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ウルトラ5番目の使い魔、第二部-87


 第八十七話
 六千年の溝

 大蟻超獣 アリブンタ
 友好巨鳥 リドリアス
 高原竜 ヒドラ
 磁力怪獣 アントラー
 海獣 サメクジラ
 宇宙海人 バルキー星人
 オイル超獣 オイルドリンカー
 古代超獣 スフィンクス
 さぼてん超獣 改造サボテンダー 登場!


「見えた、アディールだ!」
 東方号の艦橋の窓から望む北の空。その地平線のかなたから顔を出してきた白亜の街の姿に、この船に乗り込んできていた
エルフたちの間から快哉があがった。
 ヤプールのアディール完全破壊宣言を阻止せんと、ヒドラとリドリアスの力を借りて、限界を超えた速度で北上してきた東方号。
甲板の木材は風圧ではじけ飛び、船体各所は無理な力がかかり続けていたので悲鳴をあげているが、ついに東方号は旅の
最終目的地であるアディールを見れたのだ。
「おれたち、とうとうここまで来たんだな……」
 窓越しに大きくなってくるアディールを見ながら、ギーシュたち水精霊騎士隊や銃士隊の面々はつぶやいた。
 恐らく、ハルケギニアの歴史が始まって以来、この光景を見るのは自分たちがはじめてに違いない。それにしても、彼らは
誇らしく思いながらも薄ら寒く感じた。あの、大都市という表現すら過少に思える巨大建築物の群れはどうだろう、トリスタニアなど
あれからすれば田舎町もいいところだ。あんなものを砂漠に建設してしまうエルフというのはやはりとてつもない連中だ。
自分たちの先祖が何十回攻め込んでも勝てなかったわけである。
 しかしそれにも増して、そんなことも知らずに単にエルフは怖いものとだけしか思ってこなかった自分たちのなんと無知なことか。
人間を蛮人を呼ぶ資格はエルフよりもむしろ自分たち人間にこそふさわしかったと、自嘲の笑みが誰からともなく流れる。

 だが、くっきりと空に向かって伸びていく黒い煙の柱は、そこがすでに平和な街ではないことをも色濃く示すものであった。
平時であれば、畏敬と尊敬を持って訪問したに違いない異国の都はいまや戦場と化していたのだ。
「すでに攻撃を受けているわ。間に合わなかったの!」
 エレオノールの悲鳴が、まだ記憶に新しいトリスタニアの炎上の光景を思い出させた。ただ一体の超獣によって、数千年
かかって積み上げられてきた伝統と歴史もろとも、より以上に尊い人命を多数失って灰燼に帰したかつてのトリスタニア。
トリステイン人ならば忘れようもない苦い記憶が、天を焦がす黒煙とともにまぶたの裏に鮮明に蘇ってくる。
「超獣です! いち、にい、さん……三匹! 見えるだけで三匹が暴れてます。アディールはもう、火の海ですよ!」
 艦橋トップで双眼鏡を覗いていたギムリの、喉の許す限りの声が伝声管から響いてきた。
 コルベールたちも、日本製の双眼鏡や、エルフの魔法の望遠鏡を覗きこむ。スフィンクス、サボテンダー、アントラーの
三匹によって破壊されていくアディールの光景が網膜に映り込み、悔しさのあまり目じりが熱くなってくる。
 けれども、悲嘆に暮れている余裕はない。破壊活動がまだ行われているということは、まだアディールは完全に破壊されつくしては
いないということだ。やれることはある、コルベールは自分の命令が多くの若者たちを死地に追いやるかもしれない責任の
重さを感じながらも、逃げるわけにはいかないと決断した。
「テュリューク統領、本船はこれよりアディール市民の救助活動を開始します。領空立ち入りの許可を、いただけないでしょうか?」
「ふふ、なにをいまさらという気もするがのう。やれやれ、とするとわしは歴史上はじめて蛮人をアディールに入れた議長と、
名を残すことになるかいな。大多数のエルフたちからしたら、りっぱな反逆者になるかい。ほっほっほほ」
 テュリュークは、自分がネフテスの歴史上最大の犯罪者になるかもという選択の間際だというのに楽しそうに笑った。
「よろしい、許可しよう。なあに、議会の許可がどうとかは、わしが首をくくればすむ話じゃわい。はっははは」
「すみません……」
 人間社会でいえば、ブリミル教の教義を冒涜するも同然の大罪に違いないのにこの陽気さ。コルベールは、責任を背負うということが
どういうことなのか、にわか船長ながらその重圧を自分では支えきれるのかと、心からすまなく思うのだった。

