あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

『メガネをかけた…!?』の巻


「…まったくアイツ何処にいったのかしら?」
一足早く食堂に着いたルイズだったが待てど暮らせどアバンはこない。
仕方なくちょっとだけ豪華になった犬の餌を下げさせ一人昼食を済ませたルイズ。

食後、アバンを探して広場をうろついていると通りかかったメイドに声をかけられた。
「…あの、失礼ですがミス・ヴァリエールでしょうか……?」
「そうだけど…何か用?」

ルイズの答えにホッとしたように目を輝かせたメイドは
「良かったぁ! アバン様からご案内して欲しいと頼まれたんです」
そう言ってルイズを厨房近くのテラスの一角まで先導していった。

誘われるままにテラスの一角に腰を落ち着けたルイズは、
「で、一体アンタは誰でアイツとどーゆー関係でアイツ本人は今何処ほっつき歩いてるの?」
ほんのちょっとだけイラッとした声で訊ねた。

「え? え? あ、あの私この学院で皆様のお世話をさせて頂いているシエスタと申します」
慌ててペコリとお辞儀するシエスタ。


「アバン様とは今朝方初めてお会いしました。ちょうど朝食を自炊なされようとなさってる最中でございましたから、それならば調理場をお借りできるように、と私も一緒に料理長のマルトーさんにお願いしに行きました。初めはマルトーさんも渋ったのですが、アバン様の境遇を聞いてすぐに調理場の一角を貸してもらえたんです。そうしたらアバン様が凄い勢いで料理を作り始めて、出来上がったものを私にも分けてくださったのですがこれがもう美味しくて!! マルトーさんも『その若さで大したもんだ』と褒めるほどの出来栄えでですね…」
「あ、もういいから、そこまでは大体わかったわ。で、その当のアバンはどこかしら?」

まるで我がことのように嬉しそうに話すシエスタの話を切り、先を促すルイズ。
シエスタはサッと赤くしながら

「す、すみません!!! そ、それで、アバン様はそのお礼がしたいと今日のお昼も調理場の皆さんや私たちの賄い料理を作るのに協力をしてくださいまして、わ、私ももう十分だと伝えたのですけど今もお茶やお菓子の配膳を手伝って頂いています……」
「ふーん……全く主人をほっぽいて何をやってるかと思えば……」
決して居なくて寂しいわけではないが、それならそうと一言言っとけと思うルイズ。

「あの…! アバン様もミス・ヴァリエールのことを十二分に気に掛けていらっしゃったんです!! それでせめてミス・ヴァリエールの食後のおやつにでもということで、貴方をお見かけしたら是非こちらをお出しして欲しいと頼まれたんです!!!」

必死にアバンをフォローするシエスタ、ちょうど他のメイドが持ってきたトレイを受け取りルイズの前に丁寧に置いていく。
配り終わるとポケットからメモらしきものを取り出して読み上げる。


「えっと…こちらから順番に『アバン特製! 元気の出るハーブティー』、『甘さ控えめレディのためのモンブラン』、『とってもヘルシー豆乳プリン』『大人の味わいスペシャル草もち』、……」
「け、結構な量あるわね……」

一つ一つは一口程度のサイズだが、中々に種類が多かった。
……これだけのものを作るのはそれなりに手間がかかったであろう(このぐらい平気で作ってそうな男でもあるが)。

「まぁいいわ。アナタ…シエスタって言ったっけ? ちょっとアイツ呼んできてくれる? その…用があるって」
主人ほっぽったことに文句でもつけようか、それとも一つちょっとだけ苦労をねぎらってあげようか、どっちにしろ本人に会ってから決めよう、そう考えを固めたルイズ。

シエスタが一礼して去った後、さてどれから手をつけようかと悩むルイズ。
(クックベリーパイは無いし…豆乳プリン、は美味しそうではあるけどちょっと子供っぽいかな?)
などど逡巡していると、

「あら~~~? そこに居るのはルイズじゃない、また随分とお菓子ばっかり頼んだわね~~魔法に失敗してやけ食い? そんなにお菓子ばっかり食べても小さいのは小さいままよ? 違うところは膨らむけどねぇ~~」

向こうからキュルケと良くキュルケと行動を共にしている少女が歩いてきた。


「よけいなお世話よ! 第一これは私の使い魔が勝手に作ってよこしただけで私が注文したわけじゃないわ!! 変な妄想しないでくださる!?」
キュルケに絡まれるとついついスルーできずに意地になって返してしまうルイズ。

