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機械仕掛けの使い魔-第16話



機械仕掛けの使い魔 第16話


 学院の本塔付近に、教員、学院生、使用人全員が集まっている。誰もがおろし立ての正装を纏い、直立不動のまま開け放たれた正門の向こうを見ていた。
事前に予定などがあったワケではなく、突然の出来事であったが、それでも全員がこのように完璧に準備を整えられたのには理由がある。
 そう、今日はトリステイン王国切っての主賓が訪問する日なのだ。そんな機会に粗相があっては一大事と、その日の授業は全て取りやめになり、主賓を迎える為の準備が整えられた、というワケである。

 そんな様子を眼下に見下ろしているのは、コルベールから呼び出しを受けたクロである。本来ならば全員が本塔前に集まらねばならないのだが、コルベールはオールド・オスマンから直々に「ガンダールヴの調査を優先しなさい」との命を受けており、
またクロは元々今回の来客に一切興味がない為、暇潰しもかねて呼び出しに応じていた。

「さて、早速本題に入りましょうか」
 机からノートと数冊の書物を取り、コルベールはクロの真向かいに座って、
「まずは、これを見てください」
ある書物の見開きページをクロへ差し出した。
「この本に描いてあるのが、始祖ブリミルの使い魔、ガンダールヴに刻まれたとされるルーンです」
書物と自分の左手に刻まれたルーンを見比べるクロ。
「へぇ、確かにそっくりだな」
「このガンダールヴ、神の左手と言われておりましてな、あらゆる武器を使いこなし、始祖ブリミルを守った、と言い伝えられておるのです」
「ふーん…」

 こう言われても、クロには全く実感が沸かない。ハルケギニアに召喚され、ルイズと契約してから扱った武器は、ガトリング砲となんでも斬れる剣、しっぽミサイルにデルフくらいだ。
先に挙げた3つは元の世界でも使い慣れていたし、デルフも剣である以上、そこらの剣士よりも遥かに熟達している。全速で走っている電車の車輪を真っ二つに出来るほどなのだ。ルーンの効果など、実感しようもない。

「まぁ、相棒はガンダールヴの力を発揮した事ねぇしなぁ」
 と、ここで腹部ハッチを内側から開け、デルフが顔を出した。
「おや、インテリジェンスソードですか。最近はとんと見なくなりましたが…」
「ガンダールヴの話みてぇだからな、俺がいなきゃ話にならんだろ」
カチカチと音を立てながら、デルフが語る。
「相棒のルーンにゃ、2つの効果があんだよ。1つ目は、武器を手にしただけでその武器の特徴から使い方まで、何でも頭に入ってくる。今まで使った事のねぇ武器でも、即戦力として投入出来るってワケだ。
ま、これは相棒にゃ意味ねぇわな。自前の武器で何でも事足りちまうし、他の武器でも大体使い方はわかんだろ?」
「まーな。もし使い方がわかんねーなら、投げりゃいい話だしよ」
 クロの馬鹿力をもってすれば、そこらに転がっている岩も立派な攻城兵器となる。根本的に、クロの周りにある物は、どれでも武器となり得るのだ。武器の使い方など瑣末な問題である。
…むしろ問題なのは、それが意思疎通可能な相手であっても、容赦なく武器として酷使する点だが。ロミオなど、その最たる例である。

「2つ目。コイツは本来結構デカいんだがな、ガンダールヴは武器を持つと、身体能力が飛躍的に向上すんだ。鞘に納まったままの剣でも、弾切れの銃でも何でもいい、とにかく武器を手にしただけで、身体が軽くなって普段以上に動けるようになる。
オマケにその具合も、感情の高ぶり方でさらに上昇する。だがなぁ…」
 身体能力の向上。本来であれば、非常に有用な効果である。しかも条件が武器を手にするだけなのだから、戦闘以外のあらゆる場面に応用が可能だ。しかし、デルフは最後に言葉を濁した。それもそのはず。
「体が軽くなったなんざ、今まで一度もなかったぜ?」
「俺も相棒に使われ始めてからそこそこ経っちゃいるが、ルーンの効果は全然感じねぇのよ。前はそんな事なかった筈なんだけどよォ」

