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mission 22 「Premonition」


 ヨルムンガンドを撃退出来たのは良いものの、あれから隊内でも疎外具合は増すばかりだ。
 ……やはり、完全に悪魔以外の何者でもないディアボロスの外見が拙かったのだろうか。
「それでも、私は貴方達に感謝している」
 そういうのは、部隊再編の最中ラグナロクに寄ったオルレアンだ。
「あの男が虚無だということを知らなければ、例え艦隊を首尾良く押さえられていても、私はそれを無駄にしていたかも知れない。情報提供だけでも価値があった」
 現在、マストを整備し直し行動可能になった両用艦隊は、ガリア王都リュティスを遠巻きに補給線封鎖に当たっている。まともに艦隊での砲撃戦を行えば、ゲルマニア艦隊がトリステインで犯した愚を再現していたかも知れなかった。
「そして、未だ底の知れないの虚無の能力に対して、貴方達は最後の切り札になる」
 オルレアン派の貴族達にとっては、得体の知れない傭兵部隊が度々手柄をかっさらっていくのを快く思っておらず、前線に立つ機会が薄れているのを内心喜んでいる者も多いが、オルレアン自身にとっては、逆なのだ。
 切り札たるスコール達を温存し、必要なときに状況を見極めて投入することこそが重要だと見ている。
「歩兵部隊で、騎士達で討ち取れればそれで良い。けれど……」
「当然、そうは考えていない、と」
「そして、貴方達の出番。その時は、私も一緒に行く。直接手が下せなくとも、最後は、見届ける」
 オルレアンの言葉に、スコールとアニエスは頷き返した。
「ところで殿下」
 応接室となっているキャビンの端で、ジョーカーが挙手をしつつ尋ねかけた。
「ゲルマニアのキュルケさんはどうしたんです?この間から姿が見えませんけど」
 ゲルマニア、と聞こえた辺りでピク、とアニエスの眉が震えた気がしたが、スコールは知らんぷりを決め込んだ。
「……両親のところに行った」
「そりゃまた何で。トリステインに亡命している家族の元にも帰らないで、貴女の手伝いをするって言ってたのに」
「私が、今のゲルマニアと同盟を結んだから」
 流石に、これには三人とも驚きで目を見開いた。
「何だと……?馬鹿な。奴らがルナティック・パンドラを手に入れたのは……」
「そう。かの簒奪王からだ」
 アニエスの言葉を、カステルモールが忌々しげに引き継いだ。
「だというのに、奴らめいけしゃあしゃあとこちらと同盟を結びたいなどと……ッ!」
「だが、それを受けたんでしょう」
「あのオットーという男は、ガリア王の行動が予測できないと言っていた。故に危険な芽を摘んでおきたいと」
(去り際オットーが他に行くところがあると言っていたのはオルレアン派の事か。節操が無いとも思えるが……)
 想像以上に鵺的な男らしい。
(それに、ガリア王の行動が予測できないから討ちたいというのは、逆にオルレアンならばまだ政敵として扱いやすいからということの裏返しだ。気づいてない訳でもないんだろうが)
 だがそれも、オルレアンとしてはどうでも良いのだ。彼女はただ、父の敵を討ちたいだけなのだから。
「こちらに向かうのは私たちの方が遅かったが、呼ばれたのは私たちの方が先だったようだな」
 何しろここに招くときまでは赤毛の彼女は居たはずだ。
「それで今日、ゲルマニアからの援軍が来るはずなのだが……奴らめ、約束の時間を過ぎても連絡の一つも寄越さない!所詮は反乱者共だ、礼のなんたるかも弁えずよく一国を支配しておける!」
 手を結んだことを内心受け入れていないのだろう、カステルモールが激しく罵倒する。
(しかし、援軍だと?オットー自身、軍事的な余裕はそうないと言っていたはずだが……)


 予定よりも6時間近く遅れて現れたのは一隻の揚陸艇だった。
 遠巻きにそれを眺めていたスコールは、そこから飛び出した巨体に目を疑った。いや、目を疑ったのはその場にいる人間全員だったのだが、それがスコールには見覚えのある代物だったのだ。
「エ、X-ATM092!?」
「えっくすえーてぃー……何だと?」
