あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-13


意を決して教壇へと一歩一歩向かってゆくルイズと、それを指を咥えて見守る生徒たち。
縋るような必死の眼差しを向けてくるキュルケと、無表情に本を広げながらもちらちらとこちらを見ている蒼い髪の少女。
あと、状況をまるで理解していないシュヴルーズ教師。

それらを意識しつつ、ディーキンは手早く考えを整理していく。
ここでボスがヒーローらしくジャジャーンと登場して「待ってました!」とばかりに大活躍すれば実に面白い物語が書けそうなのだが……。

(……ウーン、けど、流石に期待はできそうにないね……)

これといった理由もなく彼がここにやって来るというのは、流石に無理がありすぎるだろう。
彼はほんの一日友人の姿が見えないだけで異世界まで探しにやって来るような、度を越した心配性ではない。
自分は別に、冒険時以外でも四六時中いつもボスと一緒に行動している、というわけではないのだ。

(かといってこのままほっとくっていうのもよくなさそうだし……、
 やっぱりディーキンが何とかしないと)

取るべき選択肢は決まった。
では次に、全員の顔を立てて事を上手く収めるためにはどう行動するべきか?

一番手っ取り早くて確実なのは、ある種の呪文を使ってルイズらの決意を変えることだろうが……。
ディーキンはそれを、真っ先に候補から外した。
大した必要性もなく魔法で人の意志を無闇に捻じ曲げる事は、利欲のためではないにせよ、決して善い行いとは言えないものだ。
それに立場上は主人であるルイズに、使い魔の自分が呪文を掛けて操るというのもどうかと思えるし……。
何よりも、“未知の亜人”の自分が人間に“先住の魔法”をかけて言いなりにするところなどを見られたら、大問題になるのは目に見えている。

何でも魔法に頼って解決すればよいというものではない。ここは普通にいこう。
ディーキンは方針を決めると、軽く深呼吸をして心の準備を整える。
そして、手をぴんと伸ばして声を上げた。

「先生、ルイズ! アー、ディーキンは話があるの。ちょっと話させてほしいの」

「「……えっ?」」

今まさに教壇に到着して実演に臨もうとしていたルイズの動きが止まり、シュヴルーズと声が重なった。
振り向いてみると、ディーキンが机の陰からちょこんと顔を出して小さな手をいっぱいに伸ばし、ぶんぶん振っている。

シュヴルーズは一瞬微笑ましげにこれを眺めたが、すぐに取り繕うように顔をしかめると注意の言葉を口にした。

「おや、どうかしたのですか。今は授業中であなたの主人が実演にかかろうとしているのですよ。
 お話なら授業の後にしてください、使い魔さん」

彼女は実際には温厚な性格で本気で怒ったりは滅多にしないのだが、経験上大らか過ぎて生徒に舐められては面倒なことになる、と考えていた。
こういう年頃の生徒というのは、この教師は恐れるに足りぬと思えば往々にして図に乗ってくるものなのだ。
ゆえに態度の悪い生徒に対しては、時には赤土を口に詰めるなどの過激な罰を与えて黙らせてきた。
今も別に怒ってはいないしこの亜人に対してもむしろ好感を持っているが、こうも度々授業を中断されてそれを許しては示しがつかない。
騒ぐのを黙認していると思われてしまえば、授業中に平気で私語を行う生徒が増える。

ディーキンの方は注意を受けると、さも申し訳なさそうにおずおずと頭を下げた。

「先生、ディーキンはゴメンするよ。
 とっても申し訳ないし、今は黙ってるべきだってわかるけど、でも今すぐに話さないとダメだと思うの。
 ディーキンは先生とルイズに、みんな本当に怖がっているみたいだって伝えたかったんだよ」
「………はあ?
 怖がるって、一体何を怖がるというので……、?」

シュヴルーズは怪訝そうに教室を見回して、ようやくディーキンの言うとおり、生徒らの様子がおかしい事に気が付いた。
多くの生徒は不安げにしており、特に席が前の方の生徒は怯えてさえいる様子で机の陰に潜り込むなどの奇妙な行動を取っている。

