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ゼロのドリフターズ-19



「王女さま綺麗だったなー」
そこは地上を遥か下に眺めて、限りない大空を仰ぐ場所。
否、空の一部とも言うべき場所――

「もう女王様、でしょ」
「そうだった」
イザベラの訂正に対し、ジョゼットはてへっと片目を瞑りつつ舌をぺろっと出す。
イルククゥはシャルロットを含めた姉妹三人を乗せて、非常に穏やかに空を飛んでいた。

 シャルロットは口の中に大量に詰め込んでいたものを、呑み込んでから聞く。
「そういえば二人はいつ来ていたの?」
「丁度今みたいにイルククゥに乗って、上空からちょっとね」
そうイザベラは答えると、三人の中で最も淑やかに料理を口に運ぶ。

「ホント学院も虚無の曜日だからって、その前後も休みにしてくれればいいのに」
ジョゼットは良くも悪くも普通であった。三人とも貴族の作法は皆等しく習っている。
されど事ここに至っては明確な個性が表れていた。

 シャルロットは大食家であり常在戦場を心に置く為、量が多い上に食べるのも早い。
イザベラは元王族ということをいつも忘れぬ尊厳高さで、日々の所作全てに貴族らしさを見せる。
ジョゼットはその場の空気を読んで合わせる為に、今は肩肘張ることなく自由に食事を摂っていた。

 黒髪のメイドに頼んで特別に食事を作ってもらって楽しむ、三人と一匹の雄大なランチタイム――

「そう、じゃあすぐに戻ったの?」
「ちょっとだけ家に寄ってすぐによ。折角だから皆でディナーでもしたかったけれど」
「姉さまは堅いよね、一日くらいサボっちゃえばよかったのに。シャルロットなんて何日休んだことか」
会話の合間にジョゼットは肉を放り投げると、イルククゥは飛行しながらも器用に口でキャッチして味わう。

「・・・・・・まぁ一時休学扱い。それに祝賀パーティに出席したから、どちらにしても当日夜は無理。父様も参加だし」
残念と言えば残念ではあるが、家族みんなで食事する機会などはいくらでもある。
学院から王都までの距離は近い。虚無の曜日になれば簡単に帰ることも出来る。
ましてジョゼットが召喚した風韻竜がいるのだから、往復は非常に速く快適に済む。
後はシャルルが首都警護任に詰めていない時と、ジョゼフの仕事が山積みになっていなければ揃い踏みだ。


「それにしても凄いわね、結婚式や戴冠式に参列するなんて」
アルビオンの現状も鑑みて、同盟と結婚と女王戴冠が続けて行われた。
現アルビオン王ジェームズ一世は、貴族派への睨みも含めて国に留まった。
また日程の関係上ロマリア教皇を迎えることもなかった。
本来の結婚式や戴冠式に比べれば慎ましやかではあったものの、それでもトリスタニアは大いに賑わった。
限られた人間のみが許される各式典を、出席者として間近で並べたことは貴重な体験であった。

「私の功績の殆どは、姉さんが貸してくれたスキルニルのおかげ」
「ねぇ~、もう終わったんだから色々教えてくれないの?」
ジョゼットがシャルロットにせがむ。イザベラは察して直接は聞いてこないが魔道具を貸した手前、知りたくなくもない。
シャルロットも一段落したから問題ないだろうと、一応秘密厳守ということで話せる範囲を可能な限り大まかに語り始めた――


「――凄いわねシャルロット、あなた大活躍じゃないの」
「大袈裟、私のしたことなんて大したことない。スキルニルとキッドさん。あとブッチさんと父様が殆ど」
「行き過ぎた謙遜は美徳じゃないよシャルロット、わたし達の前ですることでもないし」
「・・・・・・ジョゼットに窘められるとは・・・・・・」
「ひどいな!!」

