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ウルトラ5番目の使い魔、第二部-86


 第八十六話
 超獣軍団陸海空! アディール完全包囲網完成

 磁力怪獣 アントラー
 海獣 サメクジラ
 宇宙海人 バルキー星人
 オイル超獣 オイルドリンカー
 古代超獣 スフィンクス
 さぼてん超獣 改造サボテンダー 登場!


 怪獣は、一体で現れるとは限らない……

 怪獣は、一体で現れるとは限らない。怪獣とは、自然の摂理から外れた特異な生命体であり、その大半はひとつの事例につき
一体の出現で終わることがほとんどである……だが、時には同時多発的に複数体の怪獣が現れることもあり、その際の脅威と被害は
単体で出現したときを大きく凌駕する。
 記録を紐解けば、大怪獣軍団を結成しての総攻撃をもくろんだジェロニモンの討伐をはじめ、東京を壊滅の危機に追い込んだ
グドンとツインテールの同時出現、MACを崩壊寸前まで追い込んだ兄弟怪獣の襲撃と枚挙に暇がなく、そのいずれも特筆すべき
決戦として人々の記憶に残されている。
 数はそのまま力となる。怪獣たちはウルトラ戦士のように助け合うことは知らなくても、ただ群れるだけでそのパワーは
何倍にも跳ね上がり、それはしばしば人類とウルトラ戦士たちに苦杯を味わわせてきた。
 もっともシンプルにして、もっとも強力な攻撃手段。ついに怒りの臨界点を超えたヤプールの悪意の奔流は、ゴーガの復活に
はじまってアディールを、罪のない大勢のエルフたちを飲み込もうとしている。エルフたちは、これまで確かにディノゾールを
はじめとする怪獣たちの襲来を跳ね除けてきた。しかし、ヤプールが自分たちに対してまるで本気を出していなかったことを、
彼らはその誇り高さゆえに気づくことはできていなかった。
 自分たちに迫り来る危機の重大さに対する自覚はなく、エルフたちは人間と同じ過ちを犯そうとしていた……


『ネフテス空軍、第二戦隊に緊急要請。突如アディール市内に正体不明の貝獣が出現し、現在市街を破壊中。至急、来援を請う』
 その報が、東方に逃走して消息を絶った蛮人の巨大戦艦を捜索中の第二戦隊にもたらされたとき、彼らの受けたショックは
小さいものではなかった。
「警備部隊ののろまどもめが、いったいどこに目をつけていたのだ。我らの神聖な首都に敵の侵入を許すとは、信じがたい怠惰だ。
だがまあいい、安全なところでのうのうとしている連中にはいい薬だ。貸しを作ってやれば、およそ連中の態度も改まるだろうて。
全艦隊に集結命令を出せ、蛮人どもは後回しだ。アディールに急行するぞ!」
 駐留部隊に毒を吐きながらも、艦隊司令は分散していた全艦隊に集結命令を出した。サハラの各地へ飛び去っていた
索敵部隊の艦艇や竜騎士が司令艦隊に向けて転進し、艦隊は堂々たる陣形を組んで首都アディールへと向かう。
 その陣容は、戦艦十二隻、巡洋艦二十隻、駆逐艦、水雷艇他小型艦艇四十隻、総勢七十二隻の大艦隊である。竜の巣で
第一戦隊が壊滅して以来、旧式艦から試験航海すらおこなっていない新型艦、はては練習艦に武装強化をおこなっただけの
仮装巡洋艦まで加えて再建した努力が実った結果であった。
 だが、半数が寄せ集めに近くても、その戦闘力は疑いようもない。乗組員は猛訓練を積んだ精鋭ぞろいだし、兵装はあるだけの
最新兵器が惜しげもなくつぎ込まれている。もし、ハルケギニアの五カ国の全艦隊を合わせたとしても、これに勝つのは困難を
極めるに違いない。
 現に、彼らの大半は先日の東方号との接触で、まんまと取り逃してしまったことに屈辱を覚えてはいたが、まだまともに
勝負すれば負けなかったであろうと自信を保っていた。その不満を、アディールを襲ったという怪獣を倒すことで晴らそうと、
乗組員たちの士気は高く、さらにその後に二匹の超獣が現れて、首都警備部隊が壊滅的な損害を受け、一刻も早い来援を
請うとの悲鳴のような報を受けるにいたって頂点に達した。
「おのれ、我ら砂漠の民の象徴たるアディールをよくも……我らの力、土足で踏み込んだ愚か者どもに思い知らせてやるぞ。
総員、日ごろの訓練の成果を見せよ。敵を殲滅するぞ!」
 火山の噴火にも似た乗組員たちの声がサハラの空を揺るがせた。
 誰一人、負けることなどは考えていない。水軍から流布し始めていた鉄血団結党の精神、これまでにディノゾールなど
サハラに出現してきたいくつもの怪獣を撃退してきた実績による自信、大いなる意志は我らを守りたもうという信仰、
砂漠の民は蛮人との戦いには一度も負けたことがないという歴史による自尊心、その他根拠薄弱な自負。
 もろもろあれど、彼らには必勝の信念があったことだけは間違いない。
 ただし、自信も過ぎれば過信、うぬぼれという次元に上り詰めれば害悪としかならないことを彼らは忘れていた。
「司令! 前方に黒い雲……いえ、煤煙が見えます。アディールが、アディールが燃えている」
「やってくれたな、絶対に生かしては帰さんぞ。全艦戦闘配備、我らの真の力を侵略者どもに見せてくれる」
 第二戦隊の各艦は、戦闘隊形に陣形を変更して、砂漠の果てに海と共に見えてきたアディールに可能な限りの全速で急行する。

