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ルイズと彼女と運命の糸-02


 ※ウルの月 エオローの週 ラーグの曜日

 ―― 午前

 今日は特別な日だ。
 なんと、姫殿下が学院に視察に訪れるというのだ。
 気合を入れて盛大にお迎えしなくては。
 そうそう、彼女はというと、天の柱を探すため学院の馬を借りて遠出をしている。今夜あたり帰ってくるはずだ。
 戻ってこないかもしれないとも思ったが、一度結んだ約束を反故にしたりはしないだろう。
 この数週間で大体の人柄は掴んでいる。
 どうせ、私の使い魔にするのだから、今の内に自由を満喫しているといいわ。

 姫殿下を歓迎しているのに、最初に馬車から降りてきたのは鳥の骨だった。空気を読んでほしい。
 ユニコーンに牽かれた純白の馬車から姫殿下が姿を現すと、割れんばかりの歓声が巻き起こった。
 勿論、私も声の限り姫殿下を讃え歓迎した。
 だが、キュルケとタバサはあまり関心がないようだ。外国からの留学生だから仕方がないか。
 キュルケは不遜にも自らの容姿を姫殿下と比べていたので、鼻で笑ってやった。
 キュルケと口喧嘩をしていると、視界の端に見覚えのある人物が映った気がした。



 ―― 夜

 昼間の出来事をボーっと思い出していると、部屋にノックの音が響いた。
 聞き覚えのあるノックの音だ。長く間を置いて2回と短く3回、もしかして……
 覗き窓から誰かも確認せずに私は弾かれる様にして扉を開けた。

 来訪者は、思った通りの人だった。姫殿下だ。
 姫殿下は、昔を懐かしみ私に会いに来たのだという。こんなにも嬉しい事はない。
 昔話に花を咲かせていると、不意に姫殿下の顔が陰った。
 理由を聞き出してみると、結婚が決まったのだという。相手はゲルマニアの皇帝、アルブレヒト三世だそうだ。

 結婚が決まり憂鬱になっているのだと思ったが、そうではないようだ。
 詳しくは書けないが、婚姻を妨げるモノがあるらしい。
 そして、それを見つけようと血眼になっている奴らがいるそうだ。
 名を『レコン・キスタ』、アルビオンの貴族が中心になって出来た組織で、王党派を相手取って主権争いを繰り広げている。
 しかも、その婚姻を妨げる物証を持っているのがよりにもよってウェールズ皇太子殿下ときたものだ。
 すわ、王家の危機! 今こそ王家への忠義を示す時。
 お任せ下さい姫殿下。見事わたくしめが、その生涯を取り払ってみせましょう。

「ただいま、ルイズ。
 あれ、お客さん?」

 いいタイミングで彼女が帰ってきた。
 さあ、使い魔として最初の仕事をしてもらうわよ!




◆ ◇ ◆



 ※ウルの月 エオローの週 イングの曜日

 ―― 早朝

 私たちは学院の裏門にいた。
 人目を避けて出発するためだ。
 旅の道連れは私と彼女、そしてギーシュだ。
 なんでギーシュがいるのかというと、盗み聞きしていたのだコイツは。
 それにより、昨晩私の部屋に乱入してきたのである。姫殿下もグラモン元帥の息子だと聞き、同行することを許された。
 まあ、盾ぐらいにはなるか。

 ギーシュの使い魔はジャイアントモールなのだが、これは最悪だ。
 何故最悪かというと、私を押し倒したからだ。
 しかも、姫殿下より賜った『水のルビー』にその汚らしい鼻を擦りつけやがった。
 本当に最低だ。姫殿下の信頼の証ともいえる『水のルビー』に鼻を擦りつけるなど、許されるはずもない。
 なのに、だ。
 ギーシュは馬鹿みたいに笑って、一向に止めさせようとはしない。自分の使い魔の躾ぐらいしろ!

