あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのドリフターズ-02



 ――逃――追――駆――詰――躱――落――流――

 ――撒――隠――欺――過――見――撃――殺――

 ――疲――囲――迎――破――奪――給――遁――

 もうどれほど経ったのか、幾度繰り返しただろうか。
一度は落ち着いた筈だったが、またも遁走の日々を送る。
考えたくもなかった。考える暇さえ惜しく、悠長に考える暇を許してくれなかった。
そしてそんな闘争と逃走の日々は――突然終わりを告げた。

 二人して言葉を失った。
相棒が隣にいるという事実が、互いにこれが白昼夢ではないのだろうことを意識させていた。
寝惚けていたわけじゃない。気付けば自分達は"そこ"にいたのだ。
石造りで囲まれた――異様なほどに扉のようなものが並ぶ――細長い通路。
終わりがないと錯覚するほどに整然と続き、異様な圧迫感すら感じる。
心なしか・・・・・・空気も重い。対面にはワークデスクに向かう一人の眼鏡を掛けた男。
事務仕事さながらに淡々と、何か紙束のようなものを眺めている。

 二人の内の片一方が、眼前の男に問い詰めようと銃を構えた。
「おい」
机に向かう眼鏡の男は一瞥だけくれると、すぐに書類へと視線を戻す。
その様子を見て二人の男は互いに視線を合わせた。言葉にせずとも伝わる次の行動。
「なんとか言えよこの――」

両側から挟み込もうとする為に、分かれてそれぞれ一歩踏み出した瞬間であった。視界が一色に染まった。
二人の前には"輝く鏡のようなもの"が出現し、タイミング良く揃って突っ込む形になってしまったのだ。
"光の扉"ごと包まれた二人が掻き消える。一人残された事務員風の眼鏡を掛けた男は、目を細めて何か考えている様子を見せる。
しばらくすると――何事もなかったかのように――作業へと戻るのだった。


「ッ・・・・・・」
「え・・・・・・っと」
「こ・・・・・・これは・・・・・・」
シャルロット、ルイズ、コルベールは三者三様に言葉に詰まる。眼前には幻獣などではなく、二人の人間。
"人間が召喚"されたことなど今までに聞いた事がない。さらに言えばその二人は――

「漂流者・・・・・・」
シャルロットの知識の中からそれが該当した。出で立ちから見ても間違い無いだろう。
あのオルテ国父のように、しばしば人間がどこからともなく流れてくることがある。
"漂流者"と呼ばれる彼らは、異世界から現れハルケギニアとは一線を画す多種多様な文化や知識を持っている。
それゆえに大抵見つかっては国や、場合によっては特定貴族などがその知識を得るべく、お抱えとして保護される立場にあるのだ。
特異な衣装を身に纏い、何やら武器のようなものも持っている漂流者。

 本来であれば珍しいだけで問題ない事柄。
しかして今ばかりはタイミングがタイミングである。
明らかに召喚されたタイミング、それも二人同時に。

「・・・・・・?! おいっ! キッド!! 大丈夫かオイ!!」
周囲に注意を払い敵意を含んだ目線を送りつつ、フードを被った男が――知り合いらしいのか名前を呼んで――もう一人の男へと駆け寄る。
もう一人の帽子を被ったキッドと呼ばれた男は意識が朦朧としているのか、寝ぼけ眼でフードの男を見やる。
「あ~・・・・・・ブッチ・・・・・・?」
「ッたく・・・・・・いい加減に起きろボケ!! またおかしなことになってやがる」
ブッチと呼ばれたフードの男の真剣味を帯びた態度に、ようやくキッドと呼ばれる帽子の男は覚醒する。
「ん~・・・・・・参ったね、夢じゃなかったんだ"アレ"」