 しかし、怒りに我を忘れた第二戦隊のエルフたちは、アディールのみに目が向かってしまい、自分たちの足元に危機が
迫っていることに気づいていなかった。
 堂々たる隊列を組んで飛ぶ鋼鉄の艦隊の後ろから、砂漠に海でクジラが海面のすぐ下を泳いでいるときのような波が
生まれて追っていく。それは信じられない速度で艦隊を追い抜き、ある一点で止まると、そこを中心にして蟻地獄のような流砂を
作り出し始めた。
 直径は十メートル、二十メートル、五十メートル、百メートルとどんどん大きくなり、蟻地獄は島をも飲み込めるのではないかという
巨大さにまで達した。もしも、第二戦隊の乗組員たちが冷静であったなら、見張り員でなくとも誰かが気づいたかもしれない。
だが、彼らは首都を攻撃されたということで余裕を失い、戦士として大切な冷静さを完全に欠いていた。
 一心不乱、猪突猛進とばかりにアディールに向けて突き進んでくる第二戦隊を正面から見て、アディールの建物の屋上で待つ
緑の複眼の宇宙人は、愉快そうにつぶやいた。
「ファッハッハッ、ようやく来たか、身の程知らない愚か者どもよ。わざわざ殺されに駆けつけてくるとは、我らの怖さが
まだわかってないようだな」
 ヤプール譲りの意地の悪さを内包したいやらしい声。奴の目には、エルフの艦隊などはなんの脅威にも映っていない。
スフィンクスとサボテンダー、二大超獣に目がくらみ、己の分もわきまえない愚か者たちへの対策などはとうに打ってある。
だがもう少し待とう、ただつぶしてしまうだけなら簡単だが、奴らには自らの雄大で精強なだけの姿をこの街のエルフどもに
見せてもらわなければならない。
「おおっ! あれを見ろ、空軍の艦隊だ」
「わたしたち、助かったのね」
「やった! これで勝てるぞ。我ら砂漠の民の力、蛮族どもに思い知らせてくれ!」
「おい、高いところに行って見ようぜ」
 艦隊の姿が街からも見えるようになると、逃げ惑っていた市民たちの中に喜びと安堵が流れ始めた。追い詰められたとき、
人の思考は極めて単純化する。そうすることによって肉体の操作をスムーズにし、脳にかかるストレスを軽減するのだが、
世界を白と黒、生と死、勝利と敗北とに単純に二元論化して行動するときが一番危ない。詐欺師は、そのどちらからも
見えない灰色の狭間に潜んでいるものなのだから。
 味方の艦隊の到来を、喧嘩に負けそうな弱虫が親が助けに来たときのような感覚で人々は迎えた。建物の屋上や
高台に昇り、手を振って歓迎の意を表する。水竜を操って助けに来た水兵たちが、早く乗れと言っても聞く耳を持っていない。
「がんばれよ! やっつけてくれ」
 常勝不敗のネフテス空軍の不敗神話が、アディールを襲う災厄を一瞬のうちに粉砕すると信じて、エルフたちは声援を送る。
それは一般市民だけでなく、ネフテスを管理する評議会の議員たちも同様であった。
「おお、とうとうやってきてくれたか。我が無敵艦隊が! 皆の方々、ほれご覧なされや」
「ううむ、壮観かな壮観かな。あれぞ、我ら砂漠の民が選ばれたる民である証。あれほどの艦隊、蛮人どもがあと千年かかっても
築けはするまいよ」
「どうやら皆様、これで一安心のようですな。どれ、あとは高みの見物とまいりましょうか。誰か、前祝いの杯を用意せい」
 冗談が飛び出るほど、彼らには余裕が生まれていた。いや、むしろアディールが襲われているというのに、彼らの態度と
口調には緊張感がいやに欠けていた。共和制に近い政体をとるエルフたちの代表者たち、様々な部族から選び抜かれてきた
者たちといえば聞こえはいいが、彼ら議員の大半はこれまでの在任中にこれといった成果をあげたこともなく、ただ毎日を
前例に従って定例の業務を遂行してきたのみに過ぎない。
 もしも任期中になにか不手際を起こせば、それはその議員を送ってきた部族全体の恥となるために、彼らは自らの責任で
行動を起こすことを嫌う。そのため、この非常時にあっても議員たちのほとんどは議場から動かず、無難以上の指示は
出されていない。ハルケギニアと同様に大きな変革がなく数千年を経過してきたネフテスの社会形態もまた、いつの間にか
気力を失っていたのだ。
 これが、テュリューク統領が東方号をすぐに迎え入れなかった理由のひとつである。彼ら議員たちには、急な変革を
受け入れる余裕や意思がない。テュリューク統領の不在になすところがなく、誰も率先して代役を勤めようとはせず、
誰かが代わりに始めてくれるのを待つばかりの連中には、話し合いを持ちかける価値すらない。
 このアディールの中で、もっとも高く美しい白亜の塔の一室から、窓越しに見下ろす風景は絵画のようであり、下には炎、
上には雄大なる大艦隊と、まるで歌劇を見ているような非現実的な輝きを彼らの瞳に焼き付けている。地上をはるか数百メイルの
この場所には、街の壊れる音も、人々の逃げ惑う声も聞こえはしない。
「さて皆さま、勝利の瞬間には杯を掲げるのをお忘れなく。不肖わたくしめが、乾杯の音頭をいたしましょう」
 期待するのと、責任を丸投げするのはまるで違う。彼らはそれに気づかず、また気づこうともしていない。
 当然、艦隊側でも言われるまでもなく、火砲のすべてを発射態勢にして、精鋭の竜騎士たちも愛用の魔法武器を持って
全騎飛び立っている。
 人間の使う兵器を大きく上回るエルフの武器、それがありったけ火を吹けば島でも吹き飛ばせる。先日の竜の巣の大敗は
罠が待っているところで十分に力を発揮できなかったがゆえのものだ。今度は、地理的条件も問題はなにもない。相手は
たったの二匹、こちらは世界最強のネフテス空軍だ。
 負ける要素などどこにもない、新兵すら恐怖心なく闘志を燃やす。

