あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と最後の希望 Level28



level-28「邂逅」


「……チーフ?」

 ほんの僅かな時間であったが、通信に意識を傾けていた。
 顔を動かし背後から呼び掛けてきたルイズを一度見て、すぐに視線をペリカンの計器に戻す。

『スピリット・オブ・ファイアは今どこに』
『その地点から三百キロ北北西に』

 それを聞いてチーフは予想と違う応えに疑問を抱いた、強襲揚陸艦は人員や物資の揚陸を目的としている艦。
 主に衛星軌道上などから人員や物資を送り込む、それから考えればスピリット・オブ・ファイアもこの惑星の衛星軌道上などに浮いているはず。

『スピリット・オブ・ファイアは現在地表に墜落しており、自力での航行機能を喪失しています』
『………』

 そう考えたのだが、淡々と現状を報告してくるセリーナ。
 衛星軌道上からペリカンで下りてきたわけではなく、墜落して動けないなどと予想外だったチーフ。

『救援は』
『未だに』

 墜落は予想外だったが、救援が未だ来ていないことは予想通り。

『スピリット・オブ・ファイアのクルーは無事か』
『クルー自体はそれほど損耗していません、航行可能ならば問題無く運営出来ます、問題はその航行が不可能な事ですね』
『この星系はどこにあるかは』
『不明です、人類未踏の領域と思われます』

 ではスピリット・オブ・ファイアはどうやってこの惑星に不時着したのか。

『それも不明です、原理不明のワームホールが艦前方に突如現れ、回避できず通り抜けた時にはこの惑星上でした』
『そうか』
『S-117、アナタはどうやってこの惑星に?』
『連れてこられたようだ』
『その手段は?』
『……魔法だ』

 恐らくは把握しているだろう、しかし現実的に考えて口に出すのは躊躇われる言葉。

『なるほど、連れてこられたと言う事は仕掛けた者が居るのですね?』

 だがセリーナは何て事無く聞き返し、魔法の存在を知っていた。

『ああ』
「──ねえ! チーフってば!」
「……どうした」
「それはこっちの台詞よ!」

 余り反応を見せなかったチーフに業を煮やし、ついつい怒鳴ってしまうルイズ。
 チーフは通信相手のことを話したくはない、スピリット・オブ・ファイアのクルーが少数だけなら考えたかもしれないが。
 強襲揚陸艦級になるとその数は数千は居る、艦の状態にも依るが装備もそれなりだろう。
 使用可能なMBTや航空機もある事を考慮しなくてはならない。

『……使用可能な車両などはどれ位ある』
『64%が使用不可能となっています、あと百年もすれば80%まで上がるかと』

 十全に使用できる兵器がある、それは戦えるだけの力がスピリット・オブ・ファイアにあると言う事。


「少し待ってくれ」

 今度は断り、ペリカンの計器を触りながら通信に耳を傾ける。

『活動の方針はどうなっている』
『基本不干渉と艦長が定めました、よって我々はこの惑星の存在に対し積極的干渉を行わず、また干渉も受け付けません』

 こちらから何かを要求することはないが逆に要求してくるならば抵抗する、その意図が見えるセリーナの返答。

『こちらの受け入れは可能か』
『可能です、S-117が一人であるならば、ですが』
『……今この国の貴族が今同行している』
『それは拙いですね、スピリット・オブ・ファイアが墜落した時も大変興味があったようですから』

 帰還する為の一つの手段とは言え、チーフは外交問題に首を突っ込んでいる。
 対立となってしまえばチーフと言えど軍法会議に掛けられる可能性は大いにある。

『最終的な決定は艦長から聞いたほうが良いでしょう、今ブリッヂに向かっていますのでもうしばらくお待ちを』
『わかった』

 通信は繋がったまま、チーフはペリカンの状態をより深く確かめる。
 内装の不具合もない、今すぐにでも飛び出せるだろう、それを確認していれば。

『……聞こえるか、スパルタン』
『聞こえます』
『スピリット・オブ・ファイアの艦長を務めているジェイムズ・カッター大佐だ、君は今一人か?』
『いいえ』
『友軍は?』
『居ません』
『そうか、今そちらに貴族が居ると聞いたが』
『はい、トリステイン、ゲルマニア、ガリアの令嬢が三人。 一人がトリステインの公爵令嬢、一人がガリアの王族です』
『……随分と問題の有る貴族を連れているようだな』

