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ウルトラ5番目の使い魔、第三部-03


 第三話
 たどり着いた翼人の里、金属生命体来襲!

 金属生命体 アパテー 登場!


 ガリア王国、アルデン地方。都市圏を大きく離れ、黒い森と呼ばれるうっそうとした原生林が広がるここに、世界で唯一、人間と
翼人が共存するエギンハイム村はあった。
 怪獣メルバとの交戦と、謎の昆虫群の襲撃にあって墜落、不時着を余儀なくされた東方号。騒動には恵まれたものの、心ある
人たちのおかげで村人と翼人の助けを受けられて、一行は傷ついた体と疲れた心を癒していた。
 しかし、空を埋め尽くし、太陽光さえもさえぎってしまった黒い昆虫の群れはなおも彼らの頭上にある。不気味に漂い、太陽光さえも
さえぎってしまった正体不明のそれに不安をかきたれられながら、一行の胸中にはかつてない凶事の予感が渦巻き始めていた。


 東方号の墜落からおよそ半日後……普段ならば静まり返り、風のほかには鳥や獣の声がまれにしか聞こえないような
ライカ欅の森の中。機械を扱って起きる金属の音が不釣合いに軽快に響き渡る。
 墜落した東方号を、なんとか飛ばせられるくらいには修理しようと、コルベール主導での突貫工事が総出で急がれていた。
「エギンハイムの皆さん、どうもお騒がせして申し訳ありません。なんとか数日中にはどかせられるようにしますので」
 許してもらえたとはいえ、他人の土地にいつまでもお邪魔しているわけにはいかない。それに、なんといっても東方号は
トリステインの財産であり、一行にとっては移動手段であって家だった。いくら壊れかけていても、打ち捨てるなどということは
到底できず、手漉きの人間全員で修復に当たっていた。
「こいつはひどいな、積み込んである予備の部品じゃあ、全部を直すのは到底無理か。どのみち一回はトリステインに戻らないといけないな」
 壊れた四基の水蒸気機関を見て周り、修理の見積もりをしていたレイナールが隣のギムリに独り言のようにつぶやくと、
彼も頭をかきながら答えた。
「ああ、右の一番はプロペラが吹っ飛んで、左の四番は水蒸気機関そのものがはじけとんでしまってる。こいつはもう、新しく
つけかえるしか方法はねえぜ。しっかし、なんとか右の二番と左の三番は形を保ってるから、あれしだいだろうな」
「全部が壊れてたら、それこそ浮かせられても亀が這うような速度しか出せなかったから不幸中の幸いだね。なにせ、
ここはガリアの勢力圏の真っ只中だ。東方号を、ガリア軍に進呈してやるわけにはいかないよ」
「東方号を、無能王に分捕られましたじゃ女王陛下にあわせる顔がないもんな。ロマリア行きは、この調子じゃ中止だろうし、
まったくついてねえぜ」
 残念な顔と、ほっとしたようなため息がふたり同時に流れた。
 この状況で救いどころがあるとしたら、ここがガリアの辺境でよかったということくらいだろう。もしも人間の多いところであれば、
ガリア軍に通報されて全員揃って一網打尽……笑い話ではすまなかった。

 村でも、東方号に積んであった金品で食料品などとの売買が進んでいる。東方号が墜落したとき、厨房もめちゃくちゃに
なってしまって、まともに食べられるものがほとんどなくなってしまったのだ。
 これに関しては、銃士隊の補給班の受け持ちであったのだが、意外な人物が才覚を発揮した。ティファニアである。
「どうだいお嬢ちゃん、この野菜は今が旬でうまいぜ。安くしとくぜ」
「待ってください。ほら、この裏の模様が濃いのは芯が多くて食べられるところが少ないんですよ。この値段ではまだ高いです」
 こういうふうに、農家と互角以上の知識を発揮して値切り交渉をしている彼女のおかげで、最初の予定よりずっと質も量もよく、
仕入れが成功していた。農家のほうも、世間知らずな小娘という印象を受けるティファニアから、的確で譲らない交渉が出てくるので
面食らってしまって、交渉の主導権を握られてしまっている。
 気づけば、補給班の想定したよりも安く取引が成立しており、びっくりした補給班の責任者はティファニアに尋ねた。
「すごいな君は。正直に言うと、荷物運びくらいにはなるかと思って連れてきたのだが、その話術はどこで身につけたのだ?」
「あっ、はい! わたし、ずっと食べ盛りの子供たちの面倒を見てきましたから、仕送りの中でどれだけ多く買い入れられるかって
いつも考えてたんです。行商の人はやり手なので、最初のころはずいぶん押し付けられましたので、それで……」
「なるほど、生活の知恵だったのか。我々は剣を振り回すことしか能がないから、今回は本当に助かったよ」
 経理にはいつも苦労していたのだろう。補給班の謝意には熱意がこもっていた。
 ティファニアは、自分も買い込んだ野菜や穀物のかごを背負いながら照れて答えた。
「そんな、わたしなんかでお役に立てることがあるならなんでもさせてください。わたし、もっともっと皆さんのために尽くしたいんです!」
「いい気迫だ。だが、そう気張りすぎるな。誰にだって、それなりのとりえと苦手がある。ともかく今回は助かった。我々としても
勉強になることも多かったしな。これからもちょくちょく頼むよ」
「は、はい、喜んで!」
 ティファニアにとってはなんでもないことだったので、こんなに喜んでもらえたのはとてもうれしかった。人間は、なにが一番
喜びになるかといえば、誰かの役に立っているということが実感できているときだ。彼女は、隠れ住んでいた森から強制的に
連れ出されてから、まだ半年足らずしか経っていないために、どうしても周りに迷惑をかけているのではという引け目があったが、
その心の重荷は背中の重荷と引き換えにすっかり軽くなった。
「これで、皆さんにはいっぱい元気になるものを作ってあげられます」
「そうか、我々も楽しみにしているよ」
「はい、実は翼人の奥様方から秘伝のレシピもいただいてるんです。アイーシャさん、すごくいい人でお友達になったんですよ」
 うきうきした様子で話すティファニアに、彼女と同行していた銃士隊の皆からも自然な笑顔がこぼれた。
 誰が相手でも、先入観を持つことなく話しかけていける。友達になろうとすることをためらわない。ティファニアの、その純粋で
慈愛に満ちた心は、間違いなく彼女のかけがえない財産であった。
 優しさは、人と人とをつなぐ大切な架け橋であり、時にそれは大きな奇跡の原動力ともなる。この宇宙のかなたでも、かつて
ひとりの青年が避けられない戦いの中でも共存を信じて、憎しみに埋め尽くされた心とも向き合って、その心を救った奇跡があった。
そんなことを、この星に住む誰も知るはずはないが、ティファニアの胸には、ペンダントにされたあの輝石が輝き、その魂を
映し出すように美しく輝いていた。