 軽い漫才を終えて穏やかな表情を浮かべる。しかし僅かに憂いを帯びた表情。
「でも本当に・・・・・・大したことじゃないのよ」
作戦立案はスキルニルとミョズニトニルンあってのもの。存在を知っていれば簡単に思いつく。
『白炎』の首級も、地下水とデルフリンガーがあってのもの。自分は死んだようなものだった。
メンヌヴィルが残した王党派の名とて、残党セレスタンも知っていたからあくまで証拠の一つに留まった。
実際的な働きを為した、キッド、ブッチ、シャルル――そして明かせないがルイズ――に比べれば、さしたるものではない。

「いずれにせよ誇らしいことよ、姉としてね」
「妹としてね」
イザベラとジョゼットの見慣れた笑みに、シャルロットは帰ってきたんだなと実感する。
本当に・・・・・・生きていて良かったと。


「・・・・・・そういえば、ジョゼットにお願いがある」
「なぁに?」
「"始祖の香炉"を貸して欲しい」
「いいよ。なんで?」
食事を頬張りながらジョゼットは二つ返事で承諾するものの、理由は気になる。

「・・・・・・実は私、"虚無の担い手"――かも」
「へぇ~・・・・・・へっ?」
「えっ・・・・・・?」
「私ばかりにガリアの遺産が集まって申し訳ない・・・・・・」
「そんなのはどうでもいいってば!! あんな使えないもんいくらでもあげるって!!」
「そっ・・・・・・そうよ、『虚無』と言ったの?」

 シャルロットは普段から冗談らしい冗談も言わないし、唐突に荒唐無稽なことも言わない。
それゆえにイザベラとジョゼットの驚きは、至極当然なものであった。
ちょっと出張して帰ってきたら「虚無はじめました」みたいなカミングアウトされても困るというもの。

「とりあえずデルフリンガーが説明する――」
「おうよ姉っ子、妹っ子、久し振り」
「えぇ、話すのは久し振りね」
「うん、傍からよく見かけてはいるけどね」

「まあちっと思い出すことがあってな、オレぁ昔ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に使われてたんよ。
 んでだな、虚無を使えるメイジの素養ってのが、実は相棒にかな~り一致するんだな、これが」
ルイズとティファニアのことを言うわけにはいかず、予めデルフリンガーと口裏合わせていたことを二人に言う。
あくまで自分が虚無であるかも知れないという話であれば特に問題はない。

「まったまた~。ってことは何? デル公は始祖に会ったことあるって?」
「薄っすらと覚えてる程度だ、なにせ大昔の記憶だかんな。またふとした時に思い出すかもわからん」
「でも・・・・・・うん、始祖云々は別として――シャルロットならありえるかも」
イザベラは思いのほかスムーズに受け入れる。

「まーシャルロットが優秀なのは知ってるし、おかしなコト多いけどさ。でもさ、『虚無』は伝説でしょ?
 デル公の話以前にそもそも存在するわけ? 昔から一緒に育ってきたし、その・・・・・・言葉を信じたくなるのはわかるけどさ」
ジョゼットははっきりとではなく、濁すように言う。
一心同体とも言うべきデルフリンガーの言葉を無条件に信じて、最終的に落胆するような姿は見たくない。

「もちろん伯父様に確認済み」
「父上に?」
「そう――"虚無の担い手"は過去の歴史の中に、何人も存在していたらしい」
「へぇ~、ん・・・・・・まぁ伯父さまがそう言うならいるんだ」

 シャルロットは最後の一口を胃の中に流し込んでから告げる。
「まぁあくまで可能性に過ぎない。ただ目覚めるにはルビーと秘宝がいるらしい。それで――」
「うん、わかった。後で部屋に持ってく」

 そこでジョゼットは何かに気付いたように言う。
「ところでさ、シャルロットに虚無ってことはさ? もしかしてルイズもそうだったりして」
シャルロットはジョゼットの言葉にドキリとする。
本当にこの子は、時たま鋭く核心つくようなことを言ったりする。

「でも始祖ブリミルは一人なわけだから、何人も使い手が現れるものなのかしら?」
イザベラのもっともな疑問。シャルロットも思ったことだ。
言うわけにはいかないが、既にティファニアとルイズの二人がいる。
せめて分かたれた使い魔の数――即ち四人くらいは覚醒すると考えたい。

