あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのドリフターズ-26



 首都ロンディニウムの大通りを歩いて行く二人の少女。
祭りの熱気は未だ健在で、夜でも人通りは多いがそれが逆に丁度良い隠れ蓑になる。
片方は変装を解いてメガネに青髪ポニーテールのいつもの格好。
もう片方は巨大な胸を外套で目立たなくし、帽子を目深に被り"耳"を隠している。

「マチルダさんは?」
向かうは以前に気に入った酒場であった。大衆向けだがそこの料理が美味しかった。
ほんの少しばかりだが、ティファニアに夜の都会の楽しみを教えてやる為に連れ出した。
トリスタニアとは趣が違うが、首都育ちにとっては慣れたものである。
昼間に散々はしゃぎ回った子供達は、宿でサイトが面倒を見てくれている。
ルイズやキュルケ達にも誘われたが、アルビオンにいる間にしか会えないティファニアを優先した。

「マチルダ姉さんはどこかに行っちゃった。なんか"いい男を引っ掛けた"からって」
シャルロットはその人物をつい同情する。きっとマチルダは心労溜まっている筈だ。
夜を通して付き合わされることになるかも知れないと。
「おヒゲの人だった」
「会ったの?」
「うん、宿に顔を出してくれて・・・・・・その時に一緒だった。ただ――」
「ただ?」
「多分・・・・・・なんだけど、出場者の中に似た人がいたような――」

 シャルロットは特徴をティファニアに尋ねる。
本戦出場者の内、当然自分含めて6人は知っている人間。
残る10人も敗退者含めて頭の中に入っていた。
"髭"、"帽子"、"マント"、"騎士のような剣"、"意外と若そう"、"顔は割と美形"。
(・・・・・・まさかね)
テファが挙げていった全てが該当するのは、顔見知り程度だがあの人しかいない。
だがしかし天下の魔法衛士隊が、便利屋という名の使い走りに振り回されるとも――

(でも・・・・・・アンリエッタ様で繋がる、か)
両王家に仕える身である以上は任務なり報告なり、顔を合わせる機会もないとは言えないだろう。
もし彼であったなら、明日に第二回戦を控える身ながら、ご愁傷様と心の中で呟く。

 ――するすると人の波を抜けながら、場末の酒場に辿り着く。
何日も前から口利きをしていたので、名前を告げるとすぐに案内される。
武技大会という名の祭りで賑わう今夜に、たかが酒場が席をとってくれたのだからありがたい。
己も試合を控えている身である以上、軽く済ませる程度だが、テファとならばそれで充分である。

 店は繁忙を極めているようであった。突然なかき入れ時となったので当然だ。
食前酒を飲みつつ、食事が出て来るまで時間が掛かるだろうなと思った矢先、見た顔を発見した。
溶け込んでそうで明らかに溶け込んでいない――特に一人が。
シャルロットは少し迷った結果、テファに断りを入れて席を立つ。
歩きながら一度だけ咳払いをし、神妙にお近付いた。

「こんばんは」
テーブルに座るのは4人。シャルロットから見て左手前に少女、右手奥に少年。
そして――左奥にドゥドゥーと右手前のジャックだった。
特にローブで筋肉を隠していてもジャックの巨漢は見間違える筈もなく、あからさまに一人だけおかしい。
「だぁれ? 会ったことあったかしら?」

 返してきたのは兄弟唯一の少女ジャネット、ルイズに気があるとかなんとか。
次男のドゥドゥー、第二次予選でキュルケを倒したそうだ。一回戦もその強さを見せつけた。
長男のジャック、ジャネットの言ではドゥドゥーよりも強いとか。同じく一回戦を思い出せば納得。
三男のダミアンは特段何もなし。強いて言うなら利発そうな子だ。
いずれもキュルケから聞いていたこと。それらを踏まえつつ知らない振りをする。

「いえ・・・・・・ジャック選手とドゥドゥー選手ですよね? 一回戦見ていました」
タバサとして出場している以上、こちらの面は割れていない筈だ。
タバサの時点で声色は変えている為に、今は装いこそすれ演じる必要はない。
普段通り初対面や目上の者に対しての、丁寧な言葉遣いをするだけ。
テファには少し悪いが、情報収集の大好機を逃す手はない。
可能な限り探っておくに越したことはないと。
ドゥドゥーもジャックも恐ろしい強さだったのだから。