 だが、ヤプールは接近してくる東方号の姿をとうに認めていた。
「フハハハ……やはりやってきたか愚か者どもめ。うまくわしを出し抜いたつもりだろうが、貴様らがなんらかの方法で
数時間内にやってくることは想定のうちだ。フフフ、そんなに死に急ぎたいならば、ここを貴様らの墓場にしてくれる! 
見ろ! 世界が地獄に変わっていく姿を!」
 その瞬間、アディールの上空に紫色に鈍く光る不気味な雲が現れた。あれはなんだと思う間もなく、雲はアメーバのように
うごめきながら、アディールの空全体を覆うように拡大していく。その光景に、東方号の窓から外を眺めていた才人は
思わず艦橋への伝声管へ向けて叫んでいた。
「コルベール先生、まずいです。ヤプールはアディールを完全に封鎖してしまうつもりだ!」
「なんだって? どういうことだい!」
「おれの世界でもあったんです! 封印されてたヤプールが蘇るとき、街ひとつがああして闇の壁の中に閉じ込められちまったことが」
 才人は、まだ中学生だったころにTVニュースで見た光景をそのまま思い出していた。
 あれは、ボガールが倒されてしばらく経ったころだったか。神戸港に突如テンペラー星人、ザラブ星人が出現したのに続き、
神戸の街全体が未知のエネルギー障壁に覆われて外界と完全に遮断されてしまったことがあった。
 それは、神戸沖にウルトラ兄弟によって封印されていた究極超獣Uキラーザウルスを復活させようともくろむ宇宙人連合が
ウルトラ兄弟をいぶりだすためと、外からのGUYSの妨害を防ぐためのものだった。その強度は高く、ちょうど近海まで来ていた
ガンローダーとガンブースターは神戸に入ることができずに立ち往生を余儀なくされた。しかも、宇宙人連合が全滅した後も
消えなかったことを考えると、障壁の発生には宇宙人連合を影で操っていたヤプールが関与していた可能性も高いのだ。
「ヤプールは、本気でアディールのエルフたちを皆殺しにするつもりだ! 先生急いでくれ、こいつが完全に閉じちまったら
侵入するのは不可能になっちまう!」
 闇の障壁はドームのようにアディールを覆いつくしつつあり、どんどん太陽光がさえぎられ、アディール全域が薄暗くなっていく。
これを破るにはウルトラマンタロウやゾフィーのような超パワーが必要になる。ウルトラマンAひとりなら突破はできるだろうが、
そうなれば入ったところで最初からエネルギーをロスした状態で戦い始めなくてはならなくなる。
「了解した! ならば、こんなこともあろうかと思って用意してきた秘密兵器がある。しっかり掴まっていたまえ、飛ばすぞ」
「期待してるぜ先生! ようしルイズ、こっちも中に入ったらすぐにゼロ戦を飛ばすぞ!」
「ちょ、サイト!? 新・東方号からの空中発進はまだ一度も試したことないんでしょ。テストは?」
「そんな暇あるか!」
 全速前進、あらん限りの力で東方号は飛び、それを引くヒドラとリドリアスも全力を出す。
 そして、コルベールは東方号に装備してきた秘密兵器集のうちから、ひとつのレバーを選ぶと、おもいっきり引き上げた。
「いくぞ、緊急用加速用ヘビくん改良型。その名も燃え上がるヘビくん、みんな覚悟してくれよ!」
 聞くからにぶっそうな名前が唱えられると、異議申し立てがおこなわれるよりも早く東方号の船尾から猛烈な火焔が
噴出した。と、同時に十万トンを軽く越える東方号の船体が背中を押されるように加速しはじめたではないか?
「ははっ! 火薬の噴射装置に風石を組み合わせて、燃え方を何倍にもなるように工夫したのだよ。しかし、ちょっと軍の
倉庫から火薬を拝借しすぎたかなぁ? わははーっ!」
「あんた真面目に働いてるように見えてそんなことしてたの!? てか、本当に空中分解するわよぉーっ!」
 無茶の二乗であった。宇宙金属で強化されている船体はいいとして、水蒸気機関が取り付けられた翼部分は
ただでさえ過負荷をかけられているというのに、固定化の限界を超えてビスがはじけ飛ぶ。しかし、その代償に
一時的に音速に近い速度を与えられた東方号は、閉じかけていた闇の傘の内側にすべりこむことに成功した。
「やった! 間に合ったようだぞ」
「加速装置を切り離せ! 全速制動、バラバラになってしまうぞ」
 全力で減速をかけて、空中分解寸前だった東方号はすんでのところで安定を取り戻した。それと同時に、ヒドラと
リドリアスがくわえて引っ張っていた錨が放されて、東方号は自由になる。
 だが、喜ぶのは早すぎる。ヤプールのエネルギー障壁は東方号の背後で完全に閉じてしまい、これでアディールを
中心にした半径数十キロは闇のドームによって完全に外界と遮断されてしまった。もう、勝利する以外にここを出る手段はない。
 通常動力に移行した東方号を、不気味な闇が包み込む。ついさっきまで砂漠の熱射にさらされていたというのに、今は
冬の曇り空より冷たい光しか甲板を照らしていない。まるでこの世のものとは思えない光景に、コルベールやエレオノールは
もちろんのこと、テュリュークやビダーシャルも息を呑んだ。
「蛮人の教義にある『地獄』とは、このようなものなのかもしれぬな」
「残念ながら、まだこの世ですよ。しかし、悪魔の所業なのには違いありません……そして、これは全世界の未来の
