
そんな彼女を拳を握り締めてワナワナと震えながらELHが見る。
「…忘れてた!! 25kgまでだった!!!!」
「使えNEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!111111」
ELHの叫びにエトワールの絶叫が唱和する。
「くっ!! ならば!!!」
バッと右手を前方に突き出すELH。
「こちらは地味だが致し方無し!! 受けよ褌異界流し!!!!」
むん、とELHが念を込めると褌が触れている黒騎士達が次々にバシュッ!!という鋭い音と共に消失していく。
「褌の触れている相手を直接冥府に送る技だ!!!」
「見た目地味だけどKOEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!1111」
エトワールの絶叫をバックに瞬く間に黒騎士達は姿を消していく。
「…な…な…」
ミューラーはその中で青ざめた顔をして身を震わせている。
そして遂に黒騎士は4,5人を残すのみとなった。
「わ、私の…ブラックナイツが…」
よろめいて後ずさったミューラーがカクンと俯いた。
「これまでだ。観念するがよい!」
残った黒騎士とミューラーへ向けてドラゴンブレイドを構えるELH。
その隣では魂樹も矢を番えて弓を構えている。
「…ふ、ふふ…ヒヒヒヒ」
俯いたままでミューラーは壊れた様に笑っている。
その時、エトワールだけはゾクッと背筋に冷たいものが走っていた。
(…? 何だコレ…どう考えたって大物ぶった雑魚の確定負けパターンに入ってるっつーのに…この寒気…)
「おい…」
エトワールが後ろからELHと魂樹にそう声を掛けた時、ミューラーが顔を上げた。
「…!」
魂樹が1歩下がった。
憎悪に燃えるその冷たい両眼を目にして。
「許さんぞ貴様ら…」
怨嗟の呟きを漏らしてミューラーが1歩前に出る。
チッと舌打ちしてエトワールが走り出していた。
走りながら魔術を構成する。手の中に生まれた魔力の立方体をアンダースローで投じる。
投げられ地を這うように飛んだ箱がミューラーの足元に転がった。
「…ヌ!?」
一瞬にしてミューラーと黒騎士がその小さな箱の中に吸い込まれた。
「『ジャックインザボックス(びっくり箱)』…オープン!!!」
パン!と両手を打ち合わせて鳴らすエトワール。
光に包まれた箱がフッと消失する。
「…効いてくれたか」
フーッと息を吐いてエトワールが額の汗を拭った。
不意を突いたのがよかったのだろう。だが、次は同じ手は通用しまい…そうエトワールは思った。
ミューラー達が消失した事で、彼らの結界も消えていた。
通りに明るさと人ごみが戻る。
その真ん中に3人は立っていた。
通りに突如として現れた大量の褌に、歩いている人々が驚いている。
「どうして…?」
呆気に取られた魂樹が不思議そうに聞く。
後は追い詰めて倒すだけだと思っていた敵を、エトワールが飛ばして消した事に対する疑問だった。
「バーカ…わかんなかったんですか、オメーら。アイツ何かヤバかったぞ」
半眼でエトワールがそう返事をする。
「…その通り」
ふいに背後からそう声がして、3人が振り向いた。
そこにはエビ・ワンが立っていた。
「悪しきフォースを感じて来たが、救援の必要はなかったようだな」
そう言ってエビ・ワンはエトワールの方を見る。
「賢明な判断だった。あのまま戦闘を続けていれば、諸君らは恐らく大きな犠牲を払う事になっていただろう。まだ、諸君らではあの男の相手は早い」
エビ・ワンの言葉にELHと魂樹が黙り込む。
「ま、どんなに急いだって連中は2,3日は戻ってこれねーよ。その間にここを離れる事にしようぜ」
エトワールがそう言うと、エビ・ワンが肯いた。
そして歩き出した2人を追って、魂樹とELHも宿への帰路に就いた。

カマナの港の一角。
投げ網の手入れをしていた漁師が、突如海から伸びた腕が港に縛留めてある自らの船のヘリを掴むのを見て驚く。
ザバッ!と海水を跳ね上げて船に上がってきたのはシズマだった。
シズマは船に這い上がると、尻餅を突いたまま自分を指差し口をぱくぱく開閉している漁師に気付いた。
「…ああ、これはあなたの船か。失礼した」
そう言ってシズマは頭を下げると、続いて泳ぎ着いた2人に手を貸して船へと引っ張り上げた。
「はぁ…やっと着いたわね。もう当分スイミングはノーサンキューだわ…」
ぽたぽたと全身から雫を落としながらマリスが大きくため息をついた。
その隣のツカサは無言。
彼らはこの島の近くまで熱気球で辿り着き、そこで燃料が切れて墜落し、そこからは小島を泳ぎながらここまで渡ってきたのだった。
「泳ぎ着ける範囲に街があった事を幸運に思わなくてはな」
「まーそうなんだけどさ…」
やり取りをしながら彼らは港に降り立つ。
「今日は久し振りにベッドで寝れそうねー」
賑わう港湾部の街並みを眺めて、瞳を輝かせるマリス。
「…!」
その時、ふいにツカサがシズマの後ろに隠れた。
3人の目の前を魂樹達が歩いていく。
ずぶ濡れの3人に興味を引かれたか、歩いていく4人は何となくシズマ達に視線を送っていた。
「…服のまま水泳か?」
ELHが呟くと、エトワールがどうでもいい、と言う様に肩を竦めた。
「さってなー。…ご贔屓の野球チームが優勝か何かしたんじゃねーんですかね」
シズマの背後から、ツカサの視線はそのエトワールに注がれている。
(間違いない…あれは、エトワール様…)
同行者の内、2人にはツカサは覚えがあった。
『ハイドラ』にいた頃に要注意人物として名前の挙がっていた人物達。
(どうして…彼らとエトワール様が一緒に…?)
その疑問は声にはならなかった。
ツカサは無言のまま、歩み去るブロンドの後姿に視線を送り続けていた。