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ウルトラ5番目の使い魔、第三部-39a


 第39話
 世界は混ざり、世界は混ざる

 海凄人 パラダイ星人
 古代怪獣 キングザウルス三世 登場!


 東方号に残されていた強力なエネルギー爆弾を狙い、襲ってきたキングザウルス三世。
 街を焼き、軍を蹴散らし、東方号も撃沈寸前に追い詰められたその猛威は激烈を極めた。
 だが、ティアとティラが目覚めさせた東方号の真の力が勝機をもたらした。
 無敵を誇ったバリアーをコルベールの策が貫き、戦いは終わろうとしている。

「やった……やったぞぉっ!」

 キングザウルス三世を油断させるために、一斉射撃に見せかけて一発だけ時間差で放たれた砲弾は、確かに煙の中の怪獣を捉えた。怪獣の苦悶に満ちた遠吠えが煙の中から響き、一陣の風が灰色の小山を吹き飛ばしたとき、そこには大きく傷を負った怪獣の姿があったのだ。

「当たった、当たってる。怪獣の、角が!」

 砲弾はキングザウルス三世の顔面の右側面に命中したらしく、奴の立派な二本の角のうちの右の一本が根元からへし折れていた。
 と、同時に戦いを見守っていたすべての人たちから大気を震わすほどの歓声が巻き起こった。
 あの、不死身かとさえ思えた怪獣にはじめて目に見えたダメージを与えることができた。しかも、トリステインの希望だと信じてきたオストラントがついに砲火を放ったのを間近で見れたのである。あの雷鳴を何千倍にしたような砲声、火山のような爆炎、どこをとってもハルケギニアの常識を超えたそれを目の当たりにした興奮が、彼らの心臓をわしづかみにしていたのだ。
 トリステイン万歳、オストラント万歳の声が響き渡る。しかし、コルベールたちはまだ気を抜いてはいない、怪獣はまだ倒されたわけではないのだ。
 怒りの逆襲に備えて、東方号の砲門に次なる砲弾が急いで装填される。いくら異星人の技術で全自動化されているとはいえ、四十六センチ砲ほど巨大な砲に砲弾を詰めるにはそれなりの時間がいるものなのだ。

 けれど、脂汗を額から流して待ったコルベールたちの心配は杞憂に終わった。怪獣は東方号を攻撃してくることなく、悲鳴をあげながらくるりと方向を変えて遠ざかり始めたのだ。
「み、見て! 怪獣が逃げていくわ」
「た、助かったぁぁ……」
 ビーコが嬉し涙を流しながら叫んで、シーコが緊張が抜けたあまりに腰を抜かしてへたりこんだ。エーコは「あなたたちだらしないわよ!」と怒っているけれど、彼女も羅針盤にしがみついたままで足が震えている。
 一方で、ベアトリスは毅然とした態度で胸を張っていたものの、よく見ると目じりに涙が浮いていた。コルベールを相手に船を下りる下りないで意地を張りはしたものの、やはり目の前に死が迫る状況が怖かったようである。
 彼女たちも、やはりまだまだ子供か。コルベールはそんなふうにどこかほっとした思いを抱きながら、遠ざかっていくキングザウルス三世を見送っていた。
「このまま逃げ帰ってくれるか。よほど度肝を抜かれたか、あるいはあの角はよほど大事なものだったようだな」
 その考察は当たっていた。角は、キングザウルス三世にとっては命とさえ呼べるもので、奴の無敵の強さの中核ともいうべきバリアーは角を源泉にして発生する。つまり、角を失ってはバリアーを張ることができなくなってしまい、すべての攻撃はそのまま奴に直撃することとなるのだ。
 かつてウルトラマンジャックが戦った個体も、角を失った後は戦意を喪失してしまっている。頑強な鎧は確かに身にまとう者の守りを強める。だがその反面、頑強な鎧をまとった者はその強さに頼るあまりに、鎧をはがされてしまったときになお戦おうとする心の頑強さを失ってしまいかねないのである。
 角を失い、バリアーを失ったキングザウルス三世はもはや並の怪獣と大差ない。それでも大破状態の今の東方号にとっては恐ろしい敵には違いないのだが、奴は残ったもう一本の角までも失うのがよほど怖いと見えて、わき目も振らずに逃げていく。
「コッパゲのおじさん、砲弾の装填はできてるよ。追い撃ちをかける?」
「無用だろう。手負いの獣の怒りをわざわざ駆り立てることはない……奴はもう、二度とここには現れまい。戦いは、終わりだ」
 ティアの問いかけに、コルベールはほっとした様子でつぶやくように答えた。
 実際、いくらバリアーを失ったとはいえキングザウルス三世とこのまま戦い続けていたら東方号がいくら奮戦しても沈められたかもしれない。奴の角が折れたときに、戦意も同時に折れたからこそ助かった。やはり、怪獣の力とは底知れず、恐ろしい。そして、かろうじてとはいえ、それを退けられた、この東方号の真の力とは。
 遠ざかっていくキングザウルス三世を追って、シルフィードが飛んでいくのがブリッジから見えた。どうやらキュルケは、怪獣がほんとうに逃げ去るつもりなのかを確認して、行く先を確かめておく気なのだろう。そういう用心深さは、知らないうちにタバサから移っていたのかもしれない。
 落ち着きを取り戻した東方号のブリッジ。だが、戦いの緊張感が過ぎ去った後のはずのここに、別の緊迫感がみなぎっていた。
 鋭い視線をして立つベアトリス、エーコ、ビーコ、シーコ、そしてコルベール。彼女たちは、目の前で吹っ切れたように無防備に立っている少女に対して問いかけた。
「ティア、あなたたちはいったい何者なの?」
 もう誰もティアたちを普通の人間だとは思っていなかった。コルベールやアカデミーの学者たちがどう試しても動かすことのできなかった東方号の機械を難なく操って見せた能力は、もはやハルケギニアの人間ではないことは明白だった。
 そして、ハルケギニアの者でないとしたら、その背後にいるのは、この世界の人知を超えた者のはず。しかしティアは、警戒と不安の眼差しを向けられているというのに動じた様子もなく口を開いた。
「わかってるわ、全部を話すつもりだよ。でも、わたしはくっちゃべるのは苦手だから」
「わたしから話すわ」
 なんと、いつの間に現れたのか、ティアの隣に彼女とよく似た長い髪の少女が立っていた。
「うわっ! ティラ、いつの間に?」
「たった今よ。瞬間移動、わたしたちの種族が使える能力のひとつ。わたしたちが陸地からこの船にやってこられたのもこれを使ったから……察しのとおり、わたしたちふたりはこの世界の人間ではないわ。わたしたちは、こことは違う宇宙にある遠い星からやってきた異星の民。あちらの宇宙では、わたしたちはパラダイ星人と呼ばれているわ」