 しかし、ティファニアのように微笑ましさをのぞかせるエピソードもあったが、多数は近い将来にも希望を見出せずに困り果てていた。
 東方号の損傷の細かいところの詳細が明らかになるにつれ、ギムリとレイナールの顔は曇る一方であった。
「で、どうするんだレイナール。修理の部品、足りるのか?」
「だから、壊れたものから部品を寄せ集めて直すんだとさ。それでなんとか、トリステインに帰るまでは飛べるだろうって、
コルベール先生が言ってた」
「そっか、こいつは重すぎて風石や帆なんかじゃ動けないからなあ。いままで、単純にすごいとか便利とか思ってたけど、
それだけに一度壊れたらやっかいなもんだと改めて思ったよ」
 東方号の損傷は相当にひどく、レイナールはほこりと油で汚れた眼鏡を布でぬぐい、ギムリは草色の髪の毛をぼりぼりと
かきながらため息をついた。本当に、全員が五体満足で不時着できたのだけでも奇跡的なのだが、すでに愛着も湧くように
なってきていた船が傷ついている様を見るのはつらかった。
 壊れた水蒸気機関には、コルベールの育てた技師がついて解体作業に当たっている。バラしたふたつのエンジンのパーツで、
もうふたつを再生できれば、速力は半減するが飛ぶことはできるため、突貫工事が続いていた。
 しかし、当面の予定はまったく立たない。今は船の修理で気を紛らわせているが、トリステインに戻ってもどうすればいいのか、
誰にもいい考えなどはなかった。
「いったい、何が起ころうとしているってんだろうな? まさか、もうヤプールが復活したっていうんじゃ……」
「まさか! アディールであれだけこっぴどくやっつけたってのに、いくらなんでも早過ぎるよ」
「だが、空を虫で埋め尽くすほどのことができるのはヤプールのほかに何がいるってんだよ!」
「よせギムリ、みんな聞いてるんだぞ。余計な不安をあおったらどうする」
 レイナールが口をつぐむように忠告すると、ギムリははっとしたように周りを見回した。何人かの新規クルーが聞き耳を立てて、
不安げな表情を浮かべているのが目に入ると、彼も失言に気がついた。
「悪い、感情的になりすぎた」
「わかってくれたならいいさ。でも、みんな突然のことで内心では動揺してるんだ。戦場で貴族が慌てたら平民はパニックになる。
ぼくたちはこれでも、彼らにとっては頼るべきものなんだ」
 ギムリは黙ってうなづいた。水精霊騎士隊は少年ばかりでも、平民から見ればもうベテランぞろいの頼りになる存在と見られているのだ。
上が頼りないとわかれば、下はおのずと力を発揮できなくなる。脳がなければ、手足はどうすることもできないのと同じことだ。

 心から拭い去れない不安を、忙しさで無理矢理押し込んで東方号のクルーたちは働き続けていた。巡礼団の貴族や
神官たちは、部屋に閉じこもって寝込んでしまっているが、やはり人間は体を動かしているほうが気が晴れる。
 一刻も早くトリステインに戻らなくては、向こうもどうなっているかわからない。ただし、この船の動揺は、巡りめぐれば
エギンハイム村の不安へとつながる。村人たちからの恩を仇で返すような行為は、厳につつしむべきであった。

