ウルトラマンゼロの使い魔
幕間その十「歴史の真実と謎」
幕間その十「歴史の真実と謎」
ガリア王国が送り込んできた恐るべき超古代怪獣軍団は、ウルティメイトフォースゼロと
ウルトラマンティガに変身した才人の活躍によって撃滅された。しかし、これはガリアとの
真の戦いの、ほんの前哨戦でしかなかったのだ。
ヴィットーリオは即位三周年記念式典で、ガリアへ対する“聖戦”を宣言したのだ。
「我が親愛なるロマリアの民、及び始祖と神の僕の諸君。此度は北方より来たる悪魔の軍勢が
神の遣わした戦士たちにより退けられ、この祝祭の席を開けたことは真に幸いです。……しかし
ながら、あの悪魔どもは悲しいことに、我々と同じ人間の手によってけしかけられたものなのです」
ヴィットーリオの演説に、集ったブリミル教の信徒は一斉にどよめいた。
「その黒幕とはガリア、悪魔を操り神に仇なす異端の名はガリア王ジョゼフ一世。そうでなければ、
あの悪魔どもがガリアをただ通過してこのロマリアの地に侵攻してくる理由がありません。また、
ガリアの異端どもはエルフとも手を組み、我らの殲滅を企図しているのです」
信徒たちに動揺が走る。ヴィットーリオの言には確たる裏づけが欠けているが、先ほど
怪獣たちの脅威に晒されて不安と恐怖のどん底にあった民たちは、その反動もあって面白い
ほどに鵜呑みにし、ガリアに対する怒りに燃え上がった。
「最早悪魔の力を行使し、我が物顔に我々の土地と生命、そして信仰を蹂躙しようとする
異端の陰謀を許してはおけません。わたくしは始祖と神の僕として、ここに“聖戦”を
宣言します」
そのひと言により、ガリアとの戦端がはっきりと切って落とされてしまったのであった。
……アクイレイアのルイズたちがあてがわれた客間では、ロマリアの耳がないことを確認
してから、ルイズがそのことに対しての苛立ちをぶちまけた。
「何が陰謀を許してはおけない、よ。陰謀を張り巡らしていたのは自分たちの方じゃない!
あんな奴の持ちかけた話に乗っかった自分を呪いたいくらいだわ!」
ルイズの格好はロマリアから与えられた巫女服ではなく、普段の学生服だ。才人から、
地球へのゲートをくぐろうとしたら撃ち殺されていたという話を聞いた途端に、怒り心頭して
巫女服を捨てたのであった。曰く、もうこんなものに袖を通していられない、と。
「ガリア王をおびき寄せて廃位に追い込むなんてのも、こっちを乗せるための建前に
過ぎなかったんだわ。この状況こそが本当の目的……。そのために国境付近にあらかじめ
軍を配備して、ガリアを挑発した。何が“人間同士の戦火を止める”よ! そのために
戦火を起こすなんて、本末転倒じゃない! ここまで来たらエルフとの交渉なんてのも
信用ならないわ!」
才人はヴィットーリオへの怒りを喚くルイズにうなずきながらも警告する。
「気をつけろよ。あいつらは異常だぜ。おまけにその異常さに気づいてて、しかも肯定してやがる。
一筋縄じゃいかないぜ」
「サイト、やっぱりあんたは帰るべきよ。こんな世界につき合うことはないわ。向こうは
あんたを生かして帰さないつもりみたいだけど、ゼロに変身さえしてしまえばどうしようも
出来なくなるわよ」
改めて才人を説得するルイズだったが、才人はきっぱりと言った。
「見足りない。だからまだ、帰らない」
「何を?」
「お前の笑顔」
そのひと言にルイズは言葉の通りに真っ赤になり、照れくさいやら嬉しすぎるやらで
ぎくしゃくとした動きをした。
そんなところに口を挟むゼロ。