姿かもしれないのです……」
 すでにヤプールはその気になれば全世界を滅ぼせるほどにまで強くなっている。目の前の光景は、それをなによりも強く
証明するものであった。やらないのは、地球のある時空に侵攻するときのために、少しでも多くマイナスエネルギーを
溜めておこうと考えているに過ぎない。
 アディール上空に差し掛かってきた東方号を、ヤプールは憎憎しげに見て叫んだ。
「馬鹿なやつらめ、飛んで火にいる夏の虫とは貴様らのことだ。やれぇ!」
 空を向いたスフィンクスの火炎熱線と、サボテンダーのトゲミサイルが狙い撃ってくる。東方号はとっさに取り舵をとって
これをかわしたが、ほっとする間もなく、ここがただの地獄ではなく戦場であることを思い知らされた。
「くっ、相手が三匹じゃ分が悪すぎる。レイナールくん、高度を下げて奴らと距離をとるんだ」
「了解!」
「コルベール先生、才人です! おれがゼロ戦で出て奴らの気を引きます。その隙に体勢を立て直してください」
「サイトくん……無茶はするなよ」
「心配なく、おれは死にませんよ」
 才人は心配げなコルベールにそう答えると、伝声管から離れてルイズとともにゼロ戦に乗り込んだ。
「ふふ、あんたといっしょにこうして飛ぶのも久しぶりね」
 前と同じように才人のひざの上に小柄な体を腰掛けさせて、ルイズは小幸せそうにつぶやいた。けど、才人はそんなルイズに、
やや心ここにあらずといった様子で答えた。
「ああ……そうだな」
「どうしたの? なんか、うかない様子だけど」
「いや、大丈夫だ。それよりルイズ、この戦いが終わったら、お前と一度落ち着いて話してみたいことがあるんだ」
 ルイズの答えは聞かず、才人はルイズの頭に特製の飛行帽を押し付けた。そのまま風防を閉じ、魔法で稼動するように
改造してあったエレベーターでゼロ戦を格納庫から飛行甲板に上げると、エンジンを全開にして飛び立った。
「うぉぉっ! やっぱ、空中発進には無理があっかな?」
 滑走というより甲板から滑り落ちるような無茶な発進は、ガンダールヴだったころの感覚を残しているはずの才人も
肝を冷やすような感じで、失敬ながら目をつぶって抱きついてくるルイズの感触を味わったまま昇天したいと思ったくらいだった。
 だが、体に染み付いた感覚はゼロ戦を落下中に見事に立て直させた。そんな才人のゼロ戦を見届けたように、ヒドラと
リドリアスは翼を翻してスフィンクスとアントラーに向かっていく。
「どうやら、二匹は引き受けてくれるみたいだな。ようし、ならいくぞ、サボテンダー!」
 急降下から一転して、戦いの幕は切って落とされた。無人の野を行くがごとく、破壊を思うままにしていた超獣と怪獣に、
怪獣と戦闘機が立ち向かっていく。
 空中からヒドラがスフィンクスに体当たりを食らわせた。起き上がってきたスフィンクスはほとんどダメージを受けたようには見えず、
火炎熱線を浴びせかけてくるが、ヒドラも火炎を吐いて空中で相殺してしまう。
 争いを好まないリドリアスは、攻撃をおこなうよりも攻撃の盾となってアントラーの前に立ちふさがっていった。ウルトラマンと
正面から渡り合えるだけの怪力と、なによりも頑強で切れ味にすぐれた大アゴが襲い繰るが、それでもリドリアスは逃げ遅れていた
エルフたちの盾となって、強力なアントラーの前に立ちふさがる。
 そして、そんなリドリアスの献身は、才人たちにやるべきことを教えてくれた。
「どうせゼロ戦の武装じゃたいしたことはできねんだ。なら、囮にでもなんでもなってやろうじゃねえか! こっちだ、サボテン野郎!」
 サボテンダーの眼前をすれ違う瞬間に、ルイズがエクスプロージョンを顔面に浴びせかけてダメージを与えた。むろん、それだけでは
決定打になるはずもないが、逃げ遅れたエルフを舌を伸ばして捕食しようとしていたサボテンダーは照準をゼロ戦に変えて襲ってくる。
「サイト、後ろ後ろ!」
「当たるかよっ!」
 サボテンダーの放ってきたトゲミサイルを、才人はゼロ戦を高速旋回させて回避する。ジェット戦闘機を百発百中で撃墜するほど
精度の高いサボテンダーのトゲミサイルが相手でも、ゼロ戦は戦闘機同士の格闘戦・ドッグファイトでは世界最強とうたわれた
身の軽さを活かして避けきった。
「いいぞ、このままこっちだけを狙ってきやがれ」
「単純な奴よね、大きな力を持ってもそれに振り回されてちゃ、力のないものにも勝てなくなる。昔のわたしなら、考えもしなかった
でしょうけどね」
 ルイズは、独白の後に「それに、昔のわたしなら、なにを置いても相手に勝つことだけを優先してたでしょうね」と、心中で自嘲した。
 時間を稼ぐことしかできないなら、時間を稼げばいい。力を持って、それを振るうことの意味と責任を、今のルイズは心得ている。
その証拠に、逃げ遅れていた市民たちは超獣の魔手から逃れて安全な場所に逃れつつある。もしここで強力なエクスプロージョンを
放ってサボテンダーを怒らせていたら、多くの犠牲者が出ていただろう。
 市民たちは、「あれはなんだ?」「また悪魔の新手か?」と、指差していぶかしんでいるが、とにかく命あっての物だねだと
多くの者は逃げていった。それでいい、なにをおいても命より大事なものはないのだから。