「前…? 君は以前にも、ガンダールヴに振るわれていたのですか!?」
 デルフの台詞から、聞き捨てならない単語を聞き取ったコルベールは、身を乗り出してデルフに詰め寄った。
「以前とはいつの時代なのですか!? 始祖ブリミルの時代以降にも、ガンダールヴが現れたと!? 
…はっ、もしや君は、始祖ブリミルに仕えたガンダールヴに握られていたと言うのですかっ!?」
 返答を許さない質問の弾幕である。これでは答えようにも、全てコルベールにかき消されてしまう。しかし、
「んー、忘れちまった」
デルフは実に簡単な一言で、コルベールを黙らせてしまった。
「なんせ、千年単位で昔の話だぜ? おめーさん、仮に千年後も生きてたとして、今この瞬間の事を覚えてられっか?」
コルベールはオールド・オスマンの姿を思い出し、肩を落とした。推定300年でもアレである。その3倍以上の年月を経て、果たして自分は現在の記憶を保っていられるか。この瞬間の思考がバレたら立場的に非常に危ういコルベールであった。

「そう言やデルフ、オメー前にオイラの事を『使い手』っつってたよな」
「おぅ。『使い手』、それ即ちガンダールヴよ。身体も記憶もすっかり錆びちまってたが、こないだ墓を作ってた時に、ちょいとだけだが思い出したんだわ」
 墓作り。バイスの墓を掘っていた時だが、その時初めて、ルイズとクロはガンダールヴの名を耳にした。腹の中に納まっていたデルフにも当然その話は聞こえており、それで僅かではあるが記憶を取り戻したらしい。
「ガンダールヴねぇ…。今んとこ、オイラにゃ関係なさそーだな」
「おいおい相棒、おめーがガンダールヴって自覚してくんなきゃ、俺は何の為に買ってもらったってんだ?」
「仕方ねーだろ、オイラはいつも通りなんだからよ」
「いつも通りであの惨状、ね…。俺、その内折れるんじゃなかろうか…」
 ミーとのガンダールヴ大戦でボロボロになった学院、クロ単独で完全に崩壊させられたモット邸を思い出し、デルフは普段以上に細かくカチカチと震えた。人間で言えば、歯の根が合わない、といったところか。

 三者とも無言になり、それぞれガンダールヴのルーンについて思考を巡らす。一様に難しい顔をしており、思考がまとまらない様子だ。
「まずは実物を見ないと話は始まりますまい。クロちゃん、済まないが何か武器を持ってくれないかね?」
「んぁ、これでいーか?」
コルベールの要望に、クロは腹から突き出ていたデルフを乱暴に引き抜いた。
「わひぃ!?」「おっと、わりーわりー」
引き抜いた軌道は、コルベールの頭上僅か1サント未満だった。反射的に身を屈めるコルベールだったが、哀れにも後頭部に生えていた毛髪が10本程度、彼へ別れを告げた。
はらはらと舞い落ちる毛髪を涙目で見つめるコルベールは、まるで恋人との今生の別れを惜しむかのようだった。

 膝を付いて全身で悲しみを表すコルベールを後目に、クロは感心したような表情で左手…煌々と輝くガンダールヴのルーンを見つめた。
「おぉっ、マジで光ってんじゃん!」
「そりゃ相棒、普段は左手にガトリング付けてんだろ? ルーンの光が、それで隠れちまってたンだよ」
ちなみに、ルイズとの契約後に初めて武器を手にしたギーシュとの決闘では、メイジとの初戦闘で大興奮中だった為、ルーンには一切気付いていなかったりする。
「でもこんだけ光っちゃいるけどよ、何ともねーぞ?」
 その場で軽く飛び跳ねたり、デルフを振り回すクロ。しかしその身体は、ルーンを刻まれる前と何ら変わらなく感じられる。クロは非常につまらなそうな顔で、デルフを腹にしまった。

