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ウルトラ5番目の使い魔、第三部-73


 第73話
 湯煙旅情、露天風呂だよ全員集合!

 放電竜 エレキング 登場!


 ゲルマニアの大使をもてなせとの勅命を受けてド・オルニエール地方にやってきた水精霊騎士団とついてきた才人たち。
 予期せぬピット星人やエレキングとの戦いで時間を浪費し、もてなしの準備ができないまま絶望のうちに出迎えの時間がやってきてしまった。
 ところが事態は予想もしなかった表情を見せて動き出した。ゲルマニアからやってきた大使というのは、ギーシュとモンモランシーがかつて園遊会で出会ったルビアナだったのだ。
「お久しぶりですギーシュさま。まさかこんなところで会えるなんて! とてもうれしいですわ」
「ル、ルビアナ。ゲルマニアの大使って、君のことだったのかい」
「そうです。まあ、なんということでしょう。アンリエッタ女王陛下から招待を受けてやってきましたら、まさか待っていらしたのがギーシュさまだったなんて。わたくしも驚きました」
 そうか、そういうことだったのかとギーシュはようやくアンリエッタの不可解な勅命の意図を理解した。なんのことはない。深い意味なんて最初からなく、単に友人同士を会わせてあげようというサプライズ企画だったというわけだ。
 完全にしてやられた。ギーシュはアンリエッタの手のひらの上で遊ばれていたことで、目の前がクラクラした。ギーシュにとって、優雅で可憐なアンリエッタ女王陛下はあこがれの人だった。ルイズから奔放な一面があることは聞いていたが、それはあくまで子供の頃のことであろうと気にも止めていなかったけれど……。
「は、はは」
「ギーシュさま、どうなされました? なにか、お顔の色がすぐれないご様子ですが、ギーシュさま?」
 意識が飛びかけたのをルビアナに支えられて、ギーシュはなんとか己を取り戻した。
 いけないいけない。こんなことで忠誠心が揺らいでいては騎士失格だ。主君の戯れに付き合うのも臣下の務めではないか。きっと日ごろの公務でお疲れなんだ、そうだそうに違いない。
 かなり無理矢理に自分を納得させると、ギーシュは怪訝な様子のルビアナにあらためて向き合った。
 まあ、驚きはしたものの、ルビアナと会えたことは素直にうれしい。あのラグドリアン湖でいっしょに踊った日のことははっきりと思い出せる。閉じたまぶたのままで湖畔で舞うルビアナの姿は天使のように美しく、もう当分会えないと思っていただけに、再会の喜びがこみあげてくると同時に、アンリエッタに対する感謝が湧いてきた。
「お見苦しいところをお見せしました。おお、今日はなんて素晴らしい日なんだろう! この世に二輪しかない美しい百合の片方に再び巡り合えるとは夢のようです。この出会いを、我が敬愛するアンリエッタ女王陛下に感謝します。そしてルビアナ、あなたは前にも増してお美しい。そのお手を取ってまたいっしょに踊りたいと願うのは大それたことでしょうか?」
「まあ、お上手ですねギーシュさま。うふふ、私を独り占めにしようなんて大それたお方……なんて、嘘。ギーシュさまと踊った夜は、私にとっても最高の思い出でしたわ。こちらこそ、喜んでお相手をお願いいたします」
 ルビアナは変わらず気さくに答えてくれた。身分ではグラモンなど及びもつかないほど高いというのに、まったく驕らない清楚なふるまいには、ルビティア侯爵家だと聞いて仰天していた水精霊騎士隊の面々も感動をすら覚えていた。
 ギーシュはルビアナの差し出した手をとり、その前にひざまづいた。手袋越しのルビアナの手からは、品の良い香水の香りがほのかに漂ってくる。
 かなうなら、このまま理性をなくしてむしゃぶりつきたくなるような美しい手だ。けれどぼくは誇り高きグラモンの男、どんなときでも女性には紳士でいなければいけないと、ギーシュはそっと口づけをしようと顔を近づけた。が、そのときである。
〔ギーシュゥゥゥ!〕
〔殺気!? これはモンモランシー? いや、それだけじゃない!〕
 突然、刺し殺すような強烈な憎悪の波動を背中に受けてギーシュは凍り付いた。
 そして、口づけを中断して立ち上がり、そっと後ろを振り向いた。そこには、案の定怒り心頭のモンモランシーと、そればかりか嫉妬に燃え滾っている水精霊騎士隊の仲間たちの顔が並んでいたのである。
「ギーシュ、ちょっとこっち来い」
 有無を言わさずギムリたちに腕を掴まれて、ギーシュは屋敷の向こうへと連れて行かれた。
 後に残ったのは、怪訝な様子で見送るしかできなかったルビアナと、完全に呆れ果てた様子のルイズたち。そして才人は、これはさすがにみんなキレてるなとギーシュの不運を哀れんだ。
「あの、ギーシュさまはどうなされたのですか?」
 わけがわからないというふうにルビアナが言った。まぁ、それはそうだろうが、せっかくの貴賓をほっておくわけにはいかない。ルイズは仕方なく、ギーシュたちの代理としてルビアナの前に立った。
「彼らのことは心配しないでください。すぐに戻ってきます。ようこそ、トリステインへ。わたしはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。女王陛下より、あなたを歓待するよう申し付けられております。長旅でお疲れでしょう。お部屋と、ささやかながら夕食の支度ができています。まずは当地の味覚で疲れを癒してくださいませ」
 さすが、こういうときはルイズは一流の貴族らしくきちんと決めてくれるなと、才人はルイズを誇らしく思った。
 ルイズのエスコートでルビアナは屋敷の食堂に案内されていった。メニューは土地の人たちに用意してもらった郷土料理だが、キュルケとモンモランシーの監修で貴族料理としてふさわしい盛り付けと飾りつけがされていた。
「まあ、これはなんて美味しそうな。ミス・ヴァリエール、素晴らしいおもてなしを、どうもありがとうございます」
「遠路はるばるいらしたお客人のためにと、心づくしに取り揃えました。お口に合うかはわかりませんが、どうかご賞味ください。そして、戯れにお国のお話などを聞かせていただけたら幸いです」
「心よりのおもてなし、とてもうれしく思います。ですが、どうかそう堅苦しい行儀はおやめくださいませ。私はここに傅かれるために来たわけではなく、友人を求めに参りました。ですからどうか、私のことはルビアナとお呼びください。その代わり、私もあなたをルイズさんとお呼びいたします」
 そう微笑んだルビアナの柔和な様子に、ルイズはカトレアやアンリエッタに似た温かみを感じた。視力が極端に低いためにほとんど目を開けられないというが、そんな暗さをまるで感じさせない温和な人柄にはルイズやキュルケも好感と尊敬の念を抱いた。
「では、お言葉に甘えて。あらためて、ルビアナさん、トリステインへようこそ」
「はい、よろしくお願いしますルイズさん。わたくしたち、よいお友達になれそうですわね」
 雰囲気が和み、ルイズは「ゲルマニア人にも気品と礼節をわきまえた人がいるのねえ」と、嫌味っぽくキュルケを横目で見た。もちろんキュルケは平然と「そりゃトリステインと違って大国ですから」と言い返してルイズをぐぬぬとさせた。
 くすりと笑って、ルビアナが「仲がおよろしいのですね」と言うと、ルイズは「誰がこんなのと!」と、子供っぽくむきになる。
 こうして、ルイズたちと打ち解けたルビアナは、ギーシュが帰ってくるまで女子同士で親交を深めるために会話に花を咲かせていった。