「……?? これは一体……、皆さん、どうしたのです?」

シュヴルーズは状況が理解できず、困ったような顔で首を傾げた。

先程キュルケらが止めた時には、授業の開始時にルイズが馬鹿にされていたのもあってよくある劣等生へのからかいの類と思っていたのだ。
だが、指摘されて改めて確認してみると、彼女が教壇に向かってから教室全体が明らかに異様な雰囲気になっている。
とても単なるからかいだけだとは思えない。

一方ルイズは、目を吊り上げてディーキンを睨んだ。

「ちょっとディーキン、また余計な事を言って! 一体どういうつもりなのよ?」
「ええと……、ごめんなの。
 でもディーキンはルイズの事が心配なんだよ、先生やみんなの事もね。
 ルイズは昨日、自分は魔法を成功できなくて、失敗すると爆発するって言ってたと思うんだけど……」

それを聞いて、教室のあちこちから同調や嘲りの声が上がりだす。

「そうだ止めろ! また教室を壊す気かよ!」
「先生、聞いての通りなのでヴァリエールにやらせるのは無しの方向でお願いします!」
「自分の使い魔にまで言われてるぜ、流石はゼロのルイズだな!」

「!! ……っ、」

ルイズは罵声が飛び交う中、真っ赤な顔で俯いてぷるぷると屈辱に身を震わせた。

ディーキンは……、自分の使い魔だけは、応援してくれるものと思っていた。
他ならぬあの子自身が、昨日自分の初めての魔法で召喚されたのだから。
きっと自分は魔法が使えるようになったんだ、これからは他の魔法も成功するはずだ。
やってみよう、自分の初めての成功の証であるあの子が傍にいる、そう思えば勇気が出てくる。

――――そう、思っていたのに。

(そのあんたまでが……、私を笑うの?
 こんなときにそんなことをわざわざ言うなんて、私を馬鹿にしてっ……!)

ルイズはきっと顔を上げると、酷く険しい……半ば殺気じみたものまで篭った目で、自分の使い魔を睨んだ。

「……ぐっ! この、……!」

ディーキンはそれに怯えるでもなく、正面から真っ直ぐにルイズを見つめ返す。
それはちょうど今朝、キュルケとの付き合いを禁じる命令に異を唱えたときと同じような目だった。

「………、う………?」

その目を見ていると何故か気圧されるようで、それ以上言葉が出てこなかった。
同時に不思議と冷静さが戻り、煮え滾った負の感情が鎮まっていく。

教室のあちこちからはまだ罵倒や嘲りの言葉が続いている。
普段ならルイズは、そのような言葉を向けられれば平静ではいられない。
暗い怒りと負の感情が沸き起こってきて、強く言い返す。意固地になる。
なのに、ディーキンにじっと見つめられた途端、何故かそれも気にならなくなった。
周囲で軽薄に騒ぐ生徒らよりも、その声と視線の方がずっと強い印象と存在感を持って、ルイズの意識を捕えている。

(……どうして?)

これが、主人と使い魔の絆というものなのだろうか?
それとも、この子自身の持つ才能や能力の類なのだろうか?

「え……? 爆発って、あなたたち一体、何を言っているのですか。
 錬金の呪文で爆発など……」

そんなルイズの戸惑いと、話についてこれていない教師の混乱とをよそに、ディーキンは一旦ルイズから視線を外す。
そうして、周囲で罵声を飛ばす生徒らの方に向き直った。

「やいこら、ディーキンのルイズにそんな口をきくのは気に入らないの!
 黙って聞いてたけど、いい加減にしないとディーキンの堪忍袋の緒が切れるの」

むっつりと不機嫌そうな声でそういいながら、腰に両手を当てて胸を反らし、首をゆっくりと傾げて周囲を見回した。
見るからに、『おいお前ら、ディーキンはぷんすかしてるの』とでも言いたげな様子である。
普通に見ればむしろ愛嬌があるくらいの発言と仕草だったが、何故か奇妙な威圧感を感じてほとんどの生徒が口を噤んだ。
一部の鈍い生徒らは空気の変化にすぐには気付かずディーキンにも嘲笑を向けたものの、じーっと睨まれると声を詰まらせ、じきに声を落とす。

