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アクマがこんにちわ-24


ルイズと人修羅の二人が、ロンディニウムを脱出してから丸一日。
遠くまで広がる草原と、牧草地を隔てる林という、のどかな景色を眺めつつ、轍のある街道を進んでいた。

街道は見渡す限り起伏のある草原が広がっており、見晴らしが良い。
時々、荷物を積んだ馬車や、兵士の駆る軍馬が通りすぎていくが、ぼろぼろの服を着て、革袋を背負った二人には目もくれない。
ルイズに背負わせた革袋は、藁を詰めて膨らませてあるので軽いが、慣れぬ長歩きに疲れはある。
夜になれば人修羅が背負って走るが、昼間は人目があるため、人一人を背負って馬よりも早く走るなど目立つ真似もできない。
「……ふうっ……」
時々、隣を歩くルイズが呻きとも取れる吐息を漏らす。
人修羅はそれを気にしてゆっくり歩こうとするが、それに気づいたルイズが持ち前の負けん気を発して頑張って足を速める。と、今度は人修羅がルイズに速度を合わせる。
しかしすぐにルイズも疲れてしまい、元の速度に戻ってしまう。そんな風に歩いていた。


「今のところ、追手も、竜も見当たらないな。……野生の馬か竜でもいれば捕まえるんだが」
「捕まえてどうするの?」
「そりゃもちろん、乗せてもらう。馬なら移動にも楽だし、竜ならラ・ロシェールまで行けるだろうし」
「野生の竜なんかとても乗りこなせないわよ、それに、馬だって簡単には捕まえられないわよ」
「そうかな」
「そうよ。それに、ラ・ロシェールがどっちなのか解らないじゃない」
「そうだな…確かに方角も解らないよな。間違って逆方向に出たら大変だからなあ」
「私は海の真ん中で取り残されるなんて嫌よ」
「俺も嫌だなあ。この案は保留か」

疲れを感じながらも、ルイズにはお喋りをしながら歩く余裕はあった。
召喚されて間もない頃を思い出してみると、今のルイズは随分落ち着きがあるように見える。

名誉の死を享受すべく最後の晩餐を楽しんだアルビオン王党派の面々、目の前で殺されかけたウェールズ、ワルドの裏切り、それらを見つめて何か変わったのだろうか。
ニューカッスル城内では、普段の威勢はこれっぽっちも見られなかった、戦争を目の当たりにして口数も少なかった。
ワルドに裏切られて意識を失い、目を覚ましてからは何か心に一本芯が通った気がする。…気のせいでなければだが。

「ん、草の色が違う…麦か何かかな」
人修羅が何かに気づき、呟いた。
ルイズの目ではとても見えないが、人修羅には草原の向こうに耕作地が見えている。麦のような作物がびっしりと植えられ、風になびいている。更に向こうには建物も見えた。
「私には見えないけど」
「この感じだと10リーグ(10km)ぐらい先じゃないかな。寄ってみるか。道を教えて貰うか、食べ物でも分けてもらえればいいんだが」
「10リーグ…わ、わかったわよ、行きましょう」
「おっと、その前に一休みしよう。ちょうどいい所だからな」
そう言って指差した先には、幾本の木々が調度良い日陰を作っていた。
牛飼いか羊飼いかが一休みするのに使うのか、旅人が野宿したのか、よく見れば焚き火の跡も見られる。
ルイズはひとまず腰を下ろし、人修羅に寄りかかった。
「少しの休憩でも靴は脱ぐほうがいい、足の裏も揉めば、疲れが残りにくい」
「うん」

ボロボロになった靴の代わりに、人修羅がどこからか探してきた粗末な革靴は、ルイズの足には少し大きい。
紐を緩めて靴を脱ぐと、ホコリのせいでの裏が黒くなっていた。
ルイズは、自分の足が真っ黒になるなど子供の頃以来だと思いつつも、足の裏を揉んだ。
「うー…。やっぱり痛い」
「見せてみろ」
「えっ」
返事を待たずルイズの足を掴み、足の裏をマッサージする。
「こう、足の真ん中あたりから押していくんだ。ついでに膝近くのツボも押しておくと、多少違う。確か、これは三里って言ったか」
流れるようにルイズの足から膝へと手を移し、三里のツボを押していく。
「いたた…ねえ、ホントにこれで疲れが取れるの?」
「本当は出発前か睡眠前だといいんだが、何もしないよりは、調子いいはずだ。…なんかこう、重くなった足が軽くなる感じはないか」

