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とあるイカ娘の侵略目録《バトルロワイアル》 ◇tu4bghlMIw


北米のマンハッタン周辺をモチーフにしたこの殺戮舞台において、一際異彩を放つ施設が存在する。

 実際には「その」建物以外にも、周囲の風景と全く馴染まない建物は複数存在する。
 古代の王が眠る墓所として造られた方錐形建造物《ピラミッド》もそうだし、
 数多の血が流れた戦いの跡、ある意味でこの殺し合いの原点とも言える円形闘技場《コロッセオ》もそうだ。
 だが、それらの施設には確かな意味がある。
 墓所やコロシアムは偉大なるモチーフであり、同時にランドマークでもある。
 この催しが単純な「生」と「死」のせめぎ合いと言えない以上、
 両者の存在が参加者になんらかの影響を与える可能性は無視出来ないだろう。

 ――正義と悪。

 その最後の終着点へと至る道程において。

 しかし。
 そんな会場において――ありとあらゆる形而上的な観念から乖離した施設が一つだけ存在する。

 北米大陸をイメージした舞台としてあまりに不釣り合い。
 建造物として特別大きな意味があるわけでもなく、また地図に名前を記す意味も理解出来ない。
 ただただ、参加者に違和感だけを突き付ける――まるで、そのためだけに用意されたかのような。
 もしくは――とある一人の少女に祝福をもたらさんがために。

 海の家。少女にとって何よりも馴染み深い場所から――その「侵略」は始まる。

 ▽

「ライトーライトー! お腹が減ったでゲソ! 早く暖めるでゲソ!」
「……ちゃんとやるから、少し待っていてくれ」
「ふふっ。悪いですね、月君。私の分もよろしく頼みますよ」
「高遠さんまでそんな……分かってますよ。三人分ですね」

 I-3、海の家。
 看板に「れもん」と書かれたその店の中で、妙な三人組がテーブルを囲んでいた。

 一人は若く、そしてハンサムな少年。名前は夜神月。
 スラリと背が高く、引き締まった身体は何らかのスポーツを嗜んでいることが傍目からも伺える。
 眼差しは理知的で、言葉遣いも丁寧だ。好青年と言えるだろう。
 一人は二十代前半の痩せ形長身の男。名前を高遠遙一という。
 口調は月のそれよりも数段落ち着いていて、むしろ丁寧すぎるようにすら見える。
 この場に集められた者の中では最年長者ということもあって、まとめ役のような立ち位置を取っていた。
 そして、最後の一人が。


「千鶴がいない今、この海の家は私の天下でゲソ! ここでは誰も私に逆らうことは出来ないでゲソ!」


 白い三角頭巾のようなモノを頭に被り――頭から十本の触手を生やした少女だった。
 背は低く、おそらく「人間だとしたら」歳は十代前半。
 ウネウネと動く触手をメデューサの如く動かし、ふはははははははと高らかに哄笑している。

 少女の名前はイカ娘。海棲人類という人間を超えた特別な種族であり、
 海を愛し、海と共に生き、海を汚す人間を妥当すべく立ち上がった――将来、世界の支配者となる(予定の)絶対覇者である。
 …………まぁ、現在は借金を返すために海の家でアルバイトをする日々を送っているわけだが。

「……イカ娘君。私と月君は貴女の支配下に入ったわけですが……一つだけよろしいですか?」
「む。どうしたでゲソ、高遠」

 店の奥に設置された電子レンジの前で作業をしている月をチラリと一瞥した後、高遠は人差指をピンと立てて自身の唇に押し当てた。
 そして、声を顰めて言い放つ。

「少しだけ、静かにしましょうか。食事の前に大騒ぎをするのはルール違反です。
 地球の七割を占める海……引いては地球の支配者である貴女にとっては造作もないことのはず。
 これは、ビーチでのマナーにも当たりますね。いかがでしょう?」

 三人は共にこのI-3の海の家付近がスタート地点だった。
 そして、開口一番。コレが殺し合いだということを欠片も理解していないイカ娘が高らかに宣言したわけである。
 『私がこの海の家の支配者でゲソ! ここの建物を使いたければ、私に従うべきでゲソ!』と。
 …………そう。イカ娘は自身がバトルロワイアルの舞台に放り込まれたことを、全く認識していなかったのだ。