「わからない。けれ
ど可能性が少しでもあれば賭けたい」
ジョゼットとイザベラは微笑ましく――そして頼もしく見る。
これがいつものシャルロットだといった風に。


 さらに三人は優雅に他愛もない話を続ける。
結婚式のあれこれ。戴冠式の様子。ウェールズはどんな人だったか。アルビオン土産はないのかなど。

 昼休みが終わるまで・・・・・・ひっきりなしに語らい続けた。


 ――その男は御年42歳のトリステイン魔法学院の教師であり、学院内でも際立った異色を放つ者であった。
男、ジャン・コルベールの研究室は、学院の敷地内にひっそりと設けられている。
ある意味隔離されたその空間で、コルベールは日夜研究に励んでいた。
それはハルケギニアにおけるブリミル教の教義に照らし合わせるならば、異端とされるもの。
生徒達に慕われる教師ではあるが、同時に陰で変人呼ばわりされている所以であった。

 今日も今日とて仕事を終えて研究室に籠もっていると、珍しくノックの音が響いた。
「こんばんは」
訪問者は生徒であった。学院内でも割かし有名な少女。
「おお、ミス・シャルロット。わざわざ夜にどうかしたのだね? 勉学のことかな?」
つい先日、ミス・ヴァリエール共々休学から復帰したばかりで、そう推察する。

「勉強の方は大丈夫です、別の話がありまして・・・・・・」
「ははは、確かに君には無用の心配だったか」
オスマン学院長より薄っすらと聞かされた話によれば、王家からの所用によるものらしい。
よって単位については考慮されているものの、彼女が休んでいた間の学業の遅れは自分で取り返すしかない。
補習代わりにでも何か聞きに来たのかと思ったが、相談だろうか。
悩める生徒の言葉に耳を傾けるのも、教師の重要な役目である。

「・・・・・・それにしても――」
シャルロットは話を切り出す前に、改めて研究室内を覗き見渡した。
ジョゼフの研究室よりも相当狭く、乱雑にも見えるが、それでも整理はされているようであった。
そして注目すべきはその端々に窺える研究内容と思しき物の数々。アカデミーであっても敬遠されるようなもの。

「"科学"・・・・・・ですか」
以前ならこの研究室内を見ても、疑問符を浮かべるだけであったろうシャルロットも今は違う。
昔から漂流者と漂流物がもたらしてきた"科学"。ハルケギニアの魔法とは一線を画す学問であり技術体系。
広義的な総称ではあるものの、ニュアンスとしてはそれで充分に伝わる。

 特にワイルドバンチが召喚されてこっち、シャルロットは詳細な話を聞くに連れてより興味を大きく持つようになった。
元々魔法使えぬ身として選択の一つとしてはあったが、ハルケギニアでは発展せず入手も困難であった。
それゆえに知識として頭の中に存在していても、実際的には手が出せなかった。


「おぉ、流石にわかるかね!! ミスタ・キャシディやミスタ・キッドに色々聞いてね」
コルベールはテンションを上げる。
彼女ら――ミス・シャルロットととミス・ヴァリエールが召喚した二人の漂流者。
実際に彼らから聞く話は興味深いものであった。

「とかく鉄道というものに感銘を受けたのだ。それはなんと蒸気を使って車輪などを――」
「知っています」
「――う・・・・・・むぅ」
ピシャリと止められてコルベールは詰まる。無意識とはいえ熱が入り過ぎるのは悪い癖だった。
授業中にやらかしてしまうこともある為に、コルベールはその度に自己嫌悪に陥る。

「それで話というのはですね・・・・・・、『炎蛇』のコルベール――」

 コルベールの心臓が大きく全身に響くように一度だけ高鳴った。
一度ついた二つ名が変わることなど早々ないし、二つ名自体は学院内でも知られている。
だが正直思い出したくもない二つ名であり、いきなり彼女が言い出したのことが引っ掛かった。

「・・・・・・私の伯父、ジョゼフを知っていますか?」
「・・・・・・いや?」
彼女がガリア王家の血筋ということは知っているし、その伯父ともなれば当然ガリアの血族。
ガリアが滅びていなければ、王冠を被っていた可能性もあるだろう。
いずれにせよそのような人物と面識ある記憶はなかった。

