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聖戦士イーヴァルディ伝説-01


第一話

「いまどき、お守りなんてさ」
 自室の机の前、平賀才人は手に取った幸福のお守りとやらを眺めていた。何の変哲もない、漢字が縫い込んである普通のお守りである。
それは母が主婦仲間と遊びに行った温泉でのお土産である。才人もテレビで見た事のある名の知れた温泉であった。最近のブームとも言えるのか、
曰くその温泉のお守りは中々に効力があると朝のニュースでもよく耳にする。しかし、才人は男であり、16歳にもなったのである。世間の、主に女性の
ブームには対して興味はなかったし、お守りを信じる程、子どもでもなかった。
 そうは言っても、そのお守りを捨てずに持ち続けて、新しい携帯のキーホルダーにしているのだから、才人もそれなりに親孝行者であると言える。
これでもう少し勉学に力を入れてくれればとは家族全員の意見であり、才人とてそんな事は言われなくてもわかってはいるが、できないものは仕方ないと
半ば諦めかけている。取りあえず、浪人しなければ何とかなるだろう程度の考えである。
 今でも教科書とノートを出してはいるが、一向にやる気は起きなかった。しかし、今回のテストでそこそこ良い点を取れば、念願のノートパソコンが手に入るかも知れないという
期待は才人に火をつけかけたが、所詮はその場限りのやる気であり、今の現状である。
 そもそも、珠の日曜日に勉強に打ち込むという方がおかしいのだと、いまどきの学生らしいどうしようもない言い訳を才人は考えていた。確かに、学生らしい考えではあるが、
そんな事を親の前で言えば、げんこつの一つでも飛んでくるだろう。それか、鼻で笑われるだけである。それもそれで気分の良いものではないので、無理にでもペンを握って
教科書とにらめっこを始めるのだが、たいていは問題を五問ほど説いたところで力尽きる。
「頭痛い……それに少し腹も減ったなぁ」
 机に寝そべって、うだうだとしていた。小腹が空いたから何か食べようかと思ったが、あいにく菓子類は切らしていたはずである。才人は財布と取り出すと、中身を確認する。
彼にしては珍しく千円が入っていた。これなら、十分腹を満たすものが買えるはずである。そう思った才人の行動は早かった。財布と充電器につないであった携帯をポケットに入れると、
さっさと玄関まで降りる。靴を履いていると、才人がおりてきた事に気がついた母親がリビングから顔だけだして、
「出かけるの?」
「うん、ちょっと買い物……コンビニまで行ってくるよ」
「あら、そう。気をつけないよ。あと、帰ったらちゃんと勉強するのよ?」
「わかってるよ、じゃ、行ってきます」
 適当に返事を済ませると、才人は飛び出すように家を後にした。母親はやれやれと言った顔でそれを見送った。
 才人の自宅からコンビニまでは近くはないが、言うほど遠くはない。軽い運動をすると思えば気楽な道のりである。ただ、交通量が多いので、そこかしこに飛び出し注意の看板などが設置されていた。
数十分も歩けば、歩道橋が見えて、それを渡って道路の反対側へと移動し、さらに数分歩けば、駅前のロータリーに出る。その周辺に、目的地であるコンビニを見つけると、才人はさっさとその中に入って、
店内を適当に見て回る。何か食べ物を買っていけばよいだけなのだが、ついつい買わない雑誌などを手にとって、立ち読みをしてしまうのは癖なのだろうか。
「お、この特集まだやってたんだ」
 雑誌の中で才人の目を引いたのは数十年前に起きた戦争の内容であった。自分が生まれるよりも前、それこそ両親が子どもだったころの話らしいが、全世界を巻き込んだ戦争があったと言う。今でも時々
テレビ番組で見る事もあるし、学校の教科書にも載っている。戦争とひとくくりに言っても、その内容は下手なアニメよりもアニメらしいと才人は感じていた。否、その戦争を目の当たりにしていない世代の人間たちにしてみれば、
夢のある話に見えるのだろう。
「オーラバトラーかぁ……かっこいいよなぁ」
 突如として、現れた謎のロボットと軍隊。それらは二つの陣営に分かれ、片方は征服、もう片方はそれを阻止すべく戦い、そして両者の消滅という形で戦争は幕を閉じたと言う。異世界の痕跡は、戦争の傷跡以外残らなかった。
異世界の人間も、ロボットも、その技術も、全ては消え去ったという。しかし、その戦争後にもたらされた物語は、今も伝えられている。異世界のロボット、軍隊、世界を巻き込んだ戦い。少年にしてみれば心躍るものがある。
やはりというか、才人も例外ではなく、オーラバトラーの魅力に取りつかれた少年であった。
「妖精チャム・ファウの行方、異世界バイストン・ウェル……ロマンだよなぁ」
 雑誌の内容にのめり込んでいた才人は、ふと、裏表紙を見て値段を確認する。値札には千二百円と手持ち金を僅かにオーバーした値段が書かれていた。才人は「まぁいいか」と呟いて、雑誌を棚に戻すと、おにぎり三つと
から揚げのセットを買って、コンビニを後にする。
「あぁ、飲み物も買っておけばよかったな?」
 歩道橋の上を半分進んだところで、才人はしまったという顔でぼやいた。そういえばジュースの類も切らしていて、今家の冷蔵庫にあるのは、お茶くらいで、それも今日の夕飯で、家族が各々二杯飲めるかどうかの量である。
多いとは言えなかった。
「と、言っても、今から戻るのは、それはそれで面倒だな……仕方ない、我慢我慢……」
 はぁっとため息をついた時だった。何かの轟音と共に才人の身体が揺れる。とっさに歩道橋の手すりにつかまったが、再度、ドンドンという轟音と震動が響くと、才人は熱を感じた。歩道橋の中で尻もちをつく形になった才人は何事かと思い、
手すりの間から周りを確認した。もうもうと黒煙をあげたトラックが、恐らくはこの歩道橋を支える柱にぶつかったのだろう。トラックは黒煙と共に炎を噴き出していた。
 才人はとにかく立ち上がって、歩道橋を降りた方が良いと判断し、駆けだすように自宅側の階段を目指した。階段を下る、まさにその時だった。才人は轟音と震動に襲われる。トラックの小爆発であった。しかし、階段を降りようとする才人に
態勢を崩すには十分な刺激であった。