 結果、とても人間が出来ている月と高遠はとりあえず彼女のノリに付き合うことにした。
 少なくとも、この中にすぐさま他人を攻撃しようという者が存在しないのはすぐに分かったのだ。
 見た目だけならば、月は好青年であり、高遠は優男。イカ娘は無邪気な子供。
 そこに策謀の影を見出すことの方が難しい。
 ならば、物事を分かりやすく進めるために子供の顔を立てておこう――と考えるのが大人の思考である。

 とはいえ、もちろん夜神月と高遠遙一という人間が隠し持つ――本質を除いた話ではあるが。

「むむっ。言われてみれば……確かに、これじゃあ私自身にレッドカードを出さないといけなくなるじゃなイカ」
 しゅん、と少し落ち込んだ様子でイカ娘が頭を垂れた。
 イカ娘は調子に乗りすぎる部分はあるが、基本的には素直な良い子なのである。
「流石に理解が早くて助かります。……おっと、月君が料理を暖め終わったようですよ」
「全く……どうして僕がこんなことを」
「一番立場が下の者が働くのは当然のことでゲソ!」

 ババン!とイカ娘がテーブルを片手で叩く。
 そんな彼女の様子を見て、お盆の上に三人分の食事を載せて現れた月が大袈裟な溜息をついた。

 ひとまず三人は情報交換と腹ごしらえを兼ねて、海の家の設備を使って食事をすることにした。
 灯りは使用していない。流石に周囲に施設の少ない海の家において、電灯を使うほど平和ボケはしていなかった。
 それに、月明かりと輝く海を照明にして食事をする、というのも中々オツなものだ。

「すいませんね、月君。私は焼きそばを頂きましょう」
「エビカレー! このエビカレーは私のモノでゲソ!」
「慌てなくても誰も取ったりはしない。君はもう少し落ち着いた方がいいと思う」

 月が用意してきたのはイカ娘の支給品である『海の家グルメセット』であった。
 焼きそば、うどん、フランクフルト、おでん、カレー……。まさに「海の家」といった具合の素敵なメニューの数々。
 種類も数も豊富で、月もそれなりの量に熱を通したのだが、未だに軽く数日分は残っていた。

「まぁまぁ。月君もお手柔らかに。これで準備は整ったわけですし」
「準備?」
「ええ」
 イカ娘がスプーンを握り締めながら首を傾げた。高遠は大きく頷く。
「つまり、この世界に散りばめられた数多の謎を推理する――そのための環境が整った、ということです」

 パチッと高遠が小気味よい音を立てて、割り箸を二つに割った。
 そして僅かに口元を歪ませる。
 高遠の言葉がまるで理解出来ないイカ娘が頭から疑問符を飛ばす一方で、対面に座る月が微笑でもって応えた。

「……そうですね。始めましょうか」
「二人とも、いったい何をやるつもりでゲソ?」
「簡単なことです。我々は何の力もなく、そして、開き直ることも出来ない臆病者だ。
 けれど『頭を使うこと』は出来る。危機感を覚え、予防線を張ることも――ね。一言で言えば、」

 スゥッと高遠が息を吸い込み、イカ娘と月を見回しながら言った。


「――とにかく、我々にはあまりにも情報が足りなさ過ぎる。そう思われませんか。月君、イカ娘君?」


 ▽


 イカ娘は目の前の二人の男を『頼りになりそうもないが、まあ感じの良い奴ら』であると認識していた。

 彼女は海の支配者であり、同時に将来地球を支配するであろう侵略者だ。
 海を守ることが彼女の最大の目的ではあるが、基本的に荒っぽいことは好みではない。
 楽しく、そしてダラダラと過ごせることが一番なのである。
 故に、こんなよく分からない所からすぐに脱出したいと思っていた。

 それに殺し合い――などという行為は、正直イカ娘にはピンと来ない。
 むしろ、どれだけ説明しても彼女がソレを理解することはないだろう。
 なぜならばイカである彼女にとって、『正義と悪』という価値観はあまりに縁がないモノだからだ。

 生きるために相手を殺し、それを食べる――俗に言う弱肉強食の原理こそが自然界の掟。
 それ以外の理由で、どうして相手を傷つける必要があるのか……?
 イデオロギーや快楽のために生じる正義と悪は、彼女とはある意味で全く別方向に存在する理念なのだ。
 会場に集められた者の中で、この二つの概念に最も遠い場所にいるのがイカ娘であること揺るがないだろう。