左右の足で違いを感じるのか、ルイズは首を傾げながら足を振った。
「よくわからないけど、揉んだ方は軽くなった気がするわ」
「じゃあ続けるぞ」
「うん」

(あ…この感じ、癖になるかも)
毎日やってもらおうかな…。と密かに考えるルイズだった。

休憩を終えると、二人はまた街道を歩き出した。
太陽の傾きから見て、午後三時頃といったところか。水分はなんとかなるが、食べ物は心もとない。
集落があれば食べ物を分けてもらえないだろうか、それとも動物を捕まえて食べようかと考えながら歩いていると、人修羅の目が何かを捉えた。
「…ルイズ、馬車が来る。少しうつむいて、前髪もフードで隠してくれ」
「うん」
人修羅の警告からしばらくして、一台の幌馬車とすれ違った。
馬二頭で引く大きなもので、詰めれば十人は乗れそうなものだ。ゴトゴト、ゴトゴトという音からして、それなりの人数か荷物を積んでいるらしい。
二人には目もくれずすれ違った馬車だが、人修羅がふと歩みを止め、今さっきすれ違った馬車を見据えた。

「ルイズ…。血の匂いがする」
「えっ」
「今の馬車だ。気のせいじゃなければ、女の子の声が聞こえたような…」
「それって、どんな声」
「嫌がるような声だ。考え過ぎかもしれないが」
「…じゃ、じゃあ」

ルイズは、もし誰かが助けを求めているなら、人修羅の力を使うべきだと考えた。
しかし目立つ事をすればレコン・キスタの耳に入るかもしれない。
それに人修羅は”考え過ぎかもしれない”と言っているのだから、このまま知らぬふりをするのが一番賢い選択だろう。
しかし…しかし見捨てられない、逃げられないというのが今のルイズだった。
王党派の貴族たちが名誉の死を選ぶ気持ちは到底理解できないが、もし自分に力があるのなら、やるべき事を後悔のないようにやるべきだと学んだような気がする。
だからルイズは、焦る気持ちとは裏腹に、何をすべきかを冷静に考えることができた。

「…人修羅、私はここで待つわ。だから確かめてきて。人修羅の足ならすぐでしょう…よね?」
「わかった。すぐ戻る。 …その前に身を守る魔法をかける、何かあったら逃げろ。”ラクカジャ”」
人修羅の魔法により、ルイズの体に不可視の力が漲る。ラクカジャは防御力を上昇させる魔法だ。

「デルフ、詳しい様子を頼む」
『あいよ』

ボロ布に包んでいたデルフリンガーを、鞘ごと抱き抱えるように胸の前で構えると、人修羅は風を切って走りだした。

人修羅は馬車を追いかけつつ、ひとつの嘘を心中で詫びた。血の匂いがしたというのは本当、嫌がるような声というのは嘘だ。
第六感もしくは心眼とも言うべき感覚が、弓矢で足を射抜かれ、頭を斧で割られながらも馬車にしがみつく男の姿を見させた。ボルテクス界で見かけた思念体にも似ているそれは、強烈な思念を発していた。

む す め を は な せ

人修羅の足が大地を蹴りった。

どっ、と砂煙の上がるような音がした。御者が音の鳴った左側を見る…と、馬車に並走している男がいた。
先ほどすれ違った二人のうち一人だと気づく前に、顔に施された刺青に驚く。
「なんだ、あんた」

