第19話 花は心のオアシス-1


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アンカーグランドホテル、最上階ロイヤルスイートルーム。
エトワール・D・ロードリアスは不機嫌な顔をして机に両肘を突いてその手に顎を乗せている。
「・・・ちっくしょー・・・もしかしたらそういう事もあるかもしれねーとは思ってたけどよー。まさかあんなアッサリ裏切るとはなー」
「かハッ、よかろうがそんなもん。敵に回ったち言うならわかりやすいわい。ブチのめすだけの事じゃあ。奴とは一度戦ってみたかった。ワシにしてみりゃあむしろ有難い話じゃわいのお」
大龍峰がそう言って豪快に笑った。
部屋には今エトワールと大龍峰とアイザックの3人がいる。残りの者は外出中である。
「よくない話はそれだけではありませんよ」
アイザックが手にした書類を眺めつつ口を開く。
「セシリア・フローライト・・・セシルさんがシードラゴン島へ向かう船に乗ったそうです。同行者は『協会』から3名。『斉天大聖』のヨギ・ヴァン・クリーフ、『捲簾大将』のサムトー・ユング、そしてELH」
最後の名前を聞いたエトワールが両手で頭を抱えた。
「ぐわー禁止禁止ヘンタイ禁止!!!」
「まあ、こちらはかねてよりの打ち合わせ通りに、海上で『ハイドラ』のリチャード様が迎撃する予定ですので彼らがこの島の土を踏む事は無いでしょうが・・・」
アイザックの言葉にエトワールが伏せていた顔を上げた。
「・・・あー。それでアイツ『あんなモン』持ち出してったのかぁ」
「『蟹竜』(クラブドラゴン)か・・・ワシも実際目にしたのは初めてじゃわい」
その威容を思い出し、大龍峰が腕を組んで唸る。
「『羊竜』(シープドラゴン)、『ドス竜』(空想科学任侠伝)と並ぶ世界3大奇竜の内の一匹ですね。財団でも1匹しか保有していない貴重な亜竜ですよ」
アイザックが言う。
くっくっく・・・とエトワールが犬歯を見せて笑った。
「頼むぜーリチャード・・・あの忌々しいフンドシヤローを蟹竜のエサにしちまえ!! 食うのかわからんけど!!!!!!」

晴れ渡った空に花火がポンポンと上がる。
続いて放たれた白い鳩の群が飛び立っていく。
・・・・・何の騒ぎなんだこれは。
隣のジュピターに聞いてみる事にする。
新オフィスビル落成の日。
オフィスの前は結構な人だかりが出来ていた。
「何って、それはオープニングセレモニーですよ」
しれっとジュピターが答える。
オープニングセレモニーって・・・何でそんな事するんだ。
「こういうのはお祭りですから、皆で楽しむのが一番ですよ」
祭らないで欲しいんですけど・・・。
大体が魂樹やコトハ達がまだ入院しているのだ。お祭り騒ぎに興じる気分にもなれん。
彼女らが『ハイドラ』の襲撃を受けて数日が経過していた。
全員命に関わるような負傷はしていないものの、まだ病室の住人である。
・・・そういえば、病院からヘンなの連れて来てたな・・・。
ジュピターの隣をそっと見る。
巨大なシイタケの頭部を持つ男が、他の参加者達と同じように司会の挨拶にパチパチと拍手をしていた。
・・・で、こちらは一体どなたなんだ。
「シイタケマンさんです。人間だった頃のお名前は山野田ジローさん」
・・・とりあえず私とは全然まったく無関係の人ですね?
「そのようですね。それに関しては何だか覆面レスラーの老人が『紛らわしい場所でドア見つめてるんじゃない』ってえりりんさんに殴られていましたよ」
アンカーの町にまでそんな老人がいるのか・・・。
本当に覆面レスラーってどこにでもいるんだな。
「山野田さんは元々勤めていらっしゃった工場で突き指をして診察に訪れた所をシイタケマンに改造されたそうです」
酷い話だな。たったそれだけの事で改造人間にされたんじゃおちおち突き指もできん。
サイカワが無事なのが幸いだ。彼はよくあそこの病院に全身筋肉痛で入院するからな。
うっかりキュウリマンにでも改造されたら鏡見て自害してしまうかもしれん。