「X-ATM092ブラックウィドウ。ガルバディア軍の自立思考型多脚戦車だ!」
「ほら、こいつ」
 すっと脇からジョーカーが、成る程目の前にいる鋼の化け物蜘蛛が描かれたカードを差し出す。
「俺たちの世界で、軍事大国と呼ばれてる国が造ったロボット……まぁ、ガーゴイルだよ」
 駆けだしたスコールの代わりに説明するジョーカーの言葉を聞きながら、アニエスはスコールの背中を目で追っていた。
「おや、ヘル・レオンハート。早い再会でしたね」
 スコールは揚陸艇の近くで、見知った姿を見かけてそちらに近づく。
「オットー、こいつは一体……」
「あなたも戦ったことがあるそうですね。生きているということは倒せなかったということだと、ビッグスさんが悔しがってましたよ」
 言われて気づいたが、成る程、X-ATM092の側には見覚えのある顔が二つ……いや三つほどあった。
「ビッグス、ウェッジ……オダイン博士まで来たのか……」
「ガリア王ジョゼフと戦うのでしょう?虚無の魔法を身近で見られるチャンスだと張り切ってます。……ああ、これは公女殿下、お待たせして申し訳ありません。こいつの搬入に手間取りまして」
 近づいてくるオルレアンに気づいて、オットーは自分からも側に近づきつつ恭しく頭を下げる。
「これが……あなたの言う援軍?」
「ええ。一万の兵よりも役に立ちますよ」
 そうでしょう、ヘル・レオンハート。と唐突に話を振られる。
「ああ……こいつには手を焼かされた」
「彼の強さについては、私が言わずともご理解しているでしょう。その彼をして手を焼く大蜘蛛です」
 今ならば結構楽に倒せるだろう事は、まぁ言う必要は無いだろう。
「お役に立てるものと確信しておりますよ」


 オルレアンとの会見を終えたオットーは何故かそのままスコールやアニエス達と共にラグナロクにまでついてきた。といっても、この男を艇内に入れるのは危険な気がしたので、ラグナロクの下で応対だ。
「ひとまずはこれをお渡ししておきますよ、ヘル・レオンハート」
 そういって、持ってきた鞄からオットーが取り出したのは、ガルバディア軍制式採用型マシンガン。
 ラグナ・レウァールが若い頃使っていた得物の同型として、彼に『接続』していたスコールにも馴染み深い武器だ。
 そしてそれが、何故か目の前にあった。
「こんなものまであるのか」
「ビッグスさん達に修理してもらったんですが、部品の状態が悪いとかで、三丁の銃から一つしか完全なものは出来なかったのです。せめて五丁ぐらいあれば我々で運用しようかとも思ったんですが、一丁だけで弾の補充も効かないとあっては、持つだけ損です。
 あなたが有効に活用してください」
「良いのか。俺たちは、今でこそオルレアン公を挟んであんたとも共闘関係だが、傭兵である以上、この銃口があんたを向くこともあり得る」
「いえいえ、このラグナロクを有するあなたが、今更この銃を持っているか居ないかで戦力的に大きな隔たりがあるとも思えませんからね。でしたら、ここで何かしら恩を売っておく方が得というものです」
 現在のスコールを敵に回した時点で、戦術的勝利は難しい。最も、戦略・政治面で出し抜けば最終的な勝利を得ることは十分に可能だが。
「ですが、ガリア王は違います。詳細不明の『虚無』の系統。ドクトル・オダインの見解に依れば、貴方でも勝ちは難しいとか」
(そんなことを言っているのか……)
 オダインの話は初耳だが、間違いなく事実だろう。何しろ相手はG.F.も擬似魔法マニュアルも無しに、艦隊を消し飛ばしてみせる『虚無』だ。
「だが、攻略法が無い訳じゃない」
 虚無の詠唱スピード、そこをついての速攻こそが重要だろう。
「ええ、その攻略のための、選択肢の一つとなり得たのなら幸いです」
 しかし、と受け取ったマシンガンを着陸脚に立てかけながら思う。
 X-ATM092も、このマシンガンも、ついでに他のいくつかのスコール達の世界の武器に使える機械全てが、ルナティック・パンドラごとゲルマニアの新政府に渡され、それが今渡した本人であるガリア王ジョゼフを攻める手立てにされようとしている。
 あまりにも不自然な状況ではないだろうか。
(それが予想できなかった、とでも言うのか?)
