あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのドリフターズ-05



「このっ――」
天を突くようなゴーレムを目前に捉えてルイズはルーンを唱える。先手必勝、やるしかない。
息も上がって呼吸一つするのもつらいが、それでも魔法を放つ――
――も、不発に終わった。相変わらず失敗の爆発がゴーレムではなく塔の外壁部へと炸裂して衝撃と音を残す。
とはいえゴーレムの動きは止まった。ルイズが大きく息を吸い込んで、肩の上にいる術者と思しき影に向かって叫ぶ。
「っ・・・・・・次はアンタに当てるわよ!!!」
術者とゴーレムはそれでも微動だにしない。ルイズの言葉など全く意に介さず。
ルイズは無視する術者へ向かってもう一度叫ぼうとした瞬間――ゴーレムが眼前から掻き消えた。

「アホ」
流れる地面を視界に捉えつつ、急激な加速度を感じながら、声のした方向へと顔を向ける。
「っ!? ブッチ!!」
ルイズはブッチに右腕全体で、猫が丸まるような感じで腰から抱えられていた。
ブッチはある程度距離をとったと見ると、ドサッと遠慮なくルイズを地面に落とす。
「痛ッ・・・・・・何すんのよ!!」
「・・・・・・もう一度"アレ"見て同じこと言えんのか?」
ブッチは冷静に銃口を"ゴーレム"に向けて言った。

 巨大なゴーレムは動き出すと腕を引き、真っ直ぐ突き出す。と、今度は壁を破壊してしまった。
ルイズはその迫力と風圧と芯まで響く音とに、ビクッと体が強張ってしまう。
術者は砕けて出来た壁の穴へと姿を消し、ゴーレムは依然として健在であった。
ルイズは無意識に体が震えてきて、声の一つも出なくなる。

 "なんなんだあれは・・・・・・? あんなものに自分は向かっていったのか?"

 "ハイ"になっていたのか・・・・・・一度頭が冷えてからゴーレムを見れば、それは恐怖一色でしかない。
ブッチですら敵と認識してから改めて見ると印象が全然違う。あんなものがもし――と考えるだけで冷や汗が滲む。
縦にも横にも奥にも巨大なゴーレムは、そこに佇んでいるだけでとてつもない威圧感。
命のやり取り――実戦――というものを知らぬルイズにとってそれはより顕著で、どうしようもなく畏怖すべきものだった。
さっきまで相対していたことが――今すらも――夢なのではないかと思うほどに。

 しおらしく歳相応の様相を呈すルイズにブッチは「ハッ」と呆れるように嘆息をつく。
そしてやや遠間から見上げる――目と鼻の先に我がもの顔で鎮座する巨体。こんなものはまともに戦える相手ではない。
冷ややかに巨人を観察していると、ひとつの影が"大きなケースのようなモノ"と共に、ゴーレムの肩に乗るのが見えた。


 ゴーレムからさらにもう少し離れて、遠くからキッドと並んでシャルロットは考える。
「・・・・・・もしかして」
ルイズが無事なことにほっと胸を撫で下ろしつつ、ゴーレムを見ていたシャルロットからそんな言葉が漏れた。
こちらを見下ろすようなゴーレムへと"箱のようなもの"を運んだ術者。
その大きさと軽やかさから恐らくは『浮遊』の呪文を使っているのだろう。
(土くれの・・・・・・フーケ)
ピンときた。運んでいる――即ち盗んでいるのだ。
さらに巨躯の土ゴーレムを操るとなれば、薄っすらと聞き及んだ知識でも思い出す。

 貴族をターゲットにする盗賊"『土くれ』のフーケ"。
(そう、丁度あそこは宝物庫の位置。品評会の隙を狙った・・・・・・)
本塔の宝物庫がある階層。内部から見る重厚な扉ではなく、挟んで裏側の壁を破壊して忍び込んだわけだ。
――であるならば、こちらがちょっかいを出さなければ大丈夫な筈だ。
あくまで盗難が目的であり、人間に危害を加えることが目的ではない。
あの人間大以上もある"箱"が、どれほど貴重な物かはわからない。
されど盗まれるだけで済むなのなら、人の命に比べて安いもの。

 多方面に責任問題はついて回ることになるだろう・・・・・・。
が、人が死のうものならもっと取り返しがつかないことになりかねない。
「ブッチさん交戦は厳禁です!! そのままいて下さい!! あれは盗賊! 何もしなければ後は向こうが逃げていくだけです!」
すると削岩でもするかのような音を立ててゴーレムが動き出す。
緊張が走るもののシャルロットの言った通り、わざわざ人間に危害を加えるようなことはしないようであった。