 ――が、参加者達はコレが正義と悪を巡る闘争であることなど知る由もないわけで。

 結局、イカ娘はカレーに入ったエビを美味しそうに頬張りながら、二人が積極的に言葉を交わすのを特になにも考えずに眺めるのだった。

「僕も同じ意見です、高遠さん。
 あの声の主は僕達に殺し合いをさせようとしている……けれど、その目的はもっと他の部分に向いている。それは確かです。
 少なくとも、いきなり武器を手に取って他者に襲い掛かる構図を積極的に奨励しているとは思えない」

 ライトが割り箸を割り、ズズッとうどんを啜りながら言った。
 うどんはプラスチックの容器に入っており、味付けは薄口の関西風味。
 散らされた一味の赤と長ネギの緑が、透き通ったスープに鮮やかな彩りをもたらす。

「ふふっ……やはり中々話せますね、月君。いきなり君のような相手と出会えたのは大きな収穫だ」


 高遠が眼を細め、同じように焼きそばを食べながら首肯した。
 彼が食べている焼きそばは一般的なソース焼きそばだった。具材は豚肉、人参、ピーマン、赤ショウガ。
 海の家の食べ物ということで多少ボソボソしてはいるが、まさにビーチサイドでの食事を象徴する一品であることに変わりはない。

「実際、今僕達が強制されているのが殺し合いであり、自分や元々の知り合い以外を信じにくい環境であるのは確かです。
 ソレに僕達自身、自分がどの勢力に所属しているかが分からない……クリア条件の分からないゲームに参加しているようなものだ。
 まずは情報を集めること。そして理知的な相手とコンタクトを取ること――この二つが最優先事項だと考えます」
「それとほぼ同じことを私も考えていました。そうですね……シンプルに言うならば、」

 細切りにされた豚肉を咀嚼した後、高遠が言った。

「――知性は隠すべきではない。これは殺し合いなどではありません。むしろ化かし合い……情報戦に近いのですから」

 高遠と月が視線を交わらせる。
 両者が内心、現時点でどのような思考に至っているかを推し測る術はない。
 だが、少なくともしばらくは『待ち』を行動の第一理念にすることだけは共通していた。

 そして、同様に。



         ,. -.、
       ,⊿   ヾ 、
      / / _  ', \
.     く _,.f‐'´   ``‐i..,_ >      <二人とも、私にも分かる言葉で話して欲しいでゲソ!
      ハハX_,∨,_メハハ     
     ┌‐| io⌒ ""⌒o! |ー┐
  ,.^ニニノノ\(⌒⌒)/ゝ、ニニ^ 、
  く く. //| | o、 ̄/ | | | |   〉〉
.   く 〉| | | |   `´  .| | | | く 〉
 ̄ ̄ ` く X二) ̄ ̄ ̄(二X > ̄'´ ̄
      彡,ハ}     {ヘ ミ´
      )          (
      ⌒γ⌒V⌒ヽf⌒



 ――ただ一人。イカ娘だけが両者の会話に全く付いていけないことも確かなのだった。

 高遠達が話すのを聞いているつもりだったが、あまりに二人の話が長いためイカ娘はあっという間に飽きてしまった。
 しかも何について論じているのかイカ娘には難しすぎてサッパリ分からないのだ。
 とはいえ、彼女の知性が低いというよりは『殺し合い』というモノに対する想像力が圧倒的に欠如していることが理由であるようだが。

「おっと、これはこれは……すいません。そうですね。
 分かりやすく言うならば、いきなり相手に襲い掛かるような思慮の浅い者でなければ大半の参加者が情報を欲している――ということを言いたかったのです」
「更に言うと腹に一物抱え込んだ巨悪よりも、見境のない小悪党の方がこの場合は危険……とも言える」
「むむむ……」
「まだ難しいですかね?」

 高遠と月の主張を裏付けるのは、やはりこの殺し合いが持つ特有の勝利条件だった。
 イカ娘はそこまで頭が回らないし、逆に二人にとっては当たり前過ぎる。
 故に決して言葉に出されることのない論理がいくつか存在する。

  • 生き残るために積極的に殺しをする必要があるのは『Set』に属する者だけ。
  • 三つのグループの人数配分は不明だが、上手く転がせば単純に考えて四十人近い生還者を出すことが可能。