「へ~~あの使い魔のお兄さんどこかでパテシエでもしてたのかしら?」
興味津々、といった様子で机の上を眺めるキュルケ。

「…………………………」
本を読みながらキュルケの後ろを歩く少女(確か…ダバティだったかタバサだったか、そんな名前)は、ちらっと机の上を一瞥し、
なにやら一瞬動きが止まった気もしたが、すぐに視線を本に戻した。

「あんたねぇ…そんなのどうだっていいでしょ? いいから……」
”どっか行きなさいよ”と続けようとしたルイズの元に、

「た、た、た、大変です! アバン様、アバン様が……!!!」
シエスタが血相を変えて駆け込んできた。


シエスタの尋常ではない態度に、ルイズの機嫌は急降下した。
(…アイツ、さてはなんかやらかしたわね~!?)
素早く椅子から身を起こすとマントを棚引かせ早歩きでたった今シエスタが駆けてきた方向へ向かう。
その背中にキュルケが「あらあらアナタの愛しの使い魔が大変そうねぇ~」と声をかけたが、一顧だにしなかった。

(あの子が言い返してこないなんて、私の挑戦を無視して使い魔を取るなんて不遜じゃなくて? ルイズのくせに…)
その態度に不満げに鼻を鳴らすキュルケ。タバサの方を振り返り話しかける。

「面白そうだし私達も行ってみましょうか?」
「……………………」

彼女が無口なのも本から目を離さないのも何時ものことなので、キュルケは彼女が僅かに頷いたのをOKのサインと判断し、
「流石は私の可愛いタバサね~!」
とタバサの頭を撫で撫で、そしてキュルケが前を向いたと同時にタバサは草もちの咀嚼を再開した。
(……おいしい)


「私は別に構いませんよ。ただ一つ言わせてもらえれば、貴方の誇りは意地を張ることではなく、女性に誠実なことで誇るべきだったし、貴方の勇気は決闘を申し込むのではなく、過ちを認めて彼女たちに謝罪に行くことに発揮すべきでしたね」

「……その態度! 決闘受諾と判断するに充分!! ヴェストリ広場で待っているぞ!!」

現場に着くなりこれである。ルイズは頭を抱えたくなった。
とりあえず頭の中で大至急状況の整理をしつつ、ルイズの脇を通り抜けようとしたギーシュを牽制してみた。

「…ミスタ・グラモン、これはグラモン家のヴァリエール家に対する挑戦と受け取っていいのかしら?」
「ミス・ヴァリエール、これは貴族同士の抗争ではなく、誇りある貴族とそれに不敵にもそれに挑戦する平民との私闘だ」
―――家の名誉をかけた争いではなく、個人的な私闘である。

「主人と使い魔は一心同体。その使い魔に決闘を挑むというのは、その主人に挑むも同然じゃなくて?」
「一心同体というならキチンと彼に貴族に対する礼節を弁えさせたまえ。僕の言いたいことはそれだけだ」
―――貴族同士の決闘を禁じる法に触れる行為でもない。

…駄目だ。これだけ圧力を掛けても退かないとなるともうこちらは打つ手はない。
ルイズは広場へ向かうギーシュの背中をしばし見送った後、残る一方の元へ向かった。

「おんや~? ルイズじゃありませんか。どうしたんです、こんなところで?」
まるでノホホンとした態度のアバン。


………殺意が芽生えた。


「つまり端的に言ってですねぇ…あるレディにちょっとした手助けをするため、彼女の彼氏を一緒に探してあげたところ、ちょうど彼氏が別の女子生徒の方とのデートの真っ最中で、結局その彼氏は二人に振られた腹いせに私に決闘を申し込んできた、とまぁそういう訳です」

アバンの話しの内八割方はルイズの想像どうりだったが、だからと言って状況が好転するわけでもなく、事態は最悪だった。
何故なら正当性がはっきりしすぎてアバンを説得できそうな理由が殆ど思いつかなかったからだ。

ルイズはため息を一つつくと、なるだけ固い表情を作ってアバンに命令した。

「ご主人さまからの命令よ。どうせメイジに平民が勝てっこないんだから今すぐあの男に謝ってきなさい!」
「嫌です」

…正直ルイズも内心そう答えるだろうと思っていた。もし仮にアバンの今まで言ったことを全て信じるなら、行方不明になった弟子一人(しかも極めて短期間の付き合い)を探すため愛する家族と離れて異世界にまで足を伸ばそうかという男である。
ルイズも未だその全てを信じたわけではないが、「危ないからギーシュに謝ってきます」なんて人間ではないことは殆ど間違いないであろうと確信している。
そして非常に口が上手い。説得するのは元々困難だったろう。