「デルフ」
『女が一人だ。手足縛られて、転がされてる』
「そうか」

「おい、なんだよてめえ! ぶっ」
御者が声を荒げると同時に、人修羅が御者台に飛び乗り顎に一撃。すかさず手綱を握り馬を止める。
「どうどう、止まってくれ止まってくれ、よーし、いい子だ」
馬車を止めつつ、荷馬車部分の仕切りをめくろうと手を伸ばす…と、布を切り裂いて槍が飛び出した。
「おっと」難なく槍を掴む。
ぐぐぐ、と力を込めているのが分かるが、人修羅の敵ではない。
無造作に力を込めて捻り上げ槍を折り、下がっていた幌を持ち上げると、中では三人の男が武器を持っていた。
「女の人は…そのでかい箱か」

「て、てめえっげぶ」
一人がナイフを構える、が、一瞬早く人修羅の指が喉に突き刺さる。
すかさず左手でデルフリンガーを振るい、残った二人を叩きのめした。

男四人を縛り上げ、馬車に乗せてルイズのもとに戻るまで、たいして時間はかからなかった。


■■■


「う…」
「…目が覚めた?」
「あ、ひっ」

目を覚ました女性が最初に発したのは、小さな悲鳴だった。

「落ち着いて、もう怖い人はいないわ」
ルイズができるだけ優しく接しようとするが、女性は自分を抱きしめて身を震わせるばかり。
女性は、手ひどく乱暴されたのではないか、そんな考えがルイズの頭をよぎった。
知識としては”そういう事もある”と知っているが、本当だとすれば、実際に見るばかりか接するのは初めてのことだ。
「あいつらは退治されたから、もう大丈夫だから」
どう接すべきか悩んだが、結局は優しく声を変える以外に選択肢はない。
そっと背中を撫でていると、女性は次第に自分の周りを見るようになった。狭い箱の中ではなく、大きな樹の下に寝かされていたのだと気づく。

「あ、え、あ、あう、ここは、あ、あなたは…」
「私はルイズ。従者が偶然あなたを見つけて、助けたの」
「あ…」
安堵のためか、体の力が抜ける感じがした。

気が落ち着いたところで、ルイズはこれまでの経緯を話した。

自分たちはロンディニウムからトリステインに帰る途中だということ、従者が盗賊の馬車を見つけ、それを退治したということ、盗賊は手足を縛って手も足も出ない…等々。

話を聞いた女性は、今度は自分のこと話しだした。
彼女の名はイルマ。街道から山へ向かうと小さな水源地があり、そこの管理を任されている一家だという。
普段は街で暮らしているが、戦火から逃れて水源地近くの別荘に移り住んだところ、盗賊の襲撃にあったらしい。
「あの…私、父がいるんです、その馬車は、うちの唯一の財産で、父も私を心配していると思います。ロンディニウムから南へ出たのなら、街道からも近いはずです。なんのお礼もできずに申し訳ありませんが、どうか、家に帰してもらえませんでしょうか」
「うーん。ちょっと待ってね」
立ち上がり、馬を撫でていた人修羅に近づいて、話をする。
「あの人、イルマって名前だそうよ。帰りたいって言ってるけど、どうしたらいいと思う?」
「あの人、女一人で馬車を引いて帰るつもりだろう」
「そうなるわよね」
「また襲われるかもしれないな」
「うん…私もそう思ったわ」
「ルイズ。気持ちはわかる。一度関わったら、容易には見捨てられない気持ちは、よく分かる。でも、いいのか?俺達が彼女について行ったらトリステインへの報告は、間違いなく一日遅れる」
「…そうだけど、でも…お願い人修羅、一日だけ、時間をちょうだい」
「分かった。ルイズの意に従おう」

イルマの元に戻ると、ルイズは膝をついて優しく語りかけた。
「あなた一人じゃ心配だから、私達もついていくわ。すぐ出発しましょう」
「ありがとうございます。あの…大変申し訳ありませんが、貴族様…ですよね」
「ええ。トリステインの貴族よ」
「知らなかったとは家申し訳ありません!あの、助けていただいた上、私はとても失礼なことを」
「気にしてはいけないわ。たまたま、あなたを助けられた、それだけだから」