 しかし、才人たちはこれから自らの決意の固さを試されることになるのを知らない。ここはエルフの国ネフテスの首都、本来であれば
人間世界にとって永劫の敵地であったはずの場所なのだから。

 市街地で才人たちが超獣を食い止めているのと時を同じくして、東方号はアディールの反対側へと回り込んでいた。
 そちら側はバルキー星人に率いられたサメクジラとオイルドリンカーが暴れていたが、接近してくる東方号に気がつくと、
バルキー星人は水軍にとどめを刺すのを中止して、東方号に向かってバルキービームを放ってきた。速射されるビームが、
外しようもないほどの東方号の巨体に命中し、連続する爆発が床を揺さぶる。
「艦橋! 左翼に被弾。水蒸気機関停止、速度が落ちます! わぁっ!」
 機関室から飛び込んできた報告は、東方号の船としての命運が尽きつつあることを示していた。コルベールは、機関室で
消火に当たっているであろう水精霊騎士隊や銃士隊に避難するように命じると、必死に蛇輪を回していたレイナールに指示した。
「もうこれ以上の回避は不可能だ。レイナールくん、着水だ」
「しかし先生、海にも敵がっ! うわっ、またこっちを狙ってる」
「かまわない、もう水蒸気機関も限界なんだ。東方号ごとぶっつけてやれ!」
「先生……ええい、もうどうにでもなれぇーっ!」
 開き直ったレイナールは、最後の舵をバルキー星人に向けた。炎と煙を翼から吐き出しながら、墜落にも似た降下速度で
バルキー星人に突進する。星人はこっちにくるなと手のひらを向けて慌てるが、今さら避けることなど不可能だ。覚悟を決めた
東方号の決死の体当たりが炸裂し、轟音とともに東方号は星人と正面から激突した。
「ぬわぁーっ!」
 激突のショックで、東方号の全員が床からはじき出されて壁や天井に叩きつけられた。むろん、ぶつけられたバルキー星人も
十四万トンの鉄塊に激突されて無事ですむはずがなく、象の突進に立ち向かったライオンのように数百メートルもの距離を
吹き飛ばされて海中に沈んでいった。
「着水だっ!」
 コルベールが、眼前に広がる青い海原をさして叫んだ。口内に広がる鉄の味はそのまずさで生きているという実感を彼らに
取り戻させてくれる。艦首をひしゃげさせながらも、東方号は海上に滑り込んだ。
「着水……か、完了」
 船が止まると同時に、緊張の糸が切れたようにレイナールは蛇輪にすがりつくようにして床にへたり込んだ。彼の眼鏡には
額から垂れてきた汗が乾いて白い筋がいくつもついている。それだけ、神経をすり減らす操舵だったのだろう。
 しかし、本番はこれから。悪いが、休んでいる時間などはない。
 海上に飛び込んだ東方号を、イルカや水竜にまたがったエルフたちは呆然とした目で見上げていた。彼らは全員、頭まで
ずぶぬれになって顔をぬぐったりしていた。東方号が着水するときの大波によるもので、昔戦艦武蔵が進水したときも、
そのあまりの巨体によって港の水位が急上昇して、多くの家屋が浸水被害を受けてしまったという記録が残っている。
 この船はいったいなんなんだ……? ネフテスの旗をマストに掲げているが、その下の旗は見覚えがない。
 東方号を見上げるエルフたちは、その島のような巨体に、バルキー星人の手から逃れられたことも一瞬忘れて見入ってしまった。
 けれども、バルキー星人を跳ね飛ばして沈めたとはいえ、まだこの海には怪獣と超獣が二体もいるのだ。鯨竜艦を
血祭りにあげたときのように、サメクジラが沖合いから迫ってくる。
「右舷、海中から怪獣が来ます!」
 見張りのギムリの声が響いた。見ると、海面のすぐ下を巨大な航跡を作りながら、ものすごいスピードで怪獣が迫ってくる。
 危ない! いくら東方号の元が戦艦大和だとはいえ、艦底部の装甲はそんなに厚くないのである。かといって、東方号には
武装はなく、相手が海中では魔法の効力も薄い。

