あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

使い魔定光-4


私にとって人生最悪の二日間といってもいい、あの流刑体騒ぎから数日が経った。
経っちゃったと言うべきなのかも…
あれから新たな流刑体が現れることもなく、比較的平和な日々が続いている。
私は退学にも停学にもならずに、普段どおりの生活に戻った。
角鍔との闘いで壊れた建物の修繕費や、怪我した人の治療費、その他もろもろの莫大な請求が来たことは来たけど、私本人をどうこうするといった事にはならなかった。

ポンコツの話じゃ、ここ数日で1000体もの流刑体がハルケギニアに降ってきたらしい。
1000体よ?1000体!信じられる?
私はとてもじゃないけど信じられない。
そのぐらい平和ってことなのかな。


ボンっと、爆発音が響いたかと思うと、あたり一面煤だらけ。
もはや何度目だろう。眼前には見慣れた光景が広がっている。
魔法失敗だ。

「またですか、ミス・ヴァリエール…」
「…すみません」
「もういいわ、席に戻りなさい。では代わりにやってくださる方?」

さすがにこう何度も失敗すれば、いくら温厚な人物でもうんざりしてしまう。
失敗したルイズの代わりに教師の目に留まった一人が、教壇に向かう。
言われたとおり席に戻るルイズとのすれ違いざまに、にやりと侮蔑のような笑みを浮かべるのが
が見える。
まわりからはヒソヒソ声どころか、ごく自然な声で「ゼロのルイズ」等と嘯く声が聞こえてくる。
これもまた、彼女にとって見慣れた光景だった。
彼らは、ルイズが角鍔と闘ったことを知らない。
一部の者以外には、流刑体の存在そのものが伏せられていた。
撃針についてもポンコツについてもルイズが呼び出した使い魔、としか説明していない。
角鍔の一件は、ある生徒が魔法に失敗したために起こった事故だと説明されている。

その偽の情報がルイズの立場を悪くしているとは、説明した教員達も知らないだろう。
ゆっくりと。だが確実に、あの騒ぎの中心にいたのはルイズだという確信が、学院全体に広がっていた。

『見事な爆発だったな、ルイズ』
「…あんたも嫌味言うのね?」
『いや、なにもない空間からあれだけのエネルギーを発生させるのは並大抵のことではない。
あれは水蒸気爆発か?回答の入力を』
「ただ失敗しただけよ。なーにはしゃいでんだか…」

席に戻ったルイズは、彼女のうしろに陣取っているポンコツを見やった。
知識欲旺盛なポンコツは積極的に授業を見学したがり、こうやってほぼ毎時間ルイズについて授業を拝聴している。
もっとも、最初に連れてきたときは、キュルケやタバサに生首を抱えてきたのかとずいぶん驚かれたものだが。
他の使い魔たちに混じって、ちょこんと床に置かれたポンコツはいささか場から浮いていた。
しかし、慣れとは恐ろしいもので、今では床に置かれた頭だけの甲冑も、まるで最初からそこにあった教室のオブジェかというほど馴染んでいる。


「改めて見ると奇妙な光景よね…」
『まったくだ。まるで流刑体の群れにでも囲まれている気分だよ』
「…違うわ。あんたのことよ。首だけの使い魔なんて聞いたことないもの」
『心外だな。…ところでルイズ』
「なによ?」
『なにか悩みがあるんじゃないか?私でよければ相談にのるぞ』

ポンコツから出た意外な言葉に、ルイズは一瞬ドキリとした。
よくもまぁ、気の回る使い魔だ。兜の分際で。

「急になによ?」
『君が最近うなされている様子だったのでね』
「…余計なお世話よ。変な気を回さないで」
『しかし…』
「余計なお世話って言ってるでしょ!」

根掘り葉掘りと尋問のようなポンコツの口調に、ルイズはつい語尾を荒げてしまった。
彼女がなにかを抱えていることはさすがのポンコツでも理解できた。

「ミス・ヴァリエール!授業中に使い魔との私語は禁止です!」

見かねた教師がルイズに大声で注意する。それはそうだ授業中の私語にしては声量が大きすぎる。
結局、その一喝によってポンコツの質問はうやむやになってしまった。


「で、教室に置いてかれちゃったってわけ?」
『ああ。今の私は文字通り、手も足も出ない状態だからね。感謝するよ』

ポンコツはキュルケの豊満なバストに抱えられていた
あの後、すっかり機嫌が悪くなったルイズは、授業が終わるとポンコツを放置したまま教室を出て行ってしまった。
今のポンコツには胴体、「ユマノイドデバイス」と呼ばれるものがない。
角鍔にやられ、大きく損傷したそれは、今現在はコルベールの研究室に安置されている。
当のコルベールは、一日眺めているだけでも飽きないと豪語し、他の教員や生徒達から不気味がられているのはまた別の話。
そういうわけで、今や頭だけの状態のポンコツは、自分の意志で動くこともままならなかった。

