あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

暗の使い魔-05


教室の修繕が終わり、使い魔と別れたルイズは、ややあってアルヴィーズの食堂にて食事を取っていた。
今のこの時間、生徒達のほぼ全員はアウストリの広場に集まり、使い魔との交流を図っている。
食堂に残っている生徒はまちまちであった。
そんな空間で、ルイズは先程の官兵衛とのやりとりを思い出しながら、一人寂しく食事を口に運ぶ。
「はぁ……」
ひとりでに、ため息が漏れる。
先程は、官兵衛の言い方が酷かったとはいえ、彼を思いっきりひっぱたいて去ってしまった。
思えば、官兵衛は官兵衛なりに自分を励まそうとしてくれたのだろう。
自分なんてなんの役にも立たない。そう言ったルイズにそうでもない、と答えてくれた。
それでも、瓦礫撤去を引き合いに出した言い様は流石に許せなかったが。
おかげで大分感情的になって、あんなことをしてしまった。
ルイズは今になって、その事を後悔しはじめていた。
「はあ、どうしたらいいかしら」
人知れず、ルイズはそんな独り言を呟いた。
ここは素直に謝るのが一番だろうか。しかし、彼女の性格からして、それはプライドが許さなかった。
仕方無い、少し時間が経ってから官兵衛を探そう。どうするかはその時に決める。
そう決めて、前を向くルイズ。
その時であった。なにやら遠くの方ががやがやと騒がしいのに気がついたのは。
見ると、残っていた生徒何人かが集まって、驚いた表情でなにかを話し合っている。
「聞いたか?ヴェストリの広場で決闘だってよ!」
「本当に?誰と誰が?」
どうやら決闘騒ぎを聞きつけた生徒が、辺りに触れ回っているらしかった。
貴族同士の決闘は禁止されているのによくやるものだ、と内心呆れるルイズ。
自分には関係のない話だ、と再び食事に向き直る。だが次の言葉を聞いた瞬間、ルイズの表情は一変した。
「それが、ド・ロレーヌとルイズの奴が呼び出した使い魔がだってさ!」
ハッとした表情でルイズが振り返る。
「しかもこの決闘は、使い魔の方から申し出たらしいぜ」
驚くべき内容を耳にしたルイズが、咄嗟に立ち上がる。あの官兵衛からの申し出による決闘だと?どういうことだろう?
ともかくこのままではいけない。官兵衛を止めないと。そう思ったルイズは足早に食堂を出て行った。


暗の使い魔 第五話 『ヴェストリ広場の戦い』


アウストリの広場から本塔を挟んで反対側の広場、そこがヴェストリの広場であった。
石の城壁に囲まれたその空間にて、官兵衛とヴィリエは、約10メイル程の距離をとって睨み合う。
官兵衛が決闘を申し込んでから、そう時間は経っていない。しかし、辺りには驚くほどの人だかりが出来ていた。
その中には、騒ぎを聞きつけて現れたメイドのシエスタも居た。
「一体、何でこんな事に。カンベエさん」
あの時、自分が官兵衛に薪割りの手伝いなどお願いしたからだろうか?
聞けば、ヴィリエと官兵衛が最初に衝突したのは、薪割りをしていた官兵衛にヴィリエがつっかかったからだと言うではないか。
小刻みに身を震わせながら、シエスタは恐ろしいメイジと対峙する官兵衛を見守っていた。

「それでは始めようではないか。奴隷の使い魔くん」
相変わらず尊大な態度を崩さず、フェンシングのように杖を構えながらヴィリエは言った。
官兵衛も枷ごと鉄球を構えながら言う。
「勝敗はどうする?」
「決まっている。どちらかがまいったと言うか、僕が杖を奪われるか、だ」
もっとも後者は絶対にありえないが、と付け足すヴィリエ。
ルールに対して静かに肯定の意を官兵衛が示すと、決闘が始まった。