「いえ、そんなはずは無いでしょう」
 明確な答えが返ってくると思っていなかったが、オットーははっきりと否定して見せた。
「私がガリア王にあったのは一度きりですが、とんでもない才覚の持ち主であることははっきりと解りました。私ごときとは比べものにならないほどの。
 その彼が、まさかこうなることを考えもしなかったとは思えませんね」
「じゃあ何故だ。何でお前達に援助をする?」
 訳が解らない、という顔で尋ねるアニエスに答えたのは、これまたはっきりとしたものだった。
「解りません」
「わ……解りませんでは無いだろう!訝しんだりしないのか!?不安だろう!」
「ええ、不安ですよ。だからこそ、今の内に討っておきたいのですよ」
 そこでオットーの顔から、いつもの余裕のある表情が消えていた。
「自国が攻撃される可能性を認識していながら、平気でこちらに武器を渡す。しかも、それらには未だに問題らしい問題点も見つからずに我々の役に立っている……あの男は得体が知れません。
 それが虚無だからなのか、別の理由があるのかは解りませんが、隣国のトップとして、あんな男に居座られていては行動の先読みが全く出来なくて困ります。……また、純粋な政治力としても驚異ですから」
 民政ゲルマニアトップ、オットー・ビスマルク。
 教えられただけで目にしたことはない民衆による政治を目指す野心溢れる青年であったが、この戦いの5年後、クーデターにより暗殺。彼の夢見た民主化は、度々訪れる非メイジの立つ帝政によって阻まれ、遅れに遅れて500年後にようやく形となるのに至った。


 包囲された王都リュティス。
 既に王都内の非戦闘員の退去は終わっている。そして今、第一次攻撃が開始される。
「全軍、突撃ぃぃぃぃぃぃいいいいいい!」
 号令と共に、大勢の傭兵が己の手柄を立てんと前進を開始した。
 空中戦力と、ヨルムンガンドを失ったことで、離反者を押さえることが出来ず、もはや数少なくなったジョゼフ側の兵達では到底支えきれるものではない。津波のように押し寄せるオルレアン派に押され続け、王城グラン・トロワ目前にまで戦線は押し込まれていた。
 一番手柄までもう少し、となおのこと攻略に力のはいる傭兵達の前に、その手柄の姿が現れる。青い髪と髭を携えた男が。
「……!」
 いざ富と名声をこの手に、とジョゼフに群がる傭兵達に、ジョゼフは何も持っていない右手を突き出して、なにか喋った。次の瞬間、爆発が辺りを包む。
 砂埃が落ち着いたときには、もうそこに誰もいなかった。


 ラグナロクのキャビン。
 最大望遠で撮影した第一次攻撃の映像を再生していたディスプレイに、今度は右手を突き出すシーンが拡大されて映される。
「やはり、何も持っていないな」
「ならば、あの時ガリア王が使ったのは……」
「虚無の《爆発》ではなく、擬似魔法。それもおそらくはアルテマでおじゃるな」
 オダインの言葉に、オルレアン以外の有力貴族達がざわめく。
「加えてあの威力。おそらくG.F.もジャンクションしているのでおじゃる」
「ジャンクション……確か、傭兵SeeD達の使っている?」
 オルレアンの指摘に、オダインは大きく頷き、えっへんとふんぞり返る。
「その通りでおじゃる。オダインが作り上げた擬似魔法マニュアルとG.F.研究の成果の結晶なのでおじゃる」
「厄介だな……」
 難しい顔で、スコールが呟く。
「オダイン博士、確か……ガリア王の持っているのはG.F.ミョズニトニルンだったか……ジャンクション箇所は?」
「オダインが確認した限りでは魔力と精神、属性防御までは確認できたでおじゃるが……、ここ半年はオダインも触れていないでおじゃるから、派生した分までは確認できていないでおじゃる。それに」
