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ディセプティコン・ゼロ-8

ブレードの1枚を吹き飛ばされたテールローターに噛り付いていたデルフは、応急的な修復を終えるや否やトーチを収納して垂直尾翼より飛び降りた。
その音を聴き付けたギーシュは、言われた通りに火花から逸らしていた視線を尾翼方向へと向け、複雑に腕を変形させながら歩み寄るデルフに声を掛ける。

「直ったのかい?」
「折れたブレードを繋ぎ合わせただけだ。後は相棒が自分で何とかするさ」

続いてデルフはつとギーシュを指差すと、呆れた様な声で言葉を発する。

「つーか相棒よりお前さんの方が重傷だと思うがね。何であの青い娘っ子に治して貰わなかったんだ?」

デルフの言葉通り、ギーシュは40mmグレネード弾の破片による負傷もそのままに、同じくぼろぼろとなったスコルポノックの装甲に腰掛けていた。
服は其処彼処に血が滲み、マントは見るも無残に裂け、肌が剥き出しとなっている顔や手には無数の傷が刻まれている。
しかしギーシュは、痛みを堪えながらも笑みを浮かべてみせた。

「ミス・タバサは精神力を使い果たしているからね。ミス・ツェルプストーにミス・ヴァリエール、ついでにフーケ。この上僕にまで治癒を施したら、彼女が倒れてしまうよ」
「別に死ぬ訳でもねーし、良いんじゃねーか?」
「どうせ掠り傷なんだ。そこまで急いで治癒する程のものでもないさ」

そう言って鼻の頭を掻いては傷に触れて小さく呻くギーシュに、デルフは爽快な笑い声を上げる。
ギーシュもまた、からからと嫌味さを全く感じさせない笑い声で返した。

「とはいえどうしたものか……このままでは折角の美しい薔薇に傷が残ってしまう。トリステイン、いや、ハルケギニア全ての女性にとって大きな損失だよ」
「そーか? 寧ろ前より男っぷりが上がったと思うぜ? 傷は男の勲章、ってな」
「そ、そうかな?」
「おーよ! 俺が女だったら『キャー! 抱いてー!』くらいは言うね。目ぇ合っただけで妊娠しちまわぁ」
「気持ち悪いな! ってそれ以前に君、剣じゃないか!」
「ちげぇねぇ!」

今度は2人、声を合わせて馬鹿笑い。
デルフは腹を抱える様な仕草でゲラゲラと地面を笑い転げ、ギーシュは笑う度に痛む傷を押さえつつスコルポノックの装甲を手で叩いている。
そんな2人の姿を少し離れた場所から眺めつつ、女性陣は何処か疲れた様に溜息を吐いた。

「……楽しそうねぇ」
「……ホントねぇ」
「……能天気」

ルイズは戦いの緊張から開放された反動から。
キュルケは比較的大量の血を流した事による虚脱感と、仲間の足を引っ張ったという無力感から。
タバサは3人の重傷者に対する応急処置の疲れから。
其々の理由から彼女達の疲れは頂点に達しつつあり、最早意識を保つのも精一杯という状態であった。

対して、ギーシュは初めて―――――決闘を含めるのなら2度目―――――の実戦後、しかも全身の負傷と少なからぬ出血があったにも拘らず、ああしてデルフと一緒になって笑い転げている。
普段の様子からは想像も付かないが、やはり軍人家系の男らしく戦向きの素質が在るのかもしれない。

「……何時になったら帰れるのかしら?」
「デルフに訊いてみたら? 修理も済んだみたいだし」
「んあ? 呼んだか?」

ルイズの呟きに応えを返したのは、今の今まで転げ回っていたデルフだった。
どうやら彼の聴覚は人間離れしたものらしい。

「ねえ、ブラックアウトは直ったの?」
「ある程度はな。後は相棒の自己修復力次第だ」
「自己修復って……生き物じゃあるまいし」

呆れた様に口を挟むキュルケ。
タバサも同感なのか、訝しげにデルフへと視線を向けている。
それに対しデルフは、良く見てみろとブラックアウトを指差した。
損傷した垂直尾翼へと歩み寄り、それを見上げる3人とギーシュ。
其処では、驚くべき現象が起こっていた。