 が、そのころギーシュは人生始まって以来のピンチに見舞われていたのだ。
「ギーシュ、お前いつの間にあんな美人と知り合いやがった!」
 水精霊騎士隊全員からギーシュに嫉妬を込めた審問が突き付けられた。ギムリやレイナールを含め、全員目がいってしまっている。
「ど、どこでと言われても。み、みんなどうしたんだい? いつもと様子が違うじゃないか」
「そんなことはどうでもいいんだ。いいかギーシュ? モンモランシーはいい。学院の女子にもてるのも自由競争だからよしとしよう。だが、ルビティア侯爵家のご令嬢だと! 独り占めするのもほどがあるだろコノヤロー!」
「わーっ! みんな落ち着いてくれ。モ、モンモランシー助けてくれ! みんなに、ルビアナとはそういう関係じゃないって説明してくれ」
「わたしが気づいてないと思って? あなたさっき、ルビアナに見とれてわたしのこと完全に忘れてたでしょ。最近調子に乗りすぎみたいだしちょうどいいわ。この機会に自分の身の程をよーく思い出しなさい」
 こうして、最後の希望にも見放されたギーシュに怒りに燃える仲間たちの魔の手が迫る。
「み、みんな落ち着きたまえ! さっき、オンディーヌの絆を確認しあったばかりじゃないかーっ!」
「それとこれとは話が別だ! 隊長なら潔く裁きを受けろーっ!」
 そしてギーシュの断末魔が響き、まるで末法の世界のような無慈悲な地獄が繰り広げられた。
 まさに因果応報。あまりにも多くを貪りすぎると罰を受けるということだ。特に、中でももてない少年の「そんなにいっぱいいるならぼくにも一人くれよぉ! なあ、わけてくれよぉ! 女の子出してよおぉぉ!」という怨念のこもった悲痛な叫びとともに繰り出される一撃は鉛よりも重くギーシュに突き刺さっていった。


 そして、その後にボロ雑巾のようになったギーシュが部屋に叩き込まれて、ルビアナには「隊長はとてもお疲れですので、明日あらためてご挨拶させます」と、すっきりした様子の水精霊騎士隊が詫びを入れた。
 女の嫉妬も恐ろしいが男の嫉妬も恐ろしい。ギーシュはその夜、枕元のモンモランシーから一晩中呪詛の言葉を聞かされながら過ごし、昼間の戦いで疲れ切った才人たちもそれぞれの寝床に入った。
 ルイズはピット星人の色仕掛けにやられそうになった罰として才人を床に寝かせ、キュルケも夜更かしのしすぎはお肌の敵と眠りにつく。ルビアナにも一部屋が与えられ、彼女は「おやすみなさい」と言って扉を閉めた。
 こうしてド・オルニエールの最初の一日は終わった。夜はしんしんと更け、深く沈んだ森の空気は夜の獣の声で騒がしいが、固く窓を閉めた屋敷の中を騒がせることはない。
 闇は人間たちに安眠を与え、人間たちはその中で昨日の疲れを癒し、明日への活力を養っていく。そして、ハルケギニアを照らす二つの月が役目を終えて山陰に落ちていくのに代わって、ニワトリの鳴き声とともに朝がやってきた。
「おはようございます皆さん、とても素晴らしい朝ですね」
 その日は快晴、風も穏やかで暑すぎず寒すぎない気温に恵まれた始まりとなった。
 普段ねぼすけな少年たちも、この日ばかりはきっちり早起きして食堂に集合する。食堂にはすでにルビアナやルイズやキュルケたちが待っており、ルビアナに爽やかな声色であいさつされると、眠気をすっ飛ばして席についた。
 そして最後に、ちょっとおぼつかない足取りでギーシュがやってくると、少年たちは「少しは反省したかな?」と、そちらを見た。しかしギーシュは。
「やあ、諸君おはよう! なんともすがすがしい朝じゃないか。おお、おはようルビアナ。昨夜は君を迎えられなくてごめんよ。あれから今日まで、君に贈りたい歌はぼくの中ではち切れそうさ。むむっ! なんと君の隣の席が空いているではないかね。これは運命と思っていいのだろうか!」
「うふふ、もちろんですわ。さ、おいでなさってください。せっかくのスープが冷めてしまいますわ」
 と、いうふうにルビアナの顔を見たとたんに完全復活してしまった。いやはや、懲りないというか、なんとかは死なないと治らないを地で行っているようだ。
 これにはさすがに昨日痛めつけたばかりの水精霊騎士隊も唖然としてしまって、怒りもどこかへ飛んでしまった。とはいえ、モンモランシーだけは無言の迫力でギーシュの反対隣に割り込んでいるんだからこちらもたくましいというか。
 とはいえ、全員揃ったことで、「今日、この日の糧を与えたもうたことを始祖ブリミルに感謝いたします」の祈りの言葉とともに、朝食はおごそかに始まった。
 昨日と同様に、品よく盛り付けられた郷土料理にナイフとフォークを送る音が小さく鳴る。もっとも、行儀よかったのは最初だけで、すぐに誰からともなくおしゃべりが始まり、その中でギーシュがルビアナと知り合ったなれそめについての話題が振られると、ルビアナは楽しそうにラグドリアン湖での園遊会の思い出をみんなに語って聞かせた。
「思い出しますわ。わたくしとモンモランシーさんをかばって怪獣の前に立ちはだかったギーシュさまの雄姿。あれこそ、まことの騎士の姿ですわね、モンモランシーさん」
「え、ええそうね。ギーシュも、やればできるんだから、普段からもっとしっかりすればいいのよ。ちょっと聞いてるのギーシュ!」
「聞いてる、もちろん聞いてるさ。君たちの鈴の音のような声を一言たりとも聞き逃すぼくじゃない。もし何かがあっても、必ず君たちを守るから安心してくれたまえ」
 園遊会での出会い、突如現れたブラックキングとの戦いのことは、それを初めて聞く者たちを驚かせた。しかしそれ以上に、左右からラブコールを送られながら調子に乗っているギーシュの姿は皆を呆れさせた。
 もはや、昨夜のダメージはどこにも見られない。才人たちは、あいつは本当に人間か? と、さすがに怪しく思った。遠い異世界には、不死の命を持つ薔薇があるそうだが、まさか……? まあそれでも、あれでこそギーシュだと妙な納得を覚えたりもしたが。
 だがそれにしても、ギーシュの野郎うまくやったものだと皆は思った。モンモランシーだけでもあいつには過ぎた相手だというのに、よくあんな美人を射止めたものだ。
 ルビアナは、アンリエッタより少し年上に見えるくらいだが、サイドテールにまとめた髪や線の細い顔立ちでじゅうぶんに可愛らしくも見え、自分の容姿には自信を持っているルイズやキュルケも美人と認めざるを得ない美貌を持っていた。まったくギーシュには不釣り合いなことこの上ない。いや、最初に声をかけたのはルビアナだというが、一同は運命の巡り合わせの不思議とルビアナの物好きさを思った。

