第22話 鬼人の谷-5


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なんという数だ・・・・・。
その数に呆然としてしまう。周囲を埋め尽くしたアントベアの群れ。
同行者の様子を伺う。
シンラは疲労の色が明らかだ。ラハンは負傷している。
コトハも流石に息が軽く上がってきていた。
一点突破で切り抜けようにも行く道は土砂で塞がれてしまっている。
・・・やむをえん、迂回して道を探すか・・・・。
だが、それすら我々には許されなかった。
1匹のアントベアが我々に気付いてギィッと甲高い鳴き声を上げた。
一斉にアントベア達が押し寄せてくる。
「ちょっとまずいねー・・・」
コトハと私でシンラとラハンの2人を庇いつつ構えを取った。
・・・寄り切られる前に1発は撃てるか。
神牙の構えをとり、気を高める。
「・・・・おおぉぉ!!」
それを見たラハンが驚愕の呻き声を上げた。
迫り来るアントベア達を巨大なエネルギーの槍が薙いだ。
巻き込まれたアントベアは皆粉々に砕け散る。
2,30匹はやれたか・・・・。
これで怯んでくれればと思ったが奴らが動きを止めたのはほんの数瞬の事だった。
すぐに体勢を立て直して襲い掛かってくる。
頬を汗が伝うのがわかった。

「『久遠の詠み手』」

その時、周囲に女性の声が響いた。
同時にアントベア達が淡い光に包まれる。
バシュッ!と1匹が消滅した・・・・いや、分解した?
空中に溶け出す様に・・・・・あれは文字だ。無数の文字の奔流に分解する。
次々と同じようにアントベア達は文字に分解し空中へと巻き上げられ、さらにある一点へと向かって吸い上げられていった。
その一点は崖を塞ぐ崩れた土砂の上、誰かがその上で本を広げている。
文字はその本へと物凄い勢いで吸い込まれていく。
・・・・こんな事ができるのは1人しかいない。
「・・・オルにゃん」
コトハが目を輝かせた。
「面白そうな事は、私を抜きにやるんじゃないってば」
パタンと本を閉じてオルヴィエが不敵に笑う。
「そんなの神が許しても神風味の私が許さない!」

戦場のアントベアは半数くらいになっていた。
「あーあ、結構残っちゃった。まあ昼間だししょうがないね」
オルヴィエが肩をすくめる。
「オルにゃん夜型だからね」
「満月の夜なら今のだけで終ったのにね」
オルヴィエとコトハが顔を見合わせてそう言う。
彼女は夜間に本領を発揮するらしい。
「じゃあ残りは手作業でいきますか!」
愛用の白い曲刀をオルヴィエが抜き放つ。
確かに残りの数ならオルヴィエと力を合わせればどうにかなりそうだ。
アントベア達も自分たちに起こった不可解な出来事に今は動きを止めてしまっている。
よし、これなら・・・と、その時私はポカンと丸で惚けてしまったかのように上空を見つめているラハンに気が付いた。
シンラがどうした、とラハンに声をかける。
「・・・・姫様・・・・ワシは夢を見てるんですかね・・・・空に、海があるんですわ」
空に海・・・?上を見上げる。
・・・・・・何だあれは・・・・・・・。
ラハンの言う通り、空に海がある。
いや海と表現したくもなるような巨大な水の塊が我々の頭上に浮遊している。
「・・・・・なにあれ・・・・・・」
コトハも絶句してしまう。
おい、まさかあれ・・・・落ちてくるのか!!!!!!
「皆集まって!!!!!!!!!!」
コトハが絶叫した。
オルヴィエを含めた全員がすぐに彼女の元に駆け寄る。
コトハがその我々を淡く光るドーム状の障壁で覆った。
そしてその次の瞬間、轟音を立てて空から大瀑布が降り注いだ。

巨大な津波が真上から来たようなものだ。
落ちた巨大な水塊は周囲の地面を抉り飛ばすと泥の濁流となり木々を薙ぎ倒して大岩を運び去り荒れ狂った。
ようやく濁流が収まり、コトハが障壁を解いた時には周囲の風景は無残に変わり果てていた。
アントベアはもう1匹もいない。・・・・あれでは一たまりもあるまい・・・・。
一体誰が・・・。
そう思った時、2つの人影が上空から舞い降りてきた。
深窓の令嬢といった風の髪の長い若い女性と、執事服の背の高い男。
この場に見合わない二人組。
しかし彼女達から感じるプレッシャーは凄まじい。
・・・この押し潰されそうに圧倒的な気配には私は何度か遭遇した事がある。
西の森で・・・火山地帯で・・・・そして水晶遺跡の奥底で・・・・。
「蟲は片付いたみたいね・・・だけど」
ふわっと髪を書き上げて令嬢が言う。執事が、はい、と肯いて応じる。
「貧弱な威力ね」
凄惨な光景を目にして苦々しくそう言う。
「テリトリーの外ではこれが限界です」
低いがよく通る声で執事がそう返事をする。
・・・魔人か。
私は1歩前に出た。
令嬢がこちらを見る。
その視線は高圧的でこちらを見下す冷たい光がある。
執事は彼がウィリアム・バーンハルトです、と告げた。
「私はヴァレリア・バスカビル。彼は執事のベイオウルフ・オーウェン・・・『私たち』は『圧し流すもの』」
!? 私たち・・・・?
確かに2人とも魔人の気配を持っている。だから私は8人の内の2人だろうと思ったのだが・・・・。
圧し流すもの、とは2人なのか?
「そうよ。私たち唯一の『二人一組の魔人』 私たちは二人で『圧し流すもの』」
どういうことだ?そんな特殊な例があるのか。
「まあ、それはこれから死ぬ貴方達に説明しても意味の無い事よ」
言葉と共に私へ高水圧の水の弾丸が降り注ぐ。
くっ!やはりこうなるのか!!!
皆に下がれと叫ぶ。
皆疲弊している。魔人の相手はさせられん。
特にコトハは先ほどの障壁でもうシンラの支え無しに立っていられない状態だった。
私の隣にオルヴィエが進み出てくる。
「1人もらうよ。執事やる」
すまない、頼む。
ベイオウルフは表情を変えずにオープンフィンガーのグローブをギュッとはめた。
「来たまえ」
私はヴァレリアと対峙する。彼女は余裕の構えを崩さずに私を見て冷たく笑った。
「わざわざこんな所まで来てあげたのだから、あまりあっさり死なないで頂戴」
そう言うと周囲に拳大の高速で回転する水の塊が無数に浮かび上がり、私を取り囲んだのだった。