「良かったわねドゥドゥー兄さま、ファンの方よ」
傍から見れば我ながら異様だと思う兄弟だった。話しかけてきたのは彼女が最初である。
であれば、それなりに興味を持ってくれているとジャネットは解する。
「すまない、ぼくは軟派な男じゃないんでね」
ドゥドゥーはあしらうように言ってみせる。

「え・・・・・・あの・・・・・・」
勝手に進む話にシャルロットは言葉を飲み込む。このまま話を進めるのも悪くはないかなと。
しかしジャックがその態度に何か思うところあったのか、低い声音で聞いてくる。
「どうした?」
「まぁその・・・・・・ジャック殿に賭けさせて頂いたので、明日の優勝を願って一杯くらい奢ろうかと」
問われたのならばまぁいいかと、シャルロットは当初の予定通りに答えた。

「あっはははは!! ドゥドゥー兄さまったら道化だわ」
「なっ――おまえが言い出したんじゃないかジャネット!!」
「さらに勝手に勘違いして自爆したのは兄さまじゃないの」
隣同士で仲良く口論する二人を少しばかり微笑ましく見ながらも、シャルロットは尋ねる。

「ジャネットさん?」
名前は聞き及んではいるが、当然それを表に出すわけもなし。
「あぁ・・・・・・そういえば自己紹介してなかったわね、お互いに。ジャネットよ」
「知っているとは思うが、ドゥドゥーだ」
「ジャック」
「ダミアン、よろしく」

 シャルロットは少し逡巡するも、特段隠す理由もないのであっさりと本名を名乗る。
「私はシャルロットです。・・・・・・もしかして皆さんは全員ご兄弟なんですか?」
「そうよ、"元素の兄弟"」
「元素?」
「ぼくらの呼び名さ。風、水、土、火――」
言いながらドゥドゥーは自身、ジャネット、ジャック、ダミアンと順番に指差していく。

「へぇ・・・・・・皆さんメイジなんですね」
「あなたもでしょ?」
ジャネットの鋭い突っ込みに一瞬ドキリとする。
私服であったし、武器も後ろ腰の見えない部分に地下水が一本だけなのに見抜かれるとは。

「私が生まれる前に父の代で没落して、私自身才能ないんですけど。・・・・・・よくわかりましたね?」
「なんとなく、ね。それにわたし達にまるで物怖じしてないあたり、平民とは思わないし」
往々にして平民は貴族を――メイジを恐れるものだ。
立場言うに及ばず、絶対的な力量差が卑屈な心地にさせる。

「でも、なんでだろ・・・・・・あなた強い感じするけど?」
「そうですか?」
声の調子は崩さない。装うと決めたからには徹する。
「そうよ、でも弱くも見える。眠ってるような、はたまた擬態してるような、不思議な感じ」
「よくわかりませんけど、もしも私の力が眠っているのだとしたら・・・・・・嬉しいですね。
 魔法学校に通っていて劣等生な身としては、可能性があるようなことを言われるのは――」
それは素直な気持ち。ジャネットの根拠のない感覚的なことだとしても。
しかも気休めなどではなく、ただ純粋に見てそう思ってくれたということ。

「へぇ~、学生さんなんだ」
「皆さんは違うんですか?」
特にジャネットとドゥドゥーは年の頃としては近いだろう。
ジャックに関してはとても学生に見える風貌ではないし、正直堅気にすら見えないが一応まとめて聞いてみる。
「ぼく達はまあ、何でも屋みたいなものかな」
「相応の金さえ積めばどんなことでも請け負ってあげるわ」

「ドゥドゥー、ジャネット」
ジャックが抑揚はないのに迫力のある声で、弟と妹の名を呼ぶ。
傍から聞いていても察せた。「余計なことを言い過ぎるな」ということだ。
最初から普通の人間とも思ってはいなかったが、いよいよもって住む世界が違う者達のようである。