「……なにか勝算があるのね?」
「バッチリあります」

ならもうこれ以上言うことはあるまい。こんな男でも自分の使い魔だ。上手く事が運ぶことを祈るしかない……
ルイズがそう覚悟を決めていると、アバンの方から突然話を振ってきた。

「そんなことよりもルイズ、ちょっと聞きたいことがあるんですが……」


「諸君、決闘だ!!」
ギーシュがそう宣言し、大いに盛り上がる広場。
そこに姿を表すアバンとルイズ。

「逃げずにここまで来たことは褒めてやってもいいが、後ろのミス・ヴァリエールは付き添いか?」
「彼女は一応私の主人ということですからねぇ。彼女にも付き合ってもらう事にしました」
「フン、どうせ決闘が始まれば男と男、一対一の勝負だ。関係ないがね!」
「それなんですがねぇ……」

『貴方にはこのルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと勝負してもらいます』

その瞬間、熱狂に満ちた広間が静まり返った。

「……君は何を言ってるんだ? 第一に貴族同士の決闘は禁じられてる。僕とミス・ヴァリエールは決闘できない。第二に僕が許しがたいのは君であってミス・ヴァリエールではない。僕とミス・ヴァリエールが決闘する理由がない。今更怖くなって誤魔化したいのかもしれないが……」

「後ろから順にお答えしますが、まずこの決闘をこちらが誤魔化したり断ったりするつもりはありません。皆さんご承知の通り使い魔と主人は一心同体、私への挑戦は主人であるルイズへの挑戦…少なくとも彼女はそう考えています」

ギーシュの言葉に間髪入れずに答えるアバン。


「最後に、これが一番重要なことですが、決闘の形式としてはあくまで私と貴方ということにしましょう。決闘が始まれば私はその場を一歩も動きませんが、貴方が負ける前に私が一歩でも動くことがあればこちらの負けを認めましょう。そして私はルイズの勝利に『命を賭けます』」

あまりの事態にざわめく聴衆、急な展開に逡巡するギーシュ。そんな彼らを嘲笑するように笑みを浮かべたアバンが付け加えた。

「ここまで条件をつけて尚『ゼロのルイズ』に勝てぬと思うなら、もっとハンデをつけてあげても構いませんよ? まともにやれば貴方では万に一つもルイズには敵わないでしょうからねぇ」

その一言でギーシュの覚悟が決まった。

「…いいだろう! その命捨てるというならこの『青銅のギーシュ』の手で散らせてやる!!」


ヴェストリ広場でギーシュとアバンが舌戦を繰り広げる最中、当のルイズはアバンとの会話の続きを思い出していた。



ちょうど説得をルイズが諦めた頃、「そんなことよりルイズ…」と切り出すアバン。

「貴方みんなから『ゼロのルイズ』と馬鹿にされて、悔しいでしょう?」
「はぁ? なによ藪から棒に。そんなの悔しいに決まってるでしょ! アンタ喧嘩売ってるわけ!?」
「なら丁度良い機会じゃないですか。勝てばまた周囲の評価も変わるかもしれませんよ?」
「何が良いものですが!! せっかく人が!…」

(人がほんのちょ~~~とだけ心配してやってるのに!)とプリプリ怒るルイズを宥めつつ、アバンは言葉を続けた。

「私はね、ルイズ。力というのはいざというときに発揮できればそれで良いと思います。勿論その為には日々の精進が肝要ですが、何も日頃から殊更周囲に力をひけらかすようなことは必要ない、とね。でもそのせいで貴方が馬鹿にされ悔しい思いをするんだとしたら……」

「まぁ私もいっちょやらないわけにはいかないですよねぇ~」
曲がりなりにも男の端くれですから、と続けるアバン。


「勿論それだけじゃないですけどねぇ~、一つには簡単に謝ってしまえば彼のためにならないだろうというのもあります。若い頃の失敗はそれ自体は決して罪ではありません。魔法にしても女性との付き合いにしても皆失敗の中からこそ多くのものが学べるのです。罪というなら失敗を活かせないことこそが問題なのです。教訓にも『過ちて改めざる、これを過ちという』と言うでしょう? 私があの場で事態を誤魔化して彼の行為を認めてしまえば、それは大人としての責務を放棄したも当然ですから」