セレモニーが一通り終わった所で、我々は早速オフィスビルに入ってみた。
一同扉をくぐって、おおーと感嘆の声を上げる。
広い・・・・。
赤絨毯のロビーにはきちんと受付もある。
一階奥がシンクレアの薬局になっているようだ。
受付にはちゃんと受付嬢が座っていた。
「い、いらっしゃいませ皆様!! 本日より宜しくお願い致します!!」
山吹色の髪の毛の若い女性は緊張しているのかやや上擦った声でそう挨拶して頭を下げた。
「受付のアニオンさんです」
ジュピターが女性をそう紹介する。
よろしく、と一同頭を下げて挨拶をする。
・・・というか、彼女はどこの職員という事になるのだろうか・・・。
1階正面はガラス張りになっており表通りがそのまま見渡せる造りになっている。
長椅子や自販機もあるな・・・。
自販機はありがたい。夜中にちょっとコーヒーが飲みたくなった時に・・・って、ぶー!!!!!! 全部お汁粉だ!!!!! 誰の趣味だこの自販機!!!!!!

案内板を見る。
2階が我々のオフィスだ。
・・・広いなぁ前の4倍くらいあるぞ。
これなら皆ここに住まわせてやれるだろう。
3階は・・・何々「砂漠エステと占いの店バステト」・・・? 女王がやるのかな。占いは当たりそうだが、あの人がやれば。
4階は・・・居住区画だ。ジュピター達やラゴールやジュウベイは4階で生活してもらう。
そして5階は・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「バーバリアン・レスリングジム」
見なかった事にしよう。

その時、表からドタバタと騒ぐ音と悲鳴が聞こえた。
何事かと表へ出てみるとテトラプテラ女王の侍女たちがキャアキャアと悲鳴を上げてオロオロしていた。
女王はと見れば1人胸を張って悠然としている。
・・・どうしたんだ?
女王に尋ねてみる。
「む、ウィリアムか。別に何という事も無い話じゃ」
見よ、と女王が手にしたコブラを象った金の杓杖で前方を指した。
そこには新ビル完成のお祝いとして各方面から届いた祝いの花輪が並んでいるのだが、その中にあからさまに他のと違う花輪・・・というか何だあれ?
緑色の土管から白い斑点模様の赤い花が顔を出している。
花はキバらしきものが並んだ口のような形状をしていて、誰かを半分飲み込んでいた。
口から見えている下半身が壮絶な暴れっぷりを見せている。
「アルティメットパイナップル小野寺が花輪に食われたのじゃ」
うお!!あれはハイパーココナッツ伊東か!!!!
慌てて皆で必死に伊東を救出する。
しかしなんだってこんな怪生物が・・・・。
良く見れば土管にプレートがついている・
何々・・・? 「祝 ノワール一同」・・・?

「いやいや、オジさんは普通の奴頼んだよ?」
ノワールに行って聞いてみれば、案の定こちらが想像していた通りの返事をするスレイダー。
まあ、トボけた中年だがこういう類の悪趣味な冗談や嫌がらせをする様な男でもないとは思っていた。
「そうかぁ、手違いで別のが届いたんだねぇ困ったよね。クレーム入れておきたいけどご覧の有様でさ今」
スレイダーがフロアを指す。
ノワールは盛況だ。シトリンが客で埋まったテーブルの間を忙しく行き来している。
・・・今はカイリがいないからなぁ・・・・。
とはいえあのままにもしておけん。
食われたのが伊東だからいいようなものの(いやよくはないんだが)通行人でも食われたら一大事だ。
ちょっと業者に私が行って取り替えてもらえるように手配しよう。
「そうかい? 何だかかえって気を使わせちゃって悪いね」
そう言ってスレイダーはメモを書いてくれた。
メモを見る。
4番街の花屋だ。名前は・・・「フラワーショップ冴月」か。
よし、行ってみるとしよう。
私はメモをポケットにしまうとノワールを出て4番街へと向かったのだった。