第15話 風の聖殿-3


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身を屈めてシミターの一撃をやり過ごす。
しかし続く第二第三の刃を回避しきれずに傷を負う。
いずれも深い傷では無いが、それでも繰り返せばやがて私は致命傷を受けるだろう。
・・・どうする・・・。
頬を冷たい汗が伝うのを感じた。
「・・・ウィル!!」
絶望しかけた私の耳に届いた声はDDのものだった。
周囲に吹雪が吹き荒れ、教団員達が動揺してあたりを見回す。
吹雪を裂いて、まるで豹の様にDDが教団員達に襲い掛かった。
そして瞬く間に全員を打ちのめし、地に這わせる。
「大丈夫だった? ウィル」
ああ、助かったよDD。ありがとう。
「おい、姉さん。どうやってここへ入って来た?」
付近にあった彫像の台座に腰掛けてこちらを眺めていたゴルゴダが声をかけてきた。
「生憎だったね。結界破りは私の十八番」
ゴルゴダを鋭く睨んで言うDD。
「ハッハ・・そうか。本当にお前の周りには面白い姉さんが沢山いるんだな」
軽く笑ってゴルゴダは台座から飛び降りる。
・・・今度はお前が相手か。
「さて、どうするかね。今は特にお前と戦う理由が無いな。試したい武器も持ってきてないんでな」
どういうことだ?教団の者として私を殺しに来たのだろう?
問うとゴルゴダは薄く笑って肩を竦める。
「今は確かに教団に厄介になっちゃいるがね。俺は教団員ってワケじゃない。連中とは利害が一致してるんで共闘してるだけだ」
言われて思い浮かべる。ここまでにゴルゴダの示したいくつかのキーワードを。
手にした人間を操る邪剣、量産、試したい武器・・・・。
そして思い浮かんだ一つの職業名。
・・・お前は『魔創師』か、ゴルゴダ。
そう言うとゴルゴダは一瞬瞳を輝かせてニヤリと笑った。
その仕草は肯定を表していた。
「魔創師」とは、古代からの秘術を継承して魔力を秘めた武装やアイテムを作り出す技師の事だ。
あの悪趣味な人を操る邪剣がお前の求める作品なのか、ゴルゴダ。
「あれか。あれは必要に迫られて作った。俺にとっては作品というよりも作業道具の一つだな」
ゴルゴダが一歩、私たちの方へ踏み出す。
「長く独りでやってたんでな。どうしても誰かの手が必要な時が出てくる。けど手を借りようにも他人なんぞ面倒くせえし信用できねえだろ?・・・それで思いついた、ああ、『俺を増やせばいい』ってな」
ゴルゴダがやや顎を上げる。
「あれは装備したヤツの精神に俺の人格を『上書き』して支配する。所詮はオリジナルにあらゆる点で及ばん劣化品の俺を量産するだけだが、それで事足りる場面も多くてな」
しかし・・・、とゴルゴダは見下ろすように此方に向けていた瞳を細めた。
「『悪趣味』か・・・なるほどそうかもしれん。だがな、バーンハルト。『武器』ってのは本来相手を傷つけて殺める為に存在するもんだ。それこそがそもそも悪趣味とも言えないか? その武器に悪趣味を論ずるのは滑稽だと思わんか?」
・・・・・・・・・・・・。
確かにそれは一つの真実ではある。
「そしてそれは俺もお前も一緒じゃないか? お前、これまでに傷つけて殺めた人間の数を正確に言えるか? 言えないだろう。『数え切れなくてな』」
・・・・・・・・・・・・。
「勘違いすんなよ。それを恥じる事などないぜ。・・・所詮生きるってのはそういう事だ。・・・おっと!」
ゴルゴダが飛び退く。
襲い掛かってきたDDの拳を回避する為に。
「おいおい、やらねーって言ってるだろうが。『今はな』 その内望まれなくても会いに行ってやるよ」
繰り出される拳や蹴りを巧みに受け流しつつゴルゴダが言う。
・・・生憎だがこっちがお前の都合に合わせてやる義理はない。
お前には教団の全貌や、ベルナデットを幽閉した黒幕の正体を語ってもらわなければならないんでな。
「・・・チッ、そういやそんな話もあったか? やれやれ、だからしがらみ背負ってやってくのはイヤなんだよなぁ」
すっと眼前に構えた黒い長槍をゴルゴダが風車の様に旋回させた。
その動作で結界が破れる。
ガラスの砕け散るような甲高い音の響く中、私たちは元の遺跡の廊下に帰還していた。

「ウィル!!」
ベルナデットが叫ぶ。
皆が駆け寄ってくる。
・・・気をつけろ!! ゴルゴダだ!!
私は正面にいるゴルゴダから目を離さずに叫んだ。
・・・どういう事だ? わざわざ結界を破って私を仲間達と合流させるとは・・・?
「俺はこれで失礼させてもらうぜ。・・・あぁ心配すんな、お前らの相手はちゃんと用意してやるよ」
パチンとゴルゴダが指を鳴らした。
その瞬間、遺跡が大きく揺れた。
「・・・うおっ!!!」
叫んだジュウベイがよろめいたエリスを支えた。
カルタスが転倒してそこにバルカンがエルボードロップを入れる。

