ウルトラマンゼロの使い魔
第百五十三話「悪魔の脅迫」
超古代怪獣ゴルザ
超古代竜メルバ
炎魔人キリエル人 登場
第百五十三話「悪魔の脅迫」
超古代怪獣ゴルザ
超古代竜メルバ
炎魔人キリエル人 登場
教皇の即位三周年記念式典は、ロマリアから北北東に三百リーグほど離れた、ガリアとの
国境付近の街アクイレイアで行われる。二週間にも及ぶ、大きなお祭りだ。
そのアクイレイアへの出発の時が迫っているのだが、オンディーヌはアンリエッタと共に
乗艦する御召艦への乗り込みを遅らせていた。才人が未だ姿を見せないのだ。
「一体、サイトはどうしたんだろうなぁ……」
大聖堂の本塔にバルコニーのように張り出した桟橋で、マリコルヌが心配そうにつぶやいた。
「まさか、怖じ気づいたんじゃないだろうな?」
「けど、サイトはどんな戦闘にもどんな大怪獣相手にも、果敢に飛び込んでいった奴だぜ。
いくらガリアとはいえ、今更尻尾を巻いて逃げ出すなんて考え難いよ」
「そういえばルイズもまだみたいだな。また二人で痴話喧嘩でもしてるんじゃないか?」
「それだったらそろそろ来る頃だろう」
などとオンディーヌが相談し合っていると、噂をすれば影というように、ルイズが一人の
男を連れながら彼らの前にやってきた。ギーシュたちはルイズの格好に目を丸くする。
「うわぁ! 尼さんの格好じゃないか!」
ルイズは白い神官服に身を包んでいた。どうやらルイズは、巫女として式典に参加するようだ。
しかしすぐにギーシュたちの注意は、ルイズからその背後に連れ立っている男の方へ移った。
いつもなら才人がいる立ち位置に、今まで見たこともない男がいる。
「ルイズ……そちらの方はどなただい?」
ギーシュが代表して質問すると、ルイズではなくその当人が答えた。
「俺はラン。これからは、俺が才人の代わりをすることになった」
今の言葉に、オンディーヌは声にならないほど仰天した。
「は? い、いや、きみ、何を言ってるんだい? サイトの代わり? そのサイトは一体
どこへ行ったんだ?」
ギーシュが改めて尋ねると、今度はルイズが、深呼吸した後に答えた。
「サイトは……里帰りよ」
オンディーヌは再び言葉を失った。
「里帰り!? この状況で!? 訳が分からない! 説明してくれ!」
混乱するギーシュはルイズの肩を掴んでゆすった。ルイズはゆっくりとその手を振り払った。
「……サイトの故郷から、お母さんの手紙が届いたの。帰ってきてくれって」
「それで帰したってのかい?」
ルイズがうなずくと、マリコルヌが頭を押さえてうめいた。
「だからって、こんな時に帰さなくたっていいじゃないか! よりにもよってこんな大変な時に……」
ルイズは厳しい顔つきになる。
「何を言ってるのよ! こんな時だからこそ、帰したんでしょ! 今までどれだけサイトが
わたしたちのために戦ってきてくれたと思ってるのよ。あなたたち貴族でしょ! 己にかかる
火の粉は己で払うべきよ。……とにかくこれ以上、わたしたちの戦いにサイトを巻きこむ訳には
いかないわ」
「だ、だからって、そんないきなり出てきた人を代わりだなんて……」
なおも言い返そうとするマリコルヌをさえぎって、ギーシュが言った。
「もう一個質問だ。いいかい?」
「いいわ」
「それはその、サイトの意思なのかい? サイトが自分で帰るって言ったのかい?」
ルイズは首を振った。
「わたしの判断よ」
その途端、オンディーヌから次々と非難の言葉が沸き上がった。
「とんでもない! とんでもないよ! いくらサイトがきみの使い魔だからって、自分勝手
すぎるじゃないか!」
「勝手じゃないわ! ちゃんと考えたもの!」
「そうは思えないけどな。サイトはもしかしたら、ぼくたちと一緒に戦いたかったかもしれない
じゃないか。というか、彼ならそう思うはずだ」
うなずき合うマリコルヌたちにルイズは何か言おうとしたが、それはこの場に現れた
アンリエッタにさえぎられた。
「あなた方は何をしているのですか。わたくしに恥をかかせるつもりなのですか?」
周囲からは、ロマリアの神官や役人の奇異の目が集まっている。少年たちは我に返って
顔を赤らめた。
「騎士の一人が欠けたのは問題ですが、それで慌てふためく騎士隊も問題です。わたくしは、
勇敢な騎士を隊士に選んだつもりですが……」
女王自ら注意されては、オンディーヌは畏まる以外になかった。アンリエッタはルイズと
ランを促して、フネへの桟橋を渡らせる。
そして船室に二人を招き入れたところで、ランに向かって尋ねかけた。
「あなたは、ウルトラマンゼロなのですね? 昨日までは、サイト殿と共にあったはずの……」