「……嘘」
「亀裂が……塞がっていく……?」
「……」
「これは……ゴーレムと同じ? い、いや、でも錬金を使っている様子は……」



呆然と佇む4人の目前で、『破壊の槍』によって撃ち抜かれた装甲の亀裂が、ゆっくりとではあるが着実に塞がってゆく。
デルフによって溶接されたブレードの傷に至っては、今や継ぎ目が見えないまでに修復されていた。
これが『錬金』によって為されている現象であれば、彼等もここまで驚きはしない。
しかし今、彼等の視線の先で起こっている現象には、四系統いずれの魔法を使用している形跡も無かった。
それ以前にコルベールの解析によって、ブラックアウトを構築している金属はこのハルケギニアに於いて、完全に未知の物質である事が判明している。
未知の物質を錬金するなど、例えスクウェアクラスのメイジであっても不可能。
ならば即ち、魔法以外の何かによって金属体の損傷が修復されていると考える他無い。
混乱により動きを止めた4人に、デルフからの助け舟が入る。

「あー…簡単に説明するとだな、相棒達は生物の身体を構築する『細胞』ってのに似た金属で出来てんだよ。傷を治したり、必要に応じて増殖したり」
「……何それ!? もう完全に生き物じゃない!?」
「何処のメイジがそんな技術を?」
「……先住魔法」



各々が更なる混乱を来す中、タバサが呟いた一言に全員が再び動きを止める。
先住魔法。
今となっては砂漠に住むエルフのみが操る、四系統とは根本から異なる強大な魔法体系。
たしかにそれならば、メイジの常識から外れたこの物質を生み出せるかもしれない。
しかしデルフは、そんな彼等の予想を一言で切り捨てた。

「違う。相棒にゃ魔法なんざ欠片も使われてねぇよ」

4人の視線が、『4500X』と刻まれたナンバーとその隣に浮かぶ使い魔のルーンを見上げるデルフへと集中する。
説明しろ、との催促を込めた視線だったのだが、デルフはあっさりとそれを受け流した。

「ま、詳しい話は学院に戻ってからにしようぜ……ほれ」

その時、メインローターと修復されたばかりのテールローターが、呻りと共に回転を始める。
思わず頭上を見上げる4人に、デルフは可笑しそうに言葉を続けた。

「相棒も準備万端だとさ」

こうして5人と意識の無いフーケ、満身創痍のスコルポノック、そして2つの兵器を回収したブラックアウトは、追跡開始から僅か3時間足らずで学院への帰路へと着く。
しかしその機内で、デルフが回収した『破壊の槍』と『火竜の息吹』を身動ぎもせずに眺めていた事に気付いた者は、1人として居なかった。



ブラックアウトの到着早々、夜半にも拘らず学院は喧騒に包まれた。
ブラックアウトの立てる騒音も然る事ながら、応急処置こそ済ませてあるものの重傷者2名を含む負傷者4名、内1名は意識不明という討伐隊の壮絶な有様。
その話を聞き付けた学院中の人間が中庭へと押し掛け、未だローターの回転止まぬブラックアウトへと殺到する。
結果、学院中庭に戦場さながらの光景が拡がる事態となってしまった。
そんな中、討伐隊の面々は人込みを掻き分けながら学院長室へと向かう。
ルイズの手には剣の姿に戻ったデルフ、キュルケの手には『火竜の息吹』、タバサの手には『火竜の息吹』の弾薬を詰め込んだ袋、ギーシュの手には『破壊の槍』。
各々の荷物を手に、4人は学院長室の扉を開いた。
それが30分前。



そして、現在―――――



「明日はフリッグの舞踏会じゃ。今夜はゆっくり休んで―――――」
「待ちな、じじい」

ミス・ロングビル雇用の真相、そして4人への褒章に関する事項を語り終え、退室を促そうとしたオスマンの言葉は、デルフの声によって遮られた。
コルベールを含めた6人の視線が、ルイズの携える剣へと注がれる。

「……インテリジェンスソード?」
「デルフリンガー様だ。ま、そんな事はどーでも良いんだ。それよりじじい、あの『破壊の杖』と『火竜の息吹』を何処で手に入れたのか、聞かせて貰おうじゃねーか」
「こ、こらバカ剣!」
「娘っ子は黙ってな」

デルフの慇懃無礼な言葉に慌てるルイズ及び他2名。
タバサだけは無表情のまま。
対するオスマンはその目に鋭さを宿し、傍らに立つコルベールへと視線を向ける。
果たして『炎蛇』の眼は、獲物を見定めるかの様に細められていた。
デルフリンガーは黙らせようとするルイズを制し、更に言葉を続ける。

