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Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-45


「ええと、この……『守護の杖』、っていうのの使い方だったね。
 この杖はディーキンがいた所ではすごく有名だから、調べなくてもちゃんと知ってるよ」

ディーキンは方針を決めると、こちらでは呼び名の違う『魔道師の杖(スタッフ・オヴ・ザ・マギ)』を手に取ってしげしげと眺めながらそう伝えた。
それを聞いたロングビルは驚いたような様子を見せながらも、ならば早く使い方をと急かす。

「いいよ。じゃあ、上手くいくかわからないけど、ちょっと使ってみるね……」

他人の物をやたらに使っていいものかとも思ったが、この杖の機能はすべて使っても減らないものか、再チャージが可能なものだ。
ひとつだけ使うと取り返しのつかない機能があるが、それ以外ならまあ構うまい。

とはいえ今のところは、彼女にすべての機能を教えるつもりもないが。

ディーキンはこほん、と咳払いをすると、偉大な魔道師になったつもりで厳かに杖を掲げた。
精神を集中し、自分にはこの杖を使いこなす能力があるのだということを、自分自身に強く言い聞かせる。

この『魔道師の杖』は定命の存在には作成することのできないアーティファクトであるが、呪文解放型のアイテムであるスタッフの一種でもある。
そして呪文解放型のアイテムから呪文を解き放つには、その中に蓄えられている呪文を発動可能なクラスを持つ者でなくてはならないのだ。

しかるに今ディーキンが使用しようと試みている呪文は、本来のバードの呪文リストの中には無い。
そこでディーキンは、<魔法装置使用>の技能を用いて杖に呪文を解放させようとしているのである。
これは運と強固な人格だけを頼りにして魔法の品をいわば騙し、強引にその力を引き出させるための技術だ。
ハルケギニアでは知られていないようだが、フェイルーンにおいては主にローグやバードなどがこの技能を習得していることが多い。

それにしても……。

この希少な杖は、今やマギ(魔道師)は愚かアークマギ(大魔道師)でさえ、所有することを生涯夢見てついに叶わぬ者が多いのだという。
それをよりにもよって専業のメイジですらないバードなどが手にし、こんな乱暴な方法で使うとは、何とも言えぬ話である。
フェイルーンのメイジがこのことを知ったら、いったい何というだろうか。

ディーキンはふとそんなことを考えて、少し苦笑してしまった。
が、気が散っていては成功が覚束ないので、すぐに気を取り直して杖の使用に集中する。

まずは、チャージを消費しない比較的弱い能力から。

「《リトリックス》!」

コマンドワードを唱えて杖の先端をロングビルに差し向けると、一瞬だけ白い光の帯が輪を描くようにして彼女の周りを包み、そして消えた。

「……い、今のは、一体?
 何も、変わったところは、ないみたいですけど……、」

何が起こったのかわからず、戸惑った様子で自分の体を見回すロングビル。
ディーキンはにっと微笑むと、懐から普段は羊皮紙を削るために使っている小さなナイフを取り出した。

「ええと、今のは《魔道師の鎧(メイジ・アーマー)》っていう呪文なの。
 目に見えないヨロイで、体を守るんだよ」

この呪文は不可視だが実体をもつ力場の鎧で対象のクリーチャーを包み込み、守るというものだ。

ごく初級の呪文であり、防御効果も平凡なチェイン・シャツやハイドアーマーと同程度で、そこまで高くはない。
しかし重量が皆無で体の動きを一切妨げず、持続時間も長いので、動作要素を妨げてしまう鎧を着込めない多くのメイジに常用されている。
モンクのように鎧を着られない戦闘者にとっても有用であり、鎧の着用が不適切な場所での護身用等で普通の戦士にも利用されることはしばしばある。

このようにフェイルーンでは広く普及している防御用の呪文なのだが、どうもハルケギニアには類似の呪文はないようだ。
ハルケギニアのメイジは事前に防御や強化の呪文をかけておくのではなく、主にその場で風の防壁を張ったり体を硬化させたりして攻撃を防ぐらしい。

ディーキンは軽い説明を終えると、ロングビルにナイフを手渡して、自分で確かめてみるように促した。

「身を守る呪文……、ですか?」

ロングビルは少し躊躇したが、恐る恐るナイフの刃を自分の肌にあてて、ゆっくりと力を込めて押してみる。
だが、まるで硬くなめした分厚い革鎧を押しているかのような感覚に遮られて刃が沈まず、肌を傷つけることはなかった。
素手で刃をぎゅっと握ってみたり、少し勢いをつけて振り下ろしてみたり、包丁のように引いてみたりもしたが、やはり傷はつかない。

