あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

トリステイン魔法学院Z-02


第二話 「寝床を手に入れろ!」


トリステイン魔法学院の食堂は、朝を迎えていた。まだ朝食の時間にはなっていないものの、まもなく訪れるその時間に対応すべく、厨房は既に戦場のごとき様相を呈しており、
食堂もまた、その準備で人がひっきりなしに行きかっていた。そんな中で、その慌しい物音で起こされた明らかに場違いな二人がいた。
バーニーとペイトンであった。

「…おはようバーニー」
「…ああ、おはようペイトン。…やっぱり、夢じゃないんだよなぁ…」
「言うなよ、悲しくなる」

あの後、終始怒りっぱなしだったルイズに簡単に使い魔の仕事を一方的に説明された後、寝るから後はまた明日、とばかりに彼らは部屋から締め出されたのだった。

どこで寝ればよいのか、と抗議してみたが、扉越しの返答は「食堂ででも寝れば?」という実に慈悲深いものだった。

ま、RPGでお馴染みの馬小屋よりはマシだよな…と半分やけくそで彼らは食堂の椅子を並べ、その上で寝たのであった。
不幸中の幸いというか、椅子が上等な物だったのでそんなの即席のベッドでも床に寝るよりは余程快適であった。

「…とりあえず、ご主人様を起こしに行かなきゃ、だな」
「…だねぇ…」

時間を確かめようとして、携帯を取り出したペイトンは、しかし時刻の表示がまるで当てにならないことに思い当たると、溜息を一つ吐いて、ご主人様-…つまりルイズの部屋へと歩き出した。
その後をのろのろとバーニーがついていく。

「何時だった?」
「…ここが我が愛しのアメリカなら十時半ってとこだな。ま、ここじゃどうか分からんがな」
「そうか…ペイトン、もしかして昨夜かけてみた?」
「…電話か?言わなくても分かるだろ。圏外で繋がりゃしねぇよ…っていうか、いくら魔法があるってったってここは出鱈目な世界すぎないか?お前も見たろ!何で月が二つあるんだよ!
…ああ畜生、椅子で寝たせいで体が痛いぜ…っと、ここだよな?」

愚痴りながらペイトンは昨夜のうちに渡された合鍵を取り出し、解錠した。
中に入ってみると、カーテンが閉められ、明かりも点けられていない部屋はまだ暗闇に包まれていた。
起きていてくれれば手間が掛からなくて良かったんだがなぁ、との彼らの期待をあっさり打ち砕く現実であった。

「寝てるみたいだな」
「まず寝てるね…じゃ、やろうか」
「…だな。おいバーニー、カーテン開けてくれ。…サンキュ。…で、ベッドは…と。お、いたいた。全くこっちの気も知らんで幸せそうに寝やがって…」
「…こう黙ってりゃ可愛いんだけどなぁ…」
「黙ってても駄目だろ。あのパンチ、かなり効いたぜ」
「それもそうだね。じゃ、黙っていて、暴力を振るわなければ可愛いって事で」
「HAHAHAバーニーもひどいな。つまりは全然駄目だって事じゃないか?まぁ同感だがな!」

彼らはひとしきり笑うと、再び深い溜息をついた。今の笑い声でも起きないあたり、中々手間が掛かりそうである。

「…それはさておき問題だ。どうやって起こす?」

しばし思案した後、バーニーは決断した。

「…仕方ない、ペイトン、呼びかけ続けてくれ」
「あいよ。おーい、起きて下さい、ルイズ様―」

ペイトンの声をバックに、バーニーは精神を集中させた。すると、ルイズの包まっている毛布の一端が宙に浮き上がり、ゆっくりとルイズからはがされていく。
バーニーがサイコキネシスを使用したのだ。別に毛布を取るくらい超能力を使うまでも無いのだが、昨日見た目にそぐわぬ凶暴性を身をもって味わった彼らである。
どこぞでよくある展開のように、迂闊に揺り起こして起きたルイズと目があって変な誤解をされ魔法が飛んできたら堪ったものではない、と慎重になるのも無理はなかった。