若干説教癖でもあるのか、話しが長引きつつあるのに嫌な顔をしたルイズの様子に気付いたアバンはオホン、と咳をつきつつ
「ま、まぁもっと穏便に済ませる道を模索しなかったのは事実ですがね」
と話しを纏めた。

「ハァ~…しかしアンタも相当な自信家ね、良く知りもしないメイジを相手に剣一本で立ち向かおうなんて……」
「何を言ってるんですかルイズ。私が戦って勝っても貴方が皆を見返すことにはならないでしょう?」
「?」

「勿論貴方が戦うんですよ」


頭から地面に突っ込む形でずっこけるルイズ……



そのままアバンに「主人と使い魔は~」とか「名誉ある貴族の子弟なら~」とか言葉巧みに言い含められ、あれよあれよというまに承諾させられこの場に立っていた。


あんな男の心配などした自分はなんて愚かな存在だったのだろう…
アバンとギーシュの会話などまるで耳に入らなかったが、どうせギーシュも上手いことアバンに乗せられるに違いない…

そんなようなことをルイズが考えているいると、案の定ギーシュが「良いだろう!」とかなんとか叫んでいた。
やれやれ、どうやらやるしか無いようだ。

決闘といえばお互いが杖を構えた段階で勝負開始だ。ギーシュが薔薇の花を華麗に振りかざし「僕の名は~」とか口上を述べ始めた頃には、ルイズたちは既に作戦(と呼ぶのもおこがましいシンプルなものだが)を開始していた。即ち…

―――良いですかルイズ、私がこの小石のようなものを彼に向かって放りますから…
アバンが実に何気ない動作でスッと宙に放った何かが山なりの軌跡を描いてギーシュの方に飛んで行き、

―――貴方はなるべく短い詠唱で終わる魔法を唱えて…
ルイズはレビテーションの詠唱を開始した。


一方ギーシュは敵を侮っていたので完全に油断していた。そもそもこの状況で負ける筈がないのだ。
彼がまずは華麗なポージングを決めつつ一体目のゴーレム(彼はワルキューレと呼んでいる)を錬金を行なっていると、アバンがまるでパスするよに手に握った小石を投げて寄越した。

これが仮に唸りをあげるような剛速球であれば、むしろギーシュも即座になんらかの防衛手段を実行しただろうがポイ、とかヒョイ、とか音が聞こてきそうな程軽いものだったため何となく眺めてしまい、(なんだあれ?)とばかりに手を伸ばしてそれをキャッチしようとした。


ヴェストリ広場に集まった生徒たちの多くは皆一様に興奮していた。
『決闘がある』というだけで普段の学園生活ではまずお目にかかれない一大事件になるのに、さらに当事者が平民と貴族の争いで、しかも一方は『ゼロのルイズ』がまさかの召喚をした平民で、おまけにそれがギーシュ二股発覚からルイズ参戦に使い魔の命が賭けられたりと神がかり的展開を見せたとなれば、見ている側はいやが上にも盛り上がる。

そんな広場にあって興奮の色にそまらぬ例外が居るとすれば(なんだかとんでもない事になってきたわね~あの子ったら何考えてんのかしら?)と思案顔のキュルケと無表情のタバサともう一人、複雑な表情な浮かべるモンモランシーだけだった。

彼氏に二股に怒り心頭の彼女ではあったが、彼を本気で見捨てたわけではない。ただ自分の怒りを知ってしっかり反省して欲しかったのだ。
それがどこをどう間違ったのかルイズの使い魔と決闘をすると聞き、急いで踵を返して様子を伺ってみれば今度は相手はルイズ本人だという。

そんなことをして一体何になるのか判らないし、そんな暇があるならまず自分なりケティにきちっと謝罪してほしいモンモランシーだったが、とりあえず今はまずギーシュの安全を祈りつつ成り行きを見守っていた。

(きっと大丈夫よね、なんたって相手が相手だもの。『ゼロのルイズ』といえば毎回毎回魔法を唱える度に………!?)