『いちゃついてるとこ悪いんだがよ』
「い、いちゃついてなんかないわよ!?」
『ガリアとロマリアのことは一旦置いておいて、そろそろ才人が見たっていう六千年前の
夢のことについて話し合おうぜ。きっとかなり重要なことに違いねぇ』
この客間には今、ミラーとグレン、そしてミラーがシエスタから腕輪を借りてきたという
形でジャンボットもいる。彼らはこれから、才人の夢のことについて相談と会議を始めるのだ。
話し合いの席をミラーが仕切る。
「まずはサイト、改めて確認します。あなたが見た夢というのは、始祖ブリミルと初代
ガンダールヴが出てくる内容で間違いないですね?」
「ああ」
はっきりと肯定する才人。
「初めは単なる夢かと思ったけど、やたらとリアルだったし……それに、夢と同じように現実に
俺がウルトラマンティガに変身したんだ。今はほんとに時間をさかのぼったとしか思えねぇや。
今はもうティガに変身できないけど……」
才人がゼロと再び融合してから、スパークレンスはいつの間にか消えてなくなっていた。
恐らく、ティガはもう自分の元からは去ったのだろう。きっと、才人を助けるという役目を
終えたからだ。
これに反論するルイズ。
「でもおかしいじゃない。あんたの身体はずっとこの現代の時間にあったままだったんでしょ?」
「ジュリオの奴がずっと監視してたみたいだからな。あいつが嘘を言う必要はないだろ」
「それじゃあ過去に行くなんてこと出来ないじゃないの。変な言い方だけど……現代と過去の
二つの時間に、同時に存在するなんて」
そのルイズの意見についてジャンボットが論ずる。
『これは憶測に過ぎないが、サイトは精神だけが過去へ移動したのではないだろうか』
「精神だけ?」
『そうとすればつじつまが合う。精神が今の時間にないのならば、サイトがずっと眠ったまま
だったのも当然となる』
「いや、いくら何でもそれは無理があるんじゃ……」
半信半疑のルイズだが、ゼロはジャンボットを支持した。
『ウルトラ戦士の周りじゃあ奇跡的な出来事がよく起こるもんだぜ。俺自身、何度か経験がある』
「奇跡ってそうそう起こらないから奇跡って言うんじゃないの……?」
冷や汗を垂らすルイズであった。
ここでグレンが話題を切り換える。
「難しいことは分かんねぇけどよ、今重要なのはサイトが実際過去に行ったかどうかじゃ
ねぇだろ? サイトの体験したことが真実かどうかだ」
重々しくうなずくルイズ。
「そうね……。仮にサイトの見たものが全て事実だとしたら、これはハルケギニアで語り
継がれた歴史がひっくり返るほどの大発見よ。始祖ブリミルがエルフを使い魔にしてたなんて!」
興奮するルイズ。それはそうだ。エルフと言えば人間の仇敵であり、始祖ブリミルの最大の
敵だった悪魔。その教えが、完全に否定されるのだ。
才人が後を引き継ぐ。
「しかも六千年前の時点で既に怪獣はハルケギニアにいたんだぜ。そしてブリミルとエルフは
一緒にそれに立ち向かってた。ほんとに、今まで聞いたことと丸っきり真逆だ」
「でも、それをどうやって事実か確かめればいいのかしら……」
「そうだ、デルフに聞いてみよう」
才人はデルフリンガーを鞘から引き抜いた。デルフリンガーが初代ガンダールヴの得物
だったのならば、当然当時のことを知っているはずである。
「よ。伝説」
「やぁ相棒。ようやく俺の存在を思い出したってのか。全く薄情なこって」
「ごめんごめん、忙しくて気が回らなかったんだよ。それで、俺が見たものってほんとのこと?