毛布を取られたことや差し込む日光のせいだろう、程なくルイズが目覚めた。ふにゃふにゃになりながらも、二人の姿を確認すると、

「だ、誰よあんた達ッ…って、…ああそうか、使い魔にしたんだっけ」

寝ぼけているのが明白な第一声をあげた。

「…朝から随分な挨拶ですねぇご主人様。それで、要望通り起こしたわけですが、次の仕事は何ですか?」
「着替え。クローゼットに入ってるから」

皮肉交じりのペイトンの質問には全く動じず、ルイズは鷹揚に指示を出した。

「で、どれ?ああ、右端ね。はい、どうぞ。…え、下着も出すの?…どうぞ。いいえ、変な目で見てませんって。
…ったく、誰がんな子供みたいな…いえ、何も言ってませんよ?他に仕事は?無い。じゃあこの後は…ああ、食堂ね。分かりました。では、後ほど」

若干本音を漏らしながらも、どうにかこうにか初仕事を終え退室した彼らは扉を閉めるなり今朝何回目か分からぬ深い溜息をついた。

「…もしかして俺達、召使と思われてるんじゃないか?」
「奴隷じゃないだけマシかもね、ペイトン。…参ったね、この先の扱いが大体見えたよ」
「全くだ。実に楽しい未来図じゃないか、えぇ?」

同じ結論に達した彼らが、先程より深い溜息をついたとき、ルイズの部屋の隣のドアが開き、女生
徒が現れた。

見事なプロポーションを持つ褐色の美少女である。もし現代アメリカで街を歩いていても男達の注目を浴びるだろう。
まぁ、ルイズも美少女ではあるのだが…こちらの方は現代アメリカで迂闊に声を掛けようものなら逮捕されるのがオチであろう。

その美少女が、思わず口笛を吹いたペイトンに反応してこちらを振り向いた。
「…あら、ルイズの所の使い魔じゃないの」
「は…はは…昨日はごめん」

流石に昨日の事があり、怯えながら挨拶したバーニーを見て、苦笑しながら、その美少女は安心させるように笑いかけた。

「ふふ、そんなに怯えなくていいわ、昨日の事はもう怒ってないから」
「え?そうなの?」
「えぇ、きっちりお返しはさせてもらったから、ね。何かねぇ…こんな目に合うの初めてじゃないしねぇ。ま、良い女は恨みを買いやすいのよねー」
「ははは、確かに君は魅力的な女性だね。他の女の子も君みたいにさっぱりした性格だと助かるんだけどな」
「残念、そこは諦める事ね。それと、昨日の事は許してあげるけど…だからといって調子に乗らない事ね。良い女の裸は安くはないわよ。拝みたかったら実力で、ね」
「それは、俺にも君を口説くチャンスがある、と期待しても良いのかな?とにかく、改めてよろしく、俺はペイトン」
「僕はバーニーだよ」

そう言いながらペイトンが片手を差し出し握手を求めた。バーニーが続き、それに彼女は応えた。

「キュルケよ。しかし貴方達も災難よね。この国は堅物が多いけど、あの子は特に難物よ」
「ははっ、有り難い事に身をもって体験してるよ」

こうして、三人は固く握手を交わしたのであった。だが、そこへ不機嫌な声が飛んできた。

「ちょっと!何キュルケなんかと握手してるのよ!」

驚いて振り向けば、何時の間に出てきたのか身支度を終えたルイズが仁王立ちしていた。

「何って…仲良くなったら握手ぐらいしたって可笑しくないだろ?」
「だから、何でキュルケなんかと仲良くしてるのよ!」
「何で…って…何か問題あるの?それと、なんかって酷くない?キュルケさん良い人じゃない」