 キュルケはゲルマニア貴族で、ガリア王族のタバサにトリステイン公爵家賛助のルイズ、誰も彼も下手に扱わなくとも外交問題になる存在。
 そういう点ではスピリット・オブ・ファイアに近づいてはならない存在、接触するのも遠慮したいのだろう。

『公爵令嬢との関係は使い魔で良いんだな?』
『はい、トリステインの公爵令嬢は自分を呼び出したようで、帰還方法の捜索を条件に使い魔として傍に居ました』
『……ふむ、魔法か』
『はい、召喚魔法で呼び出されたようです』
『なるほど、つまりスパルタンも帰れないと言うことか』
『送り返す魔法を探してもらっていますが今の所見つかってはいません』
『……分かった、スパルタンの受け入れは認めるが彼女らはどうする』

 当然ルイズたちはスピリット・オブ・ファイアには連れて行けない、そもそもここで分かれると言う選択肢もある。
 チーフが望むのは帰還であり、安全に過ごせる定住の地ではない。

『自分は召還魔法が存在するかしないか、それを確認するまで付いていようかと』
『それがいいだろう、下手に我々と接触を取るのも不味い。 だがその召喚、我々も送還出来そうな魔法は期待していいものか……』
『……それはまだ判断しかねますが、魔法による帰還を諦めるのは早いかと思われます』
『スパルタン、君は送り返せる魔法が見つかると思っているか?』
『……可能性は低いかと』

 召還魔法など前例はないが可能性は0ではないだろう、しかしもしかすればやはり存在しないかもしれない。
 それでも諦めるには早すぎる、一人であるチーフよりも人材や機材が豊富なスピリット・オブ・ファイアでも帰還する術を見つけられなかった。
 だからこそ召還魔法に希望を賭けるしか無い、現状それしか帰還出来る芽はないからだ。

『可能性は低いか、だが諦めるのは早すぎる、か』

 チーフと同じ考えに至ったカッターは通信越しに唸る、互いの数秒ほどの沈黙。

『……スパルタン、我々が今ここにいる理由はわかるな?』
『はい』
『我々は帰還を第一に行動してきたが、ついにはその方法を見つけられずにいる。 そしてこれからも帰還を第一とし、可能性がある帰還方法が見つかればそれを選ばざるをえない』
『はい』
『だが、その方法で帰還できないとわかれば、他の行動を取らねばならないと思っている』

 カッターは語る、帰還したいができない、その方法も模索するが見つけられない。
 そうなればスピリット・オブ・ファイアのクルーの事を考えねばならない、スピリット・オブ・ファイアの中で延々眠り続けることはできない。

『……このまま帰還できずにいれば、最後には我々はこの惑星で生きて行くことになるだろう』
『はい』
『そのために幾つかの候補地を見つけてある、……これはまだ先の話だが覚えていてほしい』
『……はい』
『それで、彼女たちはどうする。 いや、基本的に貴族は魔法を使えぬ者を見下している傾向が大きいと聞いたが』

 不当な扱いをされてはいないか、そう聞いてきたカッター。
 聞かれたチーフは、ペリカンの外でコクピットを見つめる青髪の少女を。
 次いでコクピットの入り口から中を覗いているピンクブロンドと赤髪の少女たちを見た。

「……終わった?」
「……いや、まだだ」

 顔を正面に戻し、チーフは通信越しにカッターに言った。

『問題ありません、彼女たちは信用できるかと』
『……そうか。 スパルタン、一度こちらに来る必要はあるか?』
『あります、回収した装備やアーマーのメンテナンスが必要です』
『わかった、ペリカンはまだ動くか? それとも迎えが必要か?』
『計器には異常は見当たりません、問題なく飛べるかと』
『でしたら日が暮れ始めている今が良いでしょう、今より暗くなれば噴射光がより顕著になりますから』

 割り込んできたセリーナがタイミングを薦めてくる。
 昼だろうが夜だろうが確かに十メートルほどのペリカンが空を飛べば、いろんな面で目立つことになる。

『……スパルタン、今から飛び立てそうか?』
『問題有りません、受け入れの準備を。 それとスピリット・オブ・ファイアの事を説明しても良いでしょうか』
『……信用できるんだな?』
『はい』
『……許可しよう、必要ならば私から話す』
『了解』
『受け入れの準備を通達、スパルタンの来訪を歓迎します』