「相棒の寄越した情報で知ったんだがよ、ありゃ相棒と同じ世界からきた武器……いや、兵器だ」
「……? アンタ、何言って……」
「あれはこの世界の技術や魔法で作れる代物じゃねえ。相棒が来た世界……『地球』で作られたモンだ」
「『地球』じゃと?」

と、オスマンがデルフの放った単語に反応を返した。
その目は驚愕に見開かれ、机へと手を付いて身を乗り出している。

「やっぱ知ってんだな、あの銃が何処から来たのか」
「なあデルフ、さっきから君は何を……って、おい!」
「ちょっと、きゃっ!」

そして止める間も有らばこそ、ルイズの手を振り払う様にしてデルフが亜人形態へと変化する。
驚きに目を瞠るオスマンとコルベールを余所に、デルフは机へと歩み寄るとその細い腕を叩き付けた。
耳を覆いたくなる様な音と共に木の破片が散り、机の表面に皹が走る。

「おかしいとは思ったぜ。フーケはいやに自然な動作であの兵器を扱ってたからな。オメーら、あれが何なのか知ってやがったな?」
「……」
「オメーらが警戒すんのは解る。あんなモンが平民や欲の皮が突っ張った貴族どもに渡ったらどうなるか、考えただけでぞっとすらぁな」

振り下ろした手を机の表面へとめり込ませたまま、デルフは落ち着き払った声で言葉を紡ぐ。
オスマン、そしてコルベールは沈黙を保ったまま、そんなデルフを値踏みするかの様な目で見つめていた。
しかしそんな平静を装った表情も、続くデルフの言葉によって打ち砕かれる。

「だがな……お前さん方が情報の出し惜しみをしたお蔭で、この4人は文字通り挽肉にされかかったんだぜ?」
「……!」
「おめーらが『破壊の槍』についての情報を寄越してれば、相棒も不用意にゴーレムへと近付いたりはしなかった」

フーケとの戦闘時の危機的状況を語るデルフ。
オスマンらは、やはり一言も発する事無くそれを受け止める。

「相棒の片割れが爪と背中を吹っ飛ばされる事も無かったろうさ」
「……」
「おまけに娘っ子と其処の坊……ギーシュは『火竜の息吹』で撃たれた挙句、ゴーレムに踏み潰される一歩手前までいった」
「……デルフ」
「おい、解ってんのか先生方よ。テメエらは『俺達』の『主』とその『友人』を死地に追い遣ったも同然なんだぜ?」
「デルフ」
「シュヴァリエ? 精霊勲章? ふざけてんのか? お目当てのモンを取り返したら後はお払い箱ってか?」
「デルフ!」
「ざけんじゃねぇぞ。いいか、俺の……『俺達』の最優先事項はこの娘っ子と、その『友人』達の保護だ。他の連中だの貴族の優位性だのがどうなろうと知ったこっちゃねえ」
「デルフ、止めなさい!」
「黙ってろ娘っ子! 『次』はどうなるか解らねぇんだ! 解るか? 情報が必要なんだよ! 解ったらテメエらの知ってる事を洗い浚い吐きやがれ! 此処に居る全員にだ!」

その壮絶な叫びに、ルイズ達は言葉を無くす。
自分達を守るという、確固たる意思を其処に感じ取ったからだ。
彼等はある種の感動にも似た心境を、デルフに対して抱くに至っていた。
一方で当のデルフは、何故自身は此処まで熱くなっているのかと自問を繰り返す。
人間との関係など、長い時を渡ってきた彼にとっては一瞬の繋がりに過ぎない。
死ぬ時は死ぬし、少し運が良ければ生き延びる。
その程度の存在であった筈だ。


しかし、目の前の連中がルイズ達に対し情報を出し渋ったと確信したその瞬間、凄まじい怒りと殺意がデルフの中に湧き起こった。


こいつ等は主とその友人、そして相棒を危機に晒した。
自身等が何よりも優先して守るべき対象を、機密管理の名目で避けられた筈の危険に晒したのだ。


改めてそう認識した瞬間、デルフの擬似視界が赤く染め上がる。
無数の数字、そして見た事も無い言語が擬似視界を埋め尽くすも、デルフはそれらが示す意味を仔細洩らさず理解出来た。

