あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

トリステイン魔法学院Z-03


第三話 「穢れなき教師 その名はギトー」


その日の朝、バーニーとペイトンの二人が目覚めて真っ先に感じたものは、酷い頭痛であった。その痛みに顔をしかめつつも、

「…おはようバーニー」
「ああ、おはようペイトン。…やっぱ、夢じゃぁないよな」
「あたぼうよ。夢であってたまるかい。それにしても、頭が痛いぜ。飲みすぎた…」
「全くだね、声がガンガン響いてるよ、ペイトン。だけど…」
「ああ、最高の朝だな!」

ペイトンのその言葉と共に、二人は二日酔いの頭痛を感じつつも高らかに笑いあった。こっちの世界…つまり、トリステイン魔法学院で生活するようになって最高の目覚めであった。
なにより、椅子を寝床にし、食事を恵んでもらう生活からやっと解放されたのである。これほど痛快なことは無い。多少の頭痛がなんであろうというのか。
笑い終えたペイトンは、咳払いをし、真面目な顔を作ると気取った声で

「さて、我々はこうして最高の目覚めを迎えたわけだが…残念ながらその気分に水を差す任務が待ち受けている」
「ルイズを起こしに行くミッションですね、分かります」
「その通り!だが、昨日までとは違い、我々にはベッドがある!食事の心配も無い!ここは一つ、寛大な心で相手をしてやろうではないか!」
「Sir Yes Sir!」

芝居がかった調子でバーニーが敬礼を決めると、再び二人は腹の底から笑いあったのであった。

自室に来るまでにそんなやりとりがあったと知るわけも無く、いつもの通り使い魔に起こされたルイズは、二人が妙に上機嫌なのを診て訝しく思った。

「…何か怪しいわね、なんでアンタらそんなに嬉しそうなのよ?…はっ、もしかして寝ている私に何か悪戯を」
「しないしない。するわけない」

ルイズが喋り終わる前に、声を揃えて否定する二人であった。

「…そう全否定されるとそれはそれで何か腹が立つわね…ま、まぁいいわ。着替えを頂戴。」
「…本当、難儀なご主人様だなぁ…ほい、じゃぁ、俺達はいつもどおり外で待ってるよ」

「…怪しい…」

溜息とともに退出した二人を見送ると、ルイズは念入りに自分の姿を鏡でチェックしながら身支度を整えた。
本人たちは否定したが、やはりあの態度はおかしかったからだ。
だが、本当に何もしていない以上、当然異常が見つかることもなく、ルイズは首をひねりつつ、食堂へと向かうことになった。

そこでやっと、二人のあの態度の意味を知る事になったのである。

いつもどおり、使い魔に引かれた椅子に腰掛けたルイズだったが、予想もしなかった言葉に面食らう事になった。

「所でルイズ、僕たちの食事は別に用意してもらう事になったから、これからはもうスープもパンも用意する必要はないよ」
「そうそう、そういうわけで、食事してくるからまた後で」

そう言い残すと芝居がかった調子で恭しく礼をすると二人はすたすたと立ち去ってしまった。

「え?ちょ、それは一体?」

問いただそうとしたルイズだったが、しかしタイミング悪くブリミルへの感謝の祈りが始まってしまった。
自分一人だけしないわけにもいかないので釈然としないまま祈りを捧げている間に、二人の姿は既に消えていた。

「…どゆこと?」

ルイズの呟きに答えるものは、誰もいなかった。

「いやぁ、傑作だったな、あのルイズの呆気に取られた顔!」
「全くだね。これだけで食事が進むってもんさ」

してやったり、と言う表情でルイズのところから立ち去った二人だったが、ここに至って一つの問題にぶつかった。それはつまり

「なぁバーニー、ところでだ…その俺達の食事はどこに用意してあるんだろうな?」
「…どこだろうね?浮かれてないでもっとしっかり聞いておくべきだったな。夕食は部屋に用意してあったからなぁ」