 そう言って通信が切れる、チーフはそれを機に計器を弄るのを止めて振り返った。

「行きたいところがある、ルイズたちはここで待っていてくれ」
「……いきなりなによ、キュルケたちならともかくなんで私を置いていく必要があるのよ」
「それはそれでひどいわよ、ルイズ」

 口を尖らせて言うルイズと、それを聞いて苦笑しながらのキュルケ。

「それで? どこに行きたいの?」
「仲間が見つかった」

 チーフのその一言を聞いて、ルイズは動きを止め、キュルケはわずかに眉を顰めた。


「……帰る手立てが見つかったの?」
「いや、仲間も帰れずに立ち往生している」
「……良いの? それって私たちに話して良いことじゃないんじゃない?」

 チーフの仲間とは一つしか無い、それはUNSCの友軍。
 つまりこの世界にチーフが属する軍隊が居るということ、その軍隊が東方やその他の地域であればまだましだが。
 このハルケギニアに存在するとなると色々、いや、かなり難しい話になってくるとキュルケ。

「基本的に何かする訳ではない、帰還する手立てを探しているが見つからずに居る」

 戦う気など微塵もない、ただ帰りたいだけ。
 そうチーフは二人に説明する。

「……そうは言ってもねぇ、私たちが……ああ、そういう事」

 チーフの言いたいことに気がついて、キュルケは納得がいったように頷く。

「黙って行けばいいのに、私たち……と言うかルイズに気を使っちゃって」
「……え? どういうことよ!」
「帰る手立てが見つかってないけど仲間が居ることがわかったのよ? だったらチーフも仲間の人達と一緒に居た方が色々と良いってこと」
「なんでそうなるのよ」
「なんでって、彼は軍人よ? それも他国の、そんな人が公爵家の娘の使い魔やってたら何かと面倒なことになるじゃないの」

 今まで問題にならなかったのは各方面で話を止められていたからだ。
 チーフの正体が広まっていないのも、ルイズの両親などに召喚したのが他国の軍人というのも。
 正体を知るオールド・オスマンやコルベール、そしてチーフ自身が人間で軍人である事を明言せずうやむやにして、ゴーレムやガーゴイルなんじゃないか?
 と言うはっきりとさせない不明瞭な話で留めていたから、そうでなければ公爵家どころではなく国からも排除するような動きになっていた可能性が大きい。

「つまり黙ってろってこと、下手すれば戦争になりかねないし」

 そんなの嫌でしょ? とキュルケはルイズに言う。
 それに対してルイズは言い返せず呻く。

「それで、チーフを含めてお仲間さんも帰りたいだけで戦いたくはないってことよね? だったら言い触らす理由もないわよ、ねぇ?」
「……当然じゃない」

 不満そうにルイズが言う。

「それじゃあチーフはお仲間の所に行くそうだから」
「ええ、ついて行きましょ」

 それを聞いてキュルケの表情が変わった、眉を潜めて口を半開きにして。

「はあ?」

 なに言ってんのこの子? と言いたかったのが容易く予想できるような顔。

「な、なによ」
「なによじゃないわよ! チーフが何なのか分かってるわよね?」
「分かってるわよ!」
「だったら付いていくのは止めなさい、本当は今の状況だって結構危険なのよ!」

 人差し指をルイズの目の前に突きつけて、キュルケは強く言う。

「……なんで、なんでよ! なんで皆危ないなんて言うのよ!」

 その人差し指、キュルケの腕を払ってルイズが強く言い返す。


「他の国の軍隊の所に公爵家の娘が出向くのがいけないのよ! ルイズや私たちが大丈夫だって言っても周りはそうじゃないのよ!
 いい? 別にチーフやチーフが所属する軍が危ないって言ってるわけじゃないの、本当に大丈夫でも貴女の両親や国のお偉いさんたちからすれば大問題なの!」
「だったら皆が黙ってればいいんでしょ!」
「バレなきゃいいって問題じゃないでしょ! 第一バレたらどうする気よ、下手すれば戦争よ戦争、分かる? 殺し合いを始めちゃうのよ?」