「別のG.F.を入手している可能性もある、か」
「傭兵」
 そこで、貴族の一人がスコールに声をかける。
「何なのだ、その『じーえふ』だの『じゃんくしょん』だの先ほどから言っているのは」
「『ジーエフ』は、先日の戦闘でレオンハートの使っていた悪魔のような使い魔の事」
 それに答えたのは、スコールではなくオルレアンだ。
「以前に私は他の個体も確認しているから、『ジーエフ』というのは彼の使う使い魔の総称と思われる」
 違うか?と尋ねられて、スコールが肯定する。
「おおよそ、その認識で合っています」
「そしてジャンクションというのはオダインが生み出した、擬似魔法とG.F.を組み合わせた最強の戦闘システムなのでおじゃる!それはラグナの息子が実戦で証明している通りなのでおじゃる」
 最後にしっかり胸を張るオダイン。
「貴方と同じくらいの力を、彼は持っている……?」
「おそらくは」
 何しろアルテマを持っていたのだ。ガ系、トルネド、クエイク等の擬似魔法もスクウェアクラスのメイジからドロー出来るのだから、かなり強化できていると見るべきだろう。
 ざわざわと周りが騒がしくなるが、実際問題としてスコールは何度もジャンクションをしている敵を相手にしてきているのだ。パンデモニウムの風神しかり、アレクサンダーのイデアしかり。
 確認こそ出来なかったが、雷神やサイファーも自分たちと闘っていたときには何かG.F. をジャンクションしていたはずだ。
 やはり現状一番問題となるのは底の知れない虚無なのだ。
「傭兵部隊SeeD。虚無の系統を継ぐガリア王ジョゼフへの直接攻撃、およびその場へ私を連れることを、要請する」
 オルレアンの言葉に、スコールはこくりと頷いた。


 日も沈む頃。第二次攻撃が開始された。
 本隊が攻め込むのに対応して、本命となるオルレアンを連れるスコール達が搦め手側から一気に本丸であるグラン・トロワへと向かうのだ。
「揺れるな、やはり」
 移動の足としているのはX-ATM092。人も居らず暗闇のリュティスを、事前に入力されていた上空写真の地図を頼りに走破する。
「流石にばれていない、と思いたいが」
 時たま進行方向上に見かける敵影は、X-ATM092機首のガトリング砲と、アニエスのビスマルク、そしてスコールが持つガルバディア軍制式採用型マシンガンで無力化していく。
「コンタクト、1時、ガトリング稼働範囲外!ファイア!」
 命中にトルネドをジャンクションしているスコールが建物の上に見つけた敵影に、同じくトルネドをジャンクションしているアニエスも併せて照準。僅かな銃声とマズルフラッシュの後、悲鳴が上がり、その悲鳴の脇をX-ATM092が通り過ぎていった。
「目標到達予定時刻まであと20秒。予定時間に変更なし。装備、最終確認」
 スコールの言葉に、ビスマルクを脇に置いて改めて腰の剣を一度抜きつつ、アニエスはジャンクションを確かめる。
 X-ATM092の上に陣取る人員はスコール、アニエスと、シャルロット・フュリス・オルレアンその人だ。
 総大将であるオルレアンが、直援も付けずに二人の傭兵だけを引き連れることに周囲のものは当然大反対していたのだが、結局彼女は自分の意見を押し通した。
 ジャンクションしていると思われるジョゼフの前に生身の者たちを大勢連れて行っても、ただ生け贄にさせるようなものだ。
 では当のオルレアン本人はどうなのかという話だが、オルレアンとしては、仇討ちを誰かに代行させたとしても、せめて仇の最後だけは見る心づもりなのだ。これは譲れない一線だ。
 因みに、例によってジョーカーはラグナロクでお留守番だが、今回は用心のためというより、本気でオルレアン派の連中にラグナロクが奪われないようにという警備の意味合いが大きい。
