■オリンポス遺跡・大規模探索
 WEAに報告された一つの報告。それは強力なNWを封じている遺跡の存在と、そのありかを示す暗号文であった。
 この匿名の報告を懐疑的に見ていたWEAだが、ダークサイドと呼ばれる獣人たちが調査を開始したという動きを確認した為、WEAはダークサイドよりも先に暗号を解読し、遺跡を捜索することを決定、探索を開始した。

   微笑みかける、誰とはわからぬ愛しき彼女。黒き女の
   右目を踵で踏めば、つま先は左目に届き、彼女の顔を
   覆うだろう。彼女は左の腕には威光を奪われた古き針
   を握り締め、苦痛に耐えて横たわる。その時女の耳に
   は夜よりの誘いが、神々の声として聞こえるだろう。

 上記文を解読した結果、遺跡の場所はギリシャ、オリンポス山であることが判明。
 WEAは一時遺跡を封鎖していたが、さらに内部を調査する為、獣人に広く内部探索を依頼することに決定した。

 ※以降の調査は、ヨーロッパ遺跡探検を経て『EtR』依頼群へ続く‥‥。

  • ユートピア
 歌声を獣人の力に変換するオーパーツ『ユートピア』。
 出所は不在であり、正体不明の差出人からWEAに届けられた。
 ユートピアは形状は大きな蓄音機のようであり、歌声を吹き込まれることによって、同じ種類の歌声を広範囲に響かせて効果を発動するオーパーツのようである。

■浚われた子供
 それは深夜の出来事。
 テレビ局からの帰り道、ばさばさと羽根撃つ音と舞い降りる影に気づく。

 近くの街路樹を揺らして降りてきたのは、翼をもつ異形のモノども。
 大型の猛禽類の羽根はそのままに、『変貌』を遂げた胴からは長い節足が伸びている。
 そして、その足は小さな人影を掴み--。

 ばさりと、羽根を打つ音がまた響く。

 凍りついた『目撃者』を尻目に、ソレらは夜の空へと再び舞い上がっていったという。

 ××××

『オリンポス遺跡』の監視所に、緊張の声が響く。
 飛来したNWの群れが、緊迫した監視所を越えて、そのまま遺跡の方向へと飛んでいく姿が確認されたのだ。その昆虫のような節足に、何かを抱えるようにして。
 数は4体。形状から、どれも大型の鳥に感染した類だと思われる。次々と上がる目撃報告。
 そして。
 NWの飛来より数時間前に、同じNWを目撃したらしいという情報があった。
 場所はイタリアのターラント。オリンポス山からは海を越えて400kmも西に位置している。
 遺跡入り口に現れたNW達は、おそらく遺跡内部へ‥‥。監視所は、早急にNW討伐及び子供の救出を付近の獣人達に呼びかけるのだった。

 その後。
 救出された子供二名については、意識が回復しないものの命に別状がない事が確認された(⇒12月中旬時点:それぞれ親元へ戻り、事件後のカウンセリングを続けている)。高速飛行による外傷や、心身にかかった負担によるショックもあるだろうが、時間をかければ癒していけるものだろう。
 そして獲物を失い、足を失ったNWは、再び遺跡からどこかへ飛び立った事を、監視所が捉えていた。
 一ヶ月前の調査で持ち帰った記録の一部から抜け出した情報体は、未だ欧州各地に潜伏していると推測されている--。
                                               <EtR:回帰するモノ より>

■感染遭難者
 風が強いある日の午後、一人の女性が発見される。
 登山道から外れた岩場に倒れていたのを、遺跡の監視所に出入りしているWEA係員が発見したという。
 服装からすると、一般の登山客と判断するのが相応。
 だが発見された場所は、件の遺跡からそう遠くない場所である事が、問題となった。加えて記憶に混濁がみられ、自分の名前すらはっきりと思い出せない状態だという。
 他、簡単な日常の所作に問題も、身体的な外傷も全くなく。身体能力はスポーツ趣味とする一般的な人間女性と同等であると目され、食事や睡眠なども普通に摂取する。
 一般的な受け答えは可能だが、会話を積極的には行わず、質問なども最低限以上の----例えば個人的な情報や専門的な質問、政治や宗教など複雑な質問になると、沈黙するか、曖昧な答えになるという。
 (※口元に微かな笑みを作るが、瞳には感情が浮かんでおらず。茫然自失という状態でも、混乱しているようでもなく)