 キュルケとてチーフが所属する軍がどれほどのものか興味はある、だがその代償が開戦の切っ掛けになるなら綺麗サッパリ諦める。
 興味本位で行って、戦争なんて起こったら後味が悪いなんてものじゃない。
 戦争が起きるかもしれないのに、それでも行きたいの!? といつもの飄々とした態度とは違う険しい物言い。
 そんなキュルケに詰め寄られて、言い返せずぐるりと顔をチーフへと向けるルイズ。
 それに対してチーフは頭を横に振る。

「戻ってくる」
「……どのくらいで戻ってくるの?」
「数日は掛かる」

 説明やアーマーのメンテナンスなど一日で出来ることではない、少なくとも数日は掛かると予測する。
 簡潔なチーフの説明に不満があるのか、ルイズが半ば睨むように見つめてくる。
 それに対してチーフはルイズの肩に手を置いて。

「戻ってくる」

 優しく置かれた手を、ルイズは振り払うようにペリカンのカーゴから飛び出していった。

「……頼む」
「……ええ」

 出ていったルイズの後をキュルケに頼み、頷いてカーゴから歩いて出ていくキュルケ。
 それを見送って視線を戻すチーフ、計器を弄ってペリカンの離陸準備を始める。
 ふと操縦室から外を見れば、タバサの姿も見えなくなっていた。

「………」

 そのまま視線を上に、ペリカンが収められている掘っ立て小屋の天井へと向けられた。
 ペリカンは飛ぶ、十中八九飛べるだろうがその際天井にぶつかってしまう。
 見たところ継ぎ合わせで開閉できるようには見えない、とりあえずペリカンから降りてシエスタとその父に話を聞く。

「あれはどうすればいい」
「あれ、とは?」

 そう聞き返されチーフは天井を見上げる、窓がない掘っ立て小屋は薄暗くランプで照らされてやっと見える明るさ。
 天井は明かりがあまり届いてなくより黒い、その天井を見ながら。

「外せるのか」
「……どうでしょう」

 外せるにしても天井の板はかなりの大きさ、一人では到底外すことはできない。

「すまないが、飛ぶためには天井は邪魔になる」

 開閉出来るわけでもなく取り外しにも時間が掛かる、すまないが天井を壊すことになるがいいだろうかと聞く。
 二人は言い淀む、曽祖父が建てたここの壊してもいいかと聞かれても答えは出せない。
 判断できるのは祖父くらいなもの、祖父に聞いてきますと二人は掘っ立て小屋から出ていった。
 そうして掘っ立て小屋の中にはチーフだけになった、すぐにペリカンの中へと戻り操縦室へ舞い戻って全てのコントロールを立ち上げた。
 エンジンに火が入り、小屋の外でも聞こえる音を立てる。

 ペリカンが収められている掘っ立て小屋は村から離れた草原の片隅、爆発音でもなければ村にまで音は届かないだろう。
 それを見越してメインスラスターとなる四基を吹かせ、問題がないか確かめるも小屋の壁が激しく振動し始める。
 十数トンもあるペリカンを浮かすことになると当然それなりの推進力が必要となり、主力戦車も釣り下げて輸送出来る上大気圏離脱能力も備える。
 故に小屋の閉所ではその強力な噴流が壁を打ち吹き飛ばしそうになって、すぐさまチーフは出力を落とした。


「………」

 これは小屋ごと壊れる可能性が大きかった。
 天井だけではなく小屋ごとも言わなければならないか、とチーフはペリカンを降りてハッチを閉める。
 振動で少々立て付けの悪くなった扉を開いて潜る、広がるのは夕日に照らされ赤く染まった草原。
 風が吹き抜け草本が揺れて波打つ、そこには異星人どころか人同士の争いの欠片すら見られない自然の光景。
 その夕日が落ちて行く光景を見ながら、チーフは返事を聞きに行った二人を待った。

 それから数分後、戻ってきた二人にチーフは答えを聞く前にさらに要望を重ねた。

「ペリカンが飛ぶ際の風で壁も飛びそうなんだが」

 構わないか、と聞かれて二人は顔を見合わせた後。

「小屋を含めてちーふさんの好きにしていいそうです」
「……そうか、感謝する」

 これで気掛かりはなくなった、そう言ってチーフは二人を見る。

「壁が飛んだりすると危ない、村に戻っていてくれ。 それと翁に伝えてほしい、飛ぶ姿を見せに行くと」
「……はい!」

 その力強い頷きを見て、チーフは踵を返して小屋の中に入る。
 ペリカンのハッチを開き中に入って閉める、その後操縦室で操縦席に座って出発の準備を整える。
 五分ほど待ってからスイッチを押し込みエンジンに火を入れ、スラスターが勢いよく推進力を生み出す。
 大きな音を立てながら更にスラスターを吹かして、ペリカンを水平のまま浮かび上がらせた。
 床から二十センチほど浮かんだところでランディングギアを収納、その状態のまま上昇していく。