「…とにかく、私の調べた文献には、今のデルフ君の話は載っておりませんでした。私は引き続き、文献の調査を続行します…」
 床に散らばった髪の毛を摘み上げながら、今後の方針を話すコルベール。その声は完全に脱力しきっていた。幸い切れたのは中ほどからなので、毛根が無事である限り、また髪の毛は伸びる…はずである。
 そんな彼を見ながら、ガンダールヴより育毛剤なり発毛剤なりを錬金した方がいいんじゃなかろうか、と思ったクロだが、髪を切ってしまった手前、おくびにも出せずにいた。

 そんな折、ドアがガチャリと開き、ルイズと共に正門前にいたはずのミーが現れた。
「やっほークロ。お邪魔するよ」
「何だ、ルイズと一緒にいるんじゃなかったのか?」
「いつまで待ってもお客さんが来ないから、飽きたんだよ。ルイズちゃんも、ボクに関係ある話だろうから行って来ていいよ、ってさ」
「あぁ、そう言やミーくんもオイラと同じルーンなんだっけか」
「…何ですと?」
 指先で抜けた髪の毛を弄んでいたコルベールの耳が、ピクリと張った。その直後、クロとミーでさえも反応出来ないほどの速度で、ミーの左手を掴んだ。
「う、うわっ!?」「これは…!?」
目にも留まらぬ速度で手を掴んだと思いきや、血走った目で己の左手を凝視するコルベールに引き気味のミー。対するコルベールは、そんなミーにお構いなしである。

「そんなバカな…ガンダールヴが、2体…? そんな記述は文献になかった…いや、まだ可能性は…」
 何やらブツブツと呟いているコルベールに、ミーはそろそろ本気で恐怖を覚え始めた。
「ミーくん、だったかね。君はこのルーンが現れてから今まで、武器を持つとその使い方がすぐに解った、とか、体が軽くなった、といった事はなかったかい!?」
そんな事は知らない、と言わんばかりに、コルベールはミーの肩を掴み、ガタガタと揺さぶった。
伝説と謳われるガンダールヴの再来だけでなく、文献にもない新たな発見がこの短時間に幾つも重なった為、半ば暴走気味なようだ。
「ちちちちちちょっととととぉぉぉぉ!?」
前後に激しく揺られるミー。こんな状態では、まともに言葉を発する事など出来そうもないのだが、コルベールは気付かない。

「ご愁傷さんだな、ミーくん」
「助けてやんねぇのか?」
 少し離れた場所で静観を決め込んだクロは、デルフの質問に「メンドくせー」と簡潔に返し、次いでまた窓から外を見下ろした。
学院関係者一団に動きが見える。どうやら、件のお客が到着したようだ。
「おーおー、どいつもこいつも随分張り切ってやがんなー」
「そりゃ相棒、この国のお偉いさんだからなぁ。ああするのが礼儀だもんよ」
「オイラにゃ解らんね、メンドー以外に何も感想が出ねーや」
 猫なら仕方ねーやな、とくつくつと笑うデルフ。そうして半ば呆れたような視線を向けていると、門をくぐって大層な行列が顔を出した。

 豪奢な装飾の施されたマントを纏うメイジ――魔法衛士隊が列を組み、ゆっくりとした足取りで学院敷地内に歩を進める。
その後ろには、クロも漫画やゲームで見た事のある、しかし現実ではまず見る事のない生物――グリフォンやヒポグリフなど、所謂幻獣とカテゴライズされる生物が、背に衛士隊員を乗せて悠々と歩く。
 そしてその幻獣を従える彼らに守られるよう、列の中心に陣取っているのは、額に螺旋状の見事な角を生やした純白の馬、ユニコーンが引く馬車。この馬車も白を基調とし、清楚なイメージを持たせる外観をしている。

「お、ルイズ見っけ」
 ゆっくりと動く行列に早々に飽きたクロは、そちらから目を離して視界をズームし、生徒一団の中から、ルイズを見つけ出した。
すぐ傍には、キュルケやタバサ、ギーシュなど、いつもの面々の姿も見える。
 彼女は、現れた行列へ笑顔で歓声を送っていた。さすがに距離が離れており、かつ雑音も酷い為、具体的な内容はクロの耳をもってしても聞き取れなかったが、その表情から、歓迎の意を表しているのは読み取れる。
「はしゃいでんなー、ルイズのヤツ」
「だから、そういうモンなんだってばよ、相棒」
 時折、隣にいるキュルケに茶々を入れられて何かを言い返したり、行列を指差してうっとりした顔のキュルケを睨んだりと、ちょいちょい普段通りの顔も見える。