「そうですか、実は伯父はアカデミーに務めていまして・・・・・・」
コルベールは"アカデミー"の名に喉が渇くのを覚える。シャルロットの意図するのはどちらの意味なのかと。
この研究室を見てアカデミーに対し、何かしらのアクションを求めようとしているのか――。
もしくは20年前に、己がアカデミーの実験小隊に所属していたことを聞いているのか――。

「そ・・・・・・それがどうかしたのかね?」
「・・・・・・いえ、すみません」
シャルロットはふと気付いてまず謝った。
最近は高圧的な態度で相手を誘導し、時にその思考を追い詰めるようなやり取りやら駆け引きが少なからずあった。
別に責めるようなことは何一つないというのに、ついついそんな話し方になっていたことに反省する。

「端的に言います。『白炎』のメンヌヴィルを殺しました。――と、言えばわかりますよね」
コルベールの目が見開かれる。よくわかった――少女は20年前のことを知っていると。
先程『炎蛇』とわざわざ二つ名を言ったのもそういうことなのだと。
件の伯父とやらも、恐らくはその当時からいた研究員なのかも知れない。
かつてアカデミーの実践部隊として働いてた頃の・・・・・・決して忘れてはならないこと。

「『白炎』は『炎蛇』を執拗に探していたようですが、もう安心して下さい」
「君が・・・・・・どうやって?」
何よりも優先された疑問。コモン・マジックこそささやかながら使えるようになったばかりの生徒。
学院にいながらも、その残虐極まりない噂には聞いていたプロの歴戦傭兵を殺したなどと――。

「これです」
シャルロットはヒュパッとリボルバーを早抜いた。
実際に今、コルベールに見せたような腰位置での早撃ちなど、標的にはまともに当てられない。
ワイルドバンチの二人ならともかく、己には練度が圧倒的に足らない。
しかしそのアクションを見せるだけで充分だった。本当の技量なんてコルベールにはわからない。
そういうことが出来ると思わせておけば、それだけで説得力になる。

「連発式の銃、かね」
以前にワイルドバンチから見せてもらったことをコルベールは思い出す。
フーケ事件後に回収し、保管し直した『破壊の杖』はさらに凄いものだった。
――それよりもなんと哀しきかな。教え子がその手を血に染めたこと。そしてかくも簡単に命を奪ってしまえる凶器。
純粋にそのことを悲しんだ。一教師として、生徒がしてまった行為のことを。

「正当防衛ですのであしからず。殺人についても私なりに考えていますので・・・・・・――」
コルベールはゆっくりと息を吐く。諭すようなことは必要ない・・・・・・と。彼女は優秀な生徒だ。
彼女が考えていると言えば疑うことはない。それに――教え子の命が奪われるよりは良い。
それこそシャルロットが殺されていれば、悔やんでも悔み切れなかった。
メンヌヴィルを殺し損ねたこと、その後に関わることをしなかったのは、自分の落ち度なのだから。

「そう・・・・・・か、彼が死んだか」
感慨深く、心身に浸透させるかのように呟いた。
副長だった男。己の背を焼いた男。人生の転機のキッカケとなった男。
そして逃がしてしまったメンヌヴィルから逃げ続けた自分自身。思うところはいくらでもある。
「ミスタ・コルベール。貴方は何故アカデミーの部隊を辞めて教師になり、しかもこのような研究を?」
唐突な質問に心中で首を傾げるも、シャルロットの真剣な態度に、コルベールも真剣に答える。

「嫌気が差した。副長・・・・・・メンヌヴィルと正面から相対したことで、奇しくも思い直すことが出来たのだ。
 命令変更の指令が少しでも遅れていれば、わたしは村を住む人々ごと焼き尽くしていたかも知れなかったのだ。
 結局村を焼き、住民を危険に晒してしまった・・・・・・。殺しかけたのだ、多くの人に怪我をさせてしまった。
 それは動かせない事実。わたしはそういう人間だった。・・・・・・ミス・シャルロット――『火』とはなにかね?」