ランの左腕には、それまでは才人が嵌めていたウルティメイトブレスレットが袖からかすかに
覗いていた。そう、このランという男こそが、ゼロが人間に擬態した姿だ。名前と姿のモデルは、
アナザースペースで命を助けた青年である。
「ああ……。あのままくっついてたら、才人を帰してやれねぇからな」
「……詳しいいきさつを聞きたいところですが、今は時間がありません。後ほど、ゆっくりと
伺います」
アンリエッタはそれを最後に退室し、アニエスとともにまずはオンディーヌの居室に向かった。
この件で動揺することのないよう訓示するのだ。
彼女がいなくなってから、ルイズはポツリとゼロに問いかけた。
「ゼロ……わたしの判断は、間違ってなんかないわよね」
ゼロはおもむろにうなずく。
「ああ。今度こそ、才人は家族のところに帰るべきだ。突然息子が消えちまった親を、安心
させなくちゃならねぇ」
しかし、次にこんなことを言う。
「だが、その後であいつがそれでもハルケギニアに戻ることを選んだのなら、俺は連れて
戻ってくる。たとえそれが俺の故郷の奴らに非難されることになってもだ」
今の発言に、ルイズはすごい勢いで振り返った。
「何を言ってるの!? サイトはもうこんな危険なところに戻るべきじゃないわ! ずっと
故郷に留まるべきよ!」
ゼロは、それには賛同しなかった。
「ルイズ……何度も言うが、才人は立派な戦士になった。戦士にとって、守りたい人を守れない
ことこそが最大の不幸なんだ」
「でも……!」
「それに……お前のことも心配なんだよ」
ゼロの指摘に、ルイズはかすかに目を見開く。
「わたしが……?」
「お前、すげぇ無理してるのが丸分かりだぜ。才人よりも、お前の方が今にも押し潰されて
しまいそうだ。……お前のことだって、俺は死なせたくなんかねぇんだ」
ゼロの言い分は全く正しいことであったが、それでもルイズは虚勢を保った。
「そんなことはないわ……。わたしは、サイトがもう隣にいないことも受け入れて、あいつの
分までハルケギニアの平和を守る覚悟でいるわよ」
その言葉も間違いではない。ルイズがあれだけ反対していたヴィットーリオの提案に乗り、
巫女の衣装を纏ったのも、才人に代わってガリアの陰謀と戦う決意を固めたからだ。
才人ともう二度と会えない……その事実が、ルイズにとって最も苦しいところであったが、
ルイズはそれも受け入れる所存であった。いっそのことティファニアにこの記憶と気持ちを
消してもらいたくもあったが、その選択はしない。今日までの道のりは、そして才人から
もらったたくさんのものは、かけがえのない宝物……才人だけではなく、仲間たちとの絆でも
ある。それを「なかったこと」にはしたくない。
だから、自分がこの世界を守り抜くんだ……。ルイズは己に強く言い聞かせていた。
国境付近の街アクイレイアで行われる。二週間にも及ぶ、大きなお祭りだ。
そのアクイレイアへの出発の時が迫っているのだが、オンディーヌはアンリエッタと共に
乗艦する御召艦への乗り込みを遅らせていた。才人が未だ姿を見せないのだ。
「一体、サイトはどうしたんだろうなぁ……」
大聖堂の本塔にバルコニーのように張り出した桟橋で、マリコルヌが心配そうにつぶやいた。
「まさか、怖じ気づいたんじゃないだろうな?」
「けど、サイトはどんな戦闘にもどんな大怪獣相手にも、果敢に飛び込んでいった奴だぜ。
いくらガリアとはいえ、今更尻尾を巻いて逃げ出すなんて考え難いよ」
「そういえばルイズもまだみたいだな。また二人で痴話喧嘩でもしてるんじゃないか?」
「それだったらそろそろ来る頃だろう」
などとオンディーヌが相談し合っていると、噂をすれば影というように、ルイズが一人の
男を連れながら彼らの前にやってきた。ギーシュたちはルイズの格好に目を丸くする。
「うわぁ! 尼さんの格好じゃないか!」
ルイズは白い神官服に身を包んでいた。どうやらルイズは、巫女として式典に参加するようだ。
しかしすぐにギーシュたちの注意は、ルイズからその背後に連れ立っている男の方へ移った。
いつもなら才人がいる立ち位置に、今まで見たこともない男がいる。
「ルイズ……そちらの方はどなただい?」
ギーシュが代表して質問すると、ルイズではなくその当人が答えた。
「俺はラン。これからは、俺が才人の代わりをすることになった」
今の言葉に、オンディーヌは声にならないほど仰天した。
「は? い、いや、きみ、何を言ってるんだい? サイトの代わり? そのサイトは一体
どこへ行ったんだ?」
ギーシュが改めて尋ねると、今度はルイズが、深呼吸した後に答えた。
「サイトは……里帰りよ」
オンディーヌは再び言葉を失った。