 そこへ間を置かず、クロの見た事のないルイズの表情が見えた。
「ンあ…? どうしたんだ、アイツ?」
その表情が現れたのは、クロが数えて5度目の、キュルケが指した方向へルイズが目をやった瞬間だった。
目線だけ動かしていたルイズが顔ごとそちらへ向き直り、同時に目を限界まで見開いた。そして約2秒ほど静止した直後、顔がリンゴのように真っ赤になったのだ。
 キュルケの指差した方へクロも目を向けたが、いかんせん行列に並ぶ人数が多く、その人物を特定するには至らない。
 しかしルイズの表情。これはクロには十分すぎる手がかり…否、回答と言ってもいいだろう。何が彼女の顔をそこまで変化させたのか。
「後で色々聞いてみっかねぇ…ニシシシシ…」
「あぁ、その悪い笑い方…。娘っ子もご愁傷さんだな、こりゃ…」
 クロたちに買われてからこちら、随分誰かを心配したり、諦めたりする機会が増えたなぁ、としみじみ思いつつ、ルイズへ同情するデルフだった。

 窓の外から視線を外すと、コルベールの質問はまだ続いていた。相変わらずミーは激しくシェイクされており、そろそろ意識が飛ぶのではなかろうか、と言った按配だ。
「まだやってんのか、コルベールのオッサン…」
「ところで相棒、俺も色々考えてみたんだけどよ」
ガショッ、と腹からデルフが顔を出す。
「相棒たちにルーンの効果が出ない理由。もしかすっと、だけどさ」
突き出たデルフの柄を握るクロ。やはりルーンは輝くが、変化は何も感じない。抜き放って軽く振っても同じだった。
「相棒たちが完全な生き物じゃなくて、機械混じりだから、とかじゃねぇか?」

 デルフが己の仮説を口にした、その途端。
「…何ですと?」
コルベールの動きが、ピタリと止まった。あ、すっげー最近に見た事あるわ、このパターン。とクロが振り返るが、全ては遅かった。
 コルベールはミーをそのままクロの隣に座らせ、2匹の前に陣取った。その背中には、激しい炎が見える。普段は温厚な彼の性格を表すかのような丸メガネも、今は光の反射具合で真っ白に染まり、えもいわれぬ迫力を醸し出している。
「…そんな話は、聞いておりませんよ? 機械混じり、ですと? 君たちの体が、ですかな?」
「あ、あー…言わなかったっけか?」
「て、て言うか、ボクがそうだってのは、今まで気付かなかったのかな…?」
 着ぐるみを纏っているクロはともかく、メタルボディ丸出しのミーには気付いてもよさそうなモノだが、ガンダールヴの件でその辺が目に入ってなかったのだろうか。そしてやたらと威圧感のあるコルベールに、クロとミーはただただ、後ずさる他ない。

「…ちょっとクロ、この人どうしちゃったのさ!?」
「…オイラが知るわけねーだろが!」
 ぼそぼそと相談を交わすクロたちだが、お構いなしにコルベールは、さらに詰め寄った。
「機械の身体、ですか。実は私も、火の魔法を応用した機械を研究している最中なのですよ…。しかしこれがどうも難しい。手探りで研究しているので、なかなかに内部の構造が煮詰まらない」
 そう言いながら、コルベールは机の上を指差した。金属質の何だかよく解らない、扉やパイプが突き出た、機械らしき何かが載っている。外観からは、一体どのように作動するのか予想が出来ない。
「まだ未完成なのですが…本当に、君たちの体が機械で出来ているのでしたら、きっとコレよりも素晴らしい技術が使われているのでしょうね…!」
ガバッ! とコルベールが両腕を広げた。その拍子にメガネの反射が消え、奥に輝きを失い、虚ろになった瞳が見えた。口は嬉しそうに歪み、その姿に身を竦ませるクロとミー。

