第7話 紅い記憶-2

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我々は3人でアンカーの町を出発した。 正直気が進まないどころじゃないもう遺書書いて行った方がいいレベル(色々な意味で)の旅であったが、町に留まっても事態が好転するとは思えなかった。 半日ほどで夢幻の峡谷へと着く。そこは一年中霧に覆われた峡谷だった。 この霧には蜃気楼を見せ、吸込めば方向感覚を微妙に狂わせる性質があり、シンクレアが初めて来たものが迷うと言ったのはそれ故である。何故初めてでなければ大丈夫なのかと言えば、どうも1度吸って数日が経てば体内に耐性ができるらしく、霧を吸ってもおかしな効果は現れなくなる。 最も1度目から大丈夫になる方法もあり、それは峡谷中ほどにある湧き水を飲む事であった。それで霧への耐性を得ることができる。 私の役目はまず初めての2人をその湧き水まで連れて行く事であった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。 道中、エリスの視線を感じる。彼女は周囲を警戒しつつ時折こちらの様子を伺っていた。 彼女は自分の素性を馬鹿正直に明かしてきた。当然私が彼女の事に気がついているのも承知の上だろう。 父親の意趣返しをするつもりだろうか。 そのつもりでも今は仕掛けては来ないだろう。自分だけ霧の影響を受けていて、尚且つカルタスもいるこの状況では。 「よぉーし! さあマンドラコリャドウスリャイインデショウネマッタク目指して前進ですよー!」 一人カルタスだけが元気だ。もうこっちは名前の間違いを突っ込む元気すらない。 「おおっとぉ!! 足元の地面がなぁーいっ!!! 鼻で見えなかったああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 カルタスが崖から落ちていった。 ぬお!あの馬鹿退場が早すぎるわ!!! しかも本当に完璧に退場しおって!!! 「どうします、サー・ウィリアム。彼を助けに行きますか」 エリスが尋ねて来る。私は首を横に振った。 どのくらいの崖なのか霧に覆われていて見当もつかない。救出に向かえば二重遭難となる危険が大きいし、何よりそんな時間のロスをしていれば騒ぎまくったゲンジが昇天してしまい本末転倒になりかねん。 我々は先を急ぐ事にした。程なくして湧き水のある開けた空間に出る。 私は彼女にそれが件の湧き水だと指し示した。 しかし、彼女は動かない。 「いいのですか、サー・ウィリアム。私がこの場でその水を口にする事の意味を貴方は理解しているはずですね」 ・・・・・・・・・・・・。 いつか・・・・こんな日が来ると思っていた。ここまで何人斬ってきたかなど多すぎて思い出しきれない。 自分の意志で斬った者はいないが、そんな事は言い訳にもならないだろう。 その報いが、自分に追いついて来る日が、いつかこんなふうに訪れるだろうとは思っていた。 私は彼女に湧き水を飲むように促した。その上で君の用件を聞こうと付け足して。 「潔いですね。それでは」 そう言って彼女は湧き水を飲んだ。 待つ事10分程、彼女は本来の感覚を取り戻したようだ。 腰に下げた細身の長剣をヒュンヒュンと振り回し、感触を確かめている。 「結構です。それでは貴方も構えて下さい。勝負しましょう。剣帝と呼ばれて我が父の腕を奪った貴方の剣の腕、是非この目で見てみたい」 彼女が長剣を構えた。わかっていた事ではあるが隙が無い。相当の腕前である。まあそうでなくては聖騎士に等なれるはずもないのだが。 「しばらく滞在しチャンスを伺うつもりでしたが、まさか滞在費を稼ぐ予定の最初の仕事でこの場を得られるとは幸運でした」 こっちはツイてない事この上ない。まあ遅いか早いかの違いだったろうが。 ここは・・・・もうしょうがないな。死なないように気をつけながら気の済むまで彼女にやられる事にしよう。