「まぁ・・・・・・その、あれですか? 今回は賞金目当てで?」
士官目的にはなんとなく見えなかった。まさか何でも屋稼業の一つというわけでもないだろう。
「そうよ、お金って大事よね。シャルロットあなた得したわよ、ジャック兄さまなら確実に勝ってくれるわ」
「頼もしいです。ただその・・・・・・土系統なんですよね?」
実力の疑いようはないが、それでもやはり『土』と『火』は今大会のルールでは相対的に不利である。

「案ずるな、確かにオレは土だが風などには負けん」
ジャックは淡々と、それが事実だからとばかりの言い様にドゥドゥーが噛み付いた。
「ちょっと聞き捨てならないなジャック兄さん、優勝はぼくだよ。もちろん兄さんにも勝つつもりだから」
「またドゥドゥー兄さまの寝言が始まったわ。それとも酔っ払ってるのかしら?」

 ドゥドゥーの肩が僅かに震えた後に、感情を肺一杯に溜めてからゆっくりと吐き出す。
「はぁ~・・・・・・、ジャネットは何故ぼくには辛辣なんだい?」
「ドゥドゥー兄さまが弄りやすいから悪いのよ。ジャック兄さまやダミアン兄さまを見習えばいいのよ」
「・・・・・・えっ?」
シャルロットは聞こえた引っ掛かりについ疑問符を浮かべる。
「うん? どうしたの?」

 ジャネットとドゥドゥーは気付いていないようであった。
しかしシャルロットはその耳でしかと、聞き逃しはしなかった。
ジャックは眉を僅かに顰め、ダミアンはやれやれと目を瞑る。
キュルケ達からは末っ子と聞いていたし、どう見たって一番年下に見えるダミアンを確かに"兄さま"と呼んだ。
しかも二人が気付かないほどに、自然な呼び方として定着しているものなのだろう。

 そんなジャネットのミスも受け入れるように、ダミアンは口を開く。
「"長男"のダミアンだ。何かと不便なことが多くてね――」
「あっ・・・・・・」と口走ったジャネット本人が自覚し、そしてドゥドゥーも続くように気付く。
頭を下げるダミアンに、シャルロットは言葉がない。色々考えるも、何一つ言わないことを選択した。
発育不良かなにかだろうか――いずれにせよ身体的欠陥を無遠慮に聞くことは憚られる。

「別に気にすることはないじゃないか、ダミアン兄さん。そもそも他人の目なんてぼくらにはどうでもいいだろう?」
「そうね、珍しくドゥドゥー兄さまの言う通りだわ。正直面倒なのよ」
「お前ら・・・・・・その面倒を引き受けるのが兄さんなんだ。お前達がしっかり切り替えるだけで済むことでわざわざな」
「ちっ・・・・・・ちょっと!! ぼくまで一緒にしないでくれよ。ぼくは何もしくじってないじゃないか!!」
「あら、ドゥドゥー兄さまだってたまに間違ってたじゃない」
「ぼくが!? いつ!? どこで!?」
「どうせドゥドゥー兄さまは覚えてないでしょうよ――」

 ジャックは手を額に置いて憂鬱そうにし、ダミアンはワーキャー喚く弟と妹を見つめる。
ダミアンは申し訳なさそうなシャルロットへと視線を移すと、笑って語り掛ける。
「君は気にすることはないよ、シャルロット――それで、ジャックに酒を奢ってくれるんだっけ?」
その表情の中にダミアン本人が何も感じ入っていないのを見て取ると、シャルロットは笑う。
シャルロット自身の劣等感のように、慣れているのか――達観しているのか、気にするほどでもないことのようだ。
「そうですね、折角ですから皆さんに奢りますよ」


 シャルロットは丁度近くにいた店員を掴まえてそれぞれ一杯ずつ奢り、皆で乾杯する。
「ん~、タダ酒って美味しいわ」
「まったくだね、明日にも気合が入る」
「感謝する」
「ありがとう、シャルロット」
「いえいえジャックさんが勝って下されば、またその時にでも勝ち金で・・・・・・――」
和やかな雰囲気になってきたというところで、シャルロットはもう一歩踏み込む。