 コルベールよりも先に事態を把握したシャルロットは男達へと近付こうとする。
「おいこら、動くな」
いち早く反応したブッチが武器――よく見れば恐らく銃――をシャルロットへと向ける。
警告を無視すれば容赦なく危害を加えるだろうことは、その眼光から見てもありありと理解出来た。
「失礼、私の名前はシャルロット。・・・・・・ブッチさんとキッドさんでよろしいですか?」
シャルロットは抜き身の剣に気付いて鞘へと納め、両手をあげて無害であることをアピールする。

 その間・・・・・・まだルイズは呆然とし、コルベールは諸々測りかねて様子を見ていた。
「はっ、さっきの野郎とは違って話は通じるようだな」
そう言うとブッチはシャルロットへと照準を定めていた銃口をはずす。
「確かに俺はブッチ、ブッチ・キャシディ。こっちは――」
「キッド、サンダンス・キッドだ」
あっさりと名前を聞けた、しっかりと意思疎通は出来ている。まずは緊迫した状況から脱したことにシャルロットは安堵する。
(・・・・・・さっきの野郎って・・・・・・?)
と、疑問に思うもののとりあえずは後にする。

「不躾で悪いのですが、『ハルケギニア』という単語に心当たりはありますか?」
ブッチとキッドは見合わせて肩を竦めた。
「いや知らねぇな」
「ああ、知らない」
シャルロットは目を瞑る。確定だろう、彼らは"漂流"してきた人間だ。
そして漂流者は皆流れてきてすぐ、自分が置かれてきた状況がわからないらしい。であれば――

「申し上げにくいのですが、貴方がたはこの世界の人間ではありません」
「はあ?」
「・・・・・・?」
「ここはハルケギニア大陸のトリステインという国です。お二方は漂流者と呼ばれる異世界人なのです。
 いきなり言われて訳がわからないと思いますが、他にも同じような方々がいますので確かです。
 とりあえずお二人はお知り合いのようですので、まずはそのことを念頭に現状を把握をお願いします」

 眉を顰めた二人は、声を小さく話し始める。
「ふゥ~・・・・・・」
シャルロットは一息つく。書物や伝聞で聞きかじった程度から来る対応であったが、多分これで大丈夫だ。
まずは相手を落ち着かせ、こちらも落ち着く。いきなりドンパチでも始まればタダじゃ済まなくなってしまうのだから。
「ミス・シャルロット・・・・・・咄嗟のことに・・・・・・美事です」
教師として生徒に先んじられ恥ずかしいよりも、優秀過ぎるシャルロットにコルベールは感心する。
「"漂流物"は人間も含めて・・・・・・さしあたって王家に判断を仰ぐのが常ですが――」
「そうですが、しかしこの場合・・・・・・」
「わたし達の召喚・・・・・・にはならないのですか?」
いつの間にか我を取り戻したルイズが、シャルロットに続くように口にする。

 そうなのだ――たとえ"人間"でも"漂流者"でも――召喚されたのであればまた別の問題が絡む。
タイミング的に見れば明らか。立ち位置から察すればキッドをシャルロットが、ブッチをルイズが召喚したことになる。
それに通常"漂流者"は異世界言語を話すと聞くが、目の前の二人には言葉が通じ合っている。
これもサモン・サーヴァントの影響の可能性は非常に高い。

「判断を仰いでからでも遅くはない・・・・・・と思いますが」
コルベールは苦言のように漏らす。一教師が裁定下せることではない、オスマン学院長でも同じことだろう。
「そう・・・・・・ですか」
ルイズの表情が目に見えて曇る。なにせ初めての魔法成功なのだ。
「・・・・・・・・・・・・」
ルイズの抱いている張り裂けそうな想いはシャルロットも相違ない。
もしかしたらこれをキッカケに魔法が使えるようになるかもと言う淡い期待、大いなる一歩になるかも知れないのだ。