 そうして、ティラはベアトリスたちに隠していた自分たちの素性のすべてを語った。
 自分たちの星の発展のために、ほかの海のある惑星の調査を自分たちは望んでいること。そのために、自分たちはアイアンロックスを作ったミミー星人に誘われて、時空を超えてハルケギニアにやってきたこと。
 そして、ミミー星人の裏切りによって自分たちは船を失い、帰る術を失って、この星で人間として隠れ住んでいたことを。

「いくつかの町を渡り歩いて、なんとか言葉は覚えてこの街で職にもありつけました。けどハルケギニアの文化までは理解しきれてなくて、危ないところをエーコさまたちに助けられてから、それから先は皆さまも知ってのとおりです。ずっと黙っていて、すみませんでした」
 ティラが語り終えると、場は少しの間静寂に包まれた。エーコたちは、まさかと予感していたとおりの現実とゆるぎない証拠を目の当たりにさせられたため、なんと言えばいいのかわからなかったのだ。
 今日まで親友と信じてきた相手が突然宇宙人だとしたら……そのショックは体験してみないとわからない。いや、それだけではなく、エーコたちは一度、味方顔で近づいてきたヤプール・バキシムに騙されて死ぬ目に会っている。そのことが、知らないあいだに彼女たちのトラウマになってしまっていたのだ。
「エーコ……」
「うん……」
「……」
 ティラたちも、説明を終えると口をつぐんで、こちらの反応をうかがっているようだ。彼女たちの、もうどんな反応を示されようとも覚悟はできているような態度を見て、エーコたちは自分たちがどうしてやればいいのか、その答えはもう出していた。しかし、心の中でバキシムに利用されていたときの記憶が蘇ってきて声を出すことができない。
 だが、そんな彼女たちの背中を押したのはベアトリスだった。
「なにやってるのエーコ、ビーコ、シーコ。そのふたりは、あなたたちが部下にしたんでしょう? わたしは、自分の手足の始末もできないふがいないしもべを持った覚えはないわよ!」
 バンっと、背中を叩かれて押し出されたとき、エーコたちはベアトリスの厳しくも優しい視線を垣間見た。
 そう、ティアとティラの告白にどう答えるのか、自分たちは態度で示さなければいけない。これが学院で起きた些細な出来事であれば、「わたしたちは知らないわよ」と、放り出すこともできようが、人生には逃げ出すことのできない瞬間が必ず訪れる。それが今だ。
 じっと待っているティラとティアに、三人の中から代表してエーコが一歩前に出た。ベアトリスとコルベールは、彼女たちを静かに見守っている。
「ティラ、ティア」
「「はい」」
「あなたたちが、この世界の人間でないということはわかったわ。けど、ひとつ答えて、あなたたちが自分の正体を明かすということがどういうことになるのか、あなたたちは当然理解してるはず。なのに……?」
 それはある意味、聞くまでもないことではあったが、聞かないわけにはいかない問題だった。
 この世界が、ヤプールをはじめとする外敵に狙われていることは誰もが知っている。トリスタニアを震撼させたツルク星人のことは現在でも語り草であるし、命を吸い取っていた怪人、ラ・ロシェールに大挙して現れた人狼の群れなど、人々はいつ自分の日常の隣に侵略者が現れるのではと恐々としているのだ。
 例えばである。地球で、ある日突然に人間に化けていた宇宙人が見つかったとするとどうなるか? メイツ星人の悲劇がなによりも物語っている。そこまでいかなくても、ヒビノ・ミライ隊員が正体をあばかれたときも、諸事情があったとはいえウルトラマンであってさえかなり危なかった。まして未知の宇宙人に対しては、軟禁、生体実験に処されることさえ考えられる。
 人間社会において、隠れ住んでいる宇宙人が正体を知られるということは、地球もハルケギニアも問わずに非常にリスクの大きいことなのだ。ティアとティラの聡明さなら、その程度のことはとっくに察しているだろうに、それでも助けに来てくれたのは何故か?