自分たちの食事がどこに用意してあるかわからない、というものだった。本来ならこういう件は(一応)彼らの主人であるルイズに連絡が行っているべきなのだが、どうも先ほどの反応からして知っていた様子はない。
ルイズが知らないのだから、当然キュルケも知らないだろう。彼女には知り合ってから色々と助けられているが、この件に関しては、残念ながら当てに出来なさそうであった。
若干後悔しつつも二人は食堂を歩き回ってみたが、どうにもそれらしい物が見当たらない。やはり、誰か事情を知る物に聞かないとどうにもならないだろう。となると、誰が知っているか、と言う事になるのだが…

「…取り敢えず聞いてみようよ。ああ、ごめんね、そこの君」

バーニーはちょうどそこを通りかかったメイドを捕まえて尋ねた。振り向いた顔を良く見れば中々の美少女である。
こっちでは殆ど見られない黒髪とソバカスが特徴と言えるだろうか。アジアン…それもチャイニーズやジャパニーズっぽい顔立ちだなぁ、まぁどっちもここにはいないだろうけど、などと、どうでもいいことを思った。

「今日から食事を用意してもらえる話になっている筈なんだけど、なにか聞いてないかな?…ああそうだ、言い忘れてたけど僕はバーニー。で、こっちがペイトン」

「あ、はい!ミス・ヴァリエールの使い魔のバーニーさんと、ペイトンさん、ですよね?承ってます。もう用意は出来てますよ、厨房へどうぞ」
「厨房?厨房に入って良いの?ええと…」
「あ、すみません、私はシエスタと申します。えぇ、勿論普段厨房への立ち入りは控えてもらいたいんですけど、私たちが賄いを頂く所ですね。そこに用意してありますんで」

厨房はピークの時間こそ過ぎたものの、昼へ向けた仕込や下げられてきた食器の洗浄などでコックやメイドがあちこちを飛び回っていた。
そんな中をシエスタに先導されて付いていった二人は、厨房の一角にある小ぢんまりとしたテーブルに案内された。
何もかもが豪華なここトリステイン魔法学院ではあったが、さすがにここのテーブルは食堂の意匠をこらされたそれとは違い、あくまで実用本位の素っ気無いものであった。
とはいえ、二人にとってはどんなテーブルかよりもそこにどんな料理が並ぶか、が遥かに重要な問題である。そこには既に、生徒達が食べているのと全く同等の食事が並べられていた。
それを眺めて、二人は昨日自分達の為に用意された部屋に足を踏み入れたときと同じ感激をかみ締めていた。

「ああ、やっぱりいいよなぁ…俺達専用の食事が用意されてるってのはよ」
「ああ、全くだね。キュルケとの食事は悪くないけど、いつも分けてもらってばかりってのは内心男として情けないものがあったからね」
「全くだ。しかしアメリカにいたころは想像もつかなかったぜ。日々の食事がこんなにありがたく感じるなんてよ」
「全くだね。そういう意味じゃぁルイズには感謝するべきなのかもしれないな。したくも無い経験だったけどね。さて、ここでこうして馬鹿みたいに突っ立っていても仕方がない。早速食べようぜ、ペイトン」
「おうよ、お預けプレイは趣味じゃねぇしな」

嬉々として着席し、早速手を伸ばそうとした二人であったが、それは不意にかけられた不審声にさえぎられた。

「なんだあんたら?部外者はここに入ってもらっちゃ困るんだが。おいシエスタ、お前が連れてきたのか?」
「ちょっと待ってくれおっさん。彼女が悪いんじゃないぜ」
「すいませんマルトーさん、この人達が例の…」
「ああ、そういうことか。不躾な事を言っちまって済まなかったな。…ん?あんたらは…」

それだけで話が通じたようで、納得した様子のマルトーと呼ばれたコックであったが、すぐにその表情が怪訝そうなものに変わった。
しかしバーニー達の方には全く面識がなかったのでそんな反応をされる理由がまるで分からなかった。なのでその疑問を恐る恐るそのまま口にした。