地面に手をついて謝ろうとするイルマ、そしその手を取ろうとするルイズ。
人修羅はその光景を見て、ルイズの姉、カトレアの姿が重なる気がした。
(カトレアさん、何度もルイズを慰めたとか言ってたなあ。今のルイズ、カトレアさんそっくりだよ。 きっと優しくされた分、優しさを育んだろうなあ)

ちらりと街道から草原を見る。周囲には誰の姿もない。
「念のためだ、なにか目印でも作っておくか」


■■■■


その頃…ニューカッスル城では、王党派の生き残りが居ないかが入念に調べられていた。
名城と謳われた城も、度重なる砲撃で城壁は瓦礫同然となり、焼けただれた死体が無数に転がっている。
もはやこの城には王党派の一人も生き残りはない。反乱軍と呼ばれたレコン・キスタが新たな城主であり、アルビオン新政府となっていた。

その新政府の尖兵となった傭兵たちは、ニューカッスル城内を我先にと荒らし、金目の物を瓦礫の下から漁ろうとしている。
先陣を切ったレコン・キスタの兵達も瓦礫に埋まっているが、そんなものを気にするような連中ではない。
盗賊まがいの傭兵たちにとって、死んだ奴は、運と知恵が足りなかっただけだ。

それにしても死体の数は多い。
ワルドの手引きで王党派に混乱が生じたものの、王党派は驚くほどの結束を見せた。
三百人に満たない王党派が、二千人の貴族派を道連れにして倒れていった。重軽傷者は更に二千人ほどいるだろう。

しかし、その被害も、貴族派にしてみれば朗報である。
ニューカッスル城は岬の突端にある、地上からは、正面突破をかける以外に攻めこむ方法はない。
貴族派の戦艦や竜騎兵が活躍すれば、損害を減らすことも出来たろうが…あえてその手は取らなかった。

ニューカッスル城に残った古参のメイジが、一矢報いんと何をしてくるかが怖かったのだ。
だから徹底的に傭兵を消耗させることにした。空からも攻撃していたが、あくまでも安全な距離をとって砲撃を繰り返すばかりであった。


そのような戦法を取る貴族派に、最後まで戦った王党派の勇士たちは何を思っただろうか……。




ワルドは、貴族派が前線基地として使っていたロンディニウム郊外の陣地にいた。
遠目に見えるニューカッスル城の瓦礫を眺め、ふとセンチな気持ちになっていると気づいた。
なるほど何かを徹底的に破壊すると、良くも悪くも影響を受けるものだな、と。

「失礼致します。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵どの、総司令官閣下が貴殿を呼ぶようにと」
「わかった。案内していただこう」
「はっ、こちらです」


若い従卒に案内され、郊外には似つかわしくない石造りの砦に入ると、中には大きなテーブルが鎮座しており、その向こうには粗末な椅子に座った聖職者のような男がいた。

「おお、子爵! ワルド君! 君は素晴らしい働きをしてくれた!」
男は椅子から立ち上がると、ワルドを歓迎するかのように両手をささやかに広げた。
年の頃は三十半ば、マルイ帽子をかぶりローブとマントを付けているその男こそが、レコン・キスタの総司令官お、オリヴァー・クロムウェルである。
「件の手紙はまさしく、アンリエッタの花押だ。軍議でまさしく本物だと声が上がった時、君という味方がいて良かったと思った。見事な働きだ」
「もったいないお言葉でございます」
ワルドは跪くと、首を振って、クロムウェルに応えた。

「始祖ブリミルへの誓いを立てながらも、アンリエッタがゲルマニアの皇帝に嫁ぐというのは、まったく…いや嘆かわしい」
芝居がかった言葉に、ワルドが再度頷く。
「ところで子爵、ウェールズも討ち取ったと聞いたが」
「はっ」
「ふむ…しかし。ニューカッスル城を検分した者によると、瓦礫の下にも遺骸は見つからぬそうだ。火の魔法か油で焼かれた遺体もあったが、これはどう考えるかな」
「…ウェールズが生きているとでも」
「いや、君を疑っているわけではない。しかし考えてもみたまえ。死体だとしても、その場に無ければ『まだ生きている』と思うものも多いだろう。後々まで王党派の影響を残すために死体を隠したとすれば、厄介なことだ」
「…私の考えが浅かった為に起こったことです。閣下、私に罰をお与えください」