「なあお嬢ちゃん、ちょっといいかな」
キッドとブッチが話を終えてこちらを呼ぶ。
「ミスタ・コルベール」
「・・・・・・えぇ」
コルベール教師に承諾をとってから、シャルロットはキッドとブッチの元へと歩いて行く。
「もう一度確認、ココは本当に異世界?」
キッドもブッチも歳相応に様々な経験を積んでいる。瞳や態度を見ればある程度、嘘か真かくらいは判断出来る。
そもそも突拍子も無さ過ぎる嘘を吐く理由も、意味も無い。
「はい、異世界です」

(信じさせるのに手っ取り早いのは確か・・・・・・――)
シャルロットは空を見上げると、"上空で旋回し様子を遠目に窺っていた妹"へと手を上げて合図を送る。
ジョゼットはすぐに気付くと風竜ごと地上へと降り立った。漂流者達がいた世界にはいないとされる幻獣の代表格。
「うおっ!? なんじゃこりゃっ!!」
「うわぁ~・・・・・・」
当然ブッチとキッドはそれぞれ驚きを隠せない様子であった。

「これが証となるのではないですか?」
シャルロットはジョゼットと目だけで会話し頷く。ジョゼットはまた風竜と共に空へと飛んだ。
「あ・・・・・・あぁ・・・・・・確かに、なんじゃありゃあ」
「突拍子がないね」
「ですが夢ではありません、現実です。これが現実」
「・・・・・・俺達以外の連中ってのは?」
「"漂流者"と呼ばれてこちら側の世界に稀にやって来るのです。そちら側の世界からすれば神隠しのようなものですか。
 こっちに来た漂流者は基本的に各国に召し抱えられて技術や知識の提供をしつつ、生活一般の面倒を見てもらうことになるか。
 若しくは『十月機関』と呼ばれる組織が・・・・・・確か漂流者保護を名目に、各所で集めて回ってると噂では聞いています。
 場合によっては野垂れ死ぬことも決して珍しくないらしいです。敵対的な種族や獣に襲われて殺されることもあるでしょう」

「ふ~ん・・・・・・そういう意味じゃ、"俺達"は運が良いってことか」
「そうかも知れませんね」
「・・・・・・受け入れるしかないのか」
思ったよりはブッチもキッドも、割かしアッサリと納得してくれたようだった。
未だに驚きは隠せてないが、同時に諦観――達観した感じが見て取れる。

「ははっ面白ぇ、クソ騎兵隊どもザマァねぇな」
「流石にこんな所までは追って来れないだろうしねぇ」
二人にとってはフロンティアスピリット上等だった。開拓どころか別世界なんてある意味心が躍る。
それにあのままボリビアで逃げ続けてもジリ貧だったろうことは、身をもって体感していた。
新天地で"ゼロ"からやり直すというのも、存外に悪くないのではないか。何故だか言語まで通じてるという特典付きだ。

 シャルロットは談笑する二人の漂流者を見つめる。
"それ"はルイズの為だけではない、自分の為でもある。もし――今ここで――"契約"してしまえば――
使い魔召喚の儀は神聖なものとされている。使い魔は基本的に代えが効かない。
正式に契約を果たせば、例えトリステイン王家といえども好き勝手には出来ないだろう。
そも漂流者本人達の意思は極力尊重される。それに最悪必要なのは・・・・・・使い魔そのものではなく、魔法の成功という結果と自信だ。
召喚して契約する、その一連の流れをもって真の成功と言える。

 正直人間だとは思わなかったが・・・・・・背に腹は代えられない。
乙女の"それ"を引き換えにしてでも欲しい可能性が――価値――がある。
すぐさま決心するとシャルロットは左手でさりげなく剣の柄を握った。

「我が名はシャルロット――」
自分は王族でもなく貴族でもない・・・・・・ただのシャルロット。
「五つの力を司るペンダゴン――」
すぐ傍のキッドとブッチにも聞こえない静かな詠唱。コルベールに気付かれれば止められかねないゆえの措置。
「この者に祝福を与え、我が使い魔と為せ――」

