あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

るろうに使い魔-45a


トリステイン国内、チクトンネ街の中央広場のすぐ近くに『タニアリージュ・ロワイヤル座』はあった。
 豪華絢爛、煌びやかな様相を呈していたこの劇場に老若男女が集い、そして一つの劇が始まろうとしていた。
 タイトルは『トリスタニアの休日』。別々の国の王子と王女が恋に落ちるという、在り来りなストーリー。しかし若い女の人には人気とのことであり、
なるほど場内を占めるのはほとんどが女性であった。
 始まりを告げる音楽が奏でられ、皆が舞台の方を注目する中、それに紛れて二人の客が何やら話し込んでいた。
 一人は初老の男性。身なりからして貴族な彼の様子は、周りが女性だらけの部屋で少し浮いているような気がしないでもないが、
今は始まった劇の真っ最中。誰も気に留める人などいなかった。
 老人の貴族は、形だけでも劇を見ながら、呟くような声で隣の人物に言った。
「ウドウ・ジンエがしくじったそうですな」
 鵜堂刃衛…今トリステインに潜む、闇に蠢く暗殺者の名前…それを口にした老人は、どこか焦ったような感じで続けた。
「この失敗でまさか、私が裏で手びきしたことがバレるなんてことは……」
「それはありませんよ。ジャックがちゃんと証拠になるものは片付けたそうですから」
 そう答えるのは、まだあどけなさが残る、十歳にも満たなさそうな少年だった。少年は老人とは対照的な、どこか悪戯好きそうな笑みをしていた。
「だといいのだが…、まあ私も君たちの腕は買っている。特に奴…魔法も使えぬ雇われ傭兵の身分のくせに、中々どうして、強いのは確かだからな」
 老人は、刃衛のことを知っていた。この少年の正体も。そしてトリステインで起こっている、暗殺の真実のことも…。
「でも貴方が狩るべき標的の情報をこちらにリークしてくれたおかげで、随分やりやすい環境になっていたのも事実です」
 そんな、会話の応酬が、この劇場の広場にて堂々と行われていた。
 成程木を隠すなら森の中、人を隠すのも人混みの中に限る。ここでなら、余程のことがない限り目をつけられるような事はないと言えた。
「でもそれもここまで。『本当の標的』が見つかった今、この失敗が潮時と言えるでしょう」
「…というと、例の『人斬り』かね…?」
 老人が尋ねた事柄に、少年は軽く頷く。
「ええ。ですからこの暗殺劇も一旦中止。これからその『人斬り』を仕留めるのに力を注ぐ方針です」
「これで障壁はなくなるという訳ですな。まあ、あんなか弱い『お姫様』に、この国を引っ張っていけるとはとても思えませんからな。早く侵略でも何でもして欲しいものです」
 老人のその言葉を聞いた少年は、可笑しそうな感じで小さく笑った。
「貴方もどうして、中々に外道ですね。愛国心とかないんですか?」
「愛国心でお金は賄えませんよ。これから倒れる国にいつまでも媚を売っても仕方ありますまい」
 老人はそう言って、劇の様子を見やる。既に話の大半は終わりを告げ、今まさにクライマックスの場面であった。
「何せ、いずれこの国も『アルビオン』と呼ばれるようになるのですからな…」



