ウルトラマンゼロの使い魔
第二十四話「ラグドリアン湖のひみつ(後編)」
水棲怪人テペト星人
カッパ怪獣テペト
カプセル怪獣ミクラス
大蛙怪獣トンダイル 登場
第二十四話「ラグドリアン湖のひみつ(後編)」
水棲怪人テペト星人
カッパ怪獣テペト
カプセル怪獣ミクラス
大蛙怪獣トンダイル 登場
「か、怪獣よ! やっぱり出してきた!」
「ひぃッ! こっちに来るぅ!?」
テペト星人と戦いながら、怪獣テペトに目を向けたキュルケが叫び、ギーシュとモンモランシーは
半狂乱になった。テペトはラグドリアン湖の中央から、ザブザブ水を掻いて才人たちのいる岸辺へと
向かってくる。あれに上陸されたら、才人たちの勝ち目は一気になくなってしまう。
『才人! 俺たちの出番だぜ!』
「ああ!」
ゼロの呼びかけで、才人が懐のウルトラゼロアイに手を伸ばして触れた。だがその時、
「サイトぉ! わたし、怖いッ!」
「おわッ!?」
ルイズが後ろから才人に抱きつき、こっそり場を離れてゼロに変身しようとした彼を引き止めた。
「ル、ルイズ! 離すんだ! 今こんなことしてる場合じゃないだろ!」
このままでは変身できない。慌てて剥がそうとする才人だが、ルイズは余計に強く抱きつく。
「嫌ッ! サイト、どこにも行かないでぇ!」
「ああもうッ! こんな時までぇーッ!」
才人がてこずっている間にも、テペトは少しずつ迫り来ている。
『しょうがねぇ! 才人、こんな時にはアレだ!』
「ああ! 行け、ミクラス!」
仕方なく才人は青いカプセルを、周りに見られないようにこっそり投げ飛ばし、変身できない時の味方、
カプセル怪獣をテペトの前に出した。
「グアアアアアアアア!」
カプセルから出てきたミクラスがラグドリアン湖の水面に足を突っ込み、早速テペトへと
掴み掛かっていく。
「キャ――――――――!」
「グアアアアアアアア!」
テペトと両腕を捕らえたミクラスとの押し合いになるが、ミクラスの力の方が勝り、テペトを
突き飛ばして岸から引き離した。そして口から熱線を吐き、テペトの頭頂部の皿を撃つ。
「キャ――――――――!」
皿を焼かれたテペトは慌てて腰を折り、頭を湖面に突っ込んだ。水で皿を冷やすと頭を上げ、
改めてミクラスと向かい合う。
「グアアアアアアアア!」
ミクラスは水の抵抗を物ともせずにテペトに肉薄し、殴り合いで圧倒する。ミクラスの怪力に
テペトは敵わず、一方的に押される。
「今の内に逃げられそうね……。ギーシュ、早く包囲を破ってよ!」
ミクラスが食い止めている中、生き残りのテペト星人にまだ囲まれている一行の内のモンモランシーが
ギーシュに頼んだ。と、その時、彼女の頬を赤い舌がペロッと舐めた。
「あら? もう、ロビン。こんな時に甘えてこないでよ」
モンモランシーはそれをロビンと思い、たしなめたが、舌はペロペロ頬を舐め続けた。
「やめてったら! 聞き分けのない子ね」
と言っていたら、ギーシュが何やら顔を真っ青にしてこちらに視線をやっていることに気づいた。
「ギーシュ? 何ぼんやりしてるのよ」
尋ねると、ギーシュは震える手で自分を指差した。いや、よく見ると自分の足元を、だ。
「モ、モンモランシー……君の使い魔は、足元にいるよ……」
「え?」
下を見ると、確かに使い魔のカエルはモンモランシーの足元に控えていた。
「じゃあ、この舌は一体……」
自分の頬を舐めていた舌の正体を訝しむモンモランシー。よく考えれば、ロビンのものだとしても
大き過ぎだ。振り返って後ろを見てみたら……。
「カアアアアアアアア!」
赤い二つの目玉を人魂のように爛々と光らせている、カエルによく似た新たな巨大怪獣が、
地面から首だけ出して舌を伸ばしていた。モンモランシーの頬を舐めていたのは、その怪獣の舌だった。
「ぎゃああああああああああああああああああああッ!!」
モンモランシーとギーシュが絶叫を上げた。才人はすぐに端末で怪獣の情報を調べる。
「あいつは、大蛙怪獣トンダイル!」
その背後では、相変わらず才人にピッタリくっついているルイズが、モンモランシーと
ギーシュを足したものよりも大きな悲鳴を上げた。
「嫌ああああああああああああ!! カエルうううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「うわぁッ!? お、おいルイズ!」
才人の身体からルイズの腕が離れたので、才人が慌てて振り返ると、彼女はコテンとその場に
倒れ込んで気絶した。小さなロビンも怖がるくらいだったので、超巨大なトンダイルを見て、
恐怖のあまり精神を保てなかったのだろう。
「ルイズ! ルイズったら!」
「駄目だぜ相棒。娘っ子、完全に気を失ってらあ」
才人が何度も呼びかけても、ルイズは目を覚まさない。デルフリンガーが呆れて言った。
「カアアアアアアアア!」
トンダイルは土の中から全身を出すと、才人たちには構わず湖の中に入る。そして口から
火炎を吐いて、テペトを追い詰めているミクラスを背後から攻撃した。
「グアアアアアアアア!」
背中を焼かれたミクラスが反り返ってよろめいた。その隙にテペトが持ち直し、反撃を行う。
「キャ――――――――!」
「カアアアアアアアア!」
トンダイルも同時に攻撃を仕掛ける。ミクラスは前後から挟み撃ちで叩きのめされ、一気に
窮地に追い込まれてしまった。
「トンダイルもテペト星人の配下なのか……!」
状況からして、テペト星人はトンダイルも支配下に置いているようだ。ミクラスのピンチに
焦る才人だが、不幸中の幸い、一番厄介だったルイズが離れた。これでゼロに変身できる。