はっと気付いたモンモランシーが顔を上げたその瞬間!ギーシュが爆風に包まれた。


―――思いっきり失敗しちゃってください。今回はそれが成功です。


ドゴォォォォオオオオオオオオオオオン

「ああっ、ギーシュ!!!」

爆風が晴れ、悲痛な叫びをあげたモンモランシーの目に飛び込んできたものは、ボロクズのようになって地に伏すギーシュの姿だった。


「……ルイズ、決闘の決着はどうやって判定するんですか?」
「一応、先に杖を手放した方が負けということになっているけど……」
ギーシュの薔薇は遥か先、この地の単位でいえば10メイルは離れた先に落ちていた。
さらにモンモランシーがギーシュに駆け寄るのを見守った後に、ようやくアバンはその場から動いた。

まずギーシュの傍に歩み寄ると、「お嬢さんちょっと失礼……」とギーシュの様子を確かめ始めた。
「う~~~む……うん、命に別状はありませんね。これを飲ませてあげて見て下さい。私が特別に配合した気付け薬です」
アバンが懐から取り出した薬を言われるままに気絶したギーシュに飲ませるモンモランシー。

「くぁwせdrftgyはしばmlp;@」
「!」
「ハッ!!! ……僕は…一体何を…」
「…このバカぁ! 貴方はホントにもぉ…」
目に涙を浮かべて抱きつくモンモランシーにしばらく混乱するギーシュ。


一方アバンは聴衆に向き直ると優雅に宣言した。

「ご覧の通り、この勝負はわが主ルイズの勝利です!」

その言葉に答えるように広場は驚きに満ちた喚声に包まれた。


「うおおおおおおおお! あの『ゼロのルイズ』が『青銅のギーシュ』に勝っただとォオ!?」
「信じられないわ!! 何一つまともに魔法が使えた例もないのに!!」
「そもそも今回だって失敗してるぞ!!! あんな勝ち方ありか!!?」

多くの生徒は眼前の状況に驚き動揺を隠せない様子だったが、アバンは言葉を続けた。

「チッチッチ皆さん甘いですねぇ~何も驚くようなことじゃないでしょうに。『今回も魔法は失敗してた』? 良く思い出してみてください。あなた方は今までもずっとその『失敗魔法』を見てきたわけでしょう? そしてその威力の大きさを知っていたからこそ、今日の授業でもあれほど大慌てで避難してたんじゃないですか。ちょっと考えればこれがどれだけ強力な『攻撃魔法』なのかは一目瞭然です。私に言わせれば『何を今更…』ってとこですねぇ」

やれやれ、と言った風に首を振るアバンにざわめき互いに顔を見合わせる面々。

「まだ納得がいかないようなら…誰か今一度挑戦する人間は居ますか? このルイズを相手に! 正面から決闘を挑む勇気のある人間が!!」

水を打ったように静まり返った生徒たちの顔を確認しながら広場を横切るアバン。

「居ませんか!? 居ないのなら……」
ルイズの傍まで歩いて足を止め、その手を取るアバン。

「この、小さく可憐な勝者に大きな拍手をお願いします――。」

その言葉の直後、パチ…パチ…と疎らに始まった拍手は、あっというまに広場に響き渡る大歓声に変わった。


広場中から自分に寄せられる拍手の渦の中心に立ったルイズは半ば放心状態だった。
(これが…私に? そんな、嘘でしょ、だって……)
この学院に入学してから今まで彼女はどれほどの苦労を積み、そしてどれだけの屈辱に耐えても何一つ上手く行かなかった。
そんな彼女に今起こっている事態は、彼女が俄かには信じられないとしても無理はないものであった。

彼女はしばらくその音に聞き入り、ふと横に立つ男に目を遣り、彼が頷いたのを見て初めて、心の奥底から湧き出す押さえがたい歓喜に手を突き上げ、
「イイィィィよッッしゃァァアアア!!!」
あまりに男らしい叫びを上げた。

「そうか、負けたのか……」
復活直後の混乱も収まり、またこれだけ喚声を受けるルイズを見ては否応なしに現実を認めざるをえない。
振られた直後の恥辱とそれを誤魔化すための決闘の興奮も消え去った今、プライドを打ち砕かれ、心と体の苦痛に身を捩じらせたギーシュは、そこでようやく傍らに座るモンモランシーの存在を思い出し、
「モンモランシー……」
と呟いて言葉を失った。

ルイズに負けて悔しかったし恥ずかしかったし、何よりこんな醜態を他の誰でもなくモンモランシーに見られたよ思うと居た堪れなかった。

「君に…こんな…こんな姿を見せて……僕は……」
あまりの口惜しさに思わず涙が出そうになったギーシュは、
「…そんなことよりギーシュ……私まだ貴方からケティのことについてちゃんとした『誠意』ってものを見せてもらってないんだけど」
静かな、しかし何か恐ろしいものを押し殺した彼女の言葉に恐怖の涙を浮かべて歯を打ち鳴らし、
「ご、ごご、ごごごごめんよぉおおおおおおおおおぼぼぼぼくが悪かったよおおおおおおおお~~~~~~~」
と敗北の悔しさとか体の痛みとか体面とかプライドとか誇りとかプライドとか全て頭から吹っ飛ばしてその場で地面に頭をこすり付けて謝罪し、
「貴方にはこのぐらい良い薬だわ! ちゃんと反省してくださる? …『次は』許さないんですからね、こんなも心配かけて……」
敗北し格好も薄汚れた自分を尚受け入れてくれたモンモランシーに感激と感謝の涙と鼻水をしこたまこすり付けてしばき倒されたのだった。


