第26話 Friendship-1


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西方海域、ダナン島。
その中央に聳え立つ巨大な遺跡バベルの塔。
円錐状に根元へ向かって広がるこのタワーは、外見は古代遺跡であるが内部は徹底的に改修が行われ超近代設備と化している。
そして、こここそが全世界に君臨する巨大組織ロードリアス財団の本拠地なのであった。
その中央会議室、通称「天蓋の間」と呼ばれる広い部屋に1人の男の姿があった。
総帥ギャラガーの下で財団全体を統括する5人の大幹部のリーダー、ピョートルである。
そのピョートルの前にはシードラゴン島の全景が立体映像で浮かび上がっていた。
「・・・ンッフッフッフッフ」
取り出した扇子をパッと開いて口元に当てるピョートル。
「財団・・・魔人・・・そしてウィリアム・バーンハルトと仲間達・・・3つの交わる『始まりの船』にて果たしてどの様な物語が紡がれるのでしょうなぁ」
薄暗い会議室の壁には、立体映像が放つ光を受けてピョートルの影が不気味に大きく映し出されている。
「新しい時代は目前ですよ。・・・さあ皆さん、このピョートルの掌の上で踊りなさい! ・・・ンフフフフ・・・フアッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」
巨大な会議室にピョートルの哄笑が残響して吸い込まれていった。



人生の大事というものは往々にして前触れも無く訪れるものだ。
その日の朝は、羊から始まった。
目を覚まして身支度を整えた私は、欠伸を噛み殺しながらオフィスの窓のブラインドを上げた。
すると目に入ったのは、見慣れたアンカーの町並みではなく視界一杯に広がった巨大な羊の顔であった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
シャッと上げたばかりのブラインドをまた下ろす。
・・・疲れているようだ。昨日は遅くまでマジカルランドで遊んで来たからな・・・。
鼻の上を指で摘む様にして目をぎゅっと閉じる。
起きてから羊の幻を見るとはな・・・寝足りないんだろうか。
大体ここは2階だ。窓の外に羊が見えるのはおかしい。
深呼吸をしてからシャッとブラインドを再度上げる。
するとやっぱり窓の外には巨大な羊がいる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ガラッと窓を開けて羊の顔に触れてみる。
・・・触れる。暖かいし・・・。
幻じゃないなこれ・・・。
鼻の頭をぺたぺたと撫で回してみる。
というか鼻が私の上半身くらいあるよ。
すると羊、何だかむず痒がるようにフガフガとやり出した。
・・・む・・・やばくないこれ???
ブアックシュッッッッッ!!!!!!!!!!!!
大音量のクシャミでフロアの窓ガラスは全て砕け散り、私は吹き飛んだ机やスチール棚にまみれて壁に叩き付けられた。

「おじさま・・・大丈夫?」
目を覚まして最初に目に入ったものは、心配そうに私を見つめるエリスの顔だった。
私は・・・どうやら応接用のソファに寝かされているようだ。
身を起こしかけて全身の痛みに顔をしかめる。
そうだ・・・私は机や棚ごと壁に叩きつけられて・・・。
オフィスは酷い有様だった。
ラゴール達が必死に後片付けをしている。
「ごめんね~ジャスミンのクシャミで怪我させちゃって。でも先生も悪いのよ? あんな風にジャスミンの鼻をいじくるから」
耳慣れない女性の声がした。
そちらを見る。
始めてみる女性が立っていた。
あの装束は・・・確か東洋の神職の女性の着る衣装ではなかったか・・・。
目が合うとその女性は「ハァイ」とウィンクして見せた。
その女性の隣にはセシルがいる。
「先生。冒険者協会会長、天河悠陽さまです」
そしてセシルは女性を私にそう言って紹介した。

