あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのドリフターズ-17



 ――二日酔いは免れたものの、起きればもう昼時に近かった。
隣で眠っていたルイズをそのままに、支度をしてからすぐに城下町へと繰り出す。
活気溢れる道中で軽めに胃袋を満たしつつ、どうやって言い詰めていくかを頭の中でまとめる。


 "目的地"に到着したところで、立ち止まってそこを眺めた。
幼少時から知ってはいたが、同時に畏怖を抱いてた場所。
善良な一般市民には馴染みがなく、ある種の象徴とも言えるその敷地内へ足を踏み入れた。
トリステイン城下において、際立って監視・警備が厳重な"チェルノボーグ監獄"。
ただ歩を進めるだけなのに、得も言われぬ居心地の悪さがあった。

 シャルロットは牢番に王女から預かった令状を渡して、いくつか言葉を交わす。
好奇心によってか、陰鬱な雰囲気に新鮮味も覚えながら、牢番の後についていった。

 案内されたのは一つの独房。最低限の薄明かりに照らされる牢内には当然一人だけ。
周囲いくつかの房に収監されている人間がいないのは、『サイレント』を使う手間がなく好都合であった。
「面会だ」
牢番がそう言うと会釈だけを残し、通常業務へと戻っていく。
本来であれば監視下におかねばならないが、王室直属の命による色々と特別な計らいだった。

「・・・・・・誰だい」
しばらくして、牢の中にいる人物はシャルロットを見もせず、ぶっきらぼうに口を開く。
牢屋に直接面会しに来るような奴なんてどうせロクなもんじゃない、と。
下手をすれば判決が不服であると、恨みを持つ貴族が人をやって殺しに来てるなんてことも考えられた。
「お久し振りです、『土くれ』のフーケ」
知人らしいことを示すその言葉に、フーケはようやく訪問者をその目で見据えた。

「アンタ・・・・・・」
ベッドに腰掛けたままフーケは目を見開いた。
見覚えがないわけではないが、知人という程でもない。だからと言って忘れよう筈もない。
魔法学院でも何度か直話したことはあっただろう。
少女は色々な意味で学院内において有名でもあった。
何より自分をぶちのめして、ここにぶち込んだ人物を忘れられるわけがなかった。

「確かシャルロット・・・・・・だったっけ、名前。わたしを笑いにでも来たってのかい」
自虐的なフーケを見つめながらシャルロットは顔色を窺う。
多少やつれてはいるようだが、憔悴しているような様子はない。
隙あらば脱獄くらいやってのけそうな印象も受ける。とりあえず話し合いにはなると踏んだ。

「いえ、少しばかり話をしようかと。犯罪者の心理――私、気になります」
フーケは鼻で笑う、お高く止まった少女に対して。
「まあいい・・・・・・どうせ暇で死にそうなくらいだしね。くだらない話でもありがたいくらいさ」
スムーズに事が進むことにシャルロットはほくそ笑む。

「さて、どこから話したものでしょうか」
「話す? 私に聞くんじゃなく?」
「段取りがあるんですよ」
「・・・・・・好きにしな」

 シャルロットは少しだけ考えてから語り始める。
「ついこの間、貴方の故郷に行って来たんですよマチルダさん」
「・・・・・・へぇ、どうしてだい?」
マチルダは今更ながらに、自分の素性を自白してしまったことに後悔する。
こんな小娘にまで本当の名前を知られてしまうなんて・・・・・・。

 メイジである以上は大概が元貴族だ。没落し、消滅していても、言わねば立場は悪くなると見た。
黙秘を決め込み心象を悪くするよりは、裁判で不利にはなるまいと思い日和ってしまった。
結果論で言えば大した効果がなかっただろう。極刑は免れたものの、長い懲役刑。
残るは所定の手続きの後に、然るべき場所へ送られる。出て来れる頃にはもう・・・・・・――

「アンリエッタ様からの所用です。貴方を捕まえたことで王女から信頼を得たもので」
「そりゃ何よりだね、アンタの糧になれてこっちも嬉しいよ」
シャルロットはフーケの皮肉をさらりと流しながら続ける。

「それで諸々あって、道中でメイジ集団と戦ったんですよ」
「はっ! 猫被っていて、その実とんでもない使い手だったアンタからすればさぞ余裕だったんだろうね。
 なんせこのわたしを軽くあしらったんだ。学院じゃ落ちこぼれに見せといてね・・・・・・ったく」
「それがそうでもなかったんですよ。私は生死分かつ境界線に立たされました。
 『白炎』のメンヌヴィル率いる精強な傭兵部隊です、本当に強かった――」