「里帰り!? この状況で!? 訳が分からない! 説明してくれ!」
混乱するギーシュはルイズの肩を掴んでゆすった。ルイズはゆっくりとその手を振り払った。
「……サイトの故郷から、お母さんの手紙が届いたの。帰ってきてくれって」
「それで帰したってのかい?」
ルイズがうなずくと、マリコルヌが頭を押さえてうめいた。
「だからって、こんな時に帰さなくたっていいじゃないか! よりにもよってこんな大変な時に……」
ルイズは厳しい顔つきになる。
「何を言ってるのよ! こんな時だからこそ、帰したんでしょ! 今までどれだけサイトが
わたしたちのために戦ってきてくれたと思ってるのよ。あなたたち貴族でしょ! 己にかかる
火の粉は己で払うべきよ。……とにかくこれ以上、わたしたちの戦いにサイトを巻きこむ訳には
いかないわ」
「だ、だからって、そんないきなり出てきた人を代わりだなんて……」
なおも言い返そうとするマリコルヌをさえぎって、ギーシュが言った。
「もう一個質問だ。いいかい?」
「いいわ」
「それはその、サイトの意思なのかい? サイトが自分で帰るって言ったのかい?」
ルイズは首を振った。
「わたしの判断よ」
その途端、オンディーヌから次々と非難の言葉が沸き上がった。
「とんでもない! とんでもないよ! いくらサイトがきみの使い魔だからって、自分勝手
すぎるじゃないか!」
「勝手じゃないわ! ちゃんと考えたもの!」
「そうは思えないけどな。サイトはもしかしたら、ぼくたちと一緒に戦いたかったかもしれない
じゃないか。というか、彼ならそう思うはずだ」
うなずき合うマリコルヌたちにルイズは何か言おうとしたが、それはこの場に現れた
アンリエッタにさえぎられた。
「あなた方は何をしているのですか。わたくしに恥をかかせるつもりなのですか?」
周囲からは、ロマリアの神官や役人の奇異の目が集まっている。少年たちは我に返って
顔を赤らめた。
「騎士の一人が欠けたのは問題ですが、それで慌てふためく騎士隊も問題です。わたくしは、
勇敢な騎士を隊士に選んだつもりですが……」
女王自ら注意されては、オンディーヌは畏まる以外になかった。アンリエッタはルイズと
ランを促して、フネへの桟橋を渡らせる。
そして船室に二人を招き入れたところで、ランに向かって尋ねかけた。
「あなたは、ウルトラマンゼロなのですね? 昨日までは、サイト殿と共にあったはずの……」
ランの左腕には、それまでは才人が嵌めていたウルティメイトブレスレットが袖からかすかに
覗いていた。そう、このランという男こそが、ゼロが人間に擬態した姿だ。名前と姿のモデルは、
アナザースペースで命を助けた青年である。
「ああ……。あのままくっついてたら、才人を帰してやれねぇからな」
「……詳しいいきさつを聞きたいところですが、今は時間がありません。後ほど、ゆっくりと
伺います」
アンリエッタはそれを最後に退室し、アニエスとともにまずはオンディーヌの居室に向かった。
この件で動揺することのないよう訓示するのだ。
彼女がいなくなってから、ルイズはポツリとゼロに問いかけた。
「ゼロ……わたしの判断は、間違ってなんかないわよね」
ゼロはおもむろにうなずく。
「ああ。今度こそ、才人は家族のところに帰るべきだ。突然息子が消えちまった親を、安心
させなくちゃならねぇ」
しかし、次にこんなことを言う。
「だが、その後であいつがそれでもハルケギニアに戻ることを選んだのなら、俺は連れて
戻ってくる。たとえそれが俺の故郷の奴らに非難されることになってもだ」
今の発言に、ルイズはすごい勢いで振り返った。
「何を言ってるの!? サイトはもうこんな危険なところに戻るべきじゃないわ! ずっと
故郷に留まるべきよ!」
ゼロは、それには賛同しなかった。
「ルイズ……何度も言うが、才人は立派な戦士になった。戦士にとって、守りたい人を守れない
ことこそが最大の不幸なんだ」
「でも……!」
「それに……お前のことも心配なんだよ」
ゼロの指摘に、ルイズはかすかに目を見開く。
「わたしが……?」
「お前、すげぇ無理してるのが丸分かりだぜ。才人よりも、お前の方が今にも押し潰されて
しまいそうだ。……お前のことだって、俺は死なせたくなんかねぇんだ」
ゼロの言い分は全く正しいことであったが、それでもルイズは虚勢を保った。
「そんなことはないわ……。わたしは、サイトがもう隣にいないことも受け入れて、あいつの
分までハルケギニアの平和を守る覚悟でいるわよ」
その言葉も間違いではない。ルイズがあれだけ反対していたヴィットーリオの提案に乗り、
巫女の衣装を纏ったのも、才人に代わってガリアの陰謀と戦う決意を固めたからだ。