この女性が・・・天河会長か・・・。
思わずまじまじと姿を見てしまう。
半ば伝説の人物である。いかなる女傑かと想像していたが実際の彼女は眼鏡の普通の女性だった。
しかしこの姿は少なくとも半世紀以上に渡って変わらずに維持されているものであり、それは恐らく彼女が「永劫存在」・・・エターナルなのではないかという推論に落ち着く。
「初めまして先生。お噂はかねがね」
天河会長が微笑む。
お噂の塊みたいな人物に言われてしまった。
私はどもりつつ恐縮ですと返事をするのがやっとだ。
そういえば、会長はジャスミンと呼んでいたか・・・あの巨大な羊は一体・・・。
窓の外を見れば相変わらず巨大な羊は悠然と通りに佇んでいた。
改めて見てみると羊にしては首がにょろりと長いな・・・後、背には翼がある。
下からは野次馬が集まっているのだろう・・・わいわいと声が聞こえてきていた。
「・・・会長!! いらっしゃいますね!!」
そこへ慌しくドアを開けてヨギが飛び込んできた。
「会長駄目ですよ! あんな目立つ所にジャスミンを置いて!! 騒ぎになっちゃってるじゃないですか!!!」
「あーも、うっさいなぁ。落ち着きなさいってばヨギ君」
スッと立ち上がった天河会長がどこから取り出したのか木製のバットを手にするとそれで力一杯ヨギの尻を殴打した。
「ンむ”ッッッッ!!!!!!!」
バシーン!!!!!と大きな音が響き渡り、ヨギは臀部を押さえてその場に蹲った。
「キミだってロバート連れて来てるでしょー?」
「・・・で、ですから・・・ロブは騒ぎにならないように港から離した海域で遊ばせてありますよ・・・」
尻を押さえながら足元でヨギが苦しい声を出す。
「あら、そーなんだ」
あっさり言う会長。
「ついでに紹介するわね。私のペット、羊竜(シープドラゴン)のジャスミンよ」
言われて窓の外のジャスミンがこちらを向いてメェエエエエと鳴き声を上げる。
羊竜・・・そう言った生き物がいるとは聞いた事があるが・・・。
まさか実際目にする機会があるとは思わなかったな。

オフィスの片付けも取りあえずは完了し、ジャスミンは会長の指示で町の外で待機させる事になり表の騒ぎも収まった頃には昼になっていた。
「・・・お待たせしました~。時間が無かったので簡単なもので~」
マチルダが大皿を持ってくる。
・・・ほう、サンドイッチだ。
皆いただきまーすと声を出して思い思いにサンドイッチに手を伸ばす。
私はハムとレタスを挟んであるのに手を伸ばした。
「そっちは卵、そっちはハムで、それは白身のフライです・・・後それがキノコ」
ビシッ!!と突如立ち上がったシイタケマンが大皿を力強く指さした。
「キノコのを頂こうか」
あ、ついに開き直ったぞこいつ。
食べながら私は天河会長の方を見た。
・・・それで、会長はどういった御用向きで?
「やーねもう、会長とか他人行儀な呼び方しないでよ。悠陽とか悠ちゃんとか呼んでね。・・・さんとか付けたらぶん殴る!!」
本当にぶん殴られそうだ。
それで・・・悠陽・・・はどうしてここに?
「ふぉれふぁんめー。ふぁいひあふようはふぇふぇ」
「飲んでから話してください」
ヨギが悠陽に言う。
むぐむぐと咀嚼してゴクンと飲み込むと、悠陽はジンジャエールを一息に呷った。
「それがねー、大事な用があるのよねー」
改めて悠陽が言う。
「けどその前にー・・・先生がどうして『神の門』を探してるのか改めて聞いてもいい?」
・・・最近、その話をする機会が多いな。
私はノルコとの約束の話と、ベルを解放してやりたいのだと説明した。
「・・・そっか」
話を聞き終わった悠陽はそう言って何故か嬉しそうに笑った。