父親の腕を吹っ飛ばした挙句にその娘を斬るとか流石にできん。勿論命を落とす可能性は高いだろうし、それでなくても腕や足の1本は覚悟せねばなるまい。 子供の頃は誰よりも強くなりたかった。それが夢だった。 しかし成長して強くなるに従って、「強い」と言う事が自分の思っていたのとはあまりにも違う環境しかもたらさない事に気がついた。 血と炎の紅。強くなる事で私が得たものといえば、その紅い記憶ばかりであった。 剣を捨て、国を捨てても、結局自分はその紅い記憶から逃れられはしないのか・・・・。 その時、唐突にその場に巨大な気配が出現した。 「・・・・・何ッ!? 化け物!!!」 エリスと2人でその小山の如き巨大な影を見上げる。 象に似たシルエット。全身を覆う不気味な紋様。 幻獣ゼフ。いくら警戒しようが無駄なのがこのゼフの特性。まるで幻の様にゼフはその場に忽然と現れるのだ。事前に一切の気配を漏らす事無く。 「おのれッッ!! 邪魔をするな!!!」 エリスが無数の斬撃を放った。いずれも早く鋭い必殺の斬撃を嵐のように。 ・・・・・無駄だ。ゼフには効かない。 全ての斬撃はゼフに触れる事なくその巨躯を空しく通り過ぎる。 「な・・・・!?」 エリスが呆然とする。無理も無い。霧の影響を受けていない彼女はもう幻を見ているわけではない。 これがゼフのもう一つの特性。「常識」という世界のルールに対する恐るべき反則技。 我々はゼフに触れる事はできず、ゼフは我々に触れる事ができるのだ。勿論一方的に無敵なだけの能力ではなく、ある弱点があるのだが・・・・・。 ゼフがその長い鼻(?)をエリスに向けて振り上げる。 彼女は呆然としていて一瞬反応が遅れた。 いかん!! 走りこんで彼女を突き飛ばす。 その私の背中を激しくゼフの鼻が打った [[第7話 1>第7話 紅い記憶-1]]← →[[第7話 3>第7話 紅い記憶-3]]
我々は3人でアンカーの町を出発した。 正直気が進まないどころじゃないもう遺書書いて行った方がいいレベル(色々な意味で)の旅であったが、町に留まっても事態が好転するとは思えなかった。 半日ほどで夢幻の峡谷へと着く。そこは一年中霧に覆われた峡谷だった。 この霧には蜃気楼を見せ、吸込めば方向感覚を微妙に狂わせる性質があり、シンクレアが初めて来たものが迷うと言ったのはそれ故である。何故初めてでなければ大丈夫なのかと言えば、どうも1度吸って数日が経てば体内に耐性ができるらしく、霧を吸ってもおかしな効果は現れなくなる。 最も1度目から大丈夫になる方法もあり、それは峡谷中ほどにある湧き水を飲む事であった。それで霧への耐性を得ることができる。 私の役目はまず初めての2人をその湧き水まで連れて行く事であった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。 道中、エリスの視線を感じる。彼女は周囲を警戒しつつ時折こちらの様子を伺っていた。 彼女は自分の素性を馬鹿正直に明かしてきた。当然私が彼女の事に気がついているのも承知の上だろう。 父親の意趣返しをするつもりだろうか。 そのつもりでも今は仕掛けては来ないだろう。自分だけ霧の影響を受けていて、尚且つカルタスもいるこの状況では。 「よぉーし! さあマンドラコリャドウスリャイインデショウネマッタク目指して前進ですよー!」 一人カルタスだけが元気だ。もうこっちは名前の間違いを突っ込む元気すらない。 「おおっとぉ!! 足元の地面がなぁーいっ!!! 鼻で見えなかったああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 カルタスが崖から落ちていった。 ぬお!あの馬鹿退場が早すぎるわ!!! しかも本当に完璧に退場しおって!!! 「どうします、サー・ウィリアム。彼を助けに行きますか」 エリスが尋ねて来る。私は首を横に振った。 