 ティラとティアは、軽く目を合わせると、微笑みながら答えた。
「「恩返し」」
「えっ?」
「わたしたちの星では、受けた恩は必ず返すのがしきたりなの。エーコさまたちは、初めて会ったときにわたしたちの命を救ってくれました。わたしたちは、その恩を返せるときをずっと待っていたんです」
「そんな、あんな前のことをまだ……」
 エーコたちは絶句した。確かに、ティアたちはなにかあるごとに恩返し恩返しと繰り返していたが、まさかここまでしてくれるなんて想像もしてなかったのだ。驚くエーコたちに、今度はティアが言った。
「そんなに驚くことはないんじゃないかな? エーコさまたちだって、クルデンホルフ姫殿下には大恩があって仕えてるって、いつも自慢げに言ってるじゃん。それにさ、後先のこととか少なくともわたしはどうでもよかったのさ。だって、友達を助けるのはハルケギニアでも当然のことだろ?」
「友達……」
「なんだい? わたしたちを友達だって言ってくれたのはエーコさまたちじゃん。わたしたちはこれでも本気にしてたんだけどなぁ。ま、こっちも最初は、恩を返したい一心でついてまわってたんだ。けど、ついてまわっていっしょに遊んだりしてるうちに、なんかいっしょにあれこれやってるうちに、それだけで楽しくなっちゃってさ。な、ティラ」
「そうだね。この星に来て、楽しいって感覚を思い出させてくれたのはエーコさまたちやみんなのおかげ。だから、わたしたちは恩返し以上に、エーコさまたちのためになにかをしてあげたくなった。こういうのを、この星でも友情っていうんじゃ、うわああっ!?」
 突然、話している最中のティラの言葉がさえぎられたのは、彼女たちに向かって三人の少女たちが飛びついてきたからだった。そして、目を白黒させているティラとティアの目の前で、目を潤ませながらエーコ、ビーコ、シーコが叫ぶように言った。
「ごめんなさいティア、ティラぁぁっ!」
「あなたたちを少しでも疑ったりして、わたしたちがバカだったわぁぁっ」
「こんなにわたしたちを思ってくれる人が悪いやつなわけないもん。あなたたちはわたしたちの大事な友達だよ、誰がなんと言おうとそうだもん!」
 エーコたちが涙ながらに訴えるのを、ティアとティラはこちらも涙を浮かべながら聞いていた。もっとも、熱意がいきすぎて鼻水がつきそうになるとさすがに離されたが。
 ティアたちとエーコたちの溝は、ティラとティアの包み隠さない言葉で埋まった。元々、エーコたちも今では人を信じられる強い心を持てるように成長している。あとはただ、きっかけだけだったのだ。
 ティラとティアはハルケギニアの人間ではない。それが現実でも、それがなんだというのだ? だが、自分たちはよくてもと、エーコたちがベアトリスのほうを見ると、ベアトリスは首を傾けていたずらっぽく言った。
「なーに? なにを心配してるの? 言ったでしょ、わたしはあらゆる人材を必要とするって。人間じゃない人材って、そんなの持ってる貴族なんてハルケギニアにふたりといないはずよね。胸が躍ると思わない?」
「じゃ、じゃあ姫さまっ」
「わたしに二言はないわ。ティラ、ティア、ここにいる限りはあなたたちの身柄は誰にも犯させないから安心して。ただ、もしも帰れる方法が見つかったときは仕方ないけど、それまではエーコたちを助けてあげてくれるかしら」
「「喜んで」」
 これでわだかまりはすべて消えた。コルベールはといえば、またまたほっとした様子で六人を見守っている。友情に種族の差などはない。それは宇宙を越えて時に時代をも動かし、かつてウルトラセブンが地球に残ることを決心したのも、仲間のために命を捨てようとさえする人間の熱い心に打たれたからだ。
 人の器は経験によっていくらでも大きさと形を変える。一年前の彼女たちには受け入れられなかったものでも、今の彼女たちの器であったら受け止められた。