「盗賊だ? 俺達"ワイルドバンチ"の目の前で強盗するなんざ太ぇ野郎だ、なあキッド!!」
「いやだからって撃つなよオイ」
そうは言ったものの、キッドに突っ込まれるまでもない。勝ちの目は薄い――いや無いだろう。
別に自分達の私物でもないし躍起になることはない。

 その時ブッチは――何かに導かれるように――ルイズを見る。
地面にへたれ込むように座って俯くルイズから溢れる滴を・・・・・・必死に抑える嗚咽を、ブッチは見――聞いてしまう。


 もうわけがわからない――ルイズの頭の中はグチャグチャだった。
耳には入っていた――あれが盗賊なのだと。いずれにせよこのままでは姫さまに責任追及がいくことだろう。
品評会も中止だ。必死に練習して姫さまに聞かせたかった言葉が、見せたかったものがあった。
ジョゼットの後だろうと、比べれば何てことのないものだろうと、立派に見せたかった。

 そもそも姫さまは自分を見に来てくれたのではないか? ・・・・・・自惚れかも知れない。けれどもしかしたら――
それなら廻り巡って己の所為ではないのか? 自分がいたから姫さまは――
申し訳なさと、初めてのコントロール出来ない恐怖と、そして何も出来ずに助けられるだけの自分の無力さと・・・・・・。
もう何もかもで感情が溢れてくる。なんてみっともないんだろうか、なんて無様なんだろうか。
いつも大口を叩いておいて、一皮剥けばこんなザマなのだ・・・・・・情けない。

「おい、ルイズ」
名前を呼ばれて、ルイズは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をあげる。
恥ずかしいなどという感情などは彼方へ置いてかれている。
ただ霞んで見えるのは――ブッチの背中だった。

「まあ・・・・・・俺の主人は、形だけだが一応お前だ」
ルイズは思う――彼は何を言っているんだろうか。
口を開けば互いに罵り合うことがしょっちゅうで、主従の関係なんて微塵にもなかった。
きちんと名前で呼ばれた記憶すら、今が最初かも知れない。そして・・・・・・その後に続いた言葉の意味。
阿呆でも、空気が読めなくても、今だけはわかった。
召喚し、契約し、ルーンが刻まれ、どこかで自分と繋がっているからなのだろうか・・・・・・。わからない。
こちらの方が借りがあるというのに、彼――ブッチ――は言うのだ。
力が欲しいならくれてやると、自分という力を使えと。

「ブッチ・・・・・・お願い・・・・・・」
「また一つ貸しだな」
ブッチはルイズに背を向けたまま目を瞑ると、獰猛な獣が如く唇の端を歯が覗くほどにあげた。
次いで一足飛びにゴーレムへと向かって征く。何故だろうか、今は心地が良い・・・・・・テンションが高まっている。
あのガキが――ルイズが泣きベソかいていた時は、逆に何とも言えない気分であったのに。

「なっ・・・・・・おい!!」
「ブッチさん!!」
キッドとシャルロットの制止の声が聞こえたが、関係ない。
明日なんてない、明日に向かって撃つ。打算なく感情に身を任せるのも・・・・・・たまには悪くない。


 破裂音が二度響く――ガンダールヴによって強化されたガンスキル。
もたらされる精密射撃は、30メイルもある巨人の肩に乗る術者までも正確に捉えた。
虚を突かれたフーケは集中を乱してケースを落とす。
ケースの周囲に展開していた『浮遊』と、ケースそのものが盾代わりになったことで、フーケには傷一つない。

「チッ、無理か」
殺すつもりで撃ったのだが、やはり限度があった。
魔法に詳しくないブッチは、よくわからないが防がれたのだと判断する。
(初撃で決めておきたかったが・・・・・・)
今更思っても時既に遅し。空いた右手でコルトSAAを抜いて二挺拳銃で構える――
――頃には、フーケはゴーレムの左腕を使って完全に包み込むようにガード体勢をとっていた。
次いで振り上げられた右巨腕がブッチを襲う。ルイズは邪魔しないよう己の判断で既に走って逃げていた。

