あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

最速の使い魔-3

(これは、夢。)

彼女は知っている。いつもの悪夢だ。
招かれた宴席。罠。
一人の男が幼い自分の前に現れる。

(……やめて)

呟く。目をそらそうとしてもそれはできない。
白い髪の男だ。黒い服の男だ。黒い色眼鏡をかけた男だ。
執事のように自分のグラスに飲み物を注ぐ。それは、毒。

(かあさまっ!)

何の疑問も持たず伸ばされた自分の手を、母の手が叩き落とす。何か粗相をしたのだろうか。不安げな自分の瞳に対して、母は少しだけ悲しそうに、さびしそうに笑って――

(だめっ!それは、だめっ!)

ああ、その叫びは届くことなど無い。これはただの夢だからだ。

(あ……ああああ……ああああああああああああああっ!)

グラスが、落ちる。目から生気が抜け、よだれが零れ落ちる。
ぼうぜんとする“私”。そして――、そして、私の代わりに毒を飲んだ母様に向けて、つまらないものを見るような目で見る男。小ばかにした笑みを浮かべる男。

(……っ!…………!!!!)

あの時、自分が今の力を使えたら、怒りのままに奴に襲い掛かっただろう。今でもその思いはくすぶる。

――っ!?

目が開く。現状把握。トリステイン魔法学院、寮の自室。それだけ確認する。そう、ここは安全な場所。
……自分がそう考えたのがわかった瞬間。手が震える。とめようとしても止まらない。安全な場所だと考えた自分が許せない。だが、それよりも大きく、暗いものが。手の震えを止めてはくれない。

――憎悪とともに、刻まれたものがある。後に、かの使い魔の戦闘に同行させられたとき。その時、自分に上書きされた感情の名は――

“恐怖”



最速の使い魔 第三話 ラディカル・グッドスピード



学園長室で謹慎処分が下されてから10日。

「――ってこと。まあ、知覚の同調は……試しては見たけど出来ないみたいだし……貴方に頼みたいのは秘薬の材料の採集と、護衛。この二つかしら」

夕焼けが窓を染める中、ルイズは自室で椅子に腰掛け、壁にもたれている男と向かい合っていた。

「でも、本当によかったの?」
「んん?」

話しかけた相手はストレイト・クーガー。異世界から召喚された男。立場は、“使い魔”

「正直に言うわ。私は貴方に残って欲しい。使い魔としてね。だけど……私には貴方を引き止めれる力なんて無い」

普通、使い魔には己の力量が反映される。例えばドットメイジ・ギーシュのジャイアントモール。トライアングルメイジ・キュルケのサラマンダー。はっきりと力量によって召喚されるものに違いがあるのが分かる。
さて、平民でありながらメイジを圧倒したクーガー。“ゼロ”のルイズと比べてみるとあまりにも差がある。

「貴方には契約の縛りなんて関係ないように見えるの。……クーガー、違うとは思うけど……私への同情で使い魔をやるなんていうことは無いわよね。」

キッ、とその目がとがる。そうだとすれば、それは侮辱に他ならない。自分の噂はいやでも耳に入るだろうし、決闘のときのあの無様な姿も見られているのだ。

が、見上げたその目はどこか面白がるような瞳に迎撃される。

「な、なに?」
「ヴェリエール様、俺はこう考えているんです!」

ずずい、と目と鼻の先にクーガーの顔が接近。顔を引くルイズ。
追う様に近づくクーガーの顔、さらに接近。あわてるルイズ。

「ヴァ、ヴァリエールよ!」
「ああすいません。人の名前を覚えるのが苦手でして」
「どこがよ!」

突っ込むルイズ。が――

「人に何かをしてもらったらお礼をするのは至極当然であり、文化の基本法則だ!ありがとう、うれしいです、助かりました、等の言葉だけですますと言う問題じゃない!一方的に与えられたものにお礼をしないでいると、その内罪悪感になって自分に跳ね返ってくる!」
「え、え、え???」
「そう!お礼は早く返すことが重要なんだ!遅いことなら誰でもできる!猫でもできる!この際なんでもいいからお礼を最速で返すことこそ人間関係を円滑にするための物理的有効手段であり、俺の信条!そうは思いませんか!?ヴェリエール様!」
「え、えっと……? 」