 しかし、一同がルビアナの真価を目の当たりにするのはそれからだった。
 朝食が終わり、ルビアナは自分の仕事のために外に出た。彼女は酔狂でド・オルニエールに来たわけではなく、このド・オルニエールで作られるワインを始めとする農作物をゲルマニアへと輸出するための下準備のために、はるばるゲルマニアからやって来たのだ。
「あらためて、とても良い土地ですわね。わたくしの拙い目では見えなくても、風が運んでくる香りと、肌で感じる温かさで、このド・オルニエールが豊かな土地だということがわかります。では、すみませんがいろいろと見せていただきますね」
 ルビアナはギーシュたちに案内されて、ド・オルニエールのあちこちを視察した。もっとも、ルビアナは弱視なので、見て回るというより聞いて回るといった感じだったが、ルビアナは平民の農夫たちにもわけへだてなく接し、農作物の銘柄や肥料の種類なども事細かく話し合って、作物を市場に出すとしたらの値段を決めていったのである。
「こちらのトマトは、貴族向けに少し値段を高めに設定してもよろしいですわね。ただし収穫から三日以内にゲルマニアに届くようにしてください。あちらの畑は、実割れが多いようですから石灰をもっと多めに撒くようにしてはいかがでしょうか」
「はぁ、貴族のお嬢様。とてもお詳しいでございますですねえ。なるほど、参考にさせていただきますです」
 てきぱきと農民たちと話しをつけていくルビアナの仕事っぷりは、ギーシュたちはおろか、ルイズやモンモランシーでさえ何も手伝うことができずに横で見ているしかないほど専門知識に優れていた。
 なぜそんなに詳しいのかと聞くと、今日のために勉強してから来たのだという。だが、本職の農家と話し合えるくらい勉強するとは並の努力ではないだろう。もちろん、その努力をものにできるだけの地力を元々ルビアナが備えていたからでもある。
 ギーシュは、どうしてこの仕事が自分たちに丸投げされたのか、それが単にルビアナの友人だからだというだけではない理由を理解した。
「す、すごいな。ぼくらが補佐する必要なんか全然ない。そうか、女王陛下はこのことを知っていたから、ぼくらみたいな素人にまかされたのか」
 戦慄さえ感じながらギーシュはつぶやいた。顔もいい、性格もいい、おまけに実力もある。普通に考えたら、一人の人間がこれだけ持ち合わせているのは、いうなれば『反則』だ。
 メイジの血を引いていないので魔法が使えないことを除けば、完全無欠といっていい。そんな相手が現実に目の前にいることで、美人に弱いはずの水精霊騎士隊の面々もすっかり萎縮してしまって、ギムリがぽつりとギーシュに告げた。
「ギーシュお前、ものすごい人に惚れられたもんだな」
 しかしギーシュは、ルビアナの才能に圧倒された様子ながらも、薔薇の杖を気高く掲げて答えた。
「な、なあに、相手が誰であれレディはレディさ。ぼくはレディを決して差別しない。グラモンの辞書に、撤退も降伏も存在しないのだからね」
「昨日のことといい、お前のそういうとこ、ちょっと尊敬するぜ」
 語尾が震えているが、なるほど、このブレるところが一切ないレディファーストな姿勢こそ、ギーシュがギーシュである真髄なのだろう。なんであれ、ここまで貫けばもはや美しくもあり、それが物好きな女を引き付ける秘訣なのかもと、仲間たちはある程度の敬意をそのとき彼に抱いたのだった。