「ノロマが」
ガンダールヴで強化されたブッチの身体スペックであれば、回避するのも難しいことではなかった。
しかも何故だろう・・・・・・? 心なしか今まで何度か試した時よりも体が軽く感じる。
とはいえ、敵の攻撃は躱せるもののこちらにも決定打がない。
(今なら・・・・・・――)
ガンダールヴなら――例えこれだけ離れた距離でも"あの技"を当てられるのではないか。

「ブッチ!!」
試してみようと思ったその時に聞き慣れた声。すぐにキッドが指差す方向を見た。
とりあえず疑問は捨て置き、なるほどとキッドの"意図"を理解する。

 ブッチはフーケとゴーレムを引き付けるように、適度に攻撃しながら動き回った。
敵意を釘付けにすることで、キッドへ払われる注意を完全にこちらへ逸らす。
同時にキッドが指差した"それ"から、ゴーレムを引き離すように誘導し続ける――


 ――そのまま立ち回り続けて、ようやくキッドが準備を整えた。
装填されていた拳銃の弾薬は切れていて、なかなかスリリングだったものの間に合った。

「やれい、やっちまえキッド!」

 一繋ぎの音に聞こえる程の断続的な爆発音。
排出され続ける大きな薬莢が、鉄琴でも奏でるように地面に落ちる音。
そこまで見てシャルロットも辛うじて、"それ"が"銃"なのだということを認識出来た。
以心伝心で、キッドが準備していた――"フーケ落とした箱の中身"の正体。

 クランク手回し式の"ガトリング銃"。弾幕による瞬間制圧力は無類。
土で出来たゴーレム程度、みるみる内に削り穿っていくと同時に、あっという間に弾薬が切れて音も止む。
ゴーレムは無数に穴や窪みを残しながらも、すんでのところで形を保っていた。
撃たれている途中で全力で再生し続けた上でもその結果。
これがもしガンダールヴを刻むブッチであったなら、集弾することで終わっていたかも知れない。

 フーケ自身、精神力を多量に消費してしまったことにマズイと感じ始める。
「チッ」
キッドは舌打ちしながらすぐに弾薬倉を入れ替えようとする。
しかしそれを許すほどフーケもボケてはいない。ゴーレムを再生させながらターゲットをキッドに定める。
わけがわからないまま、兎にも角にも攻撃を加えようとする。
コルトSAAの装填を終えたブッチが銃弾を撃ち込むも当然無視する。

 その"直前"――シャルロットは後ろ腰に挿してある一本のナイフを左手で抜き、『飛行』で上空へと飛んでいた。
決定力がほんの僅かに足らないだけであった。あの"連射銃"ならば十二分に破壊出来る。
確かにあのゴーレムは強力だ。つくづく完成されたゴーレムと言えよう。
ありふれている土ゆえに、作成するのも修復するのも容易。土だから動かすのも金属と比べて簡単。
コストパフォーマンスに優れる上で、土系統メイジの卓抜した実力あっての、あの常識外れの巨大さなのだ。

 そして攻撃の際には拳を『錬金』することで、重量と硬度を上乗せし威力も申し分ない。
そんなゴーレムだからこそ、一定以上破壊すれば保てない。あれは"そういうもの"だ。
再生させる以上にバランスを崩せれば後は自重で潰れる。
硬い金属などではなく土製であることと、何よりも大きさが逆にネックになるのだ。

 もはや静観しているわけにはいかない。ガンダールヴを刻むブッチはともかく、キッドは違う。
確かフーケは殺人はしていないと記憶しているが、そもそも今のように有効な迎撃を加える人間がいなかっただけなのかも知れない。
それほど強力なゴーレムと術者であったわけだが、キッドが使った"武器"はそれを追い詰めるほどに凶悪だ。

 だから今回ばかりはわからない。危険と見て殺すかも知れないし、勢い余って・・・・・・ということもあり得る。
捕まりでもしたらそれはそれで面倒である、あの"巨大連射銃"が破壊されても問題だ。
それに・・・・・・友であるルイズの為にも――そしてアンリエッタ王女のためにも、気張るだけの価値があるというもの。
例えバレても構わない。優先順位を履き違えたりはしない。

 ゴーレムの大きさすら飛び越えて、シャルロットは敵味方全ての配置を眼下に収める。
(最も被害が少なく、効率良く破壊するには・・・・・・)
悠長に考えている暇はない、即断する。

 そしてシャルロットは"ナイフ"を両手で大きく振りかぶった――


 お付きの銃士隊や他の見物人を置き去りに、学院全体を鳥瞰出来る位置まで風韻竜イルククゥは飛ぶ。
「大丈夫ですか?」
「え・・・・・・えぇ、ありがとう」
ジョゼットは眼を鋭く見回しながら考える。差し当たっての脅威はやはりあのゴーレムだけ。