「だが! 多分こんなこともあろうかと!」

 発明品を連続で使う機会に恵まれて、無駄に調子に乗っているコルベールが別のレバーを引き上げた。
 東方号装備の、コルベールの秘密兵器その二が発動する。東方号の舷側にブイのように数珠繋ぎにワイヤーで
貼り付けられていた、直径一メートルほどの無数の楕円形のカプセルが割れて中から黄色い液体が漏れ出してきた。
その液体は舷側を伝って海に流れ出し、東方号の周囲は黄色いペンキを流したように原色に染まる。
「ミスタ・コルベール、今度はなんなの?」
「しっ、黙って見ていたまえ」
 いぷかしむエレオノールにそう言うと、コルベールは黄色く染まった海面を見つめた。
 なんなんだ、あの液体は? あんなもので怪獣を止められるというのか? 息を呑んで突進してくるサメクジラを見る
エレオノールやビダーシャルは、激突も覚悟して足を踏ん張った。
 ところが、東方号まで一直線に進んでいたサメクジラは、突然方向を転換すると嫌がるように逃げ出してしまったではないか。
「ええっ!? 怪獣が、逃げた。あの黄色い液体のせい?」
「貴様、まさか、毒を流したのではあるまいな?」
「いいえ、あれはトリステインの海岸部に自生している植物の実から抽出したエキスです。毒性はありませんが、海水と
混ざると強い刺激臭を発するので海生動物は嫌がるんです。沿岸の漁民のあいだでは、これを使ってサメや海獣から
身を守る習慣があることを思い出して、用意していたのが役に立ちました」
 そんなものが……艦橋にいた者たちはコルベールの先見の明さえ超えたなにかに驚嘆さえ覚えた。一応、本来ならば
これは溺者の救助中にサメが寄ってくるのを防ぐために装備されたそうだが、地球においても一部の島の原住民のあいだでは、
これと同じような絞り汁を海に撒くことによって航海の安全を守る習慣があるそうだ。
 サメクジラは黄色い汁がよほど苦手なようで、潜ってしまったまま顔を出さない。しかし、オイルドリンカーは別で、
海面をざぶざぶと掻き分けながら東方号に迫ってくる。東方号に残っていた重油の匂いに誘われているのか? だが、
何回もコルベールの発明に助けられてばかりはいられないと、今度は甲板にギーシュたち水精霊騎士隊と銃士隊が集結した。
「よいか諸君、あの一ヶ月の地獄の特訓は今日この日のためにあった。ぼくら水精霊騎士団の武勇、地の果てまで
とどろかすチャンスであるぞ!」
「戦いのときに無駄口をきいていると死ぬぞ。半人前は仕事をこなすことだけを考えろ」
 ギーシュとミシェル、アマチュアとプロの温度差の激しい会話は、むろん超獣にはなんらの効果ももたらさない。
 常識的に考えて、ただの剣士と半人前のメイジがいくら頭数をそろえたところで超獣に太刀打ちできる見込みは少ない。
けれども、彼らもこれまでの経験から生身で怪獣と戦わねばならないようなときが来ることは予測していた。そのために、
彼らは知恵を絞りあって、自分たちの力でできることを考えて、そのための特訓も積んできた。
「さて、準備はいいか? チャンスは一度、外すなよボンクラども」
「ちぇっ、かわいい教え子にもう少し優しい言葉はないものですかね。ま、どうせ実力で見返せというのでしょ? じゃあやりますか、
人間の力ってやつを見せるためにね!」
 意を決したギーシュは、友と共に甲板に上げてきた太い鎖を『レビテーション』で持ち上げた。これは元々大和のクレーンに
使われていたもので、水観を吊り下げる目的で作られているから強度は十分、さらに固定化もかけてある。先端は鋭い
カギ爪になっており、これを彼らは全力の魔法でオイルドリンカーに向かって投げつけた。
「当たれっ!」
 飛ばされた鎖はオイルドリンカーの首に当たった。もちろん、超獣の強固な皮膚にはじかれて傷ひとつつけられなかったものの、
それは最初から計算済み。代わりにカギ爪がひっかかって、ふた巻きほどして絡みついた。
「やった!」
「上等、さあ次だ」
 短く褒めて、ミシェルは待機していた少年たちに合図した。風のラインメイジが、渾身の力を込めて電撃呪文を鎖に叩き込む。
電撃を飛ばす『ライトニングクラウド』は高位のメイジにしか使いこなせないが、単に電撃を発生させるだけなら彼らの技量でも
可能で、伝導体があれば電撃は空中を飛ばすより確実に敵に伝わる!
 鎖を伝わってきた電撃を食らって、オイルドリンカーは感電して悲鳴をあげた。
「どうだっ! おれたちのしびれるようなパワーを受けた感想は!」
「油断するな、火炎が来るぞっ! 銃士隊、撃て!」
 電撃だけでは怒らせるだけだ。そのくらいはわかっている、かといって銃士隊の軽微な火器ではかすり傷もつかない。
 ただの弾丸であればだ……今、彼女たちの持っている火器はマスケット銃ではなく、ロープを利用した原始的な投石器で、
そこから先ほど東方号の舷側から撒かれたものと同じカプセルがオイルドリンカーの顔に向かって投げつけられた。それらは
半分は外れて海に落ちたが、残り半分は当たって割れたカプセルから強烈な刺激の液体が顔面にぶちまけられ、しかも
いくつかは目や口に入ったらしく、視覚を奪われ、口内に強い打撃を受けてオイルドリンカーは東方号を襲うどころではなく苦しんだ。
「ふん、やはり薬は飲むのが一番効くようだな」
「野蛮人の素朴な発想に恐れ入ったか! 人間の知恵をなめるなよ」
 怪獣を相手に真っ向から力でぶつかっては勝てなくとも、知恵をしぼって勇気を出せば道を開けることを彼らは知っていた。
地球でも、ウルトラマンをものともしない超強豪怪獣を人間が撃破したり、撃破するきっかけになった例は数多く記録されている。
 電撃と目潰しと口封じ、ダメージとしては大きくなくとも戦意を失わせるにはこれで十分だった。鎖が外れると、オイルドリンカーは
その反動で海に倒れこんで、暴れながら逃げていく。あの様子であれば、しばらくは大丈夫であろう。
 一時的にとはいえ、星人と怪獣超獣を撃退して、海は平和を取り戻した。
「だが、またいつ出てくるか……けれどチャンスは今しかない」
 コルベールはアディールの方角を見てつぶやいた。アントラー、サボテンダー、スフィンクスの暴れまわる陸上はすでに炎が
広く回っていて、とても逃げ戻れるようなところではない。大同小異の危険度だが、今ネフテスの市民たちを安全に避難させられる
場所は、この東方号しかない。
 艦外への放送用に用意されたマイクが取り出される。もちろん、これも電気ではなく魔法で使えるように改造されているが、
スピーカーから発生する音量はオリジナルと大差ない。マイクを手渡され、テュリュークは彼が保護しなければならない多くの
市民たちに向かって呼びかけた。