「まぁ、私もサラマンダーがいなかったら気付かなかったと思うけど」
『あれには私も肝を冷やしたよ』
「危機一髪」

キュルケの右横を歩いていたタバサも口を開いた。
サラマンダーとはキュルケの使い魔なのだが、ポンコツが甚く気に入った様子で
これまでは角を何度も甘噛みされる程度だったのが、今回はポンコツの内部が空洞だと知ったサラマンダーが頭を突っ込んだのだ。
精密機械がぎっしり詰まった内部で火炎を吐かれれば、さしものポンコツでもアウトであっただろう。
幸い、直前でキュルケとタバサがそれに気付き、ポンコツは窮地を脱したわけだが。


「でも、自分の使い魔を置いてっちゃうなんてひどいメイジよねぇ」
『いや、それは私にも否がある。私は完全に彼女の信頼を得ていないようだ』
「信頼ねぇ?」

キュルケは何気なくサラマンダーを見やる。
自分はこの使い魔を信頼しきっているだろうか?
そしてサラマンダーは私を信頼しているのだろうか?
サラマンダーは答えない。

「私は…」
「私はシルフィードを信頼している」

普段から口数が多いとはいえないタバサが進んで会話に参加するとは珍しい。
迷いなく言い切るタバサはいつになく覇気があり、キュルケは少し圧倒された。

「なんか羨ましいわね、そういうの」
『何事もそれ相応の時間と努力が必要、か』


その頃、ルイズは既に自室にいた。

「ルイズ、明日少し付き合ってくれないか」
「逢瀬のお誘いかしら?誘う相手を間違ってるんじゃない?」
「真面目な話なんだ」
「…それとできれば君の使い魔も連れてきたほうがいい」

先ほどあった会話を反芻する。
教室を出てすぐギーシュにつかまり、一方的に要件を告げられたのだ。
その時の彼の表情は、いつになく真剣でなにか思いつめている様でもあった。
あれが学院一の女たらしであるギーシュ本人とは信じられない程だ。

「明日は虚無の曜日よね…」

ただでさえ流刑体やポンコツで頭を悩ましている今、人間関係でゴタゴタするのは勘弁してもらいたい。
しばらく悶々とした時間をすごし、あまり考え込んでも仕方ないと不貞寝を決めこんでベッドに入ろうとしたところで、ポンコツが帰ってきた。
自分がよく知る人物に抱えられて。

「返しにきた」
「え、ええ…ありがとう、タバサ」
「メイジが使い魔を蔑ろにするのはよくない」
「へ!?あ、そうね。ごめんなさい…」

無言の気迫に押されたルイズは素直に謝る。
しかし、相変わらずセリフが原稿用紙一行分をこえない子だ。
ちょこんと胸元に抱えていたポンコツをずいっとルイズにむけて差出すと、タバサはそのまま回れ右で帰っていった。

「なんであんたがタバサといっしょに居るのよ?」
『私がこの星の文字を教えて欲しいと言ったら彼女が時間をとってくれたのだ』

嘘は言っていない。
もっとも、それはあくまでおまけのようなものであり、実際のところは
ルイズ自身の事や、最近のルイズの様子について友人代表としてキュルケ、タバサに聞いていたのだ。
素直に言えばルイズが気を悪くするのは明らかである。
そこまで空気の読めないポンコツではなかった。

「ふーん…じゃ私寝るから」
『ああ。おやすみルイズ』

なんとなく納得したような、そうでないような声でルイズは布団へともぐりこみ
ポンコツは胴体を失ってからの定位置であるタンスの上に無造作に置かれた。


翌日。

「ねぇ!タバサ聞いてよ!ちょっと!」

慌ただしく自分の部屋に転がり込んでくるキュルケに、タバサは付き合いが長い人間にしか判別できない程度に顔をしかめた。
こういうところがなければ彼女はいい友人なのだが。