 飛行演舞をしている時にはあんな巨大なゴーレムは見当たらなかった。
当然周囲にも竜騎兵などの航空戦力は見えていない。
となれば、最初から学院内に潜んでいてタイミングを計っていたのだろう。

 僅かな時間の間にあれほどのゴーレムを創り出すのは並じゃない。
しかし今いる高度はいくら大きかろうと届く距離ではない。魔法だって"普通"は届かない。
「・・・・・・シャルロットの妹のジョゼットさんですね?」
昨夜の話の中で聞いた家族の名前。そして演舞が始まる前に各メイジと使い魔の名前が読み上げられている。
髪型や雰囲気は違うが、髪色と顔を見ればやはりよく似ている双子であった。

「ご存知でしたか。突然のご無礼ごめんなさい王女さま。ですがここが一番安全ですので今暫くの辛抱を・・・・・・」
「わたくしも立場は弁えているつもりです、今は大人しく我が身の安全に終始すると致します」
下手に怪我でもしようものなら、オスマン学院長他に多大な迷惑が掛かってしまうだろう。
とはいえ、自分以外の誰かが傷つくようなことでもあれば、身を呈してでも回復魔法を掛けるくらいの気持ちはある。

「それにしても・・・・・・なんなんですかねぇ、アレ」
「わたくしにも皆目見当が・・・・・・」
あのゴーレムは現状、目的がよくわからない。何度も拳を塔に打ち付けている。
破壊が目的なのかそれとも・・・・・・――

 アンリエッタは品評会の会場となっていた広場の方も覗く。
混乱こそしているようだったが、とりあえずしっかりと教師陣が宥めているようでまずは安心であった。
その気になれば『飛行』の魔法で逃げることも可能なメイジ達ゆえだろう。
雑務などを行う他の平民の見物人達も、学院のメイジの多さを知っているからか、そこまで騒いでいない。
群集心理が良い方向で作用している。

 そう・・・・・・当然教師だけでなく、発展途上とはいえ生徒達もメイジなのだ。
保有戦力として見れば、この学び舎は決して低くはない。
あのゴーレムは相当なものであるが、一体で攻めるにはまるで足りていない。
それゆえに余計に疑念が湧く。一体何をその目的としているのか――

「あっもしかして・・・・・・?」
「何かわかったのですか? ジョゼットさん」
ぼんやりとゴーレムと、その大きさを眺めていてジョゼットは気付く。
「お父さまから聞いたことがあります」
「父君に?」
「はい、前に注意しておけ的なことを言われました。確か『土くれ』のナントカってゴーレム使い」

「『土くれ』ですって!?」
アンリエッタは驚きをそのまま口に出す。
言われてみれば間違いない、あんな巨大なゴーレムを使う犯罪者は他にいない。

「確か、盗賊でしたかね」
「・・・・・・その通りです。国内の貴族相手に、様々な物品を盗んでいる大怪盗です」
「まぁ噂で聞くまでもなく、あんなの見せられちゃ・・・・・・とんでもない使い手ですね。
 白昼堂々、大胆に盗みに来たのも"計算済み"のことですかね。頭も良さそうです」

 含みがあるジョゼットの言葉にアンリエッタは疑問符を浮かべる。
「・・・・・・? どういうことですか?」
「状況的に内部犯だからですよ。さっきまでわたし達が演舞していた時には影も形もありませんでした。
 あんなデカブツが歩いて学院内の本塔まで近付くとなると時間が掛かりますし、すぐにわかります。
 既に侵入を終えていて、わたし達の演舞が終了した後すぐにゴーレムを創り出した以外にありません」

(あっ・・・・・・)
はたとアンリエッタは気付いてしまう。己の所為であると。
自分が来たことで本来の警備状況が変わってしまったのだろう。
それも自分のわがままだからと、魔法衛士隊を動かさず銃士隊のみで構成していた。
幻獣部隊と違って即応力に欠け、今はまだ戦力も大きく劣る銃士隊。
大丈夫だろうとタカを括っていた事実。内部犯であればまさに狙い打たれた形。