決闘が開始し、官兵衛もヴィリエもどちらも動かずに相手を見据える。
と、ヴィリエが杖を構えてない方の手を差し出すと、官兵衛に向けて手招きをした。
「先に動きたまえ。決闘とはいえ奴隷相手に一方的では観客も沸くまい。なにより僕の家名に傷がつく」
「そいつはどうも」
そういうと官兵衛がヴィリエに向かって駆け出す。鉄球を引き摺っているとは思えない速度で、官兵衛はヴィリエに迫った。
観客から声が上がる。あっという間に距離を詰め、ヴィリエの目前まで近づく。
しかし当のヴィリエはあくまで余裕の表情を崩さない。
官兵衛が手枷を振りぬき、そのまま超重量の鉄槌をヴィリエにくらわせようとした。その時である。
鉄球が振るわれる直前、ヴィリエは短くルーンを唱えると、恐るべき速度で空中へと浮かび上がったのだ。
『フライ』。風系統の魔法であり、自由自在に空を飛ぶことができる基本的な魔法だ。
官兵衛の鉄球が虚しく空を切る。ヴィリエはそのまま素早く官兵衛の後方へ回ると、しゅたっと地面に着地した。
今度は振り向きざまに鉄球を叩きつけるが、それも素早く宙を舞うヴィリエには届かず、ずどんと地面を陥没させる。
ヴィリエの見事な身のこなしに、観衆から歓声が起こった。
「おい!逃げてないで降りてこい」
ヒラヒラとフライで浮遊するヴィリエに、官兵衛は大声で言い放った。
「ふっ。一撃も食らわせられないのが歯痒いか?これが所詮メイジと平民の壁というものだ」
薄く笑みを浮かべながら、ヴィリエは地上にいる官兵衛を見下ろした。
「くそったれ……」
そんなヴィリエを、苦い表情をしながら官兵衛は見上げた。
その後幾度となく鉄球を振り回すが、いずれの攻撃も空を切り、ヴィリエには掠りもしない。
ぜぇぜぇと荒い息をつきながら、官兵衛はヴィリエを睨みつけた。
「おや?どうした、疲れが見えているぞ?」
官兵衛から離れた地上に降り立ちながら、ヴィリエはくっくっくと短く笑った。
「畜生、ちょこまかと……!」
「どうしたね?これで仕舞いにしてもいいんだよ?今ここで土下座して謝れば、考えてやらないでもないがね」
笑みを崩さず言うヴィリエ。
「冗談じゃない。逃げるだけの相手に、なんで小生が怖気ずく?」
官兵衛が言い放つ。それを聞き、ヴィリエは凶悪な笑みを浮かべると。
「そうか、では見せてあげよう。風の力を」
ルーンを唱え出し、構えた杖を激しく振り下ろした。瞬間。
「うおおおおっ!?」
官兵衛の巨体が、紙切れのように後方へ吹き飛ばされた。そのまま石造りの壁に背中から激突する。
「ぐ!」
ずしゃりと、壁の中腹から地面へと落下する官兵衛。そんな官兵衛に更に凶悪な暴風が襲いかかる。
いつの間にか纏わりつくように絡んでいた風が、刃に変わり官兵衛の全身をズタズタに切り裂いた。
とっさに両腕で頭と首筋を守り、致命傷を免れる。
「くそっ」
即座に反撃しようと立ち上がる官兵衛であった。
先程と同様、素早い動きで駆け出す。しかし、あと数メイルと迫った所であった。
時すでに遅く、再び完成した風の呪文、『ウィンドブレイク』によって官兵衛の身体は再び石壁に叩きつけられた。
ずるりと地面に崩れ落ちる官兵衛。官兵衛は完全に遊ばれる形でヴィリエの魔法を受けていた。
そんな一方的な展開に周囲の観客達は、息をのんでじっと見入る。
尚も次々と呪文を放つヴィリエ。
時たま立ち上がり攻勢に出ようとするが、ヴィリエとの距離は10メイル以上。鉄球と鎖の長さを足しても到底届きそうに無い。
『ウィンドブレイク』『エアカッター』と、続く容赦ない風の猛攻。
官兵衛は成すすべもなかった。
「いやっ!」
人ごみの隙間から一部始終を見ていたシエスタは顔を覆った。
「思い知れ!これがメイジの力だ、奴隷風情が」
ヴィリエが表情を変えず、次の詠唱を開始した、その時。
「ちょっと!なにやってるのよ!」
突如、人ごみを割って官兵衛とヴィリエの元へルイズが現れた。
ヴィリエが詠唱を止め、ルイズの様子を見やる。
息を切らし、声を荒げながらルイズは官兵衛に駆け寄った。
「……なんだ、お前さんか」