それともよく出来たフィクション?」
「ほんとのこったろ」
デルフリンガーのあっさりとした肯定に、この場の全員が目を丸くした。ルイズはデルフ
リンガーをなじる。
「あんた、何でそんな大事なことを今まで黙ってたのよ!」
「黙ってた訳じゃねぇよ。忘れてたんだ。でも、相棒の言葉で思い出したんだ。そういや、
そうだったなって」
「じゃあ思い出したこと、全部話なさいよ!」
「無理だよ……。何せ断片的でな。つまらねぇことなら割と思い出せるんだが、肝心なことは
サッパリさ」
「ブリミルさん、何かニダベリールとか名乗ってたよ」
「多分、若い頃の名前だな。そん時は俺はまだ生まれてなかったから知らねえけど」
「そういや、あの時お前はどこにもいなかったな」
相槌を打つ才人。ここでミラーが一旦注目を集める。
「これで裏づけが取れましたね。サイトが見たものは真実だった。……ですが、そうとすると
別の疑問が生じます。それは、何故その内容が今の世に全くといっていいほど伝わっていないのか」
「だよなぁ~。怪獣が元々この星にいたなんて話、今ここで初めて聞いたぜ」
腕組みしながらうんうんとうなずくグレン。中にはソドムのように伝説の巨竜という形で
存在が言い伝えられていた例外もあるが、そんなのは極一部だ。ゼロたちはこれまでずっと、
ほとんどの怪獣たちは次元震の影響でハルケギニアに侵入したものだと思っていた。
ジャンボットは言う。
『正確には、元からいた訳でもない。六千年前、ブリミルたちとほぼ同時期にどこかから
出現するようになったみたいだな』
「そのどこかってどこだよ」
『それが分からないから、今こうして話し合っているのだろうが』
グレンに手厳しく突っ込むジャンボット。ミラーは顎に指を掛けて考え込んだ。
「始祖ブリミルは元々ハルケギニアの民ではなかったのですよね。“虚無”の力で、どこかから
移住してきた……。それと怪獣の出没が同時というのは、無関係ではない気がします。始祖の
元いた土地とはどこなのか……それが分かれば答えに一気に近づけるのでしょうが」
「でも始祖ブリミル降誕の地、つまり聖地はエルフに牛耳られてて、近づくことすら出来ないのよね」
ため息を吐くルイズ。その聖地を取り戻すことが、ヴィットーリオの最終目的のようだが。
ゼロがミラーに提案する。
『ミラーナイト、お前の能力で探りを入れられねぇか? 鏡の世界からエルフの土地を覗き込んでさ』
「やってみましょう」
「俺としては、怪獣もそうだけど、ウルトラマンが六千年前のハルケギニアに来てたって
ことの方が興味あるな。それも一人や二人じゃなかったみたいだぜ」
才人が少しわくわくしながら言った。それに同意するゼロ。
『俺も同じウルトラ戦士として興味深いな。けど、それも怪獣の存在と同じように伝承されて
ないみてぇだな』
「一応、始祖ブリミルの伝説には、始祖は神の遣わした天使とともに悪魔と戦ったとあるわ。
わたしはずっと、悪魔っていうのはエルフのことだと思ってたけど……」
顔をしかめるルイズ。ここまでの話から考えるに、悪魔の正体とは怪獣だったのだろう。
「でも、この程度の表現でしか言い伝えられてないってのはちょっと奇妙よね。いくら六千年の
隔たりがあるとはいえ、もうちょっと具体的に伝承されてても良さそうなものなのに」
とのルイズの言葉に、ミラーはしばし考え込んでから、言い放った。
「もしかしたら、長い時間の中で自然に忘れられたのではなく、何者かが情報を隠蔽したの
ではないでしょうか。だから後世に正しい形で伝わらなかったのでは」
「えぇ!?」
「そもそも始祖の祈祷書、“虚無”の呪文書も、指輪がなくては読めないという注意書きが、
読めない文の中に含まれていたのでしょう。普通、そんな致命的なミスをすると思いますか?」
内心同意するルイズ。これまでもいささか妙なことだとは思っていたが……誰かが“虚無”を
目覚めさせないように、そのように細工したとするなら納得できる話だ。
「デルフリンガーもほとんどのことが思い出せないのも、ひょっとしたら記憶を封じられて
いるからかもしれません」
「ってことはこいつをいじったり何かしたら、記憶が一辺に思い出させられるかもしれねぇってか?」
「おいおいやめてくれよ。変なことすんのはさ。頭はねえが頭ん中いじくられんのはさすがに
御免だぜ?」
グレンの提案を拒否するデルフリンガー。ジャンボットも同意する。