 その不逞モグラに制裁を加えたのは、突如現れたワルドだった。
 そして、尻餅をついていた私に、ワルドは優しく手を差し伸べてくれた。凄くドキドキした。
 10年近く会っていなかったのに、私の事を未だに婚約者と呼んでくれたのは素直に嬉しかった。
 今も昔も、ワルドは私の憧れだったのだから。

 ワルドとグリフォンに乗って空を往く。
 彼女とギーシュは遥か下だ。栗毛の馬に跨り駆けている。
 だが、グリフォンと馬では速度が違いすぎる。グリフォンはまだ余力がありそうだが、彼女たちとは距離が開いてきている。
 ワルドは二人を置き去りにしてでも急ぎたいようだったが、ラ・ロシェールまでは馬では二日もかかるのだ。
 私の説得で速度を緩めてもらう。
 そりゃあ、手紙の回収なんてワルド一人でも余裕だとは思うが、姫殿下から命を受けたのは私たちだ。
 出来る限り、置き去りになんてしたくない。


 ―― 夕方

 街道に沿って半日ほど進むと、渓谷に入った。彼女たちは何度も馬を変え、辛うじてついてきている。
 しかし、空を飛ぶグリフォンと山道を進む馬とでは、平坦な街道を進むよりも差が出てしまう。
 もうすぐアルビオンとの玄関口である『ラ・ロシェール』だ。
 遅れても、上手くすればそこで合流できるかもしれないが、フネが出航するまでに間に合うだろうか?
 何か不測の事態が起これば、彼女を置いていってしまう。

 そう不安に思った時、事件は起きた。
 彼女たち目掛けて崖の上から松明が投げ込まれた。ついで、幾本もの矢が射かけられる。
 危ない! と、思った瞬間、矢は小さな竜巻に飲まれて弾かれた。
 ワルドだ。ワルドが魔法で助けてくれたのだ。
 そして、襲撃者の姿を見ようと崖に視線をやる。
 私の目が捉えたのは、赤々と燃え上がる炎と小型の竜巻だった。
 ワルドの魔法じゃない。だとすれば誰が……?

 襲撃者を蹴散らしたのは、キュルケとタバサだった。
 どうやら、出発するところを見られていたらしい。タバサの風竜に乗って追いかけてきたようだ。
 お忍びなんだからと告げると、そうならそうと言えと文句を言われた。お忍びなんだから、部外者に言うはずがないでしょ。
 あと、タバサはパジャマのまんまだった。きっと、寝ているところを叩き起されたのだろう。

「アンタも大変ね」
「平気。もう慣れた」

 どうしてこの二人は友人をやっているのか不思議だ。静と動で正反対なのに。
 あと、襲ってきた連中は簀巻きにしておいた。運が良ければ夜を越せる筈だ。
 物取りだったらしいが、馬鹿な奴らだ。数を揃えた所で、メイジに敵う筈がないのに。



 ―― 夜

「フネは明後日にならないと出航しないらしい」

 『女神の杵亭』で寛いでいると、船着き場から戻ってきたワルドにそう告げられた。
 何故かと理由を尋ねると、明日の夜は双月が重なる『スヴェルの夜』で、その翌朝にアルビオンが最接近するらしく、船乗りたちは風石の消費を抑えるため、今日明日は絶対に船を出さないのだそうだ。
 ワルドはかなり食い下がったようだが、船は出せないと断られたらしい。
 その気になれば、魔法衛士隊隊長の権限で無理に出航させることも可能だが、お忍びなので目立つ事は避けたいそうだ。

 そういうわけで、予定が狂ってしまった。
 本当ならば、明日の朝には出発する筈だったのだが、一日ここで足止めとあいなった。
 二人部屋を三つ取り、私と彼女、ワルドとギーシュ、キュルケとタバサという部屋割だ。
 ワルドは婚約者だからといって、私と相部屋を望んだが、ギーシュを他の女性陣と一緒にさせるわけにはいかないと言うと
大人しく引き下がってくれた。婚約者とはいえ、まだ学生だしそういう事は早いと思うの。




◆ ◇ ◆



 ※ウルの月 エオローの週 オセルの曜日

 ―― 朝

 翌朝、何故か彼女とワルドが模擬戦をする事になった。
 止めるようワルドに言ったのだけれど、「彼女の実力を知りたい」の一点張りで聞く耳を持ってくれなかった。
 婚約者を蒸発させられてはたまらないので、手加減するよう彼女にお願いする。

「分かったわ。能力は使わず剣で勝負するよ」
「よっしゃ! とうとう俺っちの出ば……」
「このレイピアでね」

 そういや居たわね、喋るしか能のない駄剣が。
 でも、アンタ凄く重いんだから、彼女が振りまわせるわけないでしょ。

 結果は、当然ワルドの勝ち。
 ウィンドブレイクで吹っ飛ばした彼女に実力不足だとか言っていたが、女の子相手にやり過ぎだと思う。少し幻滅だ。
 非難の眼差しを向けると、ワルドはサッと目を逸らす。少し動揺したのか、説教もそこそこに去っていってしまった。
 しょうがないので、倒れたままの彼女に手を差し伸ばして立ちあがらせた。
 彼女は擦り傷と軽い打撲を負っていたが、やおら淡い光に包まれると、傷一つなくなっていた。
 軽い怪我だったとはいえ、あんな一瞬で治るなんて驚きだ。
 断然、彼女を使い魔にしたくなった。