「なんだじゃないわよ!何いきなり決闘なんか申し込んでるのよ」
ルイズが壁に寄りかかった官兵衛に食って掛かる。当然である。昨日の晩に騒ぎを起こしておいて翌日にまた決闘。
そして昨晩ギーシュに勝ったとはいえ、今度の相手はギーシュとは格が違った。
見ると、官兵衛の全身は風の刃で切り刻まれ、血が滲んでいた。
ズタボロになった官兵衛にルイズが心配そうに言う。
「聞きなさい。ド・ロレーヌはドットのギーシュより上の、風のラインメイジなの。昨日の戦いとは訳が違うわ」
ルイズの言葉に辺りの観衆がざわめく。観客の中にいたギーシュに一斉に視線が向けられた。
「うっ!ル、ルイズ……あんまりそういう事は――」
言わないでくれ、とばかりにギーシュが気まずい顔をする。
実は、ギーシュと官兵衛の戦いは、学園内で噂だけが一人歩きしていた。
曰くギーシュが不意打ちをくらった。ギーシュがゴーレムを破壊された。
正確に現場を見たものは居なかったため、信じるものは居なかった。
しかし、噂だけは一晩で狭い学園内に広がっていた。
そんな疑わしい噂が、ルイズの言葉で現実味を帯び始めたのだ。
「成程」
ヴィリエが納得したように笑みを浮かべる。
「やはり噂は本当だったのだね。ギーシュ、君が逃げ出した使い魔に遅れをとった、というのは」
ギーシュの顔にサーッっと青みが走った。
「い、いや僕は……」
「弁明はいらない。ルイズの今の会話と君の反応から大体想像はつくよ。」
ヴィリエが続ける。
「そうか、この奴隷が意気揚々と決闘を挑んできたのはそれが原因か。
大方なにも知らない使い魔君は、不意打ちでメイジに勝って、勘違いしたんだろうね。自分は強いと。」
官兵衛は表情を変えず、黙って耳を傾ける。
「だからこそ自分を侮辱した相手にやっきになって戦いを挑んだ。今度も勝てるだろう、と」
広場の誰もがしんと静まり返っていた。
「だがそれは愚かな考えだ、平民の奴隷」
そして、突如ヴィリエは笑みを崩し、口調を厳しく変えながら言った。
「メイジの力は絶対だ。平民がいくら逆立ちしたところで、この偉大な力の前には無力だ。」
そう言うと、官兵衛を睨みつけていた視線が今度はギーシュに向かった。
「君も君だ、ギーシュ・ド・グラモン。君が不意打ちとはいえ、こんな奴隷になど遅れを取るからこうなる。
僕達メイジが侮られる。グラモン元帥の四男というから君には少しは期待していたのだがね。君は君の家名に泥を塗った」
ギーシュがハッとした。そうだ、どんな理由があれ、自分は使い魔に負けたのだ。杖も持たない平民に。
そしてその事は今ここで皆の知るところとなった。自分の行いは、グラモンの家名を傷つけるだろう。
ギーシュは今になって、その重大な事実を実感した。父上や大好きな兄達はどんな顔をするだろうか。
そこまで考え、ギーシュは静かに俯いた。
そんなギーシュの様子を冷たい目で見ながら、ヴィリエは今度はルイズへとその矛先を変えた。
「ゼロのルイズ。この奴隷を学園内に呼び込んだのは君だ。ただで済むとは思わないことだ。」
ルイズの唇が固く結ばれる。
「愚かな使い魔と、それを呼び込んだ自分の無能さをせいぜい後悔したまえ」
惨めだった。使い魔をいたぶられ、何も言い返すことの出来ない自分が。
二人の少年少女が、己の無力さを痛感したその時だった。
「言いたい事はそれだけか?お前さん」
ルイズを押しのけるようにして、官兵衛がヴィリエの前に歩み出た。
「カンベエ!」
ルイズが叫んだ。ギーシュが顔を上げた。ヴィリエは驚きに顔をこわばらせた。
「お前!なぜ立てる!あれほどの魔法を受けておいて!」
驚きの表情で杖を官兵衛に向けながら、ヴィリエは大声を上げた。
しかしそんな言葉を無視し、官兵衛はルイズに向き直る。そして、その肩を軽く叩きこう言った。
「ルイズ。お前さんツイてるよ」
「えっ?」
ルイズが驚きに目を見開いた。肩にかかる優しい感触に、ルイズの背筋が自然と真っ直ぐになった。
「小生を呼んだお前さんは、無能なんかじゃあないってこった。今から――」
官兵衛は再び鉄球を構えると。
「そいつを証明してやるさ」
力強くそう言い放った。