 エーコたちが、自分たちの正体を知ってもなお差別せずに受け入れてくれたことに、ティアとティラも嬉し涙を流している。
「ぐすっ。実はさ、わたしたちはハルケギニアに来るとき、人間は信用のおけない生き物だって聞かされてたんだ。でも、自分の目で確かめてみてわかったんだ。人間にも、いい奴もいれば悪い奴もいる。結局は、会って触れ合って確かめるしかないんだってね。エーコさまたちを信じて、間違いじゃなかった」
 ティアの言葉には少しのぶれもなく、彼女の目には自分の信じるものを語っている力強い光がありありと宿っていた。
「正直に言うと、エーコさまたちに会うまでには、人間たちからいやな目に会わされてきたわ。けど、やっぱり少しを見て、全体も同じだって決め付けるのは」
「「「間違いだってことね」」」
「えっ!?」
 ティラの言葉をさえぎって、エーコ、ビーコ、シーコの声が同時に響いた。見ると、三人のどの顔も迷いを吹っ切ったように輝いている。
 一部の人間が、その他の人間と同じだとするのはよく陥る錯覚だ。ひとつ例をあげるとすれば、よく疑問に思われることであるが、地球を卑劣な手段で襲う数々の凶悪宇宙人たちの母星をウルトラマンが何故攻撃しないのだろうか? それは、宇宙人たちもその根幹では地球人と大きな差はないからだ。
 巷では、凶悪宇宙人と呼ばれているマグマ星人やガッツ星人にも、いい奴がいるかもしれないではないか? 地球で確認されているのは、それぞれの星に住む中のほんの数人に過ぎないのだから。
 若者たちは、打ち解ければ早い。その様子を見守っていたコルベールは、自分の出る幕がなくてよかったと思うと、やっと落ち着いてきたティラとティアに話しかけた。
「君たちが、ヤプールなどと同じ異世界の民なのか。見たところ、人間とほとんど変わらないようだが。いや、エルフも人間と極端に違うわけではないし、姿かたちなどというものは意味がないのかもしれんな」
「そうね、宇宙にはいろいろな姿かたちをした生命体がいるわ。知的生物に限っても、わたしたちやあなたたちみたいな、人間型の種族は割りと多いほうだけど、なかには怪獣と同じような姿をしながら高度な知性を有する種族や、さらに高等な種族になると、頭脳だけや精神体だけで生きている連中だっている。それはただ、あなたたちが知らないだけなの」
「きついねえ。我々は総力をあげても、この船の仕組みの解明すらできなかったというのに、君らは子供の身でありながらやすやすとそれをおこなってしまった。まったく、外の世界の英知というのはどこまで幅広いものか、惚れ惚れするよ」
 コルベールは自重げに苦笑いしてみせた。知識というものには果てがない。旺盛な知識欲を持つコルベールゆえに、この世の知識のすべてを手に入れるには、それこそ不老不死にでもならなければ不可能かと感じたのだった。
 しかし、ことはそんなに単純ではないとティラはコルベールに言う。
「進化ってのも、いいことばかりとは限らないわよ。長生きするために頭脳だけになったあげく、自分だけではなにもできなくなった生命体もいると聞くわ。こうして、二本の足で立って歩ける人間は、実は恵まれていると言えるかもしれないのよ」
 その言葉に、コルベールはごくりとつばを飲み込んだ。生命体は、自分の体を持っているとは限らない。人魂怪獣フェミゴンは、乗り移る体がなければただの霊魂にすぎずになにもできない。また、一九七〇年に南太平洋の小島に出現した知的宇宙生物は、アメーバ状の生態をしており、イカやカニやカメなどの生物に寄生することで生きていた。いずれも、存在は他人任せでしかない。
 人は良かれ悪かれ自分で行動できるから人なのだ。その選択で、ティラとティアは見事に新しい道を切り開いた。そしてそれは、はるかに大きな可能性への媒体へともなった。