 普段は、非常に温厚なコルベールである。しかし、ガンダールヴの出現に留まらず、2体目のガンダールヴ、
さらにその2匹ともが機械仕掛けなのだという、今までにはあり得ない驚愕の事実の連続に、完全に頭がバグを起こしているのだ。
 一歩、コルベールがにじり寄ると、一歩、クロとミーが後退する。
「なぜ、逃げるのですか…? 悲しいですねぇ…。別に殺してしまうつもりなどありません、ただ少しだけ、少ーしだけ、拝見させてもらえばいいんですよ…!」
息が、異常なまでに荒いコルベール。もっと言い方というものがあるだろうが、それに気付くほど、今の彼は冷静ではない。
 冷や汗を滝のように流す2匹。そして、コルベールが腰を落とし、クロとミーに飛び掛った――

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ドカァァァァァァァァァンッ

 場所が変わり、ここは学院本塔前。突如発生した爆発音に、周囲は騒然となった。
「敵襲! 敵襲ーっ!」
馬車から降り、傅くオールド・オスマンと話していた主賓は身を縮こまらせ、魔法衛士隊は彼女を守るべく即座に陣形を整えた。
教師たちは生徒を守るように周囲を固め、辺りを警戒している。その生徒たちの反応は様々で、怯える者、慌てる者、主賓にいいところを見せようと杖を抜く者と様々だ。
 だがその中でも、ルイズを筆頭とするいつものメンバーは、爆発の瞬間こそ驚いたものの、すぐに原因に思い至り、何とも言えない表情で溜息を吐いた。

 そして同様の反応を示した者は、もう1人いた。オールド・オスマンである。彼は音の発生源を方角から即座に特定し、杖をほんの僅かに振るって『遠見』の魔法を発動した。
「…何かやらかしおったな、ミスタ・コルベール…」
魔法で見えた光景に、オールド・オスマンは呆れ果てた。室内は異常なほどに煤だらけで、所々穴が空いて外の青空が見える。調度品はボロボロで黒焦げになっており、窓もガラスが全て割れてしまっている。
 そして、部屋の主である当のコルベールは、枠ごと吹っ飛んだ窓から上半身だけを出して、力なく垂れ下がっていた。衣服も所々破れて焼け焦げている。
 ちら、と視点を変えると、ドアがあったであろう出入り口から、2つの影が慌てて出て行くのが見えた。その正体は、言うまでもない。

「杖を収めてくだされ、各々方」
 杖をもう一度振り、オールド・オスマンは顔を上げた。しかし目の前の魔法衛士隊の面々の耳には入っていないらしく、まだピリピリとした様子で周囲に目を凝らしている。同様に教師陣や一部の生徒たちも、警戒を解いていない。
「皆の衆、杖を収めてわしの話を聞いてくれぬか?」
幾分声を張り上げて場を収めようとするオールド・オスマン。しかしその声は、喧騒にかき消される。
 彼の額に、青筋が1つ、走った。

「カァーーーーーーーーーッ!!!!!!」
 空気がビリビリと震えるほどの一喝が轟いた。その場にいた全員がビクリと身を縮こまらせ、その主を見た。オールド・オスマンである。深呼吸の後、1つ咳払いし、ようやくオールド・オスマンは語った。
「今の爆音は、わしがミスタ・コルベールに頼んでおいた研究が原因じゃ。敵襲などでは断じてない。トリステイン魔法学院学院長、オールド・オスマンが保障しようぞ」
「その言葉、偽りなき真実なのでしょうな?」
「無論じゃ」
 羽帽子をかぶり、口髭を蓄えた凛々しい衛士隊員が口を開いた。銀糸で見事なグリフォンの刺繍が施されたマントを纏っており、手にはサーベル状の杖を握っている。
主賓との距離を考えると、恐らく魔法衛士隊の中でもエリートとして知られるグリフォン隊の隊長であろうと予想された。
 射抜くような彼の視線にも動じず、オールド・オスマンは堂々と答えた。と言うより、こう答えるしかなかった。『猫が教師ごと部屋を吹っ飛ばしました』などと、誰が言えようか。