 と、グラン・トロワまでそういくらも距離が無くなったところで、X-ATM092のサーチライトが敵影を捕らえる。
「コンタクト、正面!ガトリングを援護!」
 X-ATM092のガトリングと共に一斉射撃。血と肉で行く先を舗装しつつ、スコールがX-ATM092の上で立ち上がる。
「突入!」
 号令一下、予定通り城壁に向かって大きく跳躍したX-ATM092の動きを利用してスコール、アニエス、オルレアンは更に大きく跳躍。
 擬似魔法のレビテトやフライを使って内部に着地し、今度は足で駆け出す。
「こっち」
 杖を携えたオルレアンを先頭に駆け出す。大半の兵力は外に出ているのか、全く見回りの兵などには会わず、目的の人物はあっさりと見つかった。
 城内構造から、あくまでも第一候補と設定していた謁見の間。
 そこには多くの斧、槍、剣が床に突き立てられ、ジョゼフも立っていた。
「ガリア王ジョゼフ……父の仇、取らせてもらう……!」
 殺気を漲らせ、オルレアンが唸る。だが
「待っていたぞ、スコール・レオンハート」
 彼は姪のことなど目に入っていなかった。
「この下らなくて退屈な世界。お前やオダインという男だけが、俺の心を慰めてくれる……。あのビダーシャルを力技で引かせ、更に興味を持たせる。お前はどれだけ俺を楽しませてくれる?」
「俺はあんたの暇つぶしの道具じゃない」
「ふ、ふふふ。連れない奴だ。俺はわざわざお前がここに来るようにここまで手を尽くしたというのに」
「なに……?」
 スコールはスッと目を細める。鋭く睨むスコールと対照的に、そこでようやくジョゼフは姪へと目を向ける。それも、とても慈愛に富んだ目で。
「シャルロット……お前にも礼を言う。よくこの男を連れてきてくれた。お前の母の居場所を教え、イザベラに単騎での攻撃を命じれば……必ずやお前はSeeDを引き込むと思っていたぞ?」
「馬鹿な……何故わざわざこんな手の込んだことをする」
 状況が理解できない、とアニエスが混乱を露にする。
「俺があんたを殺せ、というあれか」
「あの時はほんの戯れだった。自分が死に瀕すれば少しは涙が流れるかと、ちらと思ったに過ぎない。
 まぁ、そちらの方は望み薄だ。この俺を愛しているものを殺してみても、涙も流れんのだからな。今はもう、お前がどのように俺と戦ってくれるのか、それが『楽しみで仕方ない』」
 話の途中、ちらと逸れた視線の先には女性の死体が転がっていた。言葉からすると、このジョゼフを愛した女の成れの果てか。
「狂王が……!」
 こみ上げる吐き気を、叫びで紛らわしながらアニエスは剣を構えなおす。
 そんな様を目にした後、ジョゼフは軽く目を閉じた。
「まずは俺のほうから楽しませてやろう。G.F.ミョズニトニルン、地下水、ジャンクション」
 ジョゼフの額に刻まれるルーンは、本来なら彼の使い魔に刻まれるはずだった物だ。ジャンクションによって現れるようになったらしい。
「……やはり他にもジャンクション出来るG.F.を手に入れていたか」
 その能力は未知数だ。
「さぁ」
 足下に刺さっていたかなり大振りな斧を、杖を持っていない右手で軽々持ち上げつつ、くいくいとスコールに手招きの仕草をする。
「SeeD、俺を楽しませろ」
 それに応じるように、スコールがライオンハートを振りかぶる。
「一気に仕掛けるぞ」
「ああ、ヘイスガ!」
 アニエスも剣を構え、走り出すと同時にスコールと自分へ擬似魔法を使用する。ジャンクションと併せて普通では到底反応できない速度へ到達する。が
「ブレイド……!」
 手にした杖に刃を纏わせつつ、二人の斬檄をジョゼフは正面から受け止めてみせた。
「く……!」
 そして鍔迫り合いに迫り勝てない。
「おおおおお!」
轟轟轟轟轟ッ!
