鋼の巨人と青銅の乙女の交錯に、大気は振るえ、大地が鳴動する。
ゴーレムの自慢の左手が螺旋を描き、ワルキューレの胸甲に突き刺さる。
不快な金属音が轟き渡り、真昼の如き火花を散らし、乙女の胸元を大きく抉り取っていく。
不快な金属音が轟き渡り、真昼の如き火花を散らし、乙女の胸元を大きく抉り取っていく。
「一気に押し切っちまいなッ!! ゴーレム!!」
「気高く可憐に投げ返せ! ワルキューレッ!!」
「気高く可憐に投げ返せ! ワルキューレッ!!」
主の激励を受け、乙女の瞳が燃え上がる。
腰を落とし、大股を開いて踏みとどまると、無骨な両手でドリルを掴む。
回転は掌中で激しくもがき、生じた摩擦でワルキューレの手が赤々と燃える。
全身を使って暴れる螺旋を押さえ込み、体を反らしてドリルごと巨体を持ち上げると、一息に真横へ放り投げた。
腰を落とし、大股を開いて踏みとどまると、無骨な両手でドリルを掴む。
回転は掌中で激しくもがき、生じた摩擦でワルキューレの手が赤々と燃える。
全身を使って暴れる螺旋を押さえ込み、体を反らしてドリルごと巨体を持ち上げると、一息に真横へ放り投げた。
「ハッ!! やるじゃないか! ボウヤ」
大きく投げ飛ばされながら、ゴーレムが右手で大地を突く。その手首が高速で一回点し、たちどころに体勢を立て直す。
脚部ローラーの回転で慣性を殺しつつ、地面を削りながら巨体が静止する。
大きく投げ飛ばされながら、ゴーレムが右手で大地を突く。その手首が高速で一回点し、たちどころに体勢を立て直す。
脚部ローラーの回転で慣性を殺しつつ、地面を削りながら巨体が静止する。
辺りに静寂が戻り、二体の巨像は再び向かい合った。
「2人は桟橋だ ここは僕の乙女に任せて 早く向かってやりたまえ」
「フザけんじゃあねえッ!! ここで尻尾を巻いて逃げろってか!?」
「フザけんじゃあねえッ!! ここで尻尾を巻いて逃げろってか!?」
「バカな事言ってんじゃないわよ ダーリン」
緩やかに着地したシルフィードの上から、キュルケが2人の会話に割って入る。
「ダーリンの子供っぽいところも大好きだけど
アンタが行かないで 誰があのこまっしゃくれを守ってやんのよ」
アンタが行かないで 誰があのこまっしゃくれを守ってやんのよ」
「ぐっ・・・」
「無粋」
後から降りてきたタバサが、慎一を斬って捨てる。
後から降りてきたタバサが、慎一を斬って捨てる。
チッ、 慎一が大きく舌打ちする。
ガキどもに説教を受けるとは思ってもいなかった。
ガキどもに説教を受けるとは思ってもいなかった。
「・・・お前ら 死ぬんじゃねえぞ」
そう言い残し、慎一は上空へと飛び去った。
そう言い残し、慎一は上空へと飛び去った。
パチ、パチ、パチ、と、 フーケが満足そうに拍手を打つ。
「見事な啖呵だ 気に入ったよ!
ドットクラスで巨体を動かす創意工夫も 素直に称賛しておこう
ドットクラスで巨体を動かす創意工夫も 素直に称賛しておこう
―だが 青銅のボインちゃんの方は とっくに限界なんじゃないのかい!?」
フーケの言うとおりであった
たった一度の突撃で、ワルキューレの装甲は大きく穿たれ、両手の金属もくたびれていた。
たった一度の突撃で、ワルキューレの装甲は大きく穿たれ、両手の金属もくたびれていた。
加えて、ギーシュ自身の消耗も激しい。
通常の7体分の巨体を動かすことは、絶えず7体の乙女を連動させる事と同義であった。
後数回同じことを繰り返せば、ワルキューレは巨大なスクラップと化すであろう。
通常の7体分の巨体を動かすことは、絶えず7体の乙女を連動させる事と同義であった。
後数回同じことを繰り返せば、ワルキューレは巨大なスクラップと化すであろう。
「だが 容赦はしないよ!
曲りなりにも この『土くれ』のフーケの前に立ちはだかろうってんだ
とっておきのダメ押しってヤツを見せてやる!!」
曲りなりにも この『土くれ』のフーケの前に立ちはだかろうってんだ
とっておきのダメ押しってヤツを見せてやる!!」
フーケが指を鳴らす。
それに合わせ、貫手の形をとっていた右手が回転を始め、先端が徐々に先鋭化していく。
右肘から先が大きく膨れ上がり、巨大な円錐状の物体へと変貌を遂げる。
回転が止まると、そこには新たなドリルが出現していた。
それに合わせ、貫手の形をとっていた右手が回転を始め、先端が徐々に先鋭化していく。
右肘から先が大きく膨れ上がり、巨大な円錐状の物体へと変貌を遂げる。
回転が止まると、そこには新たなドリルが出現していた。
「今度は2本同時だッ!!