「みんな! ルイズを安全な場所まで連れてく! 気をつけてくれ!」
「分かったわ!」
素早くルイズを背負って仲間たちに告げると、デルフリンガーを片手にテペト星人の集団へ
斬りかかっていった。
「おらおらぁー! どけどけぇッ!」
目の前の敵を斬り伏せて強引に包囲を突破すると、全速力で森の中に姿を隠した。そして湖から
離れたところでルイズを降ろしてそっと木に寄りかからせた。スヤスヤ眠っている姿に、ほっと息を吐く。
「デュワッ!」
満を持してウルトラゼロアイを取り出し、顔に装着して変身した。
「ひぃッ! こっちに来るぅ!?」
テペト星人と戦いながら、怪獣テペトに目を向けたキュルケが叫び、ギーシュとモンモランシーは
半狂乱になった。テペトはラグドリアン湖の中央から、ザブザブ水を掻いて才人たちのいる岸辺へと
向かってくる。あれに上陸されたら、才人たちの勝ち目は一気になくなってしまう。
『才人! 俺たちの出番だぜ!』
「ああ!」
ゼロの呼びかけで、才人が懐のウルトラゼロアイに手を伸ばして触れた。だがその時、
「サイトぉ! わたし、怖いッ!」
「おわッ!?」
ルイズが後ろから才人に抱きつき、こっそり場を離れてゼロに変身しようとした彼を引き止めた。
「ル、ルイズ! 離すんだ! 今こんなことしてる場合じゃないだろ!」
このままでは変身できない。慌てて剥がそうとする才人だが、ルイズは余計に強く抱きつく。
「嫌ッ! サイト、どこにも行かないでぇ!」
「ああもうッ! こんな時までぇーッ!」
才人がてこずっている間にも、テペトは少しずつ迫り来ている。
『しょうがねぇ! 才人、こんな時にはアレだ!』
「ああ! 行け、ミクラス!」
仕方なく才人は青いカプセルを、周りに見られないようにこっそり投げ飛ばし、変身できない時の味方、
カプセル怪獣をテペトの前に出した。
「グアアアアアアアア!」
カプセルから出てきたミクラスがラグドリアン湖の水面に足を突っ込み、早速テペトへと
掴み掛かっていく。
「キャ――――――――!」
「グアアアアアアアア!」
テペトと両腕を捕らえたミクラスとの押し合いになるが、ミクラスの力の方が勝り、テペトを
突き飛ばして岸から引き離した。そして口から熱線を吐き、テペトの頭頂部の皿を撃つ。
「キャ――――――――!」
皿を焼かれたテペトは慌てて腰を折り、頭を湖面に突っ込んだ。水で皿を冷やすと頭を上げ、
改めてミクラスと向かい合う。
「グアアアアアアアア!」
ミクラスは水の抵抗を物ともせずにテペトに肉薄し、殴り合いで圧倒する。ミクラスの怪力に
テペトは敵わず、一方的に押される。
「今の内に逃げられそうね……。ギーシュ、早く包囲を破ってよ!」
ミクラスが食い止めている中、生き残りのテペト星人にまだ囲まれている一行の内のモンモランシーが
ギーシュに頼んだ。と、その時、彼女の頬を赤い舌がペロッと舐めた。
「あら? もう、ロビン。こんな時に甘えてこないでよ」
モンモランシーはそれをロビンと思い、たしなめたが、舌はペロペロ頬を舐め続けた。
「やめてったら! 聞き分けのない子ね」
と言っていたら、ギーシュが何やら顔を真っ青にしてこちらに視線をやっていることに気づいた。
「ギーシュ? 何ぼんやりしてるのよ」
尋ねると、ギーシュは震える手で自分を指差した。いや、よく見ると自分の足元を、だ。
「モ、モンモランシー……君の使い魔は、足元にいるよ……」
「え?」
下を見ると、確かに使い魔のカエルはモンモランシーの足元に控えていた。
「じゃあ、この舌は一体……」
自分の頬を舐めていた舌の正体を訝しむモンモランシー。よく考えれば、ロビンのものだとしても
大き過ぎだ。振り返って後ろを見てみたら……。
「カアアアアアアアア!」
赤い二つの目玉を人魂のように爛々と光らせている、カエルによく似た新たな巨大怪獣が、
地面から首だけ出して舌を伸ばしていた。モンモランシーの頬を舐めていたのは、その怪獣の舌だった。
「ぎゃああああああああああああああああああああッ!!」
モンモランシーとギーシュが絶叫を上げた。才人はすぐに端末で怪獣の情報を調べる。
「あいつは、大蛙怪獣トンダイル!」
その背後では、相変わらず才人にピッタリくっついているルイズが、モンモランシーと
ギーシュを足したものよりも大きな悲鳴を上げた。
「嫌ああああああああああああ!! カエルうううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「うわぁッ!? お、おいルイズ!」
才人の身体からルイズの腕が離れたので、才人が慌てて振り返ると、彼女はコテンとその場に
倒れ込んで気絶した。小さなロビンも怖がるくらいだったので、超巨大なトンダイルを見て、
恐怖のあまり精神を保てなかったのだろう。
「ルイズ! ルイズったら!」
「駄目だぜ相棒。娘っ子、完全に気を失ってらあ」
才人が何度も呼びかけても、ルイズは目を覚まさない。デルフリンガーが呆れて言った。
「カアアアアアアアア!」
トンダイルは土の中から全身を出すと、才人たちには構わず湖の中に入る。そして口から
火炎を吐いて、テペトを追い詰めているミクラスを背後から攻撃した。
「グアアアアアアアア!」
背中を焼かれたミクラスが反り返ってよろめいた。その隙にテペトが持ち直し、反撃を行う。
「キャ――――――――!」
「カアアアアアアアア!」
トンダイルも同時に攻撃を仕掛ける。ミクラスは前後から挟み撃ちで叩きのめされ、一気に
窮地に追い込まれてしまった。