「うおぉぉぉーっ! オストラント万歳! トリステイン万歳ーっ!」

 突然、窓の外から割れんばかりの歓声が聞こえてきた。いや、今になってようやく聞こえるくらいこちらが落ち着いたのだ。見ると、対岸や街の方角から数え切れない人々が手を振っている。彼らは見たのだ、東方号がついにその力を発揮して怪獣を撃退した姿を。
 今まで幻だった、巨大戦艦の真の力。号砲の一声はその力強さで、人々の恐怖心をも吹き飛ばしたのであった。
 それを聞いて、意外にもコルベールたちはようやく自分たちがどれほどのことをしたのかを理解した。最強の戦艦に乗っていると、自分が最強の戦艦に乗っていることを忘れがちになってしまうようだ。だが、頭の回転の速いコルベールは今の状況が持つものの意味をすぐに理解した。
「そうだ。君たち、君たちは今この東方号を動かしたけれど、もしかしてほかの使われていない機能も使えるのかね?」
「もちろんできるわよ。ミミー星人のやつ、使い捨てだからってたいしたセキュリティもかけずにサブコンピュータをほったらかしにしてたから、ここからすべての機能を操作できるわ」
「それはすごい! この船の機能が十全に使えるなら、ヤプールの超獣とだって互角に戦える。いいや、戦いの道具などとしてより、その仕組みの百分の一でも解析できれば、ハルケギニアの技術は大きく進むぞ」
「すごいやる気ね。まあ、その前に沈まなければの、話だけど」
「えっ? しまった。いかん!」
 言われて、コルベールははっとした。嬉しさでつい忘れていたけど、東方号は絶賛大破炎上中だ。このまま燃え続けたら、使い物にならなくなってしまう。
 慌ててコルベールは消火作業の再開を各所に命令した。続いて、怪獣が去ったことにより、軍にも消火の応援を要請する。もちろんベアトリスたちも、自分の仕事を思い出して奔走し始めた。
 喧騒に包まれる東方号。その様子を、キュルケたちはシルフィードに乗って、少し離れた空から見下ろしていた。

「あらあら、ミスタ・コルベールに挨拶できるかと思ったけど、これじゃちょっと無理そうかもねえ」

 キングザウルス三世が上陸した後に地底に去っていったのを確認して戻ってきたのだが、どうも取り込み中らしかった。
 同乗しているカトレアやファーティマも、今出て行くのは得策ではないというそぶりをしている。あの船の火災が収まるには、まだ何時間もかかることだろう。すでに港からやってきた小船から放水も始まっているし、空からは竜騎士から水が撒かれている。自分たちが出て行っても邪魔になるだけだろう。
 かといって、消火が終わるのを待っていたら夜になってしまう。ならばと、カトレアが提案した。
「では、今のうちにこちらはこちらの用を済ませておくのはいかがでしょう? ラグドリアン湖は、このすぐ先ですわ」
「そうですわね。積もる話もあるけれど、まずは水の精霊にご挨拶しておきましょうか。ミス・ファーティマ、腰を抜かしてたのは治りましたか?」
「失礼なことを言うな! 誰も腰を抜かしたりなどしておらん。あんな大きな砲声など水軍でも聞いたことがなかったから少し驚いただけだ。もう何度もヤプールの手下との戦いで死地を潜ってきたわたしが、いまさら砲声くらいで腰を抜かすわけあるまい」
 はいはい、ならそんなにむきにならなくていいのに、とキュルケは心の中で笑いながら軽く謝罪した。ファーティマとは短い間ながらも気心が知れてきたが、彼女は表面上は冷徹に振舞っていても、ときたま幼さが顔を出すことがある。タバサとどことなく似ているし、彼女のほうがずっと年上なのだろうけれどファーティマのほうがどことなく子供っぽく、そのギャップがキュルケにはおかしかった。
「明日になれば多少はこっちも落ち着くでしょう。話す時間は長いほうがいいし、ここは急がば回れね。シルフィード、Uターンよ」
「わかったのね。こういう鉄の多い街は臭いからさっさと行くのね、きゅいっ」
 シルフィードはラグドリアン湖方面へと飛び去り、忙しさに振り回される人々の中で、それに気づいた者はいなかった。