才人ともう二度と会えない……その事実が、ルイズにとって最も苦しいところであったが、
ルイズはそれも受け入れる所存であった。いっそのことティファニアにこの記憶と気持ちを
消してもらいたくもあったが、その選択はしない。今日までの道のりは、そして才人から
もらったたくさんのものは、かけがえのない宝物……才人だけではなく、仲間たちとの絆でも
ある。それを「なかったこと」にはしたくない。
だから、自分がこの世界を守り抜くんだ……。ルイズは己に強く言い聞かせていた。
その頃――と言っていいのかは分からない。何せ六千年の隔たりがあるのだから――才人は、
思い切り混乱していた。湖面に映る姿が、いきなりウルトラマンティガのものになったらそれも
当然だ。
『ど、どうなってんだ? 何でゼロじゃなくてティガに……。いや、ここは六千年前だから
そもそもゼロはいないのか。でも、だからって……』
一度の人生で、二人目のウルトラマンと融合する。そんなことがあり得るのだろうか、
と悶々としていたら、肩にゴルザとメルバの光線を食らってしまった。
「グガアアアア!」
「キィィィィッ!」
『あ痛でぇッ!? くッ、考えるのは後にするか!』
ブリミルとサーシャのことも助けなければならない。才人は、ともかく怪獣と戦える姿に
なったのはこれ以上ない幸運だ、と考えを改めて、超古代の二大怪獣の間に一気呵成に
切り込んでいく。
「タァーッ!」
メルバをキックで押しのけ、ゴルザの首筋にチョップをお見舞いした後に押さえ込もうとする。
二対一という不利な状況下だが、ウルトラ戦士としての戦いはこれまで散々ゼロの中で経験して
いるので、ある程度はこなすことが出来る。
「キィィィィッ!」
「グガアアアア!」
「ウワァッ!」
だが翼を広げて滑空したメルバのカマ状の腕に背後から斬りかかられた上に、ゴルザに
投げ飛ばされて転倒。光線の追撃を、転がってギリギリで回避する。
『くッ、身体が思うように動かせねぇ……!』
体勢を立て直した才人がうめいた。いくら経験はあっても、ティガは当然ながらゼロとは別人。
その身体能力にも違いがあるので、いきなり変身した才人が十二分に戦うことが出来ないのは
むしろ自然なことだろう。
『もう少し腕に力を込められれば、力負けはしないのに……』
苦悶していると……才人の脳裏に、あるイメージが湧き上がった。
『! こ、このイメージは……! よしッ!』
才人は本能的に、そのイメージの通りに身体を動かした。額のクリスタルの前で腕を交差し、
勢いよく振り抜く。
「ンンンンン……ハァッ!」
それと同時に赤と紫の体色が、赤一色に変化した! 同時に肉体に力がみなぎる。
『そうか! ティガにも二段変身能力があるのか!』
理解する才人。ウルトラ戦士の中には、肉体を変化させて能力を特化させる力を持つ者がいる。
ゼロや、その力を授けたダイナ、コスモスのように、ティガもそのようなタイプチェンジ能力を
持つウルトラマンだったのだ!
『よしッ、これなら!』
赤い姿、パワータイプのティガとなった才人は改めて怪獣たちに突撃していく。ゴルザと
メルバは光線を放って迎撃してくるが、才人は高まったパワーを活かして手の平で光線を
押し返していった。
「タァッ!」
「キィィィィッ!」
「グガアアアア!」
距離を詰めるとメルバの顔面に正拳を入れて吹っ飛ばし、ゴルザは首を掴んで一本背負い!
逆さまに地面に激突したゴルザを狙い、才人は伸ばした両腕を腰から頭上へと持ち上げて
いきながら真っ赤なエネルギーを凝縮して光球を作り上げた。
「タァァーッ!」
そして投球のフォームで、光球からエネルギーを照射! パワータイプの必殺技、デラシウム光流だ!
「グガアアアア!!」
その一撃でゴルザを粉砕! しかし直後に背後からメルバが滑空しながら迫ってくる。
「キィィィィッ!」
察知した才人は回し蹴りで迎え撃つも、メルバは上昇して攻撃をかわした。
『この姿だと、余計に身体が重い……!』
才人はパワータイプの欠点に気づいた。パワータイプはその名の通りに破壊力に優れるが、
代わりに敏捷性が低下するのだ。そのためメルバのように身軽で飛行能力を持つ相手には
対応できない。
しかし才人の脳裏に再びイメージが浮かび上がる!
『身体が赤く染まるんだったら、その逆も……! よぉしッ!』
先ほどと同様の動作で、再び体色を変化させる。今度は紫一色の姿だ。
『身体が軽くなった! これならいけるぜッ!』
紫色の姿は、パワータイプと正反対の特色のスカイタイプだ! 才人は高々と跳躍して、
上空のメルバへと急接近する!
「ヂャッ!」
天空を舞うスカイキックがメルバに炸裂し、地上へと叩き落とす!