これは、『標的』の情報だ。

赤く染まった擬似視界全体に、徐々に、徐々に何らかの文様が浮かび上がる。
それは、果たして文字なのか模様なのかすら判別が付かない、ブラックアウトに刻まれたものと同じ、奇妙なルーン。
その各所が擬似視界の背景で激しく組み変わり始め、凄まじい速度で変形―――――『トランスフォーム』してゆく。
そして、それが遂に完成するかという、その直前―――――


「良いじゃろ」


オスマンの返答が聞こえた瞬間、擬似視界は青を基調とした通常のものへと戻り、浮かび上がっていたルーンは跡形も無く消え失せていた。
我に返ると同時、デルフの意識からはルーンの全体像も跡形無く消え去ってしまう。
今のは一体なんだったのかと当惑するデルフに気付かず、オスマンは『破壊の槍』及び『火竜の息吹』の出所について語り始めた。



「30年前……わしは王都の東に位置する森で、消息を絶ったメイジの小隊を捜索中にワイバーンに教われてのう」
「……」
「如何なる変種か魔法が殆ど効かぬそれに追い詰められ、最早これまでと観念した時じゃ。ワイバーンの面が突如、火を噴いて砕け散ったのじゃよ」

何処か遠くに目を遣りつつ、オスマンは昔語りを続ける。

「面の左側面を吹き飛ばされたワイバーンは狂った様に転げ回ってのう……呆然とするわしの前でワイバーンは、続けて胸を吹き飛ばされて絶命しおった。そして」

オスマンは言葉を区切り、何かを思い出そうとするかの様に目を細めた。

「森の奥から出てきたのは、見た事も無い物体……『火竜の息吹』を手にした、奇妙な服に身を包んだ男じゃった」
「……」
「彼は酷い怪我を負っていてのう……耳は落ち、鼻は焼け、腹の肉は抉られておった。それ程の怪我にも拘らず、彼はワイバーンに襲われるわしを放っておけずに助けに入ってくれたのじゃよ」

呟く様にそう語るオスマンの目は、何処か潤んで見える。
何時の間にか声は呟き程に小さくなっていたが、それを咎める者は居なかった。

「直ぐに保護し、水のメイジによる治療を受けさせたが……最早、手遅れじゃった。彼はうわ言の様に呟いておったよ。『アイスマンは、《キューブ》はどうなった』、とな」
「くあッ!?」

オスマンの言葉も終わらぬ内、唐突にデルフが奇声を上げて頭を押さえた。
室内の全員がぎょっとした様に彼へと視線を送る中、ゆっくりと腕を解いたデルフは困惑した様に床を見詰める。

「ど、どうしたの……?」
「……解らねえ。何か突然、相棒の様子がおかしくなって……目の前にルーンが浮かんだ瞬間に収まりやがった」

そう言って自身の腕へと目を移すデルフの視界の端に、小さなルーンが点滅を繰り返している。
相変わらず文字なのか否かも判別不能な模様だが、それからは奇妙な圧迫感すら感じられた。
オスマンはそんなデルフを静かに見詰めていたが、そろそろ頃合かと判断すると、咳払いをして話へと戻る。

「……そろそろ良いかの?」
「あ、はい」
「何処まで話したか……おお、彼を保護した後じゃったな。彼が息を引き取るまでの2日間……此処は何処かと問う彼に、わし等はトリステイン、ハルケギニアに位置する一国だと伝えた。しかし彼は『そんな国は知らない』と答えたのじゃ」
「まあ、そうだろうな」

デルフの相槌に目の鋭さを増しつつも、オスマンは語りを止める事はしなかった。
そして彼の口から、デルフが放ったものと同じ単語が吐き出される。

「そして彼はこう言った。『冗談は止せ。此処は地球、ステイツの筈だ』……終始、その言葉を繰り返しておったよ」



其処まで語り終えると、オスマンは腕を組み、祈る様な体勢をとった。
深い後悔と悲しみを秘めた、生徒の前では何時も冗談じみた態度を貫く彼らしからぬ様子に、他の者達は内心で驚きを覚える。

「息を引き取る間際、彼は此処ではない何処かを見ながらうわ言を口にしておった……尤もわし等は、死の恐怖に錯乱しているのだろうと、その意味についてまともに考えもせんかったが」
「うわ言ってのは?」
「……『キャプテン、キャプテン・レノックス、化け物はどうなりました? ラプターの編隊に敵が紛れ込んでるんです。サージに、サージェント・エプスに確認するよう言って下さい。サージに……』……それが最後じゃった……」