 そして、ルビアナのド・オルニエールの視察はそれからも順調に続き、ほとんど水精霊騎士隊が手伝うことはなく、夕方になる頃には彼女はド・オルニエールの下調べを終えてしまった。
「たいへん有意義な一日でした。土地も豊かで住んでいる人たちも働き者で、順調に進めば数年後にはゲルマニアの市場にド・オルニエールの産物が並んでいることでしょう」
 特に疲れた様子もなく、野道を歩きながらルビアナは満足げに言った。
 ルビアナの手には彼女がまとめたド・オルニエールの資料の紙が束ねて握られている。先日、ギーシュたちが慌ててまとめようとした資料の十数分の一にも満たない厚さだが、びっしりと書き込まれた文章は読ませてもらってもさっぱりわからないほど濃密で、資料としての価値が天と地なのは誰が見ても明白だった。
 それにしても、ド・オルニエールがいくら小さな領地とはいえ、普通に調べれば何日も何週間もかかるであろう調査を半日で終わらせてしまった彼女の手腕は恐るべきものだ。時代ごとに、世には突出した傑物が現れるというが、こうして直に見ると恐ろしいものだ。自分たち凡人の出る幕などどこにもなくて、水精霊騎士隊の面々は「もう全部あの人だけでいいんじゃないのかな」と、疎外感を感じ始めていた。
 ところがである。それまで順調に視察を続けていたルビアナが、難しそうな様子で立ち止まったのだ。
「ううん、困りましたわね」
「どうしました? ミス・ルビアナ」
 思案するルビアナにレイナールが声をかけた。水精霊騎士隊の参謀役の彼としては、こういう場面で自然と体が動いてしまったのだ。
 しかしルビアナは振り返ると、不快な様子は見せずにレイナールに答えた。
「あなたは、レイナールさんでしたね。それがですね、ド・オルニエールの増収のプランを考えていたのですが、少々行き詰ってしまいまして」
「増収、ですか?」
「はい、わたくしとしてもアンリエッタ女王陛下から推薦していただきましたゆえに、できうる限りの投資をこちらにしたいと思いますが、ご存じの通り、いくら豊かな土地でも広さには限界があります。ワインの醸造工場はトリステインのほうで建設なさるそうですが、それ以外が単なる畑しかないのでは、発展が頭打ちになってしまうのですよ」
 その答えに、さすが出来る人ははるかに先を見据えてプランを立てているものだなとレイナールは感心した。ギーシュやギムリは、さっぱりわからないという顔をしているが、モンモランシーは納得した様子を見せている。
 実はこれがわからないことが領地の経営に失敗する貴族のパターンのひとつで、商売にうといトリステイン貴族の共通の欠点と言ってもよかった。単に豊かな土地ならいくらでもある。そこにプラスアルファの何かで人を引き付けて金を稼がなければ、いずれはよそとの競争に負けて衰退していくしかない。豊作がイコール繁栄だとしか思っていない貴族がだいたいこれに陥る。
 ギーシュたちはレイナールから説明を受けて、一応は納得したが、だからといっていい案があるわけでもなかった。ド・オルニエールは数年前まで過疎にあえぐ貧しい土地だったのだ。畑以外には本当になにもなく、人を引き付けるものなど皆無と言っていい。ルイズやモンモランシーもこれにはお手上げで、もちろん才人も名案などなかった。
「遊園地作るわけにもいかないだろうしなあ」
 地球でなにげなく見ていたTVで、過疎の地方が無理やり作ったテーマパークの経営に失敗して破産したというニュースが思い出される。
 このド・オルニエールの人たちには親切にしてもらった。老人ばかりになってしまった土地に、ようやく人が戻ってきたと喜んでいる住民たちのためにも、なんとかしてあげたい気持ちはやまやまだけれど、そんなすぐにいいアイデアが浮かぶわけもない。
 ただ、ド・オルニエールは首都トリスタニアから一時間という近場にあるため地理的には恵まれている。なにか、本当になにかいいアイデアさえあれば……。

 と、そのときであった。一行のもとに、ひとりの老人が慌てふためいた様子で走ってきたのだ。
「だ、旦那さま方! 大変です、大変でございますじゃ!」
「ど、どうしたんです? とにかく落ち着いて、なにがあったか話してください」
「と、とにかくこちらへ! ああ、恐ろしいことです。お願いでございます、すぐにいらしてくださいませ」
 動転した老人の様子がただごとではなかったので、一行はとにかく行ってみようとうなづいた。老人は才人が背負って、老人の来た方向へと走り出す。
 そして、たどり着いたのは農地から少し離れた丘の上。そこで一行は、想像もしていなかった光景を目の当たりにすることになった。