 が、もうなにも怖くはないと思うほどの高揚感は、彼らに油断という最強最悪の敵となって張り付いていた。

 勝ったも同然と、大砲に手をかけて浮かれる彼らの側には、すでに逃れようもないところに敵が迫っている。砂漠に
巨大な蟻地獄を作り上げ、その中から鋭い牙のようなあごを開いて空を見上げる巨大な甲虫。その大あごの中から、
虹色に輝く光のカーテンが空に向かって放たれたとき、ネフテス空軍の崩壊が始まった。
「し、司令! 右舷二時の方向に光の壁が!」
「なにっ! なんだそれは。うん!? どうした操舵士!」
 がくんと船が揺れ、司令は操舵士を怒鳴りつけた。しかし、操舵士は自分のミスではないと蒼白になりながら叫んだ。
「た、大変です。舵が効きません!」
「なんだと! そんな馬鹿な。ぬわっ!」
 船がまた揺れ、今度は舵取りのミスではない証拠に船は異常な機動を取り始めた。牽引している竜を逆に引きずるように
横滑りをしていき、さらに遼艦も次々に操舵不能と信号を出してくるではないか。
「艦隊は、光の壁に吸い寄せられています」
「なんだというのだ!? くそっ、なんとか振り切れ!」
「無理です。すごい力です!」
 鍛え上げた竜の力がまるで役に立たずに、艦隊は磁石に吸い寄せられる砂鉄のように光の壁に吸い寄せられていった。
あの光の壁はなんだというのだ? 司令の疑問は、ふと下を見下ろした見張り員の絶叫で回答を得た。
「し、司令! 光の壁の根元を見てください」
「な!? な、なんだあれはぁ!」
 司令と、彼に準じたエルフたちの目が驚愕に見開かれた。砂漠にできた巨大な流砂の渦巻き、その中心から、まるで
死神の大鎌をふたつ合わせたようなあごを持つ、五十メイルには及ぶのではないかという甲虫が上半身を出している。
光の壁は、その甲虫のあごのあいだから放出されていたのだ。
「なんだあの化け物は! 参謀長」
「は、あんな生物がサハラにいるとは聞いたことがありません! おそらく、あれも敵の用意した怪獣かと。見てください! 
ど、どうやらあの光の壁は我が艦隊の鉄を磁石のように吸い寄せているようです」
 参謀長の悲鳴と同時に、船体の装甲版が千切れ飛んで光の壁に吸い込まれていった。ほかにも銃や剣など、手持ちの
武器のほかにもありとあらゆる鉄でできたものが吸い寄せられていく。竜騎士たちも自らやドラゴンに身につけさせている
鎧が引き付けられているらしく、ズルズルと引っ張られていっている。
 もう間違いはなく、どういう理屈かはわからないが、あの甲虫の出す光の壁は鉄を吸い付ける性質を有しているらしい。
しかしどうしようもない、戦艦は鉄の装甲版で全体を覆っているし、大砲をはじめとする兵器はみんな鉄で出来ている。
 このままでは引きずり込まれる! そうなったら……司令はためらわずに怒鳴った。
「攻撃だっ! ありったけの砲撃をあいつに叩き込め!」
 すでに発射準備が整っていた大砲がいっせいに放たれる。正確に狙いをつける暇もあろうかな、大小合わせて数百の
門数ならば、そのすべてが外れることなどはありえない。
 蟻地獄の中が火の海になり、甲虫にも数十発の砲弾が着弾したのが見て取れた。蟻地獄の中は、舞い上がった砂と
硝煙で黒く染め上がり、一寸先さえも見えないほど熱と混沌が渦巻く世界となった。これならば、少なくともただではすまないと
司令から砲手まで含み笑いを浮かべた。
 しかし、一陣の風が運んできたのは勝利ではなく愕然とした敗北の光景であった。
「なっ! 馬鹿な……無傷だと!?」
 甲虫の黒光りする外皮には傷どころかわずかなへこみすらなく、まるで磨き上げた鏡のように光沢すら放っているではないか。
 信じられない、あの怪獣の体は鉄でできているとでもいうのか? いや、仮に鋼鉄で全身を覆っているとしても耐えられる
破壊力ではないはずだ。固い、などという次元を通り越している……勝てない。
 攻撃されたわけではない。怪獣は、ただ砲撃を受け止めただけなのに、高揚の極地にあった空軍将兵の士気はもろくも破壊された。