「え…?すみません、僕たちが何か不味いことでも…?」


「いやいや、そうじゃねぇよ。驚かせて悪かったな。誰かと思えばお前さん達だったんだな。食堂で寝てたのを見かけたんで気にはなっていたんだが…」

そこまで言うと、マルトーはちょっと黙って、所在無さげに鼻の頭を書きながら、気まずそうに声のトーンを落として続けた。

「…その、何もしてやれなくて悪かったな。情けない話だが、迂闊な事をして貴族様に睨まれると後々面倒なんでな」
「別に良いさ。おっさんにはおっさんの事情があるよ」
「そうそう、変に恨みを買ってもいいことなんてないのは良く分かってるよ。気にしないでいいさ」

二人の返答を聞くと、マルトーは安堵したような表情を浮かべた。

「そう言って貰えると助かるぜ。ま、罪滅ぼし代わりと言っちゃなんだが、食べたいものがあったらいつでも遠慮なく言ってくれ。
腕によりを掛けて作ってやるぜ。自惚れるつもりは無いが味の方は期待してくれて良いぜ。
っと、言い忘れてたな。俺はマルトー。見てのとおりここでコックをやってる。そして俺はここの料理長だ」
「なるほど、あんたがここのボスってわけだ。そりゃ心強いな!なんでも良いのかい?」
「ああ、勿論材料に都合が付けば、だがよ」

「OK!こりゃぁ楽しみが増えたぜ。ま、そうはいっても出てくる物皆文句の付けようがないほど美味いしな。まぁ、今日のところはこれで充分さ。そうだ、バーニーは何かあるのか?」
「僕も特に無いけど…ああそうだ、ハンバーガーが食べたいね。本当はコーラも欲しいところだけど、流石に無いだろうし」
「ハンバーガー!ああ畜生!何で忘れてた!前言撤回だ!そうだよ!俺達アメリカ人はハンバーガーを食わないと死んじまうからな。
そういうわけでマルトーさんよ、俺達の希望はハンバーガーだ。ビッグサイズで頼むぜ」

「ええ!そうなんですか?すみません、気が付きませんで」

素っ頓狂な声を出すシエスタに、ペイトンは気まずそうに

「あー、ごめん。ジョークだからね?」
「シエスタ。そりゃぁアルビオン人がまずい料理を食わないと気が済まないってのと同じ類のジョークだろ。
おいあんたら、この娘は良い娘だが純真なんだ、あんまりからかわないでくんな。…ところでよ、ハンバーガーってなんだ?」

マルトーのその質問は浮かれていた二人を気落ちさせるのに充分だった。
しかし考えてみればこのマクドナルドもウォルマートも無いこのファンタジーな世界で都合よくハンバーガーが存在しているというのも虫の良い話である。

「あー、なんて言ったら良いのかな…僕たちの故郷の料理なんだけど…おいペイトン、詳しい作り方…わかるか?」
「俺がか?言えるわけないだろう!あー、おっさん、要はパンでハンバーガーステーキを…いや、これじゃ通じないんだよな、Hh.…」
そこでしばし言葉を捜していたペイトンは、
「ああそうだ、パティやレタス、トマトにピクルスなんかを挟んで食べるんだが」
「パティといっても色々あるぜ。何を使うんだ?」

「え…色々あるのかよ」
その言葉に二人は顔を見合わせて、ぎこちなく笑った。料理などした事も無い二人である。
詳しく作り方を尋ねられても、100%の牛挽肉を使っている、と答えるのが精々である。
いかにマルトーの腕がよくとも、そしていかにペイトンが楽観的とはいっても、これでは満足のいくものが出来るわけがないのは明白だった。

「ああ、すまない。うん。忘れてくれよ。俺達の故郷の料理だから、知らなくて当然だよな。リクエストは別なものにするよ」
気落ちして答えたペイトンに、しかしマルトーは食い下がった。

「ちょっと待ちな。知らないままに引き下がっちゃ料理人の名折れってもんよ。
それにあんたらの反応からすると、美味いもんなんだろ?
そのハンバーガーとやらをもうちょっと教えてくんな。俺の意地にかけて美味いものに仕上げて出してやるぜ」
「いや、俺達も詳しい作り方を知ってるわけじゃないんだが…。まぁいいか。パティには牛挽肉を使うよ」
「ふぅん?で、それをパンに他の具と挟むんだから…えぇと、こんな感じか?」
二人の話を聞いて、暫く考えを巡らせていたマルトーだったが、どうやらハンバーガーのイメージが纏まったらしく、