「キィィィィッ!」
『こいつでフィニッシュを決めるぜ!』
ヨロヨロと起き上がろうとしているメルバへと、左右に開いた腕を頭上で重ね合わせることで
充填したエネルギーを左の脇腹に構え、手裏剣を放つように発射する!
「タッ!」
スカイタイプの必殺技、ランバルト光弾! これが突き刺さったメルバは、瞬時にバラバラに
弾け飛んで消滅した。
『やったぜ……! けど、まさかこんなことになるなんてな……』
怪獣を撃破してブリミルたちを救えたのはよかったが、よもや六千年もの過去の世界に
来て、その世界に怪獣が出て、しかも自分がウルトラマンティガと一体化するとは。冷静に
なって振り返れば、訳の分からないことだらけだ。
しかしそろそろ変身の時間切れも近い。才人はひとまず元の姿に戻って、ブリミルたちと
詳しい話をすることに決めたのだった。
思い切り混乱していた。湖面に映る姿が、いきなりウルトラマンティガのものになったらそれも
当然だ。
『ど、どうなってんだ? 何でゼロじゃなくてティガに……。いや、ここは六千年前だから
そもそもゼロはいないのか。でも、だからって……』
一度の人生で、二人目のウルトラマンと融合する。そんなことがあり得るのだろうか、
と悶々としていたら、肩にゴルザとメルバの光線を食らってしまった。
「グガアアアア!」
「キィィィィッ!」
『あ痛でぇッ!? くッ、考えるのは後にするか!』
ブリミルとサーシャのことも助けなければならない。才人は、ともかく怪獣と戦える姿に
なったのはこれ以上ない幸運だ、と考えを改めて、超古代の二大怪獣の間に一気呵成に
切り込んでいく。
「タァーッ!」
メルバをキックで押しのけ、ゴルザの首筋にチョップをお見舞いした後に押さえ込もうとする。
二対一という不利な状況下だが、ウルトラ戦士としての戦いはこれまで散々ゼロの中で経験して
いるので、ある程度はこなすことが出来る。
「キィィィィッ!」
「グガアアアア!」
「ウワァッ!」
だが翼を広げて滑空したメルバのカマ状の腕に背後から斬りかかられた上に、ゴルザに
投げ飛ばされて転倒。光線の追撃を、転がってギリギリで回避する。
『くッ、身体が思うように動かせねぇ……!』
体勢を立て直した才人がうめいた。いくら経験はあっても、ティガは当然ながらゼロとは別人。
その身体能力にも違いがあるので、いきなり変身した才人が十二分に戦うことが出来ないのは
むしろ自然なことだろう。
『もう少し腕に力を込められれば、力負けはしないのに……』
苦悶していると……才人の脳裏に、あるイメージが湧き上がった。
『! こ、このイメージは……! よしッ!』
才人は本能的に、そのイメージの通りに身体を動かした。額のクリスタルの前で腕を交差し、
勢いよく振り抜く。
「ンンンンン……ハァッ!」
それと同時に赤と紫の体色が、赤一色に変化した! 同時に肉体に力がみなぎる。
『そうか! ティガにも二段変身能力があるのか!』
理解する才人。ウルトラ戦士の中には、肉体を変化させて能力を特化させる力を持つ者がいる。
ゼロや、その力を授けたダイナ、コスモスのように、ティガもそのようなタイプチェンジ能力を
持つウルトラマンだったのだ!
『よしッ、これなら!』
赤い姿、パワータイプのティガとなった才人は改めて怪獣たちに突撃していく。ゴルザと
メルバは光線を放って迎撃してくるが、才人は高まったパワーを活かして手の平で光線を
押し返していった。
「タァッ!」
「キィィィィッ!」
「グガアアアア!」
距離を詰めるとメルバの顔面に正拳を入れて吹っ飛ばし、ゴルザは首を掴んで一本背負い!
逆さまに地面に激突したゴルザを狙い、才人は伸ばした両腕を腰から頭上へと持ち上げて
いきながら真っ赤なエネルギーを凝縮して光球を作り上げた。
「タァァーッ!」
そして投球のフォームで、光球からエネルギーを照射! パワータイプの必殺技、デラシウム光流だ!
「グガアアアア!!」
その一撃でゴルザを粉砕! しかし直後に背後からメルバが滑空しながら迫ってくる。
「キィィィィッ!」
察知した才人は回し蹴りで迎え撃つも、メルバは上昇して攻撃をかわした。
『この姿だと、余計に身体が重い……!』
才人はパワータイプの欠点に気づいた。パワータイプはその名の通りに破壊力に優れるが、
代わりに敏捷性が低下するのだ。そのためメルバのように身軽で飛行能力を持つ相手には
対応できない。
しかし才人の脳裏に再びイメージが浮かび上がる!
『身体が赤く染まるんだったら、その逆も……! よぉしッ!』
先ほどと同様の動作で、再び体色を変化させる。今度は紫一色の姿だ。
『身体が軽くなった! これならいけるぜッ!』
紫色の姿は、パワータイプと正反対の特色のスカイタイプだ! 才人は高々と跳躍して、
上空のメルバへと急接近する!