その言葉に、キュルケは少し驚いたような顔をすると、愉快そうに続けた。

「あらあら、賢い使い魔さんじゃない。良かったわねルイズ。貴女には勿体無いくらいの当たりみたいよぉ、ルイズ?」
「…っ!もういいわ!先に食堂に行ってる。アンタ達は好きなだけそうやってればいいわよ!」

怒りで顔を真っ赤にしてそう言い捨てると、ルイズはぷりぷり怒りながら去っていってしまった。

「…わけがわからないよ。何でルイズはあんなに怒るんだ?」
「一応ね、私の家とルイズの家は因縁があるからねー。だからああ怒るのも解るのは解るんだけどねー」
「え?そうなの?」
「そうそう。昔っからあそこのところの男どもをご先祖様が誘惑しちゃってねー。それでなくても国境挟んで隣同士だから、戦争のたびに真っ先に殺し合いよ?
ま、そういうわけだから、これに関してはルイズじゃなくても敵視してもおかしくはないわね」
「俺としちゃ、その男達に同情するわ。ワイフがルイズみたいな性格だったらそりゃ逃げるよ。
相手が君みたいな魅力的な女性なら尚更さ」
「あら、ありがとうペイトン。中々お上手ね。でもそっちのバーニーも中々のものね。良い人なんて言われたの初めてよ?」

キュルケは軽くあしらいながらも満更でもなさそうだった。

「そうなの?本当に良い人だと思うんだけどなぁ。ところで君は、そういう割には別にルイズを憎んではいないようだね?」
「あら、良く分かるのね。ま、殺し合いといっても、顔も知らないようなご先祖様の話しだし。
大体、どうせ身を焦がすなら憎しみの業火よりも恋の炎の方が良いじゃない。だからといって仲良くする気も無いけどね。向こうはこっちを憎んでるみたいだし」
「憎しみより恋って下りには全面的に同意するけどね。うーん、できればルイズに優しくしてやって欲しいかなぁ。でないと俺らにとばっちりが来る」
「ふふ、言うわねぇ。でもそろそろ、あの子を追いかけた方が良いんじゃない?余り一人にしておくと、また癇癪が爆発するかもよ?」
「それもそうだな。ご忠告どうも、キュルケ、じゃあ行くぞ、バーニー」
「待てよ!ああ、ありがとうキュルケさん。じゃぁ、またね」

慌しく礼を言うと、彼らは食堂目指し走り始めた。
こっちへ来てから始めて、それもキュルケのような美女にまともに接してもらったこともあり、彼らの気分は随分上向いていた。
なんだかんだで、こっちでも案外楽しくやれるかもしれない。何となく、そう思った。

「…気のせいだったな」
「…気のせいだったねぇ…」

彼らは、先程までの自分を呪っていた。床に座らされた彼らの前に置かれたのは硬いパンが二切れ申し訳程度に乗せられたスープである。
まぁ、床に座らされるのは我慢も出来る。だが、若い男の食事にしては明らかに量が足りない。
流石にこれは耐えかねたので、せめて量だけでも何とかするように、しつこく懇願していたら、根負けしたか、固そうなパンが増えた。
…が、それだけである。肉を要求したが、癖になるから駄目、とにべも無かった。いや、肉だけではない。ルイズが食べている美味そうな物は何一つ貰えなかったのだ。
落胆しながら食事を終えた彼らは、食堂の壁にもたれながら不満をぶちまけていた。

「…ったく、何が特別な計らい、だよ。ダイエットでもさせようってのかね」
「周りが豪華な食事な分余計惨めだよね…イギリス人だってもっとマシなもんを食べてるよ、きっと。いっそもう、ストでもするかい?」
「ハンストでもする気かよ。まぁ、こんなんじゃ食べてないのと大して代わらないけどよ…ああもう、仕方ねぇ、恵んでもらいに行こうぜ」
「それしかないだろうね…まぁ、昨日の反応から考えれば、男子を回れば誰か分けてくれるだろ。それに期待しようか」
「ヘイ、待てよバーニー。どうせなら綺麗所と食事としゃれ込もうぜ」
「おい待てよペイトン、そんなあてなんかないだろ!」
「あるだろ、ついさっき知り合ったばかりのあてがよ。駄目元だ、行ってみようや」