オオオオオオン。

遺跡の外から咆哮が聞こえた。
この声は!! ガ・シアか!!!
「狂皇ラシュオーンが作って各地の聖棺に封じられたガ・シアは全部で七体だ。教団は今、順に聖棺を暴いてガ・シアを支配下においてる。この間お前らがやったのが3体目、今度のこいつが4体目ってワケだな」
表の方を眺めながらゴルゴダが言う。
「急いだ方がいいぜ? ガ・シアは神都へ向かう。奴らはその為に生まれた存在だからな」
いかん!! 阻止しなくては!!!
仲間達と共に遺跡の外へ向かって私は走り出した。
その後姿を薄笑いを浮かべたゴルゴダが見送った。

遺跡の外へと飛び出した私たちは、眩い陽の光の下に聳え立つ巨影を見た。
・・・形が違うな。
この前は夜だったこともあり、正確な形状をしっかり見定めたわけではないものの、ガ・シアは人型をしていた。
今度の奴は蛇だ。双頭の蛇。
頭が二つある蛇に似た魔影は砂塵を巻き上げて神都の方角へ移動している。
弱点である白い仮面は、2つの頭部のどちらにも存在していた。
私はまだガ・シアのことを知らない仲間たちに仮面の下の目の模様が弱点である事を告げる。
「・・・わかりました。行きます!!」
仲間の中で只一人、飛翔能力を持つルクが飛び立った。
そのルクが攻撃するよりも早く、ガ・シアが飛来するルクの存在に気付く。
片方の頭がぐぐっとルクの方を向いた。
・・・『呪叫』がくるか!!?
ガ・シアの恐るべき物質的破壊を齎す叫び声。
しかし私の予想に反して、ガ・シアはすぐに叫び声を上げることはしなかった。
より確実な、効果的な攻撃方法を選んだのだ。
仮面の目の部分の穴が突然強い赤い輝きを放った。
・・・・・!!!!!
光を浴びた瞬間、全身に強い痺れを感じた。
四肢が上手く動かない・・・!!
ルクも飛行状態を維持できなくなったらしく。なんとか落下速度を減じることに成功しつつ地面へと落ちる。
麻痺を与える光か!!! まさかこんなものを使ってくるとは!!!
まずい。今攻撃を受けたら・・・。
悪い予測はすぐに現実となった。
痺れた我々に向かって、ガ・シアは2つの頭部から呪叫を放ったのだ。
直撃を受ける。
爆発したように抉られた地面ごと、我々は為す術もなく吹き飛ばされた。

『・・・・・・・・・ウィリアム』
声が聞こえる。
暗闇の中に、私の名を呼ぶ声が。
『やぁ。こんにちは、ウィリアム』
どこまでも続く真っ暗な闇の中に、私はうつ伏せに倒れていた。
そしてその私のすぐ脇に立って、仮面の道化師が私を見下ろしていた。
『大変だよ、ウィリアム。大変だ』
台詞に見合わない落ち着いた声で道化師が告げる。
『このままでは、みんな殺されてしまうよ』
・・・・・!!!!
暗闇の中に、まるでスクリーンの様に先程までの風景が浮かび上がった。
無残に変わり果てた地形の周囲に、転々と仲間達が倒れている。
皆真っ赤な血を流して。
・・・・うう・・・!!!!
呻きながらその風景に向けて手を伸ばす。
助けなくては・・・!!!
『力が必要だね、ウィリアム。私が力を貸してあげるよ』
差し伸べられた手を払いのける。
黙れ!・・・私はお前の力など借りん!!
跳ね除けられた手をヒラヒラと振ると道化師は大げさに肩を竦めた。
『・・・強情だね、ウィリアム。仕方がない。今日は大人しく帰るとするよ』
道化師がそう言うと、暗闇の世界に白い光が射した。
光は徐々に広がり、周囲を白く満たしていく。
『キミがそう焦らすのなら、ボクは気長に付き合うだけさ。運命は変わらない。最後にはキミは必ずボクのものになる。ボクが必ずキミのものになるのと同じように』
そして、声は最後に女性のものに変わった。
『・・・忘れないで、アタシはいつでもお前を見てるよ・・・ウィリアム・・・』
それは、いつかどこかで聞いた覚えのある声だった。

がばっと地面に手をついて身体を起こす。
一瞬何か・・・夢を見ていたような・・・・。
ふと頭に浮かんだ疑念を振り払う。
今はそんな事を考えている余裕は無い。
立ち上がって気がつく。私はまた元の大人の姿に戻っていた。
・・・しかも、身体に傷がまったくない・・・?
麻痺も消えている。
どういう事だろう?
その時、バサッと翼をはためかせてガルーダが飛来する。
『我が聖域にての狼藉、断じて許すわけにはいかん!』
ケエエエエエッ!!!と威嚇の叫び声を上げるガルーダ。
そして双頭のガ・シアと視線を交わらせる。
『・・・・すまん、怖い!!!!!!』
すると、そう言い残してガルーダ飛び去っていってしまった。