「勝率はいかほどですか? 素人目で難ですが、特に前半ブロックはかなりの激戦の予感がしますが・・・・・・」
土系統でも風系統には負けないと豪語するジャックではあるが、強者から見る他者評価も聞いてみたいと思う。
「確かに骨がありそうな奴が多くて楽しみだ。が、問題なく勝てるだろう」
「ま、勝つのはぼくだけどね」
さりげなくドゥドゥーが口を挟むものの、もう誰も突っ込まない。
兄弟間の力関係は本人達が一番わかっているのだろう。
虚勢を張るようなドゥドゥー自身の声音にもそれが窺える。
「お二人とも強いですよね、なんだか魔法も使ってない感じでしたし。
 ジャックさんはわかりますが、ドゥドゥーさんなんてどこにあんな力があるのか――」

「そりゃそうさ、ぼくらは普通のメイジとは違うからね」
と、ジャネットが肘でドゥドゥーを小突く。
その様子を見て、なるほど言いづらい、若しくは言えないようなことなのか。
下手するとルールにも抵触しかねないことも考えられる。
もっともシャルロットも人のことを言えた義理ではないのだが・・・・・・。

「ま・・・・・・まあ、鍛え方が違うってことだよ」
「ほほぉ~――」
あくまで憧れと感心の感情に留めて表に出す。微塵にも訝しむような様子は見せてはならぬと。
そしてダミアンのさりげない視線もさっきから気になった。
逆にこちらが観察されているような気分になり、これ以上突っ込めば怪しまれると直感する。

 ――ともすると丁度タイミング良く眼の端に、テファの元へ運ばれる料理も見えたところで、シャルロットは話を切る。
「あ・・・・・・すみません。料理が来たみたいなので私はこれで――」
「連れも一緒にここで食べればいいじゃない」
ジャネットの提案にシャルロットは丁重に断りを入れる。
「いえ、彼女は人見知りなのでちょっと・・・・・・ごめんなさい」
「人にはそれぞれの領域があるからね、無理強いするのは良くないよジャネット」

 何やら含みがありそうなダミアンの物言いだが、特に気にもせずシャルロットは一礼して踵を返した。


「ごめん、待たせた」
「ううん大丈夫、もういいの?」
シャルロットはコクリと頷き席へとついた。

 二人で食事をしつつシャルロットは頭の中で情報を整理する。
元素の兄弟。火の長兄ダミアン、土の次男ジャック、風の三男ドゥドゥー、そして水の末っ娘長女ジャネット。
強さの核心部分は得られなかったが、秘密がありそうなことと、彼らの人となりは充分知れた。
ドゥドゥーは割と考えなしでお調子者な部分があり、テンションに身を任せるタイプ。
ジャックは意外と饒舌っぽいが、頑強な大岩のように付け入る隙がないように見える。
いずれにしても単純な強さから難敵であるに違いはない。

(とはいえ・・・・・・まずは"シャナオウ"か)
宣言通り圧倒的な強さを見せて勝利した非メイジの剣士。
二戦続けてメイジでないことは幸か不幸か、逆にメイジ相手である方が幾らか闘り易いやも知れないとも。
「シャルロット、なんだか嬉しそう?」
「ん・・・・・・自分でも少し驚いてる」

 戦闘狂の気持ちというものが少しだけわかる。勝利と敗北を同時に味わったあの死闘。
『白炎』のメンヌヴィルと戦っている時にすら、僅かばかりとはいえ・・・・・・なくもなかった。
そしてアニエスに勝ったことで大いに自覚した。命を懸ける死合でもないが、鍛錬試合ともまた違う趣。
努力して持ち得た力を存分に振るう快感。勝つことで満たされる圧倒的な充足感。
時に理性的に戦術を組み立て、時に本能的に行動する。そうやって積み重なり伴う結果。

(溺れないようにしないと――)
行き着く先まで決して行き着いてはいけない、甘美な闘争という果実。
メンヌヴィルのように、最終的に破滅のみが待つその道を進むわけにはいかない。
闘争とはあくまで"手段"であり、その先の"目的"を達成する為の行為である。
戦そのものを目的としてはいけない。目的と手段をすり替えてはいけないのだ。

