第3話 円卓に集いし魔人たち-1


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とある港町の夜。
その日は朝から雨だった。漆黒の空から大粒の雨が途切れることなく降り続けている。
海辺に面した古い教会。
廃れた外観から、既に住む者も無い廃協会である事が窺える。
傘を差してその廃協会に足早に近付く人影が一つ。
人影は周囲を窺い、素早く戸を開けて建物の中へと滑り込んだ。
中へ入ると人影は傘を閉じる。
傘の下から現れたのは革製の外套にテンガロンハット姿の青年だ。
彼の名はヨギ・ヴァン・クリーフ。冒険者協会の3大幹部『三聖』の1人、斉天大聖の称号を持つ男。
そのヨギが暗い礼拝堂を奥へ視線を送る。
「・・・ジェフ。来ているのかい?」
呼びかけて1歩ヨギが前へ進む。
腐りかけた木造の床がギィと音を立てて軋んだ。
その時、ふとヨギは鼻腔の奥に雨の湿った匂いに混じって慣れた匂い・・・しかし決してかいで愉快な気分になる事は無い錆びた鉄に似た匂いを微かに感じ取る。
・・・それは血の匂いだ。
「ジェフ!!」
足早に礼拝堂の奥へと進むヨギ。
暗闇に目が慣れてくると、礼拝堂の奥で誰かが横たわっているのが薄ぼんやりと見えてくる。
ヨギはその人影に駆け寄った。
「ジェフ・・・!! しっかりしろ、ジェフ!!!」
血にまみれて礼拝堂の床に横たわっていたのは、ヨギとこの場所で落ち合う予定だった協会の職員ジェファーソンだ。
ヨギがジェファーソンを抱き上げる。
「・・・!・・・」
その手が雨では無いぬるりとした液体で濡れた。
「う・・・ヨギ・・・様・・・」
ジェファーソンがうっすらと瞳を開いて呻く。
「待ってろ! 今医者に・・・」
言いかけたヨギの手首をジェファーソンがガシッと掴んだ。
「ヨギ様・・・俺はもう・・・ダメだ・・・。自分の事です・・・わかる・・・」
「弱気になるな・・・!!」
語調を強めるヨギに、ジェファーソンは震える手で血で汚れた紙片を手渡した。
「ヨギ様・・・これを・・・」
ヨギがその紙片を受け取る。
「奴ら・・・『ユニオン』の・・・中枢幹部、ラウンドテーブルの名簿です・・・」
「確かに、受け取ったよ」
ヨギがそう言うと、ジェファーソンは安心したように微笑んで長い息を吐き、そして動かなくなった。
「ジェフ・・・」
ヨギが手の中の紙片をぎゅっと握り締めて俯いた。


ツェンレン王国奥地、幽玄峡にある『ユニオン』の本部。
その更に最深部のユニオン中枢メンバーしか入れないエリアの廊下にコツコツと靴音が響いている。
青黒い鉱石で作られた磨き上げられた廊下を歩む黒いジャケットの長身の男。
その名はメギド。秘密結社『ユニオン』の創設者である。
鼻歌を歌いながら進むメギドがふと、足を止める。
「お帰りなさいませ・・・メギド様」
そう言ってメギドへ恭しく礼をした白スーツの男。
それはピョートルだった。
「出迎えとは珍しいじゃないか」
「いつもあなた様はフラリと出て行ってフラリとお戻りになりますからなぁ。お帰りが予見できなければお迎えもできません」
やれやれと苦笑しつつ、ピョートルが開いた扇子で口元を覆った。
「して・・・この度はどちらへ?」
「ライングラントだ。クリストファー・リューとサーラ・エルシュラーハに会ってきた」
メギドの返事にピョートルは、ほほぅと僅かに目を細めた。
「では始末されてきたのですかな?」
ピョートルが言うと、メギドは横を向いてふーっと大袈裟にため息をついた。
「お前まで俺を血に狂った獣の様に言うか」
「ンフフフフ。・・・ですが、あなた様にそのおつもり無くとも戦闘になったでしょう?」
見透かした様にピョートルがニヤリと笑う。
「ああ。襲い掛かってきた。血の気の多い事だまったく」
「それでも殺さなかったと?」
うむ、とメギドが肯く。
「互いに必死に庇いあっていたのでな。微笑ましくなって殺す気が失せた」
「ほぉ・・・。心境に変化でもありましたかな。冷徹な男だと思っていましたが・・・」
そこで初めてメギドが隣を歩くピョートルを見る。
「で、俺に何の話だ? 待ち伏せまでしていたからには何かあるのだろう?」
「ええ。それなのですが・・・」
ピョートルが扇子を閉じて胸のポケットにしまう。
「Round Tableを召集したいのですよ。お許し頂けますかな?」
Round Table(ラウンドテーブル)・・・それはユニオンの中枢メンバー13人を指した呼称である。
メンバーの一部はほとんどこの幽玄峡の本部に寄り付かない。
「好きにしろ。いつも言っているだろう。お前たちは自由だ。望むようにするがいい。お前がラウンドテーブルを召集するのも自由、そこに来るも来ないも連中の自由だ」
ふーっとピョートルが大袈裟にため息をつく。
「ですから・・・それでは困るのですよ。私が集めた所で何人かは顔を出さないでしょうからなぁ。メギド様のお名前で集めます。その許可を頂きたいのですよ」
「許そう」
少しの間もあけずにあっさりとメギドが言う。
「ありがとうございます」
足を止めて深々と頭を下げるピョートル。
「久し振りに顔を見ておきたい連中もいるしな。楽しみだ。ははは」
笑いながら歩いていくメギド。
ピョートルはその後姿を頭を下げた姿勢のままで見送った。