 轟音と強力な噴流で、とうとう耐え切れなくなった小屋の壁が四方に崩れながら倒れた。
 小屋の天井が崩れた壁の一部とくっついたままペリカンの上に落ちるも、問題とせずに上昇。
 ゆっくりと浮き上がっていくペリカンは二十メートルほどの高さで滞空、そのまま短い回転翼を回して回頭。
 タルブの村ヘと向かって飛び、シエスタの生家へと向かう。
 草原を超えタルブの村の上空を旋回、ゆっくりと降りながらシエスタの生家の前、翁が寝ているであろう部屋の窓の前に降下させていく。

 地面から数十センチ、ギリギリと言って良い高度でペリカンは空中に留まる。
 操縦席から見えるのはシエスタの生家の窓、部屋の中からはベッドに横たわる翁の姿。
 ペリカンの操縦席と窓との距離は一メートルほどしか無い、噴流で窓を揺らしてはいるが翁の視線はペリカンのみに注がれている。
 チーフは操縦席の中から翁に向かって右手で敬礼、それの意味する所は分からないが翁もそれに倣って敬礼を返した。
 それを確認した後、ペリカンは浮き上がってタルブの上空、回頭して夕焼けの空を飛んでいった。

「………」

 赤く焼けた空を、夕日の中をずんぐりとした鉄の鳥がけたたましい音を上げて飛んでいく。
 それは数十年の昔、父が動かしたその光景のまま。

「……シエスタ」
「はい」

 翁と一緒に見ていたシエスタとその父、翁に呼ばれて返事。

「彼にまた会うことはあるのか?」
「はい、あると思います」
「ではその時一言伝えてほしい、『ありがとう』と」
「……はい!」

 シエスタは強く頷いた、涙を頬に伝わらせる祖父を見ながら。


 その頃、タルブの町外れで空を見上げていたのは二人。

「……本当に飛んでいっちゃった」
「………」

 ペリカンが夕暮れの中を飛んでいく光景をルイズとタバサは呆然と眺めていた。
 ルイズは本当に自分を置いて行ったことに、タバサは動く小さな羽が付いた鉄の塊が飛んだことに表情を変えないまま驚いていた。

「……っ! タバサ!」
「………!」

 はっとしてルイズがタバサの名を呼び、タバサは素早く口笛を吹いた。
 するとどこからともなくシルフィードが飛んできて、タバサの直ぐ側に降り立つ。

「きゅいきゅい、呼んだ?」
「追いかける」

 タバサが杖で方角を示せばシルフィードは素早く頭を下げて座り、するりとタバサはシルフィードの背中に乗る。
 ルイズもそれに続こうとして。

「ちょっと待ちなさい!」

 当然その行為に待ったを駆ける人物が一人。

「あんたたち! とくにルイズ! 私の話聞いてたでしょ!」

 ルイズを村中探しまわったせいか、肩で息をしながらキュルケがいきり立つ。

「そんなに危ない橋を渡りたいの!? 冗談じゃ済まされないのよ!」
「……それでもよ! チーフが、勝手に帰ったりしないか見てなきゃいけないのよ!」

 はっきりとルイズはキュルケに向かって言い切る。

「……まさか、そんな事で」
「そんな事? 今そんな事って言った!? 自分の使い魔をそんな事扱いするなんて!」

 怒り心頭でルイズはキュルケを強く睨みつける、それに対してキュルケは真っ向から受け止めるも疑問をルイズに抱いた。
 確かに使い魔とは契約してから一生を共に過ごす、だがチーフは人間で他国の軍人。
 間違い無くずっと一緒には居られない、契約を望んで解除することもできない。
 つまりルイズにとってチーフは一生に一度の使い魔、それを無くし新たな使い魔を召喚するには今の契約している使い魔が死ななければならない。
 ルイズにとっては戦争が起きるかもしれない事よりも、使い魔のチーフの事が大事だと考えているとキュルケは考えた。