 それらを横目で見ながら、才人とルイズも船の修理を手伝っていた。
「みんな不安がってるみたいね。無理もないけど……ねえサイト、わたしたちを襲った怪獣や、あの虫の大群……あれも、
ヤプールの仕業だと思う」
「わかんねえ、メモリーディスプレイにも記録はなかったし。ヤプールが堂々と名乗ってから仕掛けてくるような奴なら、
これまで苦労しなかったしな」
 ふたりの表情も晴れなかった。レイナールの言うとおり、前回ヤプールに与えたダメージからして、ヤプールが復活して
仕掛けてくるにしても、まだしばらくの余裕があると思っていた。まして、どう見ても世界規模の攻撃を開始するだけの
余裕など持てるはずはない。可能だとしたら、サハラにまで行って人間とエルフの確執を和らげようとした努力が無駄だった
ということになってしまう。
「なにがなんだか、わけがわからねえよ。ったく」
 才人は、怪獣がからむことに関しては知識を期待されているし、本人もそれで役に立ちたいと気張っているだけに、自分の
知識がまったく及ばないと思うと無力感が強かった。だがルイズは、そんな才人をはげますように言った。
「そうね。けど、悪いことばかりじゃないわ。このエギンハイム村に降り立てたことは、わたしたちにとっては幸運だったわ。
異なる種族同士の共存のひとつの形の実践。これを知らせれば、まだ人間との共存を嫌がってるエルフたちも気が変わるかも
しれないし、ほかの亜人たちとの調和への助けになるかもしれないのよ」
「ルイズは相変わらず前向きだな。けど、確かにそのとおりだぜ。災い転じてなんとやら、おれたちの肩には世界の命運が
かかってるんだった」
「そうよ、うじうじしてる暇なんてわたしたちにはないんだから。ともかく、トリステインに帰って女王陛下にご相談しましょう。
場合によっては、ネフテスに協力を要請することになるかもしれないわ」
 ルイズはこんなときでもちゃんと将来のことを考えていた。その計画性の差に、才人はやっぱり自分とは頭の出来が違うんだなと
感心するのと同時に、自分をふがいなく思った。
「あーあ、バカは死ななきゃ治らないっていうけど、バカに生まれついちまったおれはどうすりゃいいのかねえ」
「ああ、それは間違ってるわよ。なんてったって、あんたはバカじゃなくてバカ犬だもん。バカに昇格させてももらえてないのに
贅沢な悩みをするんじゃないわよ。てか男なら、もっとしゃきっとしなさい!」
 ルイズは、後ろ向きになりかけていた才人の背中を叱咤するようにバシッと叩いた。ところが、小柄なルイズの手で
叩いたにも関わらず、才人はぐらりとよろめいてひざをついてしまった。
「うっ、ぐぅっ」
「サイト!? ちょっ、大丈夫!」
「大丈夫だ。少し、目まいがしただけだよ」
「あんた、やっぱりまだ……」
 ルイズが声をひそめて問いかけると、才人は疲れた声で答えた。
「ああ、ついさっきのことだからダメージが残ってるな。まだ体がだるくて……それよりルイズ、お前も少しやつれて見えるぞ」
「ふん、あんたとは鍛え方が違うのよ。でも、確かに休む間もなかったからね……」
 メルバを苦戦の末に倒して半日、疲れは回復する余裕もなくふたりの体にとどまっていた。ふたりを立たせているのは、
ひとえにやせ我慢によるところが強い。エースも、いつもならばふたりに負担がかからないようにしてくれるのだが、
消耗が大きかった場合にはこれまでにもふたりに反動が来たことがしばしばあった。
「一晩寝れば大抵は治るんだけどなあ……もうしばらくは休めそうにないな」
「仕方ないわよ。わたしも気張るから、あんたも頑張りなさい。女より早く倒れたら恥ずかしいでしょ」
「きっついなあ……けど、やるっきゃないか。ところでルイズ聞いたか? この村が人間と翼人で戦争になりかけたとき、
それをおさめるのに一役買ったっていう……」
「もちろん。さっき聞いたときにはびっくりしたわよ。まさか……」