「ネフテス市民の諸君、私は最高評議会議長のテュリュークじゃ。驚かれていることと思うが説明している暇はない。そのまま海に
い続けるのは危険だ。この船に避難したまえ」

 常に表している飄々とした雰囲気からは想像できないような、はっきりとした力強い声がスピーカーから海上に響き渡った。
 海上を漂っていたエルフたちは、テュリュークの声に救いの神がやってきたように感じて、次々に東方号から下ろされた
タラップやはしごなどに群がってくる。

 しかし、彼らはこれが人間の乗ってきた船だと知るや態度を豹変させた。甲板で出迎えた水精霊騎士隊や銃士隊を見て、
彼らは口々に叫んだのだ。
「シャイターン!?」
 水精霊騎士隊や銃士隊はエルフ語をまだ詳しく理解できないので、聞き取れたらしい言葉はそれだけだったが、彼らの態度や
表情がすべてを語っていた。おおむね、こちらを指差したり後ずさったり、表情も困惑や怒りが大きく前面に出ている。
 ギーシュたちは、覚悟していたつもりであったが、こうして目の当たりにすると嫌がうえでも思い知らされた。彼らの中には
危険だとわかっているのに海に引き返していったり、中には短剣を抜いてあからさまな敵意を向けてくる者もいる。
「蛮人」「悪魔だ」「殺してしまえ」
 少しずつ、聞き取れた単語の中に、どう考えても友好的でないものが混ざっているのがわかってきた。どうやら、彼らは
人間すなわち『蛮人』を『悪魔』と同一視しているらしい。
 冷や汗が湧いた。ギーシュたちも、もう何度も生きるか死ぬかの経験をしてきたことにより、エルフたちの敵意が本気だと
悟ってしまう。正直、ルクシャナやビダーシャルを相手にして、気が緩んでいた。こちらは何もしていないのに、この殺気の
強さはどうか? 
 これが、エルフが人間を見る目……ほんの少し前まで、自分たちがエルフを見ていた目の裏返し。
 甲板の狭い空間を挟んで、人間とエルフは睨みあう。それはそのまま、ハルケギニアとネフテスの縮図そのものだった。
「助けに来ました」
 わずかに記憶しているエルフの言葉でそう言いたいが、喉が凍って言葉が出てこない。相手の言葉はわからなくとも、
唾を吐き捨てがなりたてる姿から、ひどい罵声を浴びせられていることはわかる。
 そしてついに、何人かのエルフがギーシュたちに向かって攻撃の魔法を使おうとしてきた。
「な、なにをするんだ?」
「よせっ! 手を出すな」
 とっさに魔法を打ち返そうとしたギーシュたちをミシェルが制した。ここで火蓋を切ってしまっては絶対に取り返しが
つかなくなってしまう。それはすなわち、ネフテスとハルケギニアをはじめとして全世界の滅亡に直結するのだ。例え
殺されたとしても、戦うわけにはいかない。
(サイト……)
 心の中でミシェルは名を呼んで祈った。左手は胸元をつかみ、その下には彼から贈られた銀のロケットが守っている。
 人間の系統魔法よりもはるかに強力なエルフの魔法を受けたら、人間などはひとたまりもない。そのとき、ビダーシャルが
現れて彼らを一喝しなければ、水精霊騎士隊と銃士隊は全滅していたかもしれない。
「待て! お前たち」
 両者のあいだに割って入ったビダーシャルとエルフの騎士団に、いきり立っていたアディールの市民たちは意表を突かれた。
 評議会議員であるビダーシャルの顔は、一般の市民たちでも知っている者は多く、彼らは魔法を解いて彼に質問を浴びせかけた。
「議員殿! これはどういうことなのですか? なぜ蛮人の乗った船がアディールに? わけがわかりません、説明してください!」
「すまないが、詳しく説明している時間的余裕はない。しかし、彼らは敵ではないことは私が保証する。詳しいことは後だ、
この船ならばアディールの市民全員を収容する容量がある。乗れ!」
 有無を言わせないビダーシャルの命令に、市民たちは戸惑いながらもうなづいた。戦艦大和の基本乗員数は五千人以上であり、
武蔵と信濃が合体して超巨大航空戦艦となった今であるならば、乗せるだけならば万単位の動員にも耐えられる。重量は
いくらかさばろうとも重力制御機構を使えば問題はない。
 だが、市民たちがしぶしぶながら従って乗り込もうとしたとき、生き残っていた鯨竜艦から大音量で声が響いた。
「待たれよ、アディールの同志市民諸君! 悪魔の甘言に乗ってはならない」
「ちっ! エスマーイルか」
 ビダーシャルは口元にわずかな歪みを作って、この世界の中でも一二を争うほど嫌っている男の名を吐き捨てた。
恐らく、特殊な集音装置か口元の動きから読唇術を使って会話を盗み聞きしていたのだろう。しかし、よりにもよってこんなときに。
「ビダーシャル殿、これはどういうことかな? よりにもよって蛮人をこのアディールに迎え入れるなど、ネフテスに対する
重大な反逆行為であるでしょう?」
「貴方に説明している暇はない。簡潔に述べれば、彼らは蛮人の国家からの友好の使者である。私たちは礼に従い、
賓客として彼らを迎え入れただけのこと」
「友好の!? それは驚きだ、幾千年にも渡ってサハラを侵略し続けてきた蛮人どもが友好とは笑止のきわみですな。
そうか、少し前に報告がありましたが、空軍の包囲を振り切ってサハラに侵入した蛮人の巨大船とはそれのことですな。
市民の皆さん、甘言に乗ってはなりませんぞ! 蛮人の船になど乗せられてはどこに連れて行かれるか。蛮人世界で
奴隷として売りさばかれるかもしれませんぞ」
 市民たちのあいだに動揺が走った。ビダーシャルは奥歯を強くこすれさせて、愚かな男の名を口内でつぶやいた。
 馬鹿者め、お前はこの期に及んでも状況が見えていないのか? 三体の星人と怪獣超獣は倒したわけではない、
奇策を使って一時的に撃退しただけだ。またいつ襲われるか、今度襲われたときに撃退できるかはわからない。
にも関わらず、市民たちを危険な洋上に残しておけというのか。
「市民の皆さん、砂漠の民の誇りを失ってはなりませんぞ。シャイターンをあおぐ蛮人どもは永遠の敵、それと組する者は
すべてネフテスへの反逆者となりましょう!」
 いいや、お前はこれを機会と見て、目障りな私と統領閣下を蛮人と手を組んだ裏切り者として処分するつもりなのか。
馬鹿が……ビダーシャルは何度目かになるかわからない罵倒を心中でぶつけた。今この場で滅亡に瀕している国の
権力の座を争うことに、何の価値があるのか。
 それとも、お前は蛮人に助けられるくらいならば、アディールの同胞全員を道連れにするつもりなのか? 美々しき
滅亡の美学のために、女子供まで深海に沈めて毒酒に酔うつもりなのか? 名誉ある鉄血団結党の党首どのよ?