「トリステインとゲルマニアの同盟を阻止するのは重要なことだが、今の我々に最も必要なものが他にもある…それが何か解るかね」
「閣下のお考えの深さは、私にははかりかねます」
頭を垂れてワルドが答えると、クロムウェルは目を見開き、両手を振り上げて、大げさな身振りの演説を始めた。
「『結束』だ、鉄の『結束』こそ必要なのだ!ハルケギニアは我々選ばれた貴族たちによって結束し、あの忌まわしきエルフどもから『聖地』を取り戻さねばならない!
そのためには我々は仲間を信用しなければならぬ。だからこそ子爵、君を罰するようなことはしない。」
ワルドは深々と頭を下げる、と、クロムウェルが肩に手を置いた。
「頭を上げたまえ子爵、そろそろ我々もニューカッスル城へと入ろう。そこで君にも、余が始祖ブリミルから賜った力の一端を見せたい」

笑みを浮かべるクロムウェルは、どこか、その力に酔っている気がした。


■■■■



「な、なあ、あれ火竜じゃないか?」
「ただの鳥よ。ギーシュ、ビクビクして間違ったことを言うのはやめてくれるかしら?ねえ未来の元帥さん」
「そうはいってもだね。こう暗くなっては、遠くにいるものまでハッキリとは…」
「タバサ、どう?」
「…見つからない」

夕方、タバサ達はシルフィードに乗って、アルビオンの沿岸を飛んでいた。
トリステイン側、すなわち首都ロンディニウムから南下するルートである。

タバサは、いつも読んでいる本も読まず、ひたすら大地を見下ろして人修羅たちの姿を探している。
読書以外で、こんなにも熱心なタバサの姿など、キュルケでも見たことはない。

「これだけ心配させてるんだから、ちゃんと生きてなさいよ。人修羅、ヴァリエール」




時間は少し戻り、ニューカッスル城からほど近い鍾乳洞。
その奥には、秘密港として使われていた桟橋があるばかりで、他にめぼしいものは一つとしてない。
たまに兵士が見に来るか、金目の物はないかと傭兵がやってくる。だが何もないと分かればすぐに引き返してしまう。
「ちぇ、なんもねえや」
「引き返すぞ、城の方がまだ物が残ってそうだ」
今も、何人かの傭兵が桟橋の周囲を漁っていたが、何もないと分かり愚痴をこぼしている。
「お、ちょっと待ってくれ。おっ…お、お~」
「小便かよ」
「ほーら恵みの雨だ」
「ちげえねえ!はははは」

下品な笑い声を上げながら傭兵たちが去った後、桟橋の下から「ばっちい」と声がした。
声は、桟橋から30メイルほど下の横穴からだ。
横穴は穴というよりシェルターのような形をしており、中は大人でも十人は入ることができるだろう。
そこには、ラ・ロシェールで別れたキュルケ、タバサ、ギーシュ、そして使い魔のヴェルダンデがいた。

「まったく、あれがアルビオンの人間か!雨を何だと思っているんだ!」
「ギーシュ、静かにしないと放り出すわよ」
「そ、それだけはやめてくれ」
激昂したギーシュは、さすがに放り出されるのは嫌なのか、キュルケに従った。


「で、これからどうしましょうか。この上はアルビオンのお城みたいだけど」
キュルケがつぶやく、ギーシュは一刻もはやく帰ると言いたかったが、ここまで来る間にシルフィードの背でさんざん主張した。
なんとかするには…と考えれば、ギーシュは土系統らしい答えを出す。
「やはり、ヴェルダンデに穴を掘ってもらうしか無いんじゃないか。ミス・ヴァリエールの場所まで」
「でも、ヴァリエールの持ってた宝石の匂いは…ここで途切れてるんでしょう」
「正確に言えば、ここが一番強く、匂いが散らばってる。散らばってるということは…壊されたんじゃないかと」

