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「第19話 花は心のオアシス-5」(2010/08/17 (火) 20:17:42) の最新版変更点
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数手の攻防。
一瞬気を抜けば斬られるという緊張と恐怖の狭間で私は剣を振るう。
六角という男は恐ろしい使い手だった。
もしも私が浮遊大陸へと行ってそこで不可思議なパワーアップを遂げていなかったら・・・そして今手にしているのがこのルドラの剣でなかったとしたら・・・。
恐らく今頃もう私は物言わぬ冷たい骸となっていた事だろう。
奴の攻撃の針のような隙をついて反撃を入れる。
だがその必殺の一撃も奴は巧みに受け流す。
互いに攻撃の手を止め、私たちはやや距離をとって対峙した。
「どこのどなたかは存じませんがね・・・」
構えを崩さず六角が口を開く。
「随分またおっかねえ用心棒の兄さんが出てきたもんだ。・・・失礼ですがね兄さん、あっちの2人たぁどういったご関係で?」
言われて一瞬考え込む。
しかしどう考えようが結論は変わらない。
昨日彼女の店に行った客だと答える。
「・・・そんだけですか。ほとんど通りすがりみたいなモンだなァ」
実際その通りだ。
私もまさか伊東が食われた時にその縁でこんな恐ろしい相手と対峙する事になるとは思わなかった。
「ほとんど通りすがりみたいなモンの割には・・・絶対退けねぇって目が言ってますなぁ」
そうだな・・・。
今更後には退けんな。
それきり、会話は止まった。
静かに只、互いの間に殺気だけが満ちていく。
仕掛けたのは私が先だった。
無拍子からの予備動作0の斬撃。
「・・・・・・・!!!!!!!」
ガキィン!!!! と金属音。
半分抜いた刀で奴が私の一撃を受けた音だ。
・・・今のを・・・受けるのか!!!!!
「・・・くおォォッッ!!!!」
六角が初めて咆えた。同時に体勢が低く沈む。
一刀入れてくるつもりだ・・・・! 剣の戻しは間に合うまい!
最悪片腕はくれてやる・・・。
・・・ただし、お前の眼と引き換えだ・・・!!!
貫指(カンシ)・・・フリーにしてあった左の手刀が奴の顔面を狙った。
そして私と六角が交差する。
・・・・・っ!!
斬られた左の二の腕から血が噴いた。
咄嗟に動かして確認する。
よし・・・筋は傷付けられていない・・・!
カチャン! と六角のサングラスが落ちて砕けた。
私の貫指は奴のこめかみを僅かに掠めて肉を削り取っていた。
「・・・ふィーっ。肝が冷えますなぁ」
呟いた六角のこめかみから一筋血が伝った。
「・・・このバケモンがぁ・・・!!」
六角の部下達が次々に刃物を抜く。
その憎悪に燃える視線の先にはシイタケマンがいる。
動じることなくシイタケマンはすっと右手を前方に差し出すとちょいちょいと人差し指を招くように振った。
そして腰からヌンチャクを抜き放ち、
「ホアチャァァァァァァ!!!!!!」
甲高い掛け声と共に高速で振り回した。
・・・ぬう、凄いヌンチャク捌きだ。
ゴス!!!!!!!
と、思ったらシイタケマン、ヌンチャクで自分の後頭部を激しく打った。
「・・・・・・・・・・一生の不覚ッッ!!!」
バタリ、とシイタケマン倒れて動かなくなった。
「今だッ!! やっちまえ!!!!」
倒れたシイタケマンに六角の部下が殺到する。
・・・まずい・・・!!!
