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第十四話「ひきょうもの!シエスタは泣いた(前編)」


ウルトラマンゼロの使い魔
第十四話「ひきょうもの!シエスタは泣いた(前編)」
冷凍怪人ブラック星人 登場



 トリステイン王女アンリエッタから、帝政ゲルマニアとの同盟に破局をもたらす手紙を
アルビオンのウェールズ皇太子より回収する任務を受けて旅立ったルイズと才人たち。
しかし護衛につけられたグリフォン隊隊長ワルドは、『レコン・キスタ』の回し者だった。
ウェールズの命を狙うワルドは才人が一度は阻止したのだったが、宇宙人連合の横槍により、
結局ウェールズの命はワルドに奪われてしまった。そのため、任務は達成したが、
ルイズと才人の心には重い雲がのしかかった……。

「……よっと。これでいいか?」
『ああ、ありがとな。これでミラーナイトといつでも話が出来る』
 旅を終えて魔法学院に帰ってきたルイズと才人が最初にしたことは、ゼロの頼みで姿見を
部屋に置くことだった。鏡ならルイズの部屋にももちろんあったが、全身が見えるものの方がいいと
ゼロが言うので、新しく購入したのだ。そして今、それを部屋の壁際に設置した。
『ルイズもありがとうな。わざわざ新しく買ってくれて』
「別に礼を言われるほどのことじゃないわ。これくらい……」
 ゼロの呼びかけに対するルイズの返事は、どこか暗かった。それを聞きとがめた才人が、
ルイズに尋ねかける。
「ルイズ、まだ皇太子のことを気にしてるのか? まぁ、俺も何とも思ってない訳じゃないけど……」
「……それもあるけど、それ以上に姫殿下のことが気に掛かってるのよ。姫殿下……あんなに
胸が張り裂けそうな顔をなさって……」
 ルイズは、アルビオンから帰還してすぐに王宮に向かい、顛末の報告をした際のアンリエッタの顔を
思い出していた。
 彼女は最愛のウェールズの死を聞かされて、静かに嘆き悲しんだ。だがそれ以上に、ワルドが
裏切り者だった事実にショックを受けていた。よりによって内通者を使者に選んだことで、
自分がウェールズを殺したようなものだと自らを責めていた。
 軍の立て直しが急がれるこの大事な時に、魔法衛士隊の一角の隊長が離反したという事実は、
余計にトリステインの負担になり、アンリエッタの負担につながる。愛する人の死でただでさえ
精神が傷ついている彼女が押し潰されやしないかとルイズは気を病んだが、そんな彼女に
アンリエッタは、努めて笑顔を作って言った。
『大丈夫ですよ、ルイズ。あの人は、最期まで勇敢に戦い、死んでいったと言いましたね。
ならばわたくしは……勇敢に戦って生きていこうと思います』
 アンリエッタはそう宣言したものの、それでもルイズの心の暗雲は晴れなかった。あの時ウェールズを
最後まで守り抜けていれば……そう考えてしまう。それは才人も同じだった。
 二人がいつまでも暗い顔をしていると、それを察したゼロが急に語る。
『ウルトラマンは神じゃない。救えない命もあれば、届かない思いもある』
「え?」
『前に親父たちが言ってたことさ。ウルトラマンは色んな超能力を持ってるが、それでも
何もかもが出来る訳じゃない。時にはどうしようも出来ないことに直面することもあるってな』
 父親たちからの言葉を語るゼロは、けど、とつけ加える。
『だからって諦めちゃいけねぇんだ。立ち止まってちゃ、救える命も救えねぇ。たとえその時は救えなくとも、
前に進み続ければ、別の命を救えられるようになるかもしれない。大切なのは、最後まで諦めずに立ち向かうこと。
心の強さが、不可能を可能にするんだってな』
「……いいことを教えてくれるお父さんね」
 ゼロの言葉で、ルイズも才人も少しばかり気持ちが軽くなっていた。そうだ、いつまでも
ウジウジしていたってしょうがないじゃないか。今は何も出来なくとも、いつか自分たちに
