第24話 祭りの前日


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夜も明けきらない内から表の喧騒に叩き起こされる。
しかしこの時期ばかりはそれを怒る者はいない。
・・・・この島で「その日」を迎えるのは初めてだが、どこでも変わらないものだな。
その日、女神アリエル聖誕祭は明日に迫っていた。
既にお祭り騒ぎは始まっている。
連日のパレードに出店に街頭芸に、ありとあらゆる催しのオンパレードだ。
今日はエリス達と一緒に祭りを回る約束になっている。
皆、楽しみにしているようだ。
私も今だけは他の事は忘れて楽しむ事にしよう。

・・・・それが終れば、我々に待っているのは戦いなのだから・・・・。

昨日の事を思い出す。
ノワールでの事だ。
私はそこに仲間達を集合させていた。
我が家のエリス、DD、ルクシオン、シンラ。
カルタス、サイカワとひぢり夫妻、イブキ、テトラプテラ女王、ハイパーココナッツ伊東。
シンクレア、七星の3人・・・オルヴィエ、ゲンウ、コトハ。
スレイダー、シトリン、カイリ。
アヤメとジュウベイ。
そして高クラーケン。
・・・・いや、高クラーケンには声かけてないんだけどさ・・・・。
そして集まった情報から、シャークの恐るべき計画の全容が明らかになった。
彼らが企んでいるのは武力によるクーデター、アンカーの制圧であった。
祭りの混乱に乗じて市の重要施設を占拠し、旧運営陣を捕え、運営組織の解体を認めさせ自分たちの王国の誕生を宣言する。
「『自分たちはぐれ者達の王国を築く』というのがヴァーミリオンの謳い文句だ。シャークの者どもは皆このフレーズに共感し心酔しておる。最早、狂信者達の集団と言ってもよい」
そうゲンウが言う。
わざわざ祭りの日を選んで決行する理由については・・・。
「当然世界中へ労せず自分たちの成し遂げた『偉業』を喧伝する為じゃ。また大勢の人で溢れかえる聖誕祭の日を狙えば警備に当たっているうぐいす隊の面々が満足に身動きが取れまいという戦略的理由もあるようじゃの」
愚かな事じゃ、と女王。
そして彼らの規模と現在の潜伏先は・・・。
「オジさんも知らなかったんだけど、この町って遺跡の上に作られた町なんだよね。んで、遺跡の地下一層にある水路がそのまま町の排水設備として利用されてるわけ。遺跡はかなり広大で全部で6層構造になってるみたいだよ。シャークの連中の大半はこの遺跡の2層と3層に潜伏してる。相当金かけて内部を『整備』したみたいだねぇ。2,3層はもう快適な生活空間に作り変えられてるって話さ。人数はざっと800人てとこだね現在ね」
スレイダーの言葉に戦慄する。・・・こちらの考えていた倍以上の規模だ。
しかしそれだけの人数に必要な食料や物資が町から流れれば不審に思う者が出そうなものだが・・・。
「それなんだけどさ、食料とかは町から出てないね。多分遺跡には町の外から出入りできる入り口がどっかにあるんだと思うよ。必要な物資は島外から船で運びこんでその入り口を通して持ち込んでるんだろうねぇ」
「聞けば聞くほど途方も無い話ですね」
サイカワが難しい顔をする。
「もうチンピラ集団相手にするつもりじゃヤバいわね。軍を相手にするつもりでやらないと」
皆に飲み物を出しつつ、そうシトリンが言う。
「決起の時には、そ奴らが地下から一斉に地上に沸いて出てくるわけだ。しかも拙者らはただ倒せば良いというわけではない。騒ぎになってしまえば一気にこの町の自治は危うくなる」
「ファーレンクーンツのアレス大統領なんて特にこの町を四王国管轄下に置く事にご執心だしねー」
ゲンウの言葉にそうオルヴィエが応じる。
彼らが言うにはファーレンクーンツのアレス大統領が自治反対派、ツェンレンの獣王アレキサンダーとルーナ帝國の皇帝シュルツ三世が中立、エストニア森林王国の妖精王ジュピターが賛成派なんだそうだ。
大きな騒ぎが起きて被害が出れば、四王国会議はこの町の自治の終焉と自分たちによる統治を決定するだろう。
しかし、騒ぎにしたくないのなら奴らが地下から来るのは好都合だ。
地下にいるうちに叩く。
地下一層水路を主戦場としよう。
この場にいる面子で800人か・・・。
皆済まない、こんな話に巻き込んでしまって。
私のその言葉に、皆は顔を見合わせてくすりと笑った。
「誰か巻き込まれた人っている?」
イブキがそう言うと皆は首を横に振った。
「私は好きでここにいんの、ウィリアム軍団だし!」
そう言うオルヴィエにコトハが抱きついた。
「せんせー大好き軍団だもんねー」
「別に僕はウィリアムなんかどうでもいいけど、でもこの町を荒らす奴は放っておけない!」
ふん、とカイリがそっぽを向いた。
反抗期なのよねー、とシトリンがそのカイリの頭を撫でている。
「私の目的はビャクエン老人ですが、それ以外の所でも全力で皆様のお役に立ちたいと思います」
アヤメが微笑む。
よし・・・。
ガタン、と椅子を鳴らして立ち上がる。テーブルに両手をついて前傾姿勢で皆を見る。
私たちは聖誕祭の日にシャークと対決する。主なメンバーはシャークの頭ヴァーミリオン、それに三隊長トーガ、ビャクエン、キリエッタだ。
ビャクエンの名前が出た時にアヤメが、キリエッタの名前が出た時にイブキがそれぞれ微かに緊張するのがわかった。
皆、死なないでくれ・・・・私の言いたいことはそれだけだ。
その言葉に全員が力強く肯いた。