ディーキンは<交渉>するのに比べれば、あまり<威圧>するのは得意ではない。性格的にも向かないし、小柄なので迫力にも欠ける。
とはいえズバ抜けて印象的な高い【魅力】を持ち、何でも臨機応変にこなせる高レベルのバードである。
実際のところ、その気になれば多少気位が高いだけの貴族の子弟を一睨みで黙らせる程度はできて当然なのだ。

「ディーキンはルイズの使い魔で、ルイズはディーキンの友だちなの。
 だから誰にもルイズにそんなことは言わせないの。……少なくとも、ディーキンがそばにいない時以外は!」

ディーキンは指をびしっと突き出してそう宣言すると、またルイズの方に向き直る。

「……だけどルイズも、どうして爆発するのなら先生にそう言って断らないの?
 教室でそんなことをしたら、みんな迷惑だと思うの。
 たまたま失敗してそうなるのは仕方ないけど、分かっててやるっていうのはよくないんじゃないかな?」

ディーキンがこれまでの様子から見るに、ルイズはプライドが高く頑なな面はあるにせよ、本来は根は誠実で筋を通す少女だと思える。
教師の方も、多少過激な方法で生徒を黙らせたりはしていたが、恐らく基本的には穏健派で悪意のない人物であろう。
ならばこちらも誠意をもって、正面から筋道立てて理を説くのが<交渉>を平和的に纏める最善手だとディーキンは判断した。
何より、強引に止めたり適当に誤魔化したりするよりも、ルイズも含めて皆が納得できるように事を収める方がいいに決まっている。

「え、その―――――」

ルイズは先程から、ディーキンの言葉に怒ったり、戸惑ったり、嬉しかったり、恥ずかしかったりでかなり微妙な顔をしていたが……、
そこにまた、不躾なくらいに率直な疑問をぶつけられて狼狽する。

ディーキンの口調はあくまでも穏やかで問い詰めるような調子など全くないのだが、ルイズは詰問でも受けているような気分になった。
それに他の生徒が見ている今、この場でそんな話に受け答えするのは極まりが悪い。

(……っていうか……、授業中に、このまま使い魔と話していていいものかしら……?)

ルイズはそう考えて、助けを求めるようにちらりとシュヴルーズの方を伺ってみた。
内心、ディーキンの質問に正直に答えるのが嫌で、ここらで教師が静止してくれてうやむやにならないだろうかなどと、多少姑息な期待も込めている。

しかし、シュヴルーズは予想外の事態に何が何だかわからない様子で、口を挟みかねて狼狽えている様子だった。
どうやらこうなっては、自分で対応するしかないらしい。
ルイズはひとつ息を吐いて覚悟を決めると、胸を張り、きっとした表情を作って自分の使い魔と相対した。

「……なによ。そんなの、やってみなきゃわからないわ。昨日はあんたの召喚にも成功したし、できるようになってるかもしれないじゃない。
 挑戦しなきゃ永遠にできるようにはならないわよ、そうでしょ?」

実際のところは、教師の後押しを受けたのと、キュルケら級友達に失敗すると決めつけられたことに対する反発心から、というのが一番正直な答えだろう。
だけど、そんなことを認めるのはみっともない。そんなことを知られて、使い魔に軽蔑されたくない。
だからルイズが今、話した理由は、多分に言い訳であった。
感情的に怒鳴って反発してもこの使い魔には通じないし、そんなことはみっともないから、半ば無意識のうちにそれらしく考え出したものだった。
ルイズはそれを、ディーキンと自分自身とに言い聞かせるかのように、努めて落ち着いた口調で説明した。