官兵衛がゆっくりと歩み寄る。官兵衛の前髪の隙間から、鋭い眼光がヴィリエをとらえた。
「っ!?くそっ」
その迫力に一瞬たじろぐヴィリエ。即座に詠唱を完成させ官兵衛に向かって杖を振り下ろす。
先程の倍はあろう、ウインドブレイクの風圧。もうこうなったら、手早く決着をつけてしまおう。
そう思い発した、ヴィリエの本気の魔法だった。
広場の芝生や土を巻き上げんばかりの勢いで、巨大な風の塊が官兵衛の目前数メイルに迫った。
勢い衰えぬ暴風。それが官兵衛に襲いかかろうとした、その時。
「ほらよっ!」
官兵衛が軽く飛び上がり、そのまま上段に構えた鉄球を勢いよく地面へと振り下ろした。
瞬間、ごうっ!という音とともに、振り下ろした箇所に高さ3~4メイルはあろう竜巻が発生した。
「何いっ!?」
突如発生した別の嵐によって、ヴィリエの本気のウィンドブレイクが、霞のようにかき消された。
「馬鹿なっ!」
その場に居た全員が目を疑った。
あの男は一体何をしたのだろうか。先住の魔法か?何かのマジックアイテムか?
どよどよと、広場全体に動揺が走った。
そして最も衝撃を受けたのは、自分の本気の魔法をいともたやすく防がれたヴィリエだった。
ふっふっふと妖しく笑いながら、官兵衛が口を開く。
「脆いそよ風だな。小生が知ってる暴風はこんなもんじゃなかったがな」
「な、何を言っている!」
官兵衛の発する言葉の意味が理解できないヴィリエ。官兵衛が得意げに続ける。
「もっと凄まじい風を拳ひとつでおこせる男を、小生は知っているって言ったんだよ」
「拳だと!?」
広場に再びざわめきが広がる。
冷や汗を流しながら、ヴィリエは声を震わせた。
人が握った拳で風が起きる。馬鹿馬鹿しい絵空事だと、ヴィリエはそう思った。しかし何故か心からそう思えない。
現に目の前の男は今、鉄球で竜巻を起こして見せたではないか。
加えて官兵衛の自信ありげな表情が、周囲に得体の知れない確信を与えていた。
「どうした、もう撃って来ないのか?」
「くっ、くそっ!」
ヴィリエが次々と先程と同じように魔法を放つ。『ウィンドブレイク』『エアカッター』。繰り出される魔法の数々であった。
しかし官兵衛は今度は鉄球を振り下ろさず、膝を折り側方へと転がった。官兵衛が居た位置スレスレを、風の塊が通り過ぎる。
そして今度は、その身体に纏わりつかんと迫り来る風の刃を、打ち振るう鉄球の一撃で退けた。
超重量の鉄塊が生み出す風圧は、か弱い鎌鼬などものともせずに吹き飛ばしたのだ。
「う、うわぁぁぁっ!」
ヴィリエが悲鳴を上げた。そのまま官兵衛が咆哮をあげて、ヴィリエへと突撃してくるのが見えた。
急いで魔法で迎撃しようと考えたが、詠唱が間に合わない。官兵衛が5メイルほどの距離に迫る。
うろたえながらも、ヴィリエはフライの呪文を唱え、上空へと退避する。
このウスノロ奴隷は、空中に居る自分に手出しする事は出来ない。
ひとまず空中に退避すれば安心だ。ヴィリエはそうたかをくくっていた。
しかし。
「読みどうりだっ」
官兵衛は後ろに構えた鉄球を自分の目前に引き寄せた。
そしてその鉄球を、空中にいるヴィリエに向かって思いっきり蹴り上げた。
「なんだって!?」
何と、1~2メイル程しかなかった鉄球の鎖が、一気に10メイル程まで伸びたではないか。
黒金の塊がヴィリエに迫る。とっさの回避を試みようと思うも、まさか攻撃が届くと思っていなかった彼は間に合わず。
「げふうっ!!」
土手っ腹にまともに鉄球を受けた。そのままフライのコントロールを失い、地面へと墜落する。
「油断したか?生憎だが小生、油断させるのは得意なんだよ!」
落下していくヴィリエを見て、官兵衛は勝ち誇ったように言い放った。
「うげえっ!」
地面に落ちたヴィリエは地面をのたうち回り、昼食の内容物を残らず地面にもどした。
ゼェゼェと、四つん這いになったヴィリエの頭上に影がかかる。
「ヒッ!ヒィィィィ!」
見るとそこには、自分より遥かにガタイのいい大男が、ヴィリエを見下ろすように立っていた。
嘔吐した汚れに目もくれず、ヴィリエは鼻水をたらしながら尻餅をついた。
「ひいっ!許して!僕が悪かった!」
ヴィリエが蒼白な表情で官兵衛に許しを請う。だが官兵衛は一歩、また一歩と近づく。
官兵衛が手枷をゆっくりと上に掲げた。ヴィリエが杖を放り出し、頭を抱えた。
「(もうだめだ!今度こそ死んだ!)」
「オラァ!」
官兵衛の鉄球が振り下ろされた。そして
ぐしゃり
何かが潰れるような音がした。ヴィリエが恐る恐る顔を上げると。
「死ん――アレ?」
そこには鉄球に潰され、無残にもひしゃげた彼の杖が転がっていた。
「勝負あり、だな」
官兵衛がニヤリと、笑みを浮かべてヴィリエを見た。
「ま、まいった……」
ヴィリエが放心状態で、ポツリと呟く。それを聞くと、官兵衛は満足したように踵を返した。