明るい日差しの下で催しを見て回り、露店であれこれと買い物をする。
女の子は元気だ・・・つくづくそう思う。
今もエリス達は賑やかに露店を見て回っている。
年寄りはちょっと退避させてもらうよ・・・。
雑踏を離れ、壁に寄り掛かって喧騒を眺める。
皆浮かれている。誰もが幸せに楽しんでいる。
アリエルの聖誕祭・・・後に悪神ジエドメルーガを倒してこの世の曙を導いたという女神の誕生記念日。
この日ばかりは皆等しく平等に命と大地に感謝して祝い楽しむ。
どのような大戦であれその日だけは両陣営戦の手を止めて杯を交わして祝うと言われているその日を決起の日と定めたシャーク。
2重にも3重にも穴のあるプランに思えてしょうがない。その場を上手く乗り切ったとしてもすぐ先に待っているのは破滅だ。
ヴァーミリオンの澄ました顔を思い出す。破滅の幻想に酔って突き進むタイプには見えなかったが・・・・。
しかしいくら先の無い幻影から産まれるものであっても、その場で振り下ろされる拳は本物だ。
多くの人々を巻き込んで傷付ける事だろう。
誰かが食い止めなければならない。
その誰かは、今回たまたま私たちだった。
「ウィリアム先生」
呼ばれて気が付く。いつの間にか隣に少女がいた。
先日の公園のホットドッグの少女だ。
こんにちは、と少女が笑っている。
「明日だね、聖誕祭」
そうだね、と肯く。
そして私たちは取り留めの無い話をした。少女はこの町の事をあれこれと私に尋ねた。
「私、この町が好きになったわ。皆優しくて活気があって、凄く素敵」
それはよかった。私もこの町が大好きでね。
明日は素敵な歌声を披露してやってくれ、この町の皆も喜ぶ。
あ、と少女が小さく声をあげた。
そして半分笑って半分怒って口を尖らせた。
「気が付いてたんだ。先生人が悪い!」
誤解だ、気付いたのは数分前さ。
少女が壁を離れた。そして振り返る。
「明日は気持ちよく歌えそう!」
輝くような笑顔を見せて、彼女は手を振って去っていった。

「ちょっと目を離すとまたすぐ女の子と仲良くしてるし・・・」
背後からの声が背筋を氷の刃となって貫く。
恐る恐る振り返ると絶対零度の視線を放ってエリスが私を睨んでいた。
「こんな可愛い連れをほっといてねー。罰がいるよね罰が」
DDが笑った。ああ、あれはネズミを前にした猫の微笑みだ・・・・。
「不誠実なのはいけないと思います。私もこの場にいる者以外に対しては忍耐の許容範囲外とさせてもらいます、ウィリアム」
こういう場所で竜の気を放つのはやめてくださいルクシオンさん。
ただ1人状況について来れないシンラだけがおろおろしていた。
「ホラ行きましょう!おじさまのおごりでお昼ご飯!!」
「あ、それいいねー。エルゴのお店にしよう、あそこ今日レスリーヌビーフのステーキ出すって」
ギャアアアアアアアアアア私の財布に破滅の足音が!!!
私は処刑台に送られる死刑囚の心境で引きずられていった。

そして、翌日。
アンカーの町は、シードラゴン島は聖アリエル誕生記念祭の日を迎えた。

~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~