「……本当に良いのね? チーフのお仲間さんとトリステインが戦争するかもしれないし、チーフと戦わなきゃいけなくなるかもしれないわよ?」

 もしトリステインと戦争になればたぶんチーフは仲間の方に与するだろう、ルイズは当然トリステイン側に付くことになり敵対することになる。
 主人と使い魔でありながら敵になる、そうなっても良いのね? とキュルケはルイズに問う。

「問題ないわ! 戦争なんて起きないもの!」
「……なんでそう言えるのよ」

 胸を張って言うルイズにキュルケが呆れる、確かに戦争が起きる保障はないが起きない保障もない。

「だってチーフは戦争なんかしたくない、帰りたいだけって言ってたじゃないの」
「………」

 もうなんだか疲れた、先ほどまでのわがままなルイズが更にわがままになっていた。
 確かにチーフはそう言っていたが時と場合によっては戦争が起こり得る、戦いたくなくても戦いになるという可能性をルイズは考えていなかったからだ。


「……あー、……あのね」

 この村に来て歩き回ったり走りまわったり、滅多に上げることはない大声を何度も出した。
 その上話しても意味が通じていないルイズの相手をするのが億劫になってきた。

「……ダメね、チーフに謝らなきゃ……」

 言っても聞かない、認めようとしないだろうルイズに言い聞かせるのは諦めた。 
 肩を落としてため息を吐きながらシルフィードに向かうキュルケ。

「……行くんでしょ、追いかけられなくなるわよ」
「キュルケが止めるからでしょ!」

 プンスカ怒りながらルイズはシルフィードの背に乗り、キュルケも同じように乗る。
 その顔はどこか生気が抜けていた。


 ペリカンがタルブの村を立ち、ルイズ一行もシルフィードに乗ってこっそりと後を追いかけた。
 飛行するペリカンの速度はなかなかの物で、火竜では追いつけない速度で飛んでいく。
 追いかけるシルフィードは風の韻竜であるが未だ幼生、成体どころか最大でも火竜程度の速度しか出せない。
 しかし先住魔法で精霊の力を借りて、ペリカンが飛ぶ際に発生させる独特の匂いを嗅ぎとり正確に追いかける。

「シルフィードより速いなんて思いもしなかったわ」

 もしかしたら風竜より速く飛べるんじゃない? とキュルケ。
 中は空洞とは言え鉄の塊が空を飛んで、しかもシルフィードより速いなんて思わなかった。
 ますます持ってチーフが所属する軍隊がどんな物を持っているのか興味は尽きない。
 戦争になったりしてこんなのを多く持ち出されたら不利になる事間違いない。
 やっぱり力尽くでも止めるべきだったかしら、と後悔し始めていた。

 それから飛び続けて一時間ほど、日は地平線の向こう側に落ち夜の帳が世界に降りていた。
 疾うの昔に見えなくなったペリカンを追い続け、まだ追いつかないのか、本当に追いかけれているのかとルイズが疑問を投げかける。

「きゅいきゅい、匂いはずっとこっちからきてるのね」

 自信満々にシルフィードが言う、いわく嗅いだことのない鼻にくる匂いだからすぐに分かる。
 そう言って飛び続ける、その場所は森の上空。
 タルブの村からどんどん離れて人の手が入っていない未開の土地。
 鬱蒼と生い茂る草木で溢れかえる森には人が作り出す明かりなど微塵もない。

「……ねぇ」
「なによ」

 一時間以上も飛んでいれば話すこともなくなる、周囲も暗くなっていて自然と会話の量が減っていた中。
 シルフィードの進行方向を見たルイズが声を掛ける。

「……なんか、森がおかしくない?」
「……ああ、あれ?」

 日が上っている時よりも断然暗いがかわりに上がった双月の光が森を照らし、その中で一つの異常をルイズ達は見た。

「ルイズ、あれ知らないの?」
「し、知ってるわよ!」
「なら聞かなくてもいいじゃない」

 ルイズ、キュルケ、タバサ、その三人を背に飛ぶシルフィードが見るのは森を横断している一筋の線。
 多少草木が生えているが一目で分かるほど大きく地面が抉れた、どうしたらこんなものが出来るのか不可思議な地面の傷跡。