「虚無の曜日」
「それがね!さっきルイズとギーシュが二人して出かけていったのよ!おかしいと思わない?あのギーシュがよりによってルイズとよ!?」

タバサの言葉など華麗にスルーし、かなり失礼なことをずけずけと言うキュルケ
なんというマシンガントークであろうか。
ちなみにこれは彼女が実際に門を出る二人を見たわけではなく、目撃者からの又聞きである。
目撃者の「でも、そういう雰囲気には見えなかったけどなぁ」という証言が削除されているのがなんとも。
「ポンコツ君はこのことを心配してたのかしらねー」などと言っているキュルケをよそに
タバサはその後の展開を予想し、深いため息をつきながら読んでいた本をパタンと閉じた。

「ちょっと、一体どこまで行くわけ?」

噂の二人はラ・ロシェール森にまで来ていた。
ギーシュが女性との逢瀬によく利用している場所だ。

「…ここまで来ればもういいな」

先行していたギーシュがそう呟き、立ち止まる。
いきなり立ち止まるものだから、ルイズは彼の背中に顔をぶつけそうになってしまった。

『君の目的はなんなんだ?』
「目的?そうだね…」

ギーシュのただならぬ様子と、森の冷たい静けさに、身の危険を感じはじめていたルイズの代わりにポンコツが口火を切った。
途端にギーシュは昨日見せた真剣な表情になる。

「ルイズ、そしてルイズの使い魔くん… 君達は例の食堂の騒ぎのときどこにいた?
騒ぎの中心にいたんじゃないかい?」
「そ、それは…」
『それが事実だとしたらどうするつもりだ?』

ポンコツの無機質な眼光がギーシュを射抜くように見つめる。
ギーシュは自分を落ち着かせるように深く空気を吸い込み、ルイズをまっすぐと見る。

「あの騒ぎでモンモランシーが傷を負ったんだ。鋭利な刃物で切られたようでね。
幸い治癒魔法で助かったが、切り口があと少しずれていたら…命を落としていたそうだ」
「!?」

怪我人が出たこと自体は知っていた。だが全員無事だと聞かされていたし
なによりモンモランシーの姿もあれから何度か見かけていた。

「僕は許せない!その場に居なかった自分を!そしてそんな騒ぎを起した張本人をね!」
「違う…私は!私はただ!」
『ルイズを責めるのは筋違いだろう』
「っ!! 君じゃないのか―――――!」

「なんでぇ!なんでぇ!おめぇさんはよぅ!?」
「きゅぃぃーい!!」

いきなり森全体に響き渡ったあまりに場違いなそれによって、ギーシュの激昂はかき消されてしまった。
二人、それまでの事を忘れて声がした方を見ると、木々の隙間からそれなりに見慣れた白い肌が
露出していた。
タバサの使い魔、シルフィードのものだ。

「キュルケ!タバサ!あんた達こんなところで――――」

今度はルイズの声を遮るように木々を蹴破り、馬のような生物が飛び出す。
ただ、普通の馬ではないことは明白であった。

「俺っちの走り場を荒らしてんじゃねぇやい!このスカポンタンが!」
「ちょっと!なんなのよこいつは!?タバサ、わかる?!」
「わからない」

かなり緊迫した状態にもかかわらず、キュルケの問いに、いつも通りの抑揚のない声で答えるタバサ。
結局彼女は、キュルケに乗せられ二人のあとをついていったようだ。
二人はルイズ達から少し離れた場所で、ルイズ達の様子を伺っていたのだ。
そこにこのハプニングである

「ぽ、ポンコツ!あれってまさか…!」
『流刑体だ!名は「馬躁(バソウ)」!』
「な、なんだ!何が起こっているんだ!?」

あまりの急展開に状況がまだ飲み込めていないギーシュ。無理もない。これが当然の反応であろう。
だが、すばやく胸元の薔薇に手をやっているあたり、度胸がある。

『ルイズ!私を装着するんだ!』
「…っでも!」
『迷っている暇はない!』

ギーシュの言葉がきいているのか、ルイズはポンコツを被ることに戸惑ってしまった。
その一瞬の迷いが命取りになることを彼女はまだ知らない。


『早く!』
「っ!わかったわよ!」

シルフィードに気をとられていた馬躁がこちらの存在に気付いた。
もはや一刻の猶予もない。

「おめぇさん…随行体かい?」

変身は一瞬だ。ルイズがポンコツを被ると同時にそれは完了していた。
服の下には、全身を守る超軽量の外骨格とも言うべき紺と白のナノスキンが広がっている
この感覚はいささか不快であり、おそらくこれからも慣れることはないのであろう。

「う、嘘…」
「……!」
「へ、変身した…?」

すぐ傍でそれを目撃した3人は、文字通り三者三様に驚いていた。
あのタバサでさえも、目を大きく見開き驚きを隠せない様子である。
それもそうだ。自らの身体を一瞬に変化させるなど、先住魔法でもなければ…