そこへ・・・。
「いい加減にしなさいよ、あんた達・・・!!!」
静かに両者の間に滑り込んだ桜貴が静かに先頭を走っていた男の横腹に掌底を当てた。
特に勢い良く手を出したようには見えなかったが、それでも男は大きく空中を飛んで遥か向こうの床へ落ちた。
そして白目をむいてビクビクと痙攣している。
「・・・当身『極光』」
呟いて桜貴が残りの男達の方を向く。
「もう我慢できないわ。ちょっと痛い目を見てもらうからね!!」
怒声を上げ、桜貴が男達へと襲い掛かる。
そして卓越した体術で男達を次々とのしていく。
私の見立てでは、六角の部下達は決して弱くない。
それどころかかなりの腕前だと思う。
しかし桜貴はその男達を赤子の手を捻るように駆逐していく。
瞬く間に六角の部下は残り1人になった。
「・・・・う・・ううっ・・・・・」
最後の男が震えながら後ろに下がる。
その手には先程銀城が投げた刀剣があった。
「く、くそっ!! 来るな!! 来るんじゃねえ!!!」
そして男は鞘と柄を繋いでいた御札を破り取り、刀剣を抜き放った。
『・・・・・・・・・・・!!!!!』
その場にいる全員が息を飲む。
すると、突然抜剣した男がブルブルと震えだした。
「・・・お・・・・ぁ・・・・・」
その顔面を滝の汗が伝っている。
・・・何だ・・・何が起ころうとしているんだ・・・?
「・・・おおおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!」
男は天を仰いで咆哮すると突然着ている衣服を脱ぎ捨て始めた。
・・・・・・え?
・・・・・・・・・・ちょっ・・・・・・・。
瞬く間に全裸になる男。
「ちょっとちょっと!!!」
動揺した桜貴が慌てて目を逸らしている。
「こりゃぁ・・・・」
その様子を見ていた六角が苦い表情を浮かべていた。
「違うじゃねぇか・・・バッタもんだ。『草薙之剣』じゃねえ・・・。『草なぎの剣』か・・・」
そして殺気を消して構えを解く。
「チッ、ここまでにしましょうや兄さん。モノがダメだとなった以上お宅らとこれ以上殺り合う理由がありませんや」
苦笑してそう言う六角。
「自分は黒麒会の六角・・・六角崇久ってモンですわ。兄さんの名前を聞いておきやしょうかね」
・・・私の名はウィリアム・バーンハルトだ。
私が名乗ると六角はやや驚いた様に眉を吊り上げた。
「・・・成る程ねェ。道理で・・・」
そう言って私を見てニヤリと笑う。
その六角の背後で、全裸男が「しんごー! しんごー!」と意味のわからない絶叫を上げ続けていた。
「深夜に大事だったわね」
翌日、昼食の後で(私にとっては朝食だったが)話を聞いたベルは私にそう言った。
結局あの後銀城と付き添いの桜貴を病院に放り込んで戻ってきたのは明け方近くになってしまったので、それから私は昼近くまで寝ていたのだ。
「それで、本当のその剣は?」
ベルの問いに私は首を横に振る。
わからない。・・・少なくともこの島にはないだろうな。
桜貴が大和から持ってきた品々の中で、それらしい刀剣はあれ1本だけだったらしい。他の物は出自がしっかりしている。
つまり、最初から桜貴は『草薙之剣』を持ってはいなかったのだ。
彼女が自宅の敷地内にあるという神宮の本殿から持ち出したという件の剣・・・。
その御神体が怪しげな全裸剣にすり替わっていた事は果たして彼女の父君は知っていたのか知らないのか・・・。
遠く南西の地にいる我々にはそれを窺い知ることは出来ないが・・・。
ふと、私がそう遠く東の大和の地に思いを馳せたその時、オフィスのベルが鳴る。
エリスが案内してきたのはエンリケだった。
「先日は慌しかったので改めて新築祝いを持ってきました」
そう言うエンリケの手には包みがあった。
・・・・と・・・・。
バクン!!!!!!!!
あああああああああああああああ花輪(どこも輪じゃないが)がエンリケ食った!!!!!!!
何で撤去したはずの花輪がオフィスの観葉食人植物と化してんの!!!!!!!
「・・・ああ、ダメよパッ君。それはエサじゃないわ。吐き出しなさい」
ベルがストローでソーダをすすりながらのんびり言う。
・・・ていうか名前が付いてらっしゃる!!