 さらに、エルフの敵意は怪獣超獣に続いて、彼らのために戦おうとしている者たちに立ちはだかっていた。
 サボテンダーを相手に足止めを続けている才人のゼロ戦を、生き残っていたエルフの竜騎兵たちが狙い撃ってくる。
「くそっ、やめろよ! おれたちは敵じゃねえ」
「ビダーシャルから聞いた、『我交戦の意思なし』の信号は出してるっていうのに。こいつら、見えてないの!」
 そうではない、見えていて無視しているのだと才人とルイズは理解していた。エルフに、特に軍人には染みこんだ
人間への敵意がゼロ戦も怪獣と同じに見せているのだ。
 これでは、かえって戦場を混乱させているだけだ。確かに、こんなところに突然人間がおかしな機械に乗って現れたら、
それは驚くだろうが、こちらが超獣を攻撃していることは見えるはずだ。彼らも完全に頭に血が上ってしまっている。
一時はゼロ戦に気をとられたサボテンダーも、こちらが同士討ちをしだしたのを見て体勢を立て直してきた。
「サイト! 危ない」
 ルイズがとっさに操縦桿に体をかけて倒した。急降下にうつったゼロ戦のいた場所をトゲミサイルが突き抜けていく。
ルイズが反応してくれなかったら、ふたりとも座席ごと串刺しになっていただろう。
「サ、サンキュールイズ」
「バカ! 油断するんじゃないわよ。あっ! しまった!」
 一瞬、才人に気をとられた瞬間、ルイズの目に真上から迫ってくる竜騎兵が見えた。炎の弾がまっすぐにコクピットに
向かって飛んでくる。
「畜生!」
 才人は出来る限りの回避運動をとった。ゼロ戦の運動性能はそれに応え、機体はねじ切れるように旋回する。しかし、
至近距離から放たれた火球は完全にかわしようがなく、コクピットは免れたものの機体後尾に命中を許してしまった。
「きゃあっ! サイト!」
「にゃろうっ! 尾翼をやられたっ!」
 ゼロ戦の欠点は、その運動性能と引き換えに機体強度が脆弱に過ぎるという点だ。いわば、鷹の爪を持ったツバメとでも
いうべきアンバランスさであるが、攻撃力と引き換えに背負った防御力の低さの代償は、墜落こそ逃れたがゼロ戦から
右の尾翼を奪い取ってしまった。もう、機動性は望むべくもない。
「サイト、また来るわよ!」
「くそっ、逃げるしかねえか。舌をかむなよ!」
 追いすがってくる竜騎兵とトゲミサイルを飛ばしてくるサボテンダーから逃れるには退却するしかなかった。急降下をかけては
ダメージを受けたゼロ戦では風圧だけでバラバラになってしまう。軟降下で機体をなだめつつ、ゼロ戦はたまたま向いていた
方向を目指して煙を吐きつつ飛んでいく。
「追ってはこねえか、超獣のほうが問題だろうけど、できれば追ってきてくれたほうがよかった」
「そうすれば、とりあえずあの人は超獣から逃がせたっていうのね。確かにそうだけど、あんたはもう少し自分を大切にしなさいよ……
あら? あれは、学校かしら」
 ふと、ルイズの視界に魔法学院と似たような施設が映った。ここらはまだ被害を受けていないようで、きれいなままの建物が
いくつも並んでこちらを見上げているエルフの姿も見える。どうやら、避難所として使われているらしく、校庭には子供のエルフが
大勢集められているのが見て取れた。
 だが、近づくにつれてそこが尋常な雰囲気ではないことが見えてきた。
「なに? エルフたちが逃げ回って……なっ! なにあれは」
「蟻地獄!? まさか、あれは!」
 才人は愕然として叫んだ。校庭に、直径十数メートルはあろうかという蟻地獄が渦を巻き、生徒たちを引きづり込もうとしていた。
エルフの子たちの何人かは飛んで逃げ出しているようだが、エルフといえど子供ではまだ魔法が不得手な者も多く、崩れる砂の
勢いのままに飲まれていく。
 そしてその底には、鋭い牙をむき出しにして獲物を待ち受ける巨大な蟻がいる。
 危ないっ! 才人とルイズは迷わず風防を開き、蟻地獄を目指して飛び降りた。