 第二撃、第三撃も結果は変わらない。その光景を、緑の複眼の宇宙人は次元を通して眺めてせせら笑っていた。
「無駄だ無駄無駄。そいつの外骨格の強度は怪獣界の中でも一二を争う。ヤプールの技術をもってしても再現のかなわない
アントラーの鎧殻を前にして、そんな旧式兵器で歯が立つものか」
 空軍の攻撃はかすり傷ひとつつけられず、力の弱い船から光の壁に飲み込まれていく。
 圧倒的な防御力と、恐るべき磁力を放つ光の壁。それこそが、この磁力怪獣アントラーの能力である。
 地球では、初代ウルトラマンが活躍していた時期に中近東の砂漠に現れたという報告があり、そのときも同様の能力で
科学特捜隊とウルトラマンを苦しめていた。鎧殻はスーパーガンやスパイダーショットはおろかスペシウム光線もまったく
受け付けず、光の壁と形容される虹色磁力光線はジェットビートルの推力でさえ抗えない吸引力を誇っていた。
 蟻地獄の中に潜むアリジゴクそのままに、アントラーは引きずり込んだ船を自分の下まで引き寄せると、その船を
大アゴでがっちりとくわえ込んだ。すると、鋼鉄でできているはずの船が紙細工のようにひしゃげさせられて、真っ二つに
食いちぎられてしまったではないか。
「戦艦が、あんなにもろく」
 破壊された船はバラバラになって流砂に巻き込まれ、蟻地獄の中に飲み込まれて消えていく。乗員は、生身の何人かは
飛んで逃げたようだが、船内に閉じ込められたままの者や、体に鎧や金属製品を身につけていた者は逃げられずに、もろともに
引きずり込まれて砂中に消えた。
 その瞬間、艦隊に残っていた最後の士気は雲散霧消した。
「あ、あ……に、逃げろぉぉっ!」
 ここにいては助からないという現実が、彼らの行動を決した。我先にと武器を捨てて船から飛び降りていく。士官の中には
何人か止めようとする者もいたが、彼らも自分の船が光の壁の直前まで来ると前言を翻して逃げ出した。
 もはや空軍の誇りもなにもなく、軍艦からごまを振るように乗組員たちが逃げ出していく。忠誠心も美しさもあったものか、
死を恐れずに戦うという言葉が崇高な響きを持つのは、万に一つも、一パーセントでも勝算があってこそだ。虫の餌食になって
生き埋めにされる未来しかないとわかっていて、誰が船と運命をともにしようと思うか。それでなお残りたがるのは、状況が
見えていない馬鹿者か、敗北を死と考えている大馬鹿者しかいない。
「無様だな」
「あーあ、ありゃ全滅だなぁ。も少し早く気づいて艦隊を分散させれば、ちっとは残ったかもしれないのに」
 せせら笑う二人の宇宙人。偉容を誇ったネフテス空軍艦隊はもはや見る影もなく、枯れ葉が雨水とともに排水溝に
流れ込むのにも似た惨状で磁力光線に吸い込まれては、下で待ち受けるアントラーの餌食となっていく。
「全滅だっ」
 同様の言葉がアディールのあらゆる箇所で流れた。たった今の今まで期待と希望のすべてを込めていた艦隊が、
なんの役にも立たないオモチャ同然の代物だと思い知らされた絶望。それは彼らエルフのなんでもない市民たちが
はじめて味わう無力感……かつて、地球でもハルケギニアでも何度も繰り返されてきた、侵略者たちの黒いプレゼントの
洗礼が、負けを経験したことのないエルフたちの心を急速に蝕んでいった。
「もうだめだぁ! 逃げろぉぉっ!」
 自分たちの力ではどうしようもないことへの純粋な恐怖、それを前にしたとき人もエルフも心は限りなくもろくなる。
市民たちは他者を押しのけて逃げ惑い、魔法で空を飛ぼうとしたら同じような他人とぶつかって道に落ちる悲惨な
光景が続出した。勝利の美酒の前祝いをしていた議員たちは茫然自失とし、我先にと議場から飛び出していった。
それは臆病ではなく、目の前に土砂崩れや竜巻が迫ってきているというのに逃げない人間がどこにいるだろうか? 
ライオンに追われて逃げ惑うシマウマを臆病と誰が言うであろう? 彼らはまさにそれであった。
 パニックはさらに助長され、街の被害を住人自らの手で作っていく。
 軽い好奇心や怖いもの見たさで逃げずに残っていた者が、気づいたときには手遅れになっていて超獣に襲われる。
 スフィンクスの火炎が街を焼き、球形サボテンの形で転がりまわるサボテンダーが街を蹂躙する。それらはまるで、
抗いようもない天災のようで、美しい街が見るも無残な瓦礫の山へと変えられていく。
「破壊だ、破壊しつくせぇぇ!」
 猛攻はとどまるところはなく、スフィンクスの触覚が光り、破壊閃光が建物を爆砕した。さらに、サボテンダーの押し倒した
建物がドミノ倒しのように崩れて他の建物を連鎖的に破壊していく。街の壊れる音に、スフィンクスの吼えるような声と
サボテンダーの笑うような声がいっしょになって、エルフたちの狂騒はさらに増していった。
 しかもそれだけでは当然すまない。空軍を全滅させたアントラーは街に侵入して破壊活動を開始した。かつてアントラーに
蹂躙されたバラージの街のように、家々が無慈悲につぶされてゆく。首都警備部隊の竜騎士たちは、それでも勇敢にアントラーを
食い止めようとするが、空軍の砲撃さえ通用しなかった相手に竜騎士の軽微な武器でかなうはずもなく、強力な先住魔法も
大アゴを振るうだけで涼風のように払い飛ばされてしまった。