 マズイ!

 そう思った。才人は前に倒れ込むように、階段とその下の道路の味気ない色が視界に広がった。
「あ……!」
 僅かな声だった。その声を発すると同時に、才人は奇妙な浮遊感を感じた。



 才人がまず感じたのは心地よい感覚だった。幼い頃に母に抱かれたような、優しい感覚。温かな人のぬくもりを感じていられるような、不思議で安心できる感覚だった。
胎児のように身体を丸めた才人だが、しかし、それは一瞬にして変化した。渦に吸い込まれるような感覚と自由落下するふわりともぞくりともしない奇妙な感覚を感じた才人は激しい恐怖を感じた。

『母さん!』

 才人は叫んだ。無意識のうちに才人はお守りのついた携帯をしまったポケットに手をあてがっていた。ややあって、才人は背中に衝撃を感じた。
「がっ……!」
 痛みはさほどひどくはなかった。例えるなら、一段ベッドから落ちた程度だろうか、あの嫌な感覚にしてみれば、どうってことない痛みだった。才人はぶつけた背中をさすって、
起き上がる。手に持っていたおにぎりとから揚げは少しつぶれていた。
「……?」
 不意に、才人は目を凝らして、周りを見た。周囲に広がる光景に思考がついてこれない状態であった。
「森……? なんだって、こんなところに」
 夢でも見ているか、しかし、それにしては背中の痛みは治まってくれない。才人は近くにあった樹木に手を添えると、感触を確かめるように押したり、叩いたりしてみた。
「確かに木だな。近所にこんな森はなかったし、近くの山はこんな樹海のような場所は……」
 そこまで言いかけて、才人は不安に駆られた。ありえない状態なのだ。自分は事故に巻き込まれて、階段から落ちたはずである。それが、気がついてみれば、場所もわからない森の中、才人はハッと我に返って携帯を取り出す。
「はぁ? なんだよ、充電出来てないじゃんか!」
 それ以上の事態に陥っているのに、携帯の充電ができていない事に対してここまで慌てる事が出来るのは、ある意味才人も大物なのかもしれない。はぁとため息をついて、落胆するが、才人は携帯の画面に映る、
電波の本数が二本ほどたっている事に気がついた。
『電波は通っているのか?』
「聖戦士か?」
 そんな混乱の中で、さらに才人を混乱させるような声が聞こえる。幼い少女のような声でもあったが、声の中には毅然とした態度があった。才人はその声の方へ振り返ってみると、衝撃を受けた。
「よ、妖精……チャム・ファウ?」
 容姿は異なるが、それは雑誌で見た、異世界の小さな妖精にそっくりであった。目の前の妖精は薄い翅と翡翠色の髪、ドレスともワンピースとも言えない、不思議だが、優雅な服を着ていた。
「チャム・ファウ……懐かしい名です。ミ・フェラリオをご存じと言う事は、貴方は地上の人間と言う事ですね?」
「フェラリオ? な、何の事?」
 何かで聞いた様な単語だった。
「地上の人々は我々フェラリオを妖精と呼びます。貴方は私をみて、妖精と言い、そしてチャム・ファウの名前を出しました。と言う事は、地上人であるのは間違いないでしょう?」
「地上人って……俺は日本人だ……名前は才人、平賀才人……」
「バイストン・ウェルのものからすれば、日本人もアメリカ人もみな地上人です」
「え……てことは、ここはバイストン・ウェル? 何十年も前に突然現れた、異世界の軍隊の世界?」
 まさかと思う。少なからず憧れていた異世界に自分は迷い込んだのだろうか。そんな淡い期待もあったが、それよりも才人は家に帰れるのだろうかという心配があった。なぜだか、そう感じた。
「いえ、ここはバイストン・ウェルではありません」
「なら……!」
 ここは日本なのか、そう口に出そうとした矢先に、
「むろん、日本でも……地上の世界でもありません」
「……!」
「ここは、全くの異世界……私は使命の為、この世界にやってきました。その使命を果たす為に聖戦士を呼び寄せたのです」
 フェラリオは真っすぐな瞳で才人を見た。小さな、それこそ人形くらいの背丈しかないフェラリオではあるが、その容姿は可憐でまさに妖精のようだった。才人は若干頬を赤らめて、フェラリオから視線を外した。
「その、君が、理由があって、ここにいるのはわかるけど……俺はどうして、ここに? できれば、すぐに帰りたいんだが……」