「んっ?」
ブツブツと何かを呟いた後、しゃがんで顔を近付けてくる少女。
「キッドさん、失礼します」
返事をする間もなくキッドに口唇が押し付けられた。
数瞬呆然としつつも、突然のことに判然としないままキッドは上半身だけでたじろいだ。
唇が離れ顔をはっきりと見える距離まで遠のく。
「ん・・・・・・くっ・・・・・・、一体何のつもりだい?」
状況が飲み込めぬままも、キッドは紳士的に応ずる。
大人として、男として、狼狽えるのが恥ずかしいという思いが平静を装わせた。
恋人であったエッタの顔が少しだけ頭をよぎる。横ではブッチが「ヒュ~♪」と口笛を鳴らして煽っているも気にしない。

「ごめんなさい、その――」
シャルロットが弁明をしようとしたその瞬間、キッドに異変が起きた。
「うぐ・・・・・・」
額になにやら熱いものを感じて、キッドは反射的に空いた手で抑えて背を丸める。
「ミス・シャルロット!!」
何をしたのか察したコルベールがルイズと共に駆け寄ってくる。

 そして熱さが引いたのかキッドは手をどける――
――と、よく見なければわからないレベルだが、キッドの額におかしな紋様が浮かび上がっていた。
「あ~? なんだそりゃ?」
「あ・・・・・・」
やや高い嬉色を帯びた吐息が漏れる。
すぐにシャルロットは、何事かと覗き込んでいたブッチと同じくキッドの額を凝視した。
「うっ・・・・・・なんなんだ」
またも近づいた少女の端正な顔に驚き、やや弱気な声色でキッドは問う。
しかしシャルロットはそんなことよりも、額に確かに顕れた"結果"にフッと笑った。
常に冷静な・・・・・・というよりは冷ややかな印象だった少女の歳相応の笑み。
見惚れるのとは少し違うが、キッドも思わず何か和らぐような感触を得る。

「せ・・・・・・成功したの!?」
「なんと・・・・・・」
ルイズは興奮をそのまま口に出し、コルベールは疑問半分と確信半分と言った声音。
「キッドさん、本当に申し訳ありません。実は――」
シャルロットは逸る気持ちを抑えてなるべくわかりやすいように説明する。
今は召喚の儀式中で二人は召喚され、そしてたった今契約を交わしてしまったということを。
世界の違う人間に理解してもらうのにやや難航するもどうにか説明を終える。

「つまり君が・・・・・・その・・・・・・主人だと?」
「はい、ごめんなさい」
シャルロットは申し訳なさそうに謝る。
「オイオイ、随分と勝手な真似だな」
ブッチが横から毒づく。当然の批判にシャルロットはさらに罪悪感が積み重なるが、それでもしっかりと気を保つ。
「契約に関しては私のエゴです。申し開きは出来ません」
「う~ん・・・・・・」
キッドは少しだけ考える。相手は少女だ、大人げなく怒ったり叱るのもまた違う。
「何か不自由は生じるのかい?」
ある種の暴挙に出た事情を聞くよりもまず、実害の有無をキッドは質問する。
「いえ、例えば私の命令を効かざるを得ないとか・・・・・・そういったことはありません。
 そうでなくても当然私は貴方を束縛するようなことはしませんし、私に出来る範囲で何でも協力させていただきます」

 そう言うとシャルロットは深々と頭を下げる。そしてはたと気付いて顔を上げた。
「あっ、額の文字についてはその・・・・・・消えないかも知れません。本当にすみません」
使い魔は契約した際にその証が体の各所にルーンとして刻まれる。
当然それが額となれば外見的に、多少なりと不自由が生じてしまうかも知れない。
「ん・・・・・・鏡とかある?」
「えっと・・・・・・はい」
キッドはシャルロットから小さな手鏡を受け取るとすぐに確認する。