それきり、オスマンは黙り込んだ。
恩人の言葉を今の今まで疑っていた自身を恥じているのか、薄く開かれた目は瞬きする事も無く皹の入った机を見詰めている。
そんなオスマンに声を掛ける者は居らず、ルイズ達は只々無言の懺悔を続ける彼を前に静かに佇んでいた。
そして、数分が過ぎた頃。

「……『破壊の槍』は、11年前にゲルマニアで手に入れたものじゃ。用途不明という事で安く売り捌かれた物を、わしが2倍の金額で買い取った。刻まれていた文字が『火竜の息吹』と同じ形状だったのでな。恐らく同じ系統のマジックアイテムではないかと思ったのじゃよ」

残る一方の出所について語ったオスマンは、挑む様な視線をデルフへと投げ掛ける。



「今度は此方の番じゃな。デルフリンガー君……といったか。何故『火竜の息吹』と『破壊の槍』が何処から持ち込まれたものかを知っているのかね? そして……」

オスマンは振り返らずに、親指で背後の階下を指差した。

「……ミス・ヴァリエールの使い魔の正体とは、一体何なのか? 答えて貰えないかね、デルフリンガー君」

全員の視線が、デルフへと集中する。
疑惑と好奇を含んだそれらに対し、デルフは自身の眼を指す事で応えた。

「……?」
「口で言っても理解出来ねーだろうからな……直接『見て』貰うぜ」
「なっ……!?」



次の瞬間、学院長室はコンクリートとガラスに埋め尽くされた異世界へと変貌を遂げた。
見た事もない服を着た人間達が広大な通りの端を歩き、中央を無数の鉄の塊が呻りを上げつつ駆け抜ける。
見上げれば、周囲の建物は想像を絶する遥かな高みまでその威容を伸ばし、その更に遥か上を奇怪な音を立てつつ光を反射する何かが横切っていた。
ルイズ達は何が起こっているのか理解出来ず、只々呆然と周囲の場景を眺めている。
コルベールは反射的に杖を抜いたものの周囲の変わり様に絶句し、今は魅入られた様に辺りの光景を見回していた。
オスマンは何も無い空間に手を着き、其処に机が存在する事を確かめると、苦虫を噛み潰した様な表情で呻く。

「幻影か……!」
「少し違うな。こいつは『映像』だ。相棒から送られた情報を、立体化した映像としてこの部屋に投射しているのさ」

オスマンの呟きに応えたのは、6つ在る眼の内の1つから幾筋もの光線を放つデルフだった。
そして皆がデルフへと視線を移した瞬間、唐突に場面が切り替わる。
彼等の眼下に拡がるのは、海に面した広大な敷地に走る幾本もの黒く長い直線。
その上を翼の着いた巨大な金属の塊が凄まじい速さで奔り、長い線の端に近付くとふわりとそれが浮き上がる。
そしてその鉄塊は更に速度を上げ、ゆっくりと旋回しつつ彼等の視界から消え去った。
その間にも無数の鉄塊が離着陸を繰り返しており、眼下の施設の稼働率が如何に高いかを物語っている。

「これは……!」
「『空港』さ。こっちで言やあ船着場さね。周りを飛んでんのは『飛行機』っつう、まぁ……こっちの『船』みたいなモンだ」
「……速い」
「そらそーだ。帆に風受けて奔ってる訳じゃねーからな。アレは自分の力で飛んでんだ」

そこでデルフは室内の全員を見渡し、言葉を紡いだ。

「これが相棒達の世界……『地球』だ。此処には魔法も、精霊みてえな神秘の生命も存在しねえ。この世界の人間達はこっちの平民と同じ……何の力も持たねえ無力な存在だ。だが、何より恐ろしい存在でもある」

その言葉に幾人かが怪訝な顔をし、代表としてキュルケが疑問を口にする。

「どういう事? 魔法が存在しないなら、何も私達が恐れる事は無いんじゃない?」
「そうよね……『火竜の息吹』みたいなマジックアイテムがそうそう在る訳無いし……」

キュルケに続きルイズの呟きが洩れた瞬間、またも場面が切り替わった。
突然の場面の変化、そして轟音に反応し切れなかった周囲の面々だが、それが何を映し出したものかを理解すると、一様に凍り付く。
そんな彼等を見ながら、デルフは褪め切った声を発した。