ヴェストリの広場中に歓声が広がった。
「ド・ロレーヌが負けた!」
「やるな!あの平民!」
「すげえ!名勝負を拝んじまった!」
次々と観客から賞賛の声が巻き起こる。
「すごい……カンベエさん」
一部始終をハラハラしながら見守っていたシエスタが、驚いたように口元を手で押さえながら言った。
「ま!小生が本気を出せばこんなもんだ!」
官兵衛が鉄球に腰掛けながら、首をぐるりと回した。
「カンベエ!」
と、一部始終を見ていたルイズが官兵衛のもとに駆け寄ってきた。
「ようお前さん、どうだ小生――」
「このっ、バカッ!」
ずかん!と駆け寄るなりルイズが思いっきり足を蹴っ飛ばした。
「だぁっ!なんなんだ一体!」
「どうしてあんな無茶したのよ!こんなズタボロになるまで戦って!」
肩を怒らせながら、ルイズが官兵衛に怒鳴った。
「ズタボロって、小生からすれば、こんなもん大した事無い」
「そういう問題じゃないでしょ!最初からああやって戦っていればこんなに傷つかずに済んだじゃない!
ギーシュの時だって。何考えてるのよ!」
「言ったろう?小生、油断させるのが得意だと」
官兵衛は肩をすくめ、ルイズに言った。
「それよりだ、お前さん」
「なによ」
急に真剣な口調になった官兵衛に、ルイズが静かに答える。
「その何だ。悪かったな、昼前の事」
「えっ!なによ、いきなり」
いきなりの官兵衛の謝罪に、ルイズが動揺した。なぜいきなりこんな所で言い出すのだろう、この男は。
あくまで平静を装い、ルイズが答える。
「べ、別にいいわ!あんたに何か言われたところで何とも思わないもの!」
「そうか?思いっきり泣いて――」
「うるさいうるさいうるさい!とにかく!今後はご主人様への口の聞き方には気をつけなさいよね!」
「へいよ、ゴシュジンサマ」
「なによその言い方!誠意が足りないわ!もっとこう――」
「だー!喧しい!そう耳元で騒ぐな!」
未だ多くのギャラリーが居る中、相も変わらず騒がしいやりとりをするルイズと官兵衛。
ずりずりと鉄球を引き摺る官兵衛にルイズが付き添う。未だ歓声鳴り止まぬ中、二人は本塔の中へと歩いていった。
「ところであんた、なんで決闘なんか申し込んだのよ。今回勝てたから良かったものの、下手すればとんでもない事になったのよ?」
ルイズが歩きながら、隣の官兵衛に不機嫌そうに尋ねる。今回も勝てたとはいえ、相手はラインクラスのメイジだったのだ。
下手をすれば怪我どころか命すら危うい相手である。そんな相手に自分から勝負を挑むなど正気の沙汰ではない。
「一体どういうつもり?」
ルイズは眉を吊り上げながら、官兵衛を問い詰めた。
「そうだな……」
それに対して、官兵衛は短く考えた後こう言った。
「別に深い理由はないな。むしゃくしゃしてた、それだけだ」
「なによそれ!それだけの理由であんな大騒ぎを起こしたの?」
「そうだよ。それ以上でも以下でもない」
「信じられない!」
官兵衛の問いに、心底呆れたように、ルイズは肩を落とした。