「目立つか?」
自分で見てもわかるものの、一応隣にいるブッチに聞いてみる。
「・・・・・・まー、正直に言えば目を凝らさないとわからないな」
「だよねぇ」
ぶっちゃけてしまえばパッと見では全くわからない。であるならば、さほど気にすることでもない。
それに少女シャルロットは反省し償おうとしてくれている。謝罪の気持ちは伝わるし、誠意も感じられる。

 責められるだろうとわかっていただろうに、なお敢行した理由があったことも容易に想像出来る。
それに今時分に聞いたところによれば異世界のどこかに放り出されるところを、結果的に比較的平和そうなココに喚んでくれた。
その上で敬意を払いわかりやすく丁寧に説明してくれた少女に対して好意こそあれ、こんな程度で邪見にする程でもない。
そんな思いは悪態をついてるブッチも同様の筈だ。

「これ以上問題ないならいいよ別に」
手鏡を返しながら、温和な笑顔で言ってあげる。
「・・・・・・ありがとうございます」
そして最後にもう一度だけ頭を下げた。うん、やっぱり良い子だ。

「ちょっと失礼」
コルベールは先刻から、どう判断し対応しようか考えているようだった。抑えていた探究心からキッドの額を覗き込む。
額にルーンという特徴。実際に薄っすらと読める文字。コルベールの記憶の中で何かが引っ掛かった。
教育者であると同時に研究者の性分を持ち合わせるコルベールは、その明瞭としない気持ち悪さが拭い切れない。
このままここで待つよう、その場にいる全員に告げると『飛行』の魔法も使わずに走り去った。

「・・・・・・」
諸々が落ち着いたシャルロットは、太股に巻いた専用のベルトに挿してある飛ヒョウの内一本を引き抜いた。
指を引っ掛ける丸い輪から細めに伸びる菱形の刃。
手の平にスッポリと収まって隠せる大きさの、黒が強い鈍色の刃。
それを天秤のように指先でバランスをとるように置く。
何故だかコルベールがいなくなった今は"好機"。けれど"その前に"試しておかなければならない。
火水風土に属する系統魔法よりもさらに初歩。コモン・マジック『念力』を使う。
主に窓などの開閉に使用される物体を動かす基本魔法である。

 万感の思いを込めて口語の呪文を唱える。才ある者であれば物心ついて僅かな子供でも出来る魔法。
シャルロットの瞳が輝く。微動だにしない右手人差し指から、飛ヒョウが跳ねるように地面へと落ちたのだ。
つまり――魔法は・・・・・・成功した。特殊な召喚や契約とは違う。普段から使う実践的な魔法。
本当は勢いよく飛ばすつもりだったのだが、この際それはどうでもいい。

「ふっ・・・・・・ふふっ・・・・・・」
確かに成功したという実感が今なお体の中を駆け巡っている。メガネ越しの双眸がこれ以上なく煌めく。
高揚する心身がまるで武者震いでもするかのように、言い知れぬ興奮と緊張をもたらす。
「やった! 遂に出来た!! "アナタ達"も感じたでしょ、私の成功を・・・・・・――」
"この場に見えない誰か"に訴えかけるようなシャルロット。
普段の顔を忘れた少女はガッツポーズをとって、全身で抑え切れない感情を表現する。
その様子を見るまでもなくルイズの脳内では延々と思考が回っていた。

「――ッッ、んんっ・・・・・・コホン」
シャルロットはキッドとブッチの視線に気付いてハッとすると、すぐに元の態度を装い飛ヒョウをしまいつつ咳払いを一つした。
そして立ち尽くすルイズへと顔を向ける。
「ルイズ・・・・・・やれるチャンスは今しかない。ミスタ・コルベールがいなくなった内に――」
言わんとしていることは当然理解した。シャルロットは魔法が使えるようになったのだ。
召喚と契約、そしてコモン・マジックと続けざまに。