『デルフリンガーは生物でも、電子頭脳でもない。私たちには未知の力で生命を維持している。
下手なことをしたら、デルフリンガーという存在そのものが消えてしまうかもしれん。危険すぎる』
「だよなぁ。さすがに仲間の命に代えられることじゃねぇや」
デルフリンガーの記憶を無理に呼び覚ますという手段は却下される。しかしそうすると、
現状ではこれ以上謎に近づく道はない。
議論が煮詰まってきたところで、ゼロが取り仕切った。
『これ以上俺たちで話し合ってても先には進まねぇ。この先ハルケギニアでの冒険を続けりゃ、
答えに近寄れるものも見つけられるだろう。それまでは放置だ』
「そうね。とりあえずは、今目の前にある問題を解決するところから始めましょう」
「ああ。まずはガリアをぶっ倒して……それからロマリアの聖戦とやらを止めてやるんだ」
ゼロの出した結論にルイズ、才人と賛成し、全員の気持ちが一致した。
これから彼らは、再び起こってしまった戦乱と、争いを引き起こす目論見を阻止するために
行動することを、ここに決意したのであった。
ウルトラマンティガに変身した才人の活躍によって撃滅された。しかし、これはガリアとの
真の戦いの、ほんの前哨戦でしかなかったのだ。
ヴィットーリオは即位三周年記念式典で、ガリアへ対する“聖戦”を宣言したのだ。
「我が親愛なるロマリアの民、及び始祖と神の僕の諸君。此度は北方より来たる悪魔の軍勢が
神の遣わした戦士たちにより退けられ、この祝祭の席を開けたことは真に幸いです。……しかし
ながら、あの悪魔どもは悲しいことに、我々と同じ人間の手によってけしかけられたものなのです」
ヴィットーリオの演説に、集ったブリミル教の信徒は一斉にどよめいた。
「その黒幕とはガリア、悪魔を操り神に仇なす異端の名はガリア王ジョゼフ一世。そうでなければ、
あの悪魔どもがガリアをただ通過してこのロマリアの地に侵攻してくる理由がありません。また、
ガリアの異端どもはエルフとも手を組み、我らの殲滅を企図しているのです」
信徒たちに動揺が走る。ヴィットーリオの言には確たる裏づけが欠けているが、先ほど
怪獣たちの脅威に晒されて不安と恐怖のどん底にあった民たちは、その反動もあって面白い
ほどに鵜呑みにし、ガリアに対する怒りに燃え上がった。
「最早悪魔の力を行使し、我が物顔に我々の土地と生命、そして信仰を蹂躙しようとする
異端の陰謀を許してはおけません。わたくしは始祖と神の僕として、ここに“聖戦”を
宣言します」
そのひと言により、ガリアとの戦端がはっきりと切って落とされてしまったのであった。
……アクイレイアのルイズたちがあてがわれた客間では、ロマリアの耳がないことを確認
してから、ルイズがそのことに対しての苛立ちをぶちまけた。
「何が陰謀を許してはおけない、よ。陰謀を張り巡らしていたのは自分たちの方じゃない!
あんな奴の持ちかけた話に乗っかった自分を呪いたいくらいだわ!」
ルイズの格好はロマリアから与えられた巫女服ではなく、普段の学生服だ。才人から、
地球へのゲートをくぐろうとしたら撃ち殺されていたという話を聞いた途端に、怒り心頭して
巫女服を捨てたのであった。曰く、もうこんなものに袖を通していられない、と。
「ガリア王をおびき寄せて廃位に追い込むなんてのも、こっちを乗せるための建前に
過ぎなかったんだわ。この状況こそが本当の目的……。そのために国境付近にあらかじめ
軍を配備して、ガリアを挑発した。何が“人間同士の戦火を止める”よ! そのために
戦火を起こすなんて、本末転倒じゃない! ここまで来たらエルフとの交渉なんてのも
信用ならないわ!」
才人はヴィットーリオへの怒りを喚くルイズにうなずきながらも警告する。
「気をつけろよ。あいつらは異常だぜ。おまけにその異常さに気づいてて、しかも肯定してやがる。
一筋縄じゃいかないぜ」
「サイト、やっぱりあんたは帰るべきよ。こんな世界につき合うことはないわ。向こうは
あんたを生かして帰さないつもりみたいだけど、ゼロに変身さえしてしまえばどうしようも
出来なくなるわよ」
改めて才人を説得するルイズだったが、才人はきっぱりと言った。
「見足りない。だからまだ、帰らない」
「何を?」
「お前の笑顔」
そのひと言にルイズは言葉の通りに真っ赤になり、照れくさいやら嬉しすぎるやらで
ぎくしゃくとした動きをした。
そんなところに口を挟むゼロ。
『いちゃついてるとこ悪いんだがよ』
「い、いちゃついてなんかないわよ!?」
