第22話 鬼人の谷-2


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

我々を指差した姿勢のまま不敵に仁王立ちしているカイリ。
ていうか表で所属を大声で叫ぶなよ・・・・。
ノワールにヘンな噂立つぞ。
コトハはちょっと小首をかしげてカイリを見ていたが、こくんと一つうなずいた。
「うん、いいよ。相手になってあげる」
ちょっと意外だ。こういう暑苦しい展開は嫌がりそうに見えるが。
「ああいう子嫌いじゃないし」
そう言って微笑む。
「よーし・・・じゃあ・・・・」
そうカイリが言いかけたその時、既にコトハはカイリの目前にいた。
相手に一切の警戒心を持たれる間も無く、静かに優雅にコトハがカイリの袖を取った。
そのままふわりと投げる。
「え・・・・」
呆然としたカイリの声が聞こえる。
彼の身体は空中で美しい真円を描いて地面に叩き付けられた。
そしてその首筋にコトハがぴたりと手刀を当てた。
「『円月崩し』 はい、おしまーい。ボクの勝ち」
すっとカイリから離れるコトハ。
「・・・ちょっ!! 汚いぞいきなり!!」
「えー? でも戦場じゃ誰も『始めー』なんて合図してくれないんだよ?そうげんうーが言ってた」
う、とカイリが詰まる。確かにコトハの言う事は正しい。だが合図云々ではなく彼女の恐ろしさは間合いを詰めて袖を取って投げるまでの間、まったく殺気も闘気も発していなかった事だ。
あれだけ自然に仕掛けてこられたら、果たして私でも反応できたであろうか・・・・。
「鍛えてからまたおいでよ。その時にもう1回遊んであげるから」
笑ってひらひら手を振るコトハ。
カイリは立ち上がるとちっくしょぉぉぉぉぉぉぉと叫んで走り去っていった。

何だか出掛けにドタバタはあったものの、我々は午前中の内に荒野に辿り付いていた。
見渡すばかり岩ばかりの乾いた荒地を進む。
「元気な子見てると、しぐぷー思い出すな・・・・」
途中、コトハがそうぽつりともらした。
しぐぷー?
「ウン、1年前までボクと同じ七星だった子。でもいなくなっちゃった・・・・」
1年前に一人欠けて六星に・・・・そうオルヴィエが言っていたのを思い出す。
「あの時・・・・あのお尻さえ・・・・」
ハイ? なんか場の雰囲気と口調にそぐわない単語が出た。
まあ聞き違いだろうな。
「ううん、お尻だよ。ヒップ、ケツ、臀部」
あーもう女の子がケツとか言わない!
尻が何かで、七星は星を一つ失った?
意味がまるでわからなかったが、コトハもそれ以上何も語らなかったので私も尋ねはしなかった。

「あ、せんせーおサルがいるよ。なんかでろーんって長い」
道中コトハがそう言って指差す。
ほぉ、クビナガスギザルがこんな荒野にも生息しているのか・・・・・って・・・・。
胴NAGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!111111
亜種だ!!! ドウナガスギザルが出た!!!!
やはりグッタリしている・・・・。
ポテトとポトフとポン酢(エリスが飼ってるでろーん)に連れて帰ってやるか・・・・いやペット増やしたら世話してるエリスに怒られるな、やめておこう。

そして荒野を抜け、問題の谷へとやってきた。
青黒いゴツゴツとした岩の谷だ。
緑も多いな。生息している動物も種類が多そうだな。
これは想像していたよりも発見の多い探索行になるかもしれない。
思わず気分が高揚する。
しかしそう都合よく話は進まなかった。
「そこまでだァ!!人間!!止まれい!!」
頭上からダミ声で怒鳴りつけられる。
すると目の前に何か大きなものがズシンと地を震わせて落下してきた。
オーガの戦士だ。
革鎧と大きな斧で武装している。
流石に凄い身体をしているな。テッセイあたりが見たら喜びそうだ。
「ここから先は我らの領土だ。ここで引き返せ」
オーガが我々を威圧しながら言う。
お前か、数日前にここで冒険者を襲ったのは。
「うむ。警告に従わなかったのでな。力ずくで排除した」
我々はフィールドワークでここを訪れただけだ。害意は無い。
「そんな話が信用できるかァッ!!人間はズル賢い!!」
えーそんな人間と接した事あるのか。
「ない。だが部族にそう伝わっている!!」
傍迷惑な言い伝えだな、過去に何があったのかはわからんが・・・・。
「どうしてもと言うのならこのワシを倒して行くがよいわ!!!」
あーやっぱりこういう流れになるのか・・・・私としてはなんとか平和に話を済ませたいのだが・・・・。
再度説得を試みようとしたその時、コトハが私の前にすっと出た。
「じゃあ、ボクたちはキミを倒していく事にするよ」
ああん?とオーガの戦士がコトハを見下ろす。
「があっはっはっはっは!これは傑作だ。そんな細腕でこのワシの相手をするだと!?」
「うん。でも命まで取る気はないから安心してね」
ぴたりとオーガの笑いが止まった。
「面白いわ!!!この小娘があっっ!!!」
振り上げた斧をコトハに向かって振り下ろすオーガ。
コトハはその一撃を数歩下がってかわすと、オーガの腕に自分の手をそっと添えてかすかに捻った。
ゴクン、と低い音が響いた。
「があああ!?」
斧が地面に落ちてズズンと砂埃を上げた。
オーガの右手が力無くぶらんと垂れ下がっている。
「肩と肘を外したよ。もう降参した方がいいよー」
おのれえ、と残った左腕で殴りかかってくるオーガ。
「霞単(かすみひとえ)」
その一撃をふわりとかわすコトハ。そしてその左手にも自分の手を当てて捻る。
左手の肘と肩も外される。
しかしオーガは怯まなかった。咆哮を上げて残った頭部を力一杯コトハに叩き付けてきた。
大した闘争心だ。
「しょうがないなーもう・・・・」
ブン!!と振り下ろされてくる頭をかわすとコトハはオーガ戦士の両側の耳の下あたりに両手を添えた。
ガクン!と音がして口を大きく開けたまま戻せなくなったオーガの戦士は両膝を地についてうなだれたのだった。

「お見逸れ致しやした。姐さんと呼ばせてくだせぇ」
しばらく後、コトハによって外された両腕と顎を直してやるとオーガ戦士は平伏してそう言った。
「これに懲りたらもう皆に意地悪しちゃダメなんだよ。後こっちの先生はボクのご主人様だからちゃんと言う事聞く事」
ほお、初耳だそれは。
オーガの戦士が私にも平伏する。
「へへーっ、旦那と呼ばせていただきやす」
オーガ戦士はラハンと名乗った。
私は改めて自分たちに害意が無い事と、この島の歴史や生態系等を研究しているという旨をラハンに告げた。
「そういう事でしたらワシらの村へ来てくだせぇ。長老達に伝わる口伝があったはずですぜ旦那」
おお、それは願っても無い!
こうして私たちはオーガ戦士ラハンの案内でオーガの村を訪れる事になったのだった。