「それじゃ改めて乾杯」
「うん、乾杯」


「はぁ~あ・・・・・・」
ワイングラスを片手にキュルケは大きく聞こえるように溜息を吐いた。
よりにもよって、隣には半目し合うルイズ、向かいにはライバルのジョゼット。
そして斜めには何考えてるのかわからないシルフィードの四人で、テーブルを囲んでいた。

 シャルロットがいないのなら、一人で誰か男でも誘って飲んでいた方が良かったかもしれない。
ルイズは夕方にシャルロットとジョゼットと合流した際、既に散々からかった。
別に会話がなくもないし、楽しくないわけでもない。でもいまいち足りない感じ。
せめてサンダンスやブッチがいればと思うが、二人は今頃どこかで遊んでいるのだろう。

「んん~・・・・・・」
ジョゼットは、肉をひたすら頬張り続けるイルククゥを横目に、ボーッと眺めつつ試合を振り返る。
昼間は危なげな内容だった。あのジュリオという名の月眼の男は文句なしに強かった。
開き直った全力攻撃が、上手くいっただけに過ぎない。

 次の相手はドゥドゥー。アレはさらにどうしようもなく強い。兄らしいジャック共々異常な程に。
その次はお姉ちゃんか、或いはシャナオウとかいう異国の剣士。勝ち上がった方となる。
姉は当然として、シャナオウも単純な見立てだが己よりも強そうであった。
いずれにしてもまずは目の前の試合。ドゥドゥーの持つ大会最長のあの大剣。
あの長大なリーチの懐に、如何に潜り込めるかに掛かっているだろう。

「うぅ・・・・・・」
ルイズは自己嫌悪に陥っていた。
ジャネット。確かに女のわたしから見ても可愛らしかった。
突然の頬舐めにドキッともしたが、決してそっちの気はわたしにはない。
キュルケは本気とからかいの両方で、「愛に垣根なんてない」と言っていた。
が、節度は保つべきだ。面子は守るべきなのだ。
いやそもそもこんなことを考え続けるのもおかしなことだ。
これではまるで意識しているみたいじゃないか。ありえない。そんなことあるわけないのだ。

 そんなループした思考の迷路を彷徨い続けていると、店に入ってきた人物に気付く。
眼が合ってすぐに誰なのかを気付き、ルイズは呟いた。
「ワルド・・・・・・子爵――」
――と、見知らぬ女が隣にいた。
キュルケはルイズの言葉に即座に反応した後に、落胆し、開き直る。
「あら、丁度いい――って、女連れじゃないの。・・・・・・でもま、いっか」
キュルケはワルドに向かって手を振って示す。
港町で少々挨拶した程度の仲であるが、それで十分だった。
こちらに気付いたワルドともう一人は、すぐに近付いてくる。

「や・・・・・・やぁルイズ・・・・・・」
救いの手を求める子供のようでいて、半ば諦めたような力ない瞳の色。
そんな姿は見たこともなくてルイズは驚き、なんと言葉にしようか迷ってしまう。
「アンタらか」
ワルドの隣にいる謎の女は、ぶっきらぼうに口を開く。まるでこちらを見知っているような物言い。
「どこかでお会いしましたっけ?」
キュルケが毒づくように尋ね、ジョゼットはぽけーっと顔を向けていた。

「思い出せないなら別に構やしないよ」
女――マチルダは言い放つ。あくまでシャルロットとの繋がりはないことになっている。
ゆえに自分が恩赦で釈放されて、今こうして働いていることも伝えられてないのだろう。

「まあどうでもいいわ。ワルド子爵、そんなオバサンの相手じゃなくてわたくしと相手してくださる?」
「あんだって? この小娘」
「う・・・・・・う~ん・・・・・・」
ワルドとしては強敵揃いの明日に備えてゆっくりと一人で休んでおきたかった。
しかしいつの間にか、よくわからないままに、目を付けられ、この有様である。