「キャシディさん」
言うが早いか、ルイズが決心するよりも先にシャルロットがブッチへと聞く。
「ブッチでいい・・・・・・で、完全に蚊帳の外なんだが?」
「失礼、今から説明します。それじゃあブッチさん――」
「待って・・・・・・そこから先はわたし自身で・・・・・・」
ルイズはシャルロットを遮ると、ブッチへと目を交わす。
意はないがどこか鋭い眼光に気圧されるものの、ここで退くわけにもいかない。
長年の悲願――思い描き続けていた輝かしい未来――が超えた先に待っているのだ。

「・・・・・・わたしと契約して従僕になってよ」
「ぁア?」
ブッチは思わず睨みつける。
「うっ・・・・・・言葉が悪かったわ。わたしの為にわたしの欲で契約をしてほしいの。従僕とか下僕とかはそういうのは関係ナシに」
「・・・・・・」

「いいんじゃないか」
ともすると、キッドからまさかの援護射撃がはいった。
「彼女・・・・・・シャルロットの一連の様子を見てればわかるだろ? 彼女達には何かどうしても欲しい大きなメリットがあるんだよ」
「はい、お察しの通りです」
キッドの思わぬ優しさにシャルロットが言を足す。
「ここは魔法学院で、私達は本来魔法を使う為に修練する生徒です。ですが他の生徒達と違って、私達は一切魔法が使えませんでした。
 何故だかは誰にもわからなくて・・・・・・それでも今、キッドさんと契約することで私は魔法を使えることが出来るようになりました。
 これは召喚したことだけではどこか足りません。契約を経てピースが埋まり完成するような感覚がありました。だから――」

「――だから、契約くらいしてやれよ。別に減るもんじゃなし」
「・・・・・・うっせ。そもそもだ、よくもまぁホイホイと信じられるな。嘘を言ってるかも知れねーだろうが」
「その時はその時だろ、見る目がなかっただけさ」
「チッ」とブッチは舌打つ。騙されているとは毛程にも思ってない。が、かと言ってこちらに得もない。
それにだ――

「――大体わけわからん模様がデコに書かれるなんてゴメンだ」
「一応言いますと、"ルーン"は体の場所に刻まれるので必ずしも額というわけではないです」
「・・・・・・じゃあ、"コレ"って?」
オデコに指差すキッドに、シャルロットはバツが悪そうにツイっと目を背ける。
あぁ、己は運が悪かったんだとキッドはうなだれる。

「・・・・・・もし・・・・・・もし契約してくれたなら、わたしは貴族。相応の見返りは用意出来るつもりよ」
ルイズがメリットを提示する。被召喚者側にメリットがないなら別途で足してやればいいのだ。
「ほぉー、例えば?」
「どこかへ行くのなら金貨を用意するわ。安住したいなら土地と家も用意する。食べ物でもお酒でもとりあえず暮らしに不自由はさせないわ!」

 ブッチは頭の中でスマートに考えを整理する。
少女の必死さにほだされては負けだ。キッドのようにお人好しでもない。
もはや二人だけの"ワイルドバンチ強盗団"。それでも自由であるべきだ。
この世界では既に"漂流者"とかなんとか、異邦人という不自由を既に背負っている。
どこに行ったって、どこにいようと、"俺達に明日はない"。"俺達には今日しかない"。"明日に向って撃て"。
――とはいえ、保険はあっても越したことはない。
説明されたとは言っても大まかにだけ。それに理解し切るには・・・・・・完全に受け入れるには時間も掛かる。
言わば霧の中でランタン一つという光源がある程度。立ち位置は見えているが、周囲がまるで見えていない。

 正直如何ともし難い。
(さっきのハゲがいないうちに事を運ばなければ面倒になるようだし・・・・・・)
言葉と態度を観察していればそれくらいは察しがつく。
現状シャルロットから聞いた説明から考えると、自分達にある選択肢は概ね四つ。

 お国に管理され技術提供をする。
"なんちゃら機関"ってのの保護下に入る。
全て知らん顔をしてどこかへと逃げ続ける。
眼前の少女達に貸しを作ってやって世話になってやる。