「それで?あたしのところに来たってわけ?」

食事中、突然やって来た彼らに最初キュルケは不審な顔をしていたが、理由を説明する内に段々その表情は崩れてゆき、最後には必死に笑いをこらえていた。

「貴方達、大胆すぎて面白いわねー。良いわ。もう手を付けちゃってるから、あんまり残ってないけど、それでも良ければ、だけど」
「とんでもない!ありがたく頂くよ、なぁバーニー!」
「勿論さ。ありがとう、キュルケさん!」

「ちょっと、正気なのキュルケ!なんでこんなのに!」

近くにいた女子からは一斉に非難の声が上がったが、キュルケはまるで気にしなかった。

「貴方達には頼んでないわよ?別に良いじゃない。まぁタバサが駄目というならちょっと考えるけど。別に構わないでしょ?」

その問いかけに、猛烈な勢いで食事をしていた少女が、僅かに手を止め、

「了承」

とだけ言うと再び轟然と食事を詰め込み始めた。

「タバサからも同席の許可がでたわ。ま、もっともこっちは分けてはくれないでしょうけどね」

「構わないよ、正直、白い目で見られないだけでもほっとする」

こうしてキュルケと話している今でも、周りの女子からの敵意の篭った視線がビンビンに突き刺さってきていた。
それだけに、普通に接してくれるキュルケ、放って置いてくれるタバサは非常にありがたかった。

こうして、彼らは何とか食事にありついたのである。そしてこれは、暫く続くこととなったのであった。

「おお、我等が英雄のお出ましだ!」

朝食が終われば、いよいよ授業が始まる。教室に入った彼らを出迎えたのは、そう熱烈に歓迎する男子と、

「………」

氷点下以下の侮蔑の篭った視線でこっちを睨む殆ど…というか、ルイズ、タバサ、キュルケ以外の全ての女子であった。
食堂の時の反応から予想は出来ていた事だったが、だからといってそれが慰めになるわけも無い。流石にこう露骨に敵意をあらわにされると逃げたくもなった。
面白そうな顔で手を振ってくれたキュルケが唯一の救い、といったところだろうか。彼らはせめて居心地の悪さを出来るだけ感じないようにした。
そして、その敵意はルイズに対しても向けられていた。そのせいで不機嫌を前面に押し出した顔をしていたルイズにペイトンは気になっていたことを尋ねた。

「…ところで、来いというから授業について来たけど、俺達は何をすればいいんだ?まさか俺達にも魔法を習わせる気か?」
「まさか!この授業は、使い魔を連れてくる事になってたから、というだけの話よ。アタシだって何を好き好んであんた達みたいなトラブルの種をわざわざ…
はぁ、もういいから。黙ってそこに突っ立ってればいいわよ。とにかく、余計な事は一切しないで。他には何も望まないから」
「へいへい、有り難い御配慮に感激して涙が零れそうですよっと」
「おいペイトン、挑発するなよ…僕だって我慢してるんだ」

愚痴をこぼしながら、彼らがルイズの後ろに控える格好になると、いい加減耐えかねたか、女子達から一斉に非難の声が上がった。

「ルイズー?あんなの連れてくるんじゃないわよー?今すぐ出て行かせなさいなー」
「そうそう、またやったら今度はアンタも只じゃ済まさないわよー」

自業自得とはいえ、相変わらずの反応にすっかり彼らはゲンナリした。男子共もあんだけ持て囃すならちっとは擁護してくれても良いのに…と内心思ったが、
この状態で擁護したら最後、女子からどういう扱いをされるかは火を見るより明らかである。擁護ゼロなのは無理もなかろう。
だが、幸いな事にほどなくその声は途切れた。ふくよかな中年の女教師が入ってきたのである。
紫のローブに身を包んだ彼女は、教室を見渡すと満足そうに口を開いた。