出来ることがやってくるかもしれない。その時のために、今よりも成長することに
力を注ぐ方が大事なのだ。もう悲劇を繰り返さないために……。
『それより今は、ミラーナイトと話をしようぜ。あいつきっと、超空間で離ればなれになってからのことを
知りたがってるだろうしな』
 ルイズたちが決心を固めていると、ゼロがそう言って、姿見に向かって呼びかけた。
『おーい、ミラーナイト! 聞こえてるかー!』
『はい。ちゃんと聞こえてますよ』
 姿見の鏡面が揺らぐと、その中に等身大のミラーナイトの姿が映し出された。鏡の中に
ミラーナイトがいる構図に、ルイズは驚いて小さく声を上げた。
『驚かせてしまいましたか? 改めて、自己紹介させてもらいます。私は鏡の騎士、ミラーナイト。
お二人にはゼロがお世話になっているようで、お礼を申し上げます』
 ミラーナイトはルイズと才人に対して深々と一礼した。しかし腰を折っても、身体が鏡面から
はみ出すことはない。完全に鏡の中に収まっている。
「これって幻術じゃなくて、本当にこの鏡の中にいるのよね……。鏡の中に入れるっていう
ゼロの話は本当なのね……」
『私のことは既にゼロから聞かれてるようですね。ではゼロ、あなたから私に、この星のことを
教えてもらえませんか? 何分やっと到着したばかりで、右も左も分からなくて……』
『おういいぜ! まずは、このハルケギニアっていうところだが……』
 ゼロはハルケギニアという星の特色や文化、文明、メイジのことや、この宇宙に到達してから
今日までのことをまとめてミラーナイトに伝えた。
『なるほど、分かりました。この星は、広い宇宙の中でも独特なようですね』
『あぁそうだな。それでここにいるのが、俺と同化してる平賀才人と、それを召喚したルイズ。
そっちの壁に立て掛けてる剣はデルフリンガーって言うんだ』
「あッ、どうも。ご紹介に預かりました、平賀才人です」
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。みんなルイズって呼んでるわ」
「この俺がデルフリンガーさまだぜ! 全くもう一人の相棒のお仲間は、相棒に負けず劣らず仰天人間だな!」
 才人たちが名乗ると、ミラーナイトはもう一度礼をした。口調から受けるイメージ通り、
相当礼儀を重んじるタイプのようだ。
『これから長いおつき合いになることかと思いますが、どうぞよろしくお願い致します。
それでゼロ、あなたには私が不在のせいで大分苦労をさせてしまったようですね。申し訳ありません』
 ミラーナイトは今までゼロが一人で怪獣、宇宙人と戦っていたことと、ゼロが移動に難儀していたことを
すまなく感じていた。
『いいんだよ。しょうがねぇことさ。それより、お前が無事にたどり着いてくれて嬉しいぜ。
危ないところを助けてもらったしな』
『そのことは、ルイズさんのお陰でもあります』
「え? わたし?」
 いきなり名前を出されたルイズがキョトンとする。
「でもわたし、あの時何もしてないわよ?」
『いいえ。この星の到着したばかりで、ゼロがどこにいるかも分からなかった時、あなたの声が聞こえたんです。
だから私はあの場に駆けつけることが出来た』
 ミラーナイトが説明されたルイズは、指に嵌まった『水のルビー』に目を落とした。一度は
アンリエッタに返却しようとしたが、彼女からせめてもの報酬にとそのままもらうことになった。
代わりに、ウェールズの形見である『風のルビー』を渡したのだった。
『あなたのゼロを助けたいと思う気持ちが、私を呼び寄せたに違いありません。感謝致します』
「そ、そんなお礼を言われるほどのことじゃないわ! 頭を上げて!」
 礼を述べられたルイズは、特別なことをしていないのにそこまで感謝されて、むしろ申し訳ない気持ちになった。
そうしていると、ゼロが話を切り替える。
『とにかく、これでウルティメイトフォースゼロが一人集結だ! これからはお前も、
ハルケギニアを守る任務についてくれるよな?』