 つまりフーケはかなりの情報収集能力を持っている。
警備体制が変わったこと。イベントで一箇所に学院中の人間が集まること。魔法衛士隊が来ていないこと。
それら全てを見越した上で行動に出たのだ。敵ながら天晴と言わざるを得ないほどに見事な手際。
頭が良いどころではない。流石はトリステイン内を荒らし回って華麗に逃げ果せている盗賊。
今までフーケが重ねた盗難行為も例外なく、精査なリサーチの上で裏打ちされたものだったのだ。
だからこそ毎回毎回行動パターンが違い、正体の糸口すら掴めていない現状があるのに相違ない。


「っ!?」
「あれは・・・・・・」
爆発音がした方へと目を向ければ、ゴーレムから少し離れた位置に小粒に見えるものがあった。
しかしピンク色に映えるブロンドは、遠目でもそれが誰なのかわかってしまう。
「ルイズ・・・・・・!!」
親友を見紛う筈がない。危険だろうが見捨てられる訳もない。例えルイズでなくても――

「ルイズ・・・・・・――でも大丈夫でしょう、あっちを」
今にも飛び出さんとしそうなほどのアンリエッタの機先を制すように、ジョゼットが指を差して示す。
するととすぐに疾風が如く誰かが近付いていき、そのままルイズと共に離れて行ったのだった。

 安心するアンリエッタを他所に、ジョゼットは姉シャルロットとキッドの姿も見つける。
(ルイズとブッチさんがいるんだもん、そりゃいるよね)
当然と言えば当然だった。まさか来ていないこともなかろう。
が、もしいなければルイズとブッチの二人まとめて拾い上げても良かっただろう。とはいえ杞憂に終わった。
視界に新たに映るの大きな"箱のような物"を傍らに、ゴーレムへと乗る術者たるメイジの姿であった。

「確定ですね、明らかに盗みにきてます・・・・・・」
そんなことを確信していると、ルイズの使い魔ブッチが突如として攻撃を加えた。
箱は地面へと落下し、ゴーレムも応戦。見る見る内に闘争が始まってしまった。
「なっ・・・・・・!? ジョゼットさん!!」
「心配いらないですよ」
再び焦るアンリエッタを傍目に、ジョゼットは何の憂いもなかった。

 前にシャルロットと一緒にガンダールヴの力は見ている。あれが遅れをとるとは思えない。
「何が大丈夫なんですか!!」
アンリエッタの目から見れば到底納得出来ることではない。今まさに眼の前で命が失われるのかも知れないのだ。
「シャルロットが――"お姉ちゃん"がいますから、何が起きても特に問題ないです。
 それに・・・・・・わたしは先刻の演舞で魔力が殆ど尽きてますから、援護出来ません」

 ガンダールヴがいるのもある・・・・・・が、何よりも姉のシャルロットがいるから大丈夫なのだ。
下手すれば色々と露見してしまうだろうが、だからと行って自分達が行くわけにもいかない。
姉が自分に王女を預けた以上、それを違えることなど出来ない。
「ならわたくしだけでも!!」
「だから問題ないんですって」
ジョゼットの浮かべる――絶対全幅の信頼を置いた――笑み。
最悪『飛行』か『浮遊』で地面へと降りることを考えていたものの、アンリエッタは一旦飲み込む。
(ジョゼットさんは・・・・・・"わたくしの知らない何か"を知っている?)
大丈夫だと迷い無く言い切れるその理由とは。

「――何故なのか、お聞かせ願えますか?」
ジョゼットは説明せねばなるまいと決断する。本来であれば隠しておきたいこと。
しかしこのままでは、本当に眼下の戦場に飛び込みかねなかった。

 そして何より家族揃ってお世話になっているトリステイン王家。
その王女に問われてなお、隠し立てするのは憚られる。
「王女様はわたし達を――その境遇を知っていますか?」
「はい。実は昨晩シャルロットさんとお話しし、また友となりました」
「ならば話は早いです」
ゴーレムとブッチが繰り広げる鬼ごっこを眺めながら、ジョゼットは砕けた感じで語る。

「わたし達の国ガリアは滅び、その時物心ついて少しのお父さまとジョゼフ伯父さま。
 二人はお付きの者と共にガリアの財産を持って逃亡しました。当時はそれはもうかなり大変だったそうです。
 最終的にトリステイン国まで流れてきて、トリステイン王家の温情によって落ち着くまで・・・・・・。
 宝物をいくつも売却し続けて、最終的にお父さまの家と伯父さまの家で、分配して残ったのが――」