「はあ!?」
フーケは思わず素っ頓狂な声を挙げてしまう。『白炎』と言えば名うての傭兵だ。
やることは残虐極まりないと聞くが、味方から見れば英雄とも呼ぶべき実力者。
己の土ゴーレムは戦場でもそう簡単に遅れはとるまいが、戦場向きに鍛えた本物のメイジとは比べられない。

「へ・・・・・・へぇ~、よく勝てたもんだ。流石、と言っておこうかい」
「えぇ、ギリギリでした。勝てたのが今でも不思議です」
フーケはむしろ納得する。負けるべくして負けたのだと。
『白炎』のような人間に、まがりなりにも勝てるメイジなら自分が敗北を喫したのも無理はない。

「その戦いの後にですね、村へ赴いたんですよ」
「村・・・・・・?」
そこで初めてフーケに含みの込められたような声音が漏れる。
「はい、ウエストウッドという森の中にある――」
フーケは驚愕を押し止めた。なんとしてもバレてはいけない。そんな思いを封じ込めて平静を保とうとした。
シャルロットはその反応を見て、正真正銘の確信を得る。

「そこで少し休ませてもらおうとしたら、なんとエルフがいたんですよ」
「まさか!?」
フーケは叫ぶ。"まさかエルフがいるなんて"という意味ではない。
"そのエルフをまさかどうにかしたのか"という意味。
少女の実力と気性なら、敵性種族たるエルフと知れば殺られる前に殺るくらいやっても――と思ったのだった。

「はい、友人になりました。聞けばハーフエルフだそうなので」
フーケはほっと胸をなでおろしたと同時に察すした。
目の前の忌々しい少女は、わかっていてこうして喋っているのだ。
こちらとの関係を知った上で話しに来たのだと。

「テファ・・・・・・私とは比較するのもおこがましいほど良いコですね」
「――ああ、自慢の妹だよ」
"マチルダ"も観念する。全てがお見通しといったシャルロットに。
「ここで話を戻しましょうか、犯罪者の心理について。あんなに可愛い妹と子供達がいる・・・・・・。
 それなのにどうして貴方が盗賊なんてやっていたのか、是非その考えが聞いてみたいんです」

 マチルダは目を瞑り考えた後に、ゆっくりと口を開いた。
「別に・・・・・・大した理由はないさね。世間の噂通り、盗まれた貴族が慌てふためくのを見るのがおかしかったのさ。
 実入りも悪くなかったし、わたし自身も酔っていた・・・・・・万が一なんて考えず調子に乗り過ぎていた」

「・・・・・・なれば今は当然後悔していると?」
「当たり前さ、失うとわかってようやく自覚したよ。ホント馬鹿だ、どうしようもない」
マチルダは自己嫌悪に俯く。震える肩が暗い牢獄の中でもはっきりと見てとれた。
シャルロットはその姿に同情しつつ、お灸を据えるのもこのへんでいいかとも思ったその時――

 マチルダは神妙な表情で、縋るような声音で訴える。
「アンタに言えた義理じゃないのはわかってる。でもどうか・・・・・・テファと子供達を頼む。
 わたしは獄中で罪を償う。だけどあの子達は何も悪くない、何一つ罪はないんだ。
 あの子達だけは幸せにならなくちゃいけない・・・・・・だから頼む。この通りだ」

 マチルダは座っていたベッドから崩れ落ちるように、両膝を床に跪いて頭を下げる。
そんな様子を見ながら、あらゆる筋書きを想定し掌に収めるシャルロットに仄かな嗜虐心が湧いてきた。
(まぁ・・・・・・もうちょっと念押ししておこう)
そもそもが"破格"なのだ、ドン底まで落としてからのほうが効果的だ。

「無理ですね」
シャルロットはマチルダのことをバッサリと斬った。マチルダの言ったことはどっちみち無理なのだ。
「なっ・・・・・・ぐ・・・・・・今さっき友達と言ったじゃないか!!」
「そうですよ。友人として、出自や持っている秘宝のことは報告しませんでした。
 テファを不幸にするわけにはいきませんからね。でもたとえ金銭的援助をしたところで――
 ――不幸にはならずとも幸福にすることには出来ないんですよ・・・・・・"私には"」

 マチルダは言葉を飲み込む。それは自惚れとかではない。自分自身理解している。
だけどこうして捕まった己に資格なんてないのだ。もはやどうしようもないのだ。
されどシャルロットは容赦なく、マチルダが呑み込んだことを突き付ける。

「他ならぬ家族が居ずして幸せなんてないんですよ、"マチルダ姉さん"」
ティファニアと子供達の言葉を代弁するように叩き付けた。
マチルダの噛んだ唇から血が流れる。さらに床を拳で何度も殴り、骨が砕けるような音まで聞こえてくる。