『もちろんです。それに、鏡さえあれば、ゼロも私の能力で現場へと移動できるようにしますよ』
『おぉっし! これで大分楽になるぜ!』
 今までの問題が解消するより、ミラーナイトに会えたことの方が嬉しそうなゼロに、
才人とルイズが思わず苦笑した。
『私の力が必要な時は、鏡面に向かって呼んで下さい。いつでも馳せ参じます』
 話が済んで、ミラーナイトの姿が鏡の中から消えると、ルイズは才人に向き直り、その中のゼロに向けて言った。
「あの、ゼロ……昨日は、ごめんなさい」
『ん? 急にどうしたんだ』
「昨日はわたし、ひどいこと言っちゃったでしょう。わたしの方こそ、あなたの事情を無視して勝手なお願いして、
当たり散らして……今になって思えば、自分が恥ずかしいわ……」
 ルイズは王軍への助力を頼んで、断られたことで怒鳴り散らしたことを冷静になった頭で思い返し、
反省していた。申し訳なさそうな彼女を、ゼロはあっけらかんと許す。
『いいってことさ。俺も同じ立場だったら、無理言ってると分かっててもキレてただろうからな。
むしろお前が辛いのに、何の力にもなってやれず、すまないと思ってる』
「そ、そんな……こっちが悪いのに、そう思われたらほんとに申し訳ないわ」
 二人が謝り合う状態になったことで、才人も含めて笑いをこぼす。そしてその件は、自ずと
水に流すことになった。

 その後、才人はルイズの部屋を出てある場所へ向かっていた。
『才人、もうじき日が沈むっていうのに、どこに行くんだ?』
「厨房だよ。シエスタにお礼を言いに行くんだ」
 シエスタとは、才人が魔法学院に来てからよく世話になっているメイドのこと。才人がこちらの世界で
最初に仲良くなった相手でもある。しかしルイズは、何故か彼女のことをよく思わないらしい。
別に反りが合わないという訳でもないようなのに、不思議だと才人は考えている。
「俺たちが留守にしてる間に、ルイズの部屋の掃除をしててくれてたみたいだしな。それで
マルトー親方に、今どこにいるか聞くんだよ」
『そういえば帰ってきてから、シエスタを見てないな。まだ俺たちが帰ってきたのにも気づいてないかもしれねぇな』
 ゼロと話し合いながら、厨房に足を運ぶ才人。しかしそこで、料理長のマルトーからとんでもないことを聞かされた。
「ええッ!? シエスタが辞めた!?」
「ああ。我らの剣が不在の間にな……」
 ギーシュを倒した才人を、平民の希望の星だと呼ぶマルトーは、はっきりと告げた。
「そ、それってどういうことですか!? シエスタが何かしたんでしょうか……! それか家庭の事情とか」
「いや、そういうことじゃないんだ。胸糞の悪い話なんだがな……」
 マルトーは不快そうに顔を歪ませて、事情を話す。
「先日王宮の遣いのモット伯っていう貴族がやってきてな。学院長に用事を告げて、そのまま
帰ればよかったってのに、偶然鉢合わせたシエスタに目をつけると、自分のメイドにするって言って
引っこ抜いていっちまったんだ……」
「何だって!? そんな無茶苦茶な! シエスタの意思は!?」
「もちろんあいつも嫌がってたが、平民の気持ちなんて、貴族にはどうだっていいのさ。
そして平民は貴族に逆らえない。悔しいが、俺たちじゃどうしようも出来ないのさ……」
 残念そうにマルトーが語っている間に、才人は歯を食いしばって顔を歪めていた。

「モット伯? ああ、僕も噂には聞いたことがあるよ」
 シエスタを連れ去ったモット伯の情報を得るため、才人はギーシュを捕まえてモット伯のことを尋ねた。
「『波濤』の二つ名を持ち、王宮の勅使の役を任されるほどの貴族さ。ただ、相当な好色家で、
あちこちで若く美しい平民の娘を買い入れて、自分の屋敷に囲ってるそうだ。特に最近は
頻度がひどいって話を聞いてるね」
「そうか……ギーシュ、お前みたいな奴なんだな」
「一緒にしないでくれないか……? 僕は無理強いはしないよ。か弱き女の子は、優しく愛でるものさ」