勿論、官兵衛はただその理由で決闘騒ぎを起こした訳ではない。彼が決闘を申し込んだのは、ひとえにルイズの為であった。
官兵衛は、自分が居る事でルイズの立場が危うい事に薄々気がついていた。
そして、ド・ロレーヌの『奴隷を呼び出したメイジ』という旨の発言からも、それが感じ取れた。
そのイメージを払拭させる為に、官兵衛は決闘を申し込み勝利するという方法を選んだのだ。
上手くいけば自分の実力は学園内に知れ渡るし、ルイズも再び自信を持つだろう。
目立つ事は官兵衛の性にあわなかったが、全てはルイズに前を向かせる為であった、そして。
「(いつまでも凹まれてちゃ、小生の帰る手段だって見つからないだろう)」
そう考えてのことでもあった。

深くため息をつき、スタスタと早足で歩き出すルイズ。
「おい待ってくれ」
「知らない!このバカ使い魔!」
よたよたと走る官兵衛を置いて、ルイズは先を行く。
と、突如思い出したかのように振り返り、ルイズは官兵衛に言う。
「あんた!罰として部屋の掃除、洗濯、全部よ!」
「あ!?」
なんだそりゃとばかりに官兵衛が声を上げる。
「当然でしょ、これだけの騒ぎを起こしたんだから!」
「ふざけろ。小生のこの枷で雑用やらせようってのか!?」
「そうよ」
きっぱりというルイズの言葉に、官兵衛が尚も反論しようとするが。
「衣食住は誰が面倒見るの?あんたを送り帰す手がかりは誰が探すのかしら?」
「ぐっ……!」
「よくよく考えたら、私甘かったわ。使い魔の躾はもっと厳しくあるべきね!」
ルイズが無い胸をそらしながら言った。そんなルイズに、官兵衛は押し黙ると。
「(畜生!やっぱり決闘なんかやるんじゃなかった、こんな小娘の為に!)」
そう強く強く、思ったのだった。