 などといった事柄についてだ。
 そして、二人が特に重要視しているのが一つ目の問題点だった。
 が――少なくとも、このイカ娘という少女はそのような論理とは全く異なる領域にいるわけで。

「というか、私にはあそこで話されたことがサッパリ分からないでゲソ。
 だって他の人を傷つけるのはよくないことでゲソ。
 殴ったり、蹴ったり、切ったりしたら血が出るでゲソ。人が嫌がることをするのはよくないことじゃなイカ?」

 イカ娘がカレーを食べる手を止めて、当たり前のように言った。
 彼女の言葉に高遠と月も思わず、動きを止めた。
 微妙な沈黙。そして数秒後、口元に二人とも、微妙な笑いを浮かべる。

「……その通りです。人を傷つけるのは愚かな行為。決して許されざる行為です。ましてや殺人など……もってのほかですよ」
「ああ。だからこそ僕達は殺人者を止めなくてはいけないし、弱い人間を保護しなければいけないんだ」

 月と高遠がキリッとした真面目な表情で言った。そして、力強い首肯。
 その瞳はこのようなふざけたイベントに放り込まれた怒りで満ちている……イカ娘はそんなことを思った。

「おお、カッコいいことを言うじゃなイカ! さすが私の手下でゲソ! …………で、結局のところ、私達は何をすればでいいでゲソ?」

 イカ娘が尋ねた。高遠が肩を竦め、その言葉に答える。
「基本的には『なんらかの方法』で自分達がどの勢力に属しているかを見極めたいところですね。
 おそらく主催側がいくつか手段を用意しているはずですし……特に自分がSet陣営かどうか――というのは非常に重要です」
「先に説明しておくと、Set陣営だけは『積極的に相手を殺さなくちゃ生き残れない』という大きなハンデがあるんだ。
 極論を言えば、Isiなら二日間逃げ回ればいいし、Horだったら今度はIsiと二人で逃げ回ればいい。
 でも、Setだけは絶対に人を殺さなくちゃならない。しかも、この広い会場の中で隠れているHorも含めて皆殺しにする必要があるんだ。不利なんてもんじゃない」

 Setが圧倒的に不利――これは間違いない事実だった。

「結局、この殺し合いの大前提が『Hor』と『Set』の間で行われる戦いにあることは確かです。
 そうだ。ここで少し喩え話をしましょう。
 イカ娘君のために分かりやすく言うと、HorがタコでSetがイカのようなものなのです。そして――」

 焼きそばを食べる手を止めて、高遠はイカ娘が食べていたエビカレーのエビに視線を送った。

「喩えるならば、そのエビがIsiなのです」
「おお……!」

 スプーンで三センチ大のむきエビをすくい取ったイカ娘が眼を見開き、ごくりと唾を飲み込んだ。
 そしてなんとも複雑な視線でスプーンの中のエビを見つめる。

「イカ娘君はエビが好きでしょう。ですが、エビを食べるのはあくまでオマケ。目的は宿敵であるタコを倒すことなのです。
 一方でタコ側もエサとしてエビを食べることは出来ますが、最低でも一匹は残さなくてはいけない。
 さて――ここからが応用編ですよ。
 私達は自分がタコなのか、イカなのか、エビなのか、分かりません。
 なんらかの方法でそれらが明らかになる可能性もありますが、あくまで他力本願。確実性はありません。
 無闇に時間を消費する以外に、どのような選択が望ましいでしょうか。分かりますか?」
「むむむ……」

 イカ娘がエビを見つめながら、唸り声を上げた。
 頭から伸びる触手がウネウネと微動する。が、大体十秒ほど経った後。

「…………全然分からないでゲソ。ヒント! ヒントが欲しいでゲソ!」
「ふむ……ヒント、ですか。なるほどソレは迂闊でした。月君。彼女に手頃な手助けをしてあげてくれませんか」
 楽しそうに笑った高遠が月に話を振った。月は一瞬考え込むような表情を浮かべると、