ディーキンはその説明を聞いて、うんうんと頷く。

「そうだね、挑戦してみるのはすごくいい事なの。
 ディーキンも挑戦するコボルドだから、ルイズを心から応援するよ。
 でも、怖がってたり、心配してくれてる人がたくさんいる教室で、それをやらなきゃいけないって理由はあるの?」
「……だ、だって……、先生にやるようにと言われたのよ?
 出来るかわからなくても、やれと言われたことに挑戦するのは生徒として当たり前じゃないの!」
「けど、先生は今日が初めての授業だから、ルイズの呪文が、その……、爆発するのを、知らないんでしょ?
 ンー……、例えば、ただ一緒に来てくれとだけ言われて付いて行って、後でドラゴン退治をするって言われたら、普通は話が違うって怒らない?
 まず自分の事をちゃんと説明して、それでもやれって言われるかどうかを確かめる方が親切だとディーキンは思うの」

むしろ止めたがっている周囲の生徒らが、何故はっきり教師に爆発すると教えないのかがディーキンには不思議だった。
あるいは、迂闊な事を言って癇癪でも起こされては危ないからと、皆率先して発言するのを避けていたのかも知れない。
爆発を起こされるのは怖いが、自分からそれを止めに行くのも嫌だという、他力を期待する心情か。

逆にキュルケが止めようとした時に爆発の事に触れなかったのは、そのことを恥じているのであろうルイズに対する気遣いから、と言ったところか。
残念ながらルイズにはその真意が伝わらず、裏目に出てしまっているようだが……。

「う……、な、なによ。それは、その、そうかもしれないけど!
 でも………、私だって、その………」

ルイズは言葉に詰まってもごもごと口篭もり、俯いて押し黙った。
ディーキンは答えを急かすことなく、そんなルイズの様子をじっと見守る。

そこで、それまで脇の方で戸惑いながら事の成り行きを眺めていたシュヴルーズが、たまりかねたように声を上げた。

「ちょ、ちょっと待ってください! 先程からあなたたちは、一体何を言っているのですか。
 錬金は失敗しても爆発などしません。私とてこの学院で長年教杖を執ってきた土のトライアングル、それは確かだと断言できます!
 その、決して、あなたたちを疑うわけではありませんが……、爆発がどうのというのは、何かの間違いでは?」

周囲の生徒らから何を今更といった、冷たい、あるいは呆れた視線が向けられるのを感じたが、シュヴルーズは頑張った。

彼女にも、メイジとして今まで積み重ねてきた知識と経験に対する誇りが、そして教育者としての義務がある。
学問というのは、断じて多数決や場の雰囲気で真偽が変わるものではないし、変えるべきものでもない。
たとえ頭の固い教師だと思われようが、明らかな誤りを生徒らがそのまま信じ続けるのを見過ごしておくことはできない。

だが、そこで、ルイズが意を決したように顔を上げた。

「……いえ、先生、本当に、私は、その……、ば、爆発、するんです。
 で、ですから、あの、私……、ディーキンの言う通りで、それでもやっていいのかどうか……、」

ルイズは恥辱と屈辱とで赤くなった顔をぎゅっとしかめ、口篭もりながらも、はっきりとそう言った。

それを聞いて、幾人かの生徒が驚く。
キュルケもその一人だった。

(……あ、あのルイズが、自分でできないと認めるなんて!?
 あの、負けん気の塊みたいな子が……)

先程のディーキンの<威圧>がまだ効いていたのか。
それとも、屈辱に震えながらも自らできないことを認めたルイズの姿に、多感な若者として、そして貴族として感じるところがあったのか。
此度はルイズに対する嘲笑の声はひとつも上がらなかった。

屈辱を感じながらもそれに耐えているルイズと、そのルイズと教師とを見比べながら首を傾げているディーキン。
キュルケはその小さな主従の姿を、思うところのある様子でじっと見つめていた。