「トンダイルもテペト星人の配下なのか……!」
状況からして、テペト星人はトンダイルも支配下に置いているようだ。ミクラスのピンチに
焦る才人だが、不幸中の幸い、一番厄介だったルイズが離れた。これでゼロに変身できる。
「みんな! ルイズを安全な場所まで連れてく! 気をつけてくれ!」
「分かったわ!」
素早くルイズを背負って仲間たちに告げると、デルフリンガーを片手にテペト星人の集団へ
斬りかかっていった。
「おらおらぁー! どけどけぇッ!」
目の前の敵を斬り伏せて強引に包囲を突破すると、全速力で森の中に姿を隠した。そして湖から
離れたところでルイズを降ろしてそっと木に寄りかからせた。スヤスヤ眠っている姿に、ほっと息を吐く。
「デュワッ!」
満を持してウルトラゼロアイを取り出し、顔に装着して変身した。
「キャ――――――――!」
「カアアアアアアアア!」
テペトとトンダイルは、膝を突いたミクラスを容赦なく叩きのめし続けている。そこに、
森から飛び出したウルトラマンゼロが飛び蹴りの姿勢でラグドリアン湖へ急降下していく。
「ダァー!」
「カアアアアアアアア!」
鋭いゼロキックはトンダイルの頭部に決まり、トンダイルを横転させた。テペトはゼロの
乱入に驚いて、殴る手を止める。
「デヤァッ!」
「キャ――――――――!」
そのテペトの胸の中心にも横拳が入り、弧を描いて吹っ飛んでいく。敵怪獣を湖に沈めたゼロは、
ボロボロのミクラスを助け起こした。
『よく頑張ってくれたな、ミクラス。戻ってくれ』
ミクラスを気遣って、カプセルの中に戻した。それと同時に、トンダイルが水を掻き分けて起き上がる。
「カアアアアアアアア!」
トンダイルは口から、今度は赤い球体をいくつも吐き出してゼロへ飛ばす。これは本来
獲物を中に閉じ込め、冬眠中の保存食にするためのトンダイルカプセルだ。武器としても
使うことが出来るようだ。
『はッ! こんなヒョロ玉食らうかよぉ!』
しかしゼロはトンダイルカプセルを全て素手で叩き落とした。それからトンダイルに一瞬で飛び掛かり、
首元に水平チョップを入れる。
「カアアアアアアアア!」
『おらおらぁッ!』
早く鋭いチョップでひるませたところで、でっぷりと突き出た腹をボコボコに殴る。トンダイルは
ゼロのラッシュになす術なく、大きくたじろいだ。
一見優勢なゼロだが、ここで違和感に気づいた。
『ん? テペトはどこ行きやがった?』
今湖面に立っている敵はトンダイルだけで、先ほど沈んだテペトが浮き上がってこない。
そう思った矢先に、
「キャ――――――――!」
『うおうッ!?』
水中を音もなく移動して近寄ってきていたテペトが、ゼロの足首をすくい上げて転倒させた。
仰向けに倒れたゼロに、すかさずテペトとトンダイルのタッグが覆い被さるように襲い来る。
「キャ――――――――!」
「カアアアアアアアア!」
『ぐッ! こ、こいつら! げぶッ!』
ゼロはテペトに腹部を、トンダイルに顔面を踏みつけられ、湖の中に押し込まれていく。
「ゼロが危ないわ!」
「危ないのはこっちも同じだよぉ!」
キュルケが叫ぶが、直後にテペト星人がまた一人飛び掛かってきたので、火炎で黒焦げにした。
メイジたちは依然としてテペト星人と交戦しており、ゼロを援護する余裕はない。
「キャ――――――――!」
「カアアアアアアアア!」
テペトとトンダイルはそれをいいことに、情け容赦なくゼロを水の中に沈める。テペトが
ゼロの腹を散々に殴りつけ、トンダイルが顔を鷲掴みにして湖中にグイグイ押し込む。
すっかり水中に浸かったゼロだが、その瞬間に、彼の沈んだところから赤い輝きが巻き起こった。
『おらあああああッ! 調子づくんじゃねええぇぇぇぇぇぇぇッ!』
「キャ――――――――!?」
「カアアアアアアアア!」
直後に、怒声とともにストロングコロナゼロが超パワーで立ち上がり、その勢いでテペトと
トンダイルをはね飛ばした。
即座に起き上がって二人がかり、いや二体がかりでゼロに襲い掛かるが、トンダイルは顎に
拳をもらい、テペトはみぞおちに肘鉄を入れられてあっさりと返り討ちにされた。
『ふんッ!』
更にゼロは二体の頭をむんずと掴むと、引き寄せてゴチン! と激しくぶつけさせた。
互いに頭を打った怪獣たちはフラフラと後ろへ倒れる。
「カアアアアアアアア!」
その内に、トンダイルが四つん這いの姿勢のまま逃亡を始めた。ゼロに敵わないと見ての行動だが、
トンダイルは根っからの人食い怪獣。みすみす逃がす訳にはいかない。
「セアッ!」
ゼロは通常の状態に戻ると、ほうほうの体で逃げるトンダイルの背にワイドゼロショットを撃ち込んだ。
必殺光線を食らったトンダイルは一瞬で爆散した。
トンダイルを倒したらテペトの番とばかりにゼロが振り返る。すると慌てたテペトが、
予想外の行動に出た。
「キャ――――――――!」
両手をこすり合わせて頭をペコペコ下げ、許しを乞い始めたのだ。
「怪獣が命乞いしてるわ……」
「呆れた……」
その光景を見たキュルケとタバサが、冷めた視線を送った。
「……」
ゼロは無言で腰に手を置き、テペトのことをじっと見つめる。テペトはすがりつくように、
黙ったままのゼロを拝み倒すが、
深く頭を下げた瞬間に、皿から怪光線を発射した!
『おっと!』
しかしそれは、ゼロが咄嗟にバツ印に組んだ腕にガードされた。それを見て、テペトは後ろに
倒れ込むと水中に潜り込み、泳いで逃げ出した。
『そんなしょっぱい騙し討ちに引っ掛かるかよぉ!』
言い放ったゼロは頭からゼロスラッガーを放り、水中に潜り込ませる。直後にザシュッ!