 ―― 夜

 あの後は特に何事もなく、素直に時間は流れ、夜になった。
 宿の酒場で夕食を摂りながら歓談に興じる。
 そして、彼女がワインを飲んだ事がないという事を知った。
 彼女の世界ではどうか知らないが、ワインなんて普通の飲み物だ。
 むしろ、綺麗な水の方が下手なワインよりも高級品の場合がある。
 試しに一口飲ませてみると、意外といける口だったようで、あっという間にグラスを空けてしまった。

 食後も酒場に残って騒いでいる彼女らを残して、私は部屋に戻り夜風に当たっていた。
 窓から重なった双月を見上げていると、部屋にワルドが入ってきた。
 そして、結婚しようと言われた。
 いきなりの言葉に、頭が真っ白になる。他にも色々と言っていたが、憶えていない。
 それだけ、その言葉の威力が高かったのだろう。
 返事をせずにいると、ワルドは「諦める気はない」と言い残して部屋から出ていった。
 婚約者なのだから、いずれはそういう事になるだろうと思っていたが、これは不意打ちだ。
 任務の事で精いっぱいだというのに、人生の岐路に立たされてしまった。一体何を考えているのだろう?

 熱で上手く働かない頭をフル回転させていると、宿に衝撃が奔った。一体何事!?









 一階の酒場に駆け込むと、何故か彼女が仁王立ちをしていた。
 酒場を見渡すと、テーブルがひっくり返り酷い有様だ。床には投げ出された料理が散乱している。
 入口の扉に至っては、吹き飛ばされて無くなっていた。周囲の壁は黒く焦げている。
 そんな惨状なのに、酒場は酷く静まり返っていた。外からは、傭兵みたいなやつらがおっかなびっくり遠巻きにこちらを見ている。
 視線を戻すと、彼女の顔は真っ赤だった。目は座っている。

「きしゃまら! いきなりなにをしゅるのよ!
 このわたしがせいばいしてくれりゅう!」

 見事に酔っぱらった声で彼女が叫ぶ。同時に、指からビームを乱射した。
 ロクに狙いを定めていないビームだが、それだけで驚異であった。
 なにしろ、石壁を簡単に蒸発させるのだから、襲撃者たちは逃げ惑うしかない。
 中には果敢に突撃してくるものもあったが、そいつらは炎で焼き払われた。
 襲撃者の中にはメイジも混じっていたらしく、三十メイルはあるゴーレムが出現したが、
彼女によってあっという間に穴あきチーズみたいになってしまった。
 それにより、襲撃者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていき、辺りには再び静寂が戻る。

「あはははは! せいぎはかつ!」

 彼女は上機嫌に腕を振り上げて勝鬨を上げた。
 酔っ払いは勘弁してほしい。今度からは飲みすぎないよう監視していないとね。
 それにしても、こんな大掛かりな襲撃があるなんて、私たちを狙う存在がいるという証拠だ。レコン・キスタか?
 とりあえず一難は払えたが、急いでココから離れないといけない。
 私たちはワルドの誘導に従い、船着き場を目指した。




◆ ◇ ◆



 ※ウルの月 エオローの週 ダエグの曜日

 ―― 明け方

 私たちはフネに乗り込みアルビオンを目指していた。
 昨晩の襲撃の後、ワルドの権限を使い商船を徴発しラ・ロシェールを発ったのだった。
 船着き場へ向かう途中、仮面を被った白尽くめの男が襲ってきたが、一瞬にして彼女によって蒸発させられた。
 アレだけの力を見せられてまだ襲ってくるのは、無謀というかなんというか……
 冥福を祈っておこう。

 フネには風石が足りないとのことなので、ワルドがその代わりを務めている。
 そして、アルビオンまであと少しというところで空賊船に出くわしてしまった。
 アルビオンは今、内乱の所為で治安が乱れに乱れている。なので、こういう無法な連中が野放しになっているのだ。
 私は断固抗戦を主張したが、あえなく却下された。
 理由としては、こちらの船には武装がなく、非戦闘員を多く抱えているからだそうだ。
 それに……