シュヴルーズはしかし、そんな教室の空気には気付いていながらも。
なおもルイズを説き、励まそうとしていた。

「ミス・ヴァリエール、これまではきっと、何かの間違いで失敗したのでしょう。
 大丈夫ですから、そんなに恐れずに………」

彼女は彼女で、できないという『思い込み』からルイズを立ち直らせ、誤りを正すという、教師としての務めを果たそうと頑張っているのだ。
そこには何の悪意もない、彼女なりの教師としての使命感と、熱意と善意からの行動だ。
残念ながら現状その努力は空回りしており、ルイズの苦しみをかえって深め、引き伸ばす結果となっているのだが。

「――――いえ、その。
 ……お分かりいただけないとは思いますけど、でも、間違いとかではなくて……」
「あなたはそう思い込んでいるのかもしれません。
 それが不運によるものか、なんであるのかは私にはわかりませんが。ですが……」

「アー、ルイズ、先生。ディーキンはちょっと意見を言っていいかな?」

そこでまたしても、脇の方からディーキンが声を掛けて注意を引いた。
ルイズや他の教室の生徒らは、すぐにそちらの方に注意を向ける。

「……なんですか、使い魔さん。言ってごらんなさい」

シュヴルーズはまたしても自分の行動を遮られた形になり、不服そうではあったが、しかし発言を止めることはせずに続きを促した。

単に授業を遮っているだけなら強行手段で止めてしまうのだが、この使い魔のいままでの行動や指摘には、相応の正当性があるように思える。
妥当な理由のある発言を、教師が押し潰してしまうわけにはいかない。
厳格な教師であるのはよいが、横暴な教師であることは彼女の信条に反するのだ。

だが一言、忘れずに釘を刺しておく。

「あなたの指摘には感謝しますけれど、これ以上何か言われても実演を差し控えさせるわけにはいきませんよ?
 爆発など錬金の魔法がどう失敗しようと起こるはずがありません、何かの間違いです。
 数え切れないほどの錬金を実際に見てきた土のメイジとして、それは私が自信を持って保証します」

実際に幾度となく爆発するのを見てきた生徒たちはそんな頑なな教師の言葉にうんざりした顔をする。
だが、ディーキンはそれを聞いてひとつ、同意するように頷いた。

「うん、ディーキンも実際にコボルドの洞窟を出て外の世界を見てみるまで、何千人も人が住む天井のない野ざらしの街があるなんて信じられなかったよ。
 だから、信じられないって先生の気持ちはよく分かるの」

シュヴルーズはこれが初めてのルイズとの授業なのだ。
そのような常識に反する事を使い魔や未熟な生徒たちの言葉だけで受け入れられないのは無理もないし、むしろ安易に受け入れない方が正しい態度だろう。
ディーキン自身はまだ見てもいないうちから爆発するというルイズの説明を信じているが、それはまた事情が違う。

「けど、他の生徒さんたちは爆発するのを信じてるし、怖がってるみたいなの。
 先生が自分の考えを信じるのは正しいと思うけど、生徒の意見も尊重するのがもっと正しいと思う。
 だから、どっちも納得できる方法でやればいいんじゃないかな?」

それを聞いたシュヴルーズは、怪訝そうに眉を寄せながらも小さく頷いた。

「それは、まあ……、確かに、それに越したことはありませんね。
 ではその、あなたの言う、『お互いが納得できる方法』というのは?」

ディーキンはひとつ咳払いをして、自分の考えた方法について説明を始める。

「ええと、まず聞きたいんだけど……、『錬金』っていうのは、離れてても使えるの?
 何メイルか離れてても大丈夫?」

それを脇で聞いていたルイズは、いきなり何を言うのかと怪訝そうな顔になる。
シュヴルーズも首を傾けたが、少し考えて得心が行ったように頷いた。

「ええ……、メイジの腕にもよりますが、数メイル離れた場所に錬金する程度の事はほぼ誰でも可能です。
 つまりあなたが言いたいのは、万一爆発が起きた場合に備えて、教壇の上ではなく離れた場所で行うべきだということですか?」