「皆さん、春の使い魔召喚は成功に終わったようで何よりですわ。このシュヴルーズ、様々な使い魔を見るのがこの季節の一番の楽しみなのです。
生徒達の成長を実感できますしね。ところで…」

そこで、シュヴルーズは言葉を切ると、彼らを見て

「貴方達ですか、ミス・ヴァリエールの使い魔というのは。…えぇと、平民の身で使い魔となっては色々戸惑う事も多いでしょうが、だからといって変な事はしないように。
くれぐれも頼みますよ。ミス・ヴァリエール。貴女もしっかり監督するように心がけて下さい」

その言葉で我が意を得たとばかりに、中断された非難の声が再び飛んでくる。

「先生!私は反対です!あのルイズにこの使い魔を制御できるとは思えませんわ!」
「この平民にそんなこと期待できません!ああ、思い返すだけで腹立たしい!」

その声にルイズはひたすら耐えるばかりで、その様子は散々な扱いを受けた彼らも少しは同情したくなるほどであった。

彼らは反論するわけにも行かず、しばしそれを黙って聞いていたが、収まりそうもないので立ち上がると

「あー、ルイズ。悪いが俺達は席を外すよ。周りの反感が凄いもん。正直、君だって辛いだろ?」
「そうそう、次は出るからそれで許してよ。すいません先生。どうも授業の邪魔になるようですから僕たちは失礼します。構いませんね?」
「本当は使い魔は一緒にいて欲しいのですが…まぁ、こう空気が悪くては仕方が無いですね。
退室を認めましょう。えぇ皆さん。彼らも反省しているようですし、禍根は…まぁすぐに忘れろというのも難しいでしょうが、何時までも引きずらないように。よろしいですね?では授業を始めます」

ルイズは、唇をかみ締め彼らを睨んだが、結局何も言わなかった。彼らも肩を竦めこそしたが、結局無言で出て行った。

その少し後、教室から凄い爆発音が響いた。かなり遠ざかっていた彼らが思わず振り返るくらいの大きなものであった。

「…何だ、今の?」
「おいおい、俺に分かるわけないだろ?ま、何かの魔法だろうな。さすがファンタジーだ。きっと派手なのをぶっ放したんだろ」

再び肩を竦めると、彼ら歩き出した。よもや、それを起こしたのがルイズだなどと知る由も無かった。
そうと知ったのはルイズに呼びつけられて惨憺たる教室の片づけを命じられた時であるが、それはまぁ余談である。
そんなこんなで数日が過ぎた。流石にルイズも慣れてきたか、初日の不信感丸出し、といった様子もなくなり、彼らを前にしても露骨に不機嫌になることはなくなっていた。
そういう意味では随分進歩したと言えよう。言えるのだが…彼らの待遇はまるで代わっていなかった。

どうやらそれは嫌悪感や罰によるものではなく、ルイズの使い魔と主人では扱いに差があって当然、という意識によるものらしい、
という事が彼らにも分かってきたのだが…当然、彼らがそれで納まるはずも無い。その日もまた、愚痴っていた。