 シャルロットは静かに・・・・・・マチルダの怒気が晴れるまで見つめる。
声にならない声を上げながら悔い続け、いつしか肩で呼吸をし始める頃には落ち着いたようだった。


「――話は変わりますが、三日後に御結婚なさるウェールズ王子とアンリエッタ王女のことはご存知ですか?」
「・・・・・・ああ、獄中でもその程度の噂はね」
マチルダはズケズケと心に踏み込み、荒らした少女に辟易していた。
今すぐにでも追い出したかったし、当然何も話したくなかった。

 思い切り罵倒してやりたくもあったが、今はシャルロットだけが頼りなのも事実。
テファ達を知り援助すると言った少女を、何より友と言った少女を無下には出来なかった。
虚ろな心地のままマチルダは気の抜けた会話を続ける。

「その結婚の立役者というのが、他ならぬ私です。・・・・・・自分で言うのも難ですが」
「そりゃあ良かったね。報酬も凄いんだろうさ。・・・・・・だから――」
喉から言葉が続かない。「今更言っても」という思いがマチルダの中で渦巻く。
そんなマチルダの言葉をシャルロットが受け継いだ。

「――だから頼みました、恩赦を出してくれと」
「・・・・・・?」
呆けて状況認識が追いついてないマチルダを、シャルロットは無視して続ける。
「同盟と結婚、とてもめでたいことです。名目は十分、後は恩を着せた私の口添え」

 シャルロットは見上げてマチルダと視線を交わし合う。
「貴方がこれまで強奪した盗品の賠償、及び王家への奉仕を義務付け――」
アンリエッタとマザリーニ枢機卿と話した条件はここまで。ここからはシャルロット個人からの条件。
「――ウエストウッド村の孤児院の運営、ならびに住む者の笑顔を守ること。
 トリステインとアルビオン両王家への忠誠をもって貴方を仮釈放します。
 始祖ブリミルでも両王家でもなく・・・・・・テファと子供達に誓えますか?」

 芝居がかった大仰な口上。言うのも顔から火が出そうなほどに、臭くて恥ずかしい台詞。
ルイズが結婚式で読み上げる詔と違って、無理に体裁作る必要はなかっただろう。
されど心身共に疲弊したマチルダにとっては、計算通り効果覿面であった。
スベらなくて良かったと思うと同時に、どこかで微妙にノリノリだった自分の側面はそっとしておく。
まだ昨晩の酒が残っている所為やも知れない。
素面であれば自ずから失笑して台無しにしていたやも。

「誓うよ――わたしの家族に」
マチルダははっきりと意志を込めた誓約を立てる。
父を殺して家名奪い、ティファニアをも殺そうとしたアルビオン王家は未だ許せない。
しかしいつまでも過去に囚われていては仕方がない。

 最も大事なのは、大切にすべきなのは、今の幸福なのだ。
「もし裏切りに相当する行為をした場合は・・・・・・こうして動いた手前、私自ら誅殺しますのでお覚悟を。
 正式な手続きは結婚式を終えて諸々が収束してからでしょうから、それまではここで反省して下さい。
 それと学院での一件、少々話が変わっていますので今から説明します。一応口裏合わせが必要でしょうから」


 シャルロットは改竄された内容を語る。実際とを互いに確認しながらゆっくりと――
マチルダが聴取の際に証言したことは、既にアンリエッタ王女の方で対処してある。
あとは当事者間で齟齬をなくせば特に問題はない。
次いで地下水を後ろ腰に握りつつ、水魔法の『治癒』を唱えて傷を治してやった。

「色々すまないね」
「テファの為です。貴方が恩に着るのは自由ですが・・・・・・くれぐれもテファ達には内密に」
尤もそんなことはマチルダにとっても百の承知だろうとシャルロットは思う。

「・・・・・・いや、正直に話すよ。あの子もいつまでも子供じゃない。家族として戻る為にも、ね」
マチルダの返事にシャルロットは目を丸くする。こんなにも殊勝なことを言うとは思ってもみなかった。
精神的にギリギリまで追い詰めた効果なのか。生来の気質が優しき姉で、思うところがあるのかはわからない。
それはマチルダ本人が楽になりたいエゴなのではとも一瞬思うが、分かり合うには必要だと考え直す。
ここから先は家族の問題だ。そう決めるのであれば、特段隠し立てするような理由もない。

「わかりました、それならそれで構いません。――それではまたいつか、ウエストウッド村で」
「ありがとう」
マチルダからの感謝の言葉を耳に残し、シャルロットは一礼して去った。


 暗く、狭く、圧迫感のあった空間から解放されて、シャルロットは燦々と照りつける太陽に向かって大きく伸びをした。
とりあえず肩の荷はこれで全ておろした。ようやく諸々から開放された清々しさに素直に身を委ねる。