「よし、昼を楽しみにしていてくれや。そのハンバーガーとやらを作ってみせるからよ」

そう言い切ったのであった。

「では授業を始める。知っての通り私の二つ名は疾風。疾風のギトーだ」

さて、その日の最初の授業は、ギトーが受け持ちだった。黒い長髪や漆黒のマントから漂う陰気な雰囲気と、
どうにも隠せない陰険さから生徒からは総スカンを食らっているが、本人はまるで気にしていない。

「最強の系統とは何かね、ミス・ツェルプストー」
「虚無じゃないんですか?」
「伝説の話ではない、現実的な答えを言いたまえ」

回りくどく尊大な言い方にキュルケは不快を覚えたが、質問自体には素直に答えた。

「…火ですわ」
「違うな。論より証拠だ。私に君の得意な火の魔法をぶつけてきたまえ。なに、遠慮はいらん。大した事にならんのは分かりきっているからな。
それとも、その有名なツエルプストー家の赤毛は飾りかね?」

あからさまな挑発である。
キュルケは優雅に溜息をつくと、むしろ笑顔で髪をかき上げた。

「仕方ありませんわね。治療費ぐらいは出して差し上げますわ。治療できれば、ですけれど」

言い終わるが早いか、キュルケが詠唱を始めた。直径1mはある炎の玉が完成し、正確にギトーをめがけ直進する。

だが、ギトーは避けるそぶりも見せず、腰に差した杖で剣を振るようになぎ払った。烈風が巻き起こる。
それは炎の玉をかき消し、そしてその向こうにいたキュルケを吹き飛ばした。

「いけない!」

咄嗟にそれを見たバーニーが超能力を発動させた。目的は、勿論キュルケを助ける事だ。かなりの勢いで壁へと吹き飛ばされたキュルケであったが、
バーニーの狙い通り、超能力によって急減速し、何事もなく着地することができた。
…いや、何事もなく、ではなかった。何分咄嗟の事で美味く加減が出来ず、スカートがマリリン・モンローの如く見事に捲れあがり、下着が見えてしまったのである。
とはいえ、流石にバーニーもペイトンもその眼福を楽しむだけの余裕はなく、ただキュルケの無事を安堵した。

ほっとしたように、バーニーの肩を叩きながら、ペイトンが呟いた。

「流石だ。でかしたバーニー」

そして、同時にギトーへの怒りが湧き上がった。
二人とも基本的に脳天気な馬鹿であるが、女に手を上げるとは最低、という典型的なアメリカンである。
ましてやキュルケはこっちに来てから何かと世話になった恩人でもある。それだけに、怒りを買うには充分であった。

「…おい、見ろよバーニー。かわいそうに、女の子には優しくしろって小学校で習わなかった奴がいるぜ」
「言ってやるなよペイトン。我がアメリカじゃぁただのクズだが…ここじゃぁ違うかもしれないだろ?」

茶化した調子ではあるが、声には怒気がみなぎっている。無論、ギトーがそれに反応しないはずも無い。

「…ふん、平民の使い魔風情が良く吼える。ヴァリエールの躾がなってないようだな。まぁいい。そんなに意見があるなら貴様等が答えてみろ。さぁ、最強の属性とは何だ」

指名こそしたが、ギトーはまともな返答を期待していたわけではない。よりにもよって自分の授業に使い魔だからとはいえ、平民が紛れ込んでいるのが気に入らなかったのである。
精々的外れな返答を罵倒してやろう、そういう魂胆だった。
だが、彼は間違っていた。彼らを侮ってはならなかったのだ。

バーニーは素早くギトーの腹を読んだ。…恐らく、コイツは自分の属性…つまり風こそが最強だと言わせたいのだろう。
今の態度からしてそれ以外は聞く耳持つまい。だが、わざわざこんな奴をおだててやるのも癪に障る。