 圧倒的な破壊を続ける超獣と怪獣、一体でも手に負えないというのに、それがいまや三体。しかも、奴らと戦うはずだった
空軍艦隊は戦う前に全滅してしまった。
 怖いものなしで、好きなように街を破壊する怪獣と超獣に対してエルフたちは無力だった。自棄に近く向かってくる抵抗などは
無に等しく、強固な皮膚を通すにあたわず、逆に圧倒的なパワーは精霊の守りを薄紙のように通過した。
 スフィンクスの火炎が焼き、サボテンダーのとげが貫き、アントラーの力が崩す。すでにアディールの四分の一が壊滅し、
死傷者の数も天井知らずに増え続けている。
 絶望の声が流れては怪獣の声と炎に飲み込まれて消えていく。だが、絶望の中だからこそあきらめない者たちも
そんな中にはいた。
 幼い子を抱えた母親が。
「お母さん、怖いよぉっ」
「大丈夫よ、大いなる意志が、お母さんがきっと守ってあげるからね」
 恋人の手をつないだ若い男が。
「も、もう逃げられないわ! 私たち、ここで死ぬのよ!」
「あきらめちゃだめだキエナ! 君には僕がついている、この手は決して離したりしないぞ!」
 絶望の淵にあっても、いいや絶望の淵にあればこそ、守るべき誰かを持つ者たちはあきらめてはいなかった。我が身を
捨てても守り抜きたい誰かのためなら、絶望になど構っている暇はない。その、無償の愛が彼らにひとりでいるときには
持つことのできない”強さ”を与えていたのだ。
 アディールの一方はスフィンクスとサボテンダーが暴れまわり、反対側はゴーガに破壊されて道がめちゃめちゃになっている。
さらに別方向からはアントラーが迫ってきており、陸からアディールを脱出する道は閉ざされた。もちろん、先住魔法を使える
エルフたちはメイジたちのように空を飛んで逃げることもできるが、空に飛び上がればスフィンクスの一万三千度の火炎熱線と
サボテンダーのトゲミサイルで打ち落とされるか、サボテンの花弁に似た口から伸びる真っ赤な舌にからめとられて捕食されてしまった。
 陸と空を塞がれて、残った逃げ道はただひとつだった。
「水路だ、海に逃げろ!」
 アディールは半水上都市であるために、その半分を海にせり出している。陸路をふさがれ、空軍が全滅してしまった以上、
残る海路へ向けて市民は殺到した。精霊の力を用いて水中で呼吸ができるようにするくらいはエルフであれば誰でもできるので、
溺れる心配はなく水路に飛び込んで船にたどり着く者、水竜やイルカのような慣れた動物にしがみつく者など、水路はまるで
渋滞する道路のようになって、海へ向かってエルフたちが流れていっている。

 そしてその海には、ネフテス最後の軍事力といえる水軍が集結しつつあった。
「エスマーイル同志議員殿、アディール駐留艦隊の全艦出港完了いたしました」
「よろしい。二番艦から五番艦までは本艦に続いて戦闘態勢をとれ。悪魔どもめ、目にもの見せてくれる」
 艦隊旗艦たる鯨竜艦の艦橋で、ひとりの男が憮然として腕を組んでいた。
 彼は名をエスマーイルといい、軍人ではなくネフテスの評議会議員のひとりである。役職は水軍の総司令官に近く、
ほとんどの議員が非常時にあっても議場から動かなかったのに対して、数少ない自分の足で行動を起こしたひとりだった。
「同志議員殿、やはりご自身で指揮をとられるのは危険では? 駐留艦隊でまともに戦闘可能な船は、本艦を合わせても
わずか七隻です。現在、近隣海域の艦隊にも集合命令が出ております。それを待ってから戦端を開かれても」
「君はアディールが灰燼に帰してから戦い始めることに意義があると思っているのかね? それまで逃げ隠れして、
すべてが終わった後にのこのこ出かけていって、君は誰に勇を見せるというのかね?」
「はっ! 自分が臆病でありました。どうぞ、お見捨てなきようお願いいたします」
 兵に確かな決意を込めた視線を向けると、エスマーイルは怒りに紅潮し、臆病とはほど遠い顔で炎上するアディールと、
そこで暴れる超獣たちを睨む。
 が、彼は勇者と呼ぶには眼の色は暗い色で染まっていた。
「歴史開闢以来、何人にも犯されたことのない砂漠の民の聖なる都が……許さんぞ、異敵どもめ。我ら砂漠の民こそ、
この世の頂点に立つ選ばれし種族なのだ。大いなる意志の恩寵も知らない野蛮人どもめ、絶対に生かしては帰さん」
 平和を守る意志や使命感よりも、傷つけられたプライドに憤る自己中心的な怒りが彼の胸中の大半を占めていた。
 ギラギラとした瞳は眼前の敵しか見えておらず、エルフらしく彫刻のように整った顔は頬がこけて幽鬼のような恐ろしさが
漂っている。彼の率いる水軍艦隊は、先日の竜の巣の戦いで壊滅し、今やこの少数艦隊が残るのみ。再建は思うように
進んでおらず、力こそが誇りの源泉であると信ずる彼のような人種にとって耐え難い恥辱であったのだ。
 その敵が目の前に現れた以上、勝ち目があるなしは関係ない。賭け事に負けた浅はかな男が、今度こそ今度こそと
安い意地で挑んでは身包みをはがされていくように、エスマーイルの目に見えている世界は狭かった。
「砲撃用意、長距離砲戦を挑む。街を飛び越えて直接怪獣を狙うのだ」
「ど、同志議員、それは危険です。もし砲弾がそれればアディールにも甚大な被害が出ます」
「奴らが海沿いまでやってくるまで待っていては何もかも遅い。それに、日々鍛錬を積んだ諸君らならば、狙いを
外すようなことはあるまい、違うかね?」
「は、はあ……それと、街から避難してきた市民たちの乗る船から救いを求める声が多数届いております。見捨てるわけには……」
「この忙しいときに……砂漠の民の誇りよりも我が身の安全をはかるとは恥知らずな連中だ。ええい、輸送船と修理中の
船があっただろう! 私はそんなことに関わっている暇はない」
 もはや彼は『軍事力』がなんのために存在するのかすら見失っていた。いや、彼からすればこれが正しい軍のありかた
なのであろう。水軍は砂漠の民の力の象徴であり、その存在そのものが神聖で犯すべからざるものとなっている。
その進撃を邪魔するのならば、同じ砂漠の民であろうと反逆者にしか見えない。
 彼は自らを疑わない、自らを種族の誇りを守る正義の使途だと。
「我ら砂漠の民、鉄のごとき血の団結を持って、異敵を殲滅せん。大いなる意志よ、我らを導きたまえ」
 独善の怪物、鉄血団結党の党首であるエスマーイルは、己の正義に従って、まだ多くの同胞が取り残されている街への
砲撃を指令した。