 シャルロットにとって首都トリスタニアは故郷である。
シャルル達にとっては滅びたガリアだが、娘達にとっては生まれも育ちもトリステイン。
学院に通い始めてからは定期的に戻って来る程度なので、極々普通な程度には懐かしく思う。

 勝手知ったるなんとやら、"次の目的地"へ行くついでに古巣を堪能することにした。
本に武具、衣服や装飾品、雑貨屋など、店を順繰りに回りながら歩いて行く。
そうして久しぶりに少女らしい生活を謳歌をしていると、丁度良く"見知った顔"と出くわした。

(魅惑の妖精亭・・・・・・)
チラリと目を向けた先に書かれた店名。
確か選り取り見取りな少女達に、お酌をさせる一風変わった酒屋だ。

「二人とも、昼飲み帰りですか」
「あー・・・・・・」
"ワイルドバンチ"の片割れ。キッドに肩を貸して抱えるブッチは、気怠そうにこちらに視線を返す。
よくよく考えれば、真昼間から開店するような店でもなさそうだった。
朝まで飲んで酔い潰れ――今ようやく出てきたといったところなのだろう。

「キッドがこのザマでな」
完全に意識をなくしていた。昨夜のパーティから通して相当飲んだのだろうことはわかった。
「・・・・・・まぁキッドさん、私といた時はハメはずさないようにしていたようですし・・・・・・しょうがないですね」
正直『ミョズニトニルン』には大いに頼り過ぎた。今回のキッドの手柄は最も重要なものだ。
多少だらしなくても責められない。大仕事をやり遂げたのだから。

「・・・・・・ブッチさん、今いいですか?」
「おう」
シャルロットは地下水を引き抜くとブッチへと渡す。
「これを・・・・・・」
「あ? これって」
ブッチはキッドをそのまま地面へと寝かせて、ナイフを受け取る。
「うお!?」
一瞬驚いた後に黙りこむ。ナイフに込められた意思と心の中で会話しているのだ。

 デルフリンガーは元々『ガンダールヴの盾』である。
普通には死ぬことがない為、お互い話し相手にと長年地下水に宿っていた。
されどデルフリンガー本来の役割とあらば、本人は『ガンダールヴの盾』と戻るのも吝かでない。
寂しくもあり戦力減となるものの、シャルロットはデルフリンガーの望むままにさせてやりたかった。
それにブッチに使われるのであれば、永遠の別れということもない。
当分は近くにいるのだろうから、話そうと思えばいつでも話せる。


 しばらくボーッとした後に、ブッチは地下水をシャルロットへと返した。
「いらん」
「えっ?」
(断られちったい、"本来の相棒"に)
デルフリンガーの心なしか悲しげな声。とりあえずシャルロットは事情を聞く。

「話は聞いたんですよね?」
「まぁな、だがいらん」
「魔法を吸収出来るし、武器なら好きなものに――」
デルフリンガーの『特性』であれば宿る武器は選ばない筈であった。
元々の大剣でも、今のようなナイフでも、そして銃でもである。

「だってうるせえし」
「・・・・・・ぁぁ」
(えっ)
(ははっ)
シャルロットはどこか納得したように相槌を打ち、デルフリンガーは呆け、地下水は密かに笑う。

「それに大事なもんなんだろ」
「・・・・・・それは――まぁ、そうですけど」
もしかしたらブッチは、こちらをわざわざ気遣ってくれたのかとも思う。
「珍しいし、面白いが、流石に喋る武器と四六時中一緒なんてウザってぇよ」

 シャルロットは自然に漏れる微笑をブッチに投げかけた。
それは年相応の少女が持つ繊細で柔らかなほほえみ。
「・・・・・・ありがとうございます」
「礼を言われる筋合はねえよ」
どこかホッとした。やはり寂しいものは寂しいし、デルフリンガーの魔法吸収特性も惜しい。

「で、話はそんだけか?」
「はい」とシャルロットが頷くと、ブッチはキッドを持ち上げる。
「今度奢りますよ」
「・・・・・・ああ、期待しとく」
ブッチは空いた片手で緩く手を振りながら城の方へ歩き、シャルロットはその背を見届ける。


(まさかフられるとはなあ・・・・・・)
と、デルフリンガー。
(残念)
と、シャルロット。
(・・・・・・まあ"こっちの相棒"も悪くないからいいけどね)
(ありがと)
(折角居候が出ていくチャンスだったのだが――)
と、地下水。
いつもの面子。いつも一緒の家族。いつも通りの会話。
いつものわかりきった口論が始まる前にシャルロットが制する。

(私は二人が一緒にいてくれて嬉しい)
(ぬっ・・・・・・)
(むっ・・・・・・)

 隠し事なしの真っ直ぐな気持ち。

 今までもこれからも、私が死ぬまで二人は一緒なのだ――



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