確認を取るようにディーキンの方を見ると、ディーキンは笑みを浮かべて首肯する。

「そうなの、ディーキンがその小石を窓の外に浮かべるから、ルイズにはそれに『錬金』を掛けてもらえばいいの。
 たとえ爆発しても、窓の外なら教室はそう酷い事にならないし、みんなも怖がる必要はなくなるでしょ?
 ルイズも、それなら迷惑をかけずに、ここで挑戦してみる事ができると思う」

ついでにディーキンもその爆発を見て確認ができるしね、とは心の中だけで続けて、ディーキンは2人と他の生徒たちの様子を伺った。

シュヴルーズは少し考え、それならば特に否定しなくてはならない要素もなさそうだからと承認した。
ルイズはあらためて決意を固めたような顔になると、無言でしかしはっきりと頷く。

他の生徒らも、それなら危険はないと判断したのか概ね安堵の表情を浮かべている。
窓際に近い生徒らは、自分の使い魔に爆発に驚いて騒ぎ出さないようにと事前に注意を促している。
窓の外に大型の使い魔を待機させていた生徒らは、一時的に離れた場所に行くようにと指示して避難させた。

いよいよ準備が整うと、ディーキンはまず《奇術(プレスティディジテイション)》の呪文を唱えてから、教壇に近い窓を細めに開けた。
そして呪文の効果で教壇の小石を持ち上げて運び、窓から何メイルか離れた場所に浮かべる。
机の陰に隠れなかった生徒らと教壇との間の距離から見て、このくらい離れていればまず大丈夫だろうと判断した長さだ。

亜人の“先住魔法”を見たことがない生徒らの多くはその様子をがやがや騒いで見ていたが、教師の注意を待つまでもなくじきに静かになる。
所詮はレビテーションと似たような効果で、しかもほんの小さな物体を浮かべるだけなのだから大したことがないと見て興味も失せたようだ。
加えてこれからルイズが爆発を起こすのだから、まず安全とはいえある程度緊張しているのもあるだろう。

ただキュルケの友人である蒼い髪の少女だけは、興味を失うでも、起こるであろう爆発を怖れるでもなく、浮かぶ小石をじっと見続けていたが……。

「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」

緊張気味に窓際からやや離れた位置に立つルイズに、後ろに立ったシュヴルーズは緊張を解すようににっこりと笑いかけた。

ルイズはそれにこくりと頷き、唇をぎゅっと引き結んで窓の外に浮かぶ小石と、窓の傍に佇んでこちらを見つめているディーキンを交互に見る。
それからしばし目を閉じて深呼吸をすると、杖を振り上げた。

さあいよいよだと、ディーキンは不謹慎ながら少しワクワクしていた。
呪文の失敗で爆発が起こるとは、一体どういう現象なのか?
ディーキンはルイズが杖を振り上げるのを見ると、窓の外の小石とルイズの両方を視界に収めて精神を集中し、魔力の流れをしっかりと感知しようとする。
ついでに密かにエンセリックをそっと握り鞘を少し押し上げて、一緒に見ておいてくれという合図を送った。

ルイズは目を瞑ったまま祈るように短くルーンを唱え、小ぶりなワンドを振り下ろす。
小石は呪文の影響を受けて一瞬白く発光し……、

次の瞬間、窓の外で大爆発が起こった。

「「きゃああああ!?」」

細く開いていた窓から入ってきた爆風で、近くに立っていたルイズとシュヴルースは押し倒された。

外傷はないが、顔に浴びた爆風と煤のためにルイズは咽こむ。
涙が滲んでいるのは、果たして咽たためだけか。

「………大丈夫、ルイズ?」

ディーキンはルイズの傍に寄ると、背中をさする。
ルイズは、大丈夫よと力なく答えると、そっとディーキンの手を払った。

それにちょっと首を傾げてから、ディーキンは腰を抜かして事態の成り行きに呆然としている教師に声を掛ける。

「先生、見ての通りみたいなの。
 ディーキンには爆発したように見えたけど、どうかな?」
「あ、……え、ええ、そう―――ですね。
 すみません、まさか、その、こんな………何故………」
「分からないの、ディーキンも分からないし、先生にも分からないんだね。
 それなら、ルイズは今すぐには多分『錬金』は無理だと思うの」