「ヂャッ!」
天空を舞うスカイキックがメルバに炸裂し、地上へと叩き落とす!
「キィィィィッ!」
『こいつでフィニッシュを決めるぜ!』
ヨロヨロと起き上がろうとしているメルバへと、左右に開いた腕を頭上で重ね合わせることで
充填したエネルギーを左の脇腹に構え、手裏剣を放つように発射する!
「タッ!」
スカイタイプの必殺技、ランバルト光弾! これが突き刺さったメルバは、瞬時にバラバラに
弾け飛んで消滅した。
『やったぜ……! けど、まさかこんなことになるなんてな……』
怪獣を撃破してブリミルたちを救えたのはよかったが、よもや六千年もの過去の世界に
来て、その世界に怪獣が出て、しかも自分がウルトラマンティガと一体化するとは。冷静に
なって振り返れば、訳の分からないことだらけだ。
しかしそろそろ変身の時間切れも近い。才人はひとまず元の姿に戻って、ブリミルたちと
詳しい話をすることに決めたのだった。
元の姿に戻った才人を、ブリミルは興奮し切った調子で迎えた。「きみが光の巨人だったの
かい!? 一体どんな力を使って変身したんだ!? きみは何者なんだね! 是非教えて
くれたまえ!」とものすごい勢いで詰め寄って才人を参らせた彼は、サーシャにどつかれて
黙らされた。一行はとりあえずブリミルたちの住居に移動し、腰を落ち着かせて話をする
ことになった。
「……つまり、きみは自分がどうしてここにいるのか分からない、ということでいいのかい?」
「そういうことです。ウルトラマン……光の巨人も、俺と同一の存在って訳でもありません。
彼らには、別の生き物と同化する力があります。それで俺を助けてくれたんです」
ブリミルに聞き返された才人が答えながら、手に握った、翼型の意匠を持ったスティック状の
物体に目を落とした。スパークレンス……ウルトラゼロアイのような、ティガに変身するための
アイテムだ。気がつけば、これが懐にあった。
ブリミルたちの住居は、草原の上に建てられた移動式のテントを密集して作った小さな
村だった。現在のハルケギニアでは見られない風景であり、ルイズたちの始祖と呼ばれる
人物が今と全く違う様式の暮らしをしていることに才人は内心驚いていた。
「そうか……。しかし、きみの主人に会えないというのは残念だ。ぼく以外の『変わった
系統』の持ち主に会えるものと期待していたんだがね」
肩をすくめるブリミルは、“虚無”のことを『変わった系統』と遠回しに表現する。しかし、
それも当たり前かもしれない。ブリミルが始祖ならば、“虚無”というのはこれから彼がつける
名前だ。サーシャがハルケギニアを知らないのも、きっとこれから名づけられるからだ。
「ところでブリミルさんは、怪獣をヴァリヤーグなんて呼んでましたけど……」
「きみのところでは怪獣と呼んでるのかい? 怪しい獣……言い得て妙だね。ヴァリヤーグとは
ぼくの命名だ。元々は、ぼくたちの氏族を追い立てた者たちの名前なんだけどね。あの巨大生物
どもは、同じようにぼくたちを、いやこの大陸中の生きとし生けるものを苦しめるんだ」
才人はブリミルとサーシャから、彼らを取り巻く状況について様々な話を伺った。
ブリミルはマギ族という名前の部族の一員であり、ある日ヴァリヤーグという別の部族の
人間たちに元々の住処を追われる羽目になってしまった。マギ族の中で他に例を見ない特殊な
魔法、今で言う“虚無”魔法を扱うブリミルはどうにかしようと自身の魔法を研究する中で
サーシャを使い魔として呼び出し、彼女たちエルフの住んでいる土地のある大陸へとゲートを
開いて移動することに成功した。しかし安心したのもつかの間、移動先の大陸に突如異常な
巨大生物の群れ……怪獣が出現し、マギ族、エルフ関係なく襲い始めたという。
「怪獣は元々、この大陸にはいなかったんですか?」
「そうよ。あんな天を突くような生き物の話なんて、一度たりとも聞いたことがないもの。
あいつら、一体どこから湧いてきたのかしら……」
と証言するサーシャ。ハルケギニアは元から怪獣が存在する星ではなかったのは分かったが、
六千年前の時点で出没していたのは意外だ。怪獣もウルトラマンも、ブリミルの時代に既に
いたのなら、どうしてそれが現在のハルケギニアに伝わっていないのだろうか?
また、マギ族、つまり人間とエルフが敵対関係にないのも意外であった。むしろ怪獣を
相手に共闘している関係と言ってもいい。それが何故、現代ではいがみ争っているのだ?
「しかしヴァリヤーグは非常に大きく強い上に、わんさかいる。ぼくたちに勝ちの目は全く
ないと一時はあきらめもしたが、そこに現れたのが光の巨人、きみが言うウルトラマンだ!