 丘の上の土の中から真っ白い湯気が湧いている。そしてその下からは、ゴボゴボと大きな音を立ててお湯が湧き出しているではないか。

「なんで地面からお湯が沸きだしてるの?」
 ルイズがきょとんとした様子でつぶやいた。来てみれば、なんてことはない光景であったが、辺りに集まってきた土地の人々は「恐ろしい」「天変地異の前触れか」と騒いでいる。
 どうやら急にお湯が湧き出したらしい。どうやら、この土地の人たちはこういう光景を見たことがないらしく、才人が人々を安心させるために大声で叫んだ。
「皆さん、心配しないでも大丈夫です! これはただの温泉です。なにも危ないことはありませんよ。ちょっと熱い湧き水とおんなじです!」
 才人の呼びかけで、住民たちにもやや落ち着きが戻った。
 けれど、本当にトリステインでは温泉はあまりなじみがないものらしく、きょとんとしているギーシュたちに才人はもう一度説明した。
「地面の底の底で溶岩にあっためられた水が湧き出してきてるんだよ。おれの国じゃあ火山が多いからよく見るんだけど、そういえばトリステインには火山はなかったっけか」
 火山と聞いて、何人かは「そういえば火竜山脈の近くにそんなものがあるらしいな」と思い出したようだった。
 しかし、何事かと思って冷や冷やしたが、たいしたことじゃなくてよかった。突然温泉が湧いたことは不思議だが、そういえば昔日本でも畑が突然盛り上がって火山ができたことがあったらしい。それに比べれば温泉くらい可愛いものである。
 ただ、たかが温泉でこんな騒ぎが起きるとは才人にとっては意外だった。日本育ちの才人にとっては温泉はありふれたものだが、トリステインではそんなに珍しかったのか。そういえば、魔法学院でも平民はサウナ風呂だったな。
「もったいねえな、掘りもせずに温泉が湧くなんて日本だったら……あっ! そうだ! 温泉だ、温泉を作ろうぜ!」
 才人がそう叫ぶと、皆は驚いた様子で彼を見た。
「温泉だよ温泉。いくらでも湧いてくるお湯を使って、誰でも風呂に入れる施設を作るんだ。温泉のお湯には疲れをとったり病気を治したりする効果があるから、きっとトリステイン中から人がやってくるぜ!」
 熱弁する才人だったが、ルイズやモンモランシーは冷ややかだった。
「誰でもお風呂にねえ、でも浴槽に入るのはほとんど貴族に限られてるのよ。こんなところにまでわざわざ入浴しに来る貴族なんていないわよ」
「ちなみに温泉につかると肌がすべすべになって美容にもいいんだぜ」
「作りましょう、ぜひ作りなさい」
 ちょろかった。しかし、女性への殺し文句でこれ以上のものもそうはないに違いない。
 トリステイン中、いずれはハルケギニア中から温泉で客を集めて、ド・オルニエールの作物で作った料理でもてなす。そうすればド・オルニエールはもっと豊かになれる。
 そのアイデアは才人にはバラ色に思えた。もちろん素人考えゆえに実際にやるとなると問題は数えきれず、そんな簡単に行くなら日本各地の温泉地も苦労しないであろう。
 だが、どんなアイデアもまずは思いついて口にしなければ始まらない。特に才人はその楽観的な性格で、すぐにルビアナに温泉地のアイデアを売り込み、ルビアナも実業家らしく頭ごなしに否定せずに、少し考えてから答えた。
「そうですわね。トリステインで温泉地を売りにしている場所はありませんから、もしかしたらもしかするかもしれません。ですが、まずは最低限の施設を作るにしても、わたくしはあくまでゲルマニア人ですので、お金を些少出して差し上げることはできますが、トリステインのことに直接手出しをするわけにはいかないのです」
 困った様子をしてルビアナは言った。アイデア自体は悪くはないと思ってくれているようだが、浴場を作るための人足を雇って動かすとなると、あくまで招待客として来ているルビアナの立場上国際問題になりかねない。
 道理を立てて行動するなら、まずは女王陛下に伺って許可をもらわなければならない。しかし、才人はそんな面倒は必要ないとばかりに自身たっぷりに言った。
「人手ならタダであるぜ。なあ、みんな!」
 そう言って才人はギーシュたちを見回した。もちろん、ギーシュたちは思いもよらない才人の申し出に困惑し、拒絶しようとした。
「おい待ってくれよサイト。なんでぼくたちがそんなことをしなきゃならないんだ!」
 ギーシュだけでなく、ギムリやほかの少年たちも口々に、そんな平民のするような仕事をどうして自分たちがしなきゃいけないんだと文句を言う。
 が、才人はそんな彼らの反応はわかっていたとばかりに、ちょっとお前らこっちに来い、と手招きして少し離れた場所に水精霊騎士隊を誘うと、教え諭すように話し始めた。
「お前ら、よーく考えてみろ。風呂場ができるってことは、集まるのは男だけじゃねえだろ。さっきのルイズとモンモンの喜びようを思い出してみろ。かわいい女の子がトリステイン中から集まるようになるんだぜ」
 それを聞いて、まずはギーシュの顔が目に見えてわかりやすく動揺した。
「か、かわいい女の子! い、いや、待てよサイト。始祖ブリミルから授かった神聖な魔法を、そんなことに使うわけには」
「ほーお? 立派だなギーシュ、おれはお前を尊敬するぜ。だけど思い出してみろよ。その神聖な魔法でモンモンは前に惚れ薬なんてものを作ってただろ? それに比べれば可愛いもんじゃないか。目に浮かばないか? 学院のせまっ苦しい浴場じゃなくて、広々した自然の中で湯気をたゆらせるモンモンの姿が」
「うっ! それ、それは! いやだけど、しかし、だけどモンモランシーが、それは」
 皆の手前、理性を総動員しようとしているギーシュであるが、すでに邪な妄想が頭をよぎっているらしく、目元口元がピクピクと動いている。それに、他の皆も多かれ少なかれ妄想の世界に入り始めていると見え、真面目なレイナールにしてさえ目が泳いでいる。
 しかし、才人が次に発した爆弾発言で、彼らの理性はタイタニックがごとく轟沈した。

「ちなみに、温泉では男も女も『裸の付き合い』をすることがマナーなんだぜ」

 ぶはっ、と数人の少年たちの鼻から血が噴き出した。
 そしてギーシュも、ついに耐えきれなかったと見えて滝のような涙を流しながら才人の手を力強く握りしめてきた。
「サイト、ぼくは今猛烈に感動している! 隊長の名において、君に水精霊騎士隊永久名誉隊員の称号を与えたいと思う」
「身に余る光栄だぜ。それでギーシュ、温泉を作るのに協力してくれるか?」
「もちろんさ。騎士として、友の頼みをどうして断れようか! そうだろう、みんな?」
 ギーシュが薔薇の杖を掲げて問いかけると、即座に水精霊騎士隊全員から「おおーっ!」という歓声があがった。
 どの顔も感動で打ち震えており、これより死地に赴くことを躊躇しない真の武士のオーラを身にまとっていた。

 そんな彼らを、ルビアナは少し離れたところから不思議そうに眺めていたが。
「ギーシュさまたち、いったい何をお話になられているのでしょう?」
「どうせろくでもないことよ」
 モンモランシーが冷ややかに即答した。
 こういうとき、男子がまともなことを考えていたためしがない。もちろんルイズも同じことを思っていたようで、なぜか皆に祭り上げられている才人を苦々しげに睨んでいた。
 平然としているのはキュルケくらいなもので、温泉の効能でまた美しくなっちゃうわね、と期待に胸を躍らせていた。

 そして、「裸の付き合い、万歳!」と、心を一つにした才人と水精霊騎士隊は、授業返上補習授業どんと来いで温泉浴場建設に取り掛かることを決定した。
「と、いうわけで今日から一週間、ぼくら水精霊騎士隊はド・オルニエールの発展のために、この地に残って尽力しようと思う。その旨を学院には伝えてくれたまえ」
「どうせ何言っても聞かないでしょうから止めないけど、どうなっても知らないわよ。国際問題に巻き込むことだけは勘弁してよね」
 モンモランシーはルイズやキュルケといっしょに、仕方なさそうに学院へ帰っていった。
 本音を言えばモンモランシーもルイズも残っていて見張りたかったけれど、優等生ではないモンモランシーは欠席日数を増やすのは避けたかったし、ルイズはルールに厳しい母親に無断欠席を知られるのは命にかかわる問題であった。
 しかし、悪い予感しかしない。あの才人やギーシュたちがあそこまで結束するとは十中八九ろくでもないことでしかない。まさかルビアナに直接手出しをすることはないと思うが、下手をすれば歴史に残る大惨事を招きかねない。
 ルイズは、まさかひょっとしてそれも見越して楽しんでいるんじゃないでしょうね女王陛下? と、何を考えているのか腹黒さでは底の知れないアンリエッタの顔を思い返してつぶやいた。