 そのときであった。ふたりのいる東方号の甲板にも聞こえるくらいに大きな音で、エギンハイム村のほうから鐘の音が響いたのだ。

「なっ、なんだ! この鐘の音は、火事か地震か!?」
「つまんないこと言ってる場合じゃないでしょ! なにか起きたのよ。行ってみましょう!」
 才人は、日本で言うなら半鐘の音に似たけたたましい音に言い知れない不安を覚えた。
 なにかあったんですかと、事情を知っていそうな村人に尋ねるふたり。すると、その村人は動揺しながら答えた。
「じ、実は翼人たちが、南のほうからなにか邪悪な気配がここに近づいてきてるって言うんだ。だから、村にいちゃ危ないってんで、
みんな森に避難しようとしてんさ」
「邪悪な気配!? すみません、その翼人たちにはどっちに行ったら会えますか?」
「ああ、彼らの巣ならあっちのほうさ。空を見上げれば戦士たちが集まってきてるからすぐわかるよ。じゃな!」
 おびえて走っていった村人と別れ、ふたりは教えてもらった方向へ走った。
 情報はすでに伝わっていたらしく、そこには銃士隊や水精霊騎士隊も集まり始めている。
 ふたりはそこで、緊張感に満ちた表情のアイーシャから説明を聞いた。
「森の精霊たちが騒いでいます。南から、これまで感じたことのない邪悪な思念を持った何者かが近づいてきてます。もうすぐ!」
 村人や翼人の女子供たちは、早くも森の奥へと逃がされて、この場には戦士と武器を持った男だけが残っていた。アイーシャの
夫のヨシアや彼の兄のサムも、手に手に農機具や狩猟道具そのままの武器をたずさえて構えている。以前に怪獣と戦ったときと
衰えない、その度胸の据わった様子には水精霊騎士隊と銃士隊も感心した。
「ぼくらも負けてはいられないぞ。たとえ国は違えども、民を守るのは貴族の責務、全員気合を入れろよ!」
 おう! という掛け声もそろそろ心地よく聞きなれてきた。例によって、薔薇の杖を掲げてきざったらしくかっこうをつけるギーシュの
姿は、村人からはあっけにとられるものがあったようだが、緊張を緩める効果はあったようである。
 反面、規律正しく、隙なく迎撃の態勢を整えるのが銃士隊である。
「村と村人に被害を及ぼすわけにはいかん。敵が何者かはわからんが、森の中で決着をつけるぞ。ミシェル、半数はお前が
指揮を執れ。腕は落ちていないだろうな」
「了解しました。一連の状況を考えますと、敵は我々を追ってきた怪獣の可能性が大きいかと思えます。隊長も、十分に
お気をつけください」
「わかっている。敵はおそらく東方号を狙ってくるだろう。しかし、そのために犠牲者を出しては元も子もないことを忘れるな。
敵の正体を見極めるまでは手出しを控えろ、我々には我々の戦い方がある」
「はっ!」
 いまや、本当の姉妹のように息が合っているアニエスとミシェルの打ち合わせはあっというまに終わった。巨大怪獣との
対決経験では、彼女たちもこの世界ではトップクラスに多い。真正面から戦っては歯が立たなくても、知恵と工夫しだいで
どんな相手にでも隙はできるというのが、今の彼女たちの信条であった。
 もちろん、才人とルイズもそれぞれの武器を持って覚悟を決めている。誰の目にも弱弱しさはない。
 人間には、知恵と勇気がある。力に溺れて自惚れた者には決して持ち得ない、それが人間という弱い生物ゆえの最大の武器なのだ。

 幾度となく奇跡を呼んできた心の中の武器を研ぎ澄ませつつ、彼らは南の空を睨んで待ち構えた。
 そしてついに、翼人の見張りの目が南方の空から迫りつつある脅威の実体を捉えた。