「っていうかあれでしょ? 昼間の――」
目は悪くないし、しっかり見ていたルイズが思い至り口にする。
「あぁ、エキジビションとやる気のない解説してたあの・・・・・・」
ふ~んと上から下までマチルダを眺める。言われみれば格好は変わっていない。
とても男と飲みに行くようなものではなく、まさに仕事帰りといった感じだ。

「あっ・・・・・あーーーーーっ!!?」
ようやくそこでジョゼットが気付く。眼鏡を外した印象の差異はシャルロットで慣れている。
学院にいた時に眼鏡を掛けていたその人物も、話し方を含めて印象は大きく変わっていた。
しかし声を聞いていてピンッときた。
「ロングビル! 『土くれ』のフーケ!!」
ルイズ、キュルケ、ワルドまでも驚き、イルククゥは一人で肉を食べ続けていた。

「予め言っとくけど恩赦だからね、脱獄したわけじゃないさ」
「君があの『土くれ』・・・・・・?」
ワルド自身直接相対したことはないものの、魔法衛士隊も手を焼いたという怪盗。
そんな人物がトリステイン女王とアルビオン皇太子の下で働いていたなどと――

「ブッチとサンダンスに無様に倒されたっていう?」
「・・・・・・どうせわたしは役に立たなかったわよ」
何一つやってなかったどころか、むしろ足を引っ張っただけの苦い思い出にルイズは不貞腐れたような顔になる。
「そうでもないさね、アンタが塔の外壁にヒビ入れてくれなかったら『破壊の杖』を盗み出せなかったからね。
 盗めなかったら、わたしはいずれ諦めてさっさと退散した。そうすれば捕まることもなかったさ」

 外壁にヒビと言われてルイズは思う。ゴーレムは何度も壁を叩いてたと記憶している。
それでも壊せないほどの魔法が掛かった宝物庫の壁を破壊したキッカケとは、きっと虚無なのだろうと。
あんな時に既に片鱗が見えていたなどと、今更ながら気付く。
フーケ本人は特に気にしていないようなので、余計なことは言わないでおく。

(ん・・・・・・あれ?)
ジョゼットはフーケが話している会話の流れに疑問が浮かんだ。
確かにワイルドバンチが決め手とも言えるが、シャルロットも大いに戦った筈だと。
むしろメイジの常識の埒外なシャルロットの大魔法に関して何も言わないのが不思議であった。
そのことを探ろうと何か言おうと思ったら、先にキュルケが会話を続ける。
「結果論ね」
「そう、結果的にはそれで良かった。おかげでわたしは足を洗うキッカケになったからね。
 両王家付きの小間使いとして扱き使われているけど・・・・・・まあ、一応感謝くらいはしてるよ」

 ジョゼットは頭を回して、そういうことかと一人で納得した。
実状と違う仔細はアンリエッタ女王陛下から聞いたのだろう。
だからシャルロットには一切触れずに今を語っているのだ。
であるならばいちいち説明する手間も、釘を刺すこともあるまい。
シャルロットと地下水のことが露見することないよう諸々含めて厳命されているに違いない。

「そんじゃ、あたしらは失礼するよ」
「ちょっと! ワルド子爵は置いてってくださるかしら」
「こっちが先約だ、また今度にしな」
「ぼくの意思は・・・・・・」と思いつつも口には出さず、ワルドは乾いた笑みを顔に貼り付けたまま引きずられていく。
キュルケはグラスに残ったワインを、嘆息をついてから一気にあおった。

「両王家付きって言ってたけど、まさかフーケを使うなんて・・・・・・姫さま・・・・・・」
「まぁ間諜とかに使えば優秀だからじゃないかな?」
ルイズのもっともらしい疑問にジョゼットが答える。『土くれ』のフーケは紛れも無い凄腕だ。
御すことが可能であるのなら、大いに役に立ってくれるだけの実力はあろう。

「ん・・・・・・」
ルイズとジョゼットを余所に、キュルケは周囲を改めて見回す。
いい男が新たに来ていないかと――ふと思い浮かんだ教師の顔を振り払いつつ――夜は更けていく。

 明日の本戦にへ向けて、人々の数だけ、多様な活気と思いを混ぜ合わせながら――



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