「ウルトラ・ターッチ!」

 ふたりのリングが輝き重なり、ふたつの命がひとつの光に昇華する。
 虹の光芒の中から現れ出でる、銀の光の戦士。

 蟻地獄は柔らかい砂を蜘蛛の糸のように張り巡らし、落ちた獲物を深淵の底へと飲み込んでいく。突然、校庭に開いた蟻地獄は
そこにいた子供たちのうちから少女たちのみを飲み込んだ。
「きゃあぁぁーっ、助けてぇーっ!」
 年の頃が十にも達しないようなエルフの少女が、砂の地獄の底へと落ちていっていた。もがけどもがけど無駄で、飛ぶ魔法を
まだ習得していない最下級生の彼女たちには蟻地獄から脱出するすべはなく、奈落の底で待つ化け物は鋭い牙を振りかざして
待っている。
 底に沈めばどうなるか? そんなことは考えるまでもない。あの牙で生きたまま腹を破られ、体を食いちぎられて、血の一滴までも
吸い尽くされてしまうだろう。
「いゃあぁぁーっ! 誰かーっ!」
 手を伸ばせど地上はすでに遠く、助けの魔法ももはや届かない。死にたくないと涙を流し、声の限りに叫んでも光は遠ざかる。
 だがそのとき、天から飛び込んできた銀色の輝きが彼女たちを掬い出し、地上に立ち上がると校庭で待つ仲間たちの下に
手のひらを開いて降ろした。
 見上げた先で彼女たちを見下ろす銀の巨人、ウルトラマンA。そして、その後ろで立ち上る砂煙の中から地上に飛び出てくる、
エサを奪われて怒る巨大な大蟻超獣アリブンタ。
「ヘヤァッ!」
 振り返り、超獣に対してかまえをとるエース。対して、アリブンタも強靭なあごと鋭いハサミになった腕を振りかざす。
 そんな両者を見て、助けられたエルフの少女は喉も裂けんと声を張り上げた。

「いゃぁーっ! バケモノが、また”二匹”ぃーっ!」

 エースの肩がびくりと震えた。突進してくるアリブンタを迎え撃つエースの後ろで、エルフの子供たちは恐怖におびえながら逃げていく。
「わぁあーっ! 逃げろ、バケモノたちに殺されるーっ!」
「なんでわたしたちの街にあんなバケモノが出るのよ。もう出てってよぉーっ!」
 バケモノ、バケモノとエルフたちはエースの背に叫びかける。その声に、才人とルイズは胸に刺すような痛みを覚えていた。
 なぜ、どうしてあんなことを言われねばならない。おれたちは、ただみんな仲良くなれればいいと、それだけが望みで助けにきたというのに。
 だが、そんなふたりにエース……北斗は静かに呼びかけた。
〔ふたりとも、心を乱すな。俺たちがここで退けば、彼らを超獣の前に無防備でさらすことになる〕
〔エース、でも!〕
〔善意が受け入れられないこともある。必死の呼びかけが、相手にとってはわずらわしいだけのこともある……けれど、
人の心に心を伝えるには、そんなことは当たり前なんだ。怒ってはいけない、力づくで心の中に立ち入っていこうとすれば、
そこには必ず歪みと憎しみを生む……彼らはまだ、知らないだけなんだ〕
 エースは語る。差し伸べた手を払われようと、かけた言葉を罵倒で返されようと、ほんとうにその人のことを思っているのならば
あきらめてはいけないのだと。たとえそれが、何十回、何百回繰り返されることになろうとも……

 そして、人間とエルフの対立の中の渦中にある東方号でも、ひとりの少女が自らの中に流れるふたつの血の種族のために
勇気を振り絞ろうとしていた。

「わたしにできること……おかあさん、わたし……がんばってみるよ」

 ティファニアの手の中で、青い輝石が彼女を勇気付けるように、静かに優しく瞬いていた。


 続く



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