「あれは……なんだ?」

 遠くの山を超えてやってきたもの、それは奇妙としか形容のしようがない物体であった。
 簡単に説明すれば、全長数十メートルの鉄の塊。全体が銀色に輝き、形状は流線型に近い不定形、およそ表現のしようがない。
 船でもなければ、まして生き物のようにはまったく見えない。木に登って待ち受けていた人間たちも、全容が明らかになってくるに
つれて、怪獣でも星人でもない、単なる金属の塊をどう捉えていいのかわからずにとまどった。
 しかし、相手を外見だけでなく精霊を通して知れる翼人たちの反応は早かった。人間には感じられないが、普通の生物とは比較に
ならないほど強烈で異質で邪悪な思念を撒き散らしながら迫ってくるそいつに、森の精霊たちは揃って脅威を感じ、翼人たちに
警報を発していたのだ。
 まっすぐに向かってくる謎の金属塊を指し、アイーシャが毅然と命じる。
「皆、大いなる意志の導くままに。あれをこれ以上近寄らせてはいけません! 戦いを!」
 その瞬間、村までおよそ五キロメートルばかりに迫った金属塊に向けて翼人たちが先住魔法を使った。
 森の木々の精霊に命じて、無数の木々から枝が伸ばされてからめとろうとする。同時に、大気の精霊が壁を作って食い止めにかかる。
「すごい重さだっ!」
「弱音を吐いてるんじゃないわよ。わたしたちも手を貸すわ!」
 翼人の手に余る巨体と重量を持つ相手に、ルクシャナたちエルフも加勢した。亜人の中でも最強といわれる精霊魔法の力で、
翼人の魔法を強化することによって、金属塊の突進は村の一歩手前で食い止められた。
 失速し、森の中に墜落した金属塊。それに向けて、ギーシュたちや翼人や村人は、一瞬好奇心にかられて観察するような
視線を出したが、アニエスの怒声がそれをかなぐり捨てさせた。
「ぼけっとするな! 敵がなにかをする前に、全力で叩き潰せ!」
 それが、彼らを本能的に動かした。相手が無機質な金属の塊に見えるから、つい油断してしまった心の隙。それをプロの
軍人であるアニエスは的確に指摘してくれたのだ。
 すぐさま、金属塊に向かってありったけの魔法と武器が叩き込まれていく。
 魔法は系統や先住を問わず、武器は銃士隊の火器から村人たちの弓矢まで大小をまったく考えずに、巨大金属塊の全身へと降り注ぐ。
 その猛攻で、巨大金属塊にひびが入り、そこへルイズのとどめの一撃が加えられた。
「あんたが何者か知らないけど、悪いけど余計なことをする前に片付けさせてもらうわ。食らいなさい……『エクスプロージョン!』」
 虚無の攻撃魔法が直撃し、大爆発が金属塊を完全に包み込んだ。系統魔法とは比べ物にならない高威力の攻撃魔法の
炸裂で起きた爆風が一同の体を叩き、吹き飛ばされないように足を踏ん張らせる。
「どう? あれからずっと精神力を溜めに溜めた、とっておきのエクスプロージョンよ。最初のときには及ばないけど、これなら」
 大型のドラゴンでも、跡形もなく吹っ飛ばせるであろう破壊力に、ルイズは自信ありげに言い放った。
 一同も、これほどの攻撃をいっぺんに受けては耐えられまいと勝利の笑みを浮かべる。
 しかし、翼人とエルフたちは、その爆煙の中でなにが起こっているのかを感知していた。
「まだです! あれが発している邪悪な思念は、まだ消えていません!」
 なんだってという驚愕の声とうめきがいっせいに奏でられた。
 そして、そのとき敵は動き出した。エクスプロージョンの爆煙を振り払って、天高く聳え立った銀色の鉄の塔。それはあっけにとられる
一同の目の前で、まるで水あめのようにぐにゃぐにゃと形を変えていき、ほんの数秒のうちに全身に鎧をまとった騎士のような姿の
巨人となったのだ。
「そんな、わたしのエクスプロージョンが!? サイト、あれは!」
「ただの生き物やロボットの類じゃねえ。サーペント星人みたいな液状生命体……いや、金属生命体か!」
 才人がとっさに推測したことは当たっていた。我々人類を含む大部分の生命体は、一般に炭素分子を基礎とする有機生命体という
分野に属するが、中にはこれに属さない無機生命体というものも存在する。
 数は少ないが、一例をあげると光が物質のレベルまで凝縮して作られた体を持つ光怪獣プリズ魔などが該当する。なお、アンノン星人や
工作怪獣ガゼラなど、別種の生命体が無機物に乗り移って操っているものは該当しない。
 この怪獣も、そうしたわずかな事例に該当する無機生命体の一種なのだ。微細な金属質生命体の集合体であり、それゆえに全身を
水銀のように流動させて、いかなる姿にでも変身することができる。さらに構成物が金属である為に、並の衝撃は通用しない。
「鋼鉄のゴーレムみたいな怪獣ってこと? わたしのエクスプロージョンをはじくなんてやってくれるじゃない!」
 ルイズが悔しさに歯軋りしながら吐き捨てた。さらにいえば、エクスプロージョンは完全に効果がなかったわけではないだろう。
しかし、金属の硬さと液体の柔軟さを併せ持った金属細胞は、多少バラバラにされた程度では再集結して復活してしまったのだ。
 この恐るべき金属生命体の名はアパテー。中世の鎧騎士を彷彿させる姿に変化し、足元の小さな者たちへの猛威が始まる。
 ただし、すでに歴戦と呼んでいい彼らは、驚愕はしても醜態をさらすことはなかった。ギーシュは凶暴な笑みを浮かべて、巨大な足を
踏み出して迫ってくるアパテーを見上げた。
「う、うろたえるな! いくら巨大な鉄のゴーレムといえども一体だ。って、次の作戦はどうするレイナール?」
「包囲して一斉攻撃、それで通用すれば御の字。少なくとも、いやがらせくらいにはなるんじゃないか」
「上等、実にわかりやすくてぼくら好みだ」
 水精霊騎士隊は散開して、再度魔法攻撃の準備を始める。全員、内心では、「この野郎、図体だけでかけりゃいいってもんじゃねえぞ」と、
気合で相手に飲み込まれまいと自分を奮い立たせている。敵に勝る気迫を持ち、かつ恐怖を忘れずに戦えというのが銃士隊が少年たちに
教えた、生き残るための鉄則のひとつであった。
 先制攻撃、やるなら今だ。ギーシュたちは、後先考えずに搾り出した魔力で、渾身の攻撃魔法を放った。
「鉄くずになってしまえ!」
 火、水、風、土、可能な限りの打撃が加えられた。さらに、ルイズも意地で再度杖を振るい、才人もガッツブラスターを出力最大にして放った。
「こうなりゃやけよ! 今日は、虚無の大盤振る舞いだわ」
「なんとぉーっ!」
 アパテーに避ける暇も与えずに、虚無魔法と破壊光線も叩きつけられる。それは、例えるならばあのフーケの巨大ゴーレムであっても、
土煙になって消え去ってしまうであろうほどの威力であった。
 爆風が、すでに貧弱な武器では手に負えない相手だから村人たちを離れさせようとしていた銃士隊と、村人たちにも吹き付ける。
「やつら、この数ヶ月を無駄にしてはいなかったようだな」
 アニエスが、誰にも聞こえないレベルの小声ながら褒めた通り、ほとんどがメイジとしては最低ランクのドットだったとは思えないほどの
破壊力がその一撃にはあった。ドットとしても力量を上げて、何人かは上位ランクのラインに昇格しているのかもしれない。銃士隊に
わざわざしごかれなくても、彼らも彼らなりに鍛えて実力を上げていた。
 一気に魔力を使い切り、息を切らせてひざを突く少年たち。ルイズも、疲れがどっと来てよろけたところを才人に支えられた。
「ど、どう……これなら」
 ルイズが、額に玉のような汗を噴出しながら言った。半人前のメイジばかりとはいえ、虚無と現代兵器も加わったのだ。弱い
怪獣であれば二、三匹は絶命させていておかしくない破壊力だったはずだ。
 これでダメなら……皆の視線が、爆煙に包まれたアパテーに向けられる。しかし、淡い期待はやはり最悪の形で裏切られた。
煙を振り払って無傷のアパテーが兜の下から覗く単眼を光らせて現れる。効いた形跡はほとんど、ない。
「ちっくしょ、ちっとは期待したんだぜ」
「諸君、撤退だ!」
 ギーシュは潔く逃げを選んだ。魔力を使い切った以上、これ以上自分たちがここにいても餌食になるだけだ。全員が、
よろよろと頭や腹を押さえながら駆けていく。彼らもまた、メルバとの交戦からほとんど休みのない疲労が肩にかかっていたのだ。
速く走れない彼らにアパテーの足が迫り来る。
 つぶされる! ひとりの少年が覚悟したとき、森の木々から枝がいっせいに伸びてアパテーをからめとった。
「私たちが援護します。皆さん、今のうちに逃げてください」
 アイーシャたち翼人の先住魔法であった。数十本の木々から伸びた枝でがんじがらめにされて動けなくなったアパテーから、
水精霊騎士隊はほうほうの体で逃げ延びることができた。
 ギシギシと、翼人たちに操られる枝の触手はアパテーを締め上げる。翼人数十人分の力にエルフまでが加わっているのだ。
いかな怪力の持ち主でも、これからは脱出できまいと戦士たちはほくそ笑んだ。
「この森の中で、我らにかなうものなどいるものか。このまま締め潰してくれる」
 確かに、鋼鉄並みに強化された枝での拘束はアパテーでも振りほどけないように見えた。が、金属生命体アパテーの右腕が
液状化したかと思った次の瞬間、腕は巨大な剣へと姿を変えていた。一振りで、アパテーを拘束していた枝が切り裂かれてしまう。
「バカな! うわぁぁぁっ!」
 アパテーの剣が横なぎに一閃すると、十数本の木々が両断されて雑草のように宙を舞い、その風圧だけで翼人たちも吹っ飛ばされた。
 だめだっ、強い! 今の一撃で死者こそ出なかったものの、嫌というほど力の差を思い知らされてしまった。
 このままでは、皆の命が危ない。そう判断したアイーシャは、ためらうことなく戦士たちに命じた。
「みんな、ここは引いて。いったん態勢を立て直すのです!」
「しかし、奴が暴れては大切な森が」
「この場の森を守るために、我々が全滅してしまっては結局すべての森を滅ぼすことになります。皆、屈辱を耐えてここは引くのです!」
 彼女の顔にも苦渋が浮かんでいた。森と共に生きてきた翼人にとって、森を捨てて逃げることは我が身を切られるほどつらい。
 だが、アイーシャが翼人たちのリーダーだと気づいたアパテーは、単眼で彼女を睨むと剣を振り上げた。
「アイーシャ、逃げろぉ!」
 ヨシアの絶叫が森の空気を振るわせた。翼人の速度を持ってしても逃げられず、いかな魔法を持ってしても食い止められない
巨大な殺意の塊が愕然として身動きのできないアイーシャに迫り来る。