「貴方が私の目の前に現れたと言う事は、貴方が聖戦士として、召喚された事を意味します」
 それはいきなりすぎる話である。
「聖戦士って、召喚って……なんだよ、そりゃ? お、俺は言っちゃなんだが、普通の学生で……勉強はできない、スポーツだって人並みくらいしか……」
「それでも、召喚されたと言う事は、貴方には聖戦士の資格があり、オーラ力があるという証拠なのです」
「オーラ力……だって?」
 また聞きなれない言葉だ。才人はバイストン・ウェルやオーラバトラーの名前は知っていても、それ以上の詳しい内容は知らなかった。
「人の中にある力……生体エネルギーともいうそうです」
「俺は魔法みたいなものは使えないぞ?」
「それほど便利ではありません。ですが、力である事に変わりはありません」
「よくわからない……それに、俺にだって、自分の生活がある! そんな、勝手に召喚なんてされて!」
半ば叫び声のようにかすれた声で才人は言った。フェラリオは視線を下げて答えた。
「それについては申し訳ないと思っています。ですが、私も使命を果たさなければならないのです。それが、私の最後の罪滅ぼしとなるのですから」
 フェラリオはきっぱりと答えた。視線をあげて、才人の目を見ながら、その表情は真剣なものだった。才人はなぜだか、小さなフェラリオに気圧される感覚を覚えた。
「か、勝手だよ……それに使命ってなんだよ……」
「この世界からオーラマシンを排除するのです」
「オーラマシン? オーラバトラーの事か?」
「それも含めた全てのマシンです。本来なら、消滅するか、バイストン・ウェルへ帰還するはずだったマシンが、この世界に送り込まれてしまいました。マシンはこの世界にとって、
異物であり、存在してはならないものなのです。手遅れになれば、この世界もバイストン・ウェルや地上界と同じように戦乱に巻き込まれるでしょう」
「そ、そんな大げさな……確かに、戦争はあったけどさ……すぐに終わったし……」
「地上では核兵器というものが使用されたそうですね。それにパリが炎上し、多くの犠牲者が出ました。オーラマシンはそれらを引き起こす兵器なのです!」
 才人は戦争を知らない世代である。いくら事細かく教えられても実感がわかなければ、それまでであった。実際、フェラリオの熱弁に反して、才人はそういうものなのかという感じでしかなかったし、
平凡な学生にしてみれば、それも当り前の反応なのかも知れない。
『そんな事言われたって、俺は普通の学生だ……過度な期待をされても困るってもんだ。それに、俺は家に帰れるのか? この、フェラリオも俺を返す気はないのかも知れないし……』
 そう考えると、ぞっとする。このまま一生をここで過ごす事になるのだろうか。それは勘弁してもらいたい。少年ともなれば、冒険活劇に憧れはするが、それは所詮憧れである。今実際に体験してみると、
不安しか感じられない。そんな不安が顔に出ていたのだろう、フェラリオは心配そうな表情で、こちらの顔をうかがっていた。才人はまた頬を赤らめて、それでも何とか気取られないようにした。
『拉致同然の召喚したくせにさ……そんな顔されると、怒る気も起きないよ』
 はぁっとため息をついて、才人は気だるげな視線をフェラリオに向ける。そういえば、まだ名前を聞いていなかった。
「君さ……名前は?」
 そんな才人の言葉にフェラリオも思い出したように語りだす。
「申し遅れました、私はシーラ。ミ・フェラリオのシーラです」
「シーラか……」
 ふと、どこかで聞いた事のある名前だと思った。知り合いに外国の女の子などいないから、アニメか漫画のキャラクターだろうと、思ってそれ以上は考えなかった。
「まぁ、なんだ……聖戦士とか、使命とかはよくわかんないけど、俺はこんな樹海みたいなところで野宿する気はないし、取りあえず街にでも出よう?」
 街に出たからと言って何が出来るわけでもないが、見知らぬ森の中にいるよりは人の影があった方が安心できる。運が良ければ、何かあるだろう。才人はそんな能天気な事を考えれるくらいの余裕が出てきていた。
不安は残っていたが、それを打ち消す為にも、才人は身体を動かすしかなかった。
 実際は、異世界にやって来たなんて事を信じられないだけであったが、才人はそれに気がつく事はなかった。