 続けざまにライオンハートのトリガーを引きまくり、その震動でライオンハートを支える斧に罅を入れる。
「むぅ!?」
 とっさに斧を脇へ逸らしながら手を離し、そのまま手はスコールに向く。
「ファイガ!」
「うおっ!」
 ダメージは吸収しきれるが、衝撃までは殺せず、僅かに後退を余儀なくされる。すかさずジョゼフは空いた右手をアニエスの顔面に叩き込んだ。
「うあ!」
 ジャンクション状態で、初めて他のジャンクション者からの攻撃を受け、アニエスはもんどり打って倒れ込んだ。
 完全に手空きになり、改めてジョゼフはまた別の場所の床に刺さっていた大剣を抜いて構える。
 どくどくと流れる鼻血を抑えながら、ふらつく頭を振って立ち上がるアニエスにスコールが並んで手をかざす。
「G.F.リヴァイアサン アビリティ『かいふく』」
 光がキラキラとアニエスの周りを回って、鼻血が止まる。
「くそっ、鼻の骨が折れていたぞ!」
 ぐい、と残っていた血の大半を手の甲でぬぐい去りつつ、アニエスが怒鳴る。
「ジャンクション中にここまでダメージを通すとなると、やはり力にジャンクションしているのはアルテマ、か」
「そうとも」
 目線を向けると共に問いかけてくるスコールに、ジョゼフは大仰に頷く。
「オダインによると、珍しい擬似魔法らしいな。おそらく、俺たち虚無の使う“爆発”の要素が抽出されたのだろう」
「“爆発”?」
「それ、この間トリステインの……何と言ったか。まぁあの新女王がアルビオン艦隊を壊滅させたアレだ」
 成る程、判る理論である。
(……待てよ、確かオダインは虚無を研究して新しい擬似魔法を作っていたな)
 先程のヘイスガもその一つだ。
 元々、擬似魔法というのは魔女が使っている魔法を普通の人間でも使えるようにしたものであり、それらの性能は魔女の本来使っている魔法とは比べものにならないほど、劣化してしまっている。
 ……同じように、これら虚無発の擬似魔法が遙かに元々の魔法に劣っているのだとしたら?
「ついでだ、こんなものも見せてやろう。虚無の“加速”をな」
「まず……!」
 まずい、とすら言えなかった。
 ほんの僅かに口を開いただけに見えたジョゼフはその瞬間から急激に加速した。
 早さへのジャンクションにヘイスト効果も併せて常人を逸する速度であるはずのスコールが、次の瞬間に認知できたのは、体中の焼け付くような痛みと自分が宙を舞っている感覚。そして同じように血しぶきをまき散らしながら宙を舞うアニエスの姿だった。
 床に落ちるときには、もう体中裂傷だらけ。これまでハルケギニアでは無敵を誇っていたはずのジャンクションの防御力も、同じくジャンクションの力を有するジョゼフ相手では何の意味もなかった。
「速……す、ぎる……」
 血の池と化している床の上、かろうじてそれだけを口にしてアニエスは力尽きた。
「く……そっ」
 スコールはライオンハートを支えに、何とか立ち上がろうとするが、血で手が滑る。足が踏ん張れない。……もう力が入らない。
「リ……ノア……」
 獅子の心が、血の海に沈む。



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