”あ、私、死ぬんだ”

 避けようのない死を目の前にしたとき、彼女はふっと体の力を抜いた。死は怖くない、死ねば自然に帰り、大いなる意志の元で
新たな存在になることができる。なにも、怖くはない。
 だが、そのはずなのに目からはなぜか涙が湧いてきた。ヨシアともう話せない、やっといっしょになれたのに、もうごはんを作って
あげることもできない。後から後から未練が湧いてきて、悲しさで胸がいっぱいになっていく。
 ヨシア、せめてあなただけでも無事に逃げて……最期の願いを祈ろうとした、その瞬間。
 光が、爆発した。

「セヤアァッ!」

 間一髪、ウルトラマンAに変身して割り込んだ才人とルイズによって、アパテーはその衝撃で吹っ飛ばされた。
 しかし、木々を巻き込んで倒されながらもアパテーはすぐに立ち上がってくる。エースは、これが容易な相手ではないことを
覚悟して、皆を守るために構えをとった。
「ヘアッ!」
 対峙する銀色の正義と悪の巨人、その光景を見て少年たちは歓声をあげ、銃士隊は息をつく。
 そして、はじめて見るウルトラマンの姿に村人たちは驚き、翼人たちも驚愕する。しかし、エルフたちのときと同様に、
正しい気に満ちたウルトラマンの存在を精霊たちは歓迎し、それを聞いたアイーシャは呆然としているヨシアたちに告げた。
「大丈夫、あちらの巨人は味方のようです」
「アイーシャ、無事か! よかった。君がいなくなったら、ぼくは」
「ごめんなさい。あなたを悲しませるつもりはなかったの……ヨシア、怖かった」
 そう言って、彼女は夫の胸に飛び込んだ。ヨシアは、声をひそめて泣く妻の体を優しく抱いて、彼の兄のサムや村人たちも
そんな夫婦の姿を温かく見守り、これから起こるであろう戦いから守るように囲んでかばった。