 長射程の大口径砲弾が鯨竜艦から放たれ、山なりの軌道をとって超獣と怪獣に向かった。
「うん? なんだ、まだ身の程わかってねえやつがいたか」
 砲弾の飛ぶ甲高い音を聞いて、暇をもてあましていた赤い目の星人がおもしろそうに言った。これだけ力の差を
見せ付けられながら、よくもまあ無駄な抵抗をする気になるものだ、バカにせずしてどうしろというのか。
 案の定、砲弾は当たって爆発はしたが、三匹のどれにもかすり傷も与えることはできなかった。むしろ、外れた砲弾で
広がった被害のほうがでかいくらいで、星人は腹を抱えて笑った。
「あっひゃっはっはは! ざまあねえ、てめえでてめえの街を壊してたら世話ねえぜ。無駄な努力ってやつは、ほんと笑えるぜ。
ああいうことすっから、下等生物っていうんだろうなあ。あっひゃっひゃっひゃっ」
 赤眼の星人は心底おかしそうであった。それは、星の海を自在に飛ぶことのできる多くの宇宙人が地球人を見たときと、
共通の感覚であっただろう。地球人の使う程度の兵器を、大半の宇宙人は歯牙にもかけない。それだけ、彼らと人間との
あいだには覆しがたいテクノロジーの差というものがある。
 だが、抵抗をしてくれるということは、それをひねりつぶす楽しみが残っているということだ。せっかく呼ばれてきたというのに、
退屈で腐っていた赤眼の星人は、同じく愉快そうに肩を震わせていた雇い主に顔を向けた。
「おい、ヤプールの代理人さんよ」
「フフ、わかっている。そろそろ頃合だろう、海に逃げて安心しているバカどもと、まだ勝てるつもりでいる大バカども……
宇宙の海賊と異名をとる貴様の実力、見せてやるがいい」
「けっ、ようやく出番か、待ちくたびれたぜ。おい、この仕事が成功したら、この星の海の支配権を俺に譲るって約束、
破りゃしねえだろうな?」
「心配するな、お前が海の支配権で満足するというならくれてやろう。我々の目的は、あくまでマイナスエネルギーなのだからな。
それよりも、言うだけの仕事はしてもらえるのだろうな? バルキー星人」
 答えは、口元に浮かんだ不敵な笑みだった。アディール全体を見渡せる建物の屋上から、エルフたちでごったがえしている
海を見下ろして、右手を高く掲げて叫ぶ。