彼らはどうしてなのかは分からないが、ぼくたちを助けヴァリヤーグを退治してくれる。
ぼくとサーシャはこれから、ウルトラマンに助力しながらヴァリヤーグ出現の真相を突き止め、
これを根絶してこの大陸を救う旅に出るつもりなんだよ」
「肝心のこいつがいまいち頼りないのが全く困りものなんだけどね」
張り切るブリミルにサーシャは毒を吐いた。
ブリミルたちの状況を大体理解した才人だが、するとやはり別の疑問が浮かんでくる。
おおまかに聞いただけだが、教えられたハルケギニアの歴史とまるで内容が異なる。今の
自分は、夢でも見ているのだろうか? しかしこの現実感はとても夢とは思えない。となると、
六千年の時の間に伝承が歪曲し、怪獣やウルトラマンの存在が忘れられてしまったのか?
才人がそんな風に考えを巡らせていると、この場にテントの扉を破って若い男が飛び込んできた。
「族長! 大変です!」
「ヴァリヤーグか!?」
ガタン、とブリミルは立ち上がったが、男は首を振った。
「いえ、ですがそれ以上にまずい事態です。例の『アレ』が、再び脅迫に現れたんです!」
「また来たのか……。しつこいな……!」
それまで温厚な雰囲気だったブリミルが、非常に険しい顔つきとなった。才人は目を丸くして
サーシャに囁きかける。
「あの、『アレ』って何ですか? 怪獣とは違うんですか?」
サーシャは答える。
「違うわ。言葉を話すし、一応は人間みたいなんだけど……ぼんやりとしていて幽霊みたいな
奴なの。それが、ブリミルたちに信仰を捨てて自分の下僕となるように一方的に命令して
きてるのよ。どこの誰だか知らないけど、何様のつもりなのかしら」
サーシャもブリミル同様顔をしかめて、つぶやいた。
「何て名前だったかしら。キリエ何とかっていうらしいけど」
「キリエ!?」
思わず席を立った才人に、サーシャは吃驚させられた。
「どうしたの? もしかして、心当たりでも?」
「ああ、いや、まぁそんなところで……」
「とにかく行こう! また乱暴を働いてくるかもしれない! ぼくの魔法で追い払えれば
いいんだが……」
杖を手に真っ先に飛び出していくブリミルの後に、サーシャと才人はテントに立てかけて
あった槍を得物にして続いていく。外は話し込んでいる内に夜の帳に覆われていた。
篝火と月明かりの照明の下、村の上空におぼろげな人型の怪しい何かが浮遊している。
村の女子供は慌ててテントの中に隠れていき、若い男たちはブリミルとともに杖を握って
人魂を厳しくにらみつけている。
才人はその人魂をひと目見て、間違いではないことを把握した。あの人魂は……ロマリアの
大聖堂で目の前に現れたものと、寸分違わず同じなのだ。
そして人魂が、ブリミルたちを見下すように言い放った。
『愚かな人間どもよ……救われたくば、偽りの信仰を捨てて我々に恭順の意を示せ。我々こそが
真なる神、キリエル人である!』
かい!? 一体どんな力を使って変身したんだ!? きみは何者なんだね! 是非教えて
くれたまえ!」とものすごい勢いで詰め寄って才人を参らせた彼は、サーシャにどつかれて
黙らされた。一行はとりあえずブリミルたちの住居に移動し、腰を落ち着かせて話をする
ことになった。
「……つまり、きみは自分がどうしてここにいるのか分からない、ということでいいのかい?」
「そういうことです。ウルトラマン……光の巨人も、俺と同一の存在って訳でもありません。
彼らには、別の生き物と同化する力があります。それで俺を助けてくれたんです」
ブリミルに聞き返された才人が答えながら、手に握った、翼型の意匠を持ったスティック状の
物体に目を落とした。スパークレンス……ウルトラゼロアイのような、ティガに変身するための
アイテムだ。気がつけば、これが懐にあった。
ブリミルたちの住居は、草原の上に建てられた移動式のテントを密集して作った小さな
村だった。現在のハルケギニアでは見られない風景であり、ルイズたちの始祖と呼ばれる
人物が今と全く違う様式の暮らしをしていることに才人は内心驚いていた。
「そうか……。しかし、きみの主人に会えないというのは残念だ。ぼく以外の『変わった
系統』の持ち主に会えるものと期待していたんだがね」
肩をすくめるブリミルは、“虚無”のことを『変わった系統』と遠回しに表現する。しかし、
それも当たり前かもしれない。ブリミルが始祖ならば、“虚無”というのはこれから彼がつける
名前だ。サーシャがハルケギニアを知らないのも、きっとこれから名づけられるからだ。
「ところでブリミルさんは、怪獣をヴァリヤーグなんて呼んでましたけど……」
「きみのところでは怪獣と呼んでるのかい? 怪しい獣……言い得て妙だね。ヴァリヤーグとは
ぼくの命名だ。元々は、ぼくたちの氏族を追い立てた者たちの名前なんだけどね。あの巨大生物
どもは、同じようにぼくたちを、いやこの大陸中の生きとし生けるものを苦しめるんだ」
才人はブリミルとサーシャから、彼らを取り巻く状況について様々な話を伺った。
ブリミルはマギ族という名前の部族の一員であり、ある日ヴァリヤーグという別の部族の
人間たちに元々の住処を追われる羽目になってしまった。マギ族の中で他に例を見ない特殊な
魔法、今で言う“虚無”魔法を扱うブリミルはどうにかしようと自身の魔法を研究する中で
サーシャを使い魔として呼び出し、彼女たちエルフの住んでいる土地のある大陸へとゲートを
開いて移動することに成功した。しかし安心したのもつかの間、移動先の大陸に突如異常な
巨大生物の群れ……怪獣が出現し、マギ族、エルフ関係なく襲い始めたという。
「怪獣は元々、この大陸にはいなかったんですか?」
「そうよ。あんな天を突くような生き物の話なんて、一度たりとも聞いたことがないもの。
あいつら、一体どこから湧いてきたのかしら……」
と証言するサーシャ。ハルケギニアは元から怪獣が存在する星ではなかったのは分かったが、
六千年前の時点で出没していたのは意外だ。怪獣もウルトラマンも、ブリミルの時代に既に
いたのなら、どうしてそれが現在のハルケギニアに伝わっていないのだろうか?
