あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ブレイブストーリー/ゼロ 19

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「……ん?」

 ムスタディオは森の中、一際高い木の上で怪訝に眉根をひそめた。
 そこからは空き地と廃屋が概ね見通せる。視認出来るということは射線が通るということであり、彼は戦いの中で鍛えた狙撃眼で監視を続けていた。
 そして、これはいよいよ自分の出番なのかもしれないと思う。
 廃屋からルイズが、次いでロングビルが出てきたのだ。ルイズは両手を後ろに回しており、その表情は硬い。
 何か廃屋の中であったのか、あるいは何もなかったからこその落胆か。しかし後ろのロングビルはどこか晴れ晴れとした表情をしている。
 その奇妙な齟齬の意味を噛み締めようとした時、ロングビルが大声を上げた。

「ムスタディオさん! ミス・タバサを見つけましたわ! それに敵を捕まえました、出てきてください!」
「本当か!」

 大声をあげ、木を滑るように下った。空き地へ出ると、ロングビルは破顔し、その一歩前にいるルイズはしかし益々表情を失くしていた。
 ロングビルの言葉でやや高揚していた心が疑問を投げかける。
 この違和感は何なのだろう、と。
 その答えはすぐにもたらされた。

「……ムスタ、こいつを撃って!」

 ルイズの言葉の意味を、ムスタディオは咄嗟に理解できなかった。そのために硬直してしまった瞬間にルイズがこちらに向かって駆け込もうとし、しかしロングビルに腕を掴まれる。
 その腕が後ろ手に縛られているのを見て、目の前で繰り広げられている光景が何なのか分かったが。
 おっとり刀でブレイズガンを構えた時には遅かった。

「おっと、動くんじゃないよ」

 今までの貞淑な様子から一変、荒々しい野党の声を上げるロングビルの手にはナイフが握られており。
 その切っ先は、ルイズのか細い首に触れていた。

「な、なんのつもりだ……ロングビルさん?」
「間抜けな詮索の前に、杖を捨てな! 強くても馬鹿な男は哀れなだけだよ? ――そう、腰の剣もよ」

 鋭い語気と皮肉にたじろぎながらも、ムスタディオは状況を判断しようとしていた。廃屋は静まり返っている。
 先ほどまでは慌ただしい物音がしていた。恐らく、キュルケは中で拘束されているのだろう。そしてロングビルの腕に後ろから絡めとられているルイズ。眼を伏せ、唇を噛み、口惜しそうに震えていた。
 周囲には野生らしき獣の気配しか感じられない。
 出来ることは、何もなかった。

「……あんたがフーケだったんだな」

 ロングビル――土くれのフーケがにやりと笑う。
 ムスタディオは、力なくブレイズガンを、そして鞘に納めたままのデルフリンガーを地面に下ろした。
 どこか遠くで、きゅるきゅるという獣の鳴き声が聞こえていた。



「ブレイブストーリー/ゼロ」-19





 廃屋の正面に四人は転がされた。ムスタディオも両手を縛られ、四人の杖や身につけていた鞄等は全て外され、一か所に集められている。しかしブレイズガンだけはフーケの手の中にあった。
 フーケが手際良くブレイズガンを操作し、構える。銃口が向けられた先は廃屋である。

「それじゃあ、具合を見るとしましょうか」

 その言葉と共に、引き金が銃握に押し込まれた次の瞬間。

 森に吹雪が吹き荒れた。

「きゃああああ!?」

 誰の物とも知れない悲鳴が暴風にかき消される。廃屋から噴き上がった冷気が怒涛の如く体を舐め、体温を削り去る。同時に信じられない速度で建物の表面を結晶が覆って行く。吹雪が舞ったのはたった数秒のことだったが、それが止んだ頃には廃屋が凍り漬けになっていた。
 ルイズも、キュルケも、普段は無表情なはずのタバサでさえも廃屋に倣うように表情が凍っていた。
 ただ一人、その意味を噛み締めるムスタディオはフーケから目を離さない。

「へぇ。すごいじゃないか。やっぱり持ち主の力を増幅するマジックアイテムみたいだね。
 加えてこの精神力の消費の低さ。とんでもない値打ち物じゃないか。ムスタディオ、平民のあんたが持っておくにはもったいないほどにさ」

 ブレイズガンの銃口がムスタディオに向けられる。銃口の内側に刻まれた魔法文字の文様が淡く発光する様を見ながら、自分はここで死ぬのだろうかと思った。
 しかしその思いは、薄らと空気に残った冷気の残滓程度の強さしか伴っていない。
 それより。彼にはどうしても問い正したいことが出来ていた。