「……分かりました。いいかい、イカ娘。僕達は非常にあやふやな状況に置かれている。
 そうだな。水槽の中にタコとイカとエビがごちゃ混ぜになっているのを想像して欲しい。
 そして困ったことに放っておけば、共食いを始める危険性がある。これは良くないだろう? 同じ種族は明確な仲間なんだからね。
 だから、極端なことを言ってしまえば、全てのタコと全てのイカと全てのエビが一つに固まればいい。
 当然、その後の戦いのことを考えれば気が重いけれど、味方が沢山いるのは心強い。安全にもなるだろう。ここまではいいかい?」
「タコとイカとエビ……うん、大丈夫でゲソ。私を嘗めてもらっては困るでゲソ!」

 イカ娘が不安げながら小さく頷いた。言葉を彼女向けに入れ替えたのが効果的だったようだ。
 ソレに勢力を生き物に喩えたことで、比喩的な表現がしやすくなる。
 ロジックを組むのではなく、単に説明をするだけならば数倍分かりやすくすることが出来る。

「ところが――この水槽の中には『悪いタコ』や『悪いイカ』『悪いエビ』が混ざっている可能性があるんだ」
「――ッ!? わ、私は侵略者ではあっても悪いイカなんかじゃないでゲソ!
 そんなに悪いことをしたりはしないでゲソ! 潔癖でゲソ! この触手に誓って!」

 立ち上がったイカ娘が両手を振り回し、取り繕うように言った。月は生暖かいモノを見守るような視線でイカ娘を見つめると、 

「…………いや、君のことじゃない。たとえ話だよ、たとえ話。
 そうだな……簡単に言うと、この悪いイカは、水槽の持ち主が『あえて』潜り込ませた存在なのさ。
 頑張って他の勢力の参加者を減らすため……殺し合いを進めるため、のね。
 実際、そう考えるとイカ……Setの参加者には他よりも悪い奴が多い可能性が高いかもね。
 むしろSetに所属しているのは全員悪いイカだった……なんて考えたくないケースも十分有り得る。
 彼らはどちらにしろ、人を殺さなければいけない立場にある。
 何も出来ない子供を悪趣味に嘲笑うためにSetへ放り込んでいないとは言えないけれど、
 やっぱり人を『殺せる』者がこの勢力に所属している確率はかなりあると思う。少なくとも、僕が水槽の持ち主だったらそうするね」

 月は支給品の水の入ったペットボトルで唇を湿らした。そして言葉を続ける。

「だから高遠さんの質問の答えとしては、この『悪いイカ』を想定して動く……ということが重要になってくる。
 さて、悪いイカはどんな悪巧みをすると思う? 彼らは頭が回るはずだ。
 自分がSetの立場にあってその可能性が濃厚になった場合、タコを的確に殲滅出来るような状況を作りたがるだろう。
 単刀直入に言おう。つまり――自分達が集団を管理してしまえばいいんだ。
 例えば、本来はイカなのに、その悪いイカがタコ集団のリーダーになってしまう……こんなことになったら凄いと思わないか?
 ポイントはここでも『集団を作る』という点にある。集団――群れを作ること。コレが肝だ」

 一つ一つ、ピースが嵌っていく。
 心理の掌握。人間の分析。仮説の構築。
 論理ゲームがこの会場においては強力な「武」になるのだ。

「さぁ話をまとめるよ。さっき言ったことと併せて考えて見るといい。
 一つ・【生き残るためには同じ勢力で固まるのが最良】。一つ・【悪知恵の働く奴らは集団にちょっかいを出したがる】。
 おや? ちょっと面白いことになってきたと思わないかい?」
「んむむ……? こんがらがって来たでゲソ……。
 結局、人を集めればいいのか、集めたら危ないのかが分からないでゲソ……」
「いえ――正解ですよ。イカ娘君。ポイントはそこです。
 『集団を作るのはハイリスクハイリータンである』という事実。そして避けて通れぬ道である、ということ。
 これらの事実を認識し念頭に置いて行動すること――それが我々にとっての第一歩なんです」

 一見、この殺し合いは「個人戦」であるかのように見える。
 参加者は知り合いこそいるが基本的には個人単位で管理されるし、最初も一人でスタートする。
 自分のスタンスを知る術は現時点では用意されていないし、容易く他の参加者を信頼するのも不安を伴う。
 だが、勝利条件を満たすことが出来るのは「一人だけ」ではないのだ。
 勝利出来るのは複数……ならば、力を合わせるのが道理。生き残るための最も分かりやすいやり方だ。
 つまり「個人戦」をいかにして「団体戦」へと変化させるか。
 もちろん、ソレは仲間割れや無駄な抗争などが起きない――他の団体に勝利するためではなく、生き残るための団体だ。