『ガリアとロマリアのことは一旦置いておいて、そろそろ才人が見たっていう六千年前の
夢のことについて話し合おうぜ。きっとかなり重要なことに違いねぇ』
この客間には今、ミラーとグレン、そしてミラーがシエスタから腕輪を借りてきたという
形でジャンボットもいる。彼らはこれから、才人の夢のことについて相談と会議を始めるのだ。
話し合いの席をミラーが仕切る。
「まずはサイト、改めて確認します。あなたが見た夢というのは、始祖ブリミルと初代
ガンダールヴが出てくる内容で間違いないですね?」
「ああ」
はっきりと肯定する才人。
「初めは単なる夢かと思ったけど、やたらとリアルだったし……それに、夢と同じように現実に
俺がウルトラマンティガに変身したんだ。今はほんとに時間をさかのぼったとしか思えねぇや。
今はもうティガに変身できないけど……」
才人がゼロと再び融合してから、スパークレンスはいつの間にか消えてなくなっていた。
恐らく、ティガはもう自分の元からは去ったのだろう。きっと、才人を助けるという役目を
終えたからだ。
これに反論するルイズ。
「でもおかしいじゃない。あんたの身体はずっとこの現代の時間にあったままだったんでしょ?」
「ジュリオの奴がずっと監視してたみたいだからな。あいつが嘘を言う必要はないだろ」
「それじゃあ過去に行くなんてこと出来ないじゃないの。変な言い方だけど……現代と過去の
二つの時間に、同時に存在するなんて」
そのルイズの意見についてジャンボットが論ずる。
『これは憶測に過ぎないが、サイトは精神だけが過去へ移動したのではないだろうか』
「精神だけ?」
『そうとすればつじつまが合う。精神が今の時間にないのならば、サイトがずっと眠ったまま
だったのも当然となる』
「いや、いくら何でもそれは無理があるんじゃ……」
半信半疑のルイズだが、ゼロはジャンボットを支持した。
『ウルトラ戦士の周りじゃあ奇跡的な出来事がよく起こるもんだぜ。俺自身、何度か経験がある』
「奇跡ってそうそう起こらないから奇跡って言うんじゃないの……?」
冷や汗を垂らすルイズであった。
ここでグレンが話題を切り換える。
「難しいことは分かんねぇけどよ、今重要なのはサイトが実際過去に行ったかどうかじゃ
ねぇだろ? サイトの体験したことが真実かどうかだ」
重々しくうなずくルイズ。
「そうね……。仮にサイトの見たものが全て事実だとしたら、これはハルケギニアで語り
継がれた歴史がひっくり返るほどの大発見よ。始祖ブリミルがエルフを使い魔にしてたなんて!」
興奮するルイズ。それはそうだ。エルフと言えば人間の仇敵であり、始祖ブリミルの最大の
敵だった悪魔。その教えが、完全に否定されるのだ。
才人が後を引き継ぐ。
「しかも六千年前の時点で既に怪獣はハルケギニアにいたんだぜ。そしてブリミルとエルフは
一緒にそれに立ち向かってた。ほんとに、今まで聞いたことと丸っきり真逆だ」
「でも、それをどうやって事実か確かめればいいのかしら……」
「そうだ、デルフに聞いてみよう」
才人はデルフリンガーを鞘から引き抜いた。デルフリンガーが初代ガンダールヴの得物
だったのならば、当然当時のことを知っているはずである。
「よ。伝説」
「やぁ相棒。ようやく俺の存在を思い出したってのか。全く薄情なこって」
「ごめんごめん、忙しくて気が回らなかったんだよ。それで、俺が見たものってほんとのこと?
それともよく出来たフィクション?」
「ほんとのこったろ」
デルフリンガーのあっさりとした肯定に、この場の全員が目を丸くした。ルイズはデルフ
リンガーをなじる。
「あんた、何でそんな大事なことを今まで黙ってたのよ!」
「黙ってた訳じゃねぇよ。忘れてたんだ。でも、相棒の言葉で思い出したんだ。そういや、
そうだったなって」
「じゃあ思い出したこと、全部話なさいよ!」
「無理だよ……。何せ断片的でな。つまらねぇことなら割と思い出せるんだが、肝心なことは
サッパリさ」
「ブリミルさん、何かニダベリールとか名乗ってたよ」
「多分、若い頃の名前だな。そん時は俺はまだ生まれてなかったから知らねえけど」
「そういや、あの時お前はどこにもいなかったな」
相槌を打つ才人。ここでミラーが一旦注目を集める。
「これで裏づけが取れましたね。サイトが見たものは真実だった。……ですが、そうとすると
別の疑問が生じます。それは、何故その内容が今の世に全くといっていいほど伝わっていないのか」