どのくらいの崖なのか霧に覆われていて見当もつかない。救出に向かえば二重遭難となる危険が大きいし、何よりそんな時間のロスをしていれば騒ぎまくったゲンジが昇天してしまい本末転倒になりかねん。 我々は先を急ぐ事にした。程なくして湧き水のある開けた空間に出る。 私は彼女にそれが件の湧き水だと指し示した。 しかし、彼女は動かない。 「いいのですか、サー・ウィリアム。私がこの場でその水を口にする事の意味を貴方は理解しているはずですね」 ・・・・・・・・・・・・。 いつか・・・・こんな日が来ると思っていた。ここまで何人斬ってきたかなど多すぎて思い出しきれない。 自分の意志で斬った者はいないが、そんな事は言い訳にもならないだろう。 その報いが、自分に追いついて来る日が、いつかこんなふうに訪れるだろうとは思っていた。 私は彼女に湧き水を飲むように促した。その上で君の用件を聞こうと付け足して。 「潔いですね。それでは」 そう言って彼女は湧き水を飲んだ。 待つ事10分程、彼女は本来の感覚を取り戻したようだ。 腰に下げた細身の長剣をヒュンヒュンと振り回し、感触を確かめている。 「結構です。それでは貴方も構えて下さい。勝負しましょう。剣帝と呼ばれて我が父の腕を奪った貴方の剣の腕、是非この目で見てみたい」 彼女が長剣を構えた。わかっていた事ではあるが隙が無い。相当の腕前である。まあそうでなくては聖騎士に等なれるはずもないのだが。 「しばらく滞在しチャンスを伺うつもりでしたが、まさか滞在費を稼ぐ予定の最初の仕事でこの場を得られるとは幸運でした」 こっちはツイてない事この上ない。まあ遅いか早いかの違いだったろうが。 ここは・・・・もうしょうがないな。死なないように気をつけながら気の済むまで彼女にやられる事にしよう。父親の腕を吹っ飛ばした挙句にその娘を斬るとか流石にできん。勿論命を落とす可能性は高いだろうし、それでなくても腕や足の1本は覚悟せねばなるまい。 子供の頃は誰よりも強くなりたかった。それが夢だった。 しかし成長して強くなるに従って、「強い」と言う事が自分の思っていたのとはあまりにも違う環境しかもたらさない事に気がついた。 血と炎の紅。強くなる事で私が得たものといえば、その紅い記憶ばかりであった。 剣を捨て、国を捨てても、結局自分はその紅い記憶から逃れられはしないのか・・・・。 その時、唐突にその場に巨大な気配が出現した。 「・・・・・何ッ!? 化け物!!!」 エリスと2人でその小山の如き巨大な影を見上げる。 象に似たシルエット。全身を覆う不気味な紋様。 &blankimg(第7話2-1.jpg,width=180,height=209) 幻獣ゼフ。いくら警戒しようが無駄なのがこのゼフの特性。まるで幻の様にゼフはその場に忽然と現れるのだ。事前に一切の気配を漏らす事無く。 「おのれッッ!! 邪魔をするな!!!」 エリスが無数の斬撃を放った。いずれも早く鋭い必殺の斬撃を嵐のように。 ・・・・・無駄だ。ゼフには効かない。 全ての斬撃はゼフに触れる事なくその巨躯を空しく通り過ぎる。 「な・・・・!?」 エリスが呆然とする。無理も無い。霧の影響を受けていない彼女はもう幻を見ているわけではない。 これがゼフのもう一つの特性。「常識」という世界のルールに対する恐るべき反則技。 我々はゼフに触れる事はできず、ゼフは我々に触れる事ができるのだ。勿論一方的に無敵なだけの能力ではなく、ある弱点があるのだが・・・・・。 ゼフがその長い鼻(?)をエリスに向けて振り上げる。 彼女は呆然としていて一瞬反応が遅れた。 いかん!! 走りこんで彼女を突き飛ばす。 その私の背中を激しくゼフの鼻が打った [[第7話 1>第7話 紅い記憶-1]]← →[[第7話 3>第7話 紅い記憶-3]]

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