――そんな突っ込み、言葉の奔流に押し流されてしまう。自分の姓が間違えられていることへの突っ込みすら出来ないまま、なんとか思考だけはその中から拾い上げて。

「つ、つまり……恩返しがしたいからってこと?」
「そのとぉーりぃ!」

(な、なんというか……喋りだすと別人格ね、クーガー……)

ルイズの中のクーガー株、最速の勢いで降下。とはいえ、それなりの好意度は残っているが。

「とにかく、こちらは命を助けられたわけです。それなりのことをしなけりゃならんでしょう」
「ん~……」

煮え切らないルイズ。――この光景、以前のルイズであれば『そう、じゃお願い』とでもなる場面なのだろう。それ以前に奴隷のように扱った可能性も高い。
だが、彼女は既にクーガーを“使い魔”でも、“平民”でもなく一人の人間として見てしまっている。それが平民に対する申し訳なさ、という珍しい現象を引き起こしている。

「そうね、明日は虚無の曜日……。つりあいが取れるとは思えないけど、貴方がこっちで生活するのに必要なものを揃えるわ」
「いいんですかぁ?」
「当然よ!これでも貴方のご主人様になったんだしね。それくらいのことはするわよ」


――後に、この決断をルイズはとんでもなく後悔することになる。


「ところで、いい加減姓で呼ぶのも間違えるのもやめてくれないかしら」
「あぁ、すいませんユイズ様」
「ルイズよ!!!!」

賑やかな夜は過ぎていく――


「――参ったね……これは」

闇の中をミス・ロングビル――土くれのフーケが歩く。彼女の目的はこの魔法学園の宝物庫にあるといわれる秘宝。だが、それにたどり着く前の障害が厄介だった。壁。単なる壁であるが、その強度が並ではないということが問題だった。

「――私のゴーレムでも、無理か。この厚さは……」

壊すだけではない。壊した後、秘宝を奪い無事に逃げること。それを考えると、例え壊せたとしても魔力が厳しいだろう。

「でも、ここで諦めるのも悔しいね」

何しろセクハラに耐え続けながら得た情報だ。なんとかして活かしたいもの、そう考えるのも無理は無い。だが――

(――きつい)

フーケの冷静な部分が告げる。今の自分の手札に、壁を壊すことが確実なものは無い。諦めたほうがいいのではないか。教師たちも腑抜けているとはいえかなりの使い手だ。手間取れば身の破滅は免れない。

「ま、一応この秘書としての稼ぎもそれなり……。最後にあの爺への仕返しでもすればいいか」

史実がずれる。ミス・ロングビルは虚無の曜日に『実家で妹が倒れたので看病のために戻ります』という手紙を残して忽然と消える。
ちなみにミス・ロングビルに対するセクハラの数々を赤裸々に綴った書面が王室宛に送られたり、魔法学院の予備予算の一部が消えたりしたのは全くの余談である。


虚無の曜日。普通なら寮の一室にいるタバサにとっては休日であり、自室で本を読むのに格好の日。が、不運なのか幸運なのか。疲れた目を休ませるために窓の外に目をやって。妙な光景を見ることになる。


『本当に馬車だけでいいんですか?』
『えぇ!全く問題ありませんよ、お嬢さん』
『……なんか私と扱い違わないかしら?』
『え?そんなことないですよユイズ様』
『ルイズよっ!!!』

ルイズ。使い魔。メイド。そして、その前に置かれているのは馬車。正確には、馬車の本来馬がいるべきところに何もいないものが置いてあった。

(……??)