「ああ!もう我慢出来ねぇや。俺達はいつまでこんな生活しなきゃなんないんだ?」
「そんなの僕に分かるわけ無いだろ。未来予知は専門外さ」
「まあ、ルイズが魔法を使えるようになるのが一番ハッピーなんだけどな。今のままだと、コッチが割を食うばっかだ」
「だね。…とはいえ、魔法の事なんかわかりゃしないしなぁ…協力したくてもしようが無いよ」
「だよなぁ…こうなったらアレだ。抗議しないか、抗議」
「ルイズに…じゃないんだろ?どこにだよ。FBIか?CIAか?それに何て言うんだよ。労働基準法違反とでも言う気か?」
「まぁ俺もどこに文句ぶつけたらいいか分からないけどさ…おお、そういえば、ほら、俺達が最初に出会った先生いたじゃん。
ちょっと頭の寂しい。あの人はどうよ。結構話せそうな感じだったし」


突然の訪問にもコルベールは嫌な顔を見せず対応していたが、彼らの話を聞くと、困ったような顔で、頭をかきつつ答えた。

「はぁ、まぁ…君達の要求は分かりますが…正直君達は最初にちょっとその…
不味い事をしでかしたわけですし、ある意味しょうがないでしょう」
「それはそうですが、ルイズはまるで聞く耳持たないので…せめて、それとなく仲裁に入ってもらえないかな、と」
「多くは望みませんが、せめて食事だけでも何とかしてもらえませんか。贅沢は言えませんが二人で食うには量が、その…」
「私としては、もう少し日にちがたてばミス・ヴァリエールも冷静になって待遇を改善するのでは、と思いますがねぇ。
そこへ私が下手に口を出して依怙地になっては逆効果ですし…というわけで、もう少し我慢していただけませんか?
彼女はもともと頭の良い生徒ですから、きっと落ち着いて話せば分かってくれますよ」


「駄目じゃん!正論だとは思うけどなんの救いにもならねぇよ!」
「言うなよペイトン…そうだ、こうなったら駄目元で、先生の更に上に掛け合ってみようぜ」
「上?つまり誰だ?」
「ここの、校長さ」

人に何度か場所を尋ね、やっとたどり着いた学院長室の前で、彼らは躊躇していた。

「じ、じゃぁ、行くぞ」

緊張の余り、震える手でドアノブに触れる。ここの魔法使いを束ねる存在となれば、それ相応の実力を持つはずである。
まさか御伽噺にあるように、ちょっと機嫌を損ねただけで呪いを掛けられ蛙にされてしまった、等という事は無いだろうが…
大丈夫、迂闊な振る舞いをしなければ問題ない。そう言い聞かせて胸に沸き起こる悪い想像を押さえつけながら、ついに扉を開けた。そこで彼らは見た。

「全く!お尻を!触るなと!何度言えば!」
「触って何が悪い!大体、君のお尻が魅力的なのが悪いんじゃ!尻の引力に魂が惹かれたんじゃ!」

学院長らしき人物が、秘書らしき美女に蹴り倒されていたのを。

無言で扉を閉じた彼らは顔を見合わせ、同時に溜息をついた。見たまんまなのか、そういうプレイなのか状況が良く分からなかったが
…とにかく、まるで当てにならないことは確実だったからだ。

「駄目だなこりゃ。本当に怒りが収まるのを待つしかなさそうだ」
「…その日まで敬謙にすごせ…ってか?この調子だと審判の日が来る方が早いかもな。
そうなったら凄いな。俺でも神父様になれそうだぜ…いや、待てよ…今のは上手くすれば…」
「…?おいペイトン、何を考えてるんだ?」
「うん?面白い事を思いついたんだ。題して、プレゼント作戦!耳かせ、耳」


ペイトンの作戦は単純なものだった。が、バーニーは難色を示した。

「…やだよ、バーナデッドから始めてもらったメールがあるんだ。コイツは墓場まで持っていくぞ!」
「純情だなぁ…わかったよ、俺のを使うよ。貸し一つな。その代わり色々俺のアドレス帳のを登録してもらうぜ」
「何でだよ、全然分からないんだけど!」

不審の声を上げながらも、バーニーは結局ペイトンの案に乗った。他に妙案も無い以上、それに賭けるしかなさそうだったし、何だかんだでペイトンの事を信頼しているからである。