「……まあたぶんあれでしょうけど、私も初めて見たわね」

 今から約百年前に出来たと言われる、謎の巨大な物体が落下した時に出来たと言われる溝。

「調査団とか送ったけどよくわからなかったそうよ、国同士で一悶着もあったらしいし」
「……ふーん」
「人に聞いといてその反応はどうなのよ」

 そんなルイズに呆れつつ、シルフィードは一直線に伸びる大地の傷跡と並走。

「……と言うことは、あれの先に訳の分からないものが落ちてるってわけね」
「相当巨大だったそうよ、長さは二リーグ以上もあったとか聞いたことあるけど」
「二リーグ……」

 なぞるように傷跡を見て、その先にある小さく見える山とは一線を画する謎の物体をルイズたちは視界に入れた。


 その時より三十分ほど前、チーフが操縦するペリカンはスピリット・オブ・ファイアのすぐ傍まで着ていた。

『スピリット・オブ・ファイアよりS-117へ、直掩機を送りましたので彼らに従ってください』
『了解』

 延々と続く森の重空を飛んでいれば、通信が入り応じる。
 それから数分ほど目的地に向かって飛んでいれば、スピリット・オブ・ファイアが横たわる方角から航空機。
 敵味方識別装置で友軍として確認され、方向転換した後ペリカンの側に寄ってきたのは三機のスパロウホーク。

『こちらS-092、スピリット・オブ・ファイアまで誘導する』
『了解』

 誘導されスピリット・オブ・ファイアへとペリカンと三機のスパローホークは飛んでいく。
 それから十分ほど掛かりスピリット・オブ・ファイアの間近、森の上に斜めに横たわるそれの側面の隔壁がゆっくりと開いていく。
 先頭のスパロウホークが先んじて格納庫へと入っていき、チーフのペリカンもそれに続く。
 隔壁を潜ろうとして警報、重力がスピリット・オブ・ファイアの真下へと変化し、地表からみて斜めに重力が掛かる。
 それをすぐさま補正を掛けて、スピリット・オブ・ファイアと同じ角度へとペリカンは傾いて隔壁をくぐって入る。

 指定のランディングポイントにペリカンを着陸させ、計器を操作してエンジンを切る。
 スラスターが弱まり完全に停止してからハッチを開いてペリカンから降りた。
 そしてチーフの視界にはスピリット・オブ・ファイアの海兵隊がずらりと待ち構えていた。
 その中には先にスパロウホークから降りていたスパルタンの三人も居た、手の内にはアサルトライフルなど武器が握られいる。

「艦長がブリッヂでお待ちです」

 チーフの前に進み出た三人、S-092ジェローム、S-130アリス、S-042ダグラス。
 声を掛けてきたのはチームリーダーのジェローム、チーフの記憶にあるジェロームとそのままの声。
 チーフは頷き、歩き出すジェロームの後に着き、アリスとダグラスはチーフの後ろに付く。
 海兵隊の人垣が割れ、四人はブリッヂへと歩き出した。
 足音を鳴らしながら通路を歩むもそこに会話はない、同じスパルタンで訓練を共にしてきた仲間とは言え今は懐かしむ時ではないことを理解している四人。

 無言のまま進み続けてブリッヂへ、シャッターが下りたままの薄暗いブリッヂ。

「……スパルタン、歓迎する」

 入ってきたチーフたちに顔を向けて声を発したのはカッター。
 チーフは進み出て敬礼、カッターもそれに返して右手を差し出す。

「話は聞いている、マスターチーフ」

 チーフも差し出された手を握り返し握手。

「艦長、タルブの村で少尉の記録を見ました。 記録の開始が2531年となっており、事の顛末を説明しなくてはいけないかと」
「……それはどういう事だ?」
「自分がこの惑星上に召喚される直前の年月は2553年になります」
「説明してくれ」

 手を離し、チーフはカッターを見ながら話す。
 コヴナントとの接触から人類は戦い続け、述べ20年以上戦争を継続し続けた。
 その過程で人類は小局で勝ち大局で負け続け、次々と植民地であるアウターコロニーが攻撃され人類は虐殺され続けた。
 アウターコロニーのほぼ全てが落ちれば、次にコヴナントはインナーコロニーに攻撃を仕掛けてくる。
 当然人類は死力を尽くして反撃、人類は地上での戦闘は辛うじて勝ってはいたが、宇宙空間での艦隊戦などでは大敗を喫して負け続けた。