 しかし、大きな決意を持ってド・オルニエールに残った才人と水精霊騎士隊を待っていたのは、想像を絶する苦難の日々であった。
「まずは大浴場を作ろう。脱衣所に休憩所に、サウナと中くらいの岩風呂に、と。とりあえずはこのあたりを目標にして作り始めようか」
「収容人数は、まずは百人を目安にしよう。学院を休んでられるのは一週間までだ。急いでとりかかろう」
 才人が思い出した日本の銭湯の記憶を元にレイナールが簡単な図面を引いて、工事の段取りは決まった。
 役割分担をして、数十人の水精霊騎士隊はさっそく仕事に取り掛かり、建物の建築や浴場の掘削が始まる。
 しかし、順調だったのは最初だけで、作業はすぐさま壁にぶち当たった。
「くそっ、これで合ってるはずなのになんで組み合わさらないんだ?」
「だめだ、すぐお湯が漏れちまう。これじゃ浴槽に使えないぞ」
 脱衣場を作ろうとすれば床板さえきれいに張れず、浴場の穴に試しに湯を注いでみれば溜まらなかったりと、平民の仕事なんか魔法を使えば簡単にできるだろうと高をくくっていたギーシュたちは完全にあてを外されていた。
 最初の見積もりでは三日もあれば簡単に完成するだろうと思っていた。しかし、それはあまりにも楽観的に過ぎたようだと彼らはようやく思い知らされたのだった。
「せいぜい小屋を建てて大きな穴を掘ればいいだろうと甘く見てた。だけど、こりゃ相当な難物だぞ」
 ギーシュは、ただの穴ぼこと、柱も立ててない小屋を見て憮然として言った。
 もちろん、ギムリやレイナール、ほかの水精霊騎士隊の少年たちも浴場作りをなめていたことを痛感して、自信を打ち砕かれてまいっている。
 しかし、そこで皆を叱咤したのは才人だった。
「みんな、何を落ち込んでるんだよ。まだ工事は始まったばっかじゃねえか! お前たちには見えないのかよ。この浴場で女の子たちがたわむれる桃色の光景が! お前たちの貴族の誇りはそんなものだったのかよ!」
 その言葉に、男たちは再び立ち上がった。
「そうか、そうだったなサイト! ぼくたちは、まだあきらめるわけにはいかなかった。みんな、頑張ろう! トリステイン貴族の誇りのために、裸の付き合いのために!」
「ウォーッ! 裸の付き合いバンザーイ!」
 最低な動機であるが、とにもかくにも彼らはやる気を取り戻した。
 それからの彼らは文字通りすべてを犠牲にしてでも前進を開始した。
 水が漏るなら底を固めて『固定化』の魔法をかける。魔法を使う精神力が尽きれば才人に並んでスコップで土を掘る。建築技術がなければ、土地の人に貴族の誇りを投げ打ってでも頭を下げて聞きに行った。
 普段ならば、平民のやるような汚れ仕事や、平民に教えを乞うことは貴族の誇りにかけて忌避するが、今回は貴族の誇りよりも男の浪漫のほうが大事だった。
 しかし、やる気はあってもしょせんはドットかライン止まりの彼らの魔法はすぐに底を尽き、疲労のあまり倒れる者も出始めた。
「た、隊長、おれはもうダメです。やっぱり、おれたちなんかには過ぎた夢だったんですよ……」
 疲れ果て、絶望に染まった仲間たちの顔。しかし、今度はギーシュが彼らの顔をはたき、力強く叱咤した。
「その顔はなんだ、その目は、その涙はなんだい! 君のその涙で、温泉浴場が作れるのかい。つらいのはみんないっしょだ。けれど、夢はあきらめない人間にだけかなえられるんだ。さあ立ちたまえ、裸の付き合いが君を待っているよ」
「隊長……うう、おれが間違っていました。そうですね、裸の付き合いバンザーイ! 水精霊騎士隊バンザーイ!」
 いろいろと台無しであるが、男同士の友情だけが今の彼らを支えていた。
 だが、そのままではいくら彼らが命を削ったところで浴場の完成には間に合わなかっただろう。けれど期限が残り二日に迫って、さすがに彼らも折れかけたそのとき、ルビアナが土地の人たちを連れて加勢に来てくれたのである。
「皆さん、この方々が温泉作りを手伝ってくださるそうです。皆さんの頑張りが、ド・オルニエールの人たちに伝わったのですわ」
「貴族の坊ちゃんたちが泥まみれになってド・オルニエールのために頑張ってるのに、俺たち土地のモンが黙ってはいられませんわ。こっからは俺たちが手伝いますぜ」
 筋骨たくましい男たちが何十人も加勢に入ってくれて、浴場作りはみるみるはかどり始めた。
 岩を運び、しっくいで固め、平行を計って柱を立てる。おかげで、穴ぼこと掘っ立て小屋に近かった浴場は清潔感と風情のある温泉へと生まれ変わっていく。
 ギーシュたちは、土地の人たちと、彼らを連れてきてくれたルビアナに感謝した。彼女はあれからもド・オルニエールの視察を続けていたが、ギーシュたちの頑張りを見て、それを人々に伝えてくれていたのだった。
「ありがとうルビアナ、君のおかげでぼくらは絶望の淵から救われた。ありがとう、ありがとう」
「礼には及びませんわ。わたくしではなく、ギーシュさまたちの頑張りが人々に通じたのです。我が身を削って平民の模範になるとは、皆さまは本当に貴族の鑑でいらっしゃいますわ」
「そ、それは……その、うん……」
 澄み切ったルビアナの笑顔が良心をチクチクとつつく。本当は貴族の鑑どころか人間として最低な動機でやっているのだが、まさか言うわけにはいかない。
 と、そのときだった。ルビアナはぬいぐるみのような白い何かを抱いていたのだが、それが急に動き出したかと思うと頭をこちらに向けてきて、ギーシュや才人たちは仰天した。
「エ、エレ、エレキングぅっ!?」
 それはサイズこそぬいぐるみ大ではあったが、正真正銘の生きたエレキングそのものであった。しかもリムエレキングのようにディフォルメ調なものではなく、小さいだけでそのままの姿の本物のエレキングであり、当然それを見たギーシュたちは血の気が引いた。
「ル、ルビアナ、そ、それはいったい?」
「この子ですか? このあいだ湖畔を散歩していましたら懐いてきましたので、わたくしもつい可愛らしくなってしまいまして。とても人懐こくていい子ですよ」
 エレキングの幼体があの湖にまだいたのか! 驚いたギーシュたちは当然ながら、そいつは怪獣の子供なんだと告げて手放させようとしたが、ルビアナはぎゅっとエレキングを抱きしめてかばった。
「いけませんわ、よってたかって子供をいじめようだなんて。この子はまだいけないことは何もしていないではありませんか」
「い、いや、そう言ってもそいつは」
「しかしもかかしもありません。わたくしはわたくしを慕ってくれるものには相応の愛情を持って返します。譲りませんわよ」
 そこまで言われては、それ以上の説得は難しそうだった。
 才人とギーシュたちは相談し、無理に引き離してもルビアナを怒らせるだけであろうし、しばらく様子を見ることにした。今のところ小さいエレキングが暴れたりする気配はないし、ルビアナにも操られたりしているようなきざしはない。GUYSのリムエレキングのようにおとなしいまま育ってくれるならそれでいい。ただし怪しい様子があれば、ルビアナになんと言われようと断固対処する。
 だがそれにしても、あのエレキングはオスだろうかメスだろうか? もしオスだったらあいつはルビアナといっしょに温泉に……。
 危機感が変な方向にズレ始めているが、一同は気を取り直して浴場作りを再開した。あと一息、もう一息。ものづくりに慣れた平民たちの力で、完成に近づいていく温泉施設。平民の力をなめていた少年たちは素直に彼らの力を賞賛して、平民たちに負けていられるかと、少年たちも最後の力を振り絞る。
 そして温泉浴場はその完成した姿を少年たちの眼前に現した。