「……その銃の威力は、持ち主の魔法力に比例するんだ。あんた、凄い魔道士だったんだな」
「そりゃ良いことを聞いたね。いいのかい、そんなことをあたしにばらしても?」
「メイジ、貴族だったのかい、あんた?」

 フーケが不審そうな顔をするが、その表情は一瞬で忌々しい風へと溶ける。

「……『名をなくした者』ってやつさ。今は違う」

 ムスタディオはそう告げるフーケを見た。
 イヴァリースで行動を共にしていた貴族達、それにキュルケやルイズが時折見せる高貴さは感じられない。
 その一切は削げ落ちてしまったのか。あるいは元から持ち合わせていなかったのかは判断しかねる。

 でも。
 ムスタディオは考えてしまう。悪い方へ、悪い方へと。
 今彼女に残っている感情、考え方、それが彼女の本質だったのだとしたら。
 貴族という存在は、なんて。





「――あんたは、誰かのために剣を執ろうと思ったことはあるかい?」

 何故、そんな問いが口を突いて出るのかと自分でも不思議に思った。
 そして同じように、様々な何故が胸を渦巻いていた。

 何故、仲間達の顔がこんなにもちらつくのだろうか。
 何故、会議室でのコルベールの様子が心の底にこびりついているのだろうか。
 何故、それと今まで共に研究に興じた彼の姿を比べている自分がいるのだろうか。
 何故、ルイズが泣いていた顔が。楽しそうにしていた町での様子が。出会った当初の忌々しげな表情が頭の中を繰り返されるのだろうか。

 そして何故、フーケに「執ったことがある」と答えてほしい自分がいるのだろうか。

「ふん。時間稼ぎはするだけ無駄だよ」

 フーケの返答に、その何故への答えの凡てが含まれている気がしていた。
 しかし彼女は答えてくれなかった。

「誰も助けに来てくれやしないんだからね」

 フーケが引き金に掛けた指に力を込めるのが分かった。
 ムスタディオは死にたくなかった。
 自分が死ぬのはもちろん嫌だが、後ろの三人の少女を死なせたくはなかったし、こんな悪党に強力な武器を渡してしまうのも許せなかった。
 でも何より、今の問いへの答えが知りたかった。

「――そうでもない」

 だから必死の形相でフーケを睨み続けていた彼は、タバサが小さく呟き、口笛を鳴らしたのを聞き逃した。


   ◇


 ――捕まった夜。
 フーケと交戦する、その直前。
 タバサは自らの使い魔に、自分の後を尾行し、合図と共にフーケを襲えと命じていた。
 彼女が合図を出すタイミングとして指標にしたのは、フーケが最も油断した瞬間。
 そしてムスタディオとフーケの会話は、彼がもたらした情報の有用性、そして理由は定かではないがフーケの内面を抉ったらしい問いかけ、それらの要素を以て図らずともタバサがフーケに捕らわれて以来、初めて大きな隙を生じさせていた。

「そうでもない」

 タバサが口笛を吹いた次の瞬間。
 一度は傷ついた体を装って撤退した使い魔が、再びフーケに襲いかかった。


   ◇





 森の中から何かが、烈風の如く飛び出して来た。
 それがタバサの使い魔の風竜だとキュルケが気づいた時には、フーケが風竜の羽撃を食らって何メートルも吹き飛ばされており、その後驚異的な勢いでフーケが森の中へ飛び込み、姿を消していた。
 あっけに取られている時間は長くなかった。タバサの縄を食い千切ったシルフィードに拘束を解いてもらう。
 他の二人も自由になるのを見ながら、真っ先に自分の杖を奪われた装備品から掴み出すと、キュルケはタバサに走り寄った。

「タバサ! よかった、本当によかった!」

 タバサはいつも通りのタバサだった。死ぬような目に合ったとは思えない無表情さで杖をチェックしている。
 その彼女に抱きつこうとして、しかしキュルケは杖で制された。「まだ終わってない」という呟きに、そんなことは分かっているのに、と思う。胸中ではずっと、憎悪の炎が静かに揺らめいている。キュルケはフーケのことを決して逃がさない、と決めていた。
 フーケが飛び込んだ辺りの茂みを見ようとしたキュルケは、しかしその前にタバサの様子が妙なことに気づいた。
 彼女は先ほどから、フーケの気配に気を払っていないように見えたのだ。
 その視線は解放されてからずっと一点に集中されている。
 ムスタディオだった。自分の装備品を確認し、タバサは剣を引き抜く彼の挙動をずっと追っていた。
 怪訝に思ったのは彼女に余裕が残されていたからだった。
 木々がなぎ倒される凄まじい音が響き渡り、彼女の頭からその疑問は締め出されることになる。
 森の中、凄まじい勢いで土が盛り上がっていく。
 真っ先に反応したタバサが、取り戻した杖で氷の魔法を放つ。しかし巨大な氷の竜巻の直撃を受けた小山は形をやや崩しただけですぐさま再生し、どころか人の形を成して行く。
 現れたのは巨大なゴーレム。
 そしてその肩には。