「これを見てもそんな事が言えるか? 娘っ子」


奇妙な形の銃らしき何かを持った人間達が何事かを叫びながら引き金を引き、雷鳴の様な銃声と共に無数の銃弾が連続して銃口から吐き出される。
連続して放たれる弾丸も然る事ながら、その威力も凄まじい。
一瞬で前方の鉄の箱が無残な鉄屑と化し、その裏に潜んでいた人間達までもが挽肉となった。
しかし向こうも同じく射撃を開始すると、今度は此方の人間が頭を吹き飛ばされて地面へと転がる。
その様を直視したルイズはひっと声を洩らし、キュルケとギーシュは凍り付いたまま動かず、残る3人はその顔に驚愕を浮かべて映像に見入っていた。
映像は更に切り替わり、纏まって前進していた人間達が一瞬で微塵となる場面が映し出される。
周囲には銃声が響き渡り、時折甲高い音と共に何かが宙を翔けると、続いて爆発音が轟いた。
見れば、『破壊の槍』に似た何かを携えた者達が其処彼処に潜んでおり、彼等がその引き金を引くと、やはり『破壊の槍』と同様に先端部が発射される。

それらの光景を呆然と眺める彼等に、再度デルフの声が飛んだ。


「これが『地球』の戦闘だ。尤も小競り合い程度のモンだが。これが大規模なモンとなると、こうなる」


横一列に並んだ細く長大な砲から凄まじい発砲炎が噴き出し、遥か前方で攻城魔法もかくやという爆発が連続して起こる。
巨大な鉄塊が往く手を塞ぐ全てを圧し潰し、立ちはだかる壁を突き破り、砲声と共に彼方の敵を消し飛ばす。
海上には巨大な鉄の船が艦隊を形成し、轟音と共に無数の白煙が天へと昇って往く。
一際巨大な船からは鉄の鳥達が空へと舞い上がり、更に甲板の端にはブラックアウトと同形の鉄塊が複数、その翼を休めている。
色も形も大きさも異なる奇怪な矢が想像を絶する速度で白煙を引きつつ意思が在るかの様に飛翔し、人を、建物を、鋼鉄の獣を、鳥を、船を貫き、爆発と共に全てを微塵と化す。
黒く巨大な鳥達から無数の鉄塊が宙へと投げ出され、破滅的な炎と爆風が地を覆う。
水中では鯨と見紛うばかりの巨体から何かが発射され、それが消えた先の深海からは鈍い光が瞬き、続いてくぐもった轟音が水中に響く。
地中から、そして水中から巨大な矢が放たれ、雲を抜け、空を突き破り、遂には暗黒の空間へと抜けたそれは分解、先端部は業火を纏いながら落下するそれは都市上空にて光を発し―――――

彼等の眼前に、終焉が現出した。



「これで解ったろ? 奴等は何の力も、導いてくれる存在も持たずに生まれ落ちた、謂わば『持たざる者』だ。だからこそ全てを欲した」
「……」
「空も飛べない。火も自在に起こせない。氷を生み出す事も出来ねーし、土を操って道具を生み出す事も出来ない。何処を探そうと、此処まで無力な存在ってのはそうそう無ぇだろうさ」

周囲の光景は何処かの施設内部へと移り、次々と生み出される鋼鉄の怪物達を映し出していた。
映像の施設が切り替わる度、生み出される怪物の造形も切り替わる。
今は怪物ではなく、量産される『火竜の息吹』を映し出していた。

「それでも奴等は考えた。『空を飛びたい』、『遠くに行きたい』、『もっと生きたい』、『もっと知りたい』……此方では叶うだろうそれらを現実のものとするだけの力も存在も、奴等の世界には無かった」
「……」
「だから考えた。持たないのなら、奪えばいい。解らないのなら、理解してしまえばいい。存在しないのなら、創ってしまえばいい」
「そんな……事が……」
「それしかなかったんだよ。だがそれ故に、『持つ者』には辿り着けない高みまで奴等は辿り着いた……それが良い事かどうかは別としてな」