と気持ちのいい音が鳴り、ふた振りのスラッガーが湖から飛び出してゼロの頭に戻った。
その後に、スラッガーに十字に切り裂かれたテペトの破片が四つ浮かび上がってきた。
「最後!」
ゼロが二体の怪獣を倒すのと、タバサが最後に残ったテペト星人にとどめを刺したのは
ほぼ同時だった。地上に現れた敵が全て倒れると、ラグドリアン湖よりテペト星人の円盤が浮上し、
空へ向けて飛び上がる。このまま宇宙へ逃れようというつもりか。
「ジュワッ!」
しかしその円盤も、エメリウムスラッシュを受けて木端微塵に吹き飛んだ。敵を全滅させたと
判断したゼロは、空の彼方へと飛んで去っていった。
「カアアアアアアアア!」
テペトとトンダイルは、膝を突いたミクラスを容赦なく叩きのめし続けている。そこに、
森から飛び出したウルトラマンゼロが飛び蹴りの姿勢でラグドリアン湖へ急降下していく。
「ダァー!」
「カアアアアアアアア!」
鋭いゼロキックはトンダイルの頭部に決まり、トンダイルを横転させた。テペトはゼロの
乱入に驚いて、殴る手を止める。
「デヤァッ!」
「キャ――――――――!」
そのテペトの胸の中心にも横拳が入り、弧を描いて吹っ飛んでいく。敵怪獣を湖に沈めたゼロは、
ボロボロのミクラスを助け起こした。
『よく頑張ってくれたな、ミクラス。戻ってくれ』
ミクラスを気遣って、カプセルの中に戻した。それと同時に、トンダイルが水を掻き分けて起き上がる。
「カアアアアアアアア!」
トンダイルは口から、今度は赤い球体をいくつも吐き出してゼロへ飛ばす。これは本来
獲物を中に閉じ込め、冬眠中の保存食にするためのトンダイルカプセルだ。武器としても
使うことが出来るようだ。
『はッ! こんなヒョロ玉食らうかよぉ!』
しかしゼロはトンダイルカプセルを全て素手で叩き落とした。それからトンダイルに一瞬で飛び掛かり、
首元に水平チョップを入れる。
「カアアアアアアアア!」
『おらおらぁッ!』
早く鋭いチョップでひるませたところで、でっぷりと突き出た腹をボコボコに殴る。トンダイルは
ゼロのラッシュになす術なく、大きくたじろいだ。
一見優勢なゼロだが、ここで違和感に気づいた。
『ん? テペトはどこ行きやがった?』
今湖面に立っている敵はトンダイルだけで、先ほど沈んだテペトが浮き上がってこない。
そう思った矢先に、
「キャ――――――――!」
『うおうッ!?』
水中を音もなく移動して近寄ってきていたテペトが、ゼロの足首をすくい上げて転倒させた。
仰向けに倒れたゼロに、すかさずテペトとトンダイルのタッグが覆い被さるように襲い来る。
「キャ――――――――!」
「カアアアアアアアア!」
『ぐッ! こ、こいつら! げぶッ!』
ゼロはテペトに腹部を、トンダイルに顔面を踏みつけられ、湖の中に押し込まれていく。
「ゼロが危ないわ!」
「危ないのはこっちも同じだよぉ!」
キュルケが叫ぶが、直後にテペト星人がまた一人飛び掛かってきたので、火炎で黒焦げにした。
メイジたちは依然としてテペト星人と交戦しており、ゼロを援護する余裕はない。
「キャ――――――――!」
「カアアアアアアアア!」
テペトとトンダイルはそれをいいことに、情け容赦なくゼロを水の中に沈める。テペトが
ゼロの腹を散々に殴りつけ、トンダイルが顔を鷲掴みにして湖中にグイグイ押し込む。
すっかり水中に浸かったゼロだが、その瞬間に、彼の沈んだところから赤い輝きが巻き起こった。
『おらあああああッ! 調子づくんじゃねええぇぇぇぇぇぇぇッ!』
「キャ――――――――!?」
「カアアアアアアアア!」
直後に、怒声とともにストロングコロナゼロが超パワーで立ち上がり、その勢いでテペトと
トンダイルをはね飛ばした。
即座に起き上がって二人がかり、いや二体がかりでゼロに襲い掛かるが、トンダイルは顎に
拳をもらい、テペトはみぞおちに肘鉄を入れられてあっさりと返り討ちにされた。
『ふんッ!』
更にゼロは二体の頭をむんずと掴むと、引き寄せてゴチン! と激しくぶつけさせた。
互いに頭を打った怪獣たちはフラフラと後ろへ倒れる。
「カアアアアアアアア!」
その内に、トンダイルが四つん這いの姿勢のまま逃亡を始めた。ゼロに敵わないと見ての行動だが、
トンダイルは根っからの人食い怪獣。みすみす逃がす訳にはいかない。
「セアッ!」
ゼロは通常の状態に戻ると、ほうほうの体で逃げるトンダイルの背にワイドゼロショットを撃ち込んだ。
必殺光線を食らったトンダイルは一瞬で爆散した。
トンダイルを倒したらテペトの番とばかりにゼロが振り返る。すると慌てたテペトが、
予想外の行動に出た。
「キャ――――――――!」
両手をこすり合わせて頭をペコペコ下げ、許しを乞い始めたのだ。
「怪獣が命乞いしてるわ……」
「呆れた……」
その光景を見たキュルケとタバサが、冷めた視線を送った。
「……」
ゼロは無言で腰に手を置き、テペトのことをじっと見つめる。テペトはすがりつくように、
黙ったままのゼロを拝み倒すが、
深く頭を下げた瞬間に、皿から怪光線を発射した!
『おっと!』
しかしそれは、ゼロが咄嗟にバツ印に組んだ腕にガードされた。それを見て、テペトは後ろに
倒れ込むと水中に潜り込み、泳いで逃げ出した。
『そんなしょっぱい騙し討ちに引っ掛かるかよぉ!』
言い放ったゼロは頭からゼロスラッガーを放り、水中に潜り込ませる。直後にザシュッ!