「こぉい! サメクジラァァッ!」

 指をパチンと軽快に鳴らし、赤眼の宇宙人・バルキー星人は高らかに叫んだ。
 その瞬間、アディールの洋上の海面に怪しい波がざわざわと浮かんだ。黒々とした影が海面下を高速で走り、真っ赤に
光る怪しい目がアディール洋上の艦隊と船団を睨んで、生き物としては考えられない速度で迫っていく。
 その脅威に、最初に気づいたのは動物たちだった。イルカが主人たちの命令に背いて暴れだし、続いて鯨竜たちが
威嚇するようにうなり声をあげはじめる。エルフたちは、そのおびえるようなイルカや鯨竜の反応に、おとなしくさせようとするものの、
砲撃の轟音が自分たちに近づく本当の危機に気づくことを許さず、それが最悪の結果につながってしまった。
 突然暴れだした一頭の鯨竜が舵取りのエルフの命令を無視してあらぬ方向に泳ぎだした。しかし、すさまじい速度で海面下から
飛び込んできた影が鯨竜の下を通過したとき、海は赤く染まって鯨竜の悲鳴がこだました。
「な、なんだ!? なにがいったい!」
 致命傷を受けて海没していく鯨竜の上で、脱出しようと慌てるエルフたちが絶叫する。惨劇はそれにとどまらず、二匹目、三匹目の
鯨竜が同じ目に合う。生き残った鯨竜たちはそれぞれ勝手な方向に逃げ出した。もはや鯨竜艦隊は艦隊としての体をなしておらず、
悠然たる鯨から一瞬にして逃げ惑う鰯の群れへと転落した。
「なんだ! いったいなにが起きている。敵はまだ攻撃してきていないぞ!」
「ど、同志議員殿、海です。左舷海中になにかがいます、すさまじいスピードです!」
「海中だと!? ええい、副砲群撃て、そいつをしとめろ!」
 主砲はすべてアディールを向いている。鯨竜艦の小口径砲が手照準で次々とうなり、海面に水柱をあげる。そして、その水柱の
群れの中から海面を割り、海上に飛び出してきた凶暴なシルエットにエルフたちは戦慄した。
「なんだあれは!? サメ? いやクジラなのか?」
 クジラの巨体にノコギリザメのような鼻と鋭い角、しかしただのクジラではない証拠に、その泳ぐ速さは二百ノットを軽く超え、
大砲の照準が追いつかない。
「うわあ! 突っ込んでくるぞ!」
「回避ぃ! だめだ、間に合わないぃっ!」
 抵抗する暇すらなく、槍のような怪獣の鼻先が一匹の鯨竜艦の腹を貫いた。分厚い皮膚も皮下脂肪も何の役にもたたず、
串刺しにされた鯨竜は悲痛な断末魔をあげて沈んでいく。
 あの巨大な鯨竜をただの一刺しで殺してしまうとは。エルフたちは眼前の怪獣の凶暴さに驚愕した。鯨竜は全長百メイルに
及ぶ巨体を持ち、この世界の生物としては最大級の大きさを誇る。それゆえに、皮膚も装甲を張るまでもなく頑強で、たとえ
大砲の撃ちあいをしたとしても簡単に傷つくことはないのにも関わらず、なんなんだあのバケモノは!?
 あっというまに半数の鯨竜艦を失った水軍艦隊は、怪獣におびえる鯨竜たちを押さえることもできずに算を乱していく。
 この世界の常識を超えた遊泳速度と攻撃力を持つ怪魚。その正体こそ、宇宙海人バルキー星人のペット、バルキー星の
海の生態系の頂点に君臨する海獣・サメクジラであった。
 ドキュメントZATの末尾に記載があり、地球の海の支配を企んだバルキー星人のしもべとして船を次々に沈めまくった。
水中移動速度は二百ノットを超え、鋼鉄を軽く切り裂くヒレと三メートルの鉄板も貫通する鋭さの鼻の前にはマンモスタンカーすら
一瞬で海のもくずと化してしまう。
 鈍重な鯨竜では逃げ切るすべはなく、サメクジラはイルカが小魚の群れを追い込むときのように周辺を高速で旋回して、
なぶり殺すように弄んでいる。
 だが、本当に悲惨な目に会っていたのは鯨竜やその乗組員ではなく、助けを求めて近寄っていたアディールの市民たちだった。
「うわぁっ! こ、こっちに来るな」
「お、おれたちは味方だぞぉ!」
 逃げ回ろうと暴れる鯨竜が、小船やイルカで漂っていたエルフたちを巻き込んでいく。全長百メイルの鯨竜の巨体や、それが
巻き起こす波は単純に凶器になる。魔法を使うのが間に合わずに巻き込まれていく者、逃げようとして別の誰かにぶつかって
海に投げ出されてしまう者が続出した。
 水中さえももはや安全ではない。二百ノットという超高速で泳ぎ回るサメクジラの作り出した乱海流がイルカでも乗り切れないほどの
流れになって無秩序に暴れ狂い、潜って逃げようとしていた者たちはもみくちゃにされていく。
 それでも、もう海しか逃げ道はない彼らは必死に沖合いに出ようと争った。外洋にさえ出れば、飼いならされている水竜などが
放牧されている場所があるので安全なところまで行ける。それだけが彼らに残った唯一の希望であった。
 しかし、その希望を打ち砕こうと、バルキー星人はテレポートでアディールから消え、巨大化してサメクジラの暴れまわる海上に出現した。