 才人は森の中を真っすぐ進んでいた。意外と木々が邪魔にならない程度に広がっており、進みやすい道ではあるが、未だに街の影は見当たらない。
それでも才人が進めるのは、シーラのおかげである。宙に浮かぶシーラは空高く舞い上がると、街のある方角を見つけて、才人を先導してくれていた。
『こういう時って、空が飛べるって便利だよなぁ』
 前を飛ぶシーラを見ながら、才人は思った。初対面ではあるが、シーラは良く気配りのできる子である。先導しながらも、才人の歩幅に合わせてくれているし、
時折街の方角を確認したり、声もかけてくれる。対して才人はまだ遠慮があり、受け答えも短いままだった。
 重苦しいというわけではないが、会話のない沈黙の空間は居心地が悪い。才人は思い切って、声を出そうとしたが、その瞬間、森の奥がガサガサと騒がしく音をたてた。
『……!』
 何事かと思って、才人とシーラは身近な樹木の影に隠れた。音のした方向からは、依然として木の枝をふむ音が聞こえる。何かが歩いているようだった。動物か何かだろうか、
それか、こんな奇妙な場所に召喚されたと言う事はモンスターでも出てくるのだろうか、才人は息をのんで、ゆっくりと顔を出した。
『何だ、あれは!』
 才人の視界に映ったのは人だった。無精ひげを生やして、薄汚れた服を着たひょろ長い男であった。普通ならば、人を見つけた事え喜ぶところだが、才人はそれをするのをためらった。
『子どもをかついでいる? それに、あの子縛られてないか?』
 男の肩には手足を縛られ、口をふさがれた金髪の男の子がいた。じたばたと暴れているようだったが、ひょろ長いとは言え、大人の男の力で簡単に押さえられていた。その光景は素人から見ても、異常である事はわかる。
「暴れるな! くそっ、あいつら、俺に面倒を押しつけやがって!」
 男は悪態をつきながら、担いでいる少年の尻を叩いて黙らせようとする。しかし、少年はそれに対して抗議するように強く身体を動かす。
 どうみてもじゃれあっているようには見えない。才人は樹木の影に隠れながら、息を整え、落ち着かせる。よく観察してみると、男は腰に剣をぶら下げていた。助けるべきか。そう考えてはみるものの、
こちらは丸腰で向こうは武器を持っている。才人は特別運動が出来るわけでも、格闘技を習っているわけでもない。剣を振り回されたら、それでおしまいである。
「こいつ、貴族の子どもだからって良い気になって!」
 躊躇する才人をよそに、男は暴れる少年に苛立って乱暴に地面に落とす。受け身が取れない状態で落とされれば相当な衝撃である。少年は苦痛に顔をゆがめていた。しかし、男は重たい荷物から解放され、肩を回してリラックスしていた。
「あいつ!」
 小声でだが、思わず口出さずにはいられなかった。
「才人、私があの男の気を引きます。その隙に腰の剣を奪うのです!」
「シーラ?」
 不意の言葉に才人は反応できなかったが、シーラは才人の返答を待たずに男の前へと飛び出していった。
 男にとってもそれは驚きであった。突如として目の前に現れたシーラの姿にみっともなく小さな悲鳴をあげて、後ろに下がる。僅かに狼狽した男の周りをシーラは飛び回った。
しかし、男も驚いてばかりはいられなかった。未だ驚愕の表情を浮かべながらも、震える手で剣の柄を握る。スッと僅かに刃を見せると、同時に男は背中に衝撃を感じた。
 才人が体当たりを仕掛けたのである。才人は殆ど我武者羅に男の背中目がけて突撃し、男の手から離れた剣を握る。そして、殆ど夢中で剣を振るうと男はギョッとして、「メイジ!」
とわけのわからない言葉を出して、恐怖に歪んだ顔を向けていた。
「お、お前……早くどっかに行っちまえよ!」
 今更になって才人は剣の重さに戸惑っていた。しかし、そんな才人の戸惑い以上に男は恐怖していた。それは才人からも見てとれた。なぜ目の前の男がそれほどまで恐がっているのはか