「またしても、彼が勝った」
興奮する観客の中、ギーシュは目の前の光景を、信じられないといった顔で見ていた。
平民がメイジを圧倒する。この世界では想像もつかない出来事であった。
それをあの男は、自分を含めて二度もやってのけたのだ。これを驚かずしてなんとしよう。
「おいギーシュ!お前あいつと戦ったって本当なのかよ!」
「ギーシュ様!お怪我はなかったのですか?」
「あ、ああ。まあね」
クラスメイトが集まりギーシュを囲んだ。一体どんな勝負だったとか、アイツは何者なんだ等、様々な質問が彼に飛ぶ。
そんな言葉の数々をやっとの思いで返しながら、ギーシュは複雑な気分を抱いていた。
彼は官兵衛にワルキューレを全て倒された時、それは全て自分の未熟さ故だと思っていた。恥だと思っていた。
だからこそ、負けたという事実をひた隠しにしていたのだ。しかし、今日の結果はどうであろう。
風のラインメイジすら打ち破る平民。そんな彼に敗れた事を、恥る必要は無いのだろう。しかし自分は――
そこまで考え、ギーシュは知らず知らずのうちに、拳を固く握り締めていた。
ルイズに付き添われ、奥へと消えていった官兵衛。その方向をギーシュは、ただただ静かに見据えていた。

所変わり、ここは本塔内最上階にある学院長室。
「ミスタ・コールタール、見ていたかね?」
「コルベールです、オールド・オスマン。そんな固まりそうな名前で呼ばないでいただきたい」
「うむ」
「はい、見ておりました。こうもたやすくラインクラスのメイジに勝つとは!」
「うむ」
重厚なセコイアのテーブルに肘をつきながら、トリステイン魔法学院の学院長オールド・オスマンは、一部始終をみていた。
遠見の鏡を使い、ヴェストリの広場で起きた決闘のすべてを。
オスマンの隣には、コルベールがいた。
同様に決闘で起きた全てを見ており、未だ興奮冷めやらぬ、といった調子で決闘の跡を眺める。
「彼こそ、始祖ブリミルが使役したという伝説の使い魔『ガンダールヴ』に違いませんぞ!」
コルベールが興奮した様子でオスマンに言う。オスマンは、白い口ひげをいじりながら、一瞬の黙考の末口を開いた。
「ふむ、確かに。彼のルーンと、この『始祖ブリミルの使い魔達』に描かれたルーンは同じじゃ。そして先程の戦い……」
「ええ!しかし、杖も持たずにあのような旋風を起こし、さらにはあの奇妙な鉄球。一体彼は……」
そこまで言い、コルベールはしばし考えたあと再び口を開いた。
「これは世紀の大発見ですよ!早速王室に指示を仰がなければ……!」
コルベールはオスマンを促した。しかし、オスマンは首を横に振り。
「それには及ばん」
重々しく頷いた。
「ミスタ・コルベール。『ガンダールヴ』はただの使い魔ではない。」
「そのとおりです。始祖ブリミルの用いた『ガンダールヴ』。
それは主人の呪文詠唱の時間を守る為に特化した存在と伝え聞きます」
「そうじゃ。その強さは――」
その後を、コルベールが興奮した調子で引き取った。
「千人もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持ち、あまつさえ並のメイジでは全く歯が立たなかったとか!」
「そうじゃ、そんなものがこの現代に蘇ったと、王宮のボンクラどもに知られてみよ。またぞろ戦でも引き起こすじゃろうて。
宮廷で暇を持て余してる連中は、全く戦が好きじゃからな」
コルベールはハッとした様子で、呟いた。
「ははあ。学院長の深謀には恐れ入ります」
再び、オスマンは重々しく頷くと、静かに告げた。
「この件は私が預かる。他言は無用じゃ。ミスタ・コルベール」
「は、はい!かしこまりました!」
コルベールが背筋を伸ばしながら、それに答えた。



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