窓から差し込む麗らかな午後の日を受けて、パッ君からはみ出しているエンリケの下半身はいつまでもバタ足を繰り返していたのだった。
~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~
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数手の攻防。
一瞬気を抜けば斬られるという緊張と恐怖の狭間で私は剣を振るう。
六角という男は恐ろしい使い手だった。
もしも私が浮遊大陸へと行ってそこで不可思議なパワーアップを遂げていなかったら・・・そして今手にしているのがこのルドラの剣でなかったとしたら・・・。
恐らく今頃もう私は物言わぬ冷たい骸となっていた事だろう。
奴の攻撃の針のような隙をついて反撃を入れる。
だがその必殺の一撃も奴は巧みに受け流す。
互いに攻撃の手を止め、私たちはやや距離をとって対峙した。
「どこのどなたかは存じませんがね・・・」
構えを崩さず六角が口を開く。
「随分またおっかねえ用心棒の兄さんが出てきたもんだ。・・・失礼ですがね兄さん、あっちの2人たぁどういったご関係で?」
言われて一瞬考え込む。
しかしどう考えようが結論は変わらない。
昨日彼女の店に行った客だと答える。
「・・・そんだけですか。ほとんど通りすがりみたいなモンだなァ」
実際その通りだ。
私もまさか伊東が食われた時にその縁でこんな恐ろしい相手と対峙する事になるとは思わなかった。
「ほとんど通りすがりみたいなモンの割には・・・絶対退けねぇって目が言ってますなぁ」
そうだな・・・。
今更後には退けんな。
それきり、会話は止まった。
静かに只、互いの間に殺気だけが満ちていく。
仕掛けたのは私が先だった。
無拍子からの予備動作0の斬撃。
「・・・・・・・!!!!!!!」
ガキィン!!!! と金属音。
半分抜いた刀で奴が私の一撃を受けた音だ。
・・・今のを・・・受けるのか!!!!!
「・・・くおォォッッ!!!!」
六角が初めて咆えた。同時に体勢が低く沈む。
一刀入れてくるつもりだ・・・・! 剣の戻しは間に合うまい!
最悪片腕はくれてやる・・・。
・・・ただし、お前の眼と引き換えだ・・・!!!
貫指(カンシ)・・・フリーにしてあった左の手刀が奴の顔面を狙った。
そして私と六角が交差する。
・・・・・っ!!
斬られた左の二の腕から血が噴いた。
咄嗟に動かして確認する。
よし・・・筋は傷付けられていない・・・!
カチャン! と六角のサングラスが落ちて砕けた。
私の貫指は奴のこめかみを僅かに掠めて肉を削り取っていた。
「・・・ふィーっ。肝が冷えますなぁ」
呟いた六角のこめかみから一筋血が伝った。
「・・・このバケモンがぁ・・・!!」
六角の部下達が次々に刃物を抜く。
その憎悪に燃える視線の先にはシイタケマンがいる。
動じることなくシイタケマンはすっと右手を前方に差し出すとちょいちょいと人差し指を招くように振った。
そして腰からヌンチャクを抜き放ち、
「ホアチャァァァァァァ!!!!!!」
甲高い掛け声と共に高速で振り回した。
・・・ぬう、凄いヌンチャク捌きだ。
ゴス!!!!!!!
と、思ったらシイタケマン、ヌンチャクで自分の後頭部を激しく打った。
「・・・・・・・・・・一生の不覚ッッ!!!」
バタリ、とシイタケマン倒れて動かなくなった。
「今だッ!! やっちまえ!!!!」
倒れたシイタケマンに六角の部下が殺到する。
・・・まずい・・・!!!