「う~ん…… 頭がガンガンする……」

 彼女は二日酔いだった。万全の状態なら、どんな遠距離からでも蒸発させれたはずなのに。
 今は大人しく従う他ないようだ。ワルドはヘロヘロで役に立たないし。



 ―― 昼

 ありのまま起こったことを話すと、空賊が皇太子殿下で王党派だった。
 何を言っているのか分からないと思うけど、私も何が起こったのかすぐには分からなかった。
 それこそ、頭がどうにかなりそうだった。
 カモフラージュだとかゲリラ戦法だとか、そんなチャチなもんじゃない。もっと恐ろしいご都合主義の展開を味わったわ。

 テンパるのはこれくらいにして、状況を整理しようと思う。
 私たちは姫殿下の使いで、アルビオンに赴いた。目的はある手紙を回収するため。
 道中、襲撃をかわしあと少しでアルビオンというところで空賊船に拿捕された。
 私は空賊の頭の前に通され、尋問をされた。あまりにも失礼な輩なので、大いに啖呵を切ると空賊の態度が一変。
 空賊の正体は、アルビオンの王党派。まさしく、任務の目標だった。

 そして今、秘密の航路を使い王党派の居城『ニューカッスル城』にたどり着き、ウェールズ殿下より手紙を回収したところだ。
 手紙の内容は見ていないが、殿下の態度を見てある程度の予想はついた。


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 ―― 夜

 ニューカッスル城のダンスホールにて、最後の晩餐会が行われていた。
 既に覚悟が出来ているのか、王党派の人々は底抜けに明るく騒いでいる。
 その光景が悲しくて痛々しくて、私は会場から逃げるようにして抜け出した。
 暗い廊下の隅でさめざめと泣く。

 私には分からない。明日死んでしまうのに、ああやって明るく振舞えるのが。
 どうして、自分から死を選ぶのが分からない。逃げれば、愛する人とも一緒にいられるというのに……
 そうやって泣いていると、廊下の奥から燭台を持った彼女が現れた。
 泣き腫らした目を擦り涙を拭う。どうやら、いなくなった私を心配して探しに来てくれたらしい。

 感情を抑えきれずに、彼女に疑問をぶつける。
 どうして、あの人たちが死を選ぶのかと。
 その質問に彼女は口ごもり、建前通りに誇りとか守るためとかと口にしたが、私が聞きたいのはそんなことじゃない。
 でも、誰にも分からないわよね。分かるはずがない。
 だけど、残された人は一体どうすればいいの?

 早く帰りたい。トリステインに帰りたい。









 彼女が去ると、入れ違いでワルドがやってきた。ワルドなら私の疑問に答えてくれるだろうか?
 そう期待を込めて見上げる。

「ルイズ、結婚しよう。ウェールズ殿下も祝福してくれている」

 どうしてそんな事を言うのだろうか?
 私は拒否したが、ワルドは結婚式を挙げると言ってきかない。
 いろんな事が起こりすぎてワケが分からない。大声をあげて泣きたい。
 バカ。




◆ ◇ ◆



 ※ウルの月 エオローの週 虚無の曜日

 ―― 朝

 礼拝堂に連れていかれ、半ば強引にウェディングドレスに着替えさせられた。
 結局状況に流されてしまった。
 どうしてこうなってしまったのだろう? 何度も溜息をつく。
 部屋で待機していると、彼女たちがやってきた。

「こんな状況で結婚式なんて、アンタたちは何を考えているのよ?」
「なあルイズ、急すぎやしないかい。いきなり結婚だなんて。
 大体まだ学生じゃないか」
「……非常識」

 口々にこの結婚式に対して否定的な意見を言う。
 だけど、私だってどうしてこうなったのか分からないのだから、答えられるはずもない。

「ねえルイズ、アナタはこれでいいの?
 この結婚式に納得してるの?」
「それは……」
「だったら言わなきゃ。
 じゃないと、どこまでも流されるだけよ。
 自分の事なんだから、自分の意見を言ってやらないと」

 そうよね。分かったわ、自分の意思をはっきりと伝える。
 ワルドには悪いが、結婚なんて私にはまだ考えられない。
 そう決心すると同時に、準備が整ったとの連絡が来た。