 ジョゼットはスッと、持っている大きく節くれだった杖を、差し出すようにアンリエッタに見せる。
「代々わたし達オルレアンの家系に伝わるこの杖と、"始祖の秘宝"の一つである"始祖の香炉"をわたしが譲り受けました。
 そしてシャルロットの方が"始祖のルビー"ともう一つ、"ある物"を貰い受けています。それが・・・・・・その・・・・・・」

 いざ言う段になってジョゼットは逡巡する。それを言っていいものなのだろうかと。
「それは・・・・・・?」
「それは・・・・・・トリステインへの忠誠と、姉を友と言ってくれた王女殿下を信頼しお話ししますが――」
覚悟を決める。変に隠し立てするよりは、スッパリと言う方が良さそうだった。
アンリエッタもその心意気に応じるかのように強張る。

「そのもう一つというのが『地下水』と呼ばれるマジックアイテム、いわゆるインテリジェンスナイフです。
 本体であるナイフを持った人物を水の魔法で操ることで、自由自在に諜報や暗殺をこなす魔道具。
 いざ支配した人物が見つかれば雲隠れする短剣。抗うことは出来ず、所有者を簡単に乗り換える『特性』。
 その気になれば国家転覆をも、そう難しくなくやってのけるほどに凶悪なシロモノなのです」

 アンリエッタはゴクリと喉を鳴らす。それは警告ではない、トリステインに弓引こうというものではない。
今まで持っていても、おかしなことには使っていない。
少なくとも自分が知る限り国内でそういったことが起こってはいない筈。
こうして話してくれたことも、絶対にそういうことには使わないという信頼の証であるとアンリエッタは受け取る。

「ナイフでありながら魔力を持ち、メイジでない平民でも操って魔法を使うことが出来る『特性』もあります。
 だから・・・・・・シャルロットが使っています。シャルロットはつい最近まで魔法が一切使えませんでしたから――」

 もっとも今のところ使えると言ってもコモン・マジックを少々だ。種類も威力も精度も、何故だか乏しい。
地下水を介せば系統魔法を使えるものの、無しではコモン・マジックもまともに使いこなせていないのが現状だ。
完璧に成功したのはそれこそ召喚と契約のみ。他は少し物を動かしたり、ほんの僅かに鍵を掛けたりといった程度に留まる。
イメージ通りに成功したことはないと言っていた。

「――・・・・・・なるほど、だから隠しておきたかったのですね」
確かにそのような傾国の恐れもある危険な魔道具など、封印されるか破壊されるかである。
良からぬことを考える人間が利用しようものなら、間違いなくロクなことにはならない。

「シャルロット本人は昔から好んで使いませんけどね・・・・・・『道具に頼っては己の実力にならない』って」
系統魔法は全く使えず、コモン・マジックも最近になってようやく覚えたてで、しかも微妙にしか使えない。
それでもシャルロットはルイズ共々喜んでいるし、練習もしているようなのだが――

 自分達は間違いなく一卵性の双子だ。
しかもわたし以上に頑張っているシャルロットが、魔法に関して駄目なのは昔からの疑問。
そんな双子の自分がいた所為もあるのだろう、上昇志向は子供の頃からだった。
血筋的に――遺伝的に使えない筈はなかったし、諦めるようなことはなかった。
それゆえにシャルロットは、地下水の『特性』そのものの危険性も含めて安易に頼らない。
そもそも順当に考えれば、魔法を使える可能性の方が、魔法を使えない可能性よりも遥かに高いからだ。

 ――それでも万が一があるかも知れない。
そんな時に備えての魔法が使える唯一の手段を奪いたくはない。
シャルロット自身も、最終最後の保険――何よりも"切り札"――として持っておきたかった。

「・・・・・・操る『特性』は脅威です。が、わたし達メイジにとって魔法を使える『特性』はさほどアドバンテージになりません。
 地下水そのものがかなりの系統を足して使えますから、未熟な頃は有用かも知れません。
 操られるのがメイジならば、多少なりと魔力を上乗せして強力に放つことも出来ます。
 それでもトライアングルクラスになれば殆ど無用の長物です。だけどシャルロット――お姉ちゃん――だけは違うんです」

 絶え間なく残響を流し続ける、聞いたこともないような破裂音を放つ物体とキッド。
手元で何か弄って見えるブッチ、さらに遠間で呆然と見守るルイズ。
空にまで響いていた音が止み、音の発生源に対して拳を振り下ろさんとするゴーレムと術者。


 そしてゴーレムよりも高く飛んだ、シャルロット――姉――を眺望しつつジョゼットはほくそ笑む。

「"全力"になったお姉ちゃんは誰にも負けないんですよ」



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