「ね、大丈夫でしょ?」

「……本当……。これは、確かに『守護の杖』ですわね」

オスマンが言及していた呪文を防ぐ効果に加えて、武器を防ぐ鎧のようなものを生み出す力もあるとは。
確かに“守護”の名にふさわしい逸品だ。

ロングビルの嬉しそうな表情をちらりと観察してから、ディーキンは咳払いをした。

「オホン。じゃあ、次の効果を説明するよ」

「え? ……ま、まだ何かあるのですか?」

「そうだよ。この杖はすごくいろいろなことができるからね」

ロングビルの驚き半分、喜び半分といった表情を密かに伺いながら、ディーキンはまた杖を掲げた。
今度は、チャージを消費する呪文をひとつ、使用してみせよう。

「《ドルラス》!」

コマンドワードを唱えると同時に、小屋の側面の壁に向けて杖を振る。
途端に、壁が音もなくぱっくりと開き、瞬時に外に通じる通路が出来上がった。

学院長秘書ミス・ロングビルこと『土くれ』のフーケは、驚きに目を見張った。

壁に穴を開けるだけなら自分も得意だが、これは明らかに『錬金』ではない。
壁を別の材質に変えて崩したのではなく、どうやったのかはわからないが、壁を消滅させてきれいな出口を作りやがった。

(こ、これは……!)

これはもしや、今後の仕事にものすごく便利な能力なのじゃないだろうか?
フーケは、思いがけぬ朗報で期待に胸を膨らませた。

「す、すごい呪文ですわね……。
 その、これは……、どんな壁にでも穴を開けられるのでしょうか?」

「まあ、大抵はね」

「その、たとえば金属の壁でも、魔法で固定化された壁でも?」

「……ン~、そうだね……」

ディーキンはちょっと考え込むような仕草をしながら、さりげなくロングビルの様子を観察する。

彼女に少し鎌をかける意味も込めて、今の《壁抜け(パスウォール)》の呪文をお披露目してみたのだが……。
そうしたら案の定、普通に考えてフーケとの戦いには役立ちそうもない壁抜けの呪文に、露骨な関心を示している。

これはもう、どう考えてみても怪しいと言わざるを得ない。
だが、いかに怪しいとはいっても、依然としてそれは疑惑であって、確定ではない。

彼女が白か黒かは、この小屋を出て他のメンバーと合流する前にはっきりさせておかなくては。
もし潔白だったら彼女に不快な思いをさせてしまうことにはなるが、この状況では致し方ない。

ディーキンは静かに杖を置くと、真剣な顔をしてロングビルの方をじっと見上げた。

「ねえ、ロングビルお姉さん」

「はい?」

「ディーキンはこんなことを言うのはとっても失礼だとは思うんだけど……。
 後で殴ってもいいから、ちょっとだけ聞いてほしいの。
 実はね、ディーキンはさっきから、もしかしたらお姉さんがフーケだったりしないかなって思ってるんだよ」

フーケはその唐突な言葉に、ぎょっとして目を見開いた。
それまでは期待と興奮とで若干紅潮していた顔の色が、たちまち青ざめていく。

「!! ……な、何故、そんな……?」

かろうじてそんな言葉を喉から絞り出したロングビルに、ディーキンは心底申し訳ないといった様子で深々と頭を下げる。
それから、自分がそのような疑いを持つに至った理由を、包み隠さずに一から説明していった。

――もちろん、この選択は有利不利という面から見れば、まったく賢明とはいえない。

もし本当に彼女がフーケであるならば、自分の疑念に相手がまったく気付かずに油断しきっているという有利な状況を、自ら手放したことになる。
しかも、自分の疑念を明かすことで、一触即発の極めて危険な状況を招いてしまう危険性も高い。

ここは自分の考えを隠し通して何食わぬ顔でいたほうが安全だし、尻尾も掴みやすいだろう。
手段を問わないなら、密かにロングビルの思考を読むなり、心術で操って自白させるなりすれば、もっと話が早い。

勿論そんなことは、ディーキンも十分承知している。
だが、やっぱり性に合わない。
下手に隠し立てなどせずに、こうして疑っているなりに誠心誠意正面から相手に向き合うほうが気が楽だ。
ボスでもきっとそうすることだろう。