「……じゃあどうやって探すのよ。あんたの使い魔は、つい宝石を目指しちゃうんでしょうが」
「えっと、それは……」
三人の間に、思い沈黙が流れた。

「二人は死んでない」
沈黙を破るように、タバサが言った。
「人修羅は私達が来ることを知らない。でも、期待はしているはず。だとすればここから脱出して一番近い沿岸の、トリステインよりの岸を移動するはず」
「しかしだね、ミス、アルビオンには火竜が豊富な上、戦艦も多い、のこのこと出て行ったら僕達も捕まってしまう」
「一番大きい戦いが終わって間もない。今が唯一の機会だと思う…シルフィードで、一日だけ南側の岸にそって飛ぶ。それでダメなら…」
思いつめたような顔をして、珍しく自分の意見を言ったタバサに、ギーシュが驚く。
キュルケはタバサの態度に、どこか思いつめたようなものを感じた。
「タバサ…無茶を言うわね。でも、一番確実よね」
「正気かい?」
「もちろん正気よ。嫌ならここから一人で飛んで帰りなさいよ」
「そんな無茶な!」
「じゃあ賛成ね。出発は何時ごろ?」
「今すぐ」
「ギーシュ、その子を載せる準備しなさい」
「わかったよ。ああ、始祖ブリミルよ、どうかご加護を…」



時間は戻り、アルビオン上空。

空が暗くなり、月明かりが大地を照らすようになった頃、シルフィードが何かに気づいた。
「きゅい!」
「行って」
タバサが命令すると、シルフィードは草原に描かれた何かに向かってゆっくりと下降していく。
「何を見つけたの?」
キュルケの問に、タバサは無言で大地を指差した。
よく見れば草原に奇妙な模様が描かれている。平行な二本の線と、そこから枝分かれするように伸びる左右二本づつの線。

「あっこれ、人修羅の顔の模様ね!」
「多分そう」
それに気づいたキュルケが声を上げ、タバサが肯定した。
「ギーシュ。ヴェルダンデに匂いを嗅がせてみて」
「わかったよ。よしよし、頼んだよヴェルダンデ」
地面に降りたシルフィードの背からギーシュが降りると、シルフィードに掴まれていたヴェルダンデも地面に降りて、くんくんと匂いを嗅ぎ始めた。
「間違いないって言ってる、宝石の匂いがわずかに感じるそうだ」
「なら何処に向かったか分かる?」
「ヴェルダンデ、匂いを追ってくれないか。ちゃんと見つけたらミミズのご褒美をやるから」

ヴェルダンデがきゅう!と鳴いた。任せろ、と言っているようだ。
一行は、ヴェルダンデの鼻を頼りに、ルイズたちの匂いを追った。



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ガリア、プチ・トロワ。
イザベラの身辺を守る近衛兵のうち一人であり、花壇騎士団の一人でもあるハロルドは、イザベラの変化に驚いていた。

「ヒーホー」
ヒーホー、というのが口癖なのだろうか。
イザベラの使い魔、ヒーホーは思いがけぬところで見かける。
プチ・トロワはイザベラに与えられた離宮だが、監獄のようなものであった、イザベラは身の安全のため、なかなかそこを出ようとしないし、出る必要もない。

王族が魔法の練習に用いる小さな運動場にすら、イザベラは出てこない。
父であるジョゼフ王は魔法の才能がない、それは周知の事実であるが、イザベラもまたその血を引いていた。
ドットの中でも、訓練を怠った者らしい貧弱な精神力は、貧弱な魔法しか行使できない。イザベラはその典型だった。

実力もないのにプライドだけは高いイザベラにとって、宮殿は自分だけの王国であり、自分だけの監獄なのだろう。

しかし、そんな小さな王宮のそこかしこで、ヒーホーの姿を見かけるようになってからは、ヒーホーを探しに来たイザベラの姿も見られるようになった。
お気に入りのペットは自分で探さなければ気がすまないのだろう、というのがイザベラを見た者の共通認識だった。