 相変わらず歯の浮くような台詞を臆面もなく言うギーシュである。
「それでまさか、そのシエスタというメイドを取り返そうというつもりかい? やめた方がいいよ。
評判は良くないといえ、モット伯は王宮に直々に仕えるほどの貴族。平民の君にどうこう出来るものじゃないんだ」
「出来る出来ないじゃないんだよ! シエスタのためなんだからな!」
「……まぁ、警告はしたからね」
 熱く語る才人に閉口したギーシュは、ふと思い出してつけ加える。
「あッ、そういえば、モット伯がゲルマニアの貴族が家宝にしてる、この世に二つとない
珍しい書物も欲しがってるって話を聞いたことがあるな。もしかしたら、それがあれば話は別かも……」
「何だって!? その貴族ってのは一体誰だ!?」
「うわわ!? や、やめてくれたまえ君!」
 興奮した才人がギーシュを揺さぶったので、ギーシュは目を白黒させる。
「ぼ、僕も詳しいところは知らないんだ。それによく考えれば、ゲルマニア貴族の家宝を
手に入れるなんて土台無理な話だよ。今のは忘れてくれ」
「くそッ……まぁとにかく、色々と教えてくれて助かった。最後に一つ、モット伯の屋敷の道順を教えてくれ」
 ギーシュより屋敷までの道のりを聞き出すと、才人は彼から離れた。
「道筋は分かったけど、実際問題どうするか……見当がつかないな。ゼロ、何かいい方法はないか?」
『難しいな……。この星の住人が相手じゃ、ウルトラマンの超能力を使う訳にはいかない。
あくまでこの星のルールに則らないといけないんだが……』
「方法はないか……。けど、とにかく行動しないと始まらないよな!」
 手段は思いつかなかったが、才人はモット伯の屋敷に向かうことに決めた。だがちょうどその瞬間に、
角の陰から呼び止められる。
「ちょっと待ちなさい。ご主人様を放ってどこに行くつもり?」
「うわッ、ルイズ!? どうしてここに?」
 陰から顔を出したのは、他ならぬルイズだった。
「妙に戻るのが遅いから、捜しに来たのよ。全く手間を掛けさせて……。まぁそれより、
モット伯のところへ行くつもりなんでしょ?」
「ま、まさか今の話聞いてたのか?」
 無言で肯定したルイズは、ハァとため息を吐く。
「向こう見ずにも程があるわね。ギーシュも言ってたけど、モット伯は貴族よ? 今回ばかりは
力押しじゃどうにも出来ないでしょうし、平民のあんたじゃお目通り出来るかどうかも定かじゃないわ」
「けど、シエスタが! このまま黙ってることなんて!」
「ちょっと落ち着きなさい」
 焦る才人を制して、ルイズが告げる。
「しょうがないから、わたしが一緒に行ってあげるわ。公爵家のわたしが相手なら無視は出来ないはずよ。
そしたら、交渉の余地もあるわよ」
「えッ、ほんとか!? 本当に協力してくれるのか!?」
 申し出に大喜びする才人だが、直後に不思議がる。
「でも意外だな。お前ってシエスタのこと好きじゃなさそうなのに、力を貸してくれるなんて」
「確かに、あの子のことはあんまり気に入らないけど……不必要にサイトにベタベタするし……」
 途中のひと言は、聞こえないように小声で話すルイズだった。
「でも、だからって放っておくのは目覚めが悪いわ。それにあんたはアルビオンへの旅で
いっぱい頑張ったし、そのご褒美代わりよ」
「そうか! とにかく、ありがとうなルイズ!」
「お礼を言うのは早いわよ。メイドを取り返してからにしなさい」
 非常に嬉しそうな顔を見せる才人を一瞥したルイズが、次のように思う。
(そうよ。サイトとゼロには何度も助けてもらってるんだから、せめてこういうところじゃ
力になってあげないと……)
 才人とゼロにどんな力があろうと、貴族社会の中では無力に等しい。だから二人の代わりに力になろう。
今の自分では、そういうことでしか役に立てない……と、とにかく才人とゼロの役に立つことを望むルイズは考えた。

 それからモット伯の屋敷へ急行したルイズと才人は、門番に話をつけて、屋敷の中に立ち入ることに成功した。