南洋、アクアマリン島。
この南の孤島に冒険者協会の本部は存在している。
初めて訪れる者は皆驚くだろう。
世界中に支部を持つ巨大組織の本部にしては、それはあまりに慎ましやかな建物であった。
3階建ての事務所が一軒。それが協会本部だ。
その3階に会長、天河悠陽の執務室がある。
執務机の上には積み上げられた書類の山、机の周辺には栄養ドリンクの空瓶が無数に転がっている。
「やってもやっても・・・おわんないっつーのー・・・」
目の下に隈を作った悠陽は机にうつ伏せにぐでーんと伸びていた。ギャラガーとの戦いで砕け散った右腕はその後、優秀な再生術師たちにより再生されている。
世界中の支部から送られてくる懸案の書類。
その枚数は日を追って増えるばかりである。
「何なの何なの・・・遠まわしに過労死で私の命を狙う陰謀なの・・・。ちょっと誰か各国にラブアンドピースの意味を連絡してあげて・・・」
ぶつぶつと誰もいない部屋で悠陽が呟く。
そこに、コンコンとノックの音が響いた。
「・・・はぁい~・・・」
「ヨギです。・・・会長、失礼しますよ」
気の抜けた返事をする悠陽に対し、対照的に切羽詰った様に見えるヨギが足早に部屋へ入ってくる。
「どうしたの~モギ君」
「ヨギです。もがないでください」
ヨギが懐から薄汚れた紙片を出す。
それはあの雨の夜に、彼の部下ジェファーソンが命と引き換えに持ち帰った物だ。
「『ユニオン』中枢のラウンドテーブルのメンバーの名簿を入手しました」
「・・・!」
悠陽の表情が真剣なものになる。
彼女はばっと机の上から身を起こした。
「・・・貸して」
肯いたヨギから悠陽が紙片を受け取り、開いて目を通す。

『陰陽師』ピョートル
『雷神』エリーゼ
『武帝』ジオン
『爆撃機』ビスマルク
『ヴァンパイア』ヴェルパール
『レッドドラゴン』エウロペア
『緑のぱんだ』みる茶
『黒騎士』ミューラー
『熱々の』おでん
『魔創師』ゴルゴダ
『付き纏う影』紫のバラの人
『竜闘士』ラグナシア
『国政に皆様の声を』川島しげお

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
悠陽は無言で立ち上がると、机の横に立てかけてあった木製のバットを手に取った。
そして大きく振りかぶると思い切りヨギの臀部を殴打する。
「ボブ!!!!!???」
くぐもった悲鳴を上げたヨギがその場に崩れ落ちた。
「何よこれ真面目に読んじゃったじゃない!!!」
「いえ・・・ガチなんです・・・。マジなんです・・・!!!」
尻を押さえて苦しい息の中、必死にヨギが訴える。
「キミね! もうおでんとか入ってるから名簿じゃないでしょこれ!! 買い物のメモかなんかとごっちゃになっちゃってるわよ!!! 後なんか選挙に出るっぽいおじさんみたいな名前あるし!!!」
「つ・・・続きを・・・!! 続きを読んで下さい!! 各人の注意を・・・」
言われて嫌そうに悠陽がメモの続きを見る。
「『ピョートル・ヴォルグニコフ』・・・何々? えーとロードリアス財団の大幹部総務部の統括者。東洋にて修行し陰陽術を納める。権謀術数に長けるユニオンの参謀役・・・ね。まあこのあたりは私にももう情報入ってるけど。おでん何て書いてあるのよおでん・・・」
さらに下へ読み進める悠陽。
「『おでん』・・・熱々なのでやけどに注意・・・」
悠陽は机の上にメモを置くと、再度バットを手にとってヨギの臀部を思い切り殴打したのだった。