 一瞬、何が起こったのか分からなかった。
 目の前には、胸から大量の血を流して倒れているウェールズ殿下がいる。
 ワルドが顔を醜悪に歪めさせて何かを言っている。
 情けない話だが、私は腰を抜かしてしまっていた。
 誰かが茫然とつぶやいた。

「レコン・キスタ……」
「そうだ、僕はレコン・キスタのスパイだ」

 誰かの怒声が聞こえた。
 ワルドが立っていた場所に炎と氷刃が奔り、私の周りに七体のブロンズゴーレムが現れる。
 キュルケにタバサにギーシュ、そして私の横に立っているのは彼女だ。

「ふん、手紙は貴様らを皆殺しにしてから回収するとしよう」
「スクウェアとはいえ、五対一で勝てるつもり?」
「貴様ら程度を相手取れぬのでは、魔法衛士隊隊長は務まらぬよ。
 まあ、その使い魔君の相手は骨が折れそうだが……」

 そう言うと、ワルドの姿がぼやけた。虚像が幾重にも重なり、陽炎のように揺れている。

「ユビキタス・デル・ウィンデ。
 さあ、これで五対五だ。君らの勝ちはなくなったな」
「風の遍在……」

 風の遍在。それは、術者と等しい力を持つ分身を作り出す風のスクウェアスペルだ。
 五人のワルドと彼女たちが戦っている。
 それなのに、私は見ているだけでいいのか? 泣いているだけでいいのか?
 いい筈がない。

 だから、私は杖を振り上げ呪文を唱える。
 成功するなんて思っていない。でも、爆発は起こる。今、私が出来る精一杯だ。
 当たるなんて思っていない。でも、意思は示せる。
 彼女が言ったのだ。自分の意見を言ってやれと。
 だから、私は力の限りぶつけてやる。ワルドに限りない拒絶を。
 死んでもお前のモノなんかにはならないのだと。
 確かな意思を込めて杖を振る。

「なんだとっ!? ルイズ!」
「え、なに? 当たったの? うそ?」

 遍在の一体を一撃で消されワルドは、一瞬動揺する。私だって驚きだ。
 その隙を見逃すはずがない。
 礼拝堂に氷嵐が吹雪いた。視界を真っ白に埋め尽くす。
 しかしそれも一瞬の事、吹雪はすぐにおさまった。だが、その一瞬で十分だった。
 動きの止まったワルドに、ギーシュのブロンズゴーレムが肉薄する。
 ワルドは巧みな体捌きと杖を剣のように操り、ブロンズゴーレムをいなすが、反撃は小さな火球で邪魔をされた。
 打ち合わせたわけでもないのに、澱みなく流れる連携にワルドは思わず飛び退く。
 気がつくと、四人のワルドは一ヶ所に集まっていた。
 そして、全員の視線が彼女に集中する。ワルドの表情が凍るのが見えた。
 散開しようとするが、遅い。

「くっ……」
「スターライトブラスト!」

 その瞬間、光が視界を塗りつぶした。









 ―― 午後

 私たちは学院へと帰ってきていた。
 アレからどうなったのかというと、絶体絶命のピンチに陥っていた。
 ワルドは塵も残さず消滅したとはいえ、危機が去ったわけではないのだ。
 王党派とレコン・キスタの戦闘が始まり、城は砲撃で激しく揺れている。
 ここから逃げるのは至難の業だ。
 秘密の航路を使おうにも、ワルドによってリークされている可能性が高く危険である。
 どうすれば逃げ出せるか算段を立てていると、彼女がこう言ってきた。

「大丈夫私に任せて」

 彼女の提案を聞くと、その内容に笑う事しか出来なかった。
 ズルイというか、非常識というか、ご都合すぎる。裏技だ。
 その方法とは、テレポートという能力を新しく覚えたのでそれで帰ろうというのだ。
 テレポートとは、瞬間移動の事らしい。一度行った事のある場所なら、一瞬で移動できるのだそうだ。

 そんなわけで、そのテレポートを使い学院に帰ってきたわけだ。
 勿論、タバサとギーシュの使い魔も回収して。
 これから姫殿下に報告に行かなくてはいけない。




◆ ◇ ◆



 ※ウルの月 エオローの週 ユルの曜日

「ごめんルイズ、話があるんだけどいい?」

 彼女がそう切り出してきた。
 彼女が言うには、テレポートを覚えたので天の柱を探す必要はなくなったらしい。
 やっぱりそうか。
 何となく、そうなのではないかと思っていた。