「うわッさぶッ! 何だってこんなに寒いんだ? 夏でもないのに、冷房効きすぎじゃないのか?」
 門をくぐってエントランスホールに踏み込んだ才人は開口一番に、身体を震わせつつ言い放った。
屋敷の中は、明らかに外よりも冷え込んでいるのだ。
「レイボウが何かは知らないけど……確かに変ね。水系統の魔法でも暴発させたのかしら?」
 ルイズも身震いしながら疑問に感じていると、二人の面前に問題のモット伯が、執事風の格好の老人と
うら若き乙女を従えながら屋敷の奥よりやってきた。
 ルイズと才人は、その内の乙女、もっと言えば彼女の格好に目を引きつけられた。ハルケギニアでは
見たことのない純白の衣装を纏っており、ルイズはどこの民族衣装だろうと考えた。
 だが才人はその衣装の正体を知っていた。日本の伝統的な着物そのものなのだ。だが、
当然この世界に日本は存在しない。ならあの着物はどういうことか? その疑問を考える間もなく、
モット伯が口を開く。
「そなたがヴァリエール家の三女か。こんな夜更けに、どのような御用で」
 非常に抑揚のない、冷たさすら感じられる口調だった。この屋敷の中の気温より冷たいかもしれない。
(変ね……学院で遠巻きに見ただけだけど、こんな人だったかしら。顔色もやけに悪いし……
もっとも、それはここの衛兵たちも同じだけど)
 モット伯や周りにいる衛兵たちの様子を観察していぶかしむルイズ。そろいもそろって
青白い顔を並べており、比較的血色がいいのは老人と女性だけというありさまだった。
 しかし今はそんなことを考えていても仕方ない。気を取り直して口を開く。
「突然のご訪問をお許し下さい。実は、伯爵に折り入ってお願いがございます」
「それは一体何か」
「伯爵が学院よりお連れになった、シエスタという名のメイドをお帰しいただきたいのです。
彼女はわたしの使い魔がよく世話になっている娘ですので、急にいなくなられると困ると
使い魔が申しております。代わりに伯爵のご要望を、ヴァリエールの名の下に何でもお叶え致します。
どうぞ、お願い出来ませんでしょうか」
 へりくだった態度で頼み込むルイズ。しかし、
「断る。今の私が求めるのは若い娘のみ。それ以外には何も求めぬ。帰るがよい」
「なッ……!?」
 交渉する余地もなくはねつけられたことで、ルイズも才人も絶句した。上手く行かないかもしれないとは思ったが、
ここまで頑なな態度を取られるとは思わなかった。
「ち、ちょっと! 少しは考えてくれてもいいじゃないですか!」
 必死に食い下がる才人だが、彼が口を開くと、モット伯は汚らしいものでも見るような目つきを向けた。
「黙れ。平民風情が、貴族の私に盾突こうというのか。衛兵、その男を叩き出せ」
「うッ!?」
 モット伯の命令で、あっという間に衛兵が才人を掴んで、槍を向けた。想像以上の暴挙に
ルイズが慌てていると、モット伯の前に黒髪でそばかすが目立つが整った顔立ちの
若いメイドの少女が飛び出てきた。彼女こそ、問題の中心のシエスタだ。
「お待ち下さい! 伯爵、この者をお許し下さい! 私が代わりに罰をお受けしますので、どうか!」
 隠れて話を聞いていたシエスタは、すぐに才人への許しを乞うた。だがモット伯は態度を緩めない。
「邪魔だ。たかだかメイドが、お前も私に逆らうというのか!」
「あうッ!」
 あろうことか、モット伯はシエスタを足蹴にした。これにはルイズも怒りを爆発させた。
「伯爵! いくら平民でも、何の罪もない娘に何て振る舞いを! すぐに謝りなさい!」
 声を荒げて怒鳴ると、ルイズにも槍の穂先が突きつけられた。
「ちょッ!? ど、どういうつもり!? わたしに手を上げるなら、ヴァリエール家が黙ってないわよ! 
それでもいいの!?」
 普段は出さない家の名前で脅しを掛けることまでするが、そうしたらモット伯に代わって老人がルイズを嘲った。
「黙れ黙れ、所詮は小娘が! 伯爵は今や、そんなものなど全く怖くないほどの力を得られたのだ! 