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 一目散にコルベールの部屋から逃げ出したクロとミーは、そのまま階段を駆け下りて中庭に飛び出し、本塔の影でしゃがみ込んだ。
「…いくら何でも、ミサイルは酷すぎるんじゃないか…?」
「しゃーねーだろ、咄嗟にぶっ放しちまったんだからよ」
 正気を失っていたコルベールを部屋ごと吹っ飛ばしたのは、クロのしっぽミサイルだった。
ミサイルはガトリング砲以上に弾数が少ない為、本来ならば節約すべき武器なのだが、それを発射させた辺り、コルベールの様子が並々ならぬ物だったというのが伺える。

 ミーが苦言を呈したが、クロは悪びれた様子もなく立ち上がり、ぬいぐるみに付いた煤や埃をパンパンと払った。
「んー、さすがに汚れちまった…。洗濯しとかねーとな」
ぬいぐるみは毎日洗っているのだが、今回はミサイル炸裂のほぼ中心にいた為、普段以上に汚れてしまっている。コレを着たままというのは、傍からの見た目にも、自身の精神衛生的にも、あまりよろしくない。
 手早く脱いだぬいぐるみを肩に担ぐと、クロは水場へと向かった。
「ちょっくらコレ洗って、フレイムに預けて来るわ」
「フレイムって…キュルケちゃんの使い魔の?」
「おぅ、いい具合に早く乾くんだよな、これが」
…血統書付きと言っても過言ではない火竜山脈のサラマンダー、それがキュルケの使い魔のフレイムである。
そんな、お金に換算など出来ないほど貴重な幻獣を、間接的に乾燥機とのたまったクロ。しかも毎日、同じようにぬいぐるみをフレイムに乾かさせていたようだ。
ハルケギニア中の好事家が聞けば、はてさて嘆くか激怒するか。少々見物ではあるが。

 クロが立ち去った後、その場に取り残されたミー。モット伯邸へ乗り込んだ際に使用したシャイなワンちゃんのぬいぐるみはすでに洗濯が済んでいる為、クロに付いて行く理由はない。
「んー…。今なら人もいないし、ちょっと見て回ろうかなっ」
転送装置でやって来た時は、クロを捜すという目的があった為に、ろくに見て回る事が出来なかった。そしてその後早速フーケ騒動に巻き込まれ、それからは主に厨房を活動拠点としている。
 今の時間、厨房スタッフを含めた学院関係者は、全員出払っている。ちょうど時間が空いた。ならばいい機会だ、学院を探索するのもいいかも知れない。
 方針を決めたミーは、手始めにルイズたちが授業を受ける『風の塔』へ向かった。ルイズたち2年生が授業を受ける教室は知っているが、他がどうなっているか見てみたい、と。

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 その日の晩。ルイズは自室にて、人生最大の苦悩に頭を悩ませていた。
「ど、どうしてこうなったの……………」
自室の扉は周囲の壁ごと綺麗に吹き飛んでいる。なぜか室内にはキュルケ、タバサ、ズタボロになったギーシュ、そして昼間に学院を訪れた主賓がいる。
 部屋のど真ん中で主賓は、両手を握り締めて強く息巻いている。真っ黒焦げのギーシュはそんな主賓の前に跪き、造花のバラを掲げている。タバサはいつも通りの表情で本を読んでいる。キュルケは頭を抱えたルイズに同情的な視線を投げかけている。
 そして己の使い魔たるクロは、主賓の隣でケラケラと笑い、ミーはそんなクロを怒鳴りつけている。

 列挙してみると、何が何だか本当に解らない。なぜトリステイン王国の主賓や、男子生徒であるギーシュがここにいるのか。なぜその主賓はこんなにも興奮しているのか。なぜ扉が綺麗さっぱり吹っ飛んでいるのか。なぜ――ルイズが頭を抱えているのか。
 それらの謎を紐解くには、少々時間を巻き戻す必要がある。では2時間ほど、時間を巻き戻してみよう――



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