と気持ちのいい音が鳴り、ふた振りのスラッガーが湖から飛び出してゼロの頭に戻った。
その後に、スラッガーに十字に切り裂かれたテペトの破片が四つ浮かび上がってきた。
「最後!」
ゼロが二体の怪獣を倒すのと、タバサが最後に残ったテペト星人にとどめを刺したのは
ほぼ同時だった。地上に現れた敵が全て倒れると、ラグドリアン湖よりテペト星人の円盤が浮上し、
空へ向けて飛び上がる。このまま宇宙へ逃れようというつもりか。
「ジュワッ!」
しかしその円盤も、エメリウムスラッシュを受けて木端微塵に吹き飛んだ。敵を全滅させたと
判断したゼロは、空の彼方へと飛んで去っていった。
「みんなー。大丈夫だったか?」
元に戻った才人は、未だ眠り込んだままのルイズを背負い、岸辺へと帰ってきた。するとギーシュが咎める。
「遅いぞきみ! 敵はとっくにこのギーシュ・ド・グラモンが片づけてしまったよ」
「あんた、ほとんど何もしてなかったでしょ」
さっきまでの恐慌ぶりがどこへやら、見栄を張るギーシュにキュルケがツッコミを入れた。
そんな漫才のようなやり取りは置いておいて、モンモランシーが湖に目を向けて皆に呼びかける。
「みんな! 精霊の気配が戻ったわ!」
「本当か!? 良かった! これでルイズを元に戻せるな!」
それを聞いて、才人が一番喜んだ。
「水の精霊が戻ったのと、涙をもらえるかどうかは別の問題よ」
「細かいことはいいよ! とにかく、早く呼んでくれ」
才人に急かされて、モンモランシーがもう一度ロビンを湖中に送った。すると今度は、
水面が盛り上がって、水がアメーバのような形になった。これがモンモランシーの言う、
水の精霊らしい。
「水の精霊。わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。
水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。覚えていたら、わたしたちにわかるやりかたと
言葉で返事をしてちょうだい」
モンモランシーが呼びかけると、盛り上がった水はぐねぐねと形を変え、モンモランシーそっくりの
姿になった。才人は驚いて目を丸くした。
「覚えている。単なる者よ。貴様に最後に会ってから、月が五十二回交差した」
水の精霊はモンモランシーに答えると、彼女が何か言う前に言葉を紡いだ。
「まずは、貴様たちが我を捕らえ、我を支配しようとした、この世界とは異なる外の世界から
現れた異な者どもを退けたことについて礼を言おう。我は湖の奥深くに身を隠しながら、全てを見ていた」
「水の精霊がお礼! そんなの、滅多にないことよ」
モンモランシーが驚愕してつぶやくが、才人は水の精霊の発言に関心を持った。
「それって、テペト星人のことか? やっぱり、あいつらがいたからあなたは隠れてたんだ。
テペト星人は、あなたを捕まえようとしてたんだな」
聞き返した才人に、水の精霊が肯定する。
「そうだ。あの異な者どもは、この世界の理とは異なる不可思議な力を用いて、我を支配しようとした。
当然我は抗ったが、奴らは水を阻む鋼鉄の船から出てこなかった故に、我は手出しが出来なかった。
そのため、我は身を隠す以外になかった」
「水の精霊は、水に関しては万能だけど、相手が水に触れなかったら無力なの。そこを突かれたのね」
モンモランシーが補足説明を入れた。
「テペト星人、そういう目的でここに潜んでたのか……。もし水の精霊が操られてたら、
大変なことになってただろうな」
「侵略者の魔の手って、精霊にまで及んでたのね……。今回は失敗だったけど、ぞっとするわね……」
才人とキュルケのひと言で、一同は背筋を寒くした。しかし今は才人たちに、最優先の目的があるのだ。
モンモランシーが頼み込む。
「水の精霊よ、お願いがあるの。あなたの一部がすぐに必要なの。わけてはもらえないかしら?」
その頼みを、水の精霊は快く引き受けた。
「よかろう。貴様らは我を脅かす者どもを退治した。その恩に報いるのが道理」
「やったわ! 精霊にお願いを通すのは、本当はとても難しいことなのよ。わたしたちは、
ある意味ラッキーだったわね」
水の精霊が細かく震えると、ぴっ、と水滴のように、その体の一部がはじけ、一行の元へととんできた。
それが『水の精霊の涙』だ。ギーシュが慌てて持ってきた壜で受け止めた。
水の精霊は用を済ませると、すぐに水底に戻っていきそうになった。だがそれをキュルケが呼び止める。
「ちょっと待った! アタシとタバサは、実はもう一つあなたに用があるのよね」
「え? そうだったんだ」
才人らが驚いた顔をしていると、水の精霊が戻ってきて、キュルケに問い返した。
「なんだ? 単なる者よ」
「あなたが湖の水かさを増やすのを止めて、この辺りの洪水を引いてもらいたいのよ。あー……
水浸しになったせいで、タバサの領地に被害が出てるから、元に戻すようにとの使命も受けて
アタシたちは来たのよ」
確かに、時期的に考えて、洪水とテペト星人の襲来は別問題。このままだと辺りの土地は元に戻らない。
だがキュルケの頼みは、水の精霊は断る。
「ならぬ。貴様らへの恩は、先ほどのもので返した」
だがキュルケは引き下がらない。切り込み方を変えてみる。
「だったら、水かさを増やす理由を教えてくれない? アタシたちに解決できることなら、
なんでもするから」
それを聞くと、水の精霊は少し間を取ってから、返答した。
「お前たちに、まかせてよいものか、我は悩む。しかし、お前たちは我への脅威を取り払った。
ならば信用して話してもよいことと思う」
前置きしてから、水の精霊は理由を語り出した。
「数えるほどもおろかしいほど月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、お前たちの同胞が盗んだのだ」
「秘宝?」
「そうだ。我が暮らすもっとも濃き水の底から、その秘宝が盗まれたのは、月が三十ほど
交差する前の晩のこと」
おおよそ二年前ね、とモンモランシーが呟く。
「我は秘宝を取り返したいと願う。大地を水が浸食すれば、いずれ秘宝に届くだろう。
水がすべてを覆い尽くすその暁には、我が体が秘宝のありかを知るだろう」
「な、なんだそりゃ。気が長いやつだな」
途方もないほど時間の掛かるやり方に、才人が呆気にとられた。
「我とお前たちでは、時に対する概念が違う。我にとって全は個。個は全。時もまた然り。
今も未来も過去も、我に違いはない。いずれも我が存在する時間ゆえ」
水の精霊の目的を知ったキュルケがうなずく。
「分かったわ。だったらアタシたちでその秘宝を取り返してあげるわ。それでいいでしょ、タバサ?」
