第23話 ヤマトナデシコ、来島-2


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仇・・・。
あやめの放った一言にオフィスの中は静まり返った。
彼女が肯いて応じる。
「6年前の事ですが、父はこの獣人の手にかかって命を落としました。私は3年前に剣の修行を収めて国を出ました。以後ずっとこの獣人を探し続けているのですが、最近この島で見かけたという情報を入手してやってきました」
言われて見てみれば確かに彼女は長細い布の袋を携えている。あの中に刀剣が入っているのだろう。
しかし・・・・どうしたものか。
私はビャクエンの所在は知らないが彼女に情報を与えてやる事はできる。
だが話が話だけに簡単に喋っていいものか判断ができかねる。
私はひとまずこの場は話を打ち切る事にした。
何かわかった事があれば連絡すると告げて彼女達の宿泊先を聞く。
あやめは、くれぐれもお願いします、と深々と頭を下げて帰っていった。
しかし宮本十兵衛は帰らずその場に残った。
「拙者の方からも話があり申す」
そう、重々しく言う。
しかし・・・・頭のデカいオッサンだな。流石に鼻はカルタス程ではないが・・・・。
それで、話とは?
「もし、件の獣人が見つかったとしても、あやめにはそれを告げずにいて欲しいのだ」
ほう・・・。
理由を聞いてもよろしいか。
「あの娘はまだ若く、そして優秀な剣士なのだ。その腕を・・・いくら目の前で父を奪われた悲しみと憤りからとはいえ復讐の返り血で汚してしまうのを見るのはあまりにも!あまりにも忍びないっ!!!」
だーっと滂沱の涙を流すジュウベイ。あまりに涙が凄いのでエリスがジュウベイのアゴの下あたりにタライを置いた。
あなたは彼女とはどういう関係で?
「・・・・・おお、これは失礼致した。拙者は元々彼女の父親、音無蒼雲の友人でしてな。共に切磋琢磨し武術の腕を磨いた仲なのだ。その縁で旅立つ彼女の後見人として同行しておる次第」
なるほどな。しかし、彼女が諦めない限りは、向こうが勝手に死にでもしない限りいつか彼女は標的に辿り付いてしまうのでは?
うむ、とジュウベイがうなずく。
「それ故にあやめが奴に辿り付く前に拙者が見つけ出し討ち果たす所存」
それしか手はないのだ、とジュウベイは言った。

ジュウベイも帰った後、私は頭を抱えていた。
なんとも面倒な事になってしまった。
うーむ、と腕組みして唸る。
どちらに告げても残った方に角が立ちそうだ。
「まあ、どっちにしたってそんな楽に倒せる爺さんじゃないけどね」
応接用のソファに座って新聞を広げていたオルヴィエがそう言った。
ビャクエンを知っているのか。
「うん。元々あの爺さん、ツェンレンの武術指南役だったから。七星にって話もあったくらいの腕利きよ。まあ結局素行に問題ありすぎて七星にはさせられなかったんだけどね」
つまり人格はともかく、戦闘力だけ見れば七星級と言う事か。
「あーいう心の底から血見るの好きな奴って、お偉いさんにしたらいけないのよね」
オルヴィエがそう言って肩をすくめる。
戦いに魅入られた者、か・・・・。