どう受ける!? ボインちゃん!!」
どう受ける!? ボインちゃん!!」
ギーシュが冷や汗を流す。
両者の間には決定的な馬力の差があった。
仮に片方を受け止める事が出来たとしても、残りの一本が乙女の純潔を貫くであろう・・・。
両者の間には決定的な馬力の差があった。
仮に片方を受け止める事が出来たとしても、残りの一本が乙女の純潔を貫くであろう・・・。
「大丈夫」
タバサが囁く。
タバサが囁く。
「みっつの心が ひとつになれば・・・」
「遺言は決まったかい? 坊ちゃん 嬢ちゃん!!」
ギーシュは無言で杖を振るう。
ワルキューレが大きく左足を振り上げ、四股を踏む。 大地が大きく揺れる。
ワルキューレが大きく左足を振り上げ、四股を踏む。 大地が大きく揺れる。
「ゴーレムにはゴーレム
攻撃には攻撃
攻撃には攻撃
回転にはッ! 回転だァッ!!」
ワルキューレが大きく左足を踏み出し、右肩をぐるんぐるんと回し始める。
最初は緩やかだった回転が、遠心力の助けを借りて、次第に大きな旋風となる。
最初は緩やかだった回転が、遠心力の助けを借りて、次第に大きな旋風となる。
「奥の手はグルグルパンチかァッ!! そのセンスはァ嫌いじゃあないよ!!」
「・・・確かに慎一の言う通りね 弱い奴ほどまどろっこしい講釈をしたがる」
キュルケの一言に、フーケの顔がピクリと歪む。
タバサが高らかと宣言する。
「最後にひとつ教えてあげるわ 『土くれ』
2本目のドリルを出す暇に私たちを押し潰しておけば あなたの勝ちだった」
2本目のドリルを出す暇に私たちを押し潰しておけば あなたの勝ちだった」
「・・・面白い!!」
フーケが深緑の瞳をグルグルと回転させながら、顔面の筋肉だけで無理やり笑う。
フーケが深緑の瞳をグルグルと回転させながら、顔面の筋肉だけで無理やり笑う。
「見せて貰おうかッ!! 乙女の最終兵器ってヤツをねええええぇぇぇェェ!!!!」
フーケが叫ぶと同時に、ゴーレムが大きく腰を落とす。
計8本のローラーが勇ましく回転し、鋼鉄の巨体が爆走を始める。
乙女の純情を汚さんと、両手の螺旋が唸りを上げる。
計8本のローラーが勇ましく回転し、鋼鉄の巨体が爆走を始める。
乙女の純情を汚さんと、両手の螺旋が唸りを上げる。
それに合わせてワルキューレも動く。
7体の乙女が一挙に連動し、ホームに投げ込む強肩外野手のような動きで大きく踏み込む。
7体の乙女が一挙に連動し、ホームに投げ込む強肩外野手のような動きで大きく踏み込む。
同時に詠唱が完成し、3人がピシリと杖を振るう。
最初に発動したのはギーシュの『錬金』
大きく振りかぶった乙女の右腕、その肘先が変形を始め、小さなワルキューレが出現する。
肘部のジョイントを失った小さき勇者は、遠心力で一直線に投げ出されていく。
大きく振りかぶった乙女の右腕、その肘先が変形を始め、小さなワルキューレが出現する。
肘部のジョイントを失った小さき勇者は、遠心力で一直線に投げ出されていく。
次にキュルケの魔法が発動。
飛び出した乙女のスカートから、激しい炎が吹き上がり、
爆発的な推進力となって、その身をぐんぐん加速させる。
爆発的な推進力となって、その身をぐんぐん加速させる。
最後にタバサの魔法が発動。
疾風の障壁がワルキューレの周囲に展開し、前方の見えない空気の壁を切り裂いていく・・・。
火と風の女神の加護を受け、勇ましき乙女が音速を超える・・・!!
「なッ!? ロケットパ・・」
「「「いっけえええええぇぇぇぇッ!!!!」」」
「「「いっけえええええぇぇぇぇッ!!!!」」」
高速と音速のクロスカウンターである。
互いの強度差は、最早意味を成さなかった。
互いの強度差は、最早意味を成さなかった。
痛烈な爆音が轟き渡り、衝撃波が周囲を根こそぎ吹き飛ばす。
原型を留めぬ青銅の塊が、ゴーレムのドテッ腹をブチ抜いた。
原型を留めぬ青銅の塊が、ゴーレムのドテッ腹をブチ抜いた。
―敵の巨体が静止したのを確認すると、大きな乙女がゆっくりと背を向けた。
やや、間をおいて・・・
ド ワ オ オ ! !
という爆発音とともに、風穴の開いたゴーレムの巨体が四散した・・・。