 そして、激動の一日は過ぎ去り、夜が明けた。
 空は相変わらず虫の雲に覆われていて太陽は見えない。しかし、心の中に太陽を輝かせた者たちは、この世に明かりを灯すために集まってくる。

 東方号の母港、その街のカフェテラスの一角で、コルベールはキュルケたちと再会と初対面の挨拶をかわし、それぞれにこれまでにあったことを話し合っていた。
「ミス・ツェルプストー、まさか君がガリアでそんな苦労をしていたとは夢にも思わなかった。生徒が苦しんでいたというのに教師として情けない。そうと知っていればヴィルサルテイル宮殿に殴りこみでもかけたものを」
「そのことはもういいですわ。この世のすべてを知り尽くせる力が人間にあるわけもないですし、過ぎたことはどうでもいいです。それよりも、これからのことを考えましょう」
「う、うむ、そうだな。しかし、ラグドリアン湖の底へ潜るための方法か……これは少々至難だな」
 コルベールは、キュルケからの要請を受けて苦い顔をした。
 ラグドリアン湖の底の異世界への扉を開く、そのために深度数千メイルの水の底へ潜る方法が必要なのだという。
「水の精霊からの協力は取り付けたわ。少々てこずったけど……ただし案内はしてくれるけど、やってくる方法はそっち任せと言われたわ。それくらいの覚悟と力は示せというのが条件なんですって、まったく精霊っていうのは頑固なんだから」
 キュルケも苦々しげにつぶやいた。昨日、水の精霊とのあいだでキュルケたちがどのような交渉をしたのかコルベールは知る由もないが、キュルケの声色の苦さからこれでも最大限の妥協を引き出した結果だということが察せられた。
 しかし、深度数千メイルに潜るとなれば半端なことではない。魔法の力では、そんな深さの水圧に耐えることは不可能だ。ならば物理的な手段に頼るしかないが、頼りの綱の東方号はといえば。
「東方号は修理だけでも一ヶ月はかかるだろう。そのうえで、水密の改造を施すとなると、どれだけかかるか」
「そんなに待ってたら何が起きるかわからないわ。ガリアだって、タバサが戻るのが遅れるほどジョゼフに悪事を働かせる時間を与えることになる。時間がないのよ」
「うう、む」
 コルベールにも事態の深刻さはわかっている。このままでは、ハルケギニアは破滅が待つ聖戦へと一直線となる。早急に、なにかの行動を起こさなくては間に合わない。
 だが、かといって無い袖は振れない。ティラとティアの協力がある今、東方号の元の姿であるアイアンロックスの持っていた潜水機能は使えるが、無人の爆弾戦艦であったために人が乗り込むようにはできていない。なによりこのボロボロの状態で潜水して無事で済む保障もない。
「……こうなれば、あの方法しかないですかな」
「なにか秘策があるのね! そうこなくっちゃ」
 コルベールのつぶやきにキュルケは即座に反応した。基本プラス思考のキュルケは明るそうな話題を見つけると速い。しかしコルベールは苦笑いを浮かべながら言った。
「秘策というほどのものではないですぞ。余裕ができたら研究しようと思っていた材料のひとつです。正直、今の段階では時間も技術も足りずに、頭の中でお蔵入りさせていたんです」
「かまわないわ! タバサを救える可能性なら、わたしはどんなことだってやってみせる。ミスタ・コルベール、お願いしますわ。もうこうなったら、頼りになるのはあなただけなんですの」
「さりげにひどいことを言われた気がしますが、まあそれはいいでしょう。ですが、成功する保証もない改造をミス・クルデンホルフが許してくださるかどうか」
 コルベールは、あくまで自分は無一文だからと自嘲げにつぶやいた。スポンサーが首を縦にふらなければ自分はどうしようもない。
 ところが、そこに叱咤するようにカフェテラスにベアトリスの声が響いた。
「煮え切らないわね、男のくせにだらしない! やるかやらないかで悩んだなら、やればいいだけの話でしょ」
「ミス・クルデンホルフ? どうしてここへ」
「こっちが一区切りついたから、ティータイムついでに寄ってみたのよ。なかなかおもしろそうな話をしてるみたいじゃないの? 前にたわむれに聞かせてくれた腹案ってのはそれね? 言ってみなさい、命令よ」
 尊大な態度で、ベアトリスはコルベールに命じた。その後ろからは、エーコたちも「命令よ」「命令よ」「命令よ」「命令だそうです」「命令だぜ」「ティラ、ティア、あなたたちはマネしなくていいのよ」という声も響いてきて、コルベールは仕方なしに観念した様子で、たずさえていたかばんからテーブルいっぱいの図面を取り出した。