「……フーケ!」

 フーケはゴーレムの肩の上で、何か巨大な杖めいた物を抱えている。それはムスタディオの杖を巨大化させたような代物だったが、今のキュルケにとってそれは些事であった。
 ――疑問が締め出されたキュルケの中は、憎悪の炎だけで満たされていたから。

 キュルケは、自分の顔が嫌悪と獰猛さで歪んでいることを知らない。
 そしてそんな己の様子を、タバサが決定的なまでの興味深さで一瞥したことにも気付かなかった。


   ◇





「おいおい、やっとこさ鞘から出してくれたと思ったらなんだいこの修羅場はよう」

 フーケが抱えている物を見た時、ムスタディオは我が目を疑った。デルフリンガーが何か言っているが耳に入ってこない。

「なんで、あんな物が……!」

 発作的な勢いで仲間を見やる。キュルケとルイズは戦闘態勢を取り、タバサが使い魔に飛び乗ろうとするところだった。

「逃げるぞ! 三人とも竜に乗るんだ!」

 怒鳴りながら自分も使い魔へ走り寄る。ずしん、とゴーレムが足踏みし、腹に響く音。
 キュルケとルイズが杖を振りかざす。

「ヴァリエール様! キュルケ!」
「嫌よ! あたしは絶対にあの女を捕まえるわ!」
「私も、逃げるわけにはいかないのよ!」

 二人の返答にムスタディオは憤りに近い苛立ちを覚え――次いで、二人の目に真剣さと、剣呑さが同居しているのを見てとって、踵を返して二人へと走った。
 二人はてんでバラバラに呪文を詠唱し始める。しかしそれよりも早く、フーケが「それ」を構えるのが見えた。

「二人とも避けろっ!!」

 叫べども、二人とも呪文を詠唱していたために動きが鈍い。
 ムスタディオが二人目掛けて跳んだ瞬間、フーケの手元で光が断続的に瞬き、巨人の集団が一斉に足踏みをしたような連続した轟音が鳴り響く。
 ゴーレムの出現によって荒れた地面が砂埃を巻き上げ、視界が覆われてしまう。地面を転がったムスタディオの腕の中には、華奢な一人分の温もりがある。恐らくルイズだった。


「ヴァリエール様、逃げるぞ」
「……いやよ」

 温もりを抱きかかえたまま、ムスタディオは砂塵に紛れて森へ逃げようとする。
 その腕を、ルイズは引き剥がそうとしていた。

「何言ってるんだ。今のあれ、見たでしょう。あれは人間じゃ太刀打ちできない。不意を打つか、労働八号や飛空挺を持ってこないと」
「逃げるわけにはいかないのよ!」

 視界が段々と晴れてくる。走るムスタディオの目に、必死な形相のルイズの顔がぼんやりと入る。
 その訴えをムスタディオは無視することにした。森へ飛び込み、ルイズを離す。ルイズはすぐに飛び出して行こうとしたが、外でゴーレムの足音が響き、その動きが固まった。その隙にムスタディオが腕を掴む。

「離しなさいよ!」

 いい加減にしろ、と言いかけて、ムスタディオはしかし言葉に詰まってしまった。
 彼の目はルイズの表情に釘付けになっていた。
 何故、その眼差しに、悲愴なまでの決意を感じてしまうのだろう。
 そして何故、と思う。
 何故自分はフーケに投げ掛けた問いを、ルイズにも答えて欲しいと思っているのだろう。

 唇を動かしかけたムスタディオは、 掃射の音が鳴り響いて我に帰った。
 完全に砂が晴れた空き地を見ると――キュルケが転がっていた。

「くそ!」

 こんな逼迫した状況で余計な事を考える自分の心を罵倒する。

「タバサさんと一緒に逃げるんだ! 絶対に戻って来ちゃ駄目だぞ!」

 叫ぶように言って、ムスタディオは森を飛び出した。
 剣一本で飛び出すなど自殺行為に等しかったが、シルフィードの一撃でブレイズガンは跳ね飛ばされ、姿が見えなくなっていた。
 だからムスタディオは走る。異様な速度で風景が流れる。
 デルフリンガーを握る左手のルーンが輝く軌跡を空中に残す。
 多種多様な「何故」で内心がぐちゃぐちゃのまま、ムスタディオは駆ける。



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