「"情熱と破壊が『火』の本領"――と、友人はよく言いますね」
「・・・・・・ミス・キュルケか。そうだ、破壊と言えば『火』であり、『火』と言えば戦場だ」

 コルベールは瞳を閉じる。その目蓋の裏では彼の中にある凄惨な情景が、いくつも浮かんでは消えていく。
汚れ仕事を担う部隊員として、数々の戦場を巡り、時には己が手で何だって燃やしてきた。
「だけどね、それだけが『火』の活用法だろうか? 『火』は破壊を司るだけではない。
 確かに効率的に破壊するには『火』が一番かも知れない。しかしどんな"力"も使い方次第なのではと」


 シャルロットも双眸を閉じた。そうだ、まさに『虚無』の系統もそうなのだ。
ルイズも言っていた。途方もなく"強力な力"。それをどうするのかは結局それを扱う者に委ねられる。
コルベールとシャルロットはそれぞれゆっくりと噛み締めた後に、目を開ける。

 自責を胸に。夢を語るように、訴えかけるようにコルベールは続けた。
「だからわたしは『火』を他に役立てたい。人々の生活の糧となるように――。
 その為に研究をしている。これは自分自身に課した償いとも言えるだろう」

「立派です。純粋に尊敬します。聞けて良かったです。私も戦が終結して、平和が戻った時――」
シャルロットは一拍、ゆっくりと溜めてから続いて紡ぐ。
「――その時には先生のように、この力をまた別の方向に・・・・・・より良く使いたいと切に思います」

 コルベールの、我が身を省みて決意したその生き様にシャルロットは感動する。
その意志、そんな言葉こそ、シャルロットが心から聞きたかったこと。

「ミス・シャルロット。君は・・・・・・戦うのかね?」
「――大切なものを守る為に戦いますよ。よくあることだとはわかっていますが、だからって安っぽいとは思いません」

 シャルロットのこちらの心情を見越した意思に、コルベールは深呼吸する。
未だかつてこれほどの優秀だった生徒はいない。一教師が言えることなど、既に全て承知の上。
もはや何も言うまいと。――そして一つ、コルベールの中で浮かんだ。

「そういえば君は、アンリエッタ女王陛下と知り合い・・・・・・なのかね?」
フーケ事件の折、さらに先だっての休学にもアンリエッタ女王陛下が関わっていたと噂には聞く。

「はい。一応アンリエッタ様にも、ウェールズ様にも、謁見程度であればスムーズに認められるくらいには」
「なんと、両王家ともか」
コルベールは少女が指に嵌めている"それ"を見た。
その上でトリステイン王家とアルビオン王家とも繋がりがある――

(彼女であれば・・・・・・)
そしてコルベールは棚に厳重に掛けた『ロック』の魔法を解いて"指輪"を持ち出した。
その様子に首を傾げて眺めていたシャルロットも、すぐに"それ"が何なのかわかったようで呆然としている。

「"火のルビー"・・・・・・ですよね、どうして貴方が?」
シャルロットが持つ"土のルビー"。テファが持つ"風のルビー"。ルイズが持つ"水のルビー"。
立て続けに見てきたのだから、見間違う筈もなかった。

「20年前のダングルテールの真相を知っているかね?」
コルベールは当時のことを思い出す。火のルビーを語るのであれば避けては通れぬ話。

「真相・・・・・・ですか? 疫病の為に村ごと焼き払うというのが嘘の名目で、新教徒狩りが本当の目的だった。
 それを当時裏仕事に長けた実験小隊が――ですよね。伯父と『白炎』のメンヌヴィル本人からも聞いています」
「副長も話したのか・・・・・・。まあいい、だが真相とはさらに深いのだ。
 何故ダングルテールが、当時の新教徒狩りの標的となったのかということだ。
 トリステインの片田舎であるその地方に、わざわざロマリアが圧力を掛けてまで・・・・・・――」

 シャルロットは首を左右に振る。そこまでは聞いていない。
恐らく伯父ジョゼフは知っていたやも知れぬが、敢えて語らなかったことなのかも知れない。
改めて問われると確かに不思議な話だ。そこに何がしかの理由があるのは道理。
コルベールは頷くと話を続け、シャルロットは口を挟まず耳を傾ける。