今ここには、自分と彼女の2人しかいない。
仮に彼女が真犯人でも、自分が疑いを暴露したことで他の仲間が人質に取られるなどの危険に晒される心配は、当面はない。
そして場合によっては、犯罪を止める約束と引き換えに彼女の正体を自分の胸の内にだけ秘めておくというような提案をすることもできる。

先程はできることならルイズらに相談したいとも思っていたが、今考えるとそれは必ずしもよい方法では無いかもしれない。
別に仲間を頼りにしていないからではなく、彼女らの立場を考えた上でのことだ。
もしパラディンであるシエスタや貴族としての責務があるルイズらに知らせれば、立場上、彼女らはフーケを捕らえないわけにはいかない。
そして彼女を司法機関に突き出し、おそらくは死刑確定であるとわかり切った裁判にかけざるを得ないだろう。

そうなってしまえば平民でしかないシエスタや所詮は学生の身であるルイズらがいくら口添えしてみたところで、フーケの命を救えはしまい。
それが本当に望ましい、最良の結末だとはとても思えない。
もしロングビルが本当にフーケだったとしたら、フーケによる被害を終わらせ、かつフーケの命をも救うという選択ができるのは今しかない。
少なくとも、ディーキンにはそう思えた。

それら諸々の理由から、ディーキンは今、この場で彼女と向き合うことに決めたのだ。



(……ちっ。このガキ、変わった特技があるだけなのかと思ったら、案外鋭いじゃないか。
 もしかしたら、見た目ほどは子どもじゃないのかもしれないね……)

先程は突然のことで一瞬目の前が真っ暗になったような気がしたフーケだったが、ディーキンの話を聞いているうちに少し落ち着きを取り戻した。
むしろディーキンの方が、彼女が気を落ち着けて話をできるよう言葉遣いや話の筋道などを考慮して丁寧に話を進めたからという面もあるのだが。

(ふん……。だけど、黙っときゃあ私を不意打ちでもできたかも知れないものを。
 わざわざ教えるなんて、こいつはとんだ間抜けさ!)

まあ、あのエロボケじじいや純情ハゲよりは手強い。
だが、やはり愚か者は愚か者。
せっかくの値千金の気付きを無駄にして、自らの優位をドブに捨てるとは。

正面から話せば何とかなるだろうという、思慮の浅い甘い考えか?
それとも、自分の素晴らしい気付きをひけらかしたいという、子どもじみた自己顕示欲か?

いずれにせよ確かなのは、所詮ガキはガキだったということだ。
屋内で近距離からこうして向き合っていては打つ手がないとでも思っているのかも知れないが、こっちだって保険くらいは掛けてある。
自分もいささか油断していたが、おかげで助かった。

ディーキンが丁寧に説明を続けている間に、フーケはこの状況を打破するための行動計画をまとめていた。



「――――そういうわけで、ディーキンは今、お姉さんへの疑いが捨てきれなくて。
 それで、その、すごく失礼だとは思うんだけど。
 呪文でお姉さんが嘘をついていないかどうか調べる方法があるの、ちょっとだけ調べさせてもらえない?
 後で何か、お詫びはするから……」

フーケが内心で自分を嘲り、始末する計略を巡らしていることに果たして気が付いているのかどうか。
ディーキンは一通りの説明を終えると、そう頼んで深々と頭を下げた。

「……ええ、そうですね……。
 なるほど、言われてみれば疑われるのももっともですわ――――」

そう答えつつ、宝物の2振りの杖をさりげなく自分の後ろの方へ押しやった。
その事を不審に思われぬよう、すぐに自分の杖もポケットから取り出してそれらの杖と並べて置くと、ディーキンの方へ向き直る。
抵抗の意志が無いことを示すための所作の一環と見せかけたわけだ。

「わかりました……、どんな呪文かは知りませんが、どうぞ試してみてくださいな?」

そう言うとすっと姿勢を低くして、取り調べを待つ罪人のようにディーキンの前で大人しく膝をつき、頭を垂れた。

「オオ、本当にいいの?
 ありがとう、ディーキンは寛大なお姉さんに感謝するよ!」

やや身構えていたディーキンはあっさり受け入れられたのが少し意外だったのが、しばし目をぱちぱちさせていた。
が、すぐに気を取り直してもう一度深々とお辞儀をすると、早速準備に取り掛かる。

実際にはこの姿勢は、予備の杖を抜く動作を不審がられぬよう誤魔化すため、しおらしく頭を垂れて見せたのは、表情や唇の動きを観察されぬため――。
フーケはディーキンから見えぬ死角で、密かに太腿のガーターベルトに仕込んだ予備の杖を手に取った。
そして、気付かれぬよう伏せた顔の下で小さく唇を動かし、呪文を紡ぎ上げる。

(………今だ!)