タバサもコクリとうなずいた。それからキュルケが肝心なことを聞く。
「なんていう秘宝なの?」
「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」
「なんか聞いたことがあるわ」
モンモランシーが呟く。
「『水』系統の伝説のマジックアイテム。たしか、偽りの生命を死者に与えるという……」
「そのとおり。死は我にはない概念ゆえ理解できぬが、死を免れぬお前たちにはなるほど
『命』を与える力は魅力と思えるのかもしれぬ。しかしながら、『アンドバリ』の指輪が
もたらすものは偽りの命。旧き水の力に過ぎぬ。所詮益にはならぬ」
「そんなシロモノを、誰が盗ったんだ?」
「風の力を行使して、我の住処にやってきたのは数個体。内の一人が、こう呼ばれていた。
『クロムウェル』と」
「聞き間違いじゃなければ、アルビオンの新皇帝の名前ね」
キュルケのひと言で、才人たちは嫌な予感を覚えた。アルビオン新政府と、侵略者が与しているのは、
タルブでの一戦で明らかになったこと。もし『アンドバリ』の指輪をクロムウェルが盗んだのなら、
当然それは宇宙人たち、延いてはヤプール人の手元に……。
「偽りの命とやらを与えられたら、どうなっちまうんだ?」
「指輪を使った者に従うようになる。個々に意思があるというのは、不便なものだな」
「とんでもない指輪ね。死者を動かすなんて、趣味が悪いわね」
呟いたキュルケが、水の精霊に請け負う。
「分かったわ! その指輪を取り返してくるから、水かさを増やすのを止めて!」
水の精霊はふるふると震えた。
「わかった。お前たちを信用しよう。指輪が戻るのなら、水を増やす必要もない」
「いつまでに取り返してくればいいんだ?」
「お前たちの寿命がつきるまででかまわぬ」
「そんなに長くていいの?」
「かまわぬ。我にとっては、明日も未来もあまり変わらぬ」
そう言い残すと、水の精霊はごぼごぼと姿を消そうとした。
「待って」
その瞬間、タバサが呼び止めた。その場の全員が驚く。タバサが他人を……、いや人じゃないけど、
呼び止めるところなんて初めて見たからだ。
「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」
「なんだ?」
「あなたはわたしたちの間で、『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」
「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違う。ゆえにお前たちの考えは我には深く理解できぬ。
しかし察するに、我の存在自体がそう呼ばれる理由と思う。我に決まったかたちはない。しかし、
我は変わらぬ。変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」
タバサは頷いた。それから、目をつむって手を合わせた。いったい、誰に何を約束しているのだろう。
才人たちにはとんと見当がつかなかったが、唯一事情を知るキュルケは、その肩に優しく手を置いた。
元に戻った才人は、未だ眠り込んだままのルイズを背負い、岸辺へと帰ってきた。するとギーシュが咎める。
「遅いぞきみ! 敵はとっくにこのギーシュ・ド・グラモンが片づけてしまったよ」
「あんた、ほとんど何もしてなかったでしょ」
さっきまでの恐慌ぶりがどこへやら、見栄を張るギーシュにキュルケがツッコミを入れた。
そんな漫才のようなやり取りは置いておいて、モンモランシーが湖に目を向けて皆に呼びかける。
「みんな! 精霊の気配が戻ったわ!」
「本当か!? 良かった! これでルイズを元に戻せるな!」
それを聞いて、才人が一番喜んだ。
「水の精霊が戻ったのと、涙をもらえるかどうかは別の問題よ」
「細かいことはいいよ! とにかく、早く呼んでくれ」
才人に急かされて、モンモランシーがもう一度ロビンを湖中に送った。すると今度は、
水面が盛り上がって、水がアメーバのような形になった。これがモンモランシーの言う、
水の精霊らしい。
「水の精霊。わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。
水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。覚えていたら、わたしたちにわかるやりかたと
言葉で返事をしてちょうだい」
モンモランシーが呼びかけると、盛り上がった水はぐねぐねと形を変え、モンモランシーそっくりの
姿になった。才人は驚いて目を丸くした。
「覚えている。単なる者よ。貴様に最後に会ってから、月が五十二回交差した」
水の精霊はモンモランシーに答えると、彼女が何か言う前に言葉を紡いだ。
「まずは、貴様たちが我を捕らえ、我を支配しようとした、この世界とは異なる外の世界から
現れた異な者どもを退けたことについて礼を言おう。我は湖の奥深くに身を隠しながら、全てを見ていた」
「水の精霊がお礼! そんなの、滅多にないことよ」
モンモランシーが驚愕してつぶやくが、才人は水の精霊の発言に関心を持った。
「それって、テペト星人のことか? やっぱり、あいつらがいたからあなたは隠れてたんだ。
テペト星人は、あなたを捕まえようとしてたんだな」
聞き返した才人に、水の精霊が肯定する。
「そうだ。あの異な者どもは、この世界の理とは異なる不可思議な力を用いて、我を支配しようとした。
当然我は抗ったが、奴らは水を阻む鋼鉄の船から出てこなかった故に、我は手出しが出来なかった。
そのため、我は身を隠す以外になかった」
「水の精霊は、水に関しては万能だけど、相手が水に触れなかったら無力なの。そこを突かれたのね」
モンモランシーが補足説明を入れた。
「テペト星人、そういう目的でここに潜んでたのか……。もし水の精霊が操られてたら、
大変なことになってただろうな」
「侵略者の魔の手って、精霊にまで及んでたのね……。今回は失敗だったけど、ぞっとするわね……」
才人とキュルケのひと言で、一同は背筋を寒くした。しかし今は才人たちに、最優先の目的があるのだ。
モンモランシーが頼み込む。
「水の精霊よ、お願いがあるの。あなたの一部がすぐに必要なの。わけてはもらえないかしら?」
その頼みを、水の精霊は快く引き受けた。
「よかろう。貴様らは我を脅かす者どもを退治した。その恩に報いるのが道理」
「やったわ! 精霊にお願いを通すのは、本当はとても難しいことなのよ。わたしたちは、
ある意味ラッキーだったわね」