「これは……なにかの設計図ですの?」
 その図面には、無数の線で幾何学的な図が幾重にも記されており、なにかの設計図だということはキュルケやベアトリスにもわかった。しかし図面の読み方や記号の意味はわからず、覗き込んだエーコたちやファーティマも首をひねるばかりだ。
 だが、ふと覗き込んできたティラがその図面を見たとたん、信じられないというふうに言った。
「あなた、この図面をどこで手に入れたの? これ、この世界のレベルじゃ考えられないオーバーテクノロジーよ。わたしたちの次元の地球に匹敵する……なるほどね」
「ご明察です。この図面は、ラグドリアン湖から引き上げた異世界の船から見つけたものです。どうやら、船の設計図の一部らしいのですが、あなたにはわかりますか?」
 そう、この図面こそ港に泊めてある伊-403潜水艦からコルベールが見つけた秘密の図面であった。ティラはそれをしげしげと眺めていたが、やがて感心したように息を吐いた。
「たいしたものね、この概念図だけじゃ全体はわからないけど、とても高いレベルで収められてる。飛行能力、潜水能力、さらに地底潜行能力まで備えてるなんて、これで宇宙航行までできたら完全無欠じゃないの」
「そうです。わたしもこれを見つけたときは驚きました。見つけられた図面は、全体のほんの一部に過ぎないものですが、それだけでも完成したこの船の圧倒的な性能が背筋が震えるほど伝わってくるものでした」
 コルベールは、もしこの船が完成していたら、東方号もとても及ばないだろうと考えていた。
 概念図だけでも、艦首掘削用ドリル、冷凍光線砲、電子砲などの様々な武器を備え、陸に海に大空に縦横無尽に駆け巡る力を持っている。いったい、どんな人がこれを設計したのだろうか? 設計図を見つけた伊-403潜水艦からして東方号の元となった戦艦ヤマトを作った国と同じだと思うのだが……コルベールのその推測は当たっていた。
 この船を設計したのは旧日本海軍。太平洋戦争末期、彼らは劣勢を挽回するために、一隻で一艦隊を相手にすることのできる新型万能戦艦を設計した。だが、時すでに遅く、設計が終わったときには敗戦を迎えており、敵の手にこれが落ちることを恐れた責任者の手によって設計図は潜水艦伊-403によって日本から運び出されたという。
 その後、伊-403の行方は知れず、歴史の闇に消え去ったかに見えた。だが、新造万能戦艦は南海の孤島で人知れず建造を続けられていたのだ。そして昭和三十八年、まだ防衛組織もウルトラマンもいない時代に、その艦はある侵略者を迎え撃つべく出撃し、万能の性能を遺憾なく発揮して見事に勝利を収めたという。以後の行方は不明だが、伝説的な活躍をしたその艦を、人はこう言い伝えてきた【海底軍艦】と。
 その設計図の一部がここにある。しかし、海底軍艦はあらゆる資源を無尽蔵にとれる島でなお二十年の歳月を経てやっと完成にこぎつけられた艦だ。しかも設計図はほんの一部分、これでどうしようというのか?
「これの兵器や装備を真似するのは現在の我々の技術では不可能です。しかし、水の圧力に耐えるための船殻の構造を真似ることならばできます。東方号の有人区画だけを強化して、ほかは遠隔操縦できるように改造する。どうです? 異星の方から見て、このプランは」
「不可能じゃない……いいえ、現実的にとり得る唯一の方法だと思うわ。技術の足りないところは魔法で補いえるし、なにより船の構造を大きく変えずにすむ」
 ティラは熟慮した上で答えた。本来の海底軍艦の潜行能力は深海数千メートルに余裕で耐える船体を有している。その半分でも再現することができたならば、いける。
「ただし、条件があるわ」
「教えてください」
「操縦方法を切り替えるにしても、操縦システムをあなたたちでいじれるかしら? 今のところ、オストラントを動かせるのはわたしたち二人だけ。つまり、わたしたちが協力しなければ船の改造はできないの」
「ご協力、是非にお願いできませんか」
 コルベールが頭を下げるのに、ティラはティアに目配せをすると、ティアが笑いながら言った。
「わたしたちはベアトリス姫の子分のエーコさまたちの子分だ。子分を動かしたかったら、まずは親分に頼みなよ」
 はっとして、コルベールたちは振り向いた。そこには、ベアトリスが試すように小憎らしく薄笑いを浮かべてこちらを見ている。
 理解したコルベールが頭を下げた。しかし、ベアトリスはうんとは言わない。