            第四十五幕 『高貴な迷い猫 前編』



 その日は雨だった。雲一帯がトリステインの上空を覆い、その上からたくさんの水滴を街に向かって流していく。
 雲が厚かったのは朝からであったが、何しろ急に降り出してきたものだから、外に出ていた人々は、どこか雨をしのげる所はないかを探しているようだった。
「ホラ、何をボーッとしておる。早く注がんか」
「あ、はいはいただいま」
 そんな季節の雨を店の中で見やりながら、ルイズは今日も酔っ払いの男共相手にあくせくと働いていた。
 あの日以来、ジェシカに説教を受けたルイズは、まだどこか粗野な部分はあるものの、それなりの事には我慢するようになった。
 愛嬌はないから相変わらずチップは貰えないものの、それでも大事を起こすようなことはあまりしなくなったのだ。
「しかし、こう雨が続くと気が滅入りますわよねぇ」
「全くだ。まるで今の政治を体現するかのようだな」
 段々とコツも掴むようになり、それなりに働けるようにはなったルイズは、降りしきる雨の様子を見ながら、どこか呆けた感じで給仕をしていた。
(あれから何日経つんだろ…)
 気が付けば、あっという間だったなあ…とルイズは思った。
姫さまから連絡が入り、身分を隠してこのトリスタニアに来た日に全財産を失くして、この『魅惑の妖精』亭で働くことになって…。
 こうやってメイド服を着て給仕を始めたあの頃から、剣心とも離れ離れになって。イヤな事が余りにも多かったけど、まあそれなりに良い経験だったかなあ…と思ったりもした。
 だけど、いつまでもずっとこうしている訳にはいかない。今は戦の真っ只中なのだ。
 こうやって仕事で色々な客を相手にすると、否応にも戦争の話が耳に入ってくる。
 中には姫さまに対する誹謗中傷もあったりしたが、そう言った客の「生の声」もちゃんと、ルイズは報告に出していた。
 姫さまには辛いだろうが、任務だから仕方がないのだ。ルイズも少し辛かった。
 だがその話によれば、もうアルビオンに戦争を仕掛ける気なのだという事はほぼ確定のようであった。そんな時ルイズは思う。自分は「伝説の虚無の担い手」ということを。
 この力を姫さまに捧げると決心した今、自分もいずれは戦争の中に放り込まれるのだろう。死は怖くない。怖いとしたら役に立てずに死んでしまうかどうかだった。
 そんなことを考えてたルイズの前に、突如外から慌ただしい声が聞こえて来た。
「何、なんなの?」
「衛兵がたくさん来てるよ。怖~い」
「またあの時の事かな?」
 と口々に話し合っている給仕達を尻目に、ルイズは窓から馬を走らせる兵隊たちの喧騒を見ていた。どうやら何かを探しているようだった。
 またタバサの事について聞きにでも来たのだろうか? ルイズは一瞬そう思ったが、それにしては尋常じゃないくらい騒がしい。余程のことがあったと見るべきだった。
「何があったんだろう…?」
 気になったルイズは、好奇心を抑えられずにスカロンと衛兵達の会話を聞きに行った。そして次の瞬間、とんでもない言葉がルイズの耳に飛び込んできた。
「姫さまが…行方不明……?」
 ルイズは居てもたってもいられず雨の中、外へと駆け出した。
「ちょっと、ルイズちゃん!!?」
「ルイズ! あんたどこ行くのよ!!」
慌てふためくスカロンとジェシカの声を、置き去りにしながら。
 そこにいる衛兵に事情を求めようとした矢先、その前を立ちはだかるように一人の少女が塞いだ。
「っ! あんたは…」
「お久しぶり、じゃなくて一日ぶりかしらね」
 そう、昨日の夜、ルイズを助けた少女…ジャネットだった。