そう思っていたところに、ペイトンが口を開いた。勿論、答えを知っていたわけではない。勝算などない。
だが、ペイトンはそこで黙っているような殊勝な性格では決してない。
ほんの僅かな時間考えてから思いつきのままにその言葉を継いだ。こういうものは、詰まったら負けなのだ。

そして、彼の答えは誰一人として予想していないものだった。

「さて先生、そいつぁ簡単だ。何時だって、愛が最強さ」
「あ、あんた、なんて馬鹿な事を言うのよ!少しは私の体裁という物を考えてくれない?」

悲鳴のようなルイズの叫びであった。…まぁ、ルイズならそういうよなぁ…と内心溜息をつきつつ、ペイトンはギトーの出方を伺った。

「…愛だと?馬鹿馬鹿しい」

まともな解答など最初から期待していなかったギトーではあったが、この答えは完全に馬鹿にしたように聞こえたので、立腹するには充分な理由となった。
しかもそれだけではない。

「さすが我らが英雄!」
「そうだ!愛だ!」
「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ!」

何故かこのふざけた答えが男子から猛烈に支持されている。それがますます気に入らず、

「…下らんな。愛など所詮欺瞞に過ぎぬわ」

ギトーは吐き捨てるように言ったのだった。皆が辟易した表情を浮かべる中、ペイトンは肩をすくめると、

「ああそうですか?まぁ、人それぞれですからどう思おうが別に構いませんがね。ところで俺の故郷での体験から言わせて貰えば、
その台詞はモテない童貞が良く使う負け惜しみなんですがね。まさか先生に限ってそんな事はないとは思いますが実際どうなんですかね?」

「どっ…」

ギトーは絶句した。予想外の返しと、いきなりの下品な展開に呆気に取られ、咄嗟に返す言葉がなかったのである。

まともな会話は不可能と判断し、ギトーは授業に戻ることにした。

「…話にならんな。まぁ、貴様ごときに回答させた私が愚かだったか。まぁいい。授業を続ける」

吐き捨てるように会話を打ち切ったギトーであったが…彼は気づいていなかった。既に彼は致命的なミスを犯していた事に。
絶句したのは余りにまずかった。

「お前、童貞だろ」

この質問に絶句した男がどういう目で見られるか、多くを語る必要はないだろう。

僅かなうちに教室の雰囲気は一変していた。冷ややかな目、同情するような目。忍び笑いを漏らすものも少なくない。
最初、教室の雰囲気の変化に怪訝な顔をした彼だったが、その意味を悟ると流石に表情が変わった。
ギトーは普段生徒の反感など微塵も気にしないのだが、そんな彼にもこの生暖かい反応は堪えた。

「な、何を馬鹿な事を!私は童貞などではない!言い掛かりは止せ!」

思わぬ侮辱に喋らずにはいられなかった彼だが…こんな反論は火に油を注ぐようなもので黙っていた方が遥かにマシだとは諸君は良く知っているだろう。
ご多分にもれず、教室の雰囲気は「ああやっぱりね」といったものであった。
焦ったギトーはますます墓穴を掘るような発言を繰り返し…
そこへ芝居がかった調子でペイトンは立ち上がり、両手を広げつつ優しい調子で言った。

「まぁ皆落ち着きたまえ。童貞は罪ではない。それにメイジとしての実力にはなんら関わりのないことだ。そうでしょう先生?」

「そ、そう。そうな…うん?」

パニックになりかけていたギトーは助け舟と見てこれに飛びついたのだが…これでは私は童貞です、と自白したも同然である。
ギトーがそれに気づいたときにはもう手遅れであった。

勿論、童貞である事は人間としての価値を些かも貶めるものではない。だが、それが何よりも重大な関心となる時期がある事も事実である。
それはバーニーたちの故郷アメリカでも、我等が日本でも、そして魔法が実在するここハルキゲニアでも同じであった。

さて、そういう者達にとって普段尊大な態度で自分達にあたるものが実は童貞でした、となったらどうなるか。
言うまでも無くそれはもう地の底までも評価は落ちる。

先ほどとは比較にならないほどの遠慮ない野次や、哀れみや生暖かい同情を込めた視線がギトーを襲った。
生徒の反感など微塵も気にしないギトーであったがこれは非常に堪えた。