「…おや、君達は…」

再び尋ねた学院長室には先客…コルベールがいた。彼は彼らを見て若干狼狽した様子だった。その手には二枚のスケッチがあり、
良く見ればそれにはバーニーの手に浮かぶ文様と同じものが描かれていたのだが…彼らはそんなものには全く注意を払わなかった。それよりも優先されるべき事項があったからだ。

「始めまして。学院長先生。ルイズの使い魔になりましたバーニーです」
「同じくペイトンです」
「そうかそうか、君達じゃったか。わしが、学院長のオールド・オスマンじゃ。こっちの、コルベール君とは面識はあるな?
それとこちらの美人はミス・ロングビル。わしの秘書をやってもらっておる。して、何用かな?」
「実は、学院長先生に見せたいものがあります。多分、ここではまず見られない珍品ですよ?」

そういって、ペイトンはにやりと笑った。

「実は…ああすみません、その前に窓が開いていた方が都合が良いんで、ちょっと窓を開けてもらって良いですかね?」
「…ふむ?」

怪訝そうにオスマンがロングビルを見やると、彼女は頷き、立ち上がると窓へ向かった。
その動きに合わせ、ペイトンが懐から携帯電話を取り出す。ペイトンがバーニーを小突いたのはその時であった。
それを合図に、バーニーが精神を集中する。すると、窓を開けに向かったロングビルのスカートが風も無くふわり、と捲れあがり、同時にカシャリ、と音が響いた。
現代人なら瞬時に誰に、何をされたか理解し、ペイトンは吊るし上げを喰らっていただろう。
だが、生憎とロングビルはいつもの事…つまり、オスマンのセクハラだと解釈し、報復に出た。振り向きもせずに、無造作に手を振った。
ほぼ同時にオスマンの呻き声が響いた。
狙いたがわず、手に持っていたペンがオスマンの顔面に命中していたのだ。

「すげ…ニンジャみたいだ」

ぼそりとペイトンが呟いた。

「オールド・オスマン、悪戯はいい加減にして下さいね。用事を思い出したので少し席を外させてもらいます!」

にっこりと、凄みの篭った微笑をオスマンに投げかけると、鼻を晴らしてロングビルは退室していった。
ロングビルが退室したのを見届けると、ペイトンは仕切り直しというように二、三回咳払いをしてから

「さて、これはですね、色々機能がありますが…まぁ簡単に説明するとですね、
この枠内に映ったものを写真…ああ、絵として保存しておくことが出来るのですよ、このように」

と、ペイトンが携帯を操作する。すると、先程捲れあがったロングビルのスカートの中身が見事に激写されていた。ちなみに、赤であった。

「…とまぁ、このような品、恐らく興味を引かれるのではないか、と思うのですが…如何です?
ああ、この絵については気にしないでくださいね。窓から見える景色をとって見せるつもりでしたが、たまたま、偶然、不運にもこんな物が撮れてしまいまして」
「お、おお、うん、これは実に、その、興味深い!」
「全くですな!これは、一体どういう仕組みになっているのですかな?」
「でしょう!そう仰ると思っていました。それで…しばらく使ってみますか?勿論興味がお有りなら、の話ですが」
「勿論じゃ、勿論じゃとも!」

興奮して身を乗り出してくる二人に、極簡単に撮り方、見方だけを教えてペイトンは携帯を手渡した。

「はい、どうぞ。後で解らない事があったら気軽に聞いてくださいね。
ああ、念を押すまでも無いでしょうが、他じゃまず手に入らない代物ですんで、丁寧に扱ってくださいよ?」
「勿論じゃとも!」