そんなルイズやギーシュの姿を嬉しそうに眺めたアバンは、ここで初めて心中安堵のため息を付いた。
(なんとか上手くいったみたいですねぇ~)

今回の決闘について、ここまでは実に八割方はアバンの想定の通りだった。
正直のところ不安材料といえば勝った後のギーシュ君へのフォローぐらいで(今回はたまたまモンモランシー嬢のおかげで実に上手くいったが流石にこれは予想外)、ルイズはアバンに見守る前で(不意の事故とはいえ)一瞬の内にトライアングルメイジである学園講師シュヴルーズ氏をノック・アウトする程だ、自分がフォローすればドットクラスの一生徒相手には万に一つも負けはないという確信がアバンにはあった。

ちなみに例えばアバンが投げたギーシュに投げた「小石のようなもの」は正式名称を「爆弾石」といい、爆弾岩などから入手できる攻撃アイテムだ。これならば仮にルイズの爆発の威力が弱かったり何も起きなかった場合でも、
外見上「いつもの爆発で倒す」という作戦が成功する、云わば保険のためにアバンは使ったが、予定以上にルイズの爆発が上手くいき(あるいは連鎖反応か)、結果(まずい効きすぎた?)と今回一番アバンを焦らすという事態に発展したのは策の弄しすぎかもしれない。
だがそれもルイズの魔法の威力を多くの生徒に強烈に印象付けたと思えば結果オーライか……


このままこの決闘騒動が幕を下ろす、と誰もが思いかけたその矢先、思わぬ人物が待ったをかけた。

「この決闘に異議あり!!! 本来なら決闘は一対一の勝負のはずだ! なのにギーシュの相手は二人居る!! この勝負…無効だ!!!」

その人物は誰あろう、アバンの一言によって今日一日を級友にからかい尽くされて過ごした男、食堂では無理やりルイズの隣に座らされて恥ずかしい思いをした上にその存在をルイズに完全に無視された男、そして実は本当に彼女に気がないとも言い切れない気がしないでもない素直になれない純情ボーイ、マリコルヌ・ド・グランドプレであった!


「みんな騙されるな! 今回のギーシュはそいつの口車に乗っただけで、本来なら相手はそこの平民だけだったはずだ!! そいつは自分が勝てないからルイズを引き出して戦わせた臆病者なんだ!!!」

群集の中からアバンの前に躍り出たマリコルヌ突然の大立ち回りに再びざわめく一堂。尚も続けるマリコルヌ。

「そのルイズにしたって相手のギーシュが侮っていたから成功したような不意打ちじゃないか!!! 所詮ルイズは『ゼロのルイズ』なんだ!!! 所詮は『サモン・サーヴァント』でただの平民を呼び出す奴なんだ!僕は、僕は……!!!」

「ギーシュ・ド・グラモンの友人として! 君に『決闘』を申し込む!!」

アバンに杖を突きつけるマリコルヌ、その頬は興奮のため既に真っ赤に染まっていた。

その様子に名前を上げられたギーシュは初め突然の事態に唖然としてものも言えず、ようやく我に返ると「いや…これは完全に僕の負けだよ……」とマリコルヌを止めるべく動きだそうとして、『所詮はゼロのルイズ』と呼ばれてカチンときたルイズは今や戦意は十分、
「やってやろうじゃないの、アタシが一人でアンタのノドチンコ引き抜いてそのガラガラ声を出せなくしてやるわ!」と臨戦態勢を取ろうとして、
両者共にアバンに制された。

「いいでしょう、その挑戦お受けいたしましょう」
アバンがゆっくり進み出る。


「今回は一対一の勝負だぞ!! ルイズは抜きだ!!!」
「わかってますよ」
首をコキコキ鳴らし、手首をブラブラさせるアバンに恐れの色が無いのをみて思わず声を上げるマリコルヌ。