「ミスタ・コルベールの考えてることなんて今さら聞かなくてもわかるわ。それよりも、もっと必要としている人が頼むべきじゃないかしら?」
 その視線は静かにキュルケを見据えている。
 コルベールはベアトリスの言わんとしていることを察した。確かに、東方号の改造を一番必要としているのはキュルケだ。しかし、プライドの高い彼女が、成り上がりのクルデンホルフの、しかも年下に頭を下げることができるのだろうか。
 だが、キュルケは迷った様子もなくベアトリスの前にひざまづくと、頭を垂れて懇願した。
「クルデンホルフ姫殿下にお願いいたします。この非才の身をわずかでも哀れと思わば、どうか御身の力をお貸しくださいませ」
「ふーん、ゲルマニア有数の名門のツェルプストーがトリステインの貴族に頭を下げるんだ。それってどうなのかな」
「わたしにはどんなことをしてでも成し遂げなければいけないことが、取り返さなければいけないものがあるのです。そのために差し出さなければいけないものがあるなら、わたしは喜んで差し出す所存です」
「たとえば、あなたが一生わたしの下僕になれと言っても?」
「御身がお望みであれば」
 キュルケの澱みのない返答は、コルベールを驚かせた。
 これが、あのルイズをからかって楽しんでいたキュルケなのだろうか。演技? いや、そんなものではない。そうだ、彼女の望んでいることはただひとつ、タバサを助けたいということだけだ。
 じっと頭を下げて待つキュルケを、ベアトリスは微笑しながら見下ろしていたが、やがてエーコたちと目配せしあうと言った。
「冗談よ、ツェルプストーの跡継ぎなんて爆弾を抱え込む気はないわ。でもまあ、ツェルプストーに恩を売れるっていうのは悪くないわ。エーコ、あとは任せるわよ」
「御意に。というわけで、ティラ、ティア、仕事よ、できる?」
「わたしたちは恩は忘れません。昨日の戦いで怪獣を追い払えたのも、キュルケさんたちが来てくれたおかげです。精一杯つくさせてもらいます」
「ついでに、恨みもね。あんたたちに協力するってことは、わたしたちをひどい目に合わせたミミー星人をそそのかしたヤプールへの仕返しにもなるからな。ふふ、楽しみだよ」
 ベアトリスたちからエーコたちを通じてティラとティアへ、意思は確かに伝わった。
 喜びに顔を染めてキュルケも立ち上がる。
「やったわ、ありがとう! これでタバサに一歩近づいたわ、待っててね、もうすぐ迎えにいくからね」
「ちょっとそこのツェルプストー! 手のひら返すのが速すぎでしょ。下僕うんぬんはともかく、あなたにも馬車馬のように働いてもらうからね」
「わかってるわよ。わたしにできることがあったら何でも言って。フォン・ツェルプストーに二言はないわ」
「ほんと、これから人手はいくらあっても足りなくなりそうだからね。外のあなたたちも、気合を入れなさいよ!」
「おーっ!」
 カフェの外から声がしたので見てみると、なんと扉から数十人の少女が身を乗り出して手を上げていた。
「きゃっ! 水妖精騎士団のみんな、いつの間に!?」
「どうしたもなにも、エーコたちが後をつけられてたんでしょ。さて、時間がないわ。さっそくかかるわよ!」
「はいっ!」
 ベアトリスを中心に、数十人の少女たちが従って輪を作る。
 これで話は決まった。東方号の再建および改造計画がここから始まるのだ。
 気合を入れる少女たち。責任の重さに真剣な顔つきになるコルベール、希望が見えてきたことで自身の赤髪と同じように燃えるキュルケ。
 一方で、ファーティマは「わたしはここにとどまっているわけにはいかないのだが」と苦言を呈していたが、そこにカトレアが提案した。
「ミス・ファーティマは、いったんわたくしといっしょに王宮へ参りましょう。テュリューク統領からの伝言を、女王陛下にお伝えしてくださいませ」
「そうだな、そうさせてもらおう。では、我々も急ぐとするか」
「わかりました。それでは、すぐに乗り物を用意いたしましょう」
 それぞれが、それぞれの役割を心得て精一杯がんばればきっと未来が開ける。怪獣の脅威という大事を乗り越えた彼女たちは、再び新しい道を見つけて歩き出した。


 さらに、運命はさらなる進行を次に用意していた。
 ここでいったん、舞台は東方号から場所を移す。そのところは先日、キュルケたちが旅立ったトリステイン王宮。そこに、ついに彼女たちが帰ってきたのだ。




 後半部へ続く


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