水の精霊が細かく震えると、ぴっ、と水滴のように、その体の一部がはじけ、一行の元へととんできた。
それが『水の精霊の涙』だ。ギーシュが慌てて持ってきた壜で受け止めた。
水の精霊は用を済ませると、すぐに水底に戻っていきそうになった。だがそれをキュルケが呼び止める。
「ちょっと待った! アタシとタバサは、実はもう一つあなたに用があるのよね」
「え? そうだったんだ」
才人らが驚いた顔をしていると、水の精霊が戻ってきて、キュルケに問い返した。
「なんだ? 単なる者よ」
「あなたが湖の水かさを増やすのを止めて、この辺りの洪水を引いてもらいたいのよ。あー……
水浸しになったせいで、タバサの領地に被害が出てるから、元に戻すようにとの使命も受けて
アタシたちは来たのよ」
確かに、時期的に考えて、洪水とテペト星人の襲来は別問題。このままだと辺りの土地は元に戻らない。
だがキュルケの頼みは、水の精霊は断る。
「ならぬ。貴様らへの恩は、先ほどのもので返した」
だがキュルケは引き下がらない。切り込み方を変えてみる。
「だったら、水かさを増やす理由を教えてくれない? アタシたちに解決できることなら、
なんでもするから」
それを聞くと、水の精霊は少し間を取ってから、返答した。
「お前たちに、まかせてよいものか、我は悩む。しかし、お前たちは我への脅威を取り払った。
ならば信用して話してもよいことと思う」
前置きしてから、水の精霊は理由を語り出した。
「数えるほどもおろかしいほど月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、お前たちの同胞が盗んだのだ」
「秘宝?」
「そうだ。我が暮らすもっとも濃き水の底から、その秘宝が盗まれたのは、月が三十ほど
交差する前の晩のこと」
おおよそ二年前ね、とモンモランシーが呟く。
「我は秘宝を取り返したいと願う。大地を水が浸食すれば、いずれ秘宝に届くだろう。
水がすべてを覆い尽くすその暁には、我が体が秘宝のありかを知るだろう」
「な、なんだそりゃ。気が長いやつだな」
途方もないほど時間の掛かるやり方に、才人が呆気にとられた。
「我とお前たちでは、時に対する概念が違う。我にとって全は個。個は全。時もまた然り。
今も未来も過去も、我に違いはない。いずれも我が存在する時間ゆえ」
水の精霊の目的を知ったキュルケがうなずく。
「分かったわ。だったらアタシたちでその秘宝を取り返してあげるわ。それでいいでしょ、タバサ?」
タバサもコクリとうなずいた。それからキュルケが肝心なことを聞く。
「なんていう秘宝なの?」
「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」
「なんか聞いたことがあるわ」
モンモランシーが呟く。
「『水』系統の伝説のマジックアイテム。たしか、偽りの生命を死者に与えるという……」
「そのとおり。死は我にはない概念ゆえ理解できぬが、死を免れぬお前たちにはなるほど
『命』を与える力は魅力と思えるのかもしれぬ。しかしながら、『アンドバリ』の指輪が
もたらすものは偽りの命。旧き水の力に過ぎぬ。所詮益にはならぬ」
「そんなシロモノを、誰が盗ったんだ?」
「風の力を行使して、我の住処にやってきたのは数個体。内の一人が、こう呼ばれていた。
『クロムウェル』と」
「聞き間違いじゃなければ、アルビオンの新皇帝の名前ね」
キュルケのひと言で、才人たちは嫌な予感を覚えた。アルビオン新政府と、侵略者が与しているのは、
タルブでの一戦で明らかになったこと。もし『アンドバリ』の指輪をクロムウェルが盗んだのなら、
当然それは宇宙人たち、延いてはヤプール人の手元に……。
「偽りの命とやらを与えられたら、どうなっちまうんだ?」
「指輪を使った者に従うようになる。個々に意思があるというのは、不便なものだな」
「とんでもない指輪ね。死者を動かすなんて、趣味が悪いわね」
呟いたキュルケが、水の精霊に請け負う。
「分かったわ! その指輪を取り返してくるから、水かさを増やすのを止めて!」
水の精霊はふるふると震えた。
「わかった。お前たちを信用しよう。指輪が戻るのなら、水を増やす必要もない」
「いつまでに取り返してくればいいんだ?」
「お前たちの寿命がつきるまででかまわぬ」
「そんなに長くていいの?」
「かまわぬ。我にとっては、明日も未来もあまり変わらぬ」
そう言い残すと、水の精霊はごぼごぼと姿を消そうとした。
「待って」
その瞬間、タバサが呼び止めた。その場の全員が驚く。タバサが他人を……、いや人じゃないけど、
呼び止めるところなんて初めて見たからだ。
「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」
「なんだ?」
「あなたはわたしたちの間で、『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」
「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違う。ゆえにお前たちの考えは我には深く理解できぬ。
しかし察するに、我の存在自体がそう呼ばれる理由と思う。我に決まったかたちはない。しかし、
我は変わらぬ。変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」
タバサは頷いた。それから、目をつむって手を合わせた。いったい、誰に何を約束しているのだろう。
才人たちにはとんと見当がつかなかったが、唯一事情を知るキュルケは、その肩に優しく手を置いた。
才人たち一行が水の精霊の涙を手に入れて、学院に帰還している頃。アルビオン大陸の、
新政府の中心地の城にある、皇帝クロムウェルの部屋の中で、クロムウェルと秘書のシェフィールドが
虚空を見上げていた。
するとその虚空が、突然音を立てて割れた。比喩の類ではない。本当に、ガラスを割ったかのように
空中が割れたのだ。そしてその中には、赤く歪んだ空間とその中で蠢く何人もの怪人の姿がある。
それがヤプール人。宇宙人連合をハルケギニア世界に引き入れ、今アルビオンを傀儡としている黒幕の正体だ。
『そうか。テペト星人が散ったか。これで連合も、大分数が減ったな』
ヤプールはテペト星人がラグドリアン湖でゼロに敗れたことの報告を受けた。だがそれを聞いても、
少しも憐れむ様子を見せず、それどころか呆れたように鼻を鳴らした。
『まぁ、どうでもいいことだ。所詮、あんなゴロツキどもにはあまり期待を寄せてなかった。
超獣を十分に育成するまでの繋ぎだ』