また、マギ族、つまり人間とエルフが敵対関係にないのも意外であった。むしろ怪獣を
相手に共闘している関係と言ってもいい。それが何故、現代ではいがみ争っているのだ?
「しかしヴァリヤーグは非常に大きく強い上に、わんさかいる。ぼくたちに勝ちの目は全く
ないと一時はあきらめもしたが、そこに現れたのが光の巨人、きみが言うウルトラマンだ!
彼らはどうしてなのかは分からないが、ぼくたちを助けヴァリヤーグを退治してくれる。
ぼくとサーシャはこれから、ウルトラマンに助力しながらヴァリヤーグ出現の真相を突き止め、
これを根絶してこの大陸を救う旅に出るつもりなんだよ」
「肝心のこいつがいまいち頼りないのが全く困りものなんだけどね」
張り切るブリミルにサーシャは毒を吐いた。
ブリミルたちの状況を大体理解した才人だが、するとやはり別の疑問が浮かんでくる。
おおまかに聞いただけだが、教えられたハルケギニアの歴史とまるで内容が異なる。今の
自分は、夢でも見ているのだろうか? しかしこの現実感はとても夢とは思えない。となると、
六千年の時の間に伝承が歪曲し、怪獣やウルトラマンの存在が忘れられてしまったのか?
才人がそんな風に考えを巡らせていると、この場にテントの扉を破って若い男が飛び込んできた。
「族長! 大変です!」
「ヴァリヤーグか!?」
ガタン、とブリミルは立ち上がったが、男は首を振った。
「いえ、ですがそれ以上にまずい事態です。例の『アレ』が、再び脅迫に現れたんです!」
「また来たのか……。しつこいな……!」
それまで温厚な雰囲気だったブリミルが、非常に険しい顔つきとなった。才人は目を丸くして
サーシャに囁きかける。
「あの、『アレ』って何ですか? 怪獣とは違うんですか?」
サーシャは答える。
「違うわ。言葉を話すし、一応は人間みたいなんだけど……ぼんやりとしていて幽霊みたいな
奴なの。それが、ブリミルたちに信仰を捨てて自分の下僕となるように一方的に命令して
きてるのよ。どこの誰だか知らないけど、何様のつもりなのかしら」
サーシャもブリミル同様顔をしかめて、つぶやいた。
「何て名前だったかしら。キリエ何とかっていうらしいけど」
「キリエ!?」
思わず席を立った才人に、サーシャは吃驚させられた。
「どうしたの? もしかして、心当たりでも?」
「ああ、いや、まぁそんなところで……」
「とにかく行こう! また乱暴を働いてくるかもしれない! ぼくの魔法で追い払えれば
いいんだが……」
杖を手に真っ先に飛び出していくブリミルの後に、サーシャと才人はテントに立てかけて
あった槍を得物にして続いていく。外は話し込んでいる内に夜の帳に覆われていた。
篝火と月明かりの照明の下、村の上空におぼろげな人型の怪しい何かが浮遊している。
村の女子供は慌ててテントの中に隠れていき、若い男たちはブリミルとともに杖を握って
人魂を厳しくにらみつけている。
才人はその人魂をひと目見て、間違いではないことを把握した。あの人魂は……ロマリアの
大聖堂で目の前に現れたものと、寸分違わず同じなのだ。
そして人魂が、ブリミルたちを見下すように言い放った。
『愚かな人間どもよ……救われたくば、偽りの信仰を捨てて我々に恭順の意を示せ。我々こそが
真なる神、キリエル人である!』