それを聞いて、地面にへたり込んで俯いたルイズの肩がぴくりと震える。
ディーキンはちらりと心配げな視線をそちらに向けるが、そのまま言葉を続けた。

「けど、ディーキンが思うに……、今すぐ錬金ができなくてもいいんじゃないかな?
 がんばってゴールまで走れば、一番もビリも走った距離は同じだって、昔の偉い先生は言ったそうなの。
 そういうのが、つまり教育の精神だってディーキンは思ってるの。
 ねえ先生、どう?」

ディーキンは以前の主人の元でバードの勉強をしていた時、覚えが悪い自分に短気な主人がいつ愛想を尽かすか、癇癪を起こすかと始終ビクビクしていた。
だが彼は、普段の短期さからは想像もつかないほど長期間にわたって自分に教育を続けてくれた。
無論狩りをしたり、略奪の算段を立てたり、にやにやと宝の山を眺めたりするのに飽きて、気が向いた時だけではあったが。

『人は明日の完璧な答えより今日のマシな答えの方が良い、などと言うが、ドラゴンはそんなに急がんものだ。
 お前が何者かになるのを見届けることと、その緩やかに上達していく歌物語とが、当面は私のいい娯楽になってくれるだろう』

ただ一度、機嫌のいい時にそう言って笑っていたことを、ディーキンは今でもよく覚えている。

ボスもまた、最初はろくに戦う事も出来ず、魔法もほんの数個しか使えなかった自分に、足手纏いだとも言わずに同行を認めてくれていた。
ディーキンが迷惑をかけても笑って許し、傷つくたびに癒し、死んだときは蘇生までしてくれて、友人として扱ってくれた。

彼らがかつて未熟だったころの自分を信じて根気強く手解きを続けてくれたからこそ、今の成長した自分がある。

「え? え、ええ、……それは、そうですね」

シュヴルーズが戸惑いながらもそう同意したのを聞くと、ディーキンは満面に笑みを浮かべて何度もこくこくと頷いた。
そうして、今度はまたルイズの方へ向き直る。

「ねえルイズ、練習なら授業が終わってからディーキンと2人でもできると思うの。
 頑張って練習して、できるようになったら皆に見せびらかして、おおいばりしてグウと言わせるの。どう?」

ディーキンはそういって肩をポンポンと手で叩くが、ルイズは俯いたままだ。
ルイズは、今度はその手を払おうともせずに、ぽつりと呟いた。

「………簡単に言わないで」
「簡単じゃないよ、だから練習するの。ディーキンもやったよ」
「練習なら私もやったわよ! 何度も何度も!
 だけどいつも爆発するだけなの! 魔法が使えるあんたには分からないでしょうけど!」

きっと顔を上げて、目じりに涙をためて、自分の使い魔を睨む。
ディーキンはそれをじっと見つめて瞬きをすると、首を傾げた。

「ウーン……、そうだね、分からないと思う。
 でも、誰も人の本当の気持ちは分からないものだけど、分からなくても力にはなれるんだ、ってボスは言ってたよ」

ルイズはまだ何か言おうと顔を上げて…、使い魔のあくまで穏やかな雰囲気に口を噤み、また顔を反らした。

正直なところ、使い魔の召喚に成功しても依然魔法が使えないショックで気持ちが荒れている。
ディーキンがあくまで自分の事を気遣ってくれているのは分かるが、口を開けば恨み言か愚痴しか出てきそうにない。