 期待のまなざしを一身に受けて、ウルトラマンAはその身に宿るふたつの勇敢な魂とともに戦いに挑む。
〔よかった。あの人たち、無事に助けられたんだな。エース、気をつけろ! この野郎、どんな攻撃を仕掛けてくるかわからないぞ〕
〔ああ、こいつは、私も見たことがない相手だ。油断できないな〕
〔ふん、そんなの別に今回が初めてじゃないでしょ。どんな相手だろうと、叩き潰してしまえば同じよ!〕
 そうだ、相手が初見だろうがなんだろうが、戦うことになんの違いもありはしない。エースの金色に光るふたつの目と、
アパテーのオレンジ色に光るモノアイの視線が交差し、両者は同時に大地を蹴った。
「テエィ!」
 アパテーの剣戟の下をすり抜けて、エースのチョップがアパテーの腹を打った。たまらず奇声をあげて後退するアパテーだが、
さしたるダメージにはなっておらず、すかさず剣を振り上げてエースを斬りつけて来る。
 あれをまともに食らえばエースもただではすまない。しかし大振りの攻撃は避けやすく、エースの瞬発力を持ってすれば
困難な話ではなかった。身をひねり、アパテーの剣が外れて地面に深々と食い込む。
 どんなに威力があろうと、当たらなければどうということはない。エースはアパテーの剣撃を見切り、至近距離からの
チョップの連打を当てていき、アパテーがたまらず距離をとろうとすれば、エース得意の空中回転キックが炸裂する。
「トォーッ!」
 重力の恩恵を受けて威力を増したキックがアパテーを打ち、鎧騎士の体がぐらりと揺れる。
 すかさず、ボディにパンチを連続し、エースの怒涛の攻撃は休まない。避けようとするアパテーの先を読み、反撃に
打ってくるアパテーのパンチをかわして、そこへ逆にパンチを送り込む。
 アパテーは見た目に反して機敏なようだが、それでも歴戦のウルトラ戦士であるエースの体術は、単に速いだけの
相手に遅れはとらない。速さもパワーも、技があってこそ何倍も引き立つのだ。
 激闘を、東方号に乗ってきた者たちは頼もしく見つめ、村人や翼人たちは額の汗をぬぐいながら見ていた。
「これが、ウルトラマンの戦い。噂には聞いていたが、なんとすさまじい」
 人づての話から想像していたものをはるかに上回る巨人同士の激闘を間近に見る人々は、魂をわしづかみにされたように
息を呑んで握り締めた拳から汗をしたたらせるしかなかった。以前に見た、怪獣同士の激闘もすさまじいものだったが、
非現実的なまでの光景は一度や二度ではなかなか慣れられるものではない。
 ただ、彼らの恐怖心はさきほどよりもだいぶん和らいでいた。自分たちが直接戦う緊張感から解放されたことや、翼人たちが
新しい巨人のほうは味方だと認定してくれたのももちろんある。彼らはうわさでウルトラマンの存在は知っていても、写真など
存在しないハルケギニアでは、辺境のここまで正確な情報は届いていなかった。
 けれど、なにより彼らの心に強い説得力となったのはウルトラマンAがつねに人々を守りながら戦っていたことである。
「うわっ、こっちに来る」
 こんな状況が何度か訪れた。しかし、そのたびにエースはアパテーの前に立ちはだかり、方向を誰もいないほうへと
誘導していったのだ。
 彼は、自分たちを守ってくれている。そして、東方号の皆から巨人の名を聞き、彼が幾度となく人間たちを守って怪獣と
戦った正義の味方だと確かに知らされると、残っていた疑念も昇華した。
「救世主か、この世にほんとうにいたんだな」
 しかし、エースが押してはいるものの、一方的に優勢というわけではなかった。
 敵は金属生命体、いわば個体と液体の両方の性質を併せ持っているといえる相手である。そのため、エースの得意とする
切断技があまり効果を望めず、仮にホリゾンタルギロチンで首を跳ね飛ばし、首なし騎士にしてやったとしてもだ。デュラハンよろしく
なにくわずにそのまま襲ってくる可能性が高い。
 攻撃は打撃に限定される。衝撃で、奴の金属細胞を破壊していけば奴も不死身ではいられなくなる。エースは、自身よりも
十メートルばかりも大きい相手の肩を掴んで、力の限りに投げ飛ばした。
「デエェェーイッ!」
 轟音が森の空気を揺さぶり、アパテーは激しく転がりあおむけになって止まった。
 これは効いているか? しかしアパテーは体中についた泥を振り落としながら、奇声に怒りを交えて起き上がってくる。
〔しぶとい奴だな。迷惑だから、はやくダウンしてくれよ〕
 才人はぼやいたが、そんなに楽に片付いたら宇宙警備隊は苦労しない。
 敵はなおも健在で、倒れる様子はさらさらなく、鎧のあちこちに増加装甲を新造して、重装騎士へとヴァージョンアップした。
しかも剣では敏捷なエースは捉えられないと見たのか、右手の変形を解除して通常の腕に戻し、自らの肉体の一部を切り離して
槍状に変化させて硬化、手に持つことでリーチはほとんどそのままに、はるかに取り回しが容易なスタイルになって襲ってきたのである。
〔なかなか芸達者な奴だな。なら、こちらも!〕
 槍を振り回してくるアパテーに対し、エースはその場に倒れていた大木の幹を掴むと剣のように振るって迎え撃った。
『流れ斬り戦法!』
 エースは、戦場にあるもので即興の武器を作ることが得意だ。かつてはファイヤー星人との戦いで高圧鉄塔を剣にしたし、
ガスタンクや石油タンクを武器にしたこともある。大木を剣にする方法も、タイム超獣ダイダラホーシとの戦いのときに
披露したものである。
 巨木で槍を受け止めて押し返し、構えをとって睨みつける。アパテーも、槍を振りかざして隙をうかがっているようだが、
なかなか攻めきれないことにいらだつように肩が微動しているようにも見える。