「…ただの平民の分際で貴族であるメイジに勝てるつもりなのか!?」
彼の予想ではアバン一人で挑戦を受けることはまずないはずで、大人しく降参すると思っていた。
何故なら先ほど勝ったのは曲がりなりにもメイジであるルイズである。
見ている生徒たちも今回ばかりはマリコルヌの勝ちは動かないだろうと思っていた。

「アイツ…本気でやるつもりなのかな? 平民のくせに」
「さっきの勝利でメイジのことを侮ってるのかしらね? 平民のくせに」
「意地の問題で退くに退けないんじゃないかな? 平民のくせに」

そういった話し声を聞きつけたのか、アバンは大きなため息をついた。

「ベリ~バットですねぇ~、さっきのルイズを見てもまだそんなことを言ってるんですかあなた方は。ちょっと考えればす~ぐ解りそうなのに…固定概念って恐ろしいですねぇ~」

アバンの言葉に一斉に頭に疑問附を浮かべる面々、それはマリコルヌたちに限らず至極冷静に事態を観察していたキュルケや、当のルイズすら同様だった。
そんな様子に肩をすくめるアバン。


「やれやれ…先ほどの件を思い出して下さい。今まで幾度と無くルイズの魔法を見て、何度もその威力を体感しておきながら、皆さんはその有効性に全く気付こうとしてこなかった。それと同じです。貴方たちは既に真実に手を触れているのにそれに全く気付かない」

この段階でも、ピンとくる生徒は皆無だった。

「……私がこの世界に来てから、何度似たような文句を聞いたでしょうか。『ただの平民を召喚するなんてあり得ない、流石はゼロのルイズ』と……」
この時、それまで広場に来てからひたすらページを捲ることしかしてこなかった少女の指がピタリと止まった。

「それこそが『答え』ですよ。この言葉は全く正しい。私が不思議でならないのは、そこまで考えて何故誰一人として疑問を抱かないのか? ということです。『ただの平民を召喚するなんてあり得ない』、あり得ないのなら……」

「『実はただの平民じゃないんじゃないか?』とね。見せてあげましょう、私の『本当の姿』を!!!」

その場にいた殆どの人間が、その言葉の意味をすぐには理解できなかった。しかしこの後、彼らは一瞬にしてこの言葉の意味を理解した。
即ち、突然アバンが両腕を握り締め歯を食いしばり、まるで全身の力を引き出さんとばかりに体を強張らせた刹那、ある言葉と共にアバンの体が業火に包まれた正にその時である!


「…ド・ラ・ゴ・ラ・ム!!!」


天を突かんという火柱の中から、『メガネをかけた竜』が現れた!!!

高さは3メイル、全長はゆうに10メイルを超え、羽を広げればもはや巨大な壁に等しい。
体を覆う皮膚は分厚く荒々しく、巨大な四肢には鋭く太い爪がそれぞれ4本。
頭部から後方に向け伸びた二本の角、無数の牙の奥には炎が燻り、唯一チョコンと乗っかる原寸大のメガネだけがアンバランスにチャーミング。

正真正銘、最強最悪のモンスターの突如出現に、

「ド、ドドッ、ドラゴンだ! 本物のドラゴンだ!」
「嘘でしょ!? へ、平民がドラゴンにィ!?」
「そんな馬鹿な!!! 一体何がどうなってる!!!」
ギーシュが平民と決闘すると言い出したと思ったら、いつのまにかルイズに負けていた段階で、既に頭がどうにかなりそうだったヴェストリ広場の面々は、事ここに及んで遂に大混乱に陥って恐怖の片鱗を味わい、

「わたしたちはとんでもない思い違いをしていたようね。これを見て。まず見たままに事実を表記する。
 『平民→ドラゴン』
 これを逆にすると、
 『ンゴラド→民平』
 変身したのが平民というを考えれば末尾に『平民』を加えるのが当然。
 『ンゴラド→民平平民』
 ここで一部の漢字が重複していることに気付く。
 即ち被った『民』と『平』をノイズと見なして省略する。
 『ンゴラド→平民』
 そして最後の仕上げは意味不明な文字列『ンゴラド』、
 これは実はアナグラムで出来ていて並べ替えると『ドラゴン』となる。
 するとできあがる言葉は……『ドラゴン→平民』。
 つまり! 実はドラゴンが平民に化けていたのよ!!!」

「な、なんだってーーー!!」
MontMoRencyは超理論でギーシュの度肝を抜き、


「あれは……」
「何か知っているのタバサ?」
「……恐らくは先住魔法の中でも高度な部類に入る『変化』の一種……そして人語の精通具合から見ても正体はかなり成熟した韻竜だと思われる」
「なんですって!? 韻竜なんて既に絶滅したとも言われる幻の竜じゃない!!!」
「しかも、炎を纏って『変化』するなんて私も初めて見た……かなり興味深い」