呪文を掛けるのに必要な道具でもあるのか、背負い袋から何かを取り出そうとしてディーキンが自分から視線を外した隙にフーケは行動を起こした。

ディーキンに見えないよう素早く利き腕と逆の手で予備の杖を抜いて小さく振り、呪文を解放。
唱えたのは『念力』の呪文、それで先程後ろに置いた自分の本来の杖を引き寄せ、空いている利き腕で掴む。

それにしても、何故予備の杖ではなく、本来の杖が必要なのか?

それは、この中にディーキンを始末するべき事態が起きた時に備えて、小屋に入る前にあらかじめ唱えておいた必殺の呪文が蓄えてあるからだ。
ハルケギニアの系統魔法では、あらかじめ詠唱を済ませた魔法を即座に発動させずに待機させておくことができる。
フェイルーンの呪文にも、唱えた後チャージ消費までそのまま保持しておける種類の物があるが、それと同じようなものだ。
ただし系統魔法は、たとえ事前に唱えておいたにせよ、その杖が無ければ発動させることはできない。

もちろん本来の杖を机に置いたりしなければ予備の杖を使う手間も無かったが、これには狙いがある。
目の前のディーキンを安心させ、油断させるためなのは勿論だが、それ以外にもフーケにはもうひとつ気がかりなことがあったのだ。

それは、使い魔との感覚共有によって、彼の主であるルイズにこの一件が伝わっているのではないかということ。
感覚共有は、常時作動しているわけではない。だが今は非常時であり、ルイズが頻繁に使い魔の様子を見ていることは十分に考えられた。
だから、フーケはディーキンの目を通して見ているかもしれぬルイズの疑いを晴らすことも意識していた。
今は杖を持っていない状態であり、不審な動作も無かったのだから、結局ロングビルはフーケではなかったのだ……、と印象付けようとしたのだ。

実際にはディーキンはルイズと正規の契約をしていないからそんな心配はないのだが、それはフーケには知る由もない。

本命の杖を手にしたフーケは、ディーキンがまだ荷物袋の方に気を取られている間に、素早く蓄えておいた呪文を解き放った。
と同時に、小さく後ろへ跳ねるようにして飛ぶ。

「んっ? ……!?」

なにか不自然さを感じたのか、ふっと顔を上げたディーキンの目が驚きに見開かれる。
次の瞬間、小屋の天井を打ち破って、ディーキンの上に土混じりの巨大な鋼鉄の拳が降ってきた!

突然の強襲に、ディーキンは目の前が真っ暗になった。



「……!? 危ない!!」

「え? ……きゃ、きゃああああああ!? ディーキン、ディーキン!?」

「せ、先生!? ……ミス・ロングビル!」

「そ、そんな、いったい、フーケはどこから……!?」

ルイズらは、杖を調べている間はフーケの接近を見張ってくれるようにとロングビルから強く頼まれ、散開して主に外の方向に気を配っていた。
そのため、小屋のすぐ横に唐突に出現した巨大なゴーレムに気付いて、警告を発するのが遅れたのだ。
鋼鉄と化した拳が小屋を叩き潰す直前にタバサが気付いていつにない大声で警告を発したが、ゴーレムの攻撃を避けるには遅すぎたようだ。

ルイズとシエスタは恐怖に顔を歪め、半ば狂乱したような状態で自分の身も顧みず小屋の方へ駆け寄る。
キュルケは悲痛な顔をしながらも、フーケの姿を見つけようと必死に周囲を見渡した。
タバサもキュルケの傍に寄ると、いつもの鉄面皮を僅かに歪ませながらも、ゴーレムの動向を警戒し続けた。

「あ、危ないです! みなさん、逃げてっ!!」

宝物の杖を2本も抱えたロングビルが、必死な様子で小屋の窓から飛び出すと近づいてくるルイズとシエスタに警告を発した。

「ミ、ミス・ロングビル! 無事だったんですか!! ディーキンは……、」

それを見て皆が喜び、僅かに安堵したのもつかの間。
続いてディーキンが飛び出してくることはなく、ロングビルが小屋から飛び出した直後にゴーレムは崩れ落ちて、ただの土の塊になった。
そうしてできた大量の土砂が雪崩れ落ち、ルイズとシエスタの目の前で、完全に小屋を埋め尽くす。

2人の悲痛な絶叫が、あたりに響いた。


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