 拮抗する戦い、エースとアパテーの斬り合いが続く。
 だが、均衡の崩壊は誰も予想していなかった形で訪れた。アパテーとつばぜり合いをしていたエースのひざが突然
がっくりと崩れ、アパテーの槍の切っ先がエースの体をないだのである。
「ウッグォォォッ!」
 斬撃をまともに受け、火花を散らせてエースは倒れこむ。
 愕然とする人々、そして彼らの目の前でエースのカラータイマーが激しく点滅しだし、警報音が背筋を凍えさせた。
「そんな、早過ぎるぞ!」
 戦い始めて経った時間はそんなにない。カラータイマーが鳴り出すにはまだ早いはずだ。
 しかも、タイマーの点滅速度がかなり速い。まるで、長時間全力で戦い続けた後のようだ……
 まさか! 東方号の一行は、気づいてしまった。
〔くそ、やはりさっきの空中戦で消耗したぶんが、響いてきたか〕
 エースの体を、谷を転がり落ちるように襲った不調。そう、メルバとの交戦で受けたダメージと疲労が才人とルイズの体にも
残っていたように、エース自身もこの短時間ではエネルギーを回復しきれなかったのだ。
〔体に、力が……〕
 普通なら、まだじゅうぶんに余力があったはずだが、まさかこんな短期間に怪獣と連戦することになるとは思っていなかった。
あのドラゴン型怪獣も強かったが、こいつも十分すぎるほどに……
「フオォォッ!」
 よろけたところにアパテーの強烈なキックを食らって、エースが吹っ飛ばされる。あおむけに倒れ、苦しむエースにギーシュたちは
歯軋りをして悔しがった。
「いつもだったら、あんな攻撃でやられるわけないのに。くっそぉ、がんばれエース!」
 苦しむエースに皆の声援が届く、水精霊騎士隊だけでなく、銃士隊も叫んでいる。
「立て! 立ち上がれ。お前は、こんなところで倒れていいはずはないだろう!」
「がんばれ。みんなお前を信じてる。あきらめるな、お前の力はこんなものじゃないだろう」
 アニエスは叱咤し、ミシェルは力一杯のはげましを送った。
 直接ともに戦えなくとも、戦う魂は一心同体だと信じている。逃げることは簡単だが、仲間を捨てて誰が逃げられるものだろうか。
アニエスは心の中で、私は戦いの中で多くの仲間や部下を失ってきた、決して仲間の苦境から眼を離しはしないと決意し、
ミシェルも使えるものなら自分の命を使ってくれとばかりに心臓に手を当てて祈る。
”本来なら、まだ戦える状態じゃないはずなのに。お前ってやつは、どこまでバカでお人よしなんだ。それに、毎回がんばりすぎだ。
負けるなよ……それでもダメというなら、死ぬときは私もいっしょだ”
 大勢の友情、ある者は愛情。この世界で積み重ねてきた絆は、さまざまな形で息づいていた。
 誰も逃げない、心を折らずに歯を食いしばる。
〔そうだ、ウルトラマンは決して信じてくれる人たちの期待を裏切ってはいけない〕
 心の力は体の限界も超えさせる。ひざを突き、カラータイマーの輝きに危機を示させながらも、なおもエースは立ち上がろうとする。
 一方で、ルイズと才人もあきらめてはいない。
〔あーあ、どうするのよサイト、もう後には引けないじゃない。あんたが後先考えずに変身しようとするからこの始末。みんなの熱視線、
どうしてくれるのよ〕
〔すみませんねえ、でもおれの性格はとっくに理解してるだろ。さあて、みんな応援してくれてるし、どうやって逆転したもんか。
応援もらって俄然やる気も出てきたし、かっこ悪いところは見せられないもんなあ〕
 強がりのやせ我慢でも、寝ているよりはましだとふたりも気張る。
 自分たちの肩にかけられた期待の重さは、ふたりとも重々承知していた。その信頼、失いたくない友、守りたい愛する人、
運命を預けてくれた見知らぬ人々の思い、どれひとつとして裏切るわけにはいかない。

 疲れきったエースを串刺しにしてとどめを刺そうとアパテーが迫る。エースに果たして、押し返すだけの力が残されているのか?
 見守る人々、そして東方号でも、船員たちに混じってティファニアが一心に祈っていた。
「わたしにも戦う力があれば……神さま、お願い、みんなを守って」
 握り締めた手のひらの中で、輝石が淡い光を放ち始めていた。


 続く



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