 同じように、いつものように偵察に回っていた剣心もまた、急に降り出した雨の中を走っていた。ようやくそれらしい街路樹で、雨をしのげる場所を見つけると、そこで剣心は一息ついた。
「いきなり降り出したでござるな」
「そうだな」
 濡れた服の袖を叩いて水しぶきを落としながら、剣心はパラパラと降る雨雲を見上げて考えていた。
これからが本格的になってくるであろう、奴との戦いの事を。…正直あの刃衛相手に、どれだけ被害を出させずにいられるか…。
 一度剣を交えてみて、まだ実力は断然こちらに分があるのは分った。だが…今は街中。ここを戦の地にしてしまえば、それだけ多くの人を巻き込む結果になってしまう。
…いや、それだけならまだ良い方だった。
「……………」
剣心は、己の左手に刻まれているルーンを見る。その表情は普段ルイズ達には決して見せないだろう、深刻な様子だった。
 見かねたデルフが口を開く。
「相棒、そのルーンが気になるか?」
「…少し…」
「そのルーン、『ガンダールヴ』ってのはな…まあ相棒も知ってはいると思うが、どんな武器をも操り、達人のように振る舞えるよう強い力が刻まれている。
それは内なる想いが強ければ強いほど更なる高みに押し上げようとする効果もあるんだ」
 ここでデルフが、今まで口にしなかった疑問…背負われて少しだけでも振るわれて感じた疑問を剣心にぶつけた。
「お前さん…そのルーンの力を無理矢理抑え込んでいるだろ?」
「………」
 黙したまま、剣心は語ろうとはしない。それを代弁するかのようにデルフは続ける。
「俺が見た感じ、相棒がまともにルーンを開放したのは、アルビオンの時と姫さまん時だけだ。後は『土くれ』の時に一瞬位…か? 
何にせよそれ以外は相棒、今の今まで力の底上げを拒否するかのように抑えていたみたいだな。俺には分かるぜ」
 デルフの言葉に、剣心は少し考え込んでいると、不意に雨をしのいでいた屋根から出、それから少し歩いた。
「…? どうした相棒?」
 剣心は答えず、しばらく歩き続ける。
 ここら辺りは、人気が少なく、廃れた店等が多い。
 その誰もいない廃墟の壁を前に立つと、剣心は腰を落とし、柄に手を添える。
「――――…」
 刹那、鞘走りで加速した『神速』の抜刀術―――それを壁の手前一寸で止めるようにして放った。
 その瞬間、壁に触れてはいない寸止めの状態にも関わらず、壁には亀裂が走り、その次には音をがなり立てながら壁が粉微塵に砕け散った。
 それを冷静に見据える剣心…その左手には、使い魔の証たる『ガンダールヴ』の文字が紅く光輝いていた。
 逆刃を返さないでこの威力…正直な所、剣心はこの与えられた強力な力を完全に持て余していたのだった。
剣心はルーンを使った記憶を振り返った。ギーシュの時の決闘、フーケの時の戦闘…あれは皆ルイズが絡んでいたからこそ、
この力は『ルイズ限定』で作用するものかとずっと考えていた。…けどそれは違った。
 全てはアルビオンでの時…ワルドと戦う最中、ウェールズを殺された瞬間…自分は確かに『戻って』いた。

 新たに決意し、もう二度と戻らないと思っていただろう『あの頃』に…ほんの一瞬だったが…間違いなく…。

 あれが、剣心の中でずっと気になっていた。
そして気づく。もしかして、このルーンは…。
「主を守るために、更なる力を与え続けようと働きかける効果があるようでござるな」
「何だ、そこまで分かってたのか」
 所謂『洗脳』の一種。常にルイズを守らせるよう作用し、その為にまだ伸びしろがあるなら、どんなことをしてでも上げてやろうと働きかける。
 それは怒り、そして悲しみなどが強ければ強いほど起こりうる現象だった。
 そしてその過程に、剣心は密かに一つの不安を覚えた。即ち……。


 これが原因で、また自分が『人斬り抜刀斎』に立ち戻ってしまうのではないのか。


 ルーンが光れば光るほど、『ガンダールヴ』は何故か剣心を『人斬り』の過去に戻らせようと働きかける。またいつ『あの頃』に戻ってしまうのか…それが剣心の中での大きな不安材料になっていた。
ここに来てから、ルイズを無意識に避けるようになったのも、これが原因だった。
「過去や因縁というのは…どうあっても…切っては切れぬものなのでござろうな」
 空に投げかける様に、剣心はその言葉を吐いた。壁にもたれかかり、これからどうするかを思案していた…その時だった。
 ピチャピチャと、水溜りの地面を走る足音が聞こえて来た。それは段々と大きくなり、こちらに向かってきている。
 剣心がそちらの方へ顔を向けると…フードを被った人が一人、まるで何かから逃げるような感じでやって来た。
「…どうしたでござるか?」
 何となく気になった剣心は、そのフードの人に声をかけた。その人は、息を切らしたような様子で剣心の声を聞くと、ゆっくりとこちらの方を向いた。
「…良かった。運良く会えたみたいですわね」
 安心したように言ったその声は、剣心も聞き覚えがある声だった。まさか…いやでもこの声は…。
「……陛下殿?」
「今はアンとお呼びくださいな。ケンシン殿」
 声の主…アンリエッタはそう言ってフードを取ると、端正な笑みを剣心に向けた。