理解できなかったが、それは好都合と判断して、剣先を男に向ける。ジリッとつま先を動かすと、男は「ひぃ!」と悲鳴をあげて、おずおずと後ろに引き下がる。同時にシーラが才人の傍によると、
今度こそ大きな悲鳴をあげて、男は走り去っていった。
 それを見送った才人は震える手から剣を手放して、その場にへたれこんだ。足もがくがくと震えていたが、ハッとなって少年の方を見る。
「あぁ……言葉は通じてるのか? い、今から縄を解くからさ……暴れないでくれよ?」
 先ほどの緊張が抜けきれない才人は僅かに声を震わせながら言った。少年は無言で頷くと、身体を転がして、背中を向けてくれた。どうやら信用はされたようだった。
「縄なんて、解くのは初めてだから、時間がかかるかも知れない。シーラ……?」
「周りを見ておきます」
「ありがとう……」
 それを聞いた才人は縄を解き始める。中々がっちりと絞められた縄は硬くて、解くのに難儀したが、幸い時間をかける余裕はあった。途中、剣を使えばとも思ったが、使い慣れていない物を使って
怪我をさせるが恐くて、止めにした。
 四苦八苦しながらも、何とか手足の縄を解いた才人は、最後に口をふさぐ布を取ってやった。その際、最初にこれを解いてやればよかったなと思ったが、もう過ぎた事であった。
「ンン……最初に口を自由にするものではないのか?」
 開口始めの一言がそれだった。
「あ、あぁ……ごめん」
 才人も悪いとは思っていたのか、少年の口調に腹を立てるよりも素直に謝っていた。
「だけど、こうして命を助けられた。貴方には感謝している。見慣れない、服装だな? 伝説と言われていたフェアリーを従えている。くらいの高いメイジのようだが……そうは見えないな?」
「その、メイジってなんだ? さっきの男も言っていたけど、俺は普通の学生で、シーラはさっき知り合ったばかりなんだ」
金髪の少年は眉をひそめながら、才人とシーラを交互に見る。すると、懐から小さな杖を出すと小声で何かを唱えて、杖を才人とシーラに向ける。才人とシーラはそれを不思議なものを見るようだった。
数秒と経たないうちに少年は杖をしまうと、
「メイジではないようだな。しかし、フェアリーを連れて歩いているとは……やはりメイジか?」
「いや、だから、メイジってなんだよ……」
 それを言った時だった。馬の蹄の音と共に野太い男の声が響いた。
「ジルダ様!」
 そう言って現れたのは、軽装の鎧に身を包み、槍をもった男だった。男は器用に馬を操り、才人の姿を見ると、サッと槍を向ける。
「貴様、何者だ?」
 槍を向けられた才人はたじろぎ、その場に凍りつく。鼻先まで伸びた槍の切っ先はこちらがおかしな動きをすれば、一瞬で顔を貫く事が出来る。才人は冷や汗を流しながら息をのんだ。
「フェアリーの使い魔だと! メイジか!?」
「まて、アベル!」
 槍を向ける男を叱りつけるように、少年が才人と男の間に入る。槍を構える男はそれに戸惑いながら、槍をずらす。
「アベル、この者は私を賊から救ってくれた男だ。無礼はゆるさん」
「しかし……」
「我がラターナ家に恥をかかせる気か?」
「ですが……!」
「くどい。賊ならばもっと抵抗するはずだ」
 男は少年の言葉に顔を渋らせながらも、槍の構えを解いた。
「わかりました……しかし、警戒はさせていただきます」
「ン、それくらいな……」
 目の前でわけのわからない会話を続ける二人を眺めながら、才人は本格的に面倒な事になったのかも知れないと感じた。チラッとシーラを見るが、シーラもどうして良いのかわからないようだった。
しかし、才人よりは落ち着いているように見えた。
『俺……どうなっちゃうんだ?』
 一人取り残されたような感覚だけが、才人にはあった。



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