「だよなぁ~。怪獣が元々この星にいたなんて話、今ここで初めて聞いたぜ」
腕組みしながらうんうんとうなずくグレン。中にはソドムのように伝説の巨竜という形で
存在が言い伝えられていた例外もあるが、そんなのは極一部だ。ゼロたちはこれまでずっと、
ほとんどの怪獣たちは次元震の影響でハルケギニアに侵入したものだと思っていた。
ジャンボットは言う。
『正確には、元からいた訳でもない。六千年前、ブリミルたちとほぼ同時期にどこかから
出現するようになったみたいだな』
「そのどこかってどこだよ」
『それが分からないから、今こうして話し合っているのだろうが』
グレンに手厳しく突っ込むジャンボット。ミラーは顎に指を掛けて考え込んだ。
「始祖ブリミルは元々ハルケギニアの民ではなかったのですよね。“虚無”の力で、どこかから
移住してきた……。それと怪獣の出没が同時というのは、無関係ではない気がします。始祖の
元いた土地とはどこなのか……それが分かれば答えに一気に近づけるのでしょうが」
「でも始祖ブリミル降誕の地、つまり聖地はエルフに牛耳られてて、近づくことすら出来ないのよね」
ため息を吐くルイズ。その聖地を取り戻すことが、ヴィットーリオの最終目的のようだが。
ゼロがミラーに提案する。
『ミラーナイト、お前の能力で探りを入れられねぇか? 鏡の世界からエルフの土地を覗き込んでさ』
「やってみましょう」
「俺としては、怪獣もそうだけど、ウルトラマンが六千年前のハルケギニアに来てたって
ことの方が興味あるな。それも一人や二人じゃなかったみたいだぜ」
才人が少しわくわくしながら言った。それに同意するゼロ。
『俺も同じウルトラ戦士として興味深いな。けど、それも怪獣の存在と同じように伝承されて
ないみてぇだな』
「一応、始祖ブリミルの伝説には、始祖は神の遣わした天使とともに悪魔と戦ったとあるわ。
わたしはずっと、悪魔っていうのはエルフのことだと思ってたけど……」
顔をしかめるルイズ。ここまでの話から考えるに、悪魔の正体とは怪獣だったのだろう。
「でも、この程度の表現でしか言い伝えられてないってのはちょっと奇妙よね。いくら六千年の
隔たりがあるとはいえ、もうちょっと具体的に伝承されてても良さそうなものなのに」
とのルイズの言葉に、ミラーはしばし考え込んでから、言い放った。
「もしかしたら、長い時間の中で自然に忘れられたのではなく、何者かが情報を隠蔽したの
ではないでしょうか。だから後世に正しい形で伝わらなかったのでは」
「えぇ!?」
「そもそも始祖の祈祷書、“虚無”の呪文書も、指輪がなくては読めないという注意書きが、
読めない文の中に含まれていたのでしょう。普通、そんな致命的なミスをすると思いますか?」
内心同意するルイズ。これまでもいささか妙なことだとは思っていたが……誰かが“虚無”を
目覚めさせないように、そのように細工したとするなら納得できる話だ。
「デルフリンガーもほとんどのことが思い出せないのも、ひょっとしたら記憶を封じられて
いるからかもしれません」
「ってことはこいつをいじったり何かしたら、記憶が一辺に思い出させられるかもしれねぇってか?」
「おいおいやめてくれよ。変なことすんのはさ。頭はねえが頭ん中いじくられんのはさすがに
御免だぜ?」
グレンの提案を拒否するデルフリンガー。ジャンボットも同意する。
『デルフリンガーは生物でも、電子頭脳でもない。私たちには未知の力で生命を維持している。
下手なことをしたら、デルフリンガーという存在そのものが消えてしまうかもしれん。危険すぎる』
「だよなぁ。さすがに仲間の命に代えられることじゃねぇや」
デルフリンガーの記憶を無理に呼び覚ますという手段は却下される。しかしそうすると、
現状ではこれ以上謎に近づく道はない。
議論が煮詰まってきたところで、ゼロが取り仕切った。
『これ以上俺たちで話し合ってても先には進まねぇ。この先ハルケギニアでの冒険を続けりゃ、
答えに近寄れるものも見つけられるだろう。それまでは放置だ』
「そうね。とりあえずは、今目の前にある問題を解決するところから始めましょう」
「ああ。まずはガリアをぶっ倒して……それからロマリアの聖戦とやらを止めてやるんだ」
ゼロの出した結論にルイズ、才人と賛成し、全員の気持ちが一致した。
これから彼らは、再び起こってしまった戦乱と、争いを引き起こす目論見を阻止するために
行動することを、ここに決意したのであった。