だがいつまでも黙り込んでいるわけにもいかず、結局また口を開くと、不機嫌そうな声をぼそぼそと紡ぐ。

「……それで……、具体的に、あんたがどう力になれるっていうのよ。
 根拠のない気休めはもう、聞き飽きたわ」
「ウーン、そうだね……」

ディーキンは少し考え込む。

「まあ、今すぐ解決はできないだろうけど、いくつか方針はあるの。
 ディーキンはルイズが呪文を唱える時に魔力の流れを見たし……、
 それに、『失敗して爆発する』っていう事にも、ちゃんと心当たりはあるからね」

ルイズは思いがけない答えに、顔を上げるとまじまじとディーキンを見つめた。

「心当たりがあるって……、ほ、本当に?」
「もちろん。ディーキンは後で練習するときに、それを話すつもりなの。
 今すぐ話せたらいいけど、授業の最中だからね」

ディーキンはそう返事をすると、にこにことルイズを見つめ返した……が、
実は、その表情程にやましさの欠片もないというわけではない。

今の発言はまあ、完全な嘘ではないが、すべて真実かといわれればそうでもなく、多少<はったり>をかましている部分もあった。
失敗すると爆発するというのは、確かに一応、心当たりはある。
例えばフェイルーンのメイジが自分の力に余るスクロールを発動しようとして失敗すると、そういう現象が起きる場合もある。
だが自分の力だけで呪文を唱えようとして爆発するという現象は知らないし、スクロールにせよ、使用に失敗すればいつも爆発するというものでもない。
ワイルド・メイジと呼ばれる連中はわけのわからない現象を起こしたりすることもあるが、必ず爆発するというような決まりはない。
だからその部分は、ルイズを落ち着かせるためのやや誇大な表現だといえる。

ディーキンは<交渉>することに比べれば<はったり>をかけるのはそこまで得意とは言えないし、ルイズを騙すのに気が引けないわけでもない。
だが、ディーキンは厳格な規律よりも自由を愛する方だ。
多少嘘を含んでいようと、それでルイズが立ち直って前向きになれるのなら、それに越したことはないと思ったのだ。
それにはっきりした心当たりがあるというのは言い過ぎにせよ、方針があるというのは嘘ではない。
先程の魔力の流れを見たことで少なくともあの爆発の属する系統は分かったし、エンセリックが何か意見を出してくれるかもしれない。
あるいはもっと詳細に、もっと何回も見てみれば、さらに何か手がかりが掴めるかもしれない。

まあ、ルイズの爆発については長い間専門家であるハルケギニアのメイジたちが何も掴めなかったことなのだから、容易に解決できるとは流石に思わない。
だが少なくとも、ルイズが諦めない限り自分も全力を尽くすつもりだ。
その点には一切、嘘はなかった。

「正直言ってディーキンは、一人だと自信がないけど……。
 でも、ディーキンは頼もしい友だちが傍にいるとすごく安心できて頑張れるの。
 だからボスやルイズが傍にいて一緒に力を貸してくれたら、何も心配はないの。
 ルイズは、ディーキンと一緒に頑張ってくれる?」

そういって、ディーキンは握手するように右手を差し伸べる。

「…………」

ルイズは、ディーキンの目と、ウロコと爪に覆われた小さくもごつごつとした手とを交互に見比べた。
自分を見つめてくる目はきらきらと輝いていて、全身から嘘偽りなくルイズを信じ、頼る気持ちが滲み出ている。
そこには、自分が力になる側なのだという尊大さや、押し付けがましさ、内心見下したような態度などは微塵も感じられなかった。

ややあって、ルイズは目をぐっと拭って不敵な表情に戻り、しっかりと差し出された手を掴んで立ち上がった。
ディーキンの背の低さからいって、へたりこんでいる状態の方がむしろ握手はしやすかったが、その手を取って立ち上がる事にこそ意味がある。

「――――しょうがないわね、あんたは私のパートナーなんだから。
 お互いに協力するのはメイジの務めよ。
 だから……、その、一緒に頑張ってあげる、から……、私を放って途中で投げ出したり、私より遅れたりしないでよね!」 


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