そしてデルフの眼が発光を止めると同時、周囲の光景は元の学院長室へと戻る。
完全に『呑まれた』周囲の面々を見回したデルフは、オスマンへと語り掛けた。

「じじい。アンタの恩人はな、間違いなく『地球』から来た人間だよ。多分『アメリカ』って国の軍人だ」
「……そうか」

それを聞いたオスマンは、何処か晴れ晴れとした表情で頷きを返す。
長年の疑問が氷解した事によって、恩人への想いにひとつの区切りが付いたのかもしれない。
そんな彼に、デルフから思いも寄らない言葉が掛けられた。

「それでだ……そいつや『破壊の槍』がこの世界に迷い込んだって事はだ。他にも紛れ込んだ『モノ』が在るかもしれねえ。そいつが只の兵器でも十分にヤバいが……」
「何じゃ?」

怪訝な表情で訊き返すオスマンに、デルフはその言葉を解き放つ。

「厄介なんだよ。相棒みてえな『規格外』が他にも居ると、な」

あの様な存在が他にも在るかもしれないと告げる言葉への戦慄に、オスマンだけでなく全員が凍り付いた。。
しかし、それを聞いたルイズの内心には戦慄ではなく、とある疑問が渦巻く。

規格外?
ブラックアウトや、スコルポノックの様な?
でも、ブラックアウトはさっきの映像にも映っていたし……スコルポノックの事なんだろうか?
それともブラックアウトには、まだ自分の知らない何かが隠されているのだろうか?

皆が戦慄する中、ルイズは1人思考に沈む。
一方でデルフは、オスマンへと協力を持ち掛けていた。

「何でもいい。使い道の解らねえ道具やおかしな物が在るとか、そういう情報が無えか調べてくれ。余所の連中がその力に気付く前に回収するんだ。さもねえと……」
「とち狂った連中が何を始めるか解らん、といった所じゃな」
「そんなトコだ」

それだけ言葉を交わすと、デルフは剣へとその姿を戻す。
その音に気付いたルイズが床へと横たわるデルフを拾い上げ、オスマンへと視線を移した。

「あの……」
「ミス・ヴァリエール」

オスマンが発した有無を言わさぬ声に、ルイズは背筋を伸ばして硬直した。
その両隣に佇む3人も、同様に姿勢を正す。

「はい」
「此処で見聞きした事は他言無用。其方の3人も同様じゃ……良いな?」
『杖に掛けて!』

4人が唱和し、同時にオスマンは表情を緩める。

「デルフリンガー君の言う通り、『地球』から紛れ込んだと思しきものについての情報は、ミス・ヴァリエール、優先的に君へと伝えよう。君の友人達にそれを伝えるか否かは、君自身の判断に任せる」
「……はっ!」

オスマンが退室を促し、4人は扉へと向かう。
その背にコルベールからの声が掛かった。

「デルフリンガー君」

その声に、ルイズ達は足を止める。
コルベールはルイズが携える剣へと視線を固定したまま、何処となく硬い声で問いを投げ掛けた。

「……何でえ」
「もし学院長が、『火竜の息吹』の入手経路について話す事を拒否した時は……如何にするつもりだったのですかな」

その問いにデルフは暫し沈黙し、やがてぽつりと呟いた。

「さあ? だが相棒は黙っちゃいなかっただろうぜ」

学院長室に唯一設置された窓、その直ぐ外。
轟音と共にホバリングするブラックアウトの巨体が、月明かりを浴びて浮かび上がった。

「相棒、おめーは何者だ?」

デルフは中庭へと着陸したブラックアウトの側面、使い魔のルーンを窓から眺めつつ呟く。
主たるルイズは既に床に着き、静かな寝息を立てていた。

一時は『使い手』かとも思ったが……違う。

擬似視界の端に表示されたルーンを拡大、その全体像を眺める。
しかし、それが示す意味を読み取る事は、6000年の時を渡ったデルフリンガーにも出来なかった。

……だが自分は、あの感じを知っている。
遥かな昔、確かに『あれ』と同じ波動を感じ取った事が在るのだ。
だがそれが何なのか、どうしても思い出せない。
新たな機能で自身の記憶を探るが、『何か』がプログラムを阻害している。
そして、その『何か』の正体すら判然としない。

そんな疑問を抱えたまま、双月の夜は更けていった。


時の彼方に埋没した記憶を掘り起こそうと、デルフは無限の星空を見上げる。
そんな彼の不安を嘲笑うかの様に流星が1つ、ハルケギニアの空を横切った。

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