「それで、我が支配者よ。次はどのような手を打たれますか? このままウルティメイトフォースゼロに
大きな顔をさせておいては、人間どもが発するマイナスエネルギーが低下するものと思われますが」
クロムウェルが淡々と呟くヤプールに指示を仰いだ。
しかし、本物のクロムウェルはとっくに処分されている。成り代わったナックル星人も、
タルブ戦で息絶えた。だというのに、クロムウェルがまだいる。今度は一体何者が化けているのか。
『我らが支配者! 今度はわたくしめに出撃の命令を! 最早宇宙人連合など、アテにはなりませぬ』
クロムウェルの部屋に、緑色の目をした怪人がどこからか空間転移により現れた。両手は
ハサミになっており、頭部には紅葉に似た大きなヒレが生えていて、その派手さにより目を引きつけられる。
この怪人の名はギロン人。どこの星の宇宙人かは定かにはなっていないが、雇われの宇宙人連合とは違い、
ヤプール人に直接仕えて忠誠を誓う異星人なのだ。
『私に超獣を何体かお貸し頂ければ、ウルティメイトフォースゼロなど、軽くひねってやりましょうとも!』
ゼロたちの強さを知ってか知らずか、やたら大きなことを述べるギロン人に、ヤプール人が返答する。
『ならぬ。超獣はまだ育ち切っていない。今のままではウルティメイトフォースゼロには勝てん。
超獣を出すのは、もっとマイナスエネルギーを集めてからだ』
『はッ! 出過ぎた真似を致しました!』
ギロン人はあっさりと申し出を取り下げた。ヤプール人に危ういほどに心酔しているようだ、
と傍観しているシェフィールドは評した。
『しかし、ギロン人、お前には出撃してもらうことにしよう。差し当たっては、こいつらを使うといい』
ヤプール人が片手を上げると、部屋の片隅の鉢植えが突然ガタガタと音を立てて揺れた。
シェフィールドらが目を向けると、その陰から正体不明の物体がいくつか這い出てきた。
「ほう、これらは……支配者よ、また面白いものをご用意されましたな」
シェフィールドは出てきたものが何か知らなかったが、クロムウェルとギロン人には心当たりが
あったようだ。ニヤニヤと不気味な笑みを見せている。
『そしてもう一つ。ウルティメイトフォースゼロを釣り出すのに、餌が必要だ。その餌は、
こいつが適任だろう。入ってこい』
更にヤプール人の指示により、扉が外から開かれて金髪の凛々しい顔立ちの、だが顔に
生気が全く見られない、気味の悪い青年が入ってきた。
『まずはこいつを使って、トリステインの新女王、アンリエッタを釣り上げる。それで奴らは
必ず誘き出される。そこを一気に畳んでしまえ! ギロン人!』
『ははぁッ! お任せ下さい!』
背筋を正してヤプール人に応えるギロン人。
その背後に控えた、新しく入ってきた青年は、王党派と貴族派の最後の決戦の折に、
ワルドに殺害されたはずのウェールズ皇太子だった。
新政府の中心地の城にある、皇帝クロムウェルの部屋の中で、クロムウェルと秘書のシェフィールドが
虚空を見上げていた。
するとその虚空が、突然音を立てて割れた。比喩の類ではない。本当に、ガラスを割ったかのように
空中が割れたのだ。そしてその中には、赤く歪んだ空間とその中で蠢く何人もの怪人の姿がある。
それがヤプール人。宇宙人連合をハルケギニア世界に引き入れ、今アルビオンを傀儡としている黒幕の正体だ。
『そうか。テペト星人が散ったか。これで連合も、大分数が減ったな』
ヤプールはテペト星人がラグドリアン湖でゼロに敗れたことの報告を受けた。だがそれを聞いても、
少しも憐れむ様子を見せず、それどころか呆れたように鼻を鳴らした。
『まぁ、どうでもいいことだ。所詮、あんなゴロツキどもにはあまり期待を寄せてなかった。
超獣を十分に育成するまでの繋ぎだ』
「それで、我が支配者よ。次はどのような手を打たれますか? このままウルティメイトフォースゼロに
大きな顔をさせておいては、人間どもが発するマイナスエネルギーが低下するものと思われますが」
クロムウェルが淡々と呟くヤプールに指示を仰いだ。
しかし、本物のクロムウェルはとっくに処分されている。成り代わったナックル星人も、
タルブ戦で息絶えた。だというのに、クロムウェルがまだいる。今度は一体何者が化けているのか。
『我らが支配者! 今度はわたくしめに出撃の命令を! 最早宇宙人連合など、アテにはなりませぬ』
クロムウェルの部屋に、緑色の目をした怪人がどこからか空間転移により現れた。両手は
ハサミになっており、頭部には紅葉に似た大きなヒレが生えていて、その派手さにより目を引きつけられる。
この怪人の名はギロン人。どこの星の宇宙人かは定かにはなっていないが、雇われの宇宙人連合とは違い、
ヤプール人に直接仕えて忠誠を誓う異星人なのだ。
『私に超獣を何体かお貸し頂ければ、ウルティメイトフォースゼロなど、軽くひねってやりましょうとも!』
ゼロたちの強さを知ってか知らずか、やたら大きなことを述べるギロン人に、ヤプール人が返答する。
『ならぬ。超獣はまだ育ち切っていない。今のままではウルティメイトフォースゼロには勝てん。
超獣を出すのは、もっとマイナスエネルギーを集めてからだ』
『はッ! 出過ぎた真似を致しました!』
ギロン人はあっさりと申し出を取り下げた。ヤプール人に危ういほどに心酔しているようだ、
と傍観しているシェフィールドは評した。
『しかし、ギロン人、お前には出撃してもらうことにしよう。差し当たっては、こいつらを使うといい』
ヤプール人が片手を上げると、部屋の片隅の鉢植えが突然ガタガタと音を立てて揺れた。
シェフィールドらが目を向けると、その陰から正体不明の物体がいくつか這い出てきた。
「ほう、これらは……支配者よ、また面白いものをご用意されましたな」
シェフィールドは出てきたものが何か知らなかったが、クロムウェルとギロン人には心当たりが
あったようだ。ニヤニヤと不気味な笑みを見せている。
『そしてもう一つ。ウルティメイトフォースゼロを釣り出すのに、餌が必要だ。その餌は、
こいつが適任だろう。入ってこい』
更にヤプール人の指示により、扉が外から開かれて金髪の凛々しい顔立ちの、だが顔に
生気が全く見られない、気味の悪い青年が入ってきた。
『まずはこいつを使って、トリステインの新女王、アンリエッタを釣り上げる。それで奴らは
必ず誘き出される。そこを一気に畳んでしまえ! ギロン人!』
『ははぁッ! お任せ下さい!』
背筋を正してヤプール人に応えるギロン人。
その背後に控えた、新しく入ってきた青年は、王党派と貴族派の最後の決戦の折に、
ワルドに殺害されたはずのウェールズ皇太子だった。