次の瞬間にはルイズの身体は宙に舞っていた。
一瞬の迷いが大きな隙を生む。変身完了とほぼ同時にルイズに飛び掛かってきた馬躁の
強烈な後ろ足による打撃が、ポンコツが物理保護を展開する前にルイズの腹部に直撃していたのだ。
壊れた人形のように宙を舞ったルイズは、そのまま自由落下の要領で背中から地面に叩きつけられた。

「随行体とやり合うほど俺っちもバカじゃねえ」

馬躁が、全身を地面にめり込んだまま動かないルイズに向かってはき捨てるように呟く。

「さぁて、もうひとっ走りするか…ん?なんでぇ、小僧」
「お、お前に聞きたいことがある!」

再び走り出そうと、体勢を立て直した馬躁の前にギーシュが立ちふさがる。
馬躁の首筋から、左右一対に一見手綱のように見える触手が生えていた。
馬躁の生まれもって持つ生体武器、振動触腕である。
先端からは鋭い刃が突き出ていた。ギーシュの心に疑念が沸き起こる。

「学院で暴れまわったのは…お前なのか?」
「なにを言ってるんでぇ?おめぇさんはよ。人違いじゃねぇのかい」

話にならないという様子で答え、馬躁は持ち前の脚力でギーシュの頭上を飛び越えようとした。
が、それは叶わない。

「質問に答えるんだ…!」
「おめえさん、俺っちとやろうってのかい?」

馬躁の行く手を阻んだものは、ギーシュの操るゴーレム、ワルキューレだった。
鋼鉄の女神。青銅のギーシュの二つ名にふさわしい。



「ちょっとちょっと!一触即発よ!タバサ!」
「手を出さないほうがいい」

キュルケとタバサは、吹き飛ばされたルイズの近くにかたまり、その様子を見ていた。
その方が安全だと言うタバサの提案である。
ルイズは落下のショックで気を失ってしまったのか、ピクリとも動かないが
一応呼吸はしているようだった。

「でもね…」
「いいから。手を出してはいけない」

有無を言わさぬタバサの物言いに、キュルケは黙って頷く。
こんなに強くものを言う子だったかしら、と少しばかりの疑問を抱いて。


『ルイズ……ルイズ……』
(ポン…コツ…?)
『そうだ私だ』
『私は今、君の脳に残留する極小端末を通じて君と話している』
(あいかわらず意味わかんないわね…)
『簡潔に言えば、君の意識に直接話しかけているということだ』
(私、どうなっちゃってるの…今?)
『馬躁に攻撃を受け失神している状態だ』
(そう……罰が当たったのかな…馬に蹴られてなんとやらってね)
『罰?』
(そうよ…モンモランシーに怪我…ギーシュの…)
『それは君の責任ではない』
(でも、私がもっとうまくやってればあんなことにはならなかったわ、きっと。
それに今だって…ね?わかったでしょ?ポンコツ。私は所詮ゼロの…)
『ゼロのルイズ、か?』
(な、なんであんたがそれを…!)
『すまないとは思ったが、君の友人に君の事を色々と聞いたんだ。
才能ゼロでゼロのルイズか…ひどく言われたものだな』
(事実だしね。私には才能がないのよ。向いてないのね、貴族だからって駄目なものは駄目なんだわ… ねぇ、ポンコツ。他の人じゃだめなの?)
『!』
(私には無理だったのよ、最初から…角鍔のはまぐれだったのよ。
でも、他の人なら、少なくとも私よりは上手くやれると思う…)
『……ルイズ。君はそれでいいのか?』
(え?)
『君は日頃から自分に魔法の才能がないことを嘆いていた。
そしてあの日、使い魔を決める召喚の儀式で君の魔法は初めて成功した』
(……)
『残念ながら呼び出されたのは、君が望む強く美しい使い魔などではなく、随行体の私と、流刑体の撃針だったがね』
『ルイズ。私が君に召喚されたことになにか意味があると思わないか?』
『君は角鍔によって傷付けられている人々のために立ち上がった。そして戦えたじゃないか』
『ルイズ…たしかに君の言う通り「協力者」は他にも居るだろう』
『だがルイズ…君はどうする?』