タバサの疑問はおそらく全ての一般人に共通するものだろう。馬のいない馬車をどうしようというのか。

『まぁとにかく乗ってください。ああ、そこではなくこちらです』
『……私に御者台に座れって言うの?』
『いや~とんでもない!すぐにそこを特等席にして見せましょう!』

(……わからない)

抗議の声を上げるルイズをひょいと抱え上げ、御者台に乗せ、自らはその隣に座る。

『では、しゅっぱぁあああつっ!!!!』
『へ』
『は』

「っ!?」

馬車だったものの屋根が消え、周囲の大地が抉れ、七色に輝いた何かがそれに巻きついていく。車輪だったものが別の何かに変わり、車高が下がり、色が変わる。その変化は一瞬。
ピンクを基調とした、謎の物体がそこには出現していた。

『私のアルターの名は!』

生まれた静寂を破り、放たれたのは使い魔の声。

『ラディカル・グッドスピード!!!!!』

その声を合図としたかのように、その物体が動く。否、走り出す。加速、加速、加速。

『い、いやぁぁああぁあああぁああああああぁぁあぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ……』

爆音と共にすさまじい悲鳴が響き――遠ざかる。残されたのはメイドだけ。そのメイドが、呆然とした調子で呟く。

『今のは……まさか……?』

だが、それを見ることも、聞くことも今のタバサには出来なかった。

「ごほっ……くう……っあぁぁぁああ」

(あれは、あれは、あれは――)

雪風。その二つ名のように、滅多にタバサは感情を外に出さない。その彼女が、苦しんでいた。呼吸が上手くできずに咳き込み、自分の体を抱き寄せる。

「タバサ!!タバサ!?」
ドアが乱暴にたたかれる音が耳に入るが、それに対応する余裕など無い。ついに体を支えるだけの酸素すら失い、彼女は倒れこむ。
「っ!?開けるわよ!!」

唱えられたのはアンロック。かぎ開けの術であり、校則違反の魔法でもあるが、唱えた本人――タバサにとって数少ない友人、キュルケ・フォン・ツェルプスト――はそんなことで微塵の躊躇もしなかった。
明らかに部屋の中では異変が起こっている。友人に何か危険があったのではないか。そう考えただけで体が勝手に動いたのだ。
そして、開け放たれた扉の奥。窓辺で倒れている彼女に駆け寄る。

「タバサ!?どうしたの!?」
「はっ……ふぅっ……」

小刻みに震える小さな体を抱き起こし、背中をゆっくりとたたく。こういった場合、慌ててゆすっても状況は何も好転しない。そういった意味でも最低限の知識があるキュルケが助けに来たのは、タバサにとって喜ぶべき事だった。

「落ち着いたかしら」
「……(コク)」
「で、なんで貴女があんなに取り乱したの?」
「なんでもn「ないわけないでしょうが!!!」……」

怒気すらはらんだその言葉にタバサはキュルケを見上げる。怒っていた。かなり怒っていた。髪の毛が逆立っているような、そんなオーラすら放っていた。

「あのね……事情を全部聞こうなんて思わない。あなたが色々背負っているの、少しは分かっているつもりだし」
「……」
「でもね……心配くらい、させて」

最後の言葉は、力なく放たれた。怒りは消え、さびしげな姿。

「……“アルター”」
「?」
「……ルイズの使い魔」
「……」
「……かなり、危険」

脈絡の無い言葉。しかし、タバサの目に込められたわずかな意思をキュルケは読み取る。

「……」
「……どうするの?」
「話を聞きに行く」
「わかったわ」

立ち上がり、窓辺によるタバサ。それに当然のようについてくるキュルケ。

「……?」
「当然、私もついていくわよ」
「……」
「だって、なかなか面白そうじゃない?」

――実際、彼女達の間にあるのは、安っぽい言葉で片付けられるものではないのかもしれない。親友。言葉だけでは表せないモノがあるから、彼女たちはそうなのだ。
キュルケは面白そうだ、という理由だけでタバサの事情に近づく人間ではない。それが意味するところに気づいているから、タバサは少しだけうつむく。

「で、その使い魔はどこに向かったの?」

キュルケの疑問にタバサは少しだけ目を閉じ――すぐに結論を出した。

「多分、トリスタニア……」


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