「僕は青銅のギーシュだが…先生はなるほど清童でしたか」

この野次が止めであった。「後は自習!」と言い残し、逃げるようにギトーは去っていった。
それを見届けるとバーニーはニヤリと笑ってサムズアップした。ペイトンも満面の笑みでそれを返す。
だが、その笑みが困惑顔に変わった。キュルケがやって来たのだ。その表情はいつものような余裕あるものではなく、不自然に無表情であった。

「…貴方達の仕業ね?」

言われて、二人は言葉も無かった。あの場合仕方が無かったとはいえ、下着が丸出しになったと言うのはやはりまずかった。

「…その通りだ」
「初めて握手した日のこと、覚えてるかしら?調子に乗るなと言っておいたはずよね?」
「勿論覚えてるさ。言い訳はしないよ」
「そう?潔いわね」

そういうが早いか、キュルケはバーニーの顔を思い切り張った。そして、打たれた頬を押えるバーニーの手の上から両手で包み込むようにバーニーの顔を押えた。
と、キュルケは悪戯っぽい笑みを浮かべ、熱烈なキスをした。

「!?」

突然の事に呆然とするバーニーであった。たっぷり30秒ぐらいはそうしていただろうか。ようやく離れると、

「ふふ、助けてくれてありがとう。言い訳しないなんて、格好いいじゃないの。本気で惚れそうよ?」

熱っぽい視線で礼を言うキュルケに、

「ふっ、いい男は手柄を誇らないもんだぜ。所で…なぁキュルケ、俺は?そりゃあ直接助けたのはバーニーだが、俺だって同じくらい心配したんだぜ?」
「分かってるわよ。貴方にも感謝してるわ。両方熱烈なのと、両方軽く済ませるのとどっちが良いかしら?」
「…そうきたか。勿論、一番アツイ奴で頼むよ」
「あら?良い事言うわね。良くってよ?」

言うが早いか、バーニー以上の閃光の様な平手打ちがペイトンに炸裂した。そして、これまたバーニー以上の熱烈なキスが交わされたのだった。
違ったのは目を白黒させていたバーニーに対し、こちらは始終至福の表情を浮かべていた事であろうか。

ここが教室である事など全く気にしないようなその様子に周囲は大いに盛り上がり、ルイズなどは怒りで顔を真っ赤にしていたが、三人にはそんな事はまるで目に入っていなかった。
ようやく離れると、

「それにしても貴方達、本当に面白いわね。あのギトーを涙目にするなんて貴方が始めてだわ」

感嘆した調子でキュルケが言った。キュルケにとっても今のは相当に痛快だったようである。

「そりゃあどうも。けど、半分以上あいつが自爆しただけさ。大した事じゃない。しかしあいつも人望無ぇなぁ。そこだけは同情してやるぜ」

全く同情しているようには聞こえない口調で言ったペイトンであったが、実際教室を見渡してみても、ギトーのことを気遣うような生徒はまるで見当たらなかった。
振り返ってみれば一応止めに入ろうとした生徒も皆無であっし、これには自分のした事とはいえ、ちょっとやりすぎたかと思わないでもなかった。
だが、キュルケはもはや哀れなギトーの事などどうでも良かったようで、

「そういえば…貴方達今朝はどうしたの?朝食の時会わなかったけど…」

と、まるで別のことを言った。

「実はついに昨日から念願の寝床と食事を手に入れてね。もう食事を分けてもらいに皆を回る必要は無くなったんだ」
「あらおめでとう。でもどうやって?あのルイズがそこまで態度を変えるなんて、一体何をやったのか興味があるわ」
「ははは、ルイズに頼んだんじゃないんだなぁ。これが。学院長に直訴してね」
「…?ねぇペイトン、貴方一体何をやったの?確かに貴方はユニークな人だけど、それだけでオールド・オスマンがそこまでの待遇を与えるとは思えないし…」
「ははは、まぁ、それは…」