 その同時刻。アニエスはある一人の貴族を訪ねていた。
 高等法院のリッシュモンという男…国の法を扱う機関を動かす立場にいる男の屋敷にやって来たアニエスは、門を叩いて来訪を告げた。
 扉を開けた小姓に、アニエスはこう言った。
「女王陛下の銃士隊、アニエスが参ったとリッシュモン殿にお伝えください」
 小姓は、疑問に思いながらも急いでリッシュモンを呼び出しに行った。それから数分経って、小姓がアニエスを屋敷に招き入れた。
「全く…一体何事だ?」
 突然の急報に、不機嫌な様子を露わにしながらリッシュモンはアニエスを睨んだ。
 アニエスは、依然無骨な表情を変えることなく、急報の内容を知らせる。
「…単刀直入に言います。陛下がお消えになられました」
「何!? かどわかされたのか!!」
 表情を一変させ、食ってかかるリッシュモンを、アニエスは宥めた。
「落ち着いてください。只今総力を挙げて調査中です。つきましては戒厳令の許可を」
「一体君らは何をしていたんだ? 前にもこんなことがあったじゃないか!! 君らは無能を証明するために新設されたのかね!?」
 声を震わせて、リッシュモンはアニエスに怒鳴り込んだ。それでもアニエスは淡々した口調で話を進める。
「必ずや、陛下を探し出してみせます。この汚名をすすぐべく、このアニエス、命をかける所存です」
「ならば絶対に見つけ出せ!! でなければ全員縛り首だとそう思え!!」
 リッシュモンは仕方なく、戒厳令の許可書をアニエスに渡した。
 アニエスは帰る間際…ここで初めて怒気を含んなような声で、リッシュモンに一つ尋ねた。
「そう言えば…『ダングルテールの虐殺』は、閣下が立件なさったと仄聞したのですが…」
「ふん、それがどうしたというのだ? それにあれは正当防衛だ。虐殺などと人聞きの悪い言葉を使うな」
 何を言い出すんだ、といった感じでリッシュモンは睨めつける。
「……いえ、何も」
 後ろ姿だったアニエスは…ほんの一瞬だけ殺気と恨みを篭った目をして、そのまま静かに屋敷を出た。


「…ふん、あの成り上がりが」
 アニエスが帰った後、しばらくの間その扉を睨みながらリッシュモンは呟いた。
「それで、どうなのだ? 本当に陛下はかどわかされたのか?」
 独り言のように喋るリッシュモンに向かって、今度は別の声が聞こえてきた。
「いや、ジンエはまだ動いてませんし、僕達の標的はあくまで抜刀斎ですからね」
 それは、いつぞや劇場でリッシュモンと話していた、あの少年だった。
「成程、ではこの騒動は…」
「大胆なことをしますね。この国の姫さまは」
 クスクスと笑いながら、少年はいつの間にかリッシュモンの隣に立つ。
 リッシュモンも、最初こそ焦ったような様子だったが、この状況の真意を理解すると、鋭く歪んだように口元を広げた。
「姫さまも大きくなられて…まさかこの私にペテンをかける程に成長されるとは…」
 そして直ぐ様頭の中を整理する。わざわざこのことを知らせに来たということは、既に向こう側は自分が『内通者』だという証拠でも掴んでいる筈だ。
 ふむ…。としばらく考え込んでいたリッシュモンは、ふと少年の方を向いて尋ねた。
「つきましてはダミアン殿。ここは一つ私の依頼を受けて頂くということはできないだろうか?」
「別に構いませんよ。料金はその分貰いますが」
 金の高が多ければ、その分有利な方へつく。二重依頼されれば、どちらも最低限の事はこなす。今のところダミアンという少年はそう考えていた。
「何…そんな難しいことでも今の依頼をひっくり返すようなことでもありませぬ」
 そう前置きしながら、リッシュモンは話を続ける。
「私の悪事が露見した以上、もうこの国に私の居場所は無いでしょう。元よりこの国を捨てるつもりでしたのでその事に未練はありませんが…。
しかしこの屈辱を晴らせぬままおめおめと引き下がるというのも些か不愉快というもの」
 凶悪な笑みをリッシュモンは浮かべながら、ダミアンに告げた。
「そこで、アルビオンが失敗した誘拐事件というのを…いっその事私の手で叶えてあげようと考えましてね」
「まあ、それくらいなら構いませんよ。しかし貴方はつくづく外道ですね」
 最期の最期でこの国の女王を拉致するといった言動を聞いて、ダミアンが可笑しそうに笑ったが、リッシュモンはいえいえ、とばかりに手を振った。
「最後に姫さまには痛い目に遭ってもらおうと思うのですよ。世の中そうそう自分の思い通りにはならない、ということを身をもって教えてあげようと…ね。これも親心というものです」


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