だからこそ、運動場でイザベラを見かけたハロルドが、驚くのは無理もなかった。
「下から上にすくい上げて、捻りつつ引き戻して、つき出す瞬間に体を落として…」
「じょうずだホ~」
身の丈より長い杖を持ったイザベラが、運動場で体を動かしている、傍らにはヒーホーがいてイザベラを応援していた。
「右手は添えて、杖を軸に、右、左、右…」

ゆっくりと踊るような動きに見えるため、何をやっているのか理解できないが、それが反復練習なのは間違いはない。

「こんにちわホ~」
「ん?」
ハロルドに気づいたヒーホーが挨拶をして手を振ると、イザベラも気がついたのかハロルドを見る。

「これはこれは、汗をかく程熱心に何かをしておいでで、思わず見惚れてしまいました」
半分は世辞だが、半分は本当だ。ひたいに汗を浮かべて鍛錬するという行為は、どんな分野であろうと馬鹿には出来ぬものだからだ。
「世辞はいい。なんだ、何時から見てたんだい」
「今そこを通りかかった所です。身の丈より長い杖が見えたので、驚きました」
「ああ、この杖か…何かと便利だ」
「そろそろお休みするホ?かき氷作るホ?」
「この間ちょっと食べ過ぎたから…今日はいい」

そう言うとイザベラは、ハロルドに向き直った。
「なにか言いたいことがありそうだね?」
「…その、殿下はお変わりになられました。使い魔を召喚してからというもの、明るくなりましたな」
「そう見えるか」
「はい」
「ふぅん、まあいい。そう見えるならそうなんだろ。仕事に戻るといい」
「はっ…」
「ヒーホー、部屋に戻るよ」
「はいだホ~」
イザベラは飛びついてきたヒーホーを抱えると、杖に座った。
そのまま地上1メイルを滑るように移動していく、レビテーションさえ使えれば出来る技だが、その動きに淀みがない。『フライ』程ではないが、速い。『レビテーション』ほど遅くないが、カドをほぼ直角に曲がるような動きは再現しにくい。

「いつの間にあれほど上達したのだ」
花壇騎士団員ハロルドは、自分の主…イザベラとは別の、ほんとうの主の姿を思い出し、きたるべき時が近づいたと感じた。




「イザベラちゃんは、キョーダイとか居ないホ?」
「ん?」
「ヒーホーにはたくさんキョーダイ居るホ」
「兄弟か…なんでそんなこと、聞くのさ」
「メイドさんが『キゾクは兄弟が多いとタイヘンだから一人のほうがいい』って言ってたホ。キョーダイたっくさんいたほうが楽しいと思うホー」
「ああ、それは…」

イザベラはどう説明しようか、少し悩んだ。
兄弟が多いと大変だ…その言葉で思いつくのは、兄弟が殺しあい、知らない兄弟が命を狙いに来るという貴族の姿である。
身にしみて知っているが、それを説明する気にはなれない。
「ニンゲンのキョーダイって、仲が悪いホ?」
「ああ、そうだね。喧嘩ばっかりさ」
「そんなの嫌だホー…。イザベラちゃんにも仲の良いキョーダイがいたら、きっと楽しいホ」
「……仲が良くても、取り巻きがいたら何にもならない」
「ホ?」
「いや、なんでもないよ。さあ部屋についた、氷の椅子を作ってやるからちょっと待ってな」

窓から部屋に戻ると、イザベラは水球を作り出し、氷の椅子を作った。
「ほら、グラン・トロワの玉座そっくりだ。お前は使い魔の王様だよヒーホー」
「オウサマ?オウサマホ~」
ヒーホー用に作られた椅子は小さいが、造形にこだわりがある。
イザベラの魔法の腕は、いつの間にかかなりの上達を見せていた、氷細工を作れるほどに集中力が増している。

「ね、ね、イザベラちゃん」
「んー?」
「いつかボクタチのオウサマにも会って欲しいんだホ」
「ヒーホーたちの王様? どんなでっかい雪だるまだい?」
「ニンゲンのカタチしてるんだホ。でも、ボクタチすべてのオウサマだホ~」


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