「とある一人の女性が本当の目的だったのだ。彼女を殺すということが隠された目的。
 名をヴィットーリア。その名と姿から察すれば恐らく――現教皇聖下の母君なのだろう。
 彼女は"火のルビー"を持ち出した。新教徒として逃げた彼女を抹殺する為の殲滅指令だったのだ」

 ロマリア皇国、教皇聖下。聖エイジス32世、ヴィットーリオ・セレヴァレ。
各国の王や女王達に勝るとも劣らずの見目麗しさ。さらにアンリエッタのように分け隔てなく接する人格。
確かな実力と支持をもって、若くして教皇まで昇り詰めた英才。

 もしもその母たる人物が異教徒になっていたと言うのであれば、恐らく断崖を背に、逆風を乗り越えたに違いない。
元々ある才能に、血の滲むほどの努力を重ねて勝ち取ったものなのだろう。
新教徒を厳しく弾圧をしていた前教皇と違い、現教皇聖下は温和だとも聞いている。


「――後は知っての通り、事は途中で露見し、当時の関係者も失墜。命令中止の指令は間一髪間に合った。
 副長とわたしの所為で村は焼いてしまった・・・・・・が、それでも誰も死ななかったのは奇跡であった。
 そして原因となった彼女は己の所為だとして、混乱に乗じて行方を完全に消すことにしたのだ。
 その時にわたしが手助けし、そして・・・・・・この"火のルビー"を彼女から受け取ったのだ」

「・・・・・・何故その方はルビーを?」
火のルビーを奪う理由があまりに不明瞭であった。
売り払う為でもなかったようでもある。密かに虚無覚醒の鍵たることを知っていたのだろうか。

 コルベールはかぶりを振る。
「真意については語ってくれなかった。だが並々ならぬ決意を確かに感じた。だから預かっていたのだが――」
シャルロットは火のルビーをその手に渡される。
「新たに君の手に。今の話を考えた上で君が判断して欲しい。わたしは結局迷い続け、持ち続けてしまった・・・・・・」

 今はどこにいるかわからない、既に亡くなっているやも知れぬ彼女の意思を尊重するのか――
それとも今の新たな教皇。彼女の息子の元へと、本来在るべき形に戻すべきなのか――

「ミス・シャルロット、君には人脈があり、何より元王家の人間だ。君が持ち続けてもいい。
 トリステインとアルビオンの両王家、どちらかに預かってもらってもいい。
女王を通じるなどして、ロマリア教皇聖下へと返還するのも良いだろう。
 いずれにしてもわたしがずっと隠し持ち続けるよりは相応しく、事情をも知る人間となった。
 そして誰よりも・・・・・・最良の判断が出来る生徒だと、わたしは思っているよ」

 なるほど理屈はよくわかった。あらゆる点に於いて自由なのが、今の己の立場でもある。
(本当に・・・・・・)
――なんて因果なのだろうか。シャルロットは火のルビーを、土のルビーの隣に嵌めて見つめる。
土の隣に風、次に水、そして火までもがそれぞれ並んだ。
ルビーの所在を知るのも私一人・・・・・・――正確には地下水とデルフリンガーもであるが――

「責任をもってお預かりします」
始祖ブリミルの血から造られ、三人の子と一人の弟子に渡った由緒あるルビー。
6000年もの長きに渡って紛失すること、破壊されることもなく、受け継がれてきた貴重品。
とりあえず火のルビーははずして、一旦ポケットにしまっておく。

「ありがとう。・・・・・・過分な荷を背負わせてしまってすまない」
「いえそんなことは。ただ・・・・・・そこまで信頼なさってくれるとは」
「はは、わたしは教師だよ。生徒を見ていないなんてことはないさ」

 軽く言ってのけるが、それもまたコルベールの人柄であり優秀さであった。
『炎蛇』と呼ばれた、何の感情もなく命令を忠実に実行する武人はもういない。
今目の前にいるのは温厚で、お人よしで、暴力の欠片もない人畜無害な教師の鑑だけだ。
ある意味で落ちこぼれな私を見て、評価してくれている先生だ。