タバサは得意の知識を活かした解説でキュルケを唸せた。

しかしそんな広場の喧騒もまるで耳に入らぬ男が一人居た。

その人物は誰あろう、既に勝負あったはずの決闘にただ一人異議を唱え、アバン(に乗せられた級友)によって著しく傷つけられた自身の名誉のため、そして殆ど唯一女性のスキンシップ相手であるルイズをからかえなくなるのを阻止するため、勇み足で立ち上がってしまった涙目ボーイ、マリコルヌ・ド・グランドプレであった!

(これは夢だ……そもそもルイズがギーシュにメイジとしての勝負で勝ったりするわけないじゃないか……)
(それにこんな……こんなこと!!!)

今彼の眼前では、持ち上げた前足を叩きつけた衝撃で地面に地割れを起こし、羽を広げてつむじ風を巻き起こす怪物が、燃え上がる業火のブレスの吐き出しながら雄たけびを上げていた。

「グ ワ ァ ァ ァ ァ ア ア ア ア ッ ッ ッ ! ! ! ! ! ! ! ! ! !」

(あって良いはずがないだろォオ!?)
彼はガタガタ鳴る膝を押さえて腰が抜けそうになるのを堪えつつ膀胱を閉めるだけで既にいっぱいいっぱいだった。


「おんや~? 皆随分驚いてるようですねぇ…ルイズ、私ってそんなに凄い部類の使い魔なんですか?」
ぐるり、とその長い首を回して後ろを振り返り、流石に呆然としているルイズにウィンクするアバンドラゴン。
(あの状態でも喋れるのか!!!)と、既に観衆の目はその竜の一挙手一投足に釘付けである。

「……! オ、オホン。そ、そうねぇ、アタシ的には…まあまあ……ってところかしら? アタシは使い魔の珍しさを競うなんて卑しい根性持ってないもの」
誰かさんへの明らかな当てこすりに、『面白いわね』とばかりに不敵に笑い返す誰かさん。

「グワッハッハ、まあまあなら大出世ですねぇ~嬉しい限りです。さてそれじゃあ…始めましょうか!!!」
竜だけに不気味な笑い声を上げ、再びマリコルヌに首を向けたアバンがあげた決闘開始の宣言に、広場のボルテージは本日幾度目かの興奮状態まで一気に高まり!

「参った! 降参だ!!」
直後マリコルヌが決闘終了の宣言に、広場はなんとも言えない微妙すぎるテンションまで急降下で落ち込んだ。


『散々引っ張ってそんなオチかよっ!!!』
何処からともなくそんな言葉聞こえた気がした。


その後、急速に冷めた雰囲気を反映して見物客も次々と広場を去り、ギーシュはモンモランシーに付き添われて保健室に直行。
最後まで残ったキュルケ(とタバサ)もルイズと一言二言言葉を交わすと、
「ルイズ~アナタあんまり調子に乗るんじゃなくてよ~~成功の後にこそ思わぬ落とし穴が潜んでいるものなのよ~まぁ成功したことないから知らないでしょうけど」
「ふん、余計なお世話よ!!!」
手をヒラヒラさせて去っていった(タバサは若干未練ありげなそぶりだった)。

「良いお友達ですね、ルイズ」
「どこがよどこが!」
既に人間形態に戻ったアバンの言葉に猛反発するルイズ。

「何処もなにも、彼女の忠告は実にためになるものですよ。あの精神は忘れてはいけません…それに相手の耳に痛いことを敢て言うというのは勇気のいることです。
 大切にすべき友人と言えるでしょう」
「あのね~アレは唯の憎まれ口なのよ!勇気も糞もないわ!! アタシを馬鹿にして喜んでるだけよ!!! キー腹立つぅ~~~!!!」
「そうですかねぇ~…私から見れば『喧嘩するほど…』ってやつ以外のなにものでもない気がしますけど……」
「アンタのその眼鏡、即刻変えるべきね! 相当曇ってるわ!!」

その後もやいのやいの騒ぐルイズと、彼女を宥めながら広場から横を歩くアバン、これだけの騒ぎを起こした癖に、広場から引き上げる二人の態度は平常そのものだった。

…ちなみにマリコルヌは逃げるようにその場から立ち去り、しばらく「臆病風」の二つ名で呼ばれることになったとかならないとか。



新着情報

取得中です。