「三ヶ月っていう約束だったけど、出来るなら早く帰りたいの」
「いいわよ」

 頭を下げる彼女を制止して、ぶっきらぼうに告げる。

「いいの?」
「いいのよ。
 だって、アンタを使い魔にする気なんてもうないもの」

 だってそうでしょう? 友達を使い魔なんかに出来る筈がないもの。

「だから、どこにでも行けばいいわよ。さよなら」
「ありがとう、ルイズ。私の旅が終わったら、また会いにくるから」
「……ふん」

 そう言って、彼女は私に糸の束を渡してきた。
 不思議な糸だった。オレンジ色の、見ているだけで心が温かくなるような糸。
 これが、彼女と交わした最後の会話だった。




◆ ◇ ◆



「う~ん…… この彼女ってのはどんな奴だったんだろ? これだけじゃ、よくわかんないな。
 なあデルフ、お前は知ってんの?」
「なあ相棒、人の日記を勝手に読むのはどうかと思うね」
「そうは言ってもよ、ルイズにきいても教えてくれねぇんだもん。
 だったら、自分で調べるしかないだろ?」
「だからって、この行動はないと思うね俺は」

 何処に居るのかと探しにきてみれば、何をしているのだコイツは。
 よりにもよって、私の日記を読むなんて。
 おしおきね。久しぶりの。

「こっの、バカ犬!」
「キャイン!」

 手にした馬上鞭で打ちすえると、サイトは叫び声をあげてのた打ち回った。
 久しぶりだけど、相変わらずいい声で鳴く。ゾクゾクきちゃうわ。
 両手を腰に当て、倒れこんだサイトを上から睨みつける。

「アンタね、人の日記を勝手に読むなんて何考えてるのよ!」
「相棒はね、アイツの事が知りたいんだってよ」
「アイツ? ああ、彼女の事ね」

 彼女が去ってから、一年以上が経つ。
 アレから色んな事があった。使い魔としてコイツを呼んだ時はガックリときたが、今では大切なパートナーだ。
 暫くは日常を過ごしていたが、程なくして戦争が起きた。
 レコン・キスタとの戦争、それが終わった後にはガリア。
 でも今は、このハルケギニアで戦争をしている国はない。なぜなら、そんな余裕がないからだ。
 ハルケギニア全土を揺るがす大地震によって、各国はことごとく力を減退させ、戦争をしている余裕はなくなった。
 瓦礫に埋もれる町を復興させなければならず、エルフとの聖戦に息を巻いていたロマリアも休戦する他なかった。
 学院もかなりの部分が破損し、まだ完全には復興仕切っていない。


 駄犬と駄剣に説教をしていると、私の後ろの扉が開いた。
 何の断りもなしにキュルケが入ってくる。

「ちょっとちょっと、こんな日にも喧嘩なわけ?
 仲が良いのも分かるけど、少しは落ち着いたらどう?」
「ふん、アンタとも今日でお別れね。清々するわ」
「あら? 実家に帰っても隣同士なんだから、いつでも会えるわよ。
 ふふふ、さびしい?」
「誰が」

 世界がどうなっても、私たちの関係は変わらない。
 多分十年後も同じことを言っている気がする。なんせ、先祖代々の宿敵なのだから。
 さて、そろそろ時間だ。

「ほら、行くわよ犬」
「わ、わぅ~ん……」

 まだ寝ころんでいるサイトの頭をふみつけると、犬語で返事をしてきた。
 鳩尾を思いっきり踏みつけてから、部屋を出る。
 今日は卒業式だ。
 この間、竣工したばかりの本塔にて行われる。
 本塔は宝物庫の床が抜け落ちていたので、再建が大変だったらしい。
 廊下を進む。この寮塔も今日でお別れだ。

「う゛っ、ごほっ……
 待ってくれよ、置いてかないでくれ」

 後ろからサイトが咳き込みながら追いついてくる。
 軟弱な使い魔だ。しょうがないから、落ち着くまで待ってやろう。
 そうしていると、不意に後ろから声をかけられた。

「久しぶり、ルイズ。今日卒業式なんだって?
 丁度いい日に来たものね」

 ああこの声は、忘れる筈がない。私の友達の声だ。
 ゆっくりと振り返ると、変わらぬ彼女の姿があった。

「ええ、本当に久しぶり」

 今日は良い日になりそうだ。



 = ルイズと彼女と運命の糸 ・ 終わり =


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