「さぁ、考えましょう。疑ってみましょう。観察してみましょう。
 我々にコンタクトを取りに来るのはいったいどのような相手なのでしょうか?
 ゲーム破壊のために仲間を集める正義の使者なのか、それとも集団を食い物にしようとする悪の虫なのか。
 なにも考えずに他人を頼ろうとする愚者なのか、それとも理性に基づいた秩序をもたらさんとする知恵者なのか。
 そんな得体の知れない相手と遭遇した時、我々はどんな行動を取るのか?
 極限まで追い詰められた時、我々の心に芽生える感情とは何なのか?
 ……非常に興味深い問い掛けです」

 いつの間にか空になっていた焼きそばの容器の上に、高遠が割り箸を置いた。
 辺りに薄気味悪い沈黙が満ちた。
 月は黙り込み、何も発言しようとしない。高遠も同様だ。
 少しだけ重苦しい雰囲気を感じ取ったイカ娘が、思い出しように言った。

「そういえば、ふと思ったでゲソが」
「どうしました?」
「――月と遙一がその『悪いイカ』だったら、私はとんでもないことなってしまうんじゃなイカ?」
 瞬間、月と高遠が顔を見合わせた。そして。


「ま、そんなことあるわけないでゲソ! 二人ともヒョロヒョロしてて頼りないから、私が守ってやるでゲソ!」
「全くですね。『悪いイカ』がわざわざこんなことをペラペラ喋るわけがありません」
「ああ。常識的に考えれば分かることだね」


 はははははははははははは、と。
 三人は大口を開けて、楽しそうに笑い声を上げるのだった。



 ▽

「――イカ娘君はどうしていますか?」
「まだあっちでエビを食べてますよ。何も知らずに、呑気にね。ここを発つ時になったら声を掛ければいいんじゃないですか」

 海の家の裏口。月の光が届かない暗がりの中に二人の男がいた。
 夜神月。そして、高遠遙一。
 が、二人の表情は先程店内で食事をしていた時とは全くの別物だった。
 暗く――腹の中に一物を隠し持ったような顔つき。

「彼女の存在は貴重ですね。本当に、色々な意味で……」
「全くです」

 が――コレが二人にとっての本当の顔なのだから。

 夜神月。デスノートと死神リュークとの出会いが、一介の高校生だった彼を――新世界の神へと変えた。
 彼は世界中の犯罪者を粛正することで、「犯罪者のいない理想の世界」を造り上げようとする存在だ。
 月にはやらなければならないことが山ほどある。
 それ故に、このようなクダラナイ催しに参加させられたことへ大きな不満を覚えていた。

 そして、彼がこの会場で最初に出会ったのが――目の前の男、高遠遙一だった。

「Hor、Set、Isi……つまり『ホルス』『セト』『イシス』。
 ホルスとセトの抗争。そしてセトの姉であるイシス……エジプト神話ですね。私としては『オシリス』という勢力がないことに若干違和感を覚えますが」
「神話では、最終的にはホルスが勝利しましたね。ということは――」
「……勢力の名前を神々から取った以上、何らかの考えがあることは確かでしょう」

月は高遠がどのような人間なのか、詳しくは知らない。
 だが、ある程度言葉を交わしてみて、とある不可解な事実に気付いていた。 

 ――彼は、キラを知らない。

 同じ日本人であるハズの高遠が、キラを知らない――そんなことが有り得るのだろうか。
 考察を続けなければいけない部分だろう。実際、疑惑の種は尽きない。

「……しかし、僕達を勢力分けしている要素とはいったい何なんでしょうね」
「単純な戦闘力、という意味ならば、イカ娘君がSetで我々はIsiになってしまいますが……さて。
 殺す能力、殺す意思……その辺りが妥当でしょうか。ただ、コレでは少々不細工であるようにも思えます」

 同時に月も高遠に対して自身の情報を伝えてはいなかった。

 二人の中では暗黙の内に『お互いのことを追求しない』という共通認識が生まれていた。
 そう。月と高遠はあくまで仮初の協力関係に過ぎない。
 互いがHorとSetであれば、将来殺し合わなければいけない。だが極論を言ってしまえば……それ以外の関係であれば、殺す必要はないのだ。
 結局、誰を殺す殺さない――というのはスタンスにある程度の辺りを付けた上で考えること。