『「ゼロのルイズ」のままでいいのか?』

「!?」
『ルイズ…回答の入力を!』
「……っ!」


「きゃ!」
「…!」

がばりと勢いよく起き上がったルイズに驚き、傍に居たキュルケは小さく悲鳴を上げた。
彼女の桃色の髪が勢いにつられ、ばっと広がる。

「卑怯よポンコツ!人の痛いところついて!!」
「上等よ…! 1000体だろうが2千万体だろうが!一体残らず回収してやろうじゃない!
誰も私をゼロなんて言えなくなるまで、回収回収回収っ!回収しまくってやるわよ!!」
『ルイズ…』
「来るなら来なさい!流刑体!このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが相手になるわ!」
『ルイズ…』
「決めた!私今日この日から回収専門のメイジになる!」
『ルイズ!』
「なによ!?」
『ギーシュが馬躁相手に戦っている。が、危険な状態だ』

馬躁の振動触腕の威力はすさまじいらしく、彼のワルキューレは見るも無残な姿を晒していた。
ギーシュは劣勢だ。
ルイズはすぅ、と空気を吸い込む

「馬躁!あんたの相手は私よ!かかってきなさい!しかる後に回収してやるわ!」
『ほどほどにしておいてくれよ…』

馬躁は、派手に啖呵をきったルイズをじろりと見やる。
鼻息は荒く、興奮状態のようだ。

「突撃よ!ポンコツ!」
『了解』

重力制御によってふわりとルイズの身体が浮いたかと思うと、猛スピードで馬躁に突っ込んでいった。

「な、なんなのよ…あれ?」
「完全復活」

問答無用のルイズの勢いにキュルケは呆気にとられながら、馬躁に突っ込んでいく彼女の後姿を見つめた。
同じくルイズの背を見つめるタバサは、長年付き合っている人間にしかわからない程度の笑みを浮かべていた。

「ギーシュ!下がって!」

自分を庇うようにして立つこの少女の背中はなんと頼もしいのだろうか。
絶対に負けない。そんな決意が形となって目に見えるようだ。
ならば迷う必要はない。ギーシュの選択はもとよりそれしかなかった。

「…レディだけに戦わせては男が廃るな。援護する!」


「いやぁ、俺っちは惚れましたぜ姐さん!」

ルイズは既に変身を解き、馬躁の背中にまたがって揺られていた。

「手綱引っ張ったらおとなしくなるとか…最悪なオチよね…」
『そうは言うがな、ルイズ。君が馬躁の弱点を言い当てたときは私も驚いたんだぞ』

ルイズに抱きかかえられているポンコツが声を上げた。
馬躁の持つ強力な振動触腕は、最大の武器であると同時に弱点でもあった。
左右一対に生えるそれを後ろ向きに引っ張れば、馬躁の動きを止めることができるのだ。
まさに乗馬テクニックのそれである。
それなりに乗馬の心得のあるルイズにとっては容易なことであった。
もっとも、それはギーシュの援護もあってのことなのだが。
で、それに加えて厄介な問題がひとつ…

「俺ら一族はこれを最初に引っ張った相手に忠誠を尽くすっていう掟があるんっスよ
俺っちはそんな古臭ぇしきたりがイヤで母星(クニ)を出たんスけど。
ルイズの姐さんみてぇなお人に出会えるとは!やっぱ血には逆らえないもんスねぇ」

この有様である。
すっかり上機嫌な馬躁はどこか憎めない。
悪い奴じゃなさそうだと、結局ルイズは馬躁を回収しなかった。

『しかし、本当に馬躁を回収しなくてよかったのか?』
「人を傷付けたわけじゃないし、今から歩いて帰るのも気が引けるし…いーんじゃないの?」
「ホント、姐さんの優しさは五大陸を駆け抜けるぜぇ!」
『これでいいんだろうか…』

ちなみに馬躁は最初、ルイズを乗せたまま全力疾走しようとしたのだが、ルイズの「首がもげる」との一言で、ごく普通の馬並みのスピードで走っている。
上空を飛ぶシルフィードにはとうてい敵わない程度の速さである。
気付けば空を飛んでいた白い竜はもう見えなくなっていた。
余談だが、馬躁がギーシュを背に乗せるのを異常に拒んだので、彼はタバサ、キュルケと一緒にシルフィードに乗っている。

「そういえば変身するとこ見られちゃったな…」
『隠すこともないだろう。彼らは流刑体の存在も知っているんだ』
「そうそう!細かいことは気にしちゃいけませんぜ!ドーンと構えてもらわなきゃ!」

考えすぎないのもどうかと思うが…とポンコツは思う
だが、今回に限ってはこれでいいのかもしれない。
彼女の使い魔として、ある意味初めて一緒に戦った今回だけは。

「ところで姐さん、マホウガクインてな一体どこっスか?」

ルイズ一行が学院に帰れたのはそれから5時間後だったという。


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