そこへ・・・。
「いい加減にしなさいよ、あんた達・・・!!!」
静かに両者の間に滑り込んだ桜貴が静かに先頭を走っていた男の横腹に掌底を当てた。
特に勢い良く手を出したようには見えなかったが、それでも男は大きく空中を飛んで遥か向こうの床へ落ちた。
そして白目をむいてビクビクと痙攣している。
「・・・当身『極光』」
呟いて桜貴が残りの男達の方を向く。
「もう我慢できないわ。ちょっと痛い目を見てもらうからね!!」
怒声を上げ、桜貴が男達へと襲い掛かる。
そして卓越した体術で男達を次々とのしていく。
私の見立てでは、六角の部下達は決して弱くない。
それどころかかなりの腕前だと思う。
しかし桜貴はその男達を赤子の手を捻るように駆逐していく。
瞬く間に六角の部下は残り1人になった。
「・・・・う・・ううっ・・・・・」
最後の男が震えながら後ろに下がる。
その手には先程銀城が投げた刀剣があった。
「く、くそっ!! 来るな!! 来るんじゃねえ!!!」
そして男は鞘と柄を繋いでいた御札を破り取り、刀剣を抜き放った。
『・・・・・・・・・・・!!!!!』
その場にいる全員が息を飲む。
すると、突然抜剣した男がブルブルと震えだした。
「・・・お・・・・ぁ・・・・・」
その顔面を滝の汗が伝っている。
・・・何だ・・・何が起ころうとしているんだ・・・?
「・・・おおおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!」
男は天を仰いで咆哮すると突然着ている衣服を脱ぎ捨て始めた。
・・・・・・え?
・・・・・・・・・・ちょっ・・・・・・・。
瞬く間に全裸になる男。
「ちょっとちょっと!!!」
動揺した桜貴が慌てて目を逸らしている。
「こりゃぁ・・・・」
その様子を見ていた六角が苦い表情を浮かべていた。
「違うじゃねぇか・・・バッタもんだ。『草薙之剣』じゃねえ・・・。『草なぎの剣』か・・・」
そして殺気を消して構えを解く。
「チッ、ここまでにしましょうや兄さん。モノがダメだとなった以上お宅らとこれ以上殺り合う理由がありませんや」
苦笑してそう言う六角。
「自分は黒麒会の六角・・・六角崇久ってモンですわ。兄さんの名前を聞いておきやしょうかね」
・・・私の名はウィリアム・バーンハルトだ。
私が名乗ると六角はやや驚いた様に眉を吊り上げた。
「・・・成る程ねェ。道理で・・・」
そう言って私を見てニヤリと笑う。
その六角の背後で、全裸男が「しんごー! しんごー!」と意味のわからない絶叫を上げ続けていた。
「深夜に大事だったわね」
翌日、昼食の後で(私にとっては朝食だったが)話を聞いたベルは私にそう言った。
結局あの後銀城と付き添いの桜貴を病院に放り込んで戻ってきたのは明け方近くになってしまったので、それから私は昼近くまで寝ていたのだ。
「それで、本当のその剣は?」
ベルの問いに私は首を横に振る。
わからない。・・・少なくともこの島にはないだろうな。
桜貴が大和から持ってきた品々の中で、それらしい刀剣はあれ1本だけだったらしい。他の物は出自がしっかりしている。
つまり、最初から桜貴は『草薙之剣』を持ってはいなかったのだ。
彼女が自宅の敷地内にあるという神宮の本殿から持ち出したという件の剣・・・。
その御神体が怪しげな全裸剣にすり替わっていた事は果たして彼女の父君は知っていたのか知らないのか・・・。
遠く南西の地にいる我々にはそれを窺い知ることは出来ないが・・・。
ふと、私がそう遠く東の大和の地に思いを馳せたその時、オフィスのベルが鳴る。
エリスが案内してきたのはエンリケだった。
「先日は慌しかったので改めて新築祝いを持ってきました」
そう言うエンリケの手には包みがあった。
・・・・と・・・・。
バクン!!!!!!!!
あああああああああああああああ花輪(どこも輪じゃないが)がエンリケ食った!!!!!!!
何で撤去したはずの花輪がオフィスの観葉食人植物と化してんの!!!!!!!
「・・・ああ、ダメよパッ君。それはエサじゃないわ。吐き出しなさい」
ベルがストローでソーダをすすりながらのんびり言う。
・・・ていうか名前が付いてらっしゃる!!
窓から差し込む麗らかな午後の日を受けて、パッ君からはみ出しているエンリケの下半身はいつまでもバタ足を繰り返していたのだった。
~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~
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