一夜明けて、私は自分の調べ物が長くなりそうだったので昼食を外で済ませると言ってオフィスを出た。
本屋と図書館を回ってようやく一段落したので昼食を取る事にする。時刻は二時過ぎになろうとしていた。
広場の露店でホットドッグを買ってそれで済ませる事にする。
広場の中央の、本来ならエンリケの胸像があるはずだった台座には、今はカルタスが「ようこそアンカーの町へ」のプラカードを持って直立している。
そういう罰になったらしい。
鼻がデカいので通りがかる観光客達は皆足を止めて見ている。
たまには陽の下で食事を取るのもいいものだ。
ベンチに座って、かじりついてもぐもぐやっていると・・・・。
「おじさん、おじさん」
と、声をかけられた。
そちらを見てみるとボーイッシュな格好の女の子が立っていた。
Tシャツにパーカーを羽織り、ジーンズにスニーカー、頭にはつばのある帽子を後ろ向きにかぶって大きな眼鏡をかけている。
「美味しそうね、おじさん」
白い歯を見せてにこっと笑う。
そこで売っているよ、と言うのも何となく感じが悪かろうと、私は2本買ったうちの1本を彼女に差し出した。
よかったら食べるかね?
女の子が目を輝かせる。
「本当? やった!ありがとう! 慌ててホテル飛び出してきたからお財布置いてきちゃって困ってたの」
なるほど、観光客か。
ラフな格好をしているように見えてもどこか気品があるように思うし、良家のご息女と言ったところなのかもしれないな。
並んでベンチに腰掛けてホットドッグを食べる。
「おじさんはこの町の人?」
私は少し考えてから、そうだよ、と答えた。
今はここに住居を構えているわけだし、そう言っても差し支えあるまい。
「お名前を聞いてもいい?」
構わないよ。ウィリアム・バーンハルトと言う。
「何でも屋さんのウィリアム先生だ!!」
ぐっ、と喉に詰まる。・・・・何でも屋さんか・・・誰かに私の事を聞いたのかい?
「ううん、観光パンフレットに載ってたわ。何でも相談所のウィリアム先生って」
誰だよ書いた奴!!!!!! 人んち勝手に観光名所にすんなよ!!!!!!
「ごちそうさま!ありがとう!いつかお礼するから!」
食べ終わると元気よく女の子が公園の出口に向かって走っていく。
そして振り返ってもう一度大きく私に手を振った。
「何か困った事があったら相談にいくね!先生!」
私は苦笑して手を振って見送った。
そう言えば名前を聞き忘れたな。まあいいか。

その彼女と入れ違いに広場に入ってきた者がいる。
頭デカいな・・・ジュウベイだ。
うつむき加減に何かぶつぶつ言いながら、私に気付くことなく前を通り過ぎていった。
そのまま進んで行き、カルタスの乗っている台座のあたりで足を止める。
と、そこで突然ぐおおおおおっと天を仰いで咆哮した。
流石にカルタスもびびってのけぞっている。
「うおおおお!!! 拙者は!!拙者はどうすればよいのだ!!!」
頭を抱えている。しかし頭だけじゃなく独り言までデカいな。
「復讐など何も産み出さぬ!! しかしそれをこれまで戦いに明け暮れてきた拙者が口にして何の説得力があろうかぁ!!!!」
拳を握り締めてわなわなと震える。
「教えてくれ蒼雲!! 拙者はどうすればよいのだ!!!」
そしてその拳をぶおっと前方に力一杯突き出した。
ズム!!!と重い音を響かせてその拳が台座の上のカルタスの股間にメリ込んだ。
「ホ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
顔面中に血管を浮き上がらせて飛び出さんばかりに目を見開いたカルタスはゆっくりと台座の向こうに落ちて消えていった。

その苦悩するジュウベイも去り、私もそろそろ戻るか、と思ったその時、誰かが私の隣にどかっと腰を降ろした。
「よォ先生」
鳴江漂水だった。
やあ漂水、何か用かね?
私は内心の警戒を隠そうともせずにそう尋ねる。しかしそれを意に介した風も無いヒョウスイはニヤリと笑うとずいっと肩を寄せてきた。
「・・・・用ってかね、面白い話を持ってきたんだよ先生」
私は警戒を強める。この男の面白い話はどうにも危険が伴う物が多い。
「もうすぐ祭だな。その日によ、鮫の連中はド派手にやらかすつもりだぜ」
!!??
聖誕祭の日にシャークがどうするって?
だがそれ以上は語らず、ヒョウスイはすっと立ち上がった。
「ま、オレが言えるのはここまでだ。興味あんなら自分で調べてどうにかしてみな、先生よ」
それだけ言うと後ろ手にひらひらと手を振ってヒョウスイは行ってしまった。
・・・・・シャークが何か聖誕祭の日に企んでいるのか・・・・・。
私はため息をついた。
仕方が無い。ビャクエンの事も調べる必要があるし、少し本腰を入れて探りを入れてみる事にするか・・・。