と、言いかけてペイトンはこの件は出来るだけ伏せておいた方がいいと判断した。
見た目はセクハラ爺とはいえ、学院長に一杯食わせたというのがどう思われるか判断できなかったからだ。

「秘密って事で。ま、学院長か、コルベール先生に聞けば教えてくれるかもよ?まぁ、バーニーの力と」

そこでペイトンは、人差し指でバーニーを指してから、親指で自らの頭を指しつつ

「俺のココの勝利、ってとこかな。さてそれより、今まで食事を分けてくれたお礼をしたいんだ。
もし良かったら昼食を一緒にとらないか?マルトーの親父が俺達の郷土料理を作ってくれることになっているんだ。
まぁ、どこまで再現できているかはちょっと不安だけどさ。勿論タバサも一緒で良いよ」

果たして、昼、期待と不安の入り混じった表情で再び厨房を訪れた彼らを待っていたのは。

「どうだい、初めてにしちゃちょっとしたもんだろう!これらの具に合うソースを作るのはなかなか苦労したんだぜ!」
「あ、ああとても美味しいよ」
「そうだろそうだろ。しかしこりゃなかなかいけるなぁ。改良すれば食堂のメニューにも加えられそうだなぁ」

褒められてご満悦なマルトーとは裏腹に二人の表情は微妙だった。
出てきたものは、確かに彼らが説明したとおりのものだったし、文句なく美味であった。
だが、それはどう見てもハンバーガーではなかった。
手づかみで喰らい付くハンバーガーとは違い、ナイフとフォークで切り分けて頂く…敢えて言うなら、ミートボールサンドであった。

「中々美味しかったわよ。ご馳走様、お二人さん。でも、余り嬉しそうじゃないわね?」
「あーそれは…期待していた物と違っていたと言うか…まぁ、俺達も作り方を良く知らないものを再現してもらおうって言うんだから、間違っていても仕方ないんだけどさ」
「あら、これでも間違ってるの?じゃぁ、本当はもっと美味しいってことなのかしら?」
「!…完成した暁には、是非。助力が必要なら協力もする」

キュルケの言葉にタバサは余程心動かされたようで、バーニーの手を取り、真剣な表情でまたの同席を要望してきた。
勿論、彼らに断る理由も無いので多少気圧されつつも快くOKする。

「…凄いわね貴方達。タバサにここまでさせるなんて」

それを見て愉快そうに笑うキュルケにタバサは少し頬を染めながら

「…美味しいのが悪い」

とだけ言うのだった。その表情は、彼女のような幼女体型は守備範囲外のペイトンもどぎまぎさせるような可愛らしさを持っていて、
ああなるほどキュルケが可愛がるわけだなぁ、と妙に納得したのだった。
と、そこでペイトンの頭に閃くものがあった。指を鳴らすと、
「良い事を思いついたぜ。ここでQOH団の旗揚げと行こうじゃないか」
「QOH?」
キュルケやタバサは当然のこと、バーニーも何の事か分からなかったので一斉に聞き返すと、
「Quest of Hamburger。つまり、我ら一丸となってここで始めてのハンバーガーを誕生させようってわけだ。」
「いいね、乗ったよ」
美味いハンバーガーはバーニーも大いに望むところである。一も二もなく頷いた。

「協力する、とさっき言った。だから乗る」
「あら?じゃぁタバサが乗るなら私も乗るわ。ふふ、面白い事になりそうね。…けど、貴方達のご主人様はどうするの?多分…いえ、間違いなく嘴を突っ込んでくるわよ?」

悪戯っぽくキュルケは笑った。

「ふむ。まぁハンバーガーを作ろうってだけだから妨害はされないと思うが…もし妨害しようとしたらどうするかね?」
「その時は実力行使も辞さない」
真剣なタバサの即答だった。
「ち、ちょっと待てって。まだそう決まったわけでなし。まぁ、俺達に任せておいてよ」
「勿論そのつもりよ。貴方達のご主人様だものね」
「やれやれ、気楽に言ってくれるぜ」

苦笑いしながらさて、どうやってルイズを言いくるめるか…と思案するペイトンであった。

こうして、厨房の一角での昼食会は過ぎていったのである。



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