「お……おおーっ! これが温泉というものか」

 とうとう期限の最後ギリギリで、水精霊騎士隊製の温泉浴場は完成した。
 二十メイル四方の岩風呂に、平民たちの助力で小さめの薬草湯や寝湯なども並ぶ、立派な浴場である。時間の関係で建物は脱衣場のみであるが、数百人はゆうに受け入れられる露天風呂として申し分ない出来となった。
「やった。これも諸君らの汗と涙のおかげだよ。ありがとう、ありがとう」
 ギーシュは仲間たちの手を取り、心からの感謝を述べた。しかし、これは始まりでありゴールではない。才人がギーシュの手を握り返しながら言った。
「ギーシュ、喜ぶのはまだ早いぜ。おれたちはなんのために温泉を作ったんだ?」
「そ、それはもちろん! は、はだはだ……よーし! って、そういえばどうやって女の子たちを呼べばいいんだ」
 やる気を出しかけたギーシュは、今ごろになって肝心なことに気がついて固まった。
 そうだ、そういえば温泉を作ったはいいが、肝心の女の子たちを呼ぶ方法を考えていなかった。
 呼んで来てくれるのは、モンモランシーをはじめ学院の女子生徒にある程度心当たりはある。しかし、それだけではここまでの苦労をしたかいがないし、大義名分であったド・オルニエールのためにもならない。
 皆の顔を失望が支配していく。だが、その絶望を輝かしい光で破ったのはまたしても才人だった。
「フッフッフ、ギーシュ、その心配はないぜ。温泉の宣伝になって、かつおれたちも存分に役得を得られる手ならもう打ってあるんだよ。ほら、そろそろ来るぜ」
「なっ、なんだって!?」
 驚愕に顔を固める水精霊騎士隊。そのとき、彼らのもとに若い女性の声が響いてきた。