 優先すべきは集団の結成と情報の交換。そして異分子の炙り出し……そちらになるだろう。

「イカ娘は僕達とはかなりタイプの違う参加者です。『比較例』としては中々悪くない……と思いますが。
 『自分以外の人間全てを殺す』と考える者が、どれだけいるかにもよりますね」
「早い段階で脱落すると思いますがね、そういう人間は。
 表立って他人を積極的に殺す者は、少なくとも参加者のスタンスが明らかになる前は誰にとっても『共通の敵』ですから。
 やるなら少しずつ間引きしていく……程度でしょう。
 SetにしてもHorにしても……そういう者を仲間にしたいとは思わないはずです」

 現時点では「見」に回る――それが二人の結論だった。
 イカ娘のように、自分達の常識とは異なる参加者が会場内にいる可能性も高い。
 目立った行動を取るよりは、状況を把握するために動いた方が得策だと判断した。

 また、二人がイカ娘と『仲間になった振りをしている』のも理由がある。
 それが比較例――つまり、サンプル。そして「窓口」としての役割だ。

 イカ娘は一言でいってしまえば、非常にバカっぽい。子供であるのもそうだが、単純に頭が悪いようにも見える。
 だが、逆にバカであればバカであるほど、このような場においては意味がある。
 彼女のようなバカと一緒に行動することで、コレから他の参加者と接触することが非常にスムーズになる。
 加えて、彼女の行動を分析することで、自分達との相違点から所属勢力を導き出す助けになるかもしれない。

「仲間……か」

 月にもいくつか思う所はあった。
 同じくこの殺し合いに参加しているLと、妹の夜神粧裕についてだ。
 Lの存在は厄介――ではある。が、所属しているスタンス次第では『非常に信用出来る相手』にも成り得る。
 奴の目的はあくまでキラを逮捕することであり、殺害することではない。

 が、逆に粧裕は早急に保護したい――と月は考えていた。
 お互いがHorとSetで兄妹間で殺し合いをすることを望まれている可能性もあるが……。

「なにか、思い当たる節がおありで?」
「いえ……気にしないでください」

 ……やはり、何を仮説にしても決定的に情報が足りない。
 こんなお遊びに意気揚々と付き合っていられるほど、月は暇人ではない。
 利用出来るモノは利用して、早い内に勝利条件を満たしてしまいたいものだ。

 だが、それにしても……この高遠という男、一体何者なのだろう?
 基本的な思考、方針などは月と似通っているようだが、まるで違う拘りを持ち合わせているようにも思える。

 この殺し合いを単なる障害と捉え、他の参加者を蹴落として生き残ろうと考えている月に対して。
 高遠からは、このゲームそのものに関する興味関心が存在する――そんな印象を覚えるのだった。

 ……面倒なことにならなければいいのだが。


【I-3/海の家:深夜】

【イカ娘@侵略!イカ娘】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康、満腹
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、海の家グルメセット@侵略!イカ娘、不明支給品1
 [思考・状況]
  1:とりあえず月と高遠に付いていく
  2:栄子、タケルがなにをしているのか気になる

【海の家グルメセット@侵略!イカ娘】
 海の家の定番メニューの詰め合わせ。
 レンジで調理するうどんやカレー、おでん、そのまま食べられる焼きそばやフランクフルトなど種類は多彩。
 それなりの量がまとめられており、バトルロワイアル期間中に普通に飲み食いするには十分過ぎるボリュームがある。

【夜神月@DEATH NOTE】
 [属性]:悪(set)
 [状態]:健康、満腹
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2
 [思考・状況]
  1:イカ娘を利用した、スタンス判別方の模索と情報収集のための集団の結成
  2:「悪意」を持った者が取る行動とは……?
  3:自身の関係者との接触
  4:高遠の本心に警戒
 [備考]
 ※参戦時期は第一部。厳密な時期は未定。

【高遠遙一@金田一少年の事件簿】
 [属性]:悪(set)
 [状態]:健康、満腹
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2
 [思考・状況]
  1:???


時系列順で読む


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より強き世界 夜神月 仮面の下のバラッド
実験開始 イカ娘
実験開始 高遠遙一








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