力強く頷く二人を見ると、ペイトンは満足そうに頷き、

「それでは、これで失礼します。存分に研究して下さいよ。戻るぞ、バーニー」
「え…?おい、ちょっと、まだ話があるだろ」
「いいから来いって。いいんだよ、これで」

そういうと、ペイトンは無理矢理バーニーを引きずって退室した。が、爛々と目を輝かせている彼らには、その様子は最早写ってはいなかった。
彼らはこの携帯をどうするかにもう夢中だったのだ。
コルベールは、これを隅から隅まで研究してみたいという欲求で。
オスマンは、これで隅から隅までロングビルを激写したいという欲求で。

さて、収まらないのはバーニーである。余りにすんなり引き下がったので、退室するなりペイトンに食って掛かった。
「…おいペイトン、どういう事だ?」
「ん~、どういう事って?」
「待遇改善してもらうんだろ?なんで携帯渡しただけですんなり引き下がるんだよ!」
「ふっふっふ、まぁ見てなって。後数日の我慢だ。俺の読みが正しけりゃぁ、そうすれば愉快な事になるぜ」
「…?」

果たして、数日後、ペイトンの言ったとおりになったのである。

そろそろ良いだろ、とのペイトンの判断で彼らは再びオールド・オスマンに面会した。
が。面会自体はすんなり適ったが…彼らを迎えたオールド・オスマンとコルベールの様子がおかしいのだ。

「あ、ああ、君達か。何の用かな?」
「賢明なる学院長殿にはご推察だと思いますが?そろそろこの前渡した携帯を返していただきたいのですが。もう充分研究なさったでしょう?」
「い、いや…あれは実に興味深くてな、もう少し貸しては貰えんじゃろうかなぁ」
「まぁ、それならそれで構いませんが…まさか、壊したりはしてませんよね?」
「はははいやいや、まさか、そんな、なぁ!コルベール君」
「ええ、勿論ですとも!ただ、まぁ興味が尽きないので、もうしばらく!何卒!」
「ですよね!まさかそんなはずないですよね!いやいや失礼しました!」
「いやいや、君がそう心配するのも、うん。もっともじゃよ。じゃが、その、安心してくれんか」

動揺しすぎな彼らを見てバーニーにも大体事情が飲み込めた。無論、それを合えて口にするほどバーニーは空気の読めない男ではない。

「そうですか、ところで話は変わるんですが、ああ、コルベール先生には相談したんですけど。俺達初日にやらかしたせいもあって、未だに食堂で寝てるんです。
食事もキュルケや他の男子から分けてもらっているようなもんだし、もうちょっと、衣…はともかく食住の環境をですね」
「ああ、わかったとも!男子寮に空室があったはずじゃから、そこに移れるようにしよう!食事に関しても厨房に取り計らっておこう。その代わりといっては何じゃがな」
「…ふぅ、わかりましたよ。もう暫くお貸ししておきます。でも、気が済んだら必ず返して下さいよ?」

それだけ言って彼らは退出した。ドアが閉まるなり、満面の笑みで彼らはハイタッチを交わした。

「やりやがったなペイトン!これを狙ってたのか!」
「そうさ、あの秘書さん、結構過激みたいだし、あの爺さんが調子に乗って盗撮でもすればもしや…と思ったんだ。
それに、珍しさからいじり倒せばどの道すぐに電気切れになるだろうって…と」

そこでペイトンは指を立てて「静かに」のジェスチャーをした。怪訝に思いながらもバーニーが黙ると、

「だから私はあれほど彼女の下着を狙うのは止めろと…」
「どんな影響があるか分からんから固定化はやめておこうといったのは君ではないか!大体…」

と激しく言い争う声が聞こえてきたので、彼らは笑いをこらえるのに必死だった。



「それじゃぁ、俺達の新しい城に!」
「我らの再出発に!」
「「乾杯!」」

その夜、彼らは与えられた部屋で存分に祝杯を挙げた。話を聞いた幾人かの男子達もお祝いにやってきて彼らは大いに意気投合した。
そして、久々に満ち足りた気分で、ふかふかのベッドで眠りについたのであった。





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