皆が食べ終わり、皿が片付けられてお茶が出てきたテーブルに、悠陽が一枚の紙を置いた。
・・・?
これは?
目を通す。何々、カシム・ファルージャ・・・個人のデータか。
資料には写真が付いている。白いヒゲの褐色の肌の老人だ。
待てよ・・・? この名前どこかで・・・。
思い出した。
先日ジュデッカが大怪我をしながら財団から奪取してきたメモリークリスタルに添えられていた資料、そこにあった署名だ。
「カシム・ファリージャ・・・財団研究開発部所属、次元技術研究室の室長よ」
悠陽が言う。
「・・・え? カシム?」
するとそれまでかなりどうでもよさげに話を聞いていたDDが突然椅子から立ち上がるとこちらへ来る。
「わぁ本当にカシム爺だ。なつかしーなぁ」
・・・何? 知り合いなのか?
「知り合いも何も」
資料を取り上げたDDが指の背でぺんぺんと紙を叩く。
「うちの船団にいたのよ。この爺さん」
何だって・・・? それが何故今財団に?
「まー、こっちで調べた限りじゃその老人、自分の研究の事以外俗世の事にはまるっきり興味が無いみたいね。財団に所属しているのは単純に彼らの提供する研究の場と情報収集力が彼の研究欲を満たすに足りるものだからってことでしょうねー」
悠陽が言うとDDが肯く。
「あー、だろうね~。うちにいた時もそんな感じだったよ。いっつも本読んでてたまに口開いたかと思ったら誰もわかんないような難しい話ばっかしてた」
なるほど・・・利害の一致か。
先日出会った『ハイドラ』の1人クリストファー・緑を思い出す。
「でー・・・そのカシム博士が財団における『神の門』研究の総責任者なワケ。総責任者っていうか、まあ彼以外は誰も付いてこれないような話みたいね。なんたってお空の彼方の技術の話なんだから」
ふむ・・・。
異端の天才、か・・・。
「つまり、今財団じゃこのカシム博士以外、誰も『神の門』と『始まりの船』の事はわかんないって事。さて・・・ここからが本題よ」
悠陽が椅子に座り直してこちらに身を乗り出してくる。
「2,3日後にこのカシム博士が島へやってくるわ。これってつまりどういう事かわかる?」
悠陽が私を見る。
財団で唯一、神の門を扱える男を現場へ寄越して来るという事は・・・。
「間違いなくここで財団は門本体の奪取に動くわ。鍵とか諸々の事は後回しに取りあえず門自体を抑えてしまおうって事でしょうね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
始まりの船は島の中央部分の地底に眠っている。
そこを強襲するつもりか・・・ロードリアス財団。
「黙ってやらせるつもりはないわ。私たちはそこを妨害して、このカシム博士を拉致する。そうすれば財団には門を手に入れても扱える人間がいなくなるから」
「ら、拉致ですか・・・。物騒ですねー・・・」
マチルダが思わず呟く。
「あら、『暗殺』って言わないだけ大分悠陽さん穏便なつもりだけど? 暗殺でいいなら話はもっとずっと早いんだけどねー」
肩をすくめてふうっと息を吐く悠陽。
「・・・彼らも当然その可能性は考えているでしょうねぇ」
のんびりとジュピターが言った。
「そうね。当然ハイドラとかその辺護衛に付くでしょ。だからそこが正念場・・・決戦よ」
オフィスを静かな緊張感が満たす。
一同言葉も無く悠陽を見る。
「ま、だーいじょうぶ! 私も行くから!! 大体の奴なら必殺のゆーひさんパンチで木っ端微塵よ!!」
「本当に原子の塵になりますからね・・・」
ははは、とヨギが乾いた笑いを浮かべた。


同時刻。
アンカー中央通沿い電話ボックス内。
「・・・あー、どーも漂水です」
鳴江漂水が受話器の向こうの相手に挨拶する。
「ええ、協会長は今日アンカー入りしましたよ。竜皇帝が先日到着してるのも確認済みですわ。お膳立てはこれで完璧ってとこですかねぇ」
受話器の向こうから笑い声が聞こえてくる。
相手は上機嫌らしい。
「・・・にしても・・・『テラー』ですか。いいんスかねぇ? あれが暴れれば財団側にも少なからず被害が出るんじゃ?」
やや漂水の声のトーンが落ちる。
「あいつの『能力』は無差別でしょうに・・・。近づく者の精神を汚染して理性を破壊しケダモノに変える『キング・オブ・ペイン』」
それについて受話器の向こうの相手が何事か返事をする。
「・・・はぁ、そーっスか。まあここまでくりゃ後は俺は眺めてるだけだ。アンタがそれでいいなら構わねーっスけどね」
挨拶し受話器をフックに戻した漂水がボックスを出た。
「お友達にお電話?」
「!!!」
急に背後から声をかけられて漂水が慌てて振り向く。
「・・・き、霧呼さん」
「お友達が多いのね、鳴江君」
霧呼は腕を組んでいつもの微笑を浮かべて漂水を見ていた。
「まあ・・・プライベートの事までどうこう言う気はないから安心なさいな。言った事さえきちんとやっていてくれればね」
そう言うと霧呼はひらひらと手を振って漂水に背を向けた。
コツコツとハイヒールを鳴らして去っていく霧呼の背を漂水が見送る。
「・・・ひー・・・やっぱあのヒトはおっかねぇなぁ・・・・」
顎に伝った冷や汗を手の甲で拭って漂水は苦笑したのだった。