「・・・・・・それじゃそろそろ失礼します。研究、応援してますよ」
「んむ、差し当たっては蒸気機関を理想的な形で完成させたいと思う。特に『火』を有効に利用出来ることだからね」
「――何か行き詰まれば言って下さい。伯父に口利きくらいは出来ますから」
「う~ん、一応心に留めておくよ」
複雑な感情に苦笑いを浮かべたコルベールを残し、シャルロットは研究室を出ていった。


 コルベールは知らず緊張して強張っていた体の力を抜いた。
話を聞いてもらったこと。ルビーを預かってもらったこと。
このような心地に身を委ねる資格は自分にはないかも知れないが、重圧から解放された気分を振り払うことは出来なかった。


(――言い損ねちゃったかな、一つだけ)
とはいえ、今のコルベールには言える筈もなかった。
あの研究室と研究内容。恐らくアカデミーでやれば相当なものになる。
誰かパトロンがいれば恐ろしい兵器も作れそうな予感すらある。

 伯父ジョゼフには立場があるし隠れてやるにも制限がある。
だがほぼ無名のコルベールであれば秘密裏にやっても問題はないだろう。
とはいえコルベールの、破壊に使わないと臨む意志を汚すわけにはいかないし、似つかわしくない。
たとえ出資してくれる者がいたとしても、今はまだ時期ではないのだろうと思う。

 シャルロットはポケットの中の火のルビーを握った。

(テファとルイズ・・・・・・他は不明)
二人の"虚無の担い手"。

(キッドさんとブッチさん・・・・・・残るは『ヴィンダールヴ』と"記されぬ何か")
二人の"虚無の使い魔"。

(香炉、祈祷書、オルゴール。・・・・・・後は円鏡だったか)
三つの"始祖の秘宝"

(ルイズの水、テファの風、私の土と、そして火)
四つの"始祖のルビー"。

 まるで引き寄せられるように判明し、現出してきた始祖ブリミルゆかりの品々。

(そういう時代なんかもな)
突然デルフリンガーが頭の中に語り掛けてくる。
(時代・・・・・・?)
("四の四"のことさ)
言われてすぐにピンッと来る。使い魔、秘宝、ルビー、そして恐らく担い手の数のことだろう。

(また何か思い出したの?)
(おう。本来バラバラだったものが、一度に集まるってのは"必要な時"なんよ)
(必要って何の?)
(わからん、そこまでは)

(全く・・・・・・ホント都合が良いんだか悪いんだかわからない記憶)
シャルロットは嘆息をつくと、火のルビーを空に掲げて覗き込む。
夜空の黒色を背景に、月明かりに照らされ、誘われ吸い込まれそうなほどの赤色が映える。

(ルイズが読んだ始祖の祈祷書からすると・・・・・・)
"聖地の奪還"――なのだろうか。わからないことだらけで、未だ霧は濃く先が見えない。
されど四の四。始祖の担い手も四人とくればなおのこと自分の可能性が出て来る。
その"必要な時"が来た時に、自分も否応なく関わらざるを得なくなるかも知れない。

 ――聖地。
始祖ブリミル降誕の地であり、エルフが住まう領域。
(そんなもの・・・・・・――)
もし仮に聖地の奪還が必要なのだとすれば、それは本当に必要なことなのだろうか。

 確かにエルフは仇敵であり、サハラと呼ばれる土地は風石などの資源に恵まれている。
しかし人々は6000年もの間、今の土地で暮らしてきたのだ。血で血を洗う必要など、どこにあるというのか。
目下はオルテや黒王軍の方が遥かに問題であるし、そもそも同族間で相争ってきているのにさらにエルフとなど――

(何らかの大きな力で導かれているとしても・・・・・・)
もし今が"必要な時代"とやらで、始祖ブリミルが導いていたのだとしても。

(己の意思は己だけで決める)
もし私が"虚無の担い手"であれば、本当に何が必要かどうかは手前で判断する。

 ――思いも、力も、振り回されてはいけない。

 ――自身が責任をもって振るうものなのだと。



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