(・・・・・・どこぞの誰かの下で管理されるなんて真っ平御免だ)
まして国家の下なんて御免被りたいところ。
(・・・・・・怪しげな機関に保護? 笑えない)
単純に胡散臭い。実際にこの目で見て会って話してから判断しても良いが、今は時間が差し迫っている。
(・・・・・・逃げ続けるか?)
それはそれで自分達らしい。が、アテがなさすぎる。またどこかで強盗でもしてまた追跡され続けるのは勘弁だった。
(少なくとも――自由に――不自由はしないか)
少女達はそう言っている。契約というものに拘束力もないようだし、逃げるにしても路銀には当分困らないだろう。
貸しを作れる時間も後少ししかないかも知れない。それに正直疲労困憊で・・・・・・今すぐ休みたいのも本音である。

「・・・・・・いいだろう」
体も心も自由あってのワイルドバンチ。その意思と行動は自分達だけが決める。
ルーンってのが少々困りモノだが、幸いキッドのもそこまで目立ってはいない。
これからどう行動を移すにせよ、今は契約しておくのが最良と判断する。
「ほ・・・・・・ホント?」
「あぁ、さっさと済ませな。その代わり絶対に忘れんなよ、大きな貸しを」
ルイズは目尻に溜まった涙をさりげなく拭う。
「当然よ、我がラ・ヴァリエールの家名とわたし自身のプライドに誓うわ」

 契約の呪文を唱え、キスが交わされる――
滞り無く終わり・・・・・・ルイズは気恥ずかしさが溢れそうになるが、それは頑固なプライドでおくびにも出さなかった。
「ッたく、俺は少女趣味じゃねえってのに」
「な・・・・・・ッッ!く っ・・・・・・わたしだってアンタみたいの趣味じゃないわよ!!」
「オイッお前が文句言える立場かよ!」
「それはそれ、これはこれよ! 取引とは別問題だわ!!」
売り言葉に買い言葉でギャーギャー喚くルイズとブッチ。そしてそれを微笑ましく見守るシャルロットとキッド。

「大体なあ・・・・・・熱ッ!!」
ブッチが手袋をはずして左手の甲を見ると、うっすらと紋様が浮かんでいた。すぐに熱さも引いていく。
「あっいいなあ」
キッドがつい口に出す。
「確かにデコよりゃよっぽどいいな」
「・・・・・・・・・・・・」
辛辣なブッチを半眼でキッドが見つめ、シャルロットはルイズへ目配せする。
いつまでもくだらない口喧嘩をしてないで、することがあるだろうと。

 ブッチはあぐらをかいたまま、ドカッと草の上に上半身を投げ出した。寝転んで天を仰ぎ見る。
キッドもそれにつられて手を地につけてふんぞり返ると、同じように果てしなく続きそうな青空を眺めた。
まだ実感が満たされたわけではないが、あっちでもこっちでも変わらぬ空の色にどこか懐かしさを感じ入る。

「・・・・・・まっなんとかなるか」
「・・・・・・あぁ」
視線を戻せばどこかへ行った筈のハゲが、『飛行』して戻って来るのが遠目に見えた。
「生身の人間が空を飛ぶなんてねぇ・・・・・・」
「あんなのばっかいるのか、"コッチの世界"ってのは」

 横目で見れば、桃色ブロンドの少女が手から光の球のようなものを出して喜んでいた。きっとあれも『魔法』とやら。
思い知らされる異世界の光景に、感動・恐怖・好奇・不安など、様々な感情が去来する。

 キッドとブッチは示し合わせたかのように目を合わせたかと思うと、互いに肩を竦めて笑った。
前途は見えない。それでも死ぬまで楽しく生きる。
好きな時に・・・・・・好きなだけ。必要な時に・・・・・・必要なだけ。

 躊躇わず自由に――それこそが、もうたった二人だけの・・・・・・"ワイルドバンチ強盗団"。



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