「ウワッハッハハ! 逃がしゃしねえよぉ、今日からこの海はこのバルキー星人が支配する。てめえらはサメクジラのエサになれえ!」

 高笑いしながら現れた巨大星人に、逃げ道を塞がれたエルフたちは悲鳴をあげて右往左往した。
 バルキー星人はそれを愉快そうに見下ろし、まるで幼児が水溜りに落ちた蟻をつついて喜ぶように、頭部のランプから発射される
断続光線『バルキービーム』で狙い撃っては沈めていく。エルフたちの中には星人に対して反撃を試みようと魔法を使おうとするが、
台風並みに荒れ狂う海の上では思うにまかせず、海を安定させようとすればバルキー星人が襲ってくる。
 サメクジラのいる海は完全にバルキー星人の遊び場となっていた。かつて同族が太平洋で船舶を無差別に沈めまくった残忍さは、
この個体においても変わっていない。
 だが、エルフたちもまだ戦意は失っていない。
「使用可能な砲門はすべて巨人を狙え! 悪魔ども、きさまらなどになにも渡しはせん」
 エスマーイルは血走った目で叫んだ。プライドの高い者は自らの敗北を決して認めようとしない、さらに自己に陶酔する者や
差別主義者にとっては、他者に敗北することは自身の否定そのものにつながるから徹底的に現実を否定する。
 が、彼のヒステリックな叫びは戦意を喪失しかけていた水軍を瓦解の一歩手前で食い止める効果はあった。
「う、撃て! 撃てーっ!」
 生き残っていた鯨竜艦の砲がうなり、砲弾がバルキー星人に集中する。
「おわぁっ!?」
 思いもかけない反撃はバルキー星人の意表をついた。水軍艦隊は全滅寸前になりながらも、訓練を積んだ錬度を発揮して
バルキー星人に砲弾を浴びせかけ、それで残数少ない竜騎兵たちも生き返って魔法をぶつけはじめた。
「効いてるぞ、ようし今だ、ありったけを叩き込め!」
「こ、この虫けらどもが!」
 四方八方からの攻撃にはバルキー星人もたまらなかった。手でハエを追い払おうとするように暴れるが、攻守が逆転したら
エルフたちもやられっぱなしでいられるかと攻撃を強め、水竜がバルキー星人の足に噛み付いたりもしはじめる。星人は
逆上してサメクジラに助けを求めることも忘れていた。

 悪あがきが思った以上の効果を生み、バルキー星人を押しているエルフたち。一度は逃げるのをあきらめかけた市民たちも、
わずかに落ち着きを取り戻して沖合いへの避難を再開した。バルキー星人の命令を失ったサメクジラはそれを止められず、
バルキー星人はエルフたちの集中攻撃を受けてじだんだを踏むばかりだ。
 だが、そんな無様な光景をもうひとりのヤプールの手下は見逃していなかった。
「バルキー星人め、口ほどにもない。調子に乗って冷静さを欠くからこうなるのだ……仕方ない、手を貸してやる」
 緑の複眼が怪しく光り、アディール洋上の空がガラスのように割れる。そして、開いた異次元ゲートの真っ赤な裂け目の奥から、
青い体をうろこで覆い、鋭い鼻先を持つ超獣が海に降り立った。
「やれ! オイルドリンカー、存分に暴れるがいい!」
 三匹目の超獣、オイル超獣オイルドリンカーがその姿を現した。名前どおり石油を好物とするオイルドリンカーは、口から
体内のオイルを利用して作り出した高熱火炎を吐いて、逃げようとしていたエルフたちを攻撃し始める。
「ま、また出たあ! 引き返せ!」
「もうどこに逃げろっていうのよ。ああ、もう終わりよ。みんな死ぬんだわ」
 逃げ道は完全に塞がれた。オイルドリンカーの出現は、きわどいところで持ちこたえていたエルフたちの最後の士気さえも
打ち砕き、バルキー星人も解放されて、怒りのままの攻撃が降り注ぐ。
 陸も空も海も、怪獣と超獣と宇宙人にふさがれて、アディールは牢獄の囚人も同然であった。
 包囲網は徐々に縮まり、エルフたちは海からやっと逃げ出してきたばかりの街に押し戻されていった。
 もはや、誰の目にもヤプールがアディールの陥落や破壊などといった生易しいことを考えているわけではないことは明白だった。
奴はアディールに市民全員を閉じ込めて、一人残らず抹殺しようとしている。そして、自分たちにはすでに包囲網を抜けるだけの
力は残されていないことも。
 アントラーの大アゴが高層建築物をはさんで噛み潰し、スフィンクスとサボテンダーが美しい街を自分たちにふさわしい砂漠に
戻していく。バルキー星人は再び調子に乗って、サメクジラとオイルドリンカーを率いて水竜をなぎ倒し、水軍の残存戦力を
すりつぶしていく。
「ハッハッハハ! 壊せ、もっともっと壊せ。だが、まだこんなものではないぞ……最後の一人になるまで恐怖させ、絶望のうちに
滅亡させてくれる。もっともっとあがくがいい、そうすればするほどお前たちは我らの力を思い知ることになるのだ!」
 ヤプールは強大な力を思う存分に振るうことに酔い、ひたすら破壊の快楽を追及することをやめない。
 まさに、現世にある悪魔そのもの。ただし、ヤプールはただの悪魔ではなく、生きとし生ける者すべての映し鏡であることを
忘れてはいけない。ヤプールと同等に残忍で卑劣な人間などいくらでもいる、我々が自らの醜部を認めずに隠そうとする限り、
ヤプールは永遠に不滅なのだ。
 エルフたちの抵抗はしだいに微弱になり、生き残った空軍もアディール防衛部隊も生身でけなげにも防戦を続けているが、
それがなくなったときにすべてが終わってしまうと、生き残ったエルフたちは肩を寄せ合って、大いなる意志にひたすら救いが
あることを祈り続けた。

 だが、いくら祈っても神は現世に救いは寄こさない。大いなる意志といえど、奇跡の安売りはしないだろう。なぜなら、奇跡とは
この世に生きる者たちによってもじゅうぶんに起こし得るからである。
 危機に瀕したアディールを救援に訪れるものは、空軍主力が壊滅した今となってはあるはずがない。けれども、あるはずがない
南の空から、あるはずのない速度で現れた巨影。
「見えた! アディールだ!」
 東方号はついに念願のアディールをその眼中におさめることに成功した。だが、圧倒的多数の戦力を誇り、なおかつまだどんな
隠し玉を用意しているかわからないヤプールに対して、東方号が逆転の兆しになりうる可能性は、はなはだ低いといわざるを得ない。


 続く



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