痛い目を見たくないのだったら、このまま黙って帰るがいい!」
「何ですって……!?」
 ルイズはたかが使用人が自分に向かって無礼な物言いをしたことより、その内容に耳を疑った。
公爵家の権威が怖くない力とは、どういうことなのか。おかしい。入った時点で思っていたが、
この屋敷はおかしいことだらけだ。
「ちょーっと、お待ちなさいな!」
 危機的状況にルイズと才人が冷や汗を垂らしていると、急にこの場には似つかわしくないほど
明るい声が響き渡り、同時に門が外から勢いよく開かれた。そうして立ち入ってきた人物の顔を見て、
ルイズが唖然とする。
「キュルケ!? あんた、何でここに!?」
 燃えるような赤い髪は見紛うはずもない、キュルケである。相変わらずタバサが同行しているのは、
シルフィードに乗せてもらったからだろう。ルイズの問いかけに、キュルケはしれっと答える。
「今日旅から帰ったばかりなのに、サイトがギーシュからモット伯爵の話を根掘り葉掘り
聞いてるところを目にしてね。これは何かあると思って、つけさせてもらってた訳」
「ちょっと! また野次馬根性出したってことね!?」
「まぁまぁ、今はそんなこといいじゃない。それよりモット伯爵」
 ルイズを適当にあしらうと、キュルケはモット伯に向き直って、服の下から包みに覆われた何かを取り出す。
「聞けばあなた、我がツェルプストー家の家宝をご所望なんですって? ここにあるから、
それでお手打ちにして下さらないかしら?」
「え? 家宝って……まさかギーシュが言ってたゲルマニアの貴族って、キュルケのところだったのか!?」
 かなり身近にいたことに、才人は思い切り面食らった。
「これは昔、あたしのおじいさまが、あるメイジが偶然何処かから召喚したものを買い取ったものなの。
あたしも中身を見たけど、ほんとにこの世に二つとないような珍しい本で、特に伯爵のようなお人が
欲しがりそうなものだったわ。だからこれに違いないと思って、嫁入り道具として渡されたこれを持ってきたって訳」
「い、いいの? 家宝をそんな簡単に交渉材料にしちゃって」
 キュルケのことを毛嫌いしているルイズも、さすがに戸惑った。だがキュルケはあっさりとしている。
「字は読めなかったけど、載ってる挿絵だけならあたしには必要のない内容だったし、別に構わないわ」
「……断る。今の私に必要なものは、生身の娘だ。書物など、どうでもよい」
 求めていたはずの書物を引き合いに出しても、モット伯は断固として譲らなかった。
しかしキュルケは下がらない。
「まぁそう焦らないで。中を見てからご判断なさっても、遅くないんじゃないかしら?」
 と言いながら、包みを外して、中身を皆の目に披露した。その瞬間、才人が思わずつぶやく。
「えッ!? あれって、エロ本じゃ……」
 書物の正体は、女性のあられもない姿が表紙になっている、ひと昔前のエロ本に間違いなかった。
予想外すぎる正体に才人が言葉をなくしていると、それに反応した者がもう一人いた。
「何!? それは地球の書籍か! 何故この星に?」
「……え?」
 おかしなことを口走った老人に、ルイズや才人、キュルケらの視線が集中した。そうすると、
老人は途端にしまったという表情になる。
『才人、あいつもしかして……』
「ああ。俺も今そう思った」
 ハルケギニア社会では耳にしない単語が飛び出たことで、ゼロも才人も老人の正体を勘ぐった。
そのため才人は、確信を得るために、こっそりウルトラゼロアイをガンモードで取り出して
老人に突きつける。
「おいあんた。これが見えるか?」
「ぬッ!? 貴様まさか! おのれッ!」
 ウルトラゼロアイは、この星の住人では武器になるものとは想像できない形状なのにも関わらず、
老人は明らかに用途が分かっている反応を見せた。これで確定だ。
「お前人間じゃないな! 正体を見せろッ!」
「ぐわぁッ!」
 トリガーを引いて光線を浴びせると、それにより老人の姿が揺らぎ、黒い身体に白い顔面、
ギョロリと剥いた大きな眼球に赤鼻が目立つ怪人の姿に早変わりしていた。
「そ、その姿は! もしかして!」
 ルイズたちがこの変化に驚愕していると、正体を現した怪人は名乗りを上げた。
『バレてしまったならしょうがない! 私は宇宙人連合の一人、土星からやってきたブラック星人だ!』


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