「おーいサイトー! 温泉ってのはここでいいのかいー?」

 きっぷのいいその声は、才人にとっては聞きなれた声だった。
 振り返ると、そこにはジェシカを先頭にして魅惑の妖精亭の女の子たちが揃ってやってきているではないか。
「おっ、ジェシカ、よく来てくれたな」
「招待状受け取ったよ。なんでも疲れに効いて美容にもいいんだって? せっかく店を休みにしてみんなで来たんだから、期待させてもらうからね」
 ジェシカはにこりと笑い、旅の荷物をいったん宿に置くために去っていった。もちろんその間、ギーシュたちの眼差しは美少女ぞろいの魅惑の妖精亭の顔ぶれに釘付けになっていたのは言うまでもない。
 そして、来訪者はそれだけではなかった。
「サイトーッ! 言われた通り、声はかけておいたわよ。思った以上についてきちゃったけどね」
 ルイズの声がして、そちらのほうを振り向いた少年たちはまた驚いた。そこには、ルイズとモンモランシーとキュルケに続いて、学院の女子が何十人もやってきていたのだ。
 これはいったいどういうことだ!? ギーシュでさえ、これだけの人数を集めるのは無理なのに。
 すると、女子たちの中からツインテールの小柄な少女が前に出てきた。
「フン! クルデンホルフ大公国の姫をもてなすには粗末なところね。けど、ヴァリエール先輩のお誘いだし、ティラとティアがどうしてもって言うから来て上げたから感謝しなさい」
「わーい! 温泉だ温泉。この星にも温泉があるなんて思わなかった」
「姫殿下ったら、ほんとは自分も楽しみにしてたくせに。ですよね? エーコ様」
「そうよ、ビーコにもシーコも、あと何日かしらって何回聞かれたことか。あ、怒らないで姫殿下。さー、水妖精騎士団前進ーっ!」
 ベアトリスを先頭に、学院の女子たちもいったん戻っていった。去り際にルイズが、「ド・オルニエールのためなんだからね」と言い残していったが、もう大方の少年たちの耳には入っていない。
 才人はここまで考えて用意してくれていたのか。水精霊騎士隊の才人を見る目が尊敬へと変わっていく。その眼差しを心地よく受けて才人はフフンと誇らしげに鼻をこすってみせた。
 しかし、才人は下心だけで人を集めていたわけではなかった。
「サイトおにーちゃーん! みんなで来たよーっ!」
 幼く元気な声はアイのものだった。トリスタニアの孤児院から、子供たちも才人は招待していたのだ。
 変わらず元気にまとわりついてくる子供たち。そんな彼らをなだめて、ティファニアが才人にお礼を言った。
「お招きありがとうございます、サイトさん。本当にその、タダで使わせてもらってよろしいんですか?」
「もちろんさ。子供たちもたまにゃトリスタニアの外に出してやらなきゃな。テファも遠慮しないでゆっくりしていってくれよ、新装開店無料サービスさ」
「はい。それじゃみんな、荷物を置きにいきましょう」
「はーい!」
 ティファニアに先導されて、子供たちも去っていった。もっとも、才人をはじめ、少年たち全員の目は、子供たちの手を引きながらもぷるんぷるんと揺れるティファニアの双丘に釘付けになっていたのは言うまでもない。
 あの幸せ製造機と裸のお付き合いを……。ギーシュたちの胸に人生最大の幸福感が宿る。
 生まれてきてよかった……そして、才人に人生すべてを引き換えにしても返しきれないほどの感謝を込めて、ギーシュは才人に滝のような涙を流しながら言った。
「ぼくは、ぼくは、ごれぼどまでに友情の尊さをがんじだごどばないっ! サイト、ぼくは君にどうやってこの感謝を伝えればいいかわからないよ!」
「なに言ってんだギーシュ、友だちじゃねえか。それによ、メインディッシュはまだ残ってんだぜ」
「えっ?」
 すがすがしい笑顔とともに才人は言った。この上、まだ誰か来るというのか?
 そのとき、一同の耳にこれまでとは違う、金属の甲冑が鳴る乾いた音が響いてきた。
 この音はまさか? まさかそこまで呼んだのか! ギーシュたちの脳裏に、この音を立てる甲冑をまとった唯一の部隊の名前が浮かぶ。
「姉さん、みんな、来てくれたんだな」
「サイト、いい保養所を作ったそうだな。なるほど、確かにここなら任務の帰りに立ち寄るには都合がよさそうだ。温泉とやら、期待させてもらうぞ」
 アニエスら銃士隊も呼んでいたのか! さすがにそこまでするのかと思ったが、アニエス以外の隊員たちはプライベートだということで期待に胸を膨らませた顔をしている。
 仕事中は苛烈でも、彼女たちも年頃の女性だということには変わらない。銃士隊と付き合いが長い才人だからこそ、そのあたりをうまく招待状に盛り込んで彼女たちの意欲をかきたてたのだ。
 もっとも、隊員たちにすれば口実はなんであれ才人とミシェルをくっつけるチャンスができればなんでもよかったらしく、さっそく後ろでためらっているミシェルを才人の前に押し出してきた。
「サ、サイト……わ、わたしは美容とかそういうものはどうでもよかったんだが、サイトがせっかく呼んでくれたから、その」
「いやいや、遠慮することなんかなんにもないって。温泉ってのは、つかるだけでも気持ちいいものなんだから。入ったらきっと気に入ってくれると思うぜ」
「そ、そうか。じゃあ、わかった」
 いまだ初々しさの抜けないミシェルに、才人は「かぁーっ、かわいいなあーっ!」と、心の中で悶絶した。
 もちろん、ほかの銃士隊員たちも明るく開放的で、しかも美人ぞろいだ。サリュアやアメリーやリムルらの見知った顔ぶれも温泉を楽しみに来てくれたのがわかる嬉しそうな顔をしている。
 ギーシュたちの興奮はいまや最高潮だ。美少女、美人がよりどりみどりで、こんな幸せがこの世にあっていいのだろうか。
 一方で才人も、自分のつてを最大に利用することで長年の夢だった男の浪漫を実現できて感動していた。人生って、苦労したぶんだけ報いがあるんだなあと、日ごろの苦労を思うと心からしみじみする。

 だが、才人も想定していなかった事態がここで起こった。銃士隊の隊列の中からフードを目深にかぶった少女が歩み出てきたかと思うと、フードをまくってトリステイン貴族ならば知っていて当然の尊顔を見せたのだ。
「うふふ、サイトさん、ルイズといっしょに自分たちだけ楽しそうなことをしてはいけませんわよ」
「いっ! じっ、女王陛下ぁっ!?」
 まさかのアンリエッタ女王陛下の登場に、一同は揃って仰天した。ギーシュたちは、「サイトお前女王陛下まで呼んだのか!」と詰め寄るが、さすがに才人も「知らない知らない! おれは銃士隊のみんなしか呼んでない」と答えるしかなかった。
 するとアンリエッタは涼しい顔で、彼らの疑問に答えた。
「ふふ、このトリステインでわたくしに隠し事ができると思わないでくださいね。慰安をとりたいのはわたくしだっていっしょですもの」
「し、しかし女王陛下がいなくなってはお城が大変なことになってるのでは!」
「一日や二日女王がいなくなったくらいで傾くほどトリステインはやわではありませんわ。それに、わたくしの留守中に不埒なことを企む輩が現れたら、それはそれでお掃除のいい機会ですもの」
 だめだこの人完全に確信犯だ。アラヨット山の遠足のときといい、もはや数々の修羅場をくぐりすぎて精神が鍛えられすぎている。
 アニエスは横顔で、「すまん、止められなかった」と謝ってきているが、これはとんでもない爆弾を押し付けられたようなものである。
 ギーシュはあまりのプレッシャーに立ったまま気絶し、ほかの面々も青ざめている。

 なんとも、すさまじいメンバーが一堂に会してしまった。いずれも曲者ばかりの顔ぶれの中で、男たちは『裸の付き合い』にたどり着けるのであろうか。

 未来に待つものは希望か絶望か。男たちの全てをかけた人生最大の戦いが始まろうとしている。
 そんな彼らを、ルビアナはエレキングを抱きながら笑って眺めていた。
「ウフフ、これはおもしろそうなことになりそうですわね」


 続く






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