 先に飛来したNWの例もあり、また、先の調査の際に流出した情報体が潜伏している、もしくは新たに遺跡から現れたNWに感染している可能性があり。
 内内に遭難者の身元を確認する為の調査を行う事となったものの、身元判明までに数日程の時間がかかると思われる。
 そこで、その間の監視と万が一の事態に備え、依頼を出すのだった――。


 §対処§
 『迷い犬』という名目で老犬を女性と同じ部屋に置き、(犬獣人の監視員協力のもと)彼女が今日で開放される事を告げずに「犬が先に山を降りる」という情報だけを伝えた。
 その後、老犬が遺跡へ向かった事から、女性に感染していたNWは、室内に置かれた雑誌を媒体とし、老犬に移ったと判明。そして老犬は‥‥。
 犠牲となった老犬を弔うべく、小さく積まれた石の墓が作られたのだった‥‥。

 気がついた女性曰く――1人で山を登っていると、何かに足を取られ滑落‥‥その後の事はよく覚えていない――との事である。

                                               <EtR:感染遭難者 より>

■監視所を襲った惨劇
 それは前触れもなく始まって、突然に終わった。
 第四階層探索より数日後。
 深夜、急襲を受けたオリンポス遺跡の監視所は、いたる所に血痕と錆びた鉄のような匂いが立ち込め、動くものはなかった。
 惨劇を間逃れた者は、数えるほどしかおらず。
 空に逃れ、地を疾駆し、あるいは闇に隠れて幸運にも命を繋いだ者達によって、その惨劇が知らされたのだった。
 同時期に山に入っていた登山客や、山岳運搬の業者が集団で消息を断ち、彼らや荷を積むラバなどが感染したと考えられた。
 報告された限りでは、NWが集団出現したのみで統率力のある個体は報告されず。ネットワークを通じての感染拡大を防ぐため、監視所の係員は発電機を落としたという。
 知らせを受けたWEAは、すぐさま監視所の機能復旧のための人員を募り、現地へ送り込んだ。

                                              <EtR:閉じた扉 OPより>

■事後
  • 復旧作業/4月末頃(掃討作戦前)
 監視機能の復旧(破損した機器を取り替え、惨状の痕跡を生々しく残した壁や床を洗い流し、塗装を塗り直し、凹んだ壁や割れた窓は必要があれば取り替える)を第一に行われていた作業は、資料保管や居住施設といった細々とした箇所にまで、順調に進んでいた。第四階層への扉がまだ閉鎖されている事と、襲撃以降の活発なNWの活動が見られなかった事が大きいと言えるだろう。
 また、『被害』に遭った者達と残された家族のために行われるべき追悼・慰霊の催事だが、場所が場所であり状況が状況な為、見送りになっているという現状。そこで、WEA内でも検討が進められた結果、現場となった監視所ではなくギリシャ支部にて慰霊祭を行う事が決まった。
 ただ、当然のことながらそこに遺体はなく、監視所に残されていた私物--遺品の確認と引渡しが、予定されている。

  • 小さな探索者
 監視機能の復旧作業が行なわれる中、一人の子供の姿がモニターに確認された。
 大きなリュックを背負った10代前半ほどの少年で、水筒や丸めた保温シートなど準備万端な荷物に、ボーイスカウトにでも所属しているのかアースカラーの動きやすい服装に帽子を被っていた。山を登ってきたであろう足取りには疲れを見せず、岩の柱や石積み壁の間を歩いていたのである。

 少年は遺跡内にて探索者達の手により無事保護される。彼は犬獣人であった。
 そも遺跡に入り込んだ目的とは?
 急襲以前に監視所につとめていた父親の生存を信じ、自らの『知友心話』を頼みに探しにきたというのだ。監視所に寄って大人達の助けを借りようともせず、単身で乗り込んだのは『父親を死んだ事にする大人達』への怒りに起因していると思われる。
 監視所に犬獣人の係員はいたが、それが彼の父親かどうか今では知る術はなく‥‥。

 その後、遺跡で少年が父親の意識を見つけ出す事はなかった。

                                             <EtR:Small Avenger より>
最終更新:2007年06月26日 19:37