 その光景がパターン化して、5年、10年と戦況は逆転できず人類は追い詰められていった。
 2552年、ついには第二のUNSC最高司令部が置かれた惑星リーチにコヴナントの大軍が襲来、地表と宇宙で激しい戦いが始まる。
 このままでは人類は大きな科学技術力の差で押しつぶされる、そう判断したUNSC上層部は逆転の一手を狙った極秘作戦を練り上げた。
 それは最精鋭であるスパルタンⅡたちによるコヴナント指導者の捕獲という作戦、賭けにも似た作戦を主導する。
 惑星リーチで専用に戦艦を改修し準備を整えたが、惑星リーチでの劣勢などで集められたスパルタンⅡたちも戦いの中に飛び込んでいく。

 だが抵抗も長く続かず惑星リーチは陥落、そしてチーフは戦闘による大怪我を負い治療を受ける。
 チーフの怪我を治療出来た時にはUNCSの戦力は惑星リーチ上でほぼ壊滅状態。
 残る戦艦ピラー・オブ・オータムはスパルタンⅢたちの尽力により、重要なA.Iを抱えて惑星リーチから離脱。
 スリップスペースワープにてコヴナントの追撃を振り切ろうとしたものの、逃げ切れずある惑星で捕捉、待ち伏せされる。
 迫るコヴナントの戦艦、迎撃を行うも多勢に無勢で戦艦オータムは攻撃を受け反撃する武装までも破壊される。

 戦艦オータムはそれほど時を置かずして撃沈される。
 そう判断した戦艦オータムの艦長、ジェイコブ・キース大佐は惑星の近くに浮いていた環状の人工物に着陸する事を決める。
 それがコヴナントと人類の戦争を決定付ける超古代文明の最終兵器、HALO<ヘイロー>の発見であった。

「……そのヘイローと言うのは?」
「半径内の全知的生命体を滅ぼす兵器です」

 巻き込まれれば保護領域にでも居なければ消滅してしまう、対フラッド用の最終兵器。
 コヴナントの指導者たちはそれを聖なる物として扱い、真の機能を知らずに作動させようとした。
 チーフはA.Iのコルタナとヘイロー上を駆け、真の機能を知りヘイローの破壊に乗り出す。
 そのヘイローの管理モニターやコヴナントの妨害もあったが、戦艦オータムの海兵隊たちとの協力でなんとか破壊して脱出することが出来た。
 だがヘイローは一つだけではなく、複数あること、失われたヘイローを再建するアークが存在することを知った。

 熾烈な戦いの中でチーフはコヴナントの指導者の一人を抹殺できた事、ヘイローの真実を知ったエリートたちの反乱。
 地球にコヴナントが襲来した事、アークの破壊に成功した事、それが終わるもアークの崩壊に巻き込まれワープに失敗。
 どこともしれぬ遠い宇宙空間で、救助を待つため折れたフォワード・オン・トゥドーンの中でコールドスリープに着いて眠った所で召喚されたことを話した。

「………」

 その話はカッターを含めて話を聞いていた者たちに衝撃を与えた。
 シールドワールドの事からコヴナントさえ超える凄まじい技術を持っていた文明があったのだろうと、推測は出来ていた。
 その文明がフラッドとの戦いで劣勢を強いられ、最後にはヘイローと言う相打ちでしか終わらせることが出来なかった。
 更には惑星リーチのこともある、カッターの出身星は惑星リーチであり、チーフたちスパルタンも第二の故郷と言える星であるからだ。

「……マスターチーフ、戦争は終わったと思うか?」
「わかりません、指導者たちの本拠地を破壊できましたが生き残りが居ないとは限りません」

 ブルートたちも未だ多く残っている、それをまとめ上げ再度侵攻してくる可能性も残っていた。

「可能性はあるでしょう、また戦争が終わっている確率もかなりあるかと」

 黙して話を聞いていたセリーナが可能性があると語る。

「後顧の憂いはある程度解消されたところで、これはどうしましょうか?」

 そう言ってセリーナはディスプレイの一つに外部映像を映しだした